説明

ハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板

【課題】湿度の変化に対してPSA(姿勢角)変化が小さく、磁気ヘッドを備えるスライダを安定して高精度に支持できるハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板を提供する。
【解決手段】金属製の基材2と、金属製基材2の上に設けられた下地絶縁層3と、下地絶縁層3の上に設けられた導体層4と、導体層4を被覆した状態で設けられたカバー絶縁層5とを備えるハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板1において、下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の少なくとも一方の25℃における引張貯蔵弾性率を、0.1〜1.0GPaとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ用の回路付きサスペンション基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや電子機器等の記憶装置(記録手段)として用いられるハードディスクドライブ(以下、HDDという)は、円板状の磁気ディスク(プラッタ)と磁気ヘッド(スライダ)とを相対的に回転走行させ、これにより生じる空気流の圧力によって、(I)上記磁気ヘッドが磁気ディスクに接触しないように浮き上がらせて支持するとともに、(II)サスペンションの弾性により上記磁気ヘッドを磁気ディスク側に押し付け、この押し付け力と上記空気流の上向き圧力との釣り合いをとることによって、磁気ヘッドと上記磁気ディスクの間隔(ギャップ)を、適正な距離に保持している。
【0003】
上記HDDの磁気ヘッドを支持・実装する構造として、弾性を有するアーム状のサスペンション基板に、この磁気ヘッドと装置の制御手段とを接続するための回路(配線)パターンを一体的に形成した、回路付きサスペンション基板が提案され、実用化されている(特許文献1を参照)。
【0004】
このHDD用の回路付きサスペンション基板の構造は、例えば、ステンレス箔基材の上に、ポリイミド樹脂等からなる絶縁層が形成され、その上に、銅等からなる所定パターンの導体層(薄膜)が回路(電気配線)として形成されている構成をとる。さらに、上記導体層の上または表面には、端子となる導電部が形成され、この端子の領域を除く全表面に、上記絶縁層と導体層を覆う絶縁被覆層が積層される。そして、アーム形状の先端部(先細部)に、磁気ヘッドを備えるスライダが搭載(実装)される(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−310946号公報
【特許文献2】特開平10−265572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、HDDは、近年の磁気ディスクの記録密度向上に伴い、磁気ディスクに対する上記スライダ(磁気ヘッド)のPSA(Pitch Static Attitude:姿勢角)を、より精密に調整することが求められており、上記HDD用回路付きサスペンション基板も、温度および湿度の変化による上記PSAの変化を、できるだけ小さくすることが望まれている。
【0007】
この解決策として、従来より、温度変化に伴うスライダのPSAの変化を抑えるために、基材および導体層と、下地およびカバー絶縁層の熱膨張係数を近づける対策がとられ、また、湿度変化に伴うスライダのPSAの変化を抑えるためには、基材および導体層と、下地およびカバー絶縁層の湿度膨張係数を近づける対策がとられる。しかしながら、樹脂製の下地絶縁材料およびカバー絶縁材料の熱膨張係数と湿度膨張係数とを、同時に金属製の基材および導体層のそれに近づけることは難しい。特に、金属からなる基材および導体層の湿度膨張係数は、実質的に0(ゼロ)であるため、樹脂である下地絶縁材料およびカバー絶縁材料の湿度膨張係数を、上記金属製基材および導体層のそれに近づけることは極めて困難である。そのため、例えば上記特許文献1においては、上記樹脂材料の湿度膨張係数を、金属材料のそれに近づけるため、上記樹脂材料の感光性やその他の必要物性を犠牲にしているのが現状である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、湿度の変化に対してPSA(姿勢角)変化が小さく、磁気ヘッドを備えるスライダを安定して高精度に支持できるハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板は、金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる導体層と、上記導体層を被覆した状態で設けられたカバー絶縁層とを備えたハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板であって、上記下地絶縁層およびカバー絶縁層の少なくとも一方の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaである構成を第1の要旨とする。
【0010】
また、本発明のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板は、金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第1導体層と、上記第1導体層上に設けられた中間絶縁層と、上記中間絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第2導体層と、上記第2導体層上に設けられたカバー絶縁層とを備えたハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板であって、上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層のうち少なくとも一つの絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaである構成を第2の要旨とする。
【0011】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決するために、HDD用回路付きサスペンション基板の被覆層(絶縁層)を構成する樹脂材料の種々の物性に注目して、研究を行った。その過程で、本発明者は、上記サスペンション基板において、湿度による上記スライダのPSAの変化量を左右する因子として、従来から検討されていた湿度膨張係数に代えて、絶縁樹脂材料の引張貯蔵弾性率に着目し、これを指標として活用することを着想した。そして、さらに検討を重ね、従来言われているように、樹脂である下地絶縁材料およびカバー絶縁材料の湿度膨張係数を、金属製基材および導体層のそれに近づけるよりむしろ、上記絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率を0.1〜1.0GPaとする方が、湿度変化に伴うサスペンション基板の膨張・収縮を抑えられることを突き止め、本発明に到達した。このように、本発明は、従来の技術常識を打破してなされたものである。
【0012】
なお、本発明における「引張貯蔵弾性率」とは、JIS K 7244−4:1999「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第4部:引張振動−非共振法」に準じて測定される動的粘弾性のうち、引張モードで測定された貯蔵弾性率(E’)の25℃における値を言う。また、上記「引張貯蔵弾性率」を測定するための試料作成手順および測定手順は、後記の発明を実施するための形態にて詳細に述べる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の第1の要旨のHDD用回路付きサスペンション基板は、金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる導体層と、上記導体層を被覆した状態で設けられたカバー絶縁層とを備え、上記下地絶縁層および上記カバー絶縁層の少なくとも一方の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaになるように構成されている。そのため、このHDD用回路付きサスペンション基板は、湿度変化による膨張や収縮が起こりにくい。これにより、本発明のHDD用回路付きサスペンション基板は、湿度の変化に対してHDDのスライダのPSA変化が小さく、磁気ヘッドを備える上記スライダを、安定して高精度に支持することが可能になる。
【0014】
また、上記HDD用回路付きサスペンション基板において、上記下地絶縁層およびカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、それぞれ0.1〜1.0GPaであるものは、PSAの変化に関与する全ての絶縁層が、湿度変化による膨張や収縮が起こりにくくなっている。これにより、このHDD用回路付きサスペンション基板は、湿度の変化によるHDDのスライダのPSA変化がさらに小さく、このスライダを、より安定して支持することができる。
【0015】
そして、本発明のHDD用回路付きサスペンション基板のなかでも、上記下地絶縁層およびカバー絶縁層が、下記の(A)成分および(B)成分を含有する感光性樹脂組成物で構成されているものは、樹脂の感光性やその他の必要物性を低下させることなく、磁気ヘッドを備える上記スライダを、より安定して高精度に支持することができる。
(A)下記の一般式(1)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体。
【化1】

