説明

ハードディスク媒体に情報を記録する熱アシスト磁気記録方法

【課題】高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現する。
【解決手段】熱アシスト磁気記録方法は、第1のステップと第2のステップを含んでいる。第1のステップでは、ハードディスク媒体の一部に熱を加え、ハードディスク媒体の磁気記録層104に、移動する高温領域HTを形成する。高温領域HTは、その周囲に比べて温度Tが高く、磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の最大値Tc-max以上の温度となる領域である。高温領域HTの移動方向D1における高温領域HTの後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aは、0以外の値の保磁力Hcを有する。第2のステップでは、高温領域HTの後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるように、ハードディスク媒体に記録磁界を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク媒体に対して記録磁界と熱を加えて情報を記録する熱アシスト磁気記録方法、ならびにこの記録方法が適用されるハードディスクドライブおよびハードディスク媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブでは、高記録密度化に伴い、磁気ヘッドおよびハードディスク媒体の性能向上が要求されている。磁気ヘッドとしては、基板に対して、読み出し用の磁気抵抗効果素子(以下、MR(Magnetoresistive)素子と記す。)を有する再生ヘッドと書き込み用の誘導型電磁変換素子を有する記録ヘッドとを積層した構造の複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられている。ハードディスクドライブにおいて、磁気ヘッドは、ハードディスク媒体の表面からわずかに浮上するスライダに設けられる。
【0003】
ハードディスク媒体は、多数の微小な磁性粒子が集合した磁気記録層を有している。各磁性粒子は単磁区構造となっている。このハードディスク媒体において、1つの記録ビットは、少なくともトラック幅方向に並ぶ複数の磁性粒子によって構成される。記録密度を高めるためには、隣接する記録ビットの境界の凹凸を小さくしなければならない。そのためには、磁性粒子を小さくしなくてはならない。しかし、磁性粒子を小さくすると、磁性粒子の体積の減少に伴って、磁性粒子の磁化の熱安定性が低下するという問題が発生する。この問題を解消するには、磁性粒子の異方性エネルギーを大きくすることが効果的である。しかし、磁性粒子の異方性エネルギーを大きくすると、磁気記録層の保磁力が大きくなって、既存の磁気ヘッドでは情報の記録が困難になるという問題が発生する。
【0004】
上述のような問題を解決する方法として、いわゆる熱アシスト磁気記録という方法が提案されている。この方法では、保磁力の大きな磁気記録層を有するハードディスク媒体を使用し、情報の記録時には、磁気記録層のうち情報が記録される部分に対して磁界と同時に熱も加えて、その部分の温度を上昇させ保磁力を低下させて情報の記録を行う。
【0005】
従来の磁気のみを用いた記録方法では、線記録密度を高めることに寄与する要因は、主に、トラック方向についての記録磁界の変化の勾配が大きいことであった。これに加えて、熱アシスト磁気記録では、ハードディスク媒体に加えられる熱によって磁気記録層においてトラック方向に温度変化が生じることと、この温度変化によってトラック方向に磁気記録層の保磁力の変化が生じることも、線記録密度を高めることに寄与する。そのため、熱アシスト磁気記録によれば、線記録密度を大いに高めることができると考えられている。
【0006】
例えば非特許文献1に記載されているように、熱アシスト磁気記録において、トラック方向についての磁気記録層の保磁力の変化の勾配は、温度の変化に対する保磁力の変化の勾配と、位置の変化に対する温度の変化の勾配との積で表される。そのため、従来は、熱アシスト磁気記録に用いられるハードディスク媒体における磁気記録層の特性としては、温度の変化に対する保磁力の変化の勾配が大きいことが好ましいと考えられていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Robert E. Rottmayer et al; IEEE Transactions on Magnetics, Vol.42, No.10, October, 2006, p.2417-2421”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来、実際に、温度の変化に対する保磁力の変化の勾配が大きい磁気記録層を有するハードディスク媒体を用いて熱アシスト磁気記録を実施しても、高い線記録密度において十分な信号対雑音比が得られないという問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ハードディスク媒体に対して情報を記録する方法であって、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現できるようにした熱アシスト磁気記録方法、ならびにこの記録方法が適用されるハードディスクドライブおよびハードディスク媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1および第2の熱アシスト磁気記録方法は、ハードディスク媒体に対して、記録磁界と熱を加えて情報を記録する方法である。ハードディスク媒体は、磁気記録層を有し、この磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含んでいる。
【0011】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録方法は、以下の第1のステップと第2のステップを含んでいる。第1のステップでは、ハードディスク媒体の一部に熱を加え且つハードディスク媒体において熱が加えられる位置を移動させることによって、磁気記録層に、移動する高温領域を形成する。高温領域は、その周囲に比べて温度が高く、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値以上の温度となる領域である。高温領域の移動方向における高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子は、0以外の値の保磁力を有する。第2のステップでは、高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下(1Oeは79.6A/m)となるように、ハードディスク媒体に記録磁界を印加する。なお、磁性粒子の保磁力消失温度とは、磁性粒子の温度を上昇させる過程で磁性粒子の保磁力が消失するときの温度を言う。
【0012】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録方法は、以下の第1のステップと第2のステップを含んでいる。第1のステップでは、ハードディスク媒体の一部に熱を加えるためにハードディスク媒体に光を照射して、ハードディスク媒体の表面上に、移動する光のスポットを形成する。第2のステップでは、磁気記録層の所定の位置に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、ハードディスク媒体に記録磁界を印加する。ハードディスク媒体における実効トラック幅をMWWとし、トラック方向におけるスポットの径をW1とし、トラック幅方向におけるスポットの径をW2としたときに、前記所定の位置は、磁気記録層において、スポットの中心の直下の位置から、スポットの移動方向とは反対方向に、MWW×(W1/W2)/2で表される距離だけ離れた位置である。なお、スポットの中心の直下の位置とは、スポットの中心を通りハードディスク媒体の表面に垂直な仮想の直線上の位置である。
【0013】
本発明の第1または第2の熱アシスト磁気記録方法において、温度の変化に対する磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/K(Kはケルビン)の範囲内であってもよい。この場合、ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であってもよい。キャップ層は、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有している。なお、キャップ層の保磁力消失温度とは、キャップ層の温度を上昇させる過程でキャップ層の保磁力が消失するときの温度を言う。
【0014】
本発明の第1および第2のハードディスクドライブは、それぞれ、ハードディスク媒体と磁気ヘッドとを備えている。ハードディスク媒体は、磁気記録層を有し、この磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含んでいる。磁気ヘッドは、ハードディスク媒体に対して相対的に移動し、ハードディスク媒体に対して熱アシスト磁気記録によって情報を記録するものである。
【0015】
本発明の第1のハードディスクドライブでは、磁気ヘッドは、ハードディスク媒体に対して記録磁界を加える磁極と、ハードディスク媒体に対して熱を加える加熱素子とを有している。磁気ヘッドは、加熱素子を用いてハードディスク媒体の一部に熱を加え且つハードディスク媒体において熱が加えられる位置が移動することによって、磁気記録層に、移動する高温領域を形成する。高温領域は、その周囲に比べて温度が高く、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値以上の温度となる領域である。高温領域の移動方向における高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子は、0以外の値の保磁力を有する。磁気ヘッドは、高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、磁極を用いてハードディスク媒体に記録磁界を印加する。
【0016】
本発明の第2のハードディスクドライブでは、磁気ヘッドは、ハードディスク媒体に対して記録磁界を加える磁極と、ハードディスク媒体に熱を加えるための光を発生する光発生素子とを有している。磁気ヘッドは、ハードディスク媒体の一部に熱を加えるために、光発生素子を用いてハードディスク媒体に光を照射して、ハードディスク媒体の表面上に、移動する光のスポットを形成する。また、磁気ヘッドは、磁気記録層の所定の位置に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、磁極を用いてハードディスク媒体に記録磁界を印加する。ハードディスク媒体における実効トラック幅をMWWとし、トラック方向におけるスポットの径をW1とし、トラック幅方向におけるスポットの径をW2としたときに、前記所定の位置は、磁気記録層において、スポットの中心の直下の位置から、スポットの移動方向とは反対方向に、MWW×(W1/W2)/2で表される距離だけ離れた位置である。
【0017】
本発明の第1または第2のハードディスクドライブにおいて、温度の変化に対する磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であってもよい。この場合、ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であってもよい。キャップ層は、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有している。
【0018】
また、本発明の第1または第2のハードディスクドライブにおいて、加熱素子または光発生素子は、近接場光を発生する素子であってもよい。本発明の第1のハードディスクドライブにおいて、磁極は、加熱素子に対して、高温領域の移動方向の前方に配置されていてもよい。また、本発明の第2のハードディスクドライブにおいて、磁極は、光発生素子に対して、スポットの移動方向の前方に配置されていてもよい。
【0019】
本発明のハードディスク媒体は、熱アシスト磁気記録によって情報が記録されるものであって、磁気記録層とキャップ層とを備えている。磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含んでいる。温度の変化に対する磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内である。複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下である。キャップ層は、強磁性材料よりなり、複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録方法または第1のハードディスクドライブでは、ハードディスク媒体の磁気記録層に、移動する高温領域が形成され、この高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下となるようにハードディスク媒体に記録磁界が印加される。これにより、磁気記録層において、高温領域の後端に隣接し、保磁力が小さい少なくとも1つの磁性粒子に対して、比較的弱い記録磁界が印加されて、この少なくとも1つの磁性粒子の磁化の方向が制御される。このような動作により情報の記録を行うことにより、本発明によれば、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することが可能になるという効果を奏する。
【0021】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録方法または第2のハードディスクドライブでは、ハードディスク媒体の表面上に、移動する光のスポットが形成され、磁気記録層の所定の位置に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、ハードディスク媒体に記録磁界が印加される。前記所定の位置は、スポットの中心および形状と実効トラック幅とによって決まる位置であり、この所定の位置に存在する少なくとも1つの磁性粒子の保磁力は小さい。本発明では、この保磁力が小さい少なくとも1つの磁性粒子に対して、比較的弱い記録磁界が印加されて、この少なくとも1つの磁性粒子の磁化の方向が制御される。このような動作により情報の記録を行うことにより、本発明によれば、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することが可能になるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明のハードディスク媒体は、本発明の第1または第2の熱アシスト磁気記録方法を用いて情報が記録されることにより、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る熱アシスト磁気記録方法の原理を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における記録動作と磁気記録層の複数の磁性粒子の保磁力変化との関係を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るハードディスクドライブを示す斜視図である。
