説明

ハードディスクドライブ装置及びハードディスクドライブの温度制御方法

【課題】小型かつ簡易な構成で騒音及び消費電力の増加を伴うことなく筐体内部の温度上昇を抑制する。
【解決手段】ヘッド11と一体化されたヘッドアーム10を駆動するボイスコイルモータ9と、磁気ディスク13に対してデータの書込み又は読出しを行うヘッド11とが密閉状態で筐体内部に収容されたハードディスクドライブ装置1の発熱を制御する場合、筐体内部の温度を温度センサ12により検出し、検出した温度に基づいてハードディスクコントローラ2によりボイスコイルモータ9への駆動電流を制御し、ヘッドアーム10の駆動速度を可変することにより、筐体内部における温度上昇を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ装置及びハードディスクドライブの温度制御方法に関し、例えばハードディスクドライブ装置における筐体内部の温度上昇を抑制する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般にパーソナルコンピュータやビデオレコーダ等には、その記録装置としてハードディスクドライブ装置が搭載されている。
【0003】
このハードディスクドライブ装置は、スピンドルモータにより回転駆動する磁気ディスク、ヘッドアームを高速駆動するためのボイスコイルモータ、磁気ディスクに対してデータの書込みや読出しを行うヘッドが、筐体内部のクリーン度を保つべく密閉状態で収容された構造を有している。
【0004】
近年、ハードディスクドライブ装置では、ヘッドを磁気ディスクの目的とするトラックへ素早く移動させることにより更なる高速アクセスを実現するため、ヘッドアームの高速駆動化が進んでいる。
【0005】
ヘッドアームの高速駆動化を実現するためには、ハードディスクドライブ装置においてヘッドアームを高速移動させる駆動源であるボイスコイルモータに大電流を流す必要がある。
【0006】
しかし、それはハードディスクドライブ装置の筐体内部に設けられているボイスコイルモータを駆動させるためのモータドライバIC(Integrated Circuit)やボイスコイルモータの発熱量を増加させることにつながる。
【0007】
この場合、ハードディスクドライブ装置では、密閉された筐体内部の温度上昇が装置自体の寿命に深刻な影響を与えることになる。具体的には、長時間連続稼動するような環境下においては、筐体内部の温度上昇によって、ライトヘッド素子部やリードヘッド素子部が熱膨張し、磁気ディスク表面に向かって突き出ていくことになる。
【0008】
このためハードディスクドライブ装置では、ライトヘッド素子部やリードヘッド素子部と磁気ディスク表面との隙間が減少し、ライトヘッド素子部やリードヘッド素子部と磁気ディスク表面とが接触する危険性が増すことになるので、信頼性の低下や故障の原因となる。
【0009】
そのような点を解消すべく従来のハードディスクドライブ装置を搭載する機器では、冷却ファンモータを取り付けて機器内部を排気したり、ハードディスクドライブ装置をヒートシンクで覆って放熱効果を高める等の工夫がなされている。
【0010】
さらに他の方法としては、データの連続書込みによりライトヘッド素子部が発熱するため、連続書込みを行わず、書込みの後には読出しを行うライトアフターリードを行うことにより筐体内部の温度上昇を抑制することも行われている。
【0011】
一方、ハードディスクドライブ装置においては、当該ハードディスクドライブ装置を搭載する機器の内部にファンモータ等を設けるのではなく、磁気ディスクを回転駆動させるためのスピンドルモータの回転速度を制御することにより、スピンドルモータからの発熱量を低減し、筐体内部の温度上昇を抑制するようになされたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−114124公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで上述したかかる構成のハードディスクドライブ装置においては、ファンモータによって排気を行う場合、当該ファンモータを設けた事により騒音が増加したり、消費電力が増加したり、コスト高になる等の問題がある。
【0013】
またハードディスクドライブ装置では、当該ハードディスクドライブ装置をヒートシンクで覆って放熱効果を高めるようにした場合、機器内部にヒートシンクの占有空間を必要とする等のスペース的な制約を受けるという問題もある。
【0014】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、小型かつ簡易な構成で騒音及び消費電力の増加を伴うことなく筐体内部の温度上昇を抑制し得るハードディスクドライブ装置及びハードディスクドライブの温度制御方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため本発明においては、ディスク状記録媒体に対してデータの書込み又は読出しを行うヘッドと一体化されたヘッドアームと、当該ヘッドアームを駆動するボイスコイルモータとが密閉状態で筐体内部に収容されたハードディスクドライブの温度を制御する場合、筐体内部の温度を検出し、当該温度に基づいてボイスコイルモータへの駆動電流を制御し、ヘッドアームの駆動速度を可変することにより筐体内部の温度を制御するようにする。