〔式(1)中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2,R3は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり互いに同じであっても異なっていてもよい。〕
(B)テトラカルボン酸二無水物と、アミン構造を有する末端を二つ有し、ポリエーテル構造を有するジアミン化合物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂。
【0016】
また、本発明の第2の要旨のHDD用回路付きサスペンション基板は、金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第1導体層と、上記第1導体層上に設けられた中間絶縁層と、上記中間絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第2導体層と、上記第2導体層上に設けられたカバー絶縁層とを備え、上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層のうち少なくとも一つの絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaになるように構成されている。そのため、このHDD用回路付きサスペンション基板は、前記第1の要旨のHDD用回路付きサスペンション基板と同様、湿度変化による膨張や収縮が起こりにくい。これにより、本発明のHDD用回路付きサスペンション基板は、湿度の変化に対してHDDのスライダのPSA変化が小さく、磁気ヘッドを備える上記スライダを、安定して高精度に支持することができる。
【0017】
また、上記HDD用回路付きサスペンション基板において、上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、全て0.1〜1.0GPaであるものは、湿度変化による膨張や収縮がより起こりにくくなっている。これにより、このHDD用回路付きサスペンション基板は、湿度の変化によるHDDのスライダのPSA変化がさらに小さく、このスライダを、より安定して支持することができる。
【0018】
さらに、本発明のHDD用回路付きサスペンション基板のなかでも、上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層が、下記の(A)成分と(B)成分とを含有する感光性樹脂組成物からなるものは、樹脂の感光性やその他の必要物性を低下させることなく、磁気ヘッドを備える上記スライダを、より安定して高精度に支持することができ、好ましい。
(A)下記の一般式(1)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体。
【化2】

〔式(1)中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2,R3は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり互いに同じであっても異なっていてもよい。〕
(B)テトラカルボン酸二無水物と、アミン構造を有する末端を二つ有し、ポリエーテル構造を有するジアミン化合物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の構成を説明する斜視図であり、(b)は、(a)のP部の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図3】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図4】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図5】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図6】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図7】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図8】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図9】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図10】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図11】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図12】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図13】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図14】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図15】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図16】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図17】同じく本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【図18】(a)は実施例にて作製した評価用回路付きサスペンション基板のRSA変化の測定方法を示す側面図であり、(b)はその測定方法を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の構成を説明する斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のP部の構造を、拡大して示す模式的断面図である。なお、図1(a)においては、カバー層(カバー絶縁層5)に被覆される絶縁層(下地絶縁層3)と導体層4の図示を省略している。
【0021】
この実施形態におけるHDD用の回路付きサスペンション基板1は、図1(a),(b)に示すように、金属製の基材2と、基材2の上に設けられた下地絶縁層3と、下地絶縁層3の上に設けられた導体層4と、導体層4を被覆した状態で設けられたカバー絶縁層5等、から構成されている。このHDD用回路付きサスペンション基板1が、従来のサスペンション基板と異なる特徴は、上記下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の25℃における引張貯蔵弾性率が、それぞれ0.1〜1.0GPaに設定されている点である。
【0022】
上記構成により、このHDD用回路付きサスペンション基板1は、下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の湿度膨張係数に関わらず、湿度変化に伴うサスペンション基板の膨張・収縮が極めて小さくなっている。そのため、上記HDD用回路付きサスペンション基板1は、湿度変化による膨張や収縮等に起因する反りや歪みが発生しにくい。また、上記スライダ用端子部4cに磁気ヘッドを含むスライダを実装し、上記穴2aにシャフト等を挿通して軸支された場合でも、湿度変化に対する上記スライダのPSA(姿勢角)変化が小さく、このスライダが磁気ディスクに対して適正なギャップを維持するように、安定して高精度に支持することができる。
【0023】
なお、上記硬化後の下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の25℃における引張貯蔵弾性率の好適な範囲は、通常0.1〜1.0GPa、より好ましくは0.15〜0.9GPa、さらに好ましくは0.2〜0.8GPaである。上記各絶縁層3,5の25℃における引張貯蔵弾性率は、つぎのようにして測定される。すなわち、感光性樹脂組成物からなるフィルム(絶縁層)を作製し、このフィルムを幅5mm×長さ30mmに切断し、測定用試料を作製する。そして、粘弾性測定装置RSAIII(Rheometric Sientific社製)を用いて、上記試料を、周波数1Hzの条件で引っ張りながら、0〜50℃の範囲(昇温速度5℃/分)で動的粘弾性(E’)を測定し、25℃における値を読み取った。
【0024】
また、上記各絶縁層3,5の25℃における引張貯蔵弾性率が0.1GPa未満の場合は、各絶縁層3,5の表面がタック性を有して他の粘着し易くなるため、その取扱いが難しくなる傾向がみられる。また、上記各絶縁層3,5の25℃における引張貯蔵弾性率が1.0GPaを超える場合は、湿度変化による各絶縁層3,5の膨張・収縮が大きくなり、それに伴うスライダのPSA変化が増大する傾向がみられる。
【0025】
上記HDD用回路付きサスペンション基板1の構造について、詳しく説明する。
上記金属製の基材2としては、例えばステンレス箔,アルミニウム箔等、薄板状の金属(箔)を所定形状に打ち抜いて形成したものを用いる。金属箔としては、通常、厚さが10〜60μmのもの、なかでも、振動特性の観点から15〜30μmのものが好適に用いられる。なお、基材2の一端側(図示右側で、基板1の根元側)には、このHDD用回路付きサスペンション基板1を、図示しないステッピングモータ等のシャフトに挿通して軸支するための穴2aが設けられている。また、基材2の他端側(図示左側で、基板1の先端側)には、略コの字状のスリット2b,2bによって、磁気ヘッドを含むスライダ(図示せず)の姿勢角を安定させるためのジンバルが形成されている。
【0026】
また、上記回路を構成する導体層4は、銅等をめっきすることにより形成されており、図1のように、その一端(根元側)には、HDDの制御手段に接続するための制御用端子部4bが設けられているとともに、その他端(先端側)の上記ジンバルに位置する部位には、上記スライダを接続・実装するためのスライダ用端子部4cが形成されている。なお、導体層4の残りの細線部位は、これらの間を結線する配線部4aである。また、導体層4は、実際は多層構造であり、上記めっきによる導体層4と下地絶縁層3(樹脂製)との間には、この導体層4の樹脂に対する密着性を向上させる、1層または2層以上の下地導体層(図示省略)が介在配置されている。この下地導体層の詳細は、後記の製法で説明する。
【0027】
そして、本実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板1の特徴的構成は、先に述べたように、上記基材2と導体層4との間に配置される下地絶縁層3、および、導体層4を被覆した状態で設けられるカバー絶縁層5の25℃における引張貯蔵弾性率が、それぞれ0.1〜1.0GPaに設定されている点である。
【0028】
本発明を特徴づける下地絶縁層3およびカバー絶縁層5を構成する樹脂の例としては、例えばポリイミド樹脂等からなる感光性樹脂組成物があげられる。この感光性樹脂組成物は、電子線や紫外線等の光線の照射により硬化する性質を有するとともに、硬化後の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaになるように設計・配合されている。
【0029】
また、上記感光性樹脂組成物は、フォトリソグラフィ法等を用いて、上記基材2の上に、所要のパターンの絶縁層(絶縁膜)を容易に形成することができる。例えば、塗布等により基材2の上に、上記感光性樹脂組成物からなる膜を形成した後、所定の開口パターンを有するマスクを介して、電子線や紫外線等を照射して必要部分を硬化させ、その後現像液で現像して、未硬化の不要部分を洗い流すことにより、所定パターンの下地絶縁層3およびカバー絶縁層5を得ることが可能である。
【0030】
上記HDD用回路付きサスペンション基板の下地絶縁層3およびカバー絶縁層5を構成する感光性樹脂組成物(絶縁材料樹脂)の具体例としては、下記の(A)成分および(B)成分を含有する樹脂材料を好適にあげることができる。
(A)下記の一般式(1)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体。
【化3】

