説明

ハードストック及び該ハードストックを使用した可塑性油脂組成物

【課題】飽和脂肪酸含量が25〜35質量%であっても、良好な可塑性、クリーミング性、耐熱保型性を有し、また、口溶けが良好である可塑性油脂組成物、及び該可塑性油脂組成物を製造するためのハードストックを提供すること。
【解決手段】構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず且つSの含有量が55〜85質量%でUの含有量が15〜45質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換して得られたエステル交換油脂の分別軟部油からなることを特徴とするハードストック(但し、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸、U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸である)、及び該ハードストックを使用した可塑性油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物の製造に好適なハードストック、及び該ハードストックを使用した可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸は、血中のコレステロールを減少させると言われており、健康的な食生活を営むための食品に好適に用いられるが、不飽和脂肪酸を多く含有する油脂、例えば、天然の米油やコーン油、大豆油、菜種油等の植物油は、常温(約25℃)では液状を呈しているため、各種食品への応用範囲がフライ油やスプレー油等狭い範囲に限られてしまう。
【0003】
しかし、一般的には、油脂は製菓製パン用や調理用等、様々な場面で可塑性が必要な場合が多く、さらには、例えば、製菓練込用油脂ではクリーミング性、ロールイン用油脂では伸展性やコシ、クリーム用油脂では耐熱保型性、塗布用マーガリン等のスプレッド用油脂ではスプレッド性や耐熱保型性等の機能性が必要となる。
【0004】
不飽和脂肪酸を多く含有する油脂を使用してこれらの可塑性や各種の機能性を得るためには、例えば、飽和脂肪酸を多く含有する油脂、すなわちハードストックを、不飽和脂肪酸を多く含有する油脂100質量部に対し15〜200質量部を添加し、溶解し、冷却(特に良好な可塑性を得るためには急冷可塑化)させればよいことが知られている。
【0005】
ここで、融点の高いハードストックを使用すると、得られる可塑性油脂組成物はねっとりとした物性になってしまい、反対に融点の低いハードストックを使用すると、得られる可塑性油脂組成物は硬さが不足し、夏季等の高温下での保管時に流動状の物性になってしまう等、耐熱保型性が悪化してしまう。また、これらの可塑性油脂組成物は、耐熱保型性以外にもクリーミング性や吸水性も悪化してしまう。そこで、このような問題が生じないよう、ハードストックとしては、融点が35〜50℃程度の油脂が用いられる。
【0006】
このような物性面を考慮して、ハードストックとしては通常硬化油が使用されてきた。硬化油は、天然の動植物油脂を原料とし、これらに含まれるトリアシルグリセロールの不飽和脂肪酸基に水素を添加して飽和脂肪酸基とすることにより油脂中の飽和脂肪酸基を増加させることで融点を上昇させた油脂である。
【0007】
ここで、飽和脂肪酸の摂取量の増加は、血中LDLコレステロールを増加させ、心筋梗塞死亡率を増加させること、反対に、飽和脂肪酸の摂取量が少ないと、脳出血罹患率が増加することが知られている。そのため、飽和脂肪酸については適正量の摂取が望まれている。厚生労働省が推奨する飽和脂肪酸摂取量(「日本人の食事摂取基準」2005年版)は、18歳以上の男女で4.5〜7.0エネルギー%である。これと脂肪エネルギー比率の目標量を勘案すると、全年齢層で平均した総脂肪酸に対する飽和脂肪酸の比率は25〜35%となる。そのため適正な飽和脂肪酸含量である可塑性油脂組成物、すなわち、飽和脂肪酸含有量が25〜35%であっても良好な可塑性を有する可塑性油脂組成物が求められている。
【0008】
このような栄養学的な見地をも考慮して、ハードストックとしては、通常、硬化油の中でも、完全に水素添加されている極度硬化油ではなく、部分硬化油が使用されてきた。しかし、部分硬化油には、完全に水素添加されている極度硬化油と異なり、天然にはほとんど存在しないトランス脂肪酸が含まれている。そして近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有する可塑性油脂組成物が求められている。
【0009】
ここで、単に「実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂」を得るためには天然の動植物油脂を適宜組み合わせればよいが、常温で固体の油脂(例えばパーム油)と液状油(例えば大豆油)とを混合し冷却しただけでは、保存中に結晶の粗大化等が起こり、前述した可塑性や各種の機能性、特に可塑性、及びクリーミング性、吸水性、耐熱保型性等の機能性が不十分となる場合がある。また、極度硬化油脂と液状油とを混合し冷却した場合は、このような結晶の粗大化は生じないが、前述のようにねっとりとした物性になってしまい、好ましい可塑性、クリーミング性、吸水性、耐熱保型性が得られないことに加え、配合油中10%超配合すると口どけが極めて悪くなってしまう問題があった。
【0010】
そこで、トランス脂肪酸含量を低減させたハードストックとして、特定の動植物性油脂の極度硬化油(特許文献1)、トランス脂肪酸を含まない上昇融点35℃以上の油脂(特許文献2)、構成脂肪酸として炭素数20以上の飽和脂肪酸が5%以上である高融点油脂(特許文献3)、融点が30℃以上のラウリン系油脂(特許文献4)等が提案されている。
【0011】
しかし、特許文献1に記載の極度硬化油脂は、パーム極度硬化油又は魚極度硬化油という、極度硬化油脂の中では融点が低いものや粘性のあるものを選択使用するものであるが、それでも融点は58℃以上あるため、ねっとりとした物性になる問題、可塑性や機能性が悪い問題、多く添加使用すると口溶けが悪化する点については解決できなかった。