【0016】
これにより、密閉状態にある筐体内部の温度が上昇したときはヘッドアームの駆動速度を遅くし、筐体内部の温度が下降したときはヘッドアームの駆動速度を元に戻すように、ボイスコイルモータへの駆動電流を制御することにより、筐体内部における温度上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、密閉状態にある筐体内部の温度が上昇したときはヘッドアームの駆動速度を遅くし、筐体内部の温度が下降したときはヘッドアームの駆動速度を元に戻すように、ボイスコイルモータへの駆動電流を制御することにより、筐体内部における温度上昇を抑制することができ、かくして小型かつ簡易な構成で騒音及び消費電力の増加を伴うことなく筐体内部の温度上昇を抑制し得るハードディスクドライブ装置及びハードディスクドライブの温度制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0019】
(1)ハードディスクドライブ装置の構成
図1において、1は全体として本発明におけるハードディスクドライブ装置を示し、 マイクロコンピュータ構成でなるハードディスクコントローラ2がフラッシュROM(Read Only Memory)から読み出したプログラムに従って当該ハードディスクドライブ装置全体を統括制御するようになされている。
【0020】
またハードディスクドライブ装置1のハードディスクコントローラ2は、パーソナルコンピュータやビデオレコーダ等に搭載された状態で用いられ、当該パーソナルコンピュータやビデオレコーダに搭載されている他のデバイスとATA(AT Attachment)インタフェースを介して接続される。
【0021】
ハードディスクドライブ装置1のハードディスクコントローラ2は、サーボ制御回路4を介してヘッドアーム10の先端に設けられたヘッド11を磁気ディスク13のデータ記録面に対するサーボ制御を行う。
【0022】
次にハードディスクコントローラ2は、サーボ制御回路4から現在のヘッド11のヘッド移動速度を計算し、目標トラックまでの距離から目標速度を求め、その目標速度から現在のヘッド移動速度を差し引いてボイスコイルモータ9に流す電流量を決定する。次にハードディスクコントローラ2は、ディジタルアナログコンバータ5を介して、その電流量に相当するディジタル値をアナログ値に変換し、それをパワーアンプ6へ送出する。
【0023】
パワーアンプ6は、電流値に比例した電圧値を所定電圧レベルに増幅し、それをハードディスクドライブ装置1の筐体部分を構成しているディスクエンクロージャ7のモータドライバIC8へ送出する。モータドライバIC8は、パワーアンプ6から供給された電圧値に応じてヘッドアーム10を駆動制御するための駆動電流を生成し、これをボイスコイルモータ9へ供給する。
【0024】
ボイスコイルモータ9は、モータドライバIC8から供給された駆動電流に従ってヘッドアーム10をシークさせ、先端部に設けられたヘッド11を書込み対象の目的トラックへ移動させる。
【0025】
また、ハードディスクコントローラ2は、データ読出時、ヘッド11から読み取った信号をヘッドプリアンプ14及びリードチャンネル(リード復調回路)15を介して受け取り、ATAインタフェースを介して出力する。
【0026】
さらにハードディスクドライブ装置1では、ヘッド11に取り付けられた温度センサ12によって筐体内部の温度を検出し、その検出結果をリードチャンネル15経由でハードディスクコントローラ2へ通知するようになされている。
【0027】
(2)温度制御処理手順
次に、ハードディスクドライブ装置1における筐体内部の温度上昇を抑制するための温度制御処理手順について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0028】
ハードディスクドライブ装置1のハードディスクコントローラ2は、ルーチンRT1の開始ステップから入って次のステップSP1へ移り、ヘッド11に取り付けられている温度センサ12によりディスクエンクロージャ7で示される筐体内部の温度を検出し、次のステップSP2へ移る。
【0029】
ステップSP2においてハードディスクコントローラ2は、筐体内部の温度が70℃以上であるか否かを判定し、否定結果が得られると、次のステップSP3へ移る。
【0030】
ステップSP3においてハードディスクコントローラ2は、筐体内部の温度が70℃以下であり、装置自体の寿命に深刻な影響を与えたり、信頼性の低下や故障を引起す可能性は低いと判断し得るので、モータドライバIC8を介してボイスコイルモータ9へ正規電流値(200mA)の駆動電流を供給し、次のステップSP4へ移る。
【0031】
ステップSP4においてハードディスクコントローラ2は、ステップSP3でボイスコイルモータ9へ正規電流値(200mA)の駆動電流を供給しているので、ヘッドアーム10を正規の駆動速度でシークさせ、次のステップSP5へ移って処理を終了する。