〔式(1)中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2,R3は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり互いに同じであっても異なっていてもよい。〕
(B)テトラカルボン酸二無水物と、アミン構造を有する末端を二つ有し、ポリエーテル構造を有するジアミン化合物(以下、PEジアミン化合物という)と、を反応させて得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂。
【0031】
上記(B)で使用するPEジアミン化合物は、ポリイミド樹脂の25℃における引張貯蔵弾性率を小さくするという点で好ましい。このPEジアミン化合物は、ポリエーテル構造を有し、アミン構造を有する末端を少なくとも二つ有する化合物であり、例えば、ポリプロピレングリコール構造を有する末端ジアミンや、ポリエチレングリコール構造を有する末端ジアミン、ポリテトラメチレングリコール構造を有する末端ジアミン、さらにはこれら複数の構造を有する末端ジアミンなどがあげられる。
【0032】
上記PEジアミン化合物が有するポリエーテル構造は、−A−O−で表されるアルキレンオキシ基を二つ以上有する構造である(Aはアルキレン基を、Oは酸素原子を表す。)。上記Aとしてのアルキレン基は、一般的には炭素数1〜10、好ましくは2〜5であり、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどがあげられる。なお、複数のアルキレンオキシ基は、同じでもあっても、異なっていてもよい。また、上記Aとしてのアルキレン基は、置換基(例えば、メチル基、ポリエーテル基、アミノポリエーテル基等)を有していてもよい。
【0033】
また、上記PEジアミン化合物が二つの末端に有するアミン構造は、同じでもあっても異なっていてもよく、1級〜3級のいずれであってもよいが、1級が好ましい。アミン構造としては、たとえば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンがあげられ、プロピルアミンが好ましい。
【0034】
なお、上記PEジアミン化合物の数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1000〜5000である。
【0035】
上記PEジアミン化合物の具体例としては、以下の式(2)〜(5)で表される化合物をあげることができる。
【0036】
【化4】

〔式(2)中、aは2以上の整数を表し、好ましくは5〜80である。〕
【0037】
【化5】

〔式(3)中、b,c,dは各々0以上の整数を表す。ただし、b+c+dは2以上であり、好ましくは5〜50である。〕
【0038】
【化6】

〔式(4)中、e,f,gは各々0以上の整数を表す。ただし、e+f+gは2以上であり、好ましくは5〜30である。〕
【0039】
【化7】

〔式(5)中、hは1以上の整数を表し、好ましくは1〜4である。〕
【0040】
一方、前記(B)における、テトラカルボン酸二無水物と上記PEジアミン化合物との反応(合成)に際しては、このPEジアミン化合物(ポリエーテル構造を有する)の他に、ポリエーテル構造を有さない、別種のジアミン化合物を併用することが好ましい。
【0041】
上記合成時に併用することが好ましいジアミン化合物としては、例えば、以下のような脂肪族ジアミンや芳香族ジアミン等をあげることができる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、4,9−ジオキサ−1,12−ジアミノドデカン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(α、ω−ビスアミノプロピルテトラメチルジシロキサン)などがあげられる。脂肪族ジアミンの分子量は、通常50〜1000、好ましくは100〜300である。
【0042】
上記芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジアミノジフェニルエ−テル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン等があげられる。これらの中で、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、p−フェニレンジアミンが好ましい。
【0043】
そして、前記(B)で使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸二無水物等があげられる。これらの中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、ピロメリット酸二無水物が好ましい。なお、これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
また、前記(B)において、テトラカルボン酸二無水物とPEジアミン化合物との反応により得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂としては、以下の式(6)〜(9)で表される化合物をあげることができる。なお、以下の式(6)〜(9)において、Arは少なくとも一つ芳香環を含有する構造を表す。また、Arの好ましい炭素数は6〜30であり、例えば、ベンゼン環、ビフェニル、ジフェニルエーテル等があげられる。
【0045】
【化8】