【図6】図5に示したハードディスクドライブにおけるヘッドジンバルアセンブリを示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における磁気ヘッドを示す斜視図である。
【図8】図7における8−8線断面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るハードディスクドライブの回路構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態におけるハードディスク媒体を示す断面図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態における記録動作における一ステップを示す説明図である。
【図12】図11に示したステップに続くステップを示す説明図である。
【図13】図12に示したステップに続くステップを示す説明図である。
【図14】図13に示したステップに続くステップを示す説明図である。
【図15】比較例の記録方法の原理を示す説明図である。
【図16】比較例の記録方法の問題点を示す説明図である。
【図17】磁気記録層の保磁力を測定する方法を説明するための説明図である。
【図18】磁気記録層の複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅を測定する方法を説明するための説明図である。
【図19】本発明の第1の実施の形態において3kOe以下の大きさの記録磁界が印加される磁気記録層における位置を特定する方法を説明するための説明図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。
【図21】本発明の第2の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。
【図22】本発明の第2の実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。
【図23】本発明の第3の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。
【図24】本発明の第3の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。
【図25】本発明の第3の実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。
【図26】本発明の第4の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。
【図27】本発明の第4の実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。
【図28】本発明の第4の実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るハードディスクドライブについて説明する。図5に示したように、ハードディスクドライブは、複数のハードディスク媒体100と、この複数のハードディスク媒体100を回転させるスピンドルモータ202とを備えている。ハードディスクドライブは、更に、複数の駆動アーム211を有するアセンブリキャリッジ装置210と、複数の駆動アーム211の先端部に取り付けられた複数のヘッドジンバルアセンブリ212とを備えている。ヘッドジンバルアセンブリ212は、磁気ヘッド1と、この磁気ヘッド1を支持するサスペンション220とを備えている。
【0025】
アセンブリキャリッジ装置210は、磁気ヘッド1をハードディスク媒体100のトラック上に位置決めするための装置である。アセンブリキャリッジ装置210は、更に、ピボットベアリング軸213と、ボイスコイルモータ214とを有している。複数の駆動アーム211は、ピボットベアリング軸213に沿った方向にスタックされ、ボイスコイルモータ214によって駆動されて、軸213を中心として揺動可能になっている。なお、本発明のハードディスクドライブは、以上説明した構成のものに限定されるものではない。例えば、本発明のハードディスクドライブは、それぞれ1つのハードディスク媒体100、駆動アーム211、ヘッドジンバルアセンブリ212および磁気ヘッド1を備えたものであってもよい。
【0026】
ハードディスクドライブは、更に、磁気ヘッド1の記録動作および再生動作を制御すると共に、後述する熱アシスト磁気記録用のレーザ光を発生させる光源であるレーザダイオードの発光動作を制御する制御回路230を備えている。
【0027】
図6は、図5におけるヘッドジンバルアセンブリ212を示す斜視図である。前述のように、ヘッドジンバルアセンブリ212は、磁気ヘッド1とサスペンション220とを備えている。サスペンション220は、ロードビーム221と、このロードビーム221に固着され、弾性を有するフレクシャ222と、ロードビーム221の基部に設けられたベースプレート223と、ロードビーム221およびフレクシャ222の上に設けられた配線部材224とを有している。配線部材224は、複数のリードを含んでいる。磁気ヘッド1は、ハードディスク媒体100の表面に対して所定の間隔(浮上量)をもって対向するように、サスペンション220の先端部においてフレクシャ222に固着されている。配線部材224の一端部は、磁気ヘッド1の複数の端子に電気的に接続されている。配線部材224の他端部には、ロードビーム221の基部に配置された複数のパッド状端子が設けられている。
【0028】
なお、ヘッドジンバルアセンブリは、図6に示した構成のものに限定されるものではない。例えば、ヘッドジンバルアセンブリは、サスペンション220の途中にヘッド駆動用ICチップが装着されたものであってもよい。
【0029】
次に、図7および図8を参照して、磁気ヘッド1の構成について説明する。図7は、磁気ヘッド1を示す斜視図である。図8は、図7における8−8線断面図である。磁気ヘッド1は、スライダ10と光源ユニット150とを備えている。図8は、スライダ10と光源ユニット150を分離した状態を表している。
【0030】
スライダ10は、アルミニウムオキサイド・チタニウムカーバイド(Al23・TiC)等のセラミック材料よりなる直方体形状のスライダ基板11と、ヘッド部12とを備えている。スライダ基板11は、ハードディスク媒体100に対向する媒体対向面11aと、この媒体対向面11aとは反対側の背面11bと、媒体対向面11aと背面11bとを連結する4つの面とを有している。媒体対向面11aと背面11bとを連結する4つの面のうちの1つは素子形成面11cである。素子形成面11cは、媒体対向面11aに垂直である。ヘッド部12は、素子形成面11cの上に配置されている。媒体対向面11aは、ハードディスク媒体100に対するスライダ10の適切な浮上量が得られるように加工されている。ヘッド部12は、ハードディスク媒体100に対向する媒体対向面12aと、この媒体対向面12aとは反対側の背面12bとを有している。媒体対向面12aは、スライダ基板11の媒体対向面11aと平行である。
【0031】
ここで、ヘッド部12の構成要素に関して、基準の位置に対して、素子形成面11cに垂直で、且つ素子形成面11cから遠ざかる方向にある位置を「上方」と定義し、その反対方向にある位置を「下方」と定義する。また、ヘッド部12に含まれる任意の層に関して、素子形成面11cにより近い面を「下面」と定義し、素子形成面11cからより遠い面を「上面」と定義する。
【0032】
また、X方向、Y方向、Z方向、−X方向、−Y方向、−Z方向を以下のように定義する。X方向は、媒体対向面11aに垂直で、且つ媒体対向面11aから背面11bに向かう方向である。Y方向は、媒体対向面11aおよび素子形成面11cに平行な方向であって、図8における奥から手前に向かう方向である。Z方向は、素子形成面11cに垂直な方向であって、素子形成面11cから離れる方向である。−X方向、−Y方向、−Z方向は、それぞれ、X方向、Y方向、Z方向とは反対方向である。スライダ10から見たハードディスク媒体100の進行方向はZ方向である。スライダ10における空気流入端(リーディング端)は、媒体対向面11aの−Z方向における端部である。スライダ10における空気流出端(トレーリング端)は、媒体対向面12aのZ方向における端部である。また、トラック幅方向TWは、Y方向に平行な方向である。
【0033】
光源ユニット150は、レーザ光を出射する光源としてのレーザダイオード160と、このレーザダイオード160を支持する直方体形状の支持部材151とを備えている。支持部材151は、接着面151aと、この接着面151aとは反対側の背面151bと、接着面151aと背面151bとを連結する4つの面とを有している。接着面151aと背面151bとを連結する4つの面のうちの1つは光源設置面151cである。接着面151aは、スライダ基板11の背面11bに接着される面である。光源設置面151cは、接着面151aに垂直であり、素子形成面11cに平行である。レーザダイオード160は、光源設置面151cに搭載されている。
【0034】
図8に示したように、ヘッド部12は、素子形成面11cの上に配置された絶縁層13と、この絶縁層13の上に順に積層された再生ヘッド14、記録ヘッド16および保護層17を備えている。保護層17は、絶縁材料によって形成されている。
【0035】
再生ヘッド14は、絶縁層13の上に配置された下部シールド層21と、この下部シールド層21の上に配置されたMR素子22と、このMR素子22の上に配置された上部シールド層23と、MR素子22の周囲において下部シールド層21と上部シールド層23の間に配置された絶縁層24とを有している。下部シールド層21と上部シールド層23は、軟磁性材料によって形成されている。
【0036】
MR素子22の一端部は、媒体対向面12aに配置されている。MR素子としては、例えば、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子またはTMR(トンネル磁気抵抗効果)素子を用いることができる。GMR素子としては、磁気的信号検出用のセンス電流を、GMR素子を構成する各層の面に対してほぼ平行な方向に流すCIP(Current In Plane)タイプでもよいし、センス電流を、GMR素子を構成する各層の面に対してほぼ垂直な方向に流すCPP(Current Perpendicular to Plane)タイプでもよい。MR素子22がTMR素子またはCPPタイプのGMR素子の場合には、下部シールド層21と上部シールド層23は、センス電流をMR素子22に流すための電極を兼ねていてもよい。MR素子22がCIPタイプのGMR素子の場合には、MR素子22と下部シールド層21の間と、MR素子22と上部シールド層23の間に、それぞれ絶縁膜が設けられ、これらの絶縁膜の間に、センス電流をMR素子22に流すための2つのリードが設けられる。
【0037】
ヘッド部12は、更に、上部シールド層23の上に配置された絶縁層25と、この絶縁層25の上に配置された中間シールド層26と、この中間シールド層26の上に配置された絶縁層27とを備えている。中間シールド層26は、記録ヘッド16で発生する磁界からMR素子22をシールドする機能を有している。中間シールド層26は、軟磁性材料によって形成されている。絶縁層25と中間シールド層26は、省略してもよい。
【0038】
記録ヘッド16は、垂直磁気記録用である。記録ヘッド16は、絶縁層27の上に配置されたリターンヨーク層31と、媒体対向面12aから離れた位置においてリターンヨーク層31の上に配置された連結層32と、絶縁層27の上においてリターンヨーク層31の周囲に配置された絶縁層71とを備えている。リターンヨーク層31および連結層32は、軟磁性材料によって形成されている。リターンヨーク層31および絶縁層71の上面は平坦化されている。
【0039】
記録ヘッド16は、更に、リターンヨーク層31および絶縁層71の上に配置された絶縁層72と、この絶縁層72の上に配置されたコイル40とを備えている。コイル40は、連結層32を中心として巻回された平面渦巻き形状を有している。コイル40は、ハードディスク媒体100に記録する情報に応じた磁界を発生する。コイル40は、銅等の導電材料によって形成されている。
【0040】
記録ヘッド16は、更に、コイル40の巻線間および周囲ならびに連結層32の周囲に配置された絶縁層73と、絶縁層72の上において絶縁層73の周囲に配置された絶縁層74と、コイル40および絶縁層73,74の上に配置された絶縁層75とを備えている。連結層32、コイル40および絶縁層73,74の上面は平坦化されている。
【0041】
記録ヘッド16は、更に、連結層32および絶縁層75の上に配置されたヨーク層33と、絶縁層75の上においてヨーク層33の周囲に配置された絶縁層76とを備えている。ヨーク層33は、軟磁性材料によって形成されている。ヨーク層33は、媒体対向面12aに配置された端面を有している。ヨーク層33および絶縁層76の上面は平坦化されている。
【0042】
記録ヘッド16は、更に、ヨーク層33の上に配置された連結層34と、ヨーク層33および絶縁層76の上において連結層34の周囲に配置された絶縁層77とを備えている。連結層34は、軟磁性材料によって形成されている。連結層34は、媒体対向面12aに配置された端面を有している。連結層34および絶縁層77の上面は平坦化されている。
【0043】
記録ヘッド16は、更に、連結層34の上に配置された連結層35と、連結層35の上に配置された磁極36とを備えている。連結層35および磁極36は、軟磁性材料によって形成されている。連結層35は、媒体対向面12aに配置された端面を有している。磁極36は、媒体対向面12aに配置された端面と、その反対側の後端面とを有している。
【0044】
記録ヘッド16において、リターンヨーク層31、連結層32、ヨーク層33、連結層34,35および磁極36は、コイル40によって発生された磁界に対応する磁束を通過させる磁路を構成している。磁極36は、コイル40によって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報をハードディスク媒体100に記録するための記録磁界を発生する。
【0045】