【0012】
特許文献2には、具体的な油脂の構成の記載がなく、実施例にパーム起源のトランス脂肪酸を含有しない融点46℃の油脂(おそらくはパーム分別硬部油)が記載されているだけである。実施例でもソフトチョコレートやソフトクッキーしか例示がないことからもわかるように、特許文献2に記載の油脂では、十分な耐熱保型性のある可塑性油脂組成物を得ることができなかった。
【0013】
特許文献3には、具体的には、ハイエルシン菜種の極度硬化油や、該極度硬化油とその他の油脂とのエステル交換油、さらには、該極度硬化油とその他の油脂とモノグリセライドとのエステル交換油が記載されている。ハイエルシン菜種の極度硬化油を使用した場合は、ねっとりとした物性になる問題、可塑性や機能性が悪い問題、多く添加使用すると口溶けが悪化する点については、解決することができなかった。該極度硬化油とその他の油脂とのエステル交換油や、該極度硬化油とその他の油脂とモノグリセライドとのエステル交換油を使用した場合は、融点は下がるものの、SU2やUUU等の結晶化を阻害するトリグリセリドが多く生成するため、十分な耐熱保型性のある可塑性油脂組成物を得ることはできなかった。
【0014】
特許文献4には、具体的には、ラウリン系油脂の極度硬化油が記載されている。ラウリン系油脂の極度硬化油脂は、極度硬化油脂としては極めて融点が低いものであるが、構成脂肪酸組成において炭素数16未満の脂肪酸の占める割合が約80%と極めて高いため、十分な可塑性が得られないことに加え、特に十分な耐熱保型性のある可塑性油脂組成物を得ることができず、さらには加水分解しやすいことから油脂組成物を長期保管する場合や保存性の高い食品に使用することには適していなかった。
【0015】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0470658号明細書
【特許文献2】特開平11−4657号公報
【特許文献3】特開2001−139983号公報
【特許文献4】特開2002−161294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、飽和脂肪酸含量が25〜35質量%であっても、良好な可塑性、クリーミング性、耐熱保型性を有し、また、口溶けが良好である可塑性油脂組成物、及び該可塑性油脂組成物を製造するためのハードストックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、ハードストックには、硬化油や分別硬部油等の高融点油脂を使用するという一般常識に反し、特定のエステル交換油脂から高融点部を除去した低融点部である分別軟部油を使用することにより、上記目的を達成可能であることを知見した。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず且つSの含有量が55〜85質量%でUの含有量が15〜45質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換して得られたエステル交換油脂の分別軟部油からなることを特徴とするハードストック(但し、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸、U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸である)を提供するものである。
また、本発明は、上記ハードストックを使用したことを特徴とする可塑性油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハードストックを使用することにより、飽和脂肪酸含量が25〜35質量%であっても、良好な可塑性、クリーミング性、耐熱保型性を有し、また、口溶けが良好である可塑性油脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のハードストックについて詳細に説明する。
まず、本発明で使用する油脂配合物について述べる。
本発明で使用する油脂配合物は、構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず、S(炭素数16以上の飽和脂肪酸)の含有量が55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%、U(炭素数16以上の不飽和脂肪酸)の含有量が15〜45質量%、好ましくは20〜40質量%である。
【0021】
上記油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含有量が55質量%未満であると、得られるエステル交換油の分別軟部油は、硬さや固化性が低下してしまい、ハードストックとしての使用が不可能になってしまう。また、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含有量が85質量%超であると、得られるエステル交換油脂の高融点部分が多くなるため分別効率が著しく悪化してしまうことに加え、得られるエステル交換油の分別軟部油をハードストックとして使用した場合に、良好な可塑性を有する可塑性油脂組成物が得られない。
【0022】
上記油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるUの含有量が15質量%未満であると、得られるエステル交換油の分別軟部油をハードストックとして使用した場合に、良好な可塑性を有する可塑性油脂組成物が得られない。また、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるUの含有量が45質量%超であると、得られるエステル交換油の分別軟部油は、硬さや固化性が低下してしまい、ハードストックとしての使用が不可能になってしまう。
【0023】