〔式(6)中、aは2以上の整数を表し、好ましくは5〜80である。〕
【0046】
【化9】

〔式(7)中、b,c,dは各々0以上の整数を表す。ただし、b+c+dは2以上であり、好ましくは5〜50である。〕
【0047】
【化10】

〔式(8)中、e,f,gは各々0以上の整数を表す。ただし、e+f+gは2以上であり、好ましくは5〜30である。〕
【0048】
【化11】

〔式(9)中、hは1以上の整数を表し、好ましくは1〜4である。〕
【0049】
つぎに、上記HDD用回路付きサスペンション基板の作製方法を図面にもとづいて説明する。図2〜図17は、本実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板の製法を模式的に説明する説明図である。
【0050】
この実施形態におけるHDD用回路付きサスペンション基板1の作製は、まず、図2に示すように、厚さ5〜30μmのステンレス箔基材2の全面に、得られる樹脂層の厚さが2〜20μm、好ましくは3〜15μmとなるように、先の実施形態で説明した(A)成分および(B)成分を含有する感光性樹脂組成物(以下、PI感光性樹脂組成物という)の溶液をコンマコート法やファウンテンコート法等で塗布し、60〜200℃、好ましくは80〜180℃で加熱・成膜して、上記PI感光性樹脂組成物の被膜13(後の下地絶縁層3)を形成する。
【0051】
つぎに、このPI感光性樹脂組成物の被膜13に、適宜のフォトマスクを介して紫外線を照射し、所定のパターンに露光させる。ここで、露光量は、50〜2000mJ/cm2、好ましくは100〜1500mJ/cm2の範囲であり、露光波長は、通常200〜450nm、好ましくは240〜420nmの範囲である。
【0052】
この露光の後、被膜13を90〜210℃、好ましくは100〜200℃の温度で約1〜20分程度加熱(露光後加熱)し、ついで、アルカリ現像処理を行なう。この後、上記パターン化されたPI感光性樹脂組成物の被膜13を、150〜400℃×1〜180分程度かけて加熱硬化し、図3に示すような、ステンレス箔基材2上にPI感光性樹脂層からなるパターン化した下地絶縁層3を形成した。
【0053】
ついで、図4に示すように、下地絶縁層3を有するステンレス箔基材2の上面に、先に述べた下地導体層として、クロムまたはチタン製の薄膜(下地導体層14A)と、銅製の薄膜(下地導体層14B)とが、スパッタリングを用いて順次連続して成膜される。上記クロムまたはチタン製の薄膜(14A)は、下地絶縁層3に対する銅製の薄膜(14B)の密着性を向上させる効果がある。ここで、膜厚は、上記下地導体層14Aが10〜60nm、下地導体層14Bが30〜200nmの範囲が好ましい。
【0054】
この後、図5に示すように、上記下地導体層14Bの上に、電解めっきを用いて、厚さ2〜15μm程度の銅からなる導体層4を形成する。
【0055】
ついで、図6に示すように、導体層4上に、フォトレジストまたはドライフィルムラミネートからなるパターン状のマスクM1を形成し、露光および現像処理(エッチング)を行って、図7のように、非パターン部の導体層4を除去した後、上記マスクM1を取り除いて、図8に示すように、導体層4を所定回路パターンに形成する。なお、銅製の導体層4(および下地導体層14B)のエッチングは、アルカリエッチングによることが好ましい。また、下地導体層14Bは、上記導体層4と一体化するため、以降の図示を省略する。
【0056】
つぎに、図9に示すように、所定回路パターン以外の領域に形成された下地導体層14Aをエッチングで除去して、前記下地絶縁層3の上に、所定回路パターンの導体層4を完成させる。なお、クロムまたはチタンからなる薄膜(下地導体層14A)のエッチングには、例えば、フェリシアン化カリウム系のエッチング液や、このほか、過マンガン酸カリウム,メタケイ酸ナトリウム系等のエッチング液が用いられる。また、下地導体層14Bと同様、下地導体層14Aも上記導体層4と一体化するため、以降の図示を省略する。
【0057】
その後、図10に示すように、無電解ニッケルめっきを行って、上記導体層4とステンレス箔基材2の表面(上面)に、硬質のニッケル薄膜15を形成して、導体層4の表面を被覆・保護する。上記ニッケル薄膜15の膜厚は、下層の導体層4が露出しない程度であればよく、通常、0.05〜1μmの範囲である。
【0058】
なお、ここまでは基材2上に形成される導体層4(配線部4a,制御用端子部4b,スライダ用端子部4c)に共通の工程であるが、これ以降は、図示左側の導体層4を配線部4aに、図示右側の導体層4の上面に端子部4b(または4c)を形成してゆくので、その工程を説明する。
【0059】
すなわち、図11に示すように、図示左側の配線部4aでは、前記下地絶縁層3の形成と同様、上記PI感光性樹脂組成物を塗布・成膜して、この配線部4aを覆うカバー絶縁層5を形成する。一方、端子部4bを形成する予定の導体層4(図示右側)でも、前記下地絶縁層3と同様のPI感光性樹脂組成物を塗布・成膜するが、フォトリソグラフィを用いたパターニングによって、導体層4上面の端子部4b形成用所定領域(通常、円状または楕円状の凹部5aの底に形成される露出面)と、後記する電解めっきを行うためのリード部20(露出面)とを残すように、端子部4bを覆うカバー絶縁層5を形成する。
【0060】
ついで、図12に示すように、端子部4bを形成する導体層4(図示右側)およびステンレス箔基材2上のニッケル薄膜15を除去する。この後、上記端子部4b用の凹部5aを除くカバー絶縁層5の表面と、下地絶縁層3およびステンレス箔基材2の表面を、めっきレジストにて被覆した後、上記リード部20に電極を接続して、上記カバー絶縁層5の凹部5a内に、電解めっきによってニッケル層16と金層17とを順次積層し、端子部4bを形成する。なお、上記ニッケル層16の厚さは1〜5μm、金層17の厚さは0.05〜1μm程度が適当である。この後、図13のように、上記めっきレジストを除去する。
【0061】
つぎに、図14に示すように、上記端子部4aを形成した導体層4(図示右側)において、電解めっきに用いたリード部20を化学エッチングにて除去する。このリード部20(および一体となったクロムまたはチタン製の下地導体層14A)の除去は、前述したものと同様、フェリシアン化カリウム系のエッチング液や、過マンガン酸カリウム,メタケイ酸ナトリウム系等のエッチング液を用いることができる。
【0062】
その後、ステンレス箔基材2を化学エッチングによって所要の形状に切り抜くために、図15のように、下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の上に、フォトレジストまたはドライフィルムラミネート等からなるパターン状のマスクM2を形成する。
【0063】
つぎに、図16に示すように、所要のエッチング液を用いて、ステンレス箔基材2を所要の形状に切り抜く。エッチング液としては、例えば、塩化第二鉄、塩化第二銅等の水溶液が用いられる。
【0064】
上記エッチング処理の後、図17に示すように、上記マスクM2を除去して純水で洗浄し、乾燥させる。以上のようにして、本実施形態のHDD用回路付きサスペンション基板1を得る。すなわち、このHDD用回路付きサスペンション基板1は、ステンレス箔基材2上に、前記(A)成分および(B)成分を含有するPI感光性樹脂組成物からなる下地絶縁層3を有し、その上に銅からなる導体層4が、所定の回路パターンに形成されている。そして、端子部4b(および4c)を除き、上記導体層4の上に、上記PI感光性樹脂組成物からなるカバー絶縁層5が設けられ、この導体層4が被覆保護されている。
【0065】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
以下の実施例においては、前記(B)に包含されるポリイミド前駆体B1,B2,B3またはカルボキシル基含有線状重合体Dと、前記(A)に記載の1,4−ジヒドロピリジン誘導体Aとからなる感光性樹脂組成物α1〜α4を用いて、下地絶縁層およびカバー絶縁層を形成し、実施例1〜4のHDD用回路付きサスペンション基板を作製した。また、前記(B)に包含されないポリイミド前駆体C1,C2を含有する感光性樹脂組成物β1,β2を用いて、下地絶縁層およびカバー絶縁層を形成し、比較例1,2のHDD用回路付きサスペンション基板を作製した。
【0067】
さらに、下地絶縁層およびカバー絶縁層の一方に感光性樹脂組成物α1を用いて、他方に感光性樹脂組成物β1を使用した実施例5,6のHDD用回路付きサスペンション基板と、絶縁層を下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層の3層構成とし、全ての絶縁層に感光性樹脂組成物α1を使用した実施例7のHDD用回路付きサスペンション基板とを作製した。
【0068】
そして、これら実施例1〜7および比較例1,2のHDD用回路付きサスペンション基板(供試用)を用いて、作製(完成)後の25℃50%RHにおける「反り」と、25℃において湿度を10%RHから80%RHまで変化させた時の「PSA(姿勢角)変化」とを測定し、結果を比較した。
【0069】
まず、各感光性樹脂組成物を構成するポリイミド前駆体B1,B2,B3,C1,C2およびカルボキシル基含有線状重合体Dを合成(重合)し、ついで、1,4−ジヒドロピリジン誘導体A、1,3−ジアザ−2,4−シクロペンタジエン(イミダゾール)や助剤等の添加剤を加えて混合・調整し、実施例1〜7および比較例1,2のHDD用回路付きサスペンション基板の絶縁層の形成に使用する、感光性樹脂組成物α1〜α4および感光性樹脂組成物β1,β2の溶液を作製した。
【0070】
[ポリイミド前駆体B1の合成]
下記の式(10)に示すジアミン(D−2000,三井化学ファイン社製,n=33,概略分子量:2000)35.5gと、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDE)19.4gとを、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)533g中で溶解させ、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDA)25gを加えて反応させ、ポリイミド前駆体B1の溶液を得た。
【化12】