【0032】
これに対してステップSP2で肯定結果が得られると、このことは筐体内部の温度が70℃以上であり、装置自体の寿命に深刻な影響を与えたり、信頼性の低下や故障を引起す可能性が高いことを表しており、このときハードディスクコントローラ2は次のステップSP6へ移る。
【0033】
ステップSP6においてハードディスクコントローラ2は、ボイスコイルモータ9へ供給している正規電流値(200mA)から所定時間間隔で50mA毎に段階的に下げ、次のステップSP7へ移る。
【0034】
ステップSP7においてハードディスクコントローラ2は、ステップSP6でボイスコイルモータ9へ供給している駆動電流を段階的に下げたことにより、ヘッドアーム10の駆動速度を段階的に遅くなるようシークさせ、その結果モータドライバIC8及びボイスコイルモータ9からの発熱量を低下させ、次のステップSP8へ移る。
【0035】
ステップSP8においてハードディスクコントローラ2は、温度センサ12によって検出した筐体内部の温度が未だ65℃以上あるか否かを判定する。ここで肯定結果が得られると、このことは未だ装置自体の寿命に深刻な影響を与えたり、信頼性の低下や故障を引起す可能性が高く残っていることを表しており、このときハードディスクコントローラ2はステップSP6へ戻って上述の処理を繰り返す。
【0036】
これに対してステップSP8で否定結果が得られると、このことは筐体内部の温度が65℃以下になり、装置自体の寿命に深刻な影響を与えたり、信頼性の低下や故障を引起す可能性は低くなったことを表しており、このときハードディスクコントローラ2は次のステップSP9へ移る。
【0037】
ステップSP9においてハードディスクコントローラ2は、モータドライバIC8を介してボイスコイルモータ9へ供給する駆動電流を正規電流値(200mA)まで上昇させ、上述したステップSP3及びステップSP4の処理へ行った後、ステップSP5へ移って処理を終了する。
【0038】
(3)動作及び効果
以上の構成において、ハードディスクドライブ装置1は、図3に示すように、ハードディスクコントローラ2の制御により、ディスクエンクロージャ7で示される筐体内部が規定上限温度の70℃を超えると、ボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を正規電流値(200mA)から段階的に50mAずつ下げる。
【0039】
このときハードディスクドライブ装置1は、ヘッドアーム10に対するシーク速度を下げることになるが、モータドライバIC8及びボイスコイルモータ9からの発熱量を低下させることが出来るので、時間の経過と共に、筐体内部が規定下限温度の65℃以下になる。
【0040】
そうするとハードディスクドライブ装置1は、ボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を正規電流値(200mA)に戻し、ヘッドアーム10を正規の駆動速度でシークさせる。
【0041】
すなわちハードディスクドライブ装置1では、筐体内部の温度変化を規定下限温度の65℃から規定上限温度の70℃までの範囲で抑制するよう制御することが出来るので、装置自体の寿命に深刻な影響を与えたり、信頼性の低下や故障を引起すリスクを回避することができる。
【0042】
ところでハードディスクドライブ装置1は、ボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を正規電流値(200mA)から段階的に50mAずつ下げることにより、ヘッドアーム10のシーク速度が下がって書込速度が僅かに低下することになる。
【0043】
しかしながらハードディスクドライブ装置1では、磁気ディスク13に書込む前に、書込むべきデータをバッファメモリに蓄えておくことが出来るので、直ちにアンダーフローが生じることはない。
【0044】
またハードディスクドライブ装置1は、筐体内部が規定下限温度の65℃以下になると、直ちにボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を正規電流値(200mA)に戻し、ヘッドアーム10を正規の駆動速度でシークさせるようにするので、書込速度が一時的に低下するだけで済む。
【0045】
以上の構成によれば、ハードディスクドライブ装置1は、ハードディスクコントローラ2の制御により、筐体内部が規定上限温度の70℃を超えたとき、ボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を正規電流値(200mA)から段階的に50mAずつ下げるだけで、筐体内部の温度上昇を抑制することができる。
【0046】
またハードディスクドライブ装置1は、ボイスコイルモータ9へ供給すべき駆動電流を制御するだけの処理としたことにより、小型かつ簡易な構成で騒音及び消費電力の増加を伴うことなく筐体内部の温度上昇を抑制することができる。
【0047】
