説明

ハープ

【課題】小型軽量であるが、音量音質とも豊かなハープを得る。
【解決手段】ハープの共鳴胴がヘッドの複数のチューニングペグが取り付けられ面と同じ面内にある側面部を有し、その側面部に複数の弦を繋着する複数の弦穴が設けられた細長形状のブリッジを固着し、チューニングペグと弦穴との間に弦を張る。共鳴胴の側面部の内側に前記複数の弦の方向と平行な方向に力木が取り付ける。また、ブリッジを高音弦用と低音弦用に分割し、共鳴孔高音側と低音側に設ける。

【発明の詳細な説明】
【利用分野】
【0001】
本出願に係る発明は、ハープのように多くの弦を有する撥弦楽器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
余暇の充実、拡大により従来は聞くだけであった音楽を、自ら楽器を演奏することにより楽しむ愛好者が増加している。このような愛好者にとっては、演奏する楽器は持ち運びなどの利便性を考えると、極力小さく、かつ、軽量であることが望ましい。しかし、大きな音で演奏できることは、さらに重要である。
【0003】
弦の振動を共鳴胴に響かせて音を発する弦楽器において、楽器の発する音量は共鳴胴の大きさに依存する。すなわち、同じ音高の楽器では、共鳴胴が大きい弦楽器の方が、小さい楽器よりも豊かな音が得られる。
【0004】
弦楽器で演奏される音の高さ(音の振動数)は、弦の長さや弦の単位長当りの質量及びその弦に印加する張力によって決まる。すなわち、振動数の低い音を発音させるには、単位長当りの質量の大きな太い弦を長く張った構造が採られる。一方、振動数の高い音を発音させるには、単位長当りの質量が小さい細い弦を短く張った構造が採られる。
【0005】
共鳴胴を有し、複数の弦の振動を共鳴胴に響かせる弦楽器においては、弦楽器全体の大きさは、最低音を発する弦の長さと、その弦の振動を響かせる共鳴胴の大きさに依存する。
【0006】
低音を発音できるように、単位長当りの質量が大きい太い弦を長く張った場合、共鳴胴が小さい場合には、弦から発音される音の振動数は所定の低い音であっても、共鳴胴が小さいため、楽器全体から豊かな音を得ることはできない。
【0007】
一般的な弦楽器の例で言えば、低音を発するチェロは、高音を発するバイオリンより遥かに大きな共鳴胴を有している。すなわち、チェロのような低音まで十分な音量を発するためには、バイオリンのような小さな共鳴胴では十分な音量が得られない。
【0008】
複数の弦を音階的に配列し、その弦を弾いて演奏する、ハープなどの撥弦楽器でも同様である。
【0009】
従来のハープの構造を図1に示した一部破断側面図及び図2に示した斜視図により説明する。
ここに示したハープは、ペダルを有する大型のグランドハープではなく、アイリッシュハープあるいはインディアンハープと呼ばれるペダルを有しない比較的小型のハープである。
【0010】
このハープは、共鳴胴2,ピラー5aを有するネック5,ネック5と共鳴胴2との間に張られた複数の弦1とから構成されている。
共鳴胴2は1対の側板7,7’,表板3,裏板3’,上板8,底板9から構成された略菱餅型形状の箱である。なお、表板3は響板として機能する。
【0011】
裏板3’には、通常1個又は複数個の共鳴穴が開けられている。
ネック5の高音弦側の一方の端は上板8に、低音弦側のもう一方の端は底板9に載った状態で固定されている。
【0012】
複数の弦1の一端はネック5に所定の間隔で開けられた穴に摩擦係合して埋め込まれたチューニングペグ6に巻着され、他端は表板3に所定の間隔で開けられた弦穴4を貫通して表板3の裏側で繋着されている。
最低音弦1-Lと最高音弦1-Hの間には、複数の弦が音階的に配列されており、チューニングペグ6を回して、弦1に所定の張力を印加することによってチューニングが行われる。
【0013】
前述のように弦1の一端は共鳴胴2を構成している表板3に繋着されているので、弦1が振動した時に表板3も振動し、その振動によって共鳴胴全体が振動して豊かな音が発音される。
【0014】
ネック5と表板3の間に、22本の弦を張った小型ハープの場合には、弦の張力の合計値は約170Kgとなる。それらの張力は表板3の中央部を上向きに引張る力として作用している。したがって、表板3には大きな強度が必要となる。
