説明

ハードコート用組成物とその製造方法

【課題】
本発明の目的は、塗膜の透明性が良好で、且つ表面硬度、耐摩耗性、密着性に優れたハードコート膜を形成することができるハードコート用組成物を提供することである。
【解決手段】
(a)成分が重合性不飽和基を有する有機化合物であって、(a−1)成分が1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物と、(a−2)成分が1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物とからなり、(b)成分が1分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体、(c)成分が光または熱によりラジカルを発生する重合開始剤、(d)成分が酸またはアルカリ水溶液、とを含有することを特徴するハードコート用組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材等の基材表面に塗工し硬度、耐摩耗性、密着性を付与するハードコート用組成物及びこれを用いたハードコート膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ハードコート材料は、自動車部品、化粧品容器などの表面保護や意匠性付与を目的として幅広く使用されてきた。近年では、プラスチックレンズやディスプレイ基板用樹脂フィルムなどの光学用途でも需要が伸びている。こうしたハードコート材料には、基材の表面保護という観点から、より高い硬度や優れた耐摩耗性が要求されている。これまでの有機ハードコート材料は、一般に熱硬化または紫外線硬化性のアクリル系、エポキシ系、ウレタン系樹脂がコーティングされている。これらの樹脂によるハードコートフィルムは、例えばタッチパネル用フィルム基板として使用されているが、ペン入力方式のタッチパネルの場合、該基板フィルムに強い印圧が加わるため、これらの有機ハードコート材料の物性では満足されなくなってきている。有機ハードコート材料よりも高い硬度、耐摩耗性を得ることを目的として、シリカ膜の蒸着、アルコキシシランのゾルゲル法による表面処理、コロイダルシリカを添加することによるシリカ薄膜の形成といった無機コート材料が検討されたが、柔軟性がなく屈曲によって塗膜に亀裂が入りやすい、基材に対する密着性が低い、加熱による基材の寸法変化によって塗膜が剥離するといった問題点を有している。こうした有機コート材、無機コート材双方の特性を併せ持つコート材として、樹脂と無機材料が分散した有機−無機ハイブリッド材料を用いたハードコート膜が注目されている。
【0003】
有機−無機ハイブリッドタイプのハードコート組成物として、多官能アクリレートモノマーとアルコキシシラン及びその縮合体からなる組成物が知られている(特許文献1)。多官能アクリレートを使用すると、硬化膜が架橋構造を形成するため、表面硬度、耐摩耗性が向上するが、一方でアルコキシシランを始めとする金属アルコキシドとの相溶性が低いため、相分離により塗膜が白濁する問題があった。また、有機ポリマーと相分離した無機酸化物は粒子化し、塗膜から剥がれやすくなるため、耐摩耗性が低下する問題点があった。更に、多官能アクリレートの代わりに単官能アクリレートを使用した場合、耐溶剤性の低下や、ゾルゲル反応由来の硬化収縮により、塗膜にワレが発生する問題がある。
【特許文献1】特開平5−302041号公報
【特許文献2】特開2001−64510号公報
【特許文献3】特開2003−94572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、塗膜の透明性が良好で、且つ表面硬度、耐摩耗性、密着性に優れたハードコート膜を形成することができるハードコート用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上述問題点を解決すべく鋭意研究した結果、(a−1)1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物と、(a−2)1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物の存在下、(b)分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体のゾルゲル反応を行うことによって、上記(b)成分の重合体を組成物中に分散させることができることを見出した。また、これを硬化してなるハードコート膜は透明性が高く、且つ優れた硬度、耐摩耗性、密着性を有していることを見出した。
【0006】
即ち本発明は、
(1)(a)成分が重合性不飽和基を有する有機化合物であって、(a−1)成分が1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物と、(a−2)成分が1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物とからなり、(b)成分が1分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体、(c)成分が光または熱によりラジカルを発生する重合開始剤、(d)成分が酸またはアルカリ水溶液、とを含有することを特徴とするハードコート用組成物。
(2)前記(a−1)成分が更に水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エーテル基、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物であるハードコート用組成物。