記録ヘッド16は、更に、コア41とクラッドとを含む導波路を備えている。クラッドは、クラッド層78,79,80を有している。クラッド層78は、連結層34および絶縁層77の上において連結層35の周囲に配置されている。連結層35およびクラッド層78の上面は平坦化されている。コア41は、連結層35およびクラッド層78の上に配置されている。クラッド層79は、連結層35およびクラッド層78の上において磁極36およびコア41の周囲に配置されている。磁極36、コア41およびクラッド層79の上面は平坦化されている。クラッド層80は、磁極36、コア41およびクラッド層79の上に配置されている。
【0046】
コア41は、媒体対向面12aに垂直な方向(X方向)に延びている。コア41は、入射端41aを有している。コア41は、レーザダイオード160より出射されて、入射端41aに入射されたレーザ光を伝播させる。コア41は、レーザ光を通過させる誘電体材料によって形成されている。クラッド層78,79,80は、誘電体材料によって形成され、且つコア41の屈折率よりも小さい屈折率を有している。
【0047】
クラッド層80は、上面で開口する溝部を有している。記録ヘッド16は、更に、クラッド層80の溝部内に収容されたプラズモンジェネレータ42を備えている。プラズモンジェネレータ42は、近接場光を発生し、この近接場光によってハードディスク媒体100に対して熱を加える素子である。従って、プラズモンジェネレータ42は、ハードディスク媒体100に対して熱を加える加熱素子であると共に、ハードディスク媒体100に熱を加えるための光を発生する光発生素子である。プラズモンジェネレータ42は、媒体対向面12aの近傍において、磁極36およびコア41の上方に配置されている。プラズモンジェネレータ42は、金属等の導電材料によって形成されている。プラズモンジェネレータ42およびクラッド層80の上面は平坦化されている。なお、コア41、プラズモンジェネレータ42および磁極36の形状および配置については、後で詳しく説明する。
【0048】
記録ヘッド16は、更に、プラズモンジェネレータ42およびクラッド層80の上に配置された絶縁層81と、絶縁層81の上に配置された冷却層43とを備えている。冷却層43は、プラズモンジェネレータ42において発生された熱を吸熱して、プラズモンジェネレータ42を冷却するためのものである。冷却層43の下面の一部は、絶縁層81を介してプラズモンジェネレータ42の上面に対向している。冷却層43は、例えばSiC等の熱伝導率の大きい非磁性材料によって形成されている。
【0049】
図8に示したように、保護層17は、記録ヘッド16を覆うように配置されている。図7に示したように、ヘッド部12は、更に、保護層17の上面に配置され、MR素子22に電気的に接続された一対の端子18と、保護層17の上面に配置され、コイル40に電気的に接続された一対の端子19とを備えている。これらの端子18,19は、図6に示した配線部材224の複数のパッド状端子に電気的に接続されている。
【0050】
図8に示したように、レーザダイオード160は、下部電極161と活性層162と上部電極163とを含む多層構造を有している。この多層構造における2つの劈開面には、光を全反射して発振を励起するための反射層164が設けられている。反射層164には、発光中心162aを含む活性層162の位置において、レーザ光を出射するための開口が設けられている。
【0051】
光源ユニット150は、更に、光源設置面151cに配置され、下部電極161に電気的に接続された端子152と、光源設置面151cに配置され、上部電極163に電気的に接続された端子153とを備えている。これらの端子152,153は、図6に示した配線部材224の複数のパッド状端子に電気的に接続されている。端子152,153を介してレーザダイオード160に所定の電圧を印加すると、レーザダイオード160の発光中心162aからレーザ光が出射される。レーザダイオード160より出射されるレーザ光は、電界の振動方向が活性層162の面に対して垂直なTMモードの偏光であることが好ましい。
【0052】
図8に示したように、光源ユニット150は、支持部材151の接着面151aがスライダ基板11の背面11bに接着されることによって、スライダ10に対して固着される。レーザダイオード160とコア41は、レーザダイオード160から出射されたレーザ光がコア41の入射端41aに入射するように位置決めされている。
【0053】
次に、図3および図4を参照して、コア41、プラズモンジェネレータ42および磁極36の形状および配置について詳しく説明する。図3は、磁気ヘッド1の要部を示す断面図である。図4は、磁気ヘッド1の要部を示す正面図である。図3および図4に示したように、磁極36は、媒体対向面12aに配置された端面36aを有している。端面36aの形状は、例えば矩形である。
【0054】
コア41は、図8に示した入射端41aの他に、図3に示したように、媒体対向面12aにより近い前端面41bと、上面であるエバネッセント光発生面41cと、下面41dと、2つの側面(図示せず)とを有している。エバネッセント光発生面41cは、コア41を伝播する光に基づいてエバネッセント光を発生する。前端面41bは、磁極36の後端面に接している。
【0055】
プラズモンジェネレータ42は、以下で説明する複数の部分を含む外面と、媒体対向面12aに配置された近接場光発生エッジ42gとを有している。図3に示したように、プラズモンジェネレータ42の外面は、エバネッセント光発生面41cに対して所定の間隔をもって対向して媒体対向面12aに垂直な方向に延びる伝播エッジ42aを含んでいる。後で説明するように、伝播エッジ42aはプラズモンを伝播させる。近接場光発生エッジ42gは、伝播エッジ42aの端に位置している。
【0056】
図3に示したように、クラッド層80のうち、エバネッセント光発生面41cと伝播エッジ42aとの間に配置された部分は、コア41の屈折率よりも小さい屈折率を有する緩衝部80Aを構成している。
【0057】
図4に示したように、プラズモンジェネレータ42の外面は、更に、それぞれ伝播エッジ42aに連結され伝播エッジ42aから離れるに従って互いの距離が大きくなる第1の斜面42bおよび第2の斜面42cを含んでいる。
【0058】
図3および図4に示したように、プラズモンジェネレータ42の外面は、更に、上面42dと、媒体対向面12aに配置された前端面42eと、その反対側の後端面42fとを含んでいる。前端面42eは、伝播エッジ42aの端に位置する尖端を有している。この尖端は、近接場光発生エッジ42gを形成する。
【0059】
また、媒体対向面12aにおけるプラズモンジェネレータ42のトラック幅方向TW(Y方向)の寸法と、媒体対向面12aにおけるプラズモンジェネレータ42のZ方向の寸法は、いずれも、コア41を伝播するレーザ光の波長よりも十分に小さい。これらの寸法は、いずれも、例えば10〜100nmの範囲内である。また、プラズモンジェネレータ42のX方向の長さは、例えば0.6〜4.0μmの範囲内である。
【0060】
また、プラズモンジェネレータ42の伝播エッジ42aのうちエバネッセント光発生面41cと対向する部分のX方向の長さと、伝播エッジ42aとエバネッセント光発生面41cとの間隔は、いずれも、表面プラズモンの適切な励起、伝播を実現するための重要なパラメータである。上記のX方向の長さは、0.6〜4.0μmの範囲内であることが好ましく、コア41を伝播するレーザ光の波長よりも大きいことが好ましい。上記の間隔は、10〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
次に、図3および図4を参照して、本実施の形態における近接場光発生の原理と、近接場光を用いた熱アシスト磁気記録の原理について説明する。レーザダイオード160より出射されたレーザ光は、導波路のコア41を伝播して、緩衝部80Aの近傍に達する。ここで、コア41と緩衝部80Aとの界面において、レーザ光が全反射することによって、緩衝部80A内にしみ出すエバネッセント光が発生する。次に、このエバネッセント光と、プラズモンジェネレータ42の外面のうちの少なくとも伝播エッジ42aにおける電荷のゆらぎとが結合する形で表面プラズモンポラリトンモードが誘起される。このようにして、少なくとも伝播エッジ42aにおいて、エバネッセント光発生面41cより発生するエバネッセント光と結合することによって表面プラズモンが励起される。
【0062】
プラズモンジェネレータ42の外面のうちの少なくとも伝播エッジ42aに励起された表面プラズモンは、エッジプラズモンの形態となって、伝播エッジ42aに沿って近接場光発生エッジ42gに伝播される。その結果、近接場光発生エッジ42gにおいてエッジプラズモンが集中し、このエッジプラズモンに基づいて、近接場光発生エッジ42gから近接場光が発生する。この近接場光は、ハードディスク媒体100に向けて照射され、ハードディスク媒体100の表面に達し、ハードディスク媒体100の磁気記録層の一部を加熱する。これにより、その磁気記録層の一部の保磁力が低下する。熱アシスト磁気記録では、このようにして保磁力が低下した磁気記録層の一部に対して、磁極36より発生される記録磁界を印加することによって情報の記録が行われる。
【0063】
次に、図9を参照して、図5における制御回路230の回路構成と、磁気ヘッド1の動作について説明する。制御回路230は、制御LSI(大規模集積回路)110と、制御LSI110に接続されたROM(リード・オンリ・メモリ)111と、制御LSI110に接続されたライトゲート121と、ライトゲート121とコイル40とに接続されたライト回路122とを備えている。
【0064】
制御回路230は、更に、MR素子22と制御LSI110とに接続された定電流回路131と、MR素子22に接続された増幅器132と、この増幅器132の出力端と制御LSI110とに接続された復調回路133とを備えている。制御回路230は、更に、レーザダイオード160と制御LSI110とに接続されたレーザ制御回路141と、制御LSI110に接続された温度検出器142とを備えている。
【0065】
制御LSI110は、ライトゲート121に、記録データを供給すると共に記録制御信号を与える。また、制御LSI110は、定電流回路131と復調回路133に再生制御信号を与えると共に、復調回路133から出力される再生データを受け取る。また、制御LSI110は、レーザ制御回路141に、レーザON/OFF信号と動作電流制御信号とを与える。温度検出器142は、ハードディスク媒体100の磁気記録層の温度を検出し、この温度の情報は制御LSI110に与えられる。ROM111は、レーザダイオード160に供給する動作電流の値を制御するため制御テーブル等を格納している。
【0066】
記録動作時には、制御LSI110は、ライトゲート121に記録データを供給する。ライトゲート121は、記録制御信号が記録動作を指示するときのみ、記録データをライト回路122へ供給する。ライト回路122は、この記録データに従ってコイル40に記録電流を流す。これにより、磁極36より記録磁界が発生され、この記録磁界によって、ハードディスク媒体100の磁気記録層にデータが記録される。
【0067】
再生動作時には、定電流回路131は、再生制御信号が再生動作を指示するときのみ、MR素子22に一定のセンス電流を供給する。MR素子22の出力電圧は、増幅器132によって増幅され、復調回路133に入力される。再生制御信号が再生動作を指示するとき、復調回路133は、増幅器132の出力を復調して再生データを生成し、制御LSI110に与える。
【0068】
レーザ制御回路141は、レーザON/OFF信号に基づいてレーザダイオード160に対する動作電流の供給を制御すると共に、動作電流制御信号に基づいてレーザダイオード160に供給される動作電流の値を制御する。レーザON/OFF信号がオン動作を指示する場合、レーザ制御回路141の制御により、発振しきい値以上の動作電流がレーザダイオード160に供給される。これにより、レーザダイオード160よりレーザ光が出射され、このレーザ光がコア41を伝播する。そして、前述の近接場光発生の原理により、プラズモンジェネレータ42の近接場光発生エッジ42gから近接場光が発生し、この近接場光によって、ハードディスク媒体100の磁気記録層の一部が加熱されて、その一部の保磁力が低下する。記録時には、この保磁力が低下した磁気記録層の一部に対して、磁極36より発生される記録磁界を印加することによってデータの記録が行われる。
【0069】
制御LSI110は、温度検出器142によって測定されたハードディスク媒体100の磁気記録層の温度等に基づいて、ROM111内に格納された制御テーブルを参照して、レーザダイオード160の動作電流の値を決定し、その値の動作電流がレーザダイオード160に供給されるように動作電流制御信号によってレーザ制御回路141を制御する。制御テーブルは、例えば、レーザダイオード160の発振しきい値および光出力−動作電流特性の温度依存性を表すデータを含んでいる。制御テーブルは、更に、動作電流値と、近接場光によって加熱された磁気記録層の温度上昇分との関係を表すデータや、磁気記録層の保磁力の温度依存性を表すデータも含んでいてもよい。なお、制御回路230の回路構成は、図9に示したものに限定されるものではない。
【0070】
次に、図10を参照して、ハードディスク媒体100の構成について説明する。ハードディスク媒体100は、基板101と、この基板101上に順次積層された軟磁性層102、配向層103、磁気記録層104、キャップ層105および保護層106を備えている。
【0071】
基板101は、非磁性材料よりなる。基板101を構成する非磁性材料は、アルミニウム等の金属材料でもよいし、ガラス等の非金属材料であってもよい。軟磁性層102は、軟磁性材料よりなる。軟磁性層102は、磁気ヘッド1からハードディスク媒体100に与えられた記録磁界を通して、磁気ヘッド1へ還流させる機能を有している。配向層103は、その上に形成される磁気記録層104の配向性を良好にするための層である。
【0072】
磁気記録層104は、いわゆるグラニュラ構造を有している。すなわち、磁気記録層104は、それぞれ強磁性材料の結晶粒子よりなる複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含んでいる。磁性粒子の直径は、例えば4〜12nmの範囲内である。また、磁性粒子は、磁気記録層104の厚み方向に向いた磁化容易軸を有している。
【0073】
キャップ層105は、強磁性材料よりなる。また、キャップ層105は、磁気記録層104の複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有している。キャップ層105は、連続膜であることが好ましい。
【0074】
保護層106は、非磁性材料よりなる。保護層106は、キャップ層105および磁気記録層104を保護すると共に、ハードディスク媒体100の表面の損傷を防止する機能を有している。
【0075】