また、上記油脂配合物は、構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有しないものである。「実質的に含有しない」とは、脂肪酸組成において、概ね15質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満であることを言う。
本発明において、構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を15質量%以上含有すると、良好な可塑性を有する可塑性油脂組成物が得られず、特に耐熱保型性が低下してしまう。
【0024】
構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず、Sの含有量が55〜85質量%、Uの含有量が15〜45質量%である上記油脂配合物を得るためには、各種動植物性油脂あるいは加工油脂の1種又は2種以上を用いて、このような構成脂肪酸組成となるように配合すればいいが、具体的には、例えば、構成脂肪酸組成においてSを80質量%以上含有する油脂と、構成脂肪酸組成においてUを70質量%以上含有する油脂とを上記の構成脂肪酸組成となるように混合することで得ることができる。
【0025】
構成脂肪酸組成においてSを80質量%以上含有する油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、綿実油、米油、パーム油、パーム分別油等の植物油をヨウ素価が好ましくは5未満、より好ましくは2未満、さらに好ましくは1未満となるまで水素添加した極度硬化油脂が挙げられ、これらの極度硬化油脂は1種又は2種以上を使用することができる。本発明では、構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず、且つ、炭素数18の脂肪酸含量が高いために、特に高い耐熱保型性を有する可塑性油脂組成物を得ることができる点で、上記極度硬化油脂の中でも、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、綿実油、米油の極度硬化油が好ましく、大豆油、菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油の極度硬化油がさらに好ましく、大豆油、菜種油、キャノーラ油の極度硬化油が最も好ましい。
【0026】
構成脂肪酸組成においてUを70質量%以上含有する油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、綿実油、米油、パーム分別油等の植物液状油が挙げられ、これらの植物液状油は1種又は2種以上を使用することができる。構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず、且つ、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸含量が高いために、特に良好な可塑性を有し、且つ、特に高い耐熱保型性を有する可塑性油脂組成物を得ることができる点で、キャノーラ油及び/又はハイオレイックひまわり油を使用することが好ましく、より好ましくはハイオレイックひまわり油を使用する。
【0027】
また、上記油脂配合物を得るための別の方法としては、例えば、パーム油、パームステアリン等のパーム系油脂と、構成脂肪酸組成においてUを70質量%以上含有する油脂とを、上記の構成脂肪酸組成の範囲となるように混合する方法を挙げることができる。
【0028】
次に、上記油脂配合物に対しランダムエステル交換を行なう。このエステル交換反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよく、常法に従って行うことができる。上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0029】
続いて、上記ランダムエステル交換によって得られたエステル交換油脂から、分別により、高融点部分を分離除去し、低融点部(分別軟部油)を得る。分別は常法により行なうことができる。上記分別の方法としては、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等、どの様な分別方法でも構わないが、高融点部分の除去については、その分離が容易であることからドライ分別によることが好ましい。ドライ分別の場合の分別温度は、好ましくは40〜50℃、より好ましくは42〜47℃である。また、溶剤分別の場合は、好ましいミセラ濃度((油脂/油脂と溶剤の合計量)×100)は、10〜30%であり、より好ましくは15〜25%であり、分別温度は好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜20℃である。
【0030】
分別の際の高融点部分と低融点部分との比(質量比)は、好ましくは20:80〜60:40、より好ましくは30:70〜50:50である。
【0031】
本発明のハードストックは、このようにして得られたエステル交換油脂の低融点部(分別軟部油)からなるものである。従来のハードストックが、硬化油や分別硬部油等の高融点の油脂を生成させたり、また、分別により低融点部分を分離除去して得たものであるのに対し、本発明は、従来とは全く反対に、分別により高融点部分を分離除去した低融点部分を利用する点に特徴を有する。本発明が低融点部分であってもハードストックとしての使用が可能な理由は、上述のように、本発明で使用する油脂配合物中の飽和脂肪酸含量が不飽和脂肪酸含量より多く、それによって、エステル交換した際のトリ不飽和脂肪酸エステルやモノ飽和ジ不飽和脂肪酸エステル等の低融点のトリグリセリドの生成を少なく、且つ、モノ不飽和ジ飽和トリグリセリドの生成を多くすることができるためである。
【0032】
次に、本発明のハードストックの好ましい組成について述べる。
但し、以下の説明においては、
M:炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸
SSS:Sが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