(3)前記(a−1)成分と(a−2)成分との比率が、(a−1)/(a−2)=65/35〜95/5重量%であるハードコート用組成物。
(4)前記ハードコート用組成物の総合計重量を100重量部としたとき、(a)成分が29.9〜65重量部、(b)成分が29.9〜65重量部、(c)成分が0.1〜5重量部、(d)成分が5〜30重量部であるハードコート用組成物。
(5)前記ハードコート用組成物において、(a)成分の熱、紫外線、電子線のいずれか又はそれらの組み合わせによる重合反応と、(b)成分のゾルゲル反応により得られるハードコート膜の製造方法。
(6)(5)によって得られたハードコート膜である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、塗膜の透明性が良好で、且つ表面硬度、耐摩耗性、密着性に優れたハードコート膜を形成することができるハードコート用組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるハードコート用組成物は、(a)成分が(a−1)1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物、好ましくは更に水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エーテル基、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物と、(a−2)1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物とからなり、(b)成分が1分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体、(c)成分が光または熱によりラジカルを発生する重合開始剤、(d)成分が酸またはアルカリ水溶液からなる。
【0009】
上記(b)成分は、(a)成分の存在下、ゾルゲル反応を行うことで無機酸化物を形成する。(b)成分のゾルゲル反応は、(d)酸またはアルカリ水溶液が触媒となって、系中のアルコキシ基を加水分解することで開始される。加水分解を受けたアルコキシ基は、金属(以下Mと表記)アルコール(M−ОH)となり、その後、M−ОH同士が重縮合反応をすることによってM−О−M結合となり、無機酸化物が形成される。本発明において、(a−1)成分は、自由度の高い単官能アクリルモノマーであるために、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エーテル基、ウレタン基、尿素結合、リン酸基、スルホン酸基といった水素結合基を有している場合、系中のM−ОHと容易に水素結合を形成する。両者が水素結合を形成することにより、無機酸化物が凝集することなく、均一に分散した組成物を得ることができる。また、水素結合形成基の存在により、(b)成分のゾルゲル反応を抑制し、溶液中での無機酸化物のゲル化を防ぐ。この組成物を硬化してなるハードコート膜は透明性が高く、且つ優れた硬度、耐摩耗性、密着性を有している。以下に該ハードコート用組成物を構成する材料に関して、詳細に説明する。
【0010】
(a)重合性不飽和基を有する有機化合物
本発明で用いられる(a)成分が、(a−1)1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物、好ましくは更に水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エーテル基、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物と、(a−2)1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物とからなる。(a−1)成分に水素形成基を導入することで、(b)成分から形成される無機酸化物の凝集を防ぎ、均一に分散した組成物を得ることができる。また硬化後、透明な塗膜を得ることができる。
【0011】
(a−1)成分としては、1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物、好ましくは更に水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エーテル基、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物であればとくに制限はない。具体例を挙げると、水酸基を持つ有機化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。カルボキシル基を持つ有機化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイルオキシプロピルフタル酸、β-カルボキシエチルアクリレート等が挙げられる。アミド基を持つ有機化合物としては、N, N-ジメチルアクリルアミド、N, N-ジエチルアクリルアミド、N, N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、2-メチル-2-オキサゾリン、N-ビニルピロリドン、などが挙げられる。イミド基を持つ重合性有機化合物としては、イミドアクリレート(東亞合成(株)製、アロニックスTO-1534、1429、1428)などが挙げられる。 エーテル基を有する有機化合物としてはエトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの有機化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