次に、図1を参照して、本実施の形態に係る熱アシスト磁気記録方法(以下、単に記録方法と言う。)、およびこの記録方法を用いた本実施の形態に係るハードディスクドライブの記録動作について説明する。以下の説明では、プラズモンジェネレータ42を加熱素子42と記す。図1において、符号104aは磁気記録層104の磁性粒子を示している。また、符号105aは、キャップ層105のうち、磁性粒子104aに対応する部分(以下、磁性粒子対応部分と言う。)を示している。図1には、トラック方向(図1における左右方向)に一列に並ぶ複数の磁性粒子104aと、この複数の磁性粒子104aの上に位置する複数の磁性粒子対応部分105aを示している。図1において、磁性粒子104aまたは磁性粒子対応部分105a内の白抜きの矢印は、磁性粒子104aまたは磁性粒子対応部分105aの磁化の方向を表している。また、交差した2つの破線の矢印は、磁化が消失していることを表している。
【0076】
図1には、磁気ヘッド1の磁極36と加熱素子42を示している。また、図1に示したグラフは、トラック方向の位置と、磁気記録層104における温度T、記録磁界の大きさHzおよび保磁力Hcとの関係を表している。このグラフにおいて、横軸はトラック方向の位置を示している。また、このグラフにおいて、縦軸は温度T、記録磁界の大きさHzおよび保磁力Hcを示し、上側ほどそれらの値が大きい。本実施の形態では、温度Tは、加熱素子42のリーディング端側(図1における右側)の端部である近接場光発生エッジ42gに対応する位置において最大値をとる。一方、記録磁界の大きさHzは、磁極36のトレーリング端側(図1における左側)の端部に対応する位置において最大値をとる。
【0077】
磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度は分布を有している。以下、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布内の最大値、最小値をそれぞれ記号Tc-max、Tc-minで表す。図1には、Tc-max、Tc-minのレベルを示している。
【0078】
本実施の形態に係る記録方法では、磁気ヘッド1がハードディスク媒体100に対して相対的に移動し、この磁気ヘッド1によって、ハードディスク媒体100に対して、記録磁界と熱を加えて、熱アシスト磁気記録によって情報を記録する。本実施の形態に係る記録方法は、第1のステップと第2のステップを含んでいる。第1のステップでは、加熱素子42を用いて、ハードディスク媒体100の一部に熱を加え且つハードディスク媒体100において熱が加えられる位置が移動することによって、磁気記録層104に、移動する高温領域HTを形成する。図1では、高温領域HTの移動方向を記号D1で示している。方向D1は、ハードディスク媒体100に対する磁気ヘッド1の相対的な移動方向でもある。また、図1において、記号D2は、磁気ヘッド1に対するハードディスク媒体100の相対的な移動方向を示している。方向D2は、方向D1とは反対方向である。本実施の形態では、磁極36は、加熱素子42に対して、高温領域HTの移動方向D1の前方(リーディング端側)に配置されている。
【0079】
高温領域HTは、その周囲に比べて温度が高く、磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の最大値Tc-max以上の温度となる領域である。高温領域HTの移動方向D1における高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aは、0以外の値の保磁力を有する。
【0080】
なお、キャップ層105にも、高温領域HTと同様に、周囲に比べて温度が高い領域が形成される。この領域内における最高温度は、キャップ層105の保磁力消失温度を超えない。
【0081】
ここで、磁気記録層104において、高温領域HTの後端HTEに隣接し、トラック方向における複数の磁性粒子104aの配列の1ピッチの長さを有する領域を、第1隣接領域R1と定義する。また、第1隣接領域R1に対して、高温領域HTの移動方向D1の後方において隣接し、トラック方向における複数の磁性粒子104aの配列の1ピッチの長さを有する領域を、第2隣接領域R2と定義する。高温領域HTは移動するため、あるタイミングにおいて高温領域HT内に位置していた1つの磁性粒子104aは、時間の経過に伴って、高温領域HTから外れ、第1隣接領域R1、第2隣接領域R2を、この順に通過する。
【0082】
図1に示したように、磁気記録層104の温度Tは、高温領域HTの後端HTEから、移動方向D1の後方へ離れるに従って低くなる。それに伴い、磁気記録層104の保磁力Hcは、高温領域HTの後端HTEから、移動方向D1の後方へ離れるに従って大きくなる。前述のように、磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度は分布を有している。これに起因して、ある同じ温度における複数の磁性粒子104aの保磁力も分布を有している。
【0083】
第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界位置における温度Tは、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の最小値Tc-minよりも低い。そのため、第1隣接領域R1内の磁性粒子104aは、0以外の値の保磁力を有する。
【0084】
第2のステップでは、高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104a、すなわち第1隣接領域R1内の少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるように、磁極36を用いてハードディスク媒体100に記録磁界を印加する。第1隣接領域R1の任意の位置における記録磁界の大きさHzはほぼ等しい。本実施の形態では、磁極36は、加熱素子42に対して、高温領域HTの移動方向D1の前方に配置されている。そのため、第1隣接領域R1の任意の位置における記録磁界の大きさHzは、後端HTEにおける記録磁界の大きさHz以下となる。従って、本実施の形態では、後端HTEにおける記録磁界の大きさHzが3kOe以下であれば、後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzは3kOe以下となる。後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzは、0.5kOe以上であることが好ましい。また、本実施の形態では、第2隣接領域R2における記録磁界の大きさHzは、第2隣接領域R2内の磁性粒子104aの保磁力を超えない。
【0085】
第1のステップと第2のステップは、磁気ヘッド1がハードディスク媒体10に対して相対的に移動しながら、同時に実行される。
【0086】
なお、記録磁界の方向は、記録する情報に応じて、図1において上に向いた方向と、図1における下に向いた方向とに切り換えられる。上記の記録磁界の大きさというのは、記録磁界の方向に依存しない記録磁界の絶対値の意味である。
【0087】
また、本出願において、磁気記録層104における記録磁界の大きさHzは、磁気記録層104の厚み方向の中心における記録磁界の大きさで定義し、キャップ層105における記録磁界の大きさは、キャップ層105の厚み方向の中心における記録磁界の大きさで定義する。
【0088】
本実施の形態に係る記録方法では、前述のように、磁気記録層104に、移動する高温領域HTが形成され、この高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるようにハードディスク媒体100に記録磁界が印加される。高温領域HT内における磁性粒子104aの温度は、その磁性粒子104aの保磁力消失温度以上になっている。そのため、高温領域HT内における磁性粒子104aは保磁力を有さない。一方、磁性粒子104aは、第1隣接領域R1を通過する際に、0Oeに近い小さい保磁力を有するようになる。第1隣接領域R1の少なくとも一部において、記録磁界の大きさHzは、第1隣接領域R1を通過する磁性粒子104aの保磁力を超える。そのため、磁性粒子104aが第1隣接領域R1を通過する際に、磁性粒子104aの磁化の方向が記録磁界の方向に向けられる。
【0089】
一方、第2隣接領域R2における記録磁界の大きさHzは、第2隣接領域R2内の磁性粒子104aの保磁力を超えない。そのため、第2隣接領域R2内の磁性粒子104aの磁化の方向は、記録磁界の方向によって変化しない。
【0090】
前述のように、あるタイミングにおいて高温領域HT内に位置していた1つの磁性粒子104aは、時間の経過に伴って、高温領域HTから外れ、第1隣接領域R1、第2隣接領域R2を、この順に通過する。その1つの磁性粒子104aの磁化の方向は、第1隣接領域R1を通過する際に記録磁界の方向に向けられ、第2隣接領域R2に入った時点では固定されている。このようにして、磁気記録層104において、磁化の方向の違いによって情報が記録される。なお、この記録動作は、後で更に詳しく説明する。
【0091】
次に、図2を参照して、本実施の形態における記録動作と磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力変化との関係について説明する。図2には、第1隣接領域R1内の磁性粒子104aと、そのトラック方向の前後に隣接する2つの磁性粒子104aと、それらに対応するキャップ層105の3つの磁性粒子対応部分105aを示している。また、図2に示したグラフは、磁気記録層104におけるトラック方向の位置および温度と、磁性粒子104aの保磁力との関係を示している。このグラフにおいて、横軸はトラック方向の位置および磁気記録層104の温度を示している。横軸において、磁気記録層104の温度は右側ほど高い。また、縦軸は保磁力を示し、上側ほどその値が大きい。また、このグラフには、磁気記録層104における記録磁界の大きさHzのレベルを示している。図2に示した位置の範囲内では、位置によって記録磁界の大きさHzは大きく変化しないため、図2では記録磁界の大きさHzを一定値として表している。
【0092】
ここで、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布内の最大値Tc-maxの保磁力消失温度を有する磁性粒子104aの保磁力を記号Hc-maxで表す。また、上記分布内の最小値Tc-minの保磁力消失温度を有する磁性粒子104aの保磁力を記号Hc-minで表す。また、上記分布内の中央の保磁力消失温度を有する磁性粒子104aの保磁力を記号Hc-aveで表す。図2のグラフには、これらHc-max、Hc-min、Hc-aveを示している。Hc-maxは、複数の磁性粒子104aの保磁力の分布内の最大値でもある。Hc-minは、複数の磁性粒子104aの保磁力の分布内の最小値でもある。
【0093】
高温領域HTの後端HTEの温度は、Tc-max以上である。第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界位置における温度は、Tc-minよりも低い。そのため、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度が分布を有していても、1つの磁性粒子104aは、第1隣接領域R1を通過する間に、0以外の値の保磁力を有するようになる。これにより、磁性粒子104aが第1隣接領域R1を通過する際に、磁性粒子104aの磁化の方向が記録磁界の方向に向けられる。
【0094】
また、第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界位置における記録磁界の大きさHzは、その位置におけるHc-minを超えない。そのため、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度および保磁力が分布を有していても、1つの磁性粒子104aが第2隣接領域R2に入った時点で、その磁性粒子104aの磁化の方向は固定されている。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態に係る記録方法では、第1のステップによって、ハードディスク媒体100の磁気記録層104に、移動する高温領域HTが形成され、第2のステップによって、高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるようにハードディスク媒体100に記録磁界が印加される。これにより、磁気記録層104の第1隣接領域R1において、高温領域HTの後端HTEに隣接し、保磁力が小さい少なくとも1つの磁性粒子104aに対して、比較的弱い記録磁界が印加されて、この少なくとも1つの磁性粒子104aの磁化の方向が制御される。このような動作によって情報の記録を行うことにより、本実施の形態によれば、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することが可能になる。この効果については、後でシミュレーションの結果を参照して、更に説明する。
【0096】
本実施の形態では、特に、加熱素子42は、ハードディスク媒体100に熱を加えるための光を発生する光発生素子である。そして、第1のステップでは、ハードディスク媒体100の一部に熱を加えるために、光発生素子(加熱素子42)を用いてハードディスク媒体100に光を照射して、ハードディスク媒体100の表面上に、移動する光のスポットを形成する。この移動するスポットによって、磁気記録層104に、移動する高温領域HTが形成される。スポットの移動方向は、高温領域HTと同じく方向D1である。
【0097】
第2のステップでは、磁気記録層104の所定の位置に印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるように、ハードディスク媒体100に記録磁界を印加する。前記所定の位置は、高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aの位置である。この所定の位置は、スポットの中心および形状と実効トラック幅とによって決まる。これについては、後で詳しく説明する。この所定の位置に存在する少なくとも1つの磁性粒子104aの保磁力は、前述のように小さい値である。本実施の形態では、この保磁力が小さい少なくとも1つの磁性粒子104aに対して、比較的弱い記録磁界が印加されて、この少なくとも1つの磁性粒子104aの磁化の方向が制御される。
【0098】
次に、図1を参照して、キャップ層105について詳しく説明する。キャップ層105は、Tc-maxよりも高い保磁力消失温度を有している。また、高温領域HT内における最高温度は、キャップ層105の保磁力消失温度を超えない。そのため、キャップ層105は、高温領域HTに対応する領域においても、0以外の値の保磁力を有する。図1において、記号H105で示す破線は、高温領域HTに対応する領域の近傍におけるキャップ層105の保磁力を表している。