SUS:1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリド
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
UUU:Uが3分子結合しているトリグリセリド
である。
【0033】
本発明のハードストックの構成脂肪酸組成において、Sに占める炭素数18以上のSの割合は好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。炭素数18以上のSの割合が75質量%未満であると、可塑性油脂組成物において、特に、良好な耐熱性やクリーミング性が得られにくい。なお、上限については100質量%である。
【0034】
本発明のハードストックの構成脂肪酸組成において、M/Uの質量比は好ましくは0.6〜1、より好ましくは0.8〜1である。M/Uの質量比が0.6未満であると、可塑性油脂組成物において、特に、良好な耐熱性やクリーミング性が得られにくい。
【0035】
本発明のハードストックのトリグリセリド組成において、SSSの含有量は好ましくは1.0〜12質量%、より好ましくは1.5〜10質量%である。SSSの含有量が1.0質量%未満であると、結晶化速度が低下することから、得られる可塑性油脂組成物が適度な硬さを持たないおそれがあることに加え、特に、耐熱保型性が低下してしまうおそれもある。また、12質量%超であると、得られる可塑性油脂組成物の口どけが悪化してしまうおそれがある。
【0036】
また、本発明のハードストックのトリグリセリド組成において、S2Uの含有量は好ましくは40〜90質量%、より好ましくは50〜85質量%である。S2Uが40質量%未満であると、良好な可塑性を持つ可塑性油脂組成物が得られないおそれがあることに加え、耐熱保型性も低下してしまうおそれもある。また、90質量%超であると、得られる可塑性油脂組成物の口どけが悪化してしまうおそれがある。
【0037】
さらに、本発明のハードストックの、構成トリグリセリド組成におけるSUS/S2Uの質量比は好ましくは0.1〜0.4、より好ましくは0.2〜0.4である。SUS/S2Uの質量比が0.1未満である場合、良好な口溶けが得られにくく、また、0.4超である場合、得られる可塑性油脂組成物が保管中に結晶の粗大化によるザラ発生を起こすおそれがある。
【0038】
また、本発明のハードストックのトリグリセリド組成において、SU2とUUUを合計した含有量は好ましくは10〜59質量%、より好ましくは30〜50質量%である。SU2とUUUを合計した含有量が10質量%未満であると、可塑性油脂組成物が粘りが強くなってしまい良好な可塑性が得られないおそれがある。また、59質量%超であると、良好な可塑性が得られないおそれがあることに加え、耐熱保型性も低下してしまうおそれもある。
【0039】
また、本発明のハードストックは、炭素数16未満の脂肪酸を含有するトリグリセリドを実質的に含有しないものである。これは、上記エステル交換に使用する油脂配合物が炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有しないためである。なお、ここで「実質的に含有しない」とは、概ね15質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満であることを言う。
【0040】
本発明のハードストックは、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、ハードストックの全構成脂肪酸中、トランス脂肪酸含量が好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは2質量%以下であることをいう。
【0041】
水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、部分水素添加油脂には、通常、構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。
【0042】
ここで、本発明のハードストックに用いられる上記油脂配合物に使用する油脂として、部分水素添加油脂を使用せず、前述のように、Sを80質量%以上含有する油脂として極度硬化油脂を使用し、Uを70質量%以上含有する油脂として植物液状油を使用することにより、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有するハードストックを製造することが可能であり、さらに、後に述べるように、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有する可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0043】
本発明のハードストックは、本来の用途である、バタークリーム、サンドクリーム、マーガリン、ショートニング、アイスクリーム、ホイップクリーム等の加工油脂製品の原料油脂用として広く使用することができるが、なかでも、常温(25℃)で液状の油脂、すなわち液状油に添加して可塑性油脂組成物を製造する用途に使用することが特に好ましい。
【0044】
次に、本発明の可塑性油脂組成物について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、少なくとも本発明のハードストックを使用したものであり、好ましくは油相に使用する油脂が本発明のハードストックと液状油からなるものである。
【0045】
上記液状油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、綿実油、米油、パーム分別油等の植物液状油から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。炭素数18のモノ不飽和脂肪酸含量が高く、特に良好な可塑性を有し、且つ、特に高い耐熱保型性を有する可塑性油脂組成物を得ることができる点で、菜種油及び/又はハイオレイックひまわり油を使用することが好ましく、より好ましくはハイオレイックひまわり油を使用する。