(a−1)成分の含有量は、(a)成分全体のうち、通常65〜95重量%、好ましくは70〜90重量%、更に好ましくは80〜90重量%含まれていることが望ましい。残りの5〜35重量%は(a−2)成分である。(a−1)成分の含有量がこの範囲であると、塗膜の材料分散性が低下せず塗膜が透明になり、強度が低下せず、ワレが発生しない。
【0013】
(a−2)成分としては、1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物であれば特に制限はない。具体例を挙げると、メチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート(NKオリゴU-4HA、U-6HA、U-108A、U-1084A、U-200AX、U-122A、U-340A、U-324A、UA-100、東亞合成(株)製、アロニックスM-1100、M-1200、M-1210、M-1600、荒川化学(株)製、ビームセット575、551B、550B、505A-6、504H、502H、510、575CB、根上工業(株)製、アートレジンUN-9000PEP、UN-9200A、UN-9000H、UN-1255、UN-5200、UN-330、UN-3320HA、3320HB、3320HC、三菱レイヨン(株)製、ダイヤビームUK6503、UK6039、UK038、UK6513、UK6507、ダイセルUCB(株)製、Ebecryl210、215、 4827、 4849、 6700、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキシド変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレート(東亜合成(株)製、アロニックスM-7100、M-8030、M-8060、M-8100、M-8530、M-8560、M-9050)などが挙げられる。これらの有機化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
(a)成分の使用量は、該組成物の総合計重量を100重量部としたとき、通常29.9〜65重量部、好ましくは40〜60重量部である。(a)成分の使用量がこの範囲であると、塗膜の硬度、耐摩耗性が低下せず、密着性が良好で塗膜の剥離が発生しない。
【0015】
(b)1分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体
(b)成分を構成する金属は、特に制限はないが、使いやすさの観点から、珪素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウムが望ましい。金属アルコキシドとしては、下記式(1)で表されるものである。
【0016】
式(1) (R1)x M (OR2)y
(式中、R1で示される置換基はアルキル基を表し、R2は低級アルキル基を表す。x及びyは、x+y=4かつ、xは2以下となる整数を表す。)
上記式Iで示された金属アルコキシドは、2官能性、3官能性、4官能性の金属アルコキシドを示している。2官能性金属アルコキシドとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、これらに対応するジアルコキシジルコニウム、ジアルコキシチタンなどが挙げられる。3官能性金属アルコキシドとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、これらに対応するトリアルコキシアルミニウム、トリアルコキシジルコニウム、トリアルコキシチタンなどが挙げられる。4官能性金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-tert-ブトキシシラン、これらに対応するテトラアルコキシジルコニウム、テトラアルコキシチタンなどが挙げられる。
【0017】
前記金属アルコキシドは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種類以上の金属アルコキシドを使用する場合の混合比は任意であるが、4官能性の金属アルコキシドの配合比率が高くなるにつれて、反応性が増し、硬い塗膜を得ることができる。一方、2官能または3官能性の金属アルコキシドの配合比率が高くなるにつれて、柔軟性の高い塗膜を得ることができる。前記金属アルコキシドは縮合体を使用しても良い。金属アルコキシドの縮合体として市販されている商品としては、多摩化学(株)製 Mシリケート51、Mシリケート56、Mシリケート60、シリケート40、シリケート45、シリケート48等を挙げることができる。
【0018】
(b)成分の使用量は、該組成物の総合計重量を100重量部としたときに、29.9〜65重量部、好ましくは35〜60重量部で含有される。(b)成分の使用量がこの範囲であると、塗膜の靭性が低下せず、屈曲による塗膜のワレが起こらず、また、プラスチック基材との密着性が良好で、塗膜の剥離が発生せず、更に硬度、耐摩耗性が良好である。
【0019】