【0099】
キャップ層105のうち、高温領域HTの後端HTEに対応する位置から、第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界に対応する位置までの範囲内の少なくとも一部において、キャップ層105の保磁力は、磁気記録層104の保磁力よりも大きい。一方、室温(25℃)におけるキャップ層105の保磁力は、磁気記録層104の保磁力よりも小さい。室温(25℃)におけるキャップ層105の保磁力は、例えば、0.3〜2kOeの範囲内である。
【0100】
また、高温領域HTの後端HTEに対応する位置において、キャップ層105に印加される記録磁界の大きさはキャップ層105の保磁力以上である。そのため、第1隣接領域R1内の磁性粒子104aに対応するキャップ層105の磁性粒子対応部分105aの磁化の方向は、その磁性粒子対応部分105aに印加される記録磁界の方向になっている。
【0101】
このようなキャップ層105を設けることにより、前述の記録動作の安定性を高めて、信号対雑音比をより高くすることが可能になる。その理由は、以下の通りである。前述のように本実施の形態では、第1隣接領域R1内の保磁力が小さい磁性粒子104aに対して比較的弱い記録磁界を印加して、この磁性粒子104aの磁化の方向を制御する。キャップ層105があると、保磁力が小さい磁性粒子104aに対応する位置に、その磁性粒子104aの保磁力よりも大きい保磁力を有するキャップ層105の磁性粒子対応部分105aが存在することになる。この磁性粒子対応部分105aの磁化の方向は、第1隣接領域R1内の磁性粒子104aに対して設定する磁化の方向と同じ方向に向けられ、且つ磁性粒子104aの磁化に比べて安定している。これにより、磁性粒子104aの保磁力が小さい状態においても、磁性粒子104aの磁化の方向を安定して設定することが可能になる。
【0102】
次に、図11ないし図14を参照して、本実施の形態における記録動作について更に詳しく説明する。図11は、記録動作における一ステップを示す説明図である。図11には、あるタイミングにおける磁極36、加熱素子42、磁気記録層104およびキャップ層105を示している。このタイミングにおいて、記録磁界の方向は下向きであるとする。ここで、図11において、高温領域HT内に位置する複数の磁性粒子104aのうち、高温領域HTの後端HTEに最も近い磁性粒子104aに注目する。以下、この磁性粒子を符号104a1で示す。磁性粒子104a1は高温領域HT内に位置しているため、その保磁力は消失している。
【0103】
図12は、図11に示したステップに続くステップを示す説明図である。磁性粒子104a1は、時間の経過に伴って、高温領域HTから外れ、図12に示したように、第1隣接領域R1内に入る。このときの記録磁界の方向も下向きであるとする。磁性粒子104a1は、第1隣接領域R1を通過する間に、0以外の値の保磁力を有し、磁性粒子104a1は、記録磁界の方向すなわち下向きの磁化を有するようになる。
【0104】
図13は、図12に示したステップに続くステップを示す説明図である。磁性粒子104a1は、更に時間の経過に伴って、図13に示したように、第2隣接領域R2内に入る。このときの記録磁界の方向は上向きであるとする。磁性粒子104a1が第2隣接領域R2に入った時点で、磁性粒子104a1の磁化の方向は、下向きに固定されている。一方、磁性粒子104a1に隣接する第1隣接領域R1内の磁性粒子104aは、記録磁界の方向すなわち上向きの磁化を有するようになる。
【0105】
図14は、図13に示したステップに続くステップを示す説明図である。磁性粒子104a1は、更に時間の経過に伴って、図14に示したように、第2隣接領域R2から外れる。このときの記録磁界の方向は下向きであるとする。磁性粒子104a1の磁化の方向は、下向きに固定されたままである。一方、磁性粒子104a1に隣接する磁性粒子104aが第2隣接領域R2内に入った時点で、その磁性粒子104aの磁化の方向は、上向きに固定されている。また、新たに第1隣接領域R1に入った磁性粒子104aは、記録磁界の方向すなわち下向きの磁化を有するようになる。本実施の形態では、以上のような動作が繰り返されて、記録が行われる。
【0106】
以下、本実施の形態に係る記録方法およびハードディスクドライブの効果について説明する。始めに、図15および図16を参照して、比較例の記録方法とその問題点について説明する。図15は、比較例の記録方法の原理を示す説明図である。図16は、比較例の記録方法の問題点を示す説明図である。
【0107】
図15および図16では、磁気記録層の複数の磁性粒子を複数の円で表している。円の中には、その磁性粒子の保磁力を記入している。図15は、同じ温度における複数の磁性粒子の保磁力が一致する理想的な場合を示している。図16は、同じ温度における複数の磁性粒子の保磁力が分布を有する場合を示している。実際の磁気記録層では、同じ温度における複数の磁性粒子の保磁力は分布を有している。同じ温度における複数の磁性粒子の保磁力が分布を有する原因の一つには、複数の磁性粒子の保磁力消失温度が分布を有することが挙げられる。
【0108】
比較例では、磁性粒子の直径を12nmとしている。図15および図16において、点線108は、磁気記録層の温度が磁性粒子の保磁力消失温度と一致する位置を示している。この点線108より右側の領域では、磁気記録層(磁性粒子)の温度が磁性粒子の保磁力消失温度を超え、磁性粒子の保磁力が0kOeとなる。また、点線108と点線109との間の領域では、点線108から離れるに従って、3K/nmの温度勾配で、磁気記録層の温度が降下するものとする。また、この領域において、磁性粒子の保磁力は、温度1Kの降下に対して200Oe増加する。比較例では、点線109の近傍に、18kOeの記録磁界が印加される。これは、従来の記録方法と言える。点線109よりも左側の領域では、磁性粒子の保磁力は、記録磁界の大きさを超えている。点線109は、保磁力が記録磁界の大きさを超える複数の磁性粒子と、保磁力が記録磁界の大きさ以下となる複数の磁性粒子との境界を示している。
【0109】
理想的な場合では、複数の磁性粒子の保磁力は図15に示したようになる。この場合、点線108と点線109との間の領域内の複数の磁性粒子の磁化の方向は記録磁界の方向に応じて変化し、点線109よりも左側の領域内の複数の磁性粒子の磁化の方向は記録磁界の方向に応じて変化しない。そのため、点線109の位置の両側で、磁性粒子の磁化の方向を変えることができる。理想的な場合では、点線109は直線になる。
【0110】
図16には、同じ温度における複数の磁性粒子の保磁力が分布を有する場合における複数の磁性粒子の保磁力の一例を示している。この場合には、保磁力が記録磁界の大きさを超える複数の磁性粒子と、保磁力が記録磁界の大きさ以下となる複数の磁性粒子との境界を示す点線109は、直線ではなく、例えば図16に示したような屈曲した線になる可能性がある。これにより、磁化遷移幅が増加し、高い線記録密度において十分な信号対雑音比が得られなくなる。
【0111】
これに対し、本実施の形態によれば高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することが可能になる。以下、この本実施の形態による効果を示すシミュレーションの結果について説明する。このシミュレーションでは、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を使用するLLGシミュレーションによって、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布と、ハードディスク媒体100の信号対雑音比との関係を調べた。
【0112】
始めに、測定可能な保磁力とシミュレーションで使用した保磁力との関係について説明する。文献“M.P.Sharrock et al; IEEE Transactions on Magnetics, Vol.MAG-17, No.6, November, 1981, p.3020-3022”に記載されているように、磁性粒子の保磁力は、磁性粒子に対する磁界印加時間に依存して変化する。この文献には、保磁力の磁界印加時間に対する依存性を表す式(以下、Sharrockの式と言う。)が記載されている。
【0113】
振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)やカー効果測定装置等を用いて測定可能な静磁気特性としての保磁力は、秒オーダーの磁界印加時間における保磁力である。本出願において、この静磁気特性としての保磁力を静的保磁力と呼ぶ。一方、記録動作時における磁界印加時間は、上記静磁気特性としての保磁力を測定する際の磁界印加時間に比べて非常に短く、例えば10-9秒オーダーである。従って、記録動作時における磁性粒子の保磁力は、静的保磁力と異なる。本出願において、記録動作時における保磁力を動的保磁力と呼ぶ。また、本出願において、特に動的と明記しないときの保磁力とは、静的保磁力を指す。なお、静的保磁力は、ヒステリシス曲線に基づいて測定可能である。ヒステリシス曲線に基づいて測定される静的保磁力は、厳密には、ヒステリシス曲線作成時の磁界変化速度によってわずかながら変化する。本出願における静的保磁力は、磁界変化速度を60Oe/秒としたときの値とする。
【0114】
シミュレーションは、動的保磁力を用いて行った。一方、磁気記録層の特性を表すために使用した保磁力は静的保磁力である。磁気記録層の特性を表すために使用した静的保磁力とシミュレーションで使用した動的保磁力との間の変換は、Sharrockの式を用いて行った。
【0115】
シミュレーションは、以下で説明する第1および第2の比較例と、第1ないし第6の実施例について行った。第1および第2の比較例では、本実施の形態に係る記録方法とは異なる方法で、磁気記録層104に対する信号の記録を行った。第1ないし第6の実施例では、本実施の形態に係る記録方法を用いて磁気記録層104に対する信号の記録を行った。第1および第2の比較例、ならびに第1ないし第3の実施の形態では、キャップ層105を含まないハードディスク媒体を想定した。第4ないし第6の実施例では、キャップ層105を含むハードディスク媒体を想定した。表1に、シミュレーションで想定した磁気記録層104とキャップ層105の特性を示す。なお、表1において、1erg/cc=1×10−1J/mであり、1emu/cc=1×10A/mである。
【0116】
【表1】

【0117】
シミュレーションでは、磁気記録層104に加えられる熱の、トラック方向の位置の変化に対する温度の変化の勾配の大きさを5K/nmとした。また、磁気記録層104に記録される信号の線記録密度を2500kFCI(FCIは、1インチ当たりの磁束反転数)とした。これは、十分に高い線記録密度と言える。また、磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布の幅ΔTcを、10〜80Kの範囲内で変化させた。
【0118】
また、シミュレーションを含めて本実施の形態では、磁気記録層104の特性を示す1つのパラメータとして、以下のように定義されたdHc/dTを用いる。dHc/dTは、温度の変化に対する磁気記録層104の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値、より詳しくは、Tc-maxから室温(25℃)の範囲内における温度の変化に対する磁気記録層104の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値である。
【0119】
上記のように定義されたdHc/dTを用いる理由は、以下の通りである。実際のハードディスク媒体100の磁気記録層104では、上記のように定義されたdHc/dTを容易に測定することが可能になる。具体的には、dHc/dTは、磁気記録層104の保磁力の温度依存性を示す曲線における微分値の絶対値の最大値として求めることができる。また、記録動作に影響を与える第1隣接領域R1内における温度の変化に対する磁気記録層104の保磁力の変化の勾配は、上記のように定義されたdHc/dTと十分に大きな相関を有すると考えられる。
【0120】
第1の比較例ではdHc/dTを250Oe/Kとした。また、第2の比較例と第1ないし第6の実施例では、dHc/dTを60〜250Oe/Kの範囲内で変化させた。
【0121】
第1の比較例では、磁性粒子104aの保磁力が15kOeとなったタイミングで、その磁性粒子104aに対して15kOeの大きさの記録磁界を印加して、信号の記録を行った。このように、第1の比較例では、本実施の形態に比べて大きな保磁力を有する磁性粒子104aに対して、本実施の形態に比べて大きな記録磁界を印加して信号の記録を行った。これは、従来の記録方法と言える。表2に、第1の比較例の信号対雑音比(以下、SNRとも記す。)を示す。SNRの単位はdBである。なお、理論的に、理想状態の記録再生が行われた場合のSNRは7dBである。
【0122】
【表2】

【0123】
第2の比較例と第1ないし第6の実施例では、磁気記録層104の第1隣接領域R1に対して、所定の大きさの記録磁界を印加して、信号の記録を行った。第1の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを1kOeとした。表3に、第1の実施例のSNRを示す。
【0124】
【表3】

【0125】
第2の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを2kOeとした。表4に、第2の実施例のSNRを示す。
【0126】
【表4】

【0127】
第3の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを3kOeとした。表5に、第3の実施例のSNRを示す。
【0128】
【表5】

【0129】
第2の比較例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを4kOeとした。表6に、第2の比較例のSNRを示す。
【0130】
【表6】

【0131】
第4の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを1kOeとした。表7に、第4の実施例のSNRを示す。
【0132】
【表7】

【0133】
第5の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを2kOeとした。表8に、第5の実施例のSNRを示す。
【0134】
【表8】

【0135】
第6の実施例では、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを3kOeとした。表9に、第6の実施例のSNRを示す。
【0136】
【表9】