【0046】
本発明のハードストックと上記液状油との配合比は、好ましくは10:90〜70:30、より好ましくは20:80〜60:40、より一層好ましくは30:70〜60:40、最も好ましくは40:60〜60:40である。
【0047】
本発明の可塑性油脂組成物には、本発明のハードストックと上記液状油に加え、必要に応じその他の油脂を使用することもできる。
上記その他の油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固形の油脂、並びに各種動植物油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。上記その他の油脂の使用量は、本発明のハードストックと上記液状油との合計100質量部に対し、好ましくは0〜20質量部、より好ましくは0〜10質量部であるが、適正な飽和脂肪酸含量(25〜35質量%)とするためには使用しないことが特に好ましい。
【0048】
本発明の可塑性油脂組成物は、これらの油脂成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲内において、着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料、水等の通常可塑性油脂組成物に使用される一般的な成分を含有することができる。これらの成分の含有量は、本発明の可塑性油脂組成物中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下とする。
【0049】
本発明の可塑性油脂組成物においては、油相のトリグリセリド組成が下記(1)〜(5)の条件を全て満たすように、本発明のハードストックと上記液状油、さらに必要に応じその他の油脂を配合することが好ましい。下記(1)〜(5)の条件を満たすことにより、一層良好な可塑性、クリーミング性、耐熱保型性、口溶けを有する可塑性油脂組成物とすることができる。
【0050】
(1)SSSの含有量が0.3〜5質量%
(2)S2Uの含有量が15〜40質量%
(3)SUS/S2Uの質量比が0.1〜0.4
(4)SU2の含有量が10〜35質量%
(5)UUUの含有量が40〜70質量%
以下、上記条件(1)〜(5)について詳しく述べる。
【0051】
先ず、条件(1)のSSSの含有量について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のトリグリセリド組成におけるSSSの含有量は好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。SSSの含有量が0.3質量%未満であると、結晶化速度が低下することから、得られる可塑性油脂組成物が適度な硬さを持たないおそれがあることに加え、特に、耐熱保型性が低下してしまうおそれがある。また、5質量%超であると、得られる可塑性油脂組成物の口溶けが極端に悪化してしまう。
【0052】
次に、条件(2)のS2Uの含有量について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のトリグリセリド組成におけるS2Uの含有量は好ましくは15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。S2Uが15質量%未満であると、良好な可塑性が得られないおそれがある。また、40質量%超では良好な可塑性が得られにくく、また、耐熱保型性やクリーミング性が悪化するおそれがある。
【0053】
続いて、条件(3)のSUS/S2Uの質量比について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のトリグリセリド組成におけるSUS/S2Uの質量比は好ましくは0.1〜0.4、より好ましくは0.2〜0.4である。SUS/S2Uの質量比が0.1未満のものは、口溶けが悪くなる場合があり、また、0.4超である場合、保存時にザラが発生するおそれがある。
【0054】
さらに、条件(4)のSU2の含有量について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のトリグリセリド組成におけるSU2の含有量は好ましくは10〜35質量%、より好ましくは15〜25質量%である。10質量%未満であると、良好な可塑性、スプレッド性、クリーミング性(特にスプレッド性、クリーミング性)が得られないおそれがあり、35質量%超の場合、良好な可塑性が得られにくく、また、耐熱保型性やクリーミング性が悪化するおそれがある。
【0055】
そして、条件(5)のUUUの含有量について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のトリグリセリド組成におけるUUUの含有量は40〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%である。本発明の可塑性油脂組成物において、UUUの含有量が40質量%未満であると、口溶けが悪くなりやすく、また、70質量%超であると、口溶けは良好であるが、クリーミング性や耐熱保型性が極端に悪化しやすい。
【0056】
本発明の可塑性油脂組成物におけるSSS、UUU、S2U及びSU2以外のトリグリセリド(すなわち、構成脂肪酸としてS及びU以外の脂肪酸を含むトリグリセリド)の含有量は好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満である。
【0057】
本発明の可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成において、全飽和脂肪酸に占める炭素数22以上のSの割合を、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは35〜50質量%とすることにより、耐熱保型性を一層向上させることができる。炭素数22以上のSは、本発明のハードストック由来であっても、また液状油由来であっても、必要に応じ添加するその他の油脂由来であってもよいが、本発明のハードストック由来であることが好ましく、特に、エステル交換油脂を得るための前記油脂配合物に使用するSを80質量%以上含有する油脂として、炭素数22以上のSを多く含有する油脂の極度硬化油脂を使用することが好ましい。このような油脂としては魚油や菜種油(ハイエルシン菜種油)の極度硬化油脂が挙げられる。