(b)成分と併用して、無機酸化物微粒子を使用することができる。無機酸化物微粒子は、珪素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、亜鉛、アンチモンから選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる酸化物微粒子で、平均粒子径は0.001μm〜2μm、好ましくは0.001μm〜0.2μmが望ましい。無機酸化物微粒子の具体例として下記がある。シリカ微粒子としては、日産化学工業(株)製 商品名:メタノールシリカゾル、MEK-ST、MIBK-ST、IPA-ST、IPA-ST-UP、NPC-ST-30、NBA-ST、XBA-ST、DMAC-ST、ST-20、ST-40、ST-C、ST-N、ST-O、ST-50、日本アエロジル(株)製 商品名:アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT60、アエロジルОX50等を挙げることができる。アルミナ微粒子としては、日産化学工業(株)製 商品名:アルミナゾル-100、アルミナゾル-200、アルミナゾル-500等を挙げることができる。アルミナ、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成(株)製 商品名:ナノテックを挙げることができる。これら無機酸化物微粒子を前記(b)成分と併用して使用する場合、配合量は前記(b)成分に対して20重量%程度までが望ましい。それ以上添加した場合、無機酸化物微粒子が組成物中で凝集し、塗膜が白濁する。
(b)成分は、ゾルゲル反応を行うことで、無機酸化物を形成する。ゾルゲル反応は、室温で放置していても反応が進行するが、反応を促進する目的で加熱することが望ましい。加熱の方法としては、電気炉やガス炉による加熱や、マイクロ波照射などが挙げられる。
【0020】
(c)光または熱によりラジカルを発生する重合開始剤
(c)成分は、光、熱により、ラジカル重合を開始する化合物であれば特に限定はなく、いずれでも使用することができる。具体例を挙げると、熱重合開始剤としては、α, α'-アゾイソブチロニトリル、α, α'-アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物系重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が挙げられる。光開始剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、2, 2-ジメトキシ-1, 2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2, 2-ジエトキシアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン、メチルフェニルグリコキシレート、ビス(2, 4, 6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、チオキサントンなどを挙げることができる。
【0021】
(c)成分の使用量は、該組成物の総合計重量を100重量部としたときに、0.1〜5重量部、好ましくは1〜4重量部である。0.1重量部以上とすることにより、有機化合物に対して硬化性を与え、5重量部以下とすることにより硬化物質の吸湿性を抑えることができる。
【0022】
(d)酸またはアルカリ水溶液
ゾルゲル反応を促進するために、酸またはアルカリ性の触媒を添加することが好ましい。代表的な酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、蟻酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸などが挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジンなどが挙げられる。これら触媒の添加量は、金属アルコキシド1モルに対して0.005〜0.05モル、好ましくは0.01〜0.03モル程度が望ましい。
【0023】
上記触媒を含有した水溶液(酸またはアルカリ水溶液)によって、前記(b)成分に含まれる金属アルコキシドのゾルゲル反応が開始される。酸またはアルカリ水溶液の添加量は、該組成物の総合計重量を100重量部としたときに、通常5〜30重量部、好ましくは10〜25重量部である。添加量がこの範囲であると、加水分解反応が効率的に進行し、無機酸化物が凝集せず、組成物中でのゲル化を防止することができる。
【0024】
(e)その他の改質剤
本発明のハードコート用組成物には、必要に応じてその他の改質剤を使用することができる。改質剤としては、例えば、重合開始助剤(光増感剤)、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、密着付与剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これらは、1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、有機化合物と無機酸化物の間に働く相互作用を補助する目的として、カップリング剤を少量添加してもよい。具体的に例を挙げるとγ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルフェニルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。添加量は任意であるが、(a)成分に対して10重量%以下が望ましい。10重量%以上添加すると、塗膜の緻密性が低下し、硬度、耐摩耗性が低下する。
【0026】