〔式(10)中、nは2以上の整数を表し、好ましくは5〜80である。なお、上記D−2000はn=33,下記D−4000はn=68〕
【0071】
[ポリイミド前駆体B2の合成]
上記ジアミンD−2000の代わりに、ジアミン(D−4000,三井化学ファイン社製 上記式(10)中においてn=68の化合物 概略分子量:4000)27.5gと、DDE 15.2g,NMP 344g,PMDA 18.0gとを、上記ポリイミド前駆体B1と同様に反応させ、ポリイミド前駆体B2の溶液を得た。
【0072】
[ポリイミド前駆体B3の合成]
下記の式(11)に示すジアミン(XJT−542,三井化学ファイン社製,概略分子量:1000)27.2gと、DDE 12.9gとを、NMP 340g中で溶解させ、PMDA 20gを加えて反応させ、ポリイミド前駆体B3の溶液を得た。
【化13】

〔式(11)中、p+r=6.0、q=9.0〕
【0073】
[ポリイミド前駆体C1の合成]
1,4−ジアミノベンゼン(PDA)11.7gと、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)8.5gとを、NMP 340g中で溶解させ、3,4,3’,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)39.8gを加えて反応させ、ポリイミド前駆体C1の溶液を得た。
【0074】
[ポリイミド前駆体C2の合成]
下記式(12)に示すジアミン(HF−BAPP)29.2gを、NMP340g中に溶解させた後、下記式(13)に示すTA44BP 30.8gを加え反応させ、ポリイミド前駆体C2の溶液を得た。
【0075】
【化14】

【0076】
【化15】

【0077】
[カルボキシル基含有線状重合体Dの合成]
メタクリル酸10g,アクリル酸ブチル80g,メタクリル酸メチル10g,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100g,アゾビスイソブチロニトリル1.0gを、窒素雰囲気下で300mlのセパラブルフラスコに入れ、攪拌しながら加温し、90℃で5時間反応させて、カルボキシル基含有線状重合体Dの溶液(固形分50重量%)を得た(カルボキシル基含有線状重合体Dのカルボン酸当量計算値:860,重量平均分子量:30000)。
【0078】
[1,4−ジヒドロピリジン誘導体A]
前記(A)に記載の1,4−ジヒドロピリジン誘導体〔下記式(1)を参照〕において、式中のR1がC25、R2,R3がCH3の化合物。
【化16】