【0058】
本発明の可塑性油脂組成物は、構成脂肪酸組成において飽和脂肪酸含量が25〜35質量%であることが好ましい。
前述のように、近年、飽和脂肪酸については適正量の摂取が望まれており、そのため、可塑性油脂組成物においても、飽和脂肪酸含量が25〜35質量%(すなわち不飽和脂肪酸含量が65〜75質量%)と少ない含有量であっても、良好な可塑性を有するものも要求されている。
本発明のハードストックは、液状油に添加して、飽和脂肪酸含量を上記含量に調整した場合であっても、良好な可塑性を有することに加え、良好なクリーミング性、吸水性、耐熱保型性を有し、また、口溶けも良好である可塑性油脂組成物とすることができる。
【0059】
また、本発明の可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成において、全飽和脂肪酸に占めるトランス脂肪酸の割合は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下とする。
前述のように、近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。
ここで、液状油は実質的にトランス脂肪酸を含有しないため、本発明のハードストックを実質的にトランス脂肪酸を含有しないハードストックとし、必要に応じ使用するその他の油脂として、部分水素添加油脂を使用しないことにより、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有する可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0060】
以下に、本発明の可塑性油脂組成物の製造方法を説明する。本発明の可塑性油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0061】
先ず、液状油と本発明のハードストックを含有する油相に、必要により水相を混合乳化する。そして、次にこの乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法はタンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却可塑化する。本発明において冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、本発明では徐冷却であっても、微細なβ型結晶をとり、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定した可塑性油脂組成物を得ることができる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせが挙げられる。
【0062】
また、本発明の可塑性油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
得られた本発明の可塑性油脂組成物は、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもどちらでもよく、また、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0063】
本発明の可塑性油脂組成物は、例えば、食パン、菓子パン、デニッシュ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等のベーカリー製品に、練り込み用、フィリング用、サンド用、トッピング用、スプレッド用等として使用することができ、特にスプレッド用として好ましく使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限されるものではない。なお、例中に示す%は、特に記載がない限り質量%を意味する。
【0065】
〔実施例1〕
<ハードストックの製造>
10Lのステンレス製容器に大豆極度硬化油3.4kgとハイオレイックヒマワリ油1.6kgを混合し油脂配合物とした。この油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。この油脂配合物を、温度110℃、20torrでパドル式攪拌機を用いて200rpmで撹拌し、水分50ppmに調整した。油脂配合物の温度を90℃に調整した後、ソジウムメチラートを10g添加し、200rpmで20分撹拌し、ランダムエステル交換反応を行った後、1kgの熱水で5回水洗し触媒を除去し、エステル交換油を得た。次に、得られたエステル交換油を温度75℃に調整後、45℃まで30hかけて冷却後、濾過、10kgfで圧搾して結晶部を分別除去して得られたエステル交換軟部油を、本発明のハードストックAとした。
得られたハードストックAの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUUの含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0066】
<マーガリンの調製>
上記で得られたハードストックAとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂85質量%、フレーバー0.2%、乳化剤0.1%からなる油相を70℃に加温溶解した。一方、水道水13.2%、食塩1.0%、脱脂粉乳0.5%からなる水相を70℃に加温溶解し、前記油相に混合、乳化後、急冷可塑化し、油中水型乳化型の本発明の可塑性油脂組成物であるマーガリンAを得た。
得られたマーガリンAの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