本発明のハードコート用組成物は、水素結合形成基を有する有機化合物を使用しているために、溶液の極性が高く基材に対する濡れ性が不良となる場合がある。その場合、有機溶媒を少量添加することで、塗工性を改善することができる。添加する溶媒は、沸点が高く、蒸発速度が遅いものが好ましい。例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、イソプロパノール、エタノール等が挙げられる。有機溶媒の添加量としては、該組成物に対して10〜20重量%添加するのが好ましい。
【0027】
本発明のハードコート組成物を塗工するプラスチック基材としては、特に制限はないが、擦傷により外観が損なわれる外装用のプラスチックフィルムや板及び、擦傷により透明性が低下する液晶表示素子、有機EL素子用基板などの光学用途で特に好適に用いられる。例を挙げると、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリスチレン樹脂などである。
【0028】
本発明のハードコート用組成物は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法により形成することができる。膜厚は、各種用途により要求される製造コストや表面平滑性などの要件に応じての観点から適宜決定されるので特に制限はないが、一般的には0.1〜20μm、より好ましくは0.1〜10μmである。
[実施例]
以下に、本発明の実施形態例を示す。尚、当然のことながら本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術範囲において、種々の形態に変更することが可能である。
【実施例1】
【0029】
ハードコート用組成物の調製
(a−1)成分としてN, N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)36.6部、(a−2)成分として4官能性ウレタンアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKオリゴU-4HA)4.1部、(b)成分としてメトキシシランオリゴマー(多摩化学(株)製、商品名:シリケート56)28.5部、メチルトリメトキシシラン(MeTriMOS)12.2部、(c)成分として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル(株)製、商品名:イルガキュア184)1.2部をそれぞれ添加し、30分間室温で攪拌した。この溶液を攪拌しながら、(d)成分として塩酸0.1部を水に溶解した酸水溶液17.5部を3分かけて添加し、その後、窒素下室温で5時間攪拌しハードコート用組成物を得た。この組成物にメチルエチルケトン(MEK)を17.6部添加し、密閉下室温で30分攪拌し、塗工液を調製した。
ハードコート用組成物のコーティング
厚さ2mmのポリメチルメタクリレート基板に、上記の方法で調製した塗工液を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが5μmとなるように塗布した。次に溶媒を除去するため、塗布した基板を90℃で5分間加熱した。さらにメタルハライドランプで1000mJ/cm2の紫外線を照射し(a)成分を硬化した。その後(b)成分のゾルゲル反応を進行させるために90℃で24時間加熱し、ハードコート膜を得た。
【実施例2】
【0030】
(a−1)成分としてN, N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)36.6部、(a−2)成分としてイソシアヌール酸エチレンオキシド変性トリアクリレート(東亜合成(株)製、商品名:アロニックスM315)4.1部を用いた以外は実施例1と同様の方法で塗工液を調製し、同様の方法でハードコート膜を得た。
【実施例3】
【0031】
(a−1)成分としてN, N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)28.5部、(a−2)成分としてイソシアヌール酸エチレンオキシド変性トリアクリレート(東亜合成(株)製、商品名:アロニックスM315)12.2部を用いた以外は実施例1と同様の方法で塗工液を調製し、同様の方法でハードコート膜を得た。
【実施例4】
【0032】
(a−1)成分として2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)36.6部、(a−2)成分としてイソシアヌール酸エチレンオキシド変性トリアクリレート(東亜合成(株)製、商品名:アロニックスM315)4.1部を用いた以外は実施例1と同様の方法で塗工液を調製し、同様の方法でハードコート膜を得た。
【0033】
[比較例1]
ハードコート用組成物の調製
(a−2)成分として4官能性ウレタンアクリレート(新中村化学(株)製、商品名:NKオリゴU-4HA)40.7部、(b)成分としてメトキシシランオリゴマー(多摩化学(株)製、商品名:シリケート56)28.5部、メチルトリメトキシシラン(MeTriMOS)12.2部、(c)成分として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル(株)製、商品名:イルガキュア184)1.2部、溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)58.7部をそれぞれ添加し、30分間室温で攪拌した。この溶液を攪拌しながら、(d)成分として塩酸0.1部を水に溶解した酸水溶液17.5部を3分かけて添加し、その後、窒素下室温で5時間攪拌しハードコート用組成物を得た。