【0079】
[感光性樹脂組成物の調整]
つぎに、下記の「表1」に示す各配合成分を、同表に示す割合にて配合し、混合することにより、絶縁層の形成材料となる、感光性樹脂組成物α1〜α4および感光性樹脂組成物β1,β2を調整した。なお、下記の表1中の数字(配合割合)は不揮発分の重量部数であり、各列の合計は100重量部となる。
【0080】
【表1】

エピコート YL980:三菱化学社製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂
アニロックス M−140:東亜合成社製 2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルアクリレート
【0081】
つぎに、上記のようにして調整した感光性樹脂組成物を用いて、評価用のHDD用回路付きサスペンション基板を作製した。
【0082】
〈評価用回路付きサスペンション基板の作製〉
〔実施例1〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、上記感光性樹脂組成物α1(ポリイミド系)を塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して、感光性樹脂組成物α1の被膜を形成した。ついで、マスクを介して、露光量700mJ/cm2にて紫外線照射し、180℃で3分間加熱した後、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)5%/純水45%/エタノール50%の現像液で30℃×2分間現像して、ポジ型画像を形成し、さらに、0.01torrの真空下、300℃に加熱して、パターン化したポリイミド樹脂からなる下地絶縁層(膜厚10μm)を形成した。
【0083】
上記で得た下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り取った後、塩化第二鉄エッチング液に浸漬し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を得た。このフィルムを用いて、後記した方法で、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定・確認した。
【0084】
つぎに、残ったステンレス箔基材上の下地絶縁層上に、スパッタリング処理によってクロムと銅をそれぞれ30nm(クロム)/70nm(銅)の膜厚で薄膜形成し、この銅薄膜の上に、厚さ10μmの電解銅めっきを行って、導体層を形成した。ついで、ドライフィルムレジストを用いるパターニング技術によって、露光および現像処理を行った後、回路パターン部以外の銅導体層をエッチングにて除去し、ドライフィルムレジスト除去後にクロム薄膜をエッチング除去して、下地絶縁層の上に、L/S=50/50μmの回路パターンの導体層を得た。
【0085】
つぎに、回路パターンの導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、銅導体層の表面を被覆、保護した。この後、再度、感光性樹脂組成物α1を用いて、上記下地絶縁層と同様の方法にて、ポジ型のカバー絶縁層(導体層上の厚さ5μm)を形成した後、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例1:全厚43μm)を得た。
【0086】
〔実施例2〕
感光性樹脂組成物α1に代えて、感光性樹脂組成物α2(ポリイミド系)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例2)を作製した。なお、実施例1と同様、作製途中で、下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り出し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を作製し、このフィルムを用いて、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定した。
【0087】
〔実施例3〕
感光性樹脂組成物α1に代えて、感光性樹脂組成物α3(ポリイミド系)を用い、実施例1とは開口パターンが逆転したマスクを用いて、各絶縁層をネガ型画像として形成したこと以外、実施例1と同様にして、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例3)を作製した。なお、実施例1と同様、作製途中で、下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り出し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を作製し、このフィルムを用いて、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定した。
【0088】
〔実施例4〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、感光性樹脂組成物α4(エポキシ系)を塗布した後、100℃で3分間加熱乾燥して、感光性樹脂組成物α4の被膜を形成した。ついで、マスクを介して、露光量500mJ/cm2にて紫外線照射し、110℃で5分間加熱した後、1%炭酸ナトリウム水溶液(現像液)で30℃×2分間現像して、ネガ型画像を形成し、さらに、150℃に加熱して、パターン化した下地絶縁層(膜厚10μm)を形成した。
【0089】
上記で得た下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り取った後、塩化第二鉄エッチング液に浸漬し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を得た。このフィルムを用いて、後述した方法で、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定・確認した。
【0090】
つぎに、残ったステンレス箔基材上の下地絶縁層上に、スパッタリング処理によってクロムと銅をそれぞれ30nm(クロム)/70nm(銅)の膜厚で薄膜形成し、この銅薄膜の上に、厚さ10μmの電解銅めっきを行って、導体層を形成した。ついで、ドライフィルムレジストを用いるパターニング技術によって、露光および現像処理を行った後、回路パターン部以外の銅導体層をエッチングにて除去し、ドライフィルムレジスト除去後にクロム薄膜をエッチング除去して、下地絶縁層の上に、L/S=50/50μmの回路パターンの導体層を得た。
【0091】
つぎに、回路パターンの導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、銅導体層の表面を被覆、保護した。この後、再度、感光性樹脂組成物α4を用いて、上記下地絶縁層と同様の方法にて、ネガ型のカバー絶縁層(導体層上の厚さ5μm)を形成した後、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例4)を得た。
【0092】
〔比較例1〕
感光性樹脂組成物α1に代えて、比較用の感光性樹脂組成物β1(ポリイミド系)を用い、実施例1とは開口パターンが逆転したマスクを用いて、各絶縁層をネガ型画像として形成したこと以外、実施例1と同様にして、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(比較例1)を作製した。なお、実施例1と同様、作製途中で、下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り出し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を作製し、このフィルムを用いて、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定した。
【0093】
〔比較例2〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、比較用の感光性樹脂組成物β2(ポリイミド系)を塗布した後、400℃に加熱して、ポリイミド樹脂からなる下地絶縁層(膜厚10μm)を形成した。
【0094】
上記で得た下地絶縁層付きステンレス箔基材の一部を切り取った後、塩化第二鉄エッチング液に浸漬し、ステンレス箔を除去して、膜厚10μmの絶縁層(フィルム)を得た。このフィルムを用いて、後記した方法で、絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数を測定・確認した。
【0095】
つぎに、残ったステンレス箔基材上の下地絶縁層上に、スパッタリング処理によってクロムと銅をそれぞれ30nm(クロム)/70nm(銅)の膜厚で薄膜形成し、この銅薄膜の上に、厚さ10μmの電解銅めっきを行って、導体層を形成した。ついで、ドライフィルムレジストを用いるパターニング技術によって、露光および現像処理を行った後、回路パターン部以外の銅導体層をエッチングにて除去し、ドライフィルムレジスト除去後にクロム薄膜をエッチング除去して、下地絶縁層の上に、L/S=50/50μmの回路パターンの導体層を得た。
【0096】
つぎに、回路パターンの導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、銅導体層の表面を被覆、保護した。この後、再度、感光性樹脂組成物β2を用いて、上記下地絶縁層と同様の方法にて、カバー絶縁層(導体層上の厚さ5μm)を硬化形成した後、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、カバー絶縁層上に所要のパターンを形成した後、ポリイミドエッチング液を用いて、不必要なカバー絶縁層を除去した。
【0097】
ついで、ドライフィルムレジストを用いて、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(比較例2)を得た。
【0098】
〔実施例5〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、比較用の感光性樹脂組成物β2(ポリイミド系)を用いて、比較例1と同様にして、ネガ型の下地絶縁層(膜厚10μm)を形成した。なお、この下地絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、比較例1の絶縁層と同等である。
【0099】
つぎに、実施例1と同様にして、残ったステンレス箔基材上の下地絶縁層上に、L/S=50/50μmの回路パターンの導体層を得た。ついで、回路パターンの導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、銅導体層の表面を被覆、保護した後、感光性樹脂組成物α1(ポリイミド系)を用いて、実施例1と同様にして、ポジ型のカバー絶縁層(導体層上の厚さ5μm)を形成した。なお、このカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、実施例1の絶縁層と同等であると考えられる。
【0100】
ついで、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例5)を得た。上記したように、この実施例5の評価用回路付きサスペンション基板は、下地絶縁層が比較例1用の感光性樹脂組成物を用いて形成され、カバー絶縁層が実施例1用の感光性樹脂組成物を用いて形成されている。