【0137】
比較例1(表2)では、ΔTcが小さくなるほどSNRが大きくなっており、ΔTcが10Kのときの3.1dBがSNRの最大値である。実際の磁気記録層104では、ΔTcが10Kというのは、非常に小さい値である。そのため、3.1dBを超えるSNRは、従来の記録方法では実現し難い。そこで、SNRが3.1dB以上であれば、SNRが十分に高いと考えられる。
【0138】
第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさが3kOe以下である第1ないし第3の実施例(表3〜5)では、少なくともΔTcが10Kの場合には、dHc/dTが60〜250Oe/Kの広い範囲において、3.1dBを超えるSNRが得られている。第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさが4kOeである第2の比較例(表6)では、第1の比較例よりも小さなSNRしか得られていない。この結果から、本実施の形態のように第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさを3kOe以下にすることにより、十分に高いSNRを得ることができることが分かる。
【0139】
本実施の形態では、第1隣接領域R1内において磁性粒子104aの保磁力が発生し、第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界においては磁性粒子104aの保磁力は記録磁界の大きさ以上になっている。そのため、第1隣接領域R1内の複数の磁性粒子104aの保磁力がいずれも小さく、それらの分布も小さい段階で、この複数の磁性粒子104aに対して比較的弱い記録磁界が印加されて、複数の磁性粒子104aの磁化の方向が制御される。そのため、本実施の形態によれば、高いSNRが得られると考えられる。
【0140】
また、第1ないし第3の実施例(表3〜5)において、dHc/dTが70〜220Oe/Kの範囲内では、ΔTcが10Kの場合のみならず、ΔTcが20Kの場合においても3.1dB以上のSNRが得られている。そのため、dHc/dTは、70〜220Oe/Kの範囲内であることが好ましい。
【0141】
また、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさが2kOe以下である第1および第2の実施例(表3,4)において、dHc/dTが165〜220Oe/Kの範囲内の場合には、ΔTcが40K以下の範囲内において3.1dB以上のSNRが得られている。そのため、第1隣接領域R1に印加される記録磁界の大きさが2kOe以下で、且つdHc/dTが165〜220Oe/Kの範囲内であることは、より好ましい。
【0142】
また、キャップ層105がある第4ないし第6の実施例(表7〜9)では、キャップ層105がない第1ないし第3の実施例(表3〜5)に対して、全体的に1.0〜1.5dBだけSNRが向上している。特に、キャップ層105がないとSNRが小さくなる、ΔTcが60〜80Kのように大きい場合において、キャップ層105によるSNR向上の効果が大きい。これらのことから、ハードディスク媒体100は、キャップ層105を含むことが好ましい。
【0143】
また、第4ないし第6の実施例(表7〜9)では、dHc/dTが70〜220Oe/Kの範囲内で、且つΔTcが60K以下の範囲内の場合において、3.1dBを超えるSNRが得られている。このことから、ハードディスク媒体100は、キャップ層105を含み、且つdHc/dTが70〜220Oe/Kの範囲内で、ΔTcが60K以下の範囲内であることが好ましい。
【0144】
次に、図17を参照して、磁気記録層104の保磁力Hcを測定する方法について説明する。この方法では、ハードディスク媒体100の製造過程で作製される、キャップ層105を形成する前の積層体、すなわち基板101上に軟磁性層102、配向層103および磁気記録層104が形成された積層体を用いる。この方法では、カー効果測定装置を用いて、上記積層体における磁気記録層104に印加される磁界Hの大きさを変化させて磁気記録層104のカー回転角θを測定して、磁気記録層104のカー回転角θのヒステリシス曲線(以下、θ−Hヒステリシス曲線と言う。)を求める。磁気記録層104のカー回転角θは、磁気記録層104に直線偏光の光を照射して、磁気記録層104での反射光を検出し、入射光の偏光面に対する反射光の偏光面の回転角度を測定することによって得られる。
【0145】
上記θ−Hヒステリシス曲線を求める際の条件は、以下の通りである。磁気記録層104に照射される光によって磁気記録層104上に形成されるスポットの直径は1mmである。なお、スポットの直径は、放射強度がスポット中心における放射強度の1/eとなる環状の放射強度等高線の直径とする。上記光の波長は350nmとする。磁気記録層104に印加される磁界Hの方向は、磁性粒子104aの磁化容易軸方向すなわち磁気記録層104の厚み方向である。磁界Hの変化速度は60Oe/秒である。磁界Hの変化範囲は−20kOe〜20kOeである。
【0146】
図17は、θ−Hヒステリシス曲線の一例を示している。図17において、横軸は磁気記録層104に印加される磁界Hを示し、縦軸は磁気記録層104のカー回転角θを示している。ここで、図17に示したθ−Hヒステリシス曲線について説明する。磁界Hを0から増加させてゆくと、カー回転角θは、増加して、図17中の点Aにおいて最大値θKSに達する。点Aにおける磁界Hの大きさが飽和磁界Hsである。点Aから磁界Hを減少させてゆくと、カー回転角θは、点B,Cを経由して点Dに到達するように減少する。点Bは磁界Hが0となる点である。点Cはカー回転角θが0となる点である。点Cにおける磁界Hの大きさは−Hcである。点Dはカー回転角θが−θKS、磁界Hが−Hsになる点である。
【0147】
点Dから磁界Hを増加させてゆくと、カー回転角θは、点E,F,Gを経由して点Aに到達するように増加する。点Eは磁界Hが0となる点である。点Fはカー回転角θが0となる点である。点Fにおける磁界の大きさが保磁力Hcである。点Gは、カー回転角θの大きさがθKS/2となる点である。以上説明した点A,B,C,D,E,F,G,Aを経由する閉じた曲線は、メジャーループと呼ばれる。図17に示したように、点Cにおけるメジャーループに対する接線と、点Aを通り横軸に平行な直線との交点を点Nとする。点Nにおける磁界Hの大きさが核形成磁界Hnである。
【0148】
以上説明したθ−Hヒステリシス曲線に基づいて、磁気記録層104の保磁力Hcを測定することができる。また、温度毎にθ−Hヒステリシス曲線を求めることにより、磁気記録層104の保磁力Hcの温度依存性を求めることができる。これにより、dHc/dTも求めることができる。
【0149】
次に、図17および図18を参照して、磁気記録層104の複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布の幅ΔTcを測定する方法について説明する。図18は、図2に示したHc-max、Hc-min、Hc-aveと、磁気記録層104の保磁力Hcと、後述するパラメータΔHc/Hcの温度依存性を模式的に表している。図18において、横軸は磁気記録層104の温度を示し、右側ほど温度が高い。図18において、縦軸は保磁力およびΔHc/Hcを示し、上側ほどそれらの値が大きい。
【0150】
図18に示したように、Hcは、室温では、Hc-aveと等しいか、ほぼ等しい。温度の上昇に伴って、磁性粒子104aの保磁力が減少するため、Hcも減少する。その過程で、Hcは、Hc-maxに近付く。これは、複数の磁性粒子104aの保磁力が減少するにつれて、磁気記録層104の保磁力Hcは、複数の磁性粒子104aの保磁力の分布内における相対的に大きな保磁力に大きく依存するようになるためである。そして、Hcは、Hc-maxが実質的に0になることで初めて実質的に0になる。ΔTcの測定方法では、Hcの温度依存性を求め、Hcの絶対値が最小値、すなわち実質的に0になる最低の温度である第1の温度T1を求める。図18から理解されるように、第1の温度T1は、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布内の最大値Tc-maxと等しいか、ほぼ等しい。以上説明した原理により、Hcの温度依存性から、Tc-maxと等しいか、ほぼ等しい第1の温度T1を求めることができる。
【0151】
また、ΔTcの測定方法では、パラメータΔHc/Hcの温度依存性を求める。ΔHc/Hcは、文献“I. TAGAWA and Y. NAKAMURA; IEEE Transactions on Magnetics, Vol.27, No.6, November, 1991, p.4975-4977”(以下、文献“TAGAWA and NAKAMURA”と記す。)に記載されているように、磁気記録層104内の複数の磁性粒子104aの保磁力の分布の標準偏差σを磁気記録層104の保磁力Hcで割った値σ/Hcと関係があるものである。
【0152】
ここで、図17を参照して、ΔHcとΔHc/Hcの求め方について説明する。まず、図17に示したθ−Hヒステリシス曲線における点Cから磁界Hを増加させてゆき、点Lを経由するマイナー曲線を求める。点Lは、マイナー曲線上で、カー回転角θの大きさがθKS/2となる点である。次に、メジャーループ上の点Gにおける磁界Hの大きさと上記点Lにおける磁界Hの大きさとの差を求める。この差がΔHcである。ΔHcは、複数の磁性粒子104aの保磁力の分布の幅に関係する値であり、具体的には、文献“TAGAWA and NAKAMURA”に記載されているように、1.35σと等しい。次に、ΔHc/Hcを求める。ここでのHcは、メジャーループから求められる磁気記録層104の保磁力である。このようにして、ΔHc/Hcは、θ−Hヒステリシス曲線に基づいて求めることができる。
【0153】
ΔTcの測定方法では、温度毎の磁気記録層104のθ−Hヒステリシス曲線を求め、このヒステリシス曲線に基づいて、パラメータΔHc/Hcの温度依存性を求める。そして、ΔHc/Hcが最大値をとるときの磁気記録層104の温度である第2の温度T2を求める。
【0154】
ここで、図18を参照して、第2の温度T2の意味について説明する。磁気記録層104の温度を上げてゆき、Hc-minが0になる温度に近付いてくると、ΔHcがあまり変化しないのに対し、Hcが急激に減少するため、ΔHc/Hcは増加する。一方、磁気記録層104の温度が、Hc-minが0になる温度以上になると、温度の上昇に伴って保磁力が0になる磁性粒子104aの数が増加することにより、ΔHcが急激に減少する。そのため、ΔHc/Hcは、Hc-minが0になる温度で最大値をとる。Hc-minが0になる温度は、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布内の最低の保磁力消失温度Tc-minと等しいか、ほぼ等しい。第2の温度T2は、ΔHc/Hcが最大値をとるときの磁気記録層104の温度、すなわちHc-minが0になる温度である。従って、第2の温度T2は、Tc-minと等しいか、ほぼ等しい。このようにして、Tc-minと等しいか、ほぼ等しい第2の温度T2を求めることができる。
【0155】
以上の説明から理解されるように、T1−T2は、複数の磁性粒子104aの保磁力消失温度の分布の幅ΔTcと等しいか、ほぼ等しい。従って、T1−T2をΔTcとする。
【0156】
前述のように、本実施の形態では、磁気記録層104の所定の位置に印加される記録磁界の大きさHzが3kOe以下となるように、ハードディスク媒体100に記録磁界を印加する。前記所定の位置は、高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aの位置である。ここで、図19を参照して、実際のハードディスク装置において、3kOe以下の大きさの記録磁界が印加される磁気記録層104における前記所定の位置を特定する方法について説明する。この方法では、ハードディスク媒体100に照射される光(近接場光)によってハードディスク媒体100の表面上に形成される光のスポットの径と、実効トラック幅(以下、MWWと記す。)とを用いて、前記所定の位置を特定する。
【0157】
図19は、前記所定の位置を特定する方法を説明するための説明図である。図19において、実線の楕円は、ハードディスク媒体100に照射される光によってハードディスク媒体100の表面上に形成される光のスポットの形状を表している。記号PGCは、このスポットの中心を表している。また、破線の楕円は、磁気記録層104に形成される高温領域HTを表している。高温領域HTの形状は、スポットの形状と相似である。また、高温領域HTの中心は、スポットの中心PGCの直下に位置する。なお、高温領域HTおよびスポットの形状は、楕円に限らず円もしくは矩形であってもよい。
【0158】
ハードディスク媒体100の表面上に形成されるスポットの形状は、例えば、文献“T. Matsumoto et al; OPTICS LETTERS, Vol.31, No.2, January 15, 2006, p.259-261”に記載されている方法によって認識することができる。この文献には、相変化記録媒体に照射される光によって、相変化記録媒体の記録層に形成される記録マークを観察する方法が記載されている。前記所定の位置を特定する方法では、この文献に記載された方法を用いて、スポットの形状を認識する。
【0159】
前記所定の位置を特定する方法では、まず、相変化記録媒体にスライダ10を接触させた状態で、相変化記録媒体に対して、本実施の形態に係る記録方法に用いられる光を照射する。相変化記録媒体の記録層は、例えばアモルファスのGeSbTeによって形成されている。記録層のうち、光が照射された部分は、アモルファスから結晶質に相変化する。次に、相変化記録媒体をアルカリ性のエッチング液に浸して、記録層をエッチングする。これにより、記録層のうち、光が照射された部分は、周囲よりも窪んだ状態になる。この窪みの形状は、ハードディスク媒体100の表面上に形成されるスポットの形状とみなすことができる。従って、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、この窪みを観察することによって、ハードディスク媒体100の表面上に形成されるスポットの形状を認識することができる。
【0160】
PGCの直下の高温領域HTの中心から高温領域HTの後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aまでの距離CEは、トラック方向(図19における左右方向)における高温領域HTの半径(図19では短半径)とほぼ等しい。また、トラック幅方向TW(図19における上下方向)における高温領域HTの径(図19では長径)は、MWWとほぼ等しい。前述のように、高温領域HTの形状は、スポットの形状と相似である。従って、トラック方向におけるスポットの径(短径)を記号W1で表し、トラック幅方向TWにおけるスポットの径(長径)を記号W2で表すと、距離CEは、下記の式(1)で表される。
