説明

ハンガー駆動装置

【課題】シリンダユニットなどを駆動源とする移送手段に代わる駆動方式を備え、しかも、運転コストを下げることができるハンガー駆動装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ハンガー駆動装置30は、バー18を挟んで配置されるとともにフレーム枠21に設けられる駆動輪34及びピンチロール39と、建物側に設けられピンチロール39を駆動輪に対して往復させるシリンダ36とからなり、ピンチロール39でバー18を駆動輪34に押し付けたときにバー18は移動し、ピンチロール39が待機位置に戻るとバー18は駆動輪から離れてバー18は停止するようにしたことを特徴とする。
【効果】シリンダユニットなど駆動源が不要である。シリンダでピンチロールを前進させたときだけ、駆動輪でハンガーを移動させる。ピンチロールを後退させたときには、駆動輪は空転するだけでエネルギーの消費は少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送物を搬送するハンガーを駆動するハンガー駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造ラインでは、車体や車両部品がコンベア装置により搬送される。コンベア装置のうち、ハンガーの上部を吊る形式のオーバーヘッドコンベアが好んで採用される。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−162445公報(図12)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)、(b)に示すように、支持レール101に複数個のハンガー102が懸架され、支持レール101に沿って、係合突起103を複数備えた駆動チェーン104A、104Bが設けられている。
【0004】
例えば、左右のドア106、107をハンガー102に吊り下げる。駆動チェーン104A、104Bを図反時計方向に周回させると、係合突起103がハンガー102に係合して、搬送させる。複数個のハンガー102を一括して搬送することができる。また、駆動チェーン104Aと駆動チェーン104Bとの間に、移送手段108が設けられており、(b)に示すようにハンガー102は、駆動チェーン104Aから駆動チェーン104Bへ移される。
【0005】
移送手段108は、通常個々に駆動源(シリンダユニット等)を備えており、速度を制御することで、高速搬送、低速搬送、停止が可能となる。
しかし、移送手段108は、図示するごとく比較的短い距離LL間に掛け渡すことに使用されるのが一般的である。
【0006】
距離LLを、単に移送に当てるのでは勿体ないので、組付けステージなどに利用することが望まれる。しかし、距離LLでは、長さが不十分であり、延長化が必要となる。
延長するために、長さがLLである移送手段108を、直列に複数接続すると、隣のハンガー102同士が衝突しないように、複数の駆動源を同期させる必要があり、同期制御が複雑になる。併せて、複数の駆動源を運転するために、運転コストも嵩む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シリンダユニットなどを駆動源とする移送手段に代わる駆動方式を備え、しかも、運転コストを下げることができるハンガー駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、被搬送物を搬送するハンガーを駆動するハンガー駆動装置において、
前記ハンガーは、隣のハンガーとのピッチを越えない長さのバーを備え、
前記ハンガー駆動装置は、前記バーを挟んで配置されるとともに建物側に設けられる駆動輪及びピンチロールと、建物側に設けられ前記ピンチロールを前記駆動輪に対して往復させるシリンダとからなり、
前記ピンチロールで前記バーを前記駆動輪に押し付けたときにハンガーは移動し、前記ピンチロールが待機位置に戻ると前記バーは前記駆動輪から離れてハンガーは停止するようにしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、駆動輪は、複数個が1個の駆動源で一括駆動されることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、ピッチとバーの長さの差を補うために、少なくとも前記長さの差だけハンガーを押出す押出機構が建物側に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、ハンガーに備えたバーに臨ませる駆動輪とピンチロールとこのピンチロールを駆動輪に向かって押出すシリンダからハンガー駆動装置を構成した。すなわち、ピンチロールでバーを駆動輪に押し付けたときにハンガーは移動し、ピンチロールが待機位置に戻るとバーは駆動輪から離れてハンガーは停止するようにした。