【0067】
<マーガリンの評価>
得られたマーガリンAは5℃で1週間調温した後、下記の方法で可塑性、耐熱保型性、クリーミング性、口どけを評価した。また、さらに20℃、3ヶ月保管後、下記の方法で外観を評価した。結果については表4に記載した。
【0068】
(可塑性の評価)
マーガリンを2cm角に切り出し、15℃に1時間放置後、可塑性について下記評価基準に従って4段階で評価を行なった。
・評価基準
◎ 良好な可塑性を示した
○ 硬いものの可塑性を示した
△ 硬すぎて可塑性を示さなかった
× 軟らかすぎて可塑性を示さなかった
【0069】
(耐熱性の評価)
マーガリンを2cm角に切り出し、15℃から1℃毎に各1時間保管後の状態を観察し、外観が変化しない上限温度を測定した。
【0070】
(クリーミング性の評価)
マーガリン300gを卓上ミキサーでビーターを使用し、高速でクリーミングした。クリーミング開始から3分後の比重を測定し、クリーミング性について下記評価基準に従って4段階で評価を行なった。
・評価基準
◎ 3分後の比重が0.40未満
○ 3分後の比重が0.40以上0.50未満
△ 3分後の比重が0.50以上0.60未満
× 3分後の比重が0.60以上
【0071】
(口溶けの評価)
マーガリンを口にふくんだときの溶け易さを、15人のパネラーにて官能試験した。口溶け性が良好なもの、口溶け性が不良なもの、及びどちらともいえないもの、3段階で評価し、良好なものに2点、どちらともいえないものに1点、不良なものに0点を与え、合計点が25点以上を◎、20〜24点を○、15〜19点を△、14点以下を×とした。
【0072】
(外観の評価)
外観について、下記の評価基準により4段階で評価した。
・評価基準
◎:表面につやがあり、なめらかな外観である。
○:表面にややつやがないが、なめらかな外観である。
△:表面のつやがほとんど見られず、ややざらのある外観である。
×:ざらが見られる。
【0073】
〔実施例2〕
油脂配合物を、大豆極度硬化油3.4kgとキャノーラ油1.6kgの混合物に変更した以外は実施例1と同様にしてハードストックBを得た。なお、この油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。
得られたハードストックBの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0074】
配合油脂を、ハードストックBとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンBを調製した。
得られたマーガリンBの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンBは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0075】
〔実施例3〕
油脂配合物を、ハイエルシン菜種極度硬化油3.4kgとキャノーラ油1.6kgの混合物に変更した以外は実施例1と同様にしてハードストックCを得た。この油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。
得られたハードストックCの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0076】
配合油脂を、ハードストックCとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンCを調製した。
得られたマーガリンCの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンCは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0077】
〔実施例4〕
油脂配合物を、ハイエルシン菜種極度硬化油3.4kgとハイオレイックヒマワリ油1.6kgの混合物に変更した以外は実施例1と同様にしてハードストックDを得た。この油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。
得られたハードストックDの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0078】
配合油脂を、ハードストックDとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンDを調製した。
得られたマーガリンDの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンDは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0079】
〔実施例5〕
油脂配合物を、パーム極度硬化油3.4kgとハイオレイックひまわり油1.6kgの混合物に変更した以外は実施例1と同様にしてハードストックEを得た。この油脂配合物の構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。
得られたハードストックEの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0080】
配合油脂を、ハードストックEとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンEを調製した。
得られたマーガリンEの油脂の構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンEは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0081】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして得たエステル交換油(分別操作を行なっていないもの)をハードストックFとした。このハードストックの構成脂肪酸組成におけるSの含量は70%、Uの含量は30%であり、炭素数16未満の脂肪酸の含量は1質量%未満であった。