【0161】
CE=MWW×(W1/W2)/2 …(1)
【0162】
前記所定の位置は、磁気記録層104において、スポットの中心の直下の位置から、スポットの移動方向D1とは反対方向に、MWW×(W1/W2)/2で表される距離CEだけ離れた位置である。スポットの中心PGCは、磁気ヘッド1の位置、具体的にはプラズモンジェネレータ42(光発生素子)の近接場光発生エッジ42gの位置によって特定することができる。従って、前記所定の位置は、磁気ヘッド1の位置と式(1)によって特定することができる。
【0163】
なお、MWWは、トラック幅方向TWにおける再生波形の半値全幅である。トラック幅方向TWにおける再生波形は、トラック幅方向TWに磁気ヘッド1の位置を変えて、位置毎の再生出力を求めることによって作成することができる。
【0164】
次に、本実施の形態に係る記録方法の効果について確認した実験の結果について説明する。実験では、下記の表10に示した構成のハードディスク媒体100を作製し、このハードディスク媒体100に対して線記録密度が2500kFCIの信号を記録し、記録した信号を再生してハードディスク媒体100のSNRを求めた。磁気記録層104に印加される記録磁界の大きさは、1kOeとした。
【0165】
【表10】

【0166】
実験では、磁気記録層104におけるPd層の厚みが異なる2つのハードディスク媒体100を作製した。これら2つのハードディスク媒体100の磁気記録層104のdHc/dTは、それぞれ、70.2Oe/K、219.7Oe/Kであった。また、これら2つのハードディスク媒体100において、ΔTcは59.8Kであった。表11に実験結果を示す。
【0167】
【表11】

【0168】
上記実験結果からも、本実施の形態によれば、高い線記録密度と高い信号対雑音比を実現することが可能であることが分かる。
【0169】
[第2の実施の形態]
次に、図20ないし図22を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図20は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。図21は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。図22は、本実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。
【0170】
本実施の形態における記録ヘッド16は、以下の点で第1の実施の形態における記録ヘッド16と異なっている。本実施の形態における記録ヘッド16は、第1の実施の形態における磁極36、コア41、プラズモンジェネレータ42(加熱素子42)およびクラッド層78,79,80の代りに、磁極37、コア45、プラズモンジェネレータ46およびクラッド層83,84を備えている。また、本実施の形態では、第1の実施の形態における連結層34,35、冷却層43および絶縁層77,81が設けられていない。
【0171】
磁極37は、ヨーク層33の上に配置されている。図20および図21に示したように、磁極37は、媒体対向面12aに配置された端面37aを有している。端面37aの形状は、例えば矩形である。本実施の形態における記録ヘッド16は、更に、ヨーク層33および絶縁層76の上において磁極37の周囲に配置された絶縁層82を備えている。磁極37および絶縁層82の上面は平坦化されている。
【0172】
プラズモンジェネレータ46は、磁極37の上に配置されている。クラッド層83は、磁極37、プラズモンジェネレータ46および絶縁層82を覆うように配置されている。コア45は、クラッド層83の上に配置されている。クラッド層84は、クラッド層83の上においてコア45の周囲に配置されている。コア45およびクラッド層83の上面は平坦化されている。
【0173】
コア45は、媒体対向面12aに垂直な方向(X方向)に延びている。図20ないし図22に示したように、コア45は、入射端45aと、媒体対向面12aに配置された前端面45bと、上面45cと、下面であるエバネッセント光発生面45dと、2つの側面45e,45fとを有している。エバネッセント光発生面45dは、コア45を伝播する光に基づいてエバネッセント光を発生する。コア45は、レーザダイオード160より出射されて、入射端45aに入射されたレーザ光を伝播させる。
【0174】
プラズモンジェネレータ46は、媒体対向面12aの近傍において、コア45の下方に配置されている。プラズモンジェネレータ46は、以下で説明する複数の部分を含む外面と、媒体対向面12aに配置された近接場光発生エッジ46gとを有している。図20に示したように、プラズモンジェネレータ46の外面は、エバネッセント光発生面45dに対して所定の間隔をもって対向して媒体対向面12aに垂直な方向に延びる伝播エッジ46aを含んでいる。伝播エッジ46aはプラズモンを伝播させる。近接場光発生エッジ46gは、伝播エッジ46aの端に位置している。
【0175】
図20に示したように、クラッド層83のうち、エバネッセント光発生面45dと伝播エッジ46aとの間に配置された部分は、コア45の屈折率よりも小さい屈折率を有する緩衝部83Aを構成している。
【0176】
図21に示したように、プラズモンジェネレータ46の外面は、更に、それぞれ伝播エッジ46aに連結され伝播エッジ46aから離れるに従って互いの距離が大きくなる第1の斜面46bおよび第2の斜面46cを含んでいる。
【0177】
図20および図21に示したように、プラズモンジェネレータ46の外面は、更に、第1の斜面46bと第2の斜面46cの下端同士を接続する下面46dと、媒体対向面12aに配置された前端面46eと、その反対側の後端面46fとを含んでいる。前端面46eの形状は、三角形である。下面46dは、磁極37の上面に接している。
【0178】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0179】
[第3の実施の形態]
次に、図25を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図25は、本実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。本実施の形態におけるヘッド部12は、第1の実施の形態における記録ヘッド16の代りに、記録ヘッド28を備えている。
【0180】
記録ヘッド28は、絶縁層27の上に配置されたリターンヨーク層51と、絶縁層27の上においてリターンヨーク層51の周囲に配置された図示しない絶縁層とを備えている。リターンヨーク層51は、軟磁性材料によって形成されている。リターンヨーク層51および図示しない絶縁層の上面は平坦化されている。
【0181】
記録ヘッド28は、更に、コア61とクラッドとを含む導波路を備えている。クラッドは、クラッド層85,86,87を有している。クラッド層85は、リターンヨーク層51および図示しない絶縁層の上に配置されている。コア61は、クラッド層85の上に配置されている。クラッド層86は、クラッド層85の上においてコア61の周囲に配置されている。コア61およびクラッド層86の上面は平坦化されている。クラッド層87は、コア61およびクラッド層86の上に配置されている。
【0182】
コア61は、媒体対向面12aに垂直な方向(X方向)に延びている。コア61は、入射端61aと、その反対側の前端面とを有している。コア61は、レーザダイオード160より出射されて、入射端61aに入射されたレーザ光を伝播させる。
【0183】
記録ヘッド28は、更に、媒体対向面12aの近傍において、コア61の上方に配置されたプラズモンジェネレータ62と、コア61との間にプラズモンジェネレータ62を挟む位置に配置された磁極52とを備えている。なお、コア61、プラズモンジェネレータ62および磁極52の形状および配置については、後で詳しく説明する。
【0184】
記録ヘッド28は、更に、媒体対向面12aから離れた位置において、クラッド層85,86,87に埋め込まれた2つの連結部53A,53Bを備えている。連結部53A,53Bは、軟磁性材料によって形成されている。連結部53A,53Bは、コア61のトラック幅方向TWの両側において、コア61に対して間隔をあけて配置されている。連結部53A,53Bの下面はリターンヨーク層51の上面に接している。
【0185】
記録ヘッド28は、更に、クラッド層87に埋め込まれた連結層54を備えている。連結層54は、軟磁性材料によって形成されている。連結層54は、連結部53A,53Bの上方の位置に配置されている。連結層54の下面は連結部53A,53Bの上面に接している。
【0186】
記録ヘッド28は、更に、磁極52と連結層54の周囲に配置された絶縁層88と、この絶縁層88の上に配置された絶縁層89と、この絶縁層89の上に配置されたコイル60と、コイル60を覆う絶縁層90とを備えている。コイル60は、連結層54を中心として巻回された平面渦巻き形状を有している。コイル60は、ハードディスク媒体100に記録する情報に応じた磁界を発生する。コイル60は、銅等の導電材料によって形成されている。
【0187】
記録ヘッド28は、更に、ヨーク層55を備えている。ヨーク層55は、磁極52、絶縁層90および連結層54の上に配置され、媒体対向面12aの近傍において磁極52の上面に接し、媒体対向面12aから離れた位置で連結層54の上面に接している。ヨーク層55は、軟磁性材料によって形成されている。
【0188】
記録ヘッド28において、リターンヨーク層51、連結部53A,53B、連結層54、ヨーク層55および磁極52は、コイル60によって発生された磁界に対応する磁束を通過させる磁路を構成している。磁極52は、媒体対向面12aに配置された端面を有し、コイル60によって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に記録磁界を発生する。
【0189】
次に、図23および図24を参照して、コア61、プラズモンジェネレータ62および磁極52の形状および配置について詳しく説明する。図23は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。図24は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。
【0190】
コア61は、図25に示した入射端61aの他に、図23および図24に示したように、媒体対向面12aに配置された前端面61bと、上面であるエバネッセント光発生面61cと、下面61dと、2つの側面61e,61fとを有している。エバネッセント光発生面61cは、コア61を伝播する光に基づいてエバネッセント光を発生する。
【0191】
プラズモンジェネレータ62は、以下で説明する複数の部分を含む外面と、媒体対向面12aに配置された近接場光発生エッジ62gとを有している。図23に示したように、プラズモンジェネレータ62の外面は、エバネッセント光発生面61cに対して所定の間隔をもって対向して媒体対向面12aに垂直な方向に延びる伝播エッジ62aを含んでいる。伝播エッジ62aはプラズモンを伝播させる。近接場光発生エッジ62gは、伝播エッジ62aの端に位置している。
【0192】
図23に示したように、クラッド層87のうち、エバネッセント光発生面61cと伝播エッジ62aとの間に配置された部分は、コア61の屈折率よりも小さい屈折率を有する緩衝部87Aを構成している。
【0193】
図24に示したように、プラズモンジェネレータ62の外面は、更に、それぞれ伝播エッジ62aに連結され伝播エッジ62aから離れるに従って互いの距離が大きくなる第1の側面62bおよび第2の側面62cを含んでいる。
【0194】
図23および図24に示したように、プラズモンジェネレータ62の外面は、更に、媒体対向面12aに配置された前端面62eを含んでいる。前端面62eの下端は、伝播エッジ62aの端に位置する。この下端は、近接場光発生エッジ62gを形成する。
【0195】
プラズモンジェネレータ62は、V字形状部分を含む第1の部分621を有している。V字形状部分は、媒体対向面12aに垂直な方向(X方向)に延びている。V字形状部分の媒体対向面12aに平行な断面の形状はV字形状である。V字形状部分の下端部は、伝播エッジ62aを構成する。プラズモンジェネレータ62は、更に、媒体対向面12aから離れた位置においてV字形状部分に収容された第2の部分622を有している。
【0196】
磁極52の一部は、プラズモンジェネレータ62の第1の部分621のV字形状部分によって形成された空間内に収容されている。磁極52は、媒体対向面12aに配置された端面52aを有している。
【0197】
本実施の形態では、第1の実施の形態と異なり、磁極52は、加熱素子および光発生素子であるプラズモンジェネレータ62に対して、高温領域HTの移動方向D1の後方(トレーリング端側)に配置されている。そのため、本実施の形態では、第1隣接領域R1の任意の位置における記録磁界の大きさHzは、第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界位置における記録磁界の大きさHz以下となる。従って、本実施の形態では、第1隣接領域R1と第2隣接領域R2の境界位置における記録磁界の大きさHzが3kOe以下であれば、後端HTEに隣接する少なくとも1つの磁性粒子104aに印加される記録磁界の大きさHzは3kOe以下となる。
【0198】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0199】
[第4の実施の形態]
次に、図26ないし図28を参照して、本発明の第4の実施の形態について説明する。図26は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す断面図である。図27は、本実施の形態における磁気ヘッドの要部を示す正面図である。図28は、本実施の形態における磁気ヘッドを示す断面図である。
【0200】
本実施の形態における記録ヘッド28は、以下の点で第3の実施の形態における記録ヘッド28と異なっている。本実施の形態における記録ヘッド28は、第3の実施の形態における磁極52、コア61、プラズモンジェネレータ62、クラッド層85,86,87および絶縁層88の代りに、磁極56、コア65、プラズモンジェネレータ66、クラッド層91,92,93および絶縁層94を備えている。
【0201】
プラズモンジェネレータ66は、リターンヨーク層51の上に配置されている。クラッド層91は、リターンヨーク層51、プラズモンジェネレータ66およびリターンヨーク層51の周囲に配置された図示しない絶縁層を覆うように配置されている。
【0202】