【0012】
複数の駆動源が不要である。シリンダでピンチロールを前進させたときだけ、駆動輪でハンガーを移動させる。ピンチロールを後退させたときには、駆動輪は空転するだけでエネルギーの消費は少ない。
【0013】
請求項2に係る発明では、駆動輪は、複数個が1個の駆動源で一括駆動される。
複数の駆動輪に各々モータを付属した場合は、モータの速度に差があると隣のハンガーに衝突する危険がある。そのため、モータはサーボモータを使用し、高度な速度制御が求められるため、設備コストが嵩む。
この点、複数の駆動輪を1個の駆動源で駆動すれば、隣のハンガーに衝突する心配はなく、駆動源は安価な汎用モータで済ませることができ、設備コストを低減することができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、ピッチとバーの長さの差を補うために、少なくとも前記長さの差だけハンガーを押出す押出機構が設けられている。
押出機構を設けたことにより、バーを隣の駆動輪に簡単に臨ませることができるため、バーを円滑に移動させることができる。また、押出機構に位置決め機構を付設するだけで、バーを固定することができ、この固定状態で各種の作業を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は車両の生産ラインの側面図であり、例えば、車体10の後部にホイールハブ及びリヤサスペンション11aを組付けるリヤサス組付けステージ11と、車体10にエンジン及びフロントクッション13aを有するフロントサスペンション12aを組付けるエンジン組付けステージ12と、車体10に上端が予め取付けられたリヤクッション13bを、前記リヤサスペンション11a側のナックル(不図示)に連結するクッション組付けステージ13と、これまでの組付けの状態を検査する検査ステージ14とが、直列に並んでおり、これらのステージ11〜14にハンガー16で支持された車体10が順次搬送される。
【0016】
そのためには、建物17の内部に支持レール20が水平に渡され、この支持レール20にハンガー16が水平移動自在に支持されている。ハンガー16の詳細は後述するが、ハンガー16は、隣のハンガー16とのピッチPよりも若干短い長さのバー18を備えている。
【0017】
ピッチPは、ステージ11〜14相互のピッチとも合致する。そして、ハンガー16は、各ステージ11〜14で一定時間止まり、この一定時間内で所定の組付け、締付け又は検査が実行され、終わると1ピッチだけ移動して車体10を隣のステージに搬送する。
【0018】
図2は図1の2−2線断面図であり、建物側に取付けられる支持レール20は、複数のフレームで構成したフレーム枠21と、このフレーム枠21の中央に設けられているセンターレール22、22とからなる。
また、ハンガー16は、センターレール22に沿って図面表裏方向に走行するセンター輪23、23と、これらのセンター輪23、23から下がり図面表裏方向に延びるバー18を支えるステー24と、バー18で支えられるハンガー上部枠25と、このハンガー上部枠25から左右に下がって車体10を支えるハンガーアーム26、26と、ハンガー上部枠25の左右端から突出させた左右のサイド輪27、27とからなる。29はハンガー上部枠25から延ばした突起である。
【0019】
これらの左右のサイド輪27、27はフレーム枠21に設けられているサイドレール28、28に沿って走行する。すなわち、ハンガー16は、センター輪23、23及び左右のサイド輪27、27からなる複数の車輪で支持レール20に支持されているため、運搬中に、車体10が左右、上下に振れる心配はない。
【0020】
本発明では、ハンガー16を図面表裏方向へ強制的に移動させることができるハンガー駆動装置30が、バー18を挟んで配置され、このハンガー駆動装置30を補助する押出機構40がセンターレール22の近傍に設けられている。これらの装置30及び機構40の詳細構造を順次図面で説明する。
【0021】
図3は本発明に係るハンガー駆動装置の正面図であり、ハンガー駆動装置30は、フレーム枠21に固定されるブラケット31に、出力軸32が下に向くようにして取付けられているギヤケース33と、このギヤケース33の出力軸32に水平向きに取付けられバー18に臨むように配置されている駆動輪34と、ブラケット31から下げられたサブブラケット35に固定されているシリンダ36と、このシリンダ36のピストン軸37に設けられたフォーク部材38と、このフォーク部材38に回転自在に設けられバー18に臨むように配置されているピンチロール39とからなる。図示するように、駆動輪34とピンチロール39はバー18を挟んで対向に配置されている。