得られたハードストックFの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量については表1に記載した。
【0082】
配合油脂を、ハードストックFとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンFを調製した。
得られたマーガリンFの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンFは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0083】
〔比較例2〕
サル脂の分別硬部油(融点36℃)をそのままハードストックGとした。
得られたハードストックGの、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2+UUU含量、トランス脂肪酸含量については表1に記載した。
【0084】
配合油脂を、ハードストックGとキャノーラ油を表2に記載の混合比で混合した配合油脂に変更した以外は実施例1と同様にしてマーガリンGを調製した。
得られたマーガリンGの油脂の、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量、Sに占める炭素数18以上のSの割合、Sに占める炭素数22以上のSの割合、M/Uの質量比、トリグリセリド組成におけるSSS含量、S2U含量、SUS/S2Uの質量比、SU2含量、UUU含量、トランス脂肪酸含量については表3に記載した。
得られたマーガリンGは実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
上記表4に示す結果から、本発明の可塑性油脂組成物は、構成脂肪酸組成における飽和脂肪酸含量が25〜35%であっても、良好な可塑性、クリーミング性、耐熱保型性を有し、また、口溶けが良好であり、且つ、保存安定性が良好あることがわかる。
なかでも、Sに占める炭素数18以上のSの割合が75質量%以上であるハードストックを使用して得られた実施例1〜4の可塑性油脂組成物は、耐熱保型性が特に優れていることがわかる。また、M/Uの質量比が0.8〜1であるハードストックを使用して得られた実施例1、4の可塑性油脂組成物は、クリーミング性や口溶けに特に優れていることがわかる。また、炭素数22以上のS/Sが35〜50質量%の範囲内である実施例3、4の可塑性油脂組成物は、耐熱保型性が特に良好であることがわかる。
【0090】
それに対して、エステル交換のみで分別しなかったハードストックを使用した比較例1の可塑性油脂組成物は、耐熱保型性は良好であるが、可塑性に乏しく、クリーミング性、口溶けも劣るものであり、また、ハードストックとしてハードバター(SUS/S2Uの質量比が高い油脂)を使用した比較例2の可塑性油脂組成物は、耐熱保型性と口溶けは良好であるが、クリーミング性が悪く、また、長期間の保管には適していないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸組成において、炭素数16未満の脂肪酸を実質的に含有せず且つSの含有量が55〜85質量%でUの含有量が15〜45質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換して得られたエステル交換油脂の分別軟部油からなることを特徴とするハードストック
(但し、
S:炭素数16以上の飽和脂肪酸、
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
である)。
【請求項2】
構成脂肪酸組成において、Sに占める炭素数18以上のSの割合が75質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のハードストック。
【請求項3】
構成脂肪酸組成において、M/Uの質量比が0.6〜1であることを特徴とする請求項1又は2記載のハードストック
(但し、
M:炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸
である)。
【請求項4】
トランス脂肪酸を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードストック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のハードストックを使用したことを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項6】
油相中のトリグリセリドの組成が下記の条件(1)〜(5)を全て満たすことを特徴とする請求項5記載の可塑性油脂組成物;
(1)SSSの含有量が0.3〜5質量%
(2)S2Uの含有量が15〜40質量%
(3)SUS/S2Uの質量比が0.1〜0.4
(4)SU2の含有量が10〜35質量%
(5)UUUの含有量が40〜70質量%
(但し、
SSS:Sが3分子結合しているトリグリセリド、
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド、
SUS:1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリド、
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド、
UUU:Uが3分子結合しているトリグリセリド
である)。
【請求項7】
構成脂肪酸組成において、トランス脂肪酸の割合が2質量%未満であることを特徴とする請求項5又は6記載の可塑性油脂組成物。

【公開番号】特開2010−77244(P2010−77244A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245880(P2008−245880)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】