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、規定上限温度を70℃、規定下限温度を65℃とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、安全を見越して規定上限温度を65℃、規定下限温度を60℃とする等、その他種々の規定上限温度及び規定下限温度を設定するようにしても良い。
【0048】
また上述の実施の形態においては、温度センサ12をヘッド11の近傍に設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、筐体内部の温度を検出できる場所であれば、ヘッド11の近傍だけではなく、ヘッドアーム上の所定位置に設ける等、その他種々の場所に設けるようにしても良い。
【0049】
さらに上述の実施の形態においては、温度検出手段としての温度センサ12、温度制御手段としてのハードディスクコントローラ2によって本発明としてのハードディスクドライブ装置1を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる温度検出手段及び温度制御手段により本発明としてのハードディスクドライブ装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のハードディスクドライブ装置及びハードディスクドライブの温度制御方法は、例えばパーソナルコンピュータやビデオレコーダ等の記録装置として搭載されるタイプのハードディスクドライブ装置に限らず、着脱自在のハードディスクドライブ装置に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ハードディスクドライブ装置の構成を示す略線的ブロック図である。
【図2】温度制御処理手順の説明に供するフローチャートである。
【図3】筐体内部の温度変化を示す実験結果の特性曲線図である。
【符号の説明】
【0052】
1……ハードディスクドライブ装置、2……ハードディスクコントローラ、3……フラッシュROM、4……サーボ制御回路、5……DAコンバータ、6……パワーアンプ、7……ディスクエンクロージャ、8……モータドライバIC、9……ボイスコイルモータ、10……ヘッドアーム、11ヘッド、12……温度センサ、13磁気ディスク、14……ヘッドプリアンプ、15……リードチャンネル回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状記録媒体に対してデータの書込み又は読出しを行うヘッドと一体化されたヘッドアームと、当該ヘッドアームを駆動するボイスコイルモータとが密閉状態で筐体内部に収容されたハードディスクドライブ装置であって、
上記筐体内部の温度を検出する温度検出手段と、
上記温度検出手段により検出された上記温度に基づいて上記ボイスコイルモータへの駆動電流を制御し、上記ヘッドアームの駆動速度を可変することにより上記筐体内部の温度を制御する温度制御手段と
を具えることを特徴とするハードディスクドライブ装置。
【請求項2】
上記温度制御手段は、上記ボイスコイルモータを駆動制御するボイスコイルモータドライバへ上記駆動電流を供給する
ことを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ装置。
【請求項3】
上記温度制御手段は、上記温度が規定上限温度以上になると、上記駆動電流の電流値を段階的に下げる
ことを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ装置。
【請求項4】
上記温度制御手段は、上記温度が規定下限温度以下になると、上記駆動電流の電流値を正規電流値まで上げる
ことを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ装置。
【請求項5】
上記温度検出手段は、上記ヘッド近傍に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ装置。
【請求項6】
ディスク状記録媒体に対してデータの書込み又は読出しを行うヘッドと一体化されたヘッドアームと、当該ヘッドアームを駆動するボイスコイルモータとが密閉状態で筐体内部に収容されたハードディスクドライブの温度制御方法であって、
上記筐体内部の温度を所定の温度検出手段により検出する温度検出ステップと、
上記温度検出ステップにより検出された上記温度に基づいて所定の温度制御手段により上記ボイスコイルモータへの駆動電流を制御し、上記ヘッドアームの駆動速度を可変することにより上記筐体内部の温度を制御する温度制御ステップと
を具えることを特徴とするハードディスクドライブの温度制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−70485(P2009−70485A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238081(P2007−238081)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】