【0022】
駆動輪34が回転しているときに、ピンチロール39を先進(図左から右へ移動)させると、バー18が駆動輪34に圧着され、バー18と駆動輪34との間の摩擦力が高まる。結果、バー18は図面表裏方向へ移動し始める。
駆動輪34が回転していても、ピンチロール39を後退(図右から左へ移動)させると、バー18は駆動輪34から離れて、バー18と駆動輪34との間の摩擦力が消失する。結果、バー18は停止する。
【0023】
すなわち、ハンガー駆動装置30は、バー18を挟んで配置されるとともに建物側(例えばフレーム枠21)に設けられる駆動輪34及びピンチロール39と、建物側に設けられピンチロール39を駆動輪に対して往復させるシリンダ36とからなり、ピンチロール39でバー18を駆動輪34に押し付けたときにバー18は移動し、ピンチロール39が待機位置に戻るとバー18は駆動輪から離れてバー18は停止するようにしたことを特徴とする。
【0024】
次に、ハンガー駆動装置30を補助する押出機構40の構造を説明する。
図4は図2の4−4線断面図であり、押出機構40の側面図を示す。
押出機構40は、フレーム枠21に固定されているL字枠41と、このL字枠41に水平に取付けられたシリンダユニット42と、このシリンダユニット42のピストンロッド43に設けられたスライダ44と、このスライダ44を水平に案内すると共に支持するガイドレール45と、スライダ44から下に延びているアイプレート46と、このアイプレート46に軸47を介して揺動自在に取付けられた押出片48とからなる。この押出片48は、ハンガー上部枠25から上へ延ばした突起29を押す部材である。
【0025】
このような押出機構40に、次に述べる位置決め機構50を付設することが望ましい。
位置決め機構50は、L字枠41に縦向きに且つ揺動自在に取付けられているシリンダ51と、このシリンダ51のピストンロッド52の先端に、一端が接続されると共に他端がL字枠41に揺動自在に取付けられたL字状の第1リンク53と、この第1リンク53の中央に連結され下へ延びているI字状の第2リンク54と、この第2リンク54で駆動されると共に一端がL字枠41にサブブラケット55を介して支持されているL字片56とからなる。
【0026】
以上の構成からなる押出機構40及び位置決め機構50の作用を次に説明する。
図5はハンガー側の突起が押出機構へ進入するまでの作用説明図であり、(a)に示すように、ハンガー側の突起29が押出機構40の下方に進入してきた。突起29図左側に押出片48がある。そこで、シリンダユニット42を退動させる。
すると、(b)に示すように、押出片48が時計方向に回転し、突起29の上を通過する。結果、(c)に示すように、押出片48は突起29の図面右側に移動したことになる。次に、シリンダユニット42を進動させる。
【0027】
図6はハンガー側の突起が押出機構から抜けるときの作用説明図であり、(a)に示すように、突起29は押出片48で図左に押され、L字片56に当たって止まる。すなわち、突起29はハンガー側から延びているため、突起29を押すことでハンガーを移動させることができ、L字片56で停止させることができる。
【0028】
(a)では、突起29はL字片56と押出片48とで挟まれているため、完全に移動が禁止される。この状態で、図1で説明した組付け、締付け又は検査を実施することができる。これらの作業が終了したら、(b)に示すようにL字片56を時計方向に回す。すると、突起29を図左へ移動させることが可能となる。なお、押出片48の存在により、突起29が図右へ移動することはない。
突起29を図左へ移動させると、(c)に示すように次の突起29が想像線で示す位置まで進む。これで図5(a)に戻ったことになる。
【0029】
図7はハンガー側のバーの移動を説明する図であり、(a)に示すように、突起29をL字片56と押出片48とで抑えることで、各種の作業が実施される。このときには、駆動輪34の駆動作用はバー18に及ばない。
各種の作業が完了すると、(b)に示すように、シリンダ36を進動させて、ピンチロール39でバー18を駆動輪34に押し付ける。すると、バー18は図左へ移動する。バー18が一定距離移動したら、(c)に示すように、ピンチロール39を後退させ、駆動輪34は空転したままにする。そして、押出片48で突起29をL字片56へ押出す。突起29がL字片56に当たったら、次の作業を実施する。
【0030】
今まで説明しなかったが、駆動輪34にモータを備え、駆動輪34にもモータを備え、駆動輪34、34を各々回転させることを原則とする。