磁極56とコア65は、いずれもクラッド層91の上に配置されている。クラッド層92は、クラッド層91の上において磁極56およびコア65の周囲に配置されている。磁極56、コア65およびクラッド層92の上面は平坦化されている。図26および図27に示したように、磁極56は、媒体対向面12aに配置された端面56aと、その反対側の後端面とを有している。端面56aの形状は、例えば矩形である。
【0203】
コア65は、媒体対向面12aに垂直な方向(X方向)に延びている。図26ないし図28に示したように、コア65は、入射端65aと、媒体対向面12aにより近い前端面65bと、上面65cと、下面であるエバネッセント光発生面65dと、2つの側面(図示せず)とを有している。エバネッセント光発生面65dは、コア65を伝播する光に基づいてエバネッセント光を発生する。コア65の前端面65bは、磁極56の後端面に接している。コア65は、レーザダイオード160より出射されて、入射端65aに入射されたレーザ光を伝播させる。
【0204】
プラズモンジェネレータ66は、媒体対向面12aの近傍において、磁極56およびコア65の下方に配置されている。プラズモンジェネレータ66は、以下で説明する複数の部分を含む外面と、媒体対向面12aに配置された近接場光発生エッジ66gとを有している。図26に示したように、プラズモンジェネレータ66の外面は、エバネッセント光発生面65dに対して所定の間隔をもって対向して媒体対向面12aに垂直な方向に延びる伝播エッジ66aを含んでいる。伝播エッジ66aはプラズモンを伝播させる。近接場光発生エッジ66gは、伝播エッジ66aの端に位置している。
【0205】
図26に示したように、クラッド層91のうち、エバネッセント光発生面65dと伝播エッジ66aとの間に配置された部分は、コア65の屈折率よりも小さい屈折率を有する緩衝部91Aを構成している。
【0206】
図27に示したように、プラズモンジェネレータ66の外面は、更に、それぞれ伝播エッジ66aに連結され伝播エッジ66aから離れるに従って互いの距離が大きくなる第1の斜面66bおよび第2の斜面66cを含んでいる。
【0207】
図26および図27に示したように、プラズモンジェネレータ66の外面は、更に、第1の斜面66bと第2の斜面66cの下端同士を接続する下面66dと、媒体対向面12aに配置された前端面66eと、その反対側の後端面66fとを含んでいる。前端面66eの形状は、三角形である。前端面66eの頂点の1つは、伝播エッジ66aの端に位置する。この頂点は、近接場光発生エッジ66gを形成する。下面66dは、リターンヨーク層51の上面に接している。
【0208】
本実施の形態における記録ヘッド28は、更に、磁極56の上に配置された連結層57を備えている。連結層57は、軟磁性材料によって形成されている。連結層57は、媒体対向面12aに配置された端面を有している。クラッド層93は、コア65およびクラッド層92の上において連結層57の周囲に配置されている。連結層57およびクラッド層93の上面は平坦化されている。
【0209】
本実施の形態における記録ヘッド28は、更に、連結層57およびクラッド層93の上に配置された連結層58を備えている。連結層58は、軟磁性材料によって形成されている。連結層58は、媒体対向面12aに配置された端面を有している。絶縁層94は、クラッド層93の上において連結層58の周囲に配置されている。連結層58および絶縁層94の上面は平坦化されている。ヨーク層55は、媒体対向面12aの近傍において連結層58の上面に接している。
【0210】
本実施の形態では、連結部53A,53Bは、クラッド層91,92,93に埋め込まれている。また、連結層54は、絶縁層94に埋め込まれている。
【0211】
本実施の形態における記録ヘッド28において、リターンヨーク層51、連結部53A,53B、連結層54、ヨーク層55、連結層58,57および磁極56は、コイル60によって発生された磁界に対応する磁束を通過させる磁路を構成している。磁極56は、媒体対向面12aに配置された端面を有し、コイル60によって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に記録磁界を発生する。
【0212】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第3の実施の形態と同様である。
【0213】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、磁気ヘッドの構成は、上記各実施の形態に示したものに限定されず、請求の範囲で規定された要件を満たすものであればよい。
【符号の説明】
【0214】
1…磁気ヘッド、36…磁極、42…プラズモンジェネレータ、100…ハードディスク媒体、104…磁気記録層、104a…磁性粒子、105…キャップ層、HT…高温領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録層を有し、前記磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含むハードディスク媒体に対して、記録磁界と熱を加えて情報を記録する熱アシスト磁気記録方法であって、
前記ハードディスク媒体の一部に前記熱を加え且つ前記ハードディスク媒体において前記熱が加えられる位置を移動させることによって、前記磁気記録層に、移動する高温領域を形成する第1のステップであって、前記高温領域は、その周囲に比べて温度が高く、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値以上の温度となる領域であり、前記高温領域の移動方向における前記高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子は、0以外の値の保磁力を有するものである第1のステップと、
前記高温領域の前記後端に隣接する前記少なくとも1つの磁性粒子に印加される前記記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、前記ハードディスク媒体に前記記録磁界を印加する第2のステップと
を含むことを特徴とする熱アシスト磁気記録方法。
【請求項2】
温度の変化に対する前記磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の熱アシスト磁気記録方法。
【請求項3】
前記ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、前記キャップ層は、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有し、
前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であることを特徴とする請求項2記載の熱アシスト磁気記録方法。
【請求項4】
磁気記録層を有し、前記磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含むハードディスク媒体に対して、記録磁界と熱を加えて情報を記録する熱アシスト磁気記録方法であって、
前記ハードディスク媒体の一部に前記熱を加えるために前記ハードディスク媒体に光を照射して、前記ハードディスク媒体の表面上に、移動する光のスポットを形成する第1のステップと、
前記磁気記録層の所定の位置に印加される前記記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、前記ハードディスク媒体に前記記録磁界を印加する第2のステップとを含み、
前記ハードディスク媒体における実効トラック幅をMWWとし、トラック方向における前記スポットの径をW1とし、トラック幅方向における前記スポットの径をW2としたときに、前記所定の位置は、前記磁気記録層において、前記スポットの中心の直下の位置から、前記スポットの移動方向とは反対方向に、MWW×(W1/W2)/2で表される距離だけ離れた位置であることを特徴とする熱アシスト磁気記録方法。
【請求項5】
温度の変化に対する前記磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であることを特徴とする請求項4記載の熱アシスト磁気記録方法。
【請求項6】
前記ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、前記キャップ層は、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有し、
前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であることを特徴とする請求項5記載の熱アシスト磁気記録方法。
【請求項7】
磁気記録層を有し、前記磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含むハードディスク媒体と、
前記ハードディスク媒体に対して相対的に移動し、前記ハードディスク媒体に対して熱アシスト磁気記録によって情報を記録する磁気ヘッドとを備えたハードディスクドライブであって、
前記磁気ヘッドは、前記ハードディスク媒体に対して記録磁界を加える磁極と、前記ハードディスク媒体に対して熱を加える加熱素子とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記加熱素子を用いて前記ハードディスク媒体の一部に熱を加え且つ前記ハードディスク媒体において前記熱が加えられる位置が移動することによって、前記磁気記録層に、移動する高温領域を形成し、
前記高温領域は、その周囲に比べて温度が高く、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値以上の温度となる領域であり、前記高温領域の移動方向における前記高温領域の後端に隣接する少なくとも1つの磁性粒子は、0以外の値の保磁力を有するものであり、
前記磁気ヘッドは、前記高温領域の前記後端に隣接する前記少なくとも1つの磁性粒子に印加される前記記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、前記磁極を用いて前記ハードディスク媒体に前記記録磁界を印加することを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項8】
温度の変化に対する前記磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であることを特徴とする請求項7記載のハードディスクドライブ。
【請求項9】
前記ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、前記キャップ層は、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有し、
前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であることを特徴とする請求項8記載のハードディスクドライブ。
【請求項10】
前記加熱素子は、近接場光を発生する素子であることを特徴とする請求項7記載のハードディスクドライブ。
【請求項11】
前記磁極は、前記加熱素子に対して、前記高温領域の前記移動方向の前方に配置されていることを特徴とする請求項7記載のハードディスクドライブ。
【請求項12】
磁気記録層を有し、前記磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含むハードディスク媒体と、
前記ハードディスク媒体に対して相対的に移動し、前記ハードディスク媒体に対して熱アシスト磁気記録によって情報を記録する磁気ヘッドとを備えたハードディスクドライブであって、
前記磁気ヘッドは、前記ハードディスク媒体に対して記録磁界を加える磁極と、前記ハードディスク媒体に熱を加えるための光を発生する光発生素子とを有し、
前記磁気ヘッドは、前記ハードディスク媒体の一部に熱を加えるために、前記光発生素子を用いて前記ハードディスク媒体に前記光を照射して、前記ハードディスク媒体の表面上に、移動する光のスポットを形成し、
前記磁気ヘッドは、前記磁気記録層の所定の位置に印加される前記記録磁界の大きさが3kOe以下となるように、前記磁極を用いて前記ハードディスク媒体に前記記録磁界を印加し、
前記ハードディスク媒体における実効トラック幅をMWWとし、トラック方向における前記スポットの径をW1とし、トラック幅方向における前記スポットの径をW2としたときに、前記所定の位置は、前記磁気記録層において、前記スポットの中心の直下の位置から、前記スポットの移動方向とは反対方向に、MWW×(W1/W2)/2で表される距離だけ離れた位置であることを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項13】
温度の変化に対する前記磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であることを特徴とする請求項12記載のハードディスクドライブ。
【請求項14】
前記ハードディスク媒体は、更に、強磁性材料よりなるキャップ層を含み、前記キャップ層は、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有し、
前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であることを特徴とする請求項13記載のハードディスクドライブ。
【請求項15】
前記光発生素子は、近接場光を発生する素子であることを特徴とする請求項12記載のハードディスクドライブ。
【請求項16】
前記磁極は、前記光発生素子に対して、前記スポットの移動方向の前方に配置されていることを特徴とする請求項12記載のハードディスクドライブ。
【請求項17】
熱アシスト磁気記録によって情報が記録されるハードディスク媒体であって、
磁気記録層とキャップ層とを備え、
前記磁気記録層は、複数の磁性粒子と、非磁性材料よりなり複数の磁性粒子を隔てる粒界部とを含み、
温度の変化に対する前記磁気記録層の保磁力の変化の勾配の絶対値の最大値は、70〜220Oe/Kの範囲内であり、
前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の分布の幅は、60K以下であり、
前記キャップ層は、強磁性材料よりなり、前記複数の磁性粒子の保磁力消失温度の最大値よりも高い保磁力消失温度を有することを特徴とするハードディスク媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−190528(P2012−190528A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258459(P2011−258459)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】