【0101】
〔実施例6〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、感光性樹脂組成物α1(ポリイミド系)を用いて、実施例1と同様にして、ポジ型の下地絶縁層(膜厚10μm)を形成した。なお、この下地絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、実施例1の絶縁層と同等である。
【0102】
つぎに、実施例1と同様にして、残ったステンレス箔基材上の下地絶縁層上に、L/S=50/50μmの回路パターンの導体層を得た。ついで、回路パターンの導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、銅導体層の表面を被覆、保護した後、比較用の感光性樹脂組成物β2(ポリイミド系)を用いて、比較例1と同様にして、ネガ型のカバー絶縁層(導体層上の厚さ5μm)を形成した。なお、このカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、比較例1の絶縁層と同等であると考えられる。
【0103】
ついで、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例6)を得た。上記したように、この実施例6の評価用回路付きサスペンション基板は、実施例5とは逆に、下地絶縁層が実施例1用の感光性樹脂組成物を用いて形成され、カバー絶縁層が比較例1用の感光性樹脂組成物を用いて形成されている。
【0104】
〔実施例7〕
厚さ18μmのステンレス(SUS304)箔基材上に、上記感光性樹脂組成物α1(ポリイミド系)を塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して、感光性樹脂組成物α1の被膜を形成した。ついで、マスクを介して、露光量700mJ/cm2にて紫外線照射し、180℃で3分間加熱した後、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)5%/純水45%/エタノール50%の現像液で30℃×2分間現像して、ポジ型画像を形成し、さらに、0.01torrの真空下、300℃に加熱して、パターン化したポリイミド樹脂からなる下地絶縁層(膜厚5μm)を形成した。なお、この下地絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、実施例1の絶縁層と同等である。
【0105】
ついで、下地絶縁層上に、スパッタリング処理によってクロムと銅をそれぞれ30nm(クロム)/70nm(銅)の膜厚で薄膜形成し、この銅薄膜の上に、厚さ5μmの電解銅めっきを行って、第1導体層を形成した。ついで、ドライフィルムレジストを用いるパターニング技術によって、露光および現像処理を行った後、回路パターン部以外の銅導体層をエッチングにて除去し、ドライフィルムレジスト除去後にクロム薄膜をエッチング除去して、下地絶縁層の上に、L/S=50/50μmの回路パターンの第1導体層を得た。その後、第1導体層の表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、第1導体層の表面を被覆、保護した。
【0106】
つぎに、感光性樹脂組成物α1を用いて、上記下地絶縁層と同様の方法で、第1導体層上に、ポジ型の中間絶縁層(第1導体層上の厚さ5μm)を形成した。ついで、上記第1導体層と同様の方法で、上記中間絶縁層上に、厚さ5μmの銅薄膜からなる回路パターンの第2導体層を形成し、その表面に、厚さ0.1μmの無電解ニッケルめっきを行って、第2導体層の表面を被覆、保護した。
【0107】
この後、再度、感光性樹脂組成物α1を用いて、上記下地絶縁層および中間絶縁層と同様の方法で、ポジ型のカバー絶縁層(第2導体層上の厚さ5μm)を形成した後、ドライフィルムレジストを用いて、露光・現像を行って、ステンレス箔基材上に所要のパターンを形成した後、ステンレス箔基材を塩化第二鉄エッチング液に浸漬して、5×30mmサイズの評価用回路付きサスペンション基板(実施例7:全厚43μm)を得た。この実施例7の評価用回路付きサスペンション基板は、下地絶縁層,中間絶縁層,カバー絶縁層の3つの絶縁層を備え、そのいずれもが実施例1用の感光性樹脂組成物を用いて形成されている。なお、上記中間絶縁層およびカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率、熱膨張係数および湿度膨張係数は、いずれも実施例1の絶縁層と同等であると考えられる。
【0108】
〈25℃引張貯蔵弾性率〉
上記したように、実施例1〜4および比較例1,2の各評価用回路付きサスペンション基板の作製途中に、硬化後の下地絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率を測定した。引張貯蔵弾性率は、まず、前記のようにして下地絶縁層からステンレス箔基材を剥離し、フィルム状の絶縁層を作製して、このフィルム状絶縁層を幅5mm×長さ30mmに切断し、測定用試料を作製する。そして、粘弾性測定装置RSAIII(Rheometric Sientific社製)を用いて、上記フィルム状絶縁層を、周波数1Hzの条件で引っ張りながら、0〜50℃の範囲(昇温速度5℃/分)で動的粘弾性(E’)を測定し、25℃における値(単位:Pa)を読み取った。
【0109】
なお、参考として、上記フィルム状絶縁層と同じサンプルを用いて、「湿度膨張係数」と「熱膨張係数」を測定した。これらの結果は、上記「25℃引張貯蔵弾性率」と併せて後記の「表2」に示す。
【0110】
〈湿度膨張係数〉
湿度膨張係数は、湿度制御型熱機械分析装置 HC−TMA4000SA(ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて、25℃において湿度を10%RHから80%RHまで変化させた時の各絶縁層の伸びを測定することにより求めた(単位:ppm/RH%)。
【0111】
〈熱膨張係数〉
熱膨張係数は、熱機械分析装置 TMA8310(リガク社製)を用いて、温度を25℃から60℃まで変化させた時の各絶縁層の伸びを測定することにより求めた(単位:ppm/K)。
【0112】
また、得られた各評価用回路付きサスペンション基板を用いて、25℃50%RHにおける「反り」と、25℃において湿度を10%RHから80%RHまで変化させた時の「PSA(姿勢角)変化」とを測定した。
【0113】
〈反り〉
上記実施例1〜4および比較例1,2の各評価用回路付きサスペンション基板(5×30mm角)を、平坦なガラス板上に載置して、このガラス板の上面から評価用回路付きサスペンション基板の最も高い箇所までの高さ(mm)を測定した。反りの評価は、1mm未満のものを○、1mm以上のものを×とする。
【0114】
〈PSA変化〉
上記各評価用回路付きサスペンション基板1は、先に述べたように、ステンレス箔基材(厚さ18μm)2の上に、下地絶縁層(厚さ10μm)3,銅からなる導体層(厚さ10μm)4,カバー絶縁層(厚さ5μm)5が順次積層されており、幅5mm×長さ30mmの短冊状に切断されている。
【0115】
PSA変化の測定は、まず、図18(a),(b)に示すように、試料(基板1)を、2枚のスライドガラス(厚さ1mm)G1,G2で挟み込んだ状態で、測定装置の所定位置にセットし、この装置ごと恒温恒湿槽に入れて準備した。なお、図において、符号Sはガラス製の測定ステージである。
【0116】
ついで、恒温恒湿槽内を25℃×10%RHに調整し、試料の安定を待った。温湿度の安定後、図18(a)に示すように、上記2枚のスライドガラスG1,G2の端部から4mmの地点で、測定ステージSを通して試料にレーザー光(白抜き矢印)Lを照射し、その反射により、10%RHにおける測定ステージSと基板1の裏面(ステンレス箔基材2)との間の距離H10(μm)を測定した。
【0117】
つぎに、恒温恒湿槽内を25℃×80%RHに調整し、同様に試料の安定を待った。温湿度の安定後、上記と同様にしてレーザー光Lを照射し、その反射により、80%RHにおける測定ステージSと基板1の裏面との間の距離H80(μm)を測定した。
【0118】
そして、25℃×10%RHの時の距離H10と、25℃×80%RHの時の距離H80との差を、ΔH(μm)として求め、以下の式を用いて、PSA変化を算出した。
PSA変化(deg/%RH)=ATAN(ΔH/4000)/π×180/70
(ただし、ΔH=|H80−H10|)
【0119】
PSA変化の評価は、その値が0.002未満のものを◎、0.002以上0.006未満のものを○、0.006以上のものを×として、下記の「表2」に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
上記「表2」中における実施例1〜7の評価用回路付きサスペンション基板の結果から、下地絶縁層3およびカバー絶縁層5の少なくとも一方の25℃における引張貯蔵弾性率が0.1〜1.0GPaの範囲内であるものは、基板形成後の反りの発生が少なく、湿度を変化させた時のPSA(姿勢角)変化が抑えられていることがわかる。
【0122】
これに対して、比較例1,2の評価用回路付きサスペンション基板は、実施例1〜7の評価用回路付きサスペンション基板より湿度膨張係数が低いにも関わらず、これら実施例1〜7のサスペンション基板より、基板形成後の反りと湿度を変化させた時のPSA変化が大きく、湿度に対して敏感であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の回路付きサスペンション基板は、湿度変化による膨張や収縮が少なく、磁気ヘッドを含むスライダを高精度に安定して支持しなければならない、ハードディスクドライブ装置の回路付きサスペンション基板に適する。
【符号の説明】
【0124】
1 ハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板
2 基材
3 下地絶縁層
4 導体層
5 カバー絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる導体層と、上記導体層を被覆した状態で設けられたカバー絶縁層とを備えたハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板であって、上記下地絶縁層およびカバー絶縁層の少なくとも一方の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaであることを特徴とするハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
【請求項2】
上記下地絶縁層およびカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、それぞれ0.1〜1.0GPaである請求項1記載のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
【請求項3】
上記下地絶縁層およびカバー絶縁層が、下記の(A)成分および(B)成分を含有する感光性樹脂組成物からなる請求項1または2記載のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
(A)下記の一般式(1)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体。
【化1】