ところで、車両の組立ラインでは、複数個のハンガー16を同時に移動し、同時に停止し、同時に移動を再開するところのタクト搬送が行われる。このタクト搬送では、次に説明する設備構成が推奨される。
【0031】
図8はハンガー駆動装置の原理図であり、第1〜第5のギヤケース33A〜33E(位置の区別を明確にするためにA〜Eを添える。以下同様)と、第1〜第5の駆動輪34A〜34Eと、第1〜第5のピンチロール39A〜39Eと、第1〜第5のシリンダ36A〜36Eと、第1〜第4の位置決め機構50A〜50Dと、第1〜第4の押出機構40A〜40Dが、搬送路に沿って配置されている。これらの構成要素は、制御部58で一元制御される。
【0032】
そして、第1〜第5の駆動輪34A〜34Eは、連結軸59で互いに連結され、この連結軸59が1個の駆動源(モータ)61で駆動される。
【0033】
第1〜第5の駆動輪34A〜34Eに各々モータを付属した場合は、モータの速度に差があると隣のバー18同士が衝突する危険がある。そのため、モータはサーボモータを使用し、高度な速度制御が求められるため、設備コストが嵩む。
この点、第1〜第5の駆動輪34A〜34Eを1個の駆動源61で駆動すれば、例えばバー18Aが隣のバー18Bに衝突したり、バー18Cが隣のバー18Dに衝突する心配はなく、駆動源61は安価な汎用モータで済ませることができ、設備コストを低減することができる。
【0034】
尚、被搬送物は車体の他、車載部品や一般の荷物であってもよく、種類は問わない。
また、ハンガーに備える長いバーは、棒の他、パイプやフレームであってもよく、形状は変更可能である。
【0035】
ハンガーは、被搬送物を吊り下げながら搬送するタイプの搬送手段の他、被搬送物を載せながら搬送するタイプの搬送手段であってもよい。
ピンチロールを往復させるシリンダは、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ、その他の直線移動機構であれば、構造は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車体を搬送するハンガーの駆動機構に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】車両の生産ラインの側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】本発明に係るハンガー駆動装置の正面図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】ハンガー側の突起が押出機構へ進入するまでの作用説明図である。
【図6】ハンガー側の突起が押出機構から抜けるときの作用説明図である。
【図7】ハンガー側のバーの移動を説明する図である。
【図8】ハンガー駆動装置の原理図である。
【図9】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
10…車体、16…ハンガー、17…建物、18…バー、29…突起、30…ハンガー駆動装置、34…駆動輪、36…シリンダ、39…ピンチロール、40…押出機構、50…位置決め機構、59…連絡軸、61…1個の駆動源、P…ピッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物を搬送するハンガーを駆動するハンガー駆動装置において、
前記ハンガーは、隣のハンガーとのピッチを越えない長さのバーを備え、
前記ハンガー駆動装置は、前記バーを挟んで配置されるとともに建物側に設けられる駆動輪及びピンチロールと、建物側に設けられ前記ピンチロールを前記駆動輪に対して往復させるシリンダとからなり、
前記ピンチロールで前記バーを前記駆動輪に押し付けたときにハンガーは移動し、前記ピンチロールが待機位置に戻ると前記バーは前記駆動輪から離れてハンガーは停止するようにしたことを特徴とするハンガー駆動装置。
【請求項2】
前記駆動輪は、複数個が1個の駆動源で一括駆動されることを特徴とする請求項1記載のハンガー駆動装置。
【請求項3】
前記ピッチと前記バーの長さの差を補うために、少なくとも前記長さの差だけ前記ハンガーを押出す押出機構が建物側に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のハンガー駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−183948(P2008−183948A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17044(P2007−17044)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】