【0034】
ハードコート用組成物のコーティング
厚さ2mmのポリメチルメタクリレート基板に、上記の方法で調製した塗工液を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが5μmとなるように塗布した。次に溶媒を除去するため、塗布した基板を90℃で8分間加熱した。さらにメタルハライドランプで1000mJ/cm2の紫外線を照射し(a)成分を硬化した。その後(b)成分のゾルゲル反応を進行させるために90℃で24時間加熱し、ハードコート膜を得た。
【0035】
[比較例2]
(a−1)成分としてN, N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)40.7部、(b)成分としてメトキシシランオリゴマー(多摩化学(株)製、商品名:シリケート56)28.5部、メチルトリメトキシシラン(MeTriMOS)12.2部、(c)成分として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル(株)製、商品名:イルガキュア184)1.2部をそれぞれ添加し、30分間室温で攪拌した。この溶液を攪拌しながら、(d)成分として塩酸0.1部を水に溶解した酸水溶液17.5部を3分かけて添加し、その後、窒素下室温で5時間攪拌しハードコート用組成物を得た。この組成物にメチルエチルケトン(MEK)を17.6部添加し、密閉下室温で30分攪拌し、塗工液を調製した。その後、実施例1と同様の方法でハードコート膜を得た。加熱後、塗膜にワレが発生したため、以下の評価は行わなかった。
【0036】
[評価]
実施例、比較例で示した方法で作製したハードコート膜に対し、以下の評価を行った。それぞれの結果を表1にまとめた。
(1)鉛筆硬度:JIS K5400に準拠し、ハードコート膜を評価した。
(2)密着性:JIS K5400における碁盤目セロハンテープ剥離試験に準拠し、1mm 角、計100個の碁盤目における残膜数で評価した。
(3)耐摩耗性:テーバー式摩耗試験機を用い、摩耗試験を行った。摩耗輪としてCS -10Fを用い、荷重500gで500回転後の曇価を以下の式で算出したヘイズ値
で評価した。
【0037】
ヘイズ値(%)=摩耗試験後のヘイズ値(%)−摩耗試験前のヘイズ値(%)
(4)目視による塗膜性
【0038】
【表1】

表1に示した評価結果から、(a−1)1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有 する有機化合物、好ましくは更に水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、 エーテル基、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくと も一つの官能基を有する有機化合物と、(a−2)1分子中に重合性不飽和基を2 つ以上有する有機化合物が含まれる組成物(実施例1〜4)は、硬化後、高い透明 性を有し、且つ表面硬度、耐磨耗性、密着性が良好な塗膜を形成していることが分かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)成分が重合性不飽和基を有する有機化合物であって、(a−1)成分が1分子中に重合性不飽和基を1つのみ有する有機化合物と、(a−2)成分が1分子中に重合性不飽和基を2つ以上有する有機化合物とからなり、(b)成分が1分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド及び/またはその縮合体、(c)成分が光または熱によりラジカルを発生する重合開始剤、(d)成分が酸またはアルカリ水溶液、とを含有することを特徴とするハードコート用組成物。
【請求項2】
前記(a−1)成分が水酸基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エーテル基 、ウレタン基、尿素基、リン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物である請求項1に記載のハードコート用組成物。
【請求項3】
前記(a−1)成分と(a−2)成分との比率が、(a−1)/(a−2)=65/35〜95/5重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコート用組成物。
【請求項4】
前記ハードコート用組成物の総合計重量を100重量部としたとき、(a)成分が29.9〜65重量部、(b)成分が29.9〜65重量部、(c)成分が0.1〜5重量部、(d)成分が5〜30重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項5】
前記ハードコート用組成物において、(a)成分が熱、紫外線、電子線のいずれか又はそれらの組み合わせによる重合反応と、(b)成分がゾルゲル反応により得られるハードコート膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5によって得られたハードコート膜。


【公開番号】特開2006−1984(P2006−1984A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177797(P2004−177797)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】