〔式(1)中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2,R3は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり互いに同じであっても異なっていてもよい。〕
(B)テトラカルボン酸二無水物と、アミン構造を有する末端を二つ有し、ポリエーテル構造を有するジアミン化合物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂。
【請求項4】
金属製の基材と、上記金属製基材の上に設けられた下地絶縁層と、上記下地絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第1導体層と、上記第1導体層上に設けられた中間絶縁層と、上記中間絶縁層の上に設けられた所定の配線回路パターンからなる第2導体層と、上記第2導体層上に設けられたカバー絶縁層とを備えたハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板であって、上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層のうち少なくとも一つの絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、0.1〜1.0GPaであることを特徴とするハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
【請求項5】
上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層の25℃における引張貯蔵弾性率が、全て0.1〜1.0GPaである請求項4記載のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
【請求項6】
上記下地絶縁層,中間絶縁層およびカバー絶縁層が、下記の(A)成分と(B)成分とを含有する感光性樹脂組成物からなる請求項1または2記載のハードディスクドライブ用回路付きサスペンション基板。
(A)下記の一般式(1)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体。
【化2】

〔式(1)中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2,R3は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり互いに同じであっても異なっていてもよい。〕
(B)テトラカルボン酸二無水物と、アミン構造を有する末端を二つ有し、ポリエーテル構造を有するジアミン化合物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂またはその前駆体樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−69195(P2012−69195A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212384(P2010−212384)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】