【0015】
図3は、図1に示したハープの一本の弦の断面を表板3の中央線上で示したものである。弦1の張力は表板3の中央部を上向きに引張る力として作用しているので、表板3の面積を大きく確保しようとして表板3の幅を大きくすると、表板3には大きな曲げモーメントが作用する。表板3をその曲げモーメントに耐える構造にするには板厚を厚くする必要があり、その結果表板3が振動し難くなってしまい、豊かな音は期待できない。したがって、表板3の大きさには、材料強度との関係で限界があり、共鳴胴2の大きさ全体が制約される。
【0016】
図4は表板3に作用する曲げモーメントMの状態を模式的に表したものである。表板3の平均的な幅をlとして、複数の弦の張力の総和をWとした場合、表板3に作用する曲げモーメントの大きさMは、M=(Wl)/8と近似できる。表板3の幅が大きい場合は、それにしたがって曲げモーメントが大きくなり、例示するように表板3が大きく曲がってしまうことがある。
【0017】
そのため、最低音弦1-Lに対して必要な表板3の面積や共鳴胴2の容積を確保できなくなり、豊かな音量が得られなくなる。また、表板3の強度を確保するために厚い部材で表板3を構成して大きな共鳴胴を構成した場合は、豊かな音量をえることはできても、楽器が大型になり、重量も大きくなってしまうために、持ち運びが困難になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本出願では、従来構造の撥弦楽器では得ることができない、小型軽量化したにもかかわらず豊かな音を発する撥弦楽器を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この課題を解決するために本出願では、
ヘッドとピラーと共鳴胴とからなり、ヘッドと共鳴胴との間に複数の弦が張られ、ヘッドに複数の弦を巻着するための複数のチューニングペグが取り付けられ、共鳴胴がヘッドのチューニングペグが取り付けられる面と同じ面内にある側面部を有し、その側面部に複数の弦を繋着する弦穴が設けられた細長形状のブリッジが固着されたハープ、及び共鳴胴の側面部の内側に複数の弦の方向と平行な方向に力木が取り付けられたハープ、及びブリッジが高音弦用のブリッジと、低音弦用のブリッジとに分割されて設けられているハープ、及び側面部に高音側共鳴孔及び低音側共鳴孔が設けられているハープの構造を提供する。
【発明の効果】
【0020】
共鳴胴を構成する部材のうち最も発音のための振動に寄与する表板の面積を大きく確保しても表板に掛かる曲げモーメントを小さく出来るので、厚い部材の表板を用いる必要が無く楽器自身を軽く構成出来るので、持ち運びの利便性を大きく向上した撥弦楽器を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図5に示した側面図及び図6に示した斜視図により、本出願に係る発明の実施例であるハープを説明する。
【0022】
このハープは、共鳴胴12,ピラー15aを有するネック15,ネック15と共鳴胴12との間に張られた複数の弦11とから構成されている。
共鳴胴12は5角形形状の1対の側板17,17’,表板13,裏板13’,上板18,底板19,前板19’から構成された略5角柱形状の箱である。
側板17又は側板17’には1個又は複数個の共鳴穴が開けられている。
【0023】
ネック15の高音弦側の一方の端は上板18に、低音弦側のもう一方の端は側板17の上板18から遠い位置に載った状態で固定されている。側板17にはブリッジ10が固着されている。
【0024】
複数の弦11の一端はネック15に所定の間隔で開けられた穴に摩擦係合して埋め込まれたチューニングペグ16に巻着され、他端はブリッジ10に所定の間隔で開けられた弦穴14を貫通してブリッジ10に繋着されている。
最低音弦11-Lと最高音弦11-Hの間には、複数の弦が音階的に配列されており、チューニングペグ16を回して、弦11に所定の張力を印加することによってチューニングが行われる。
【0025】
ネック15のチューニングペグ16が埋め込まれている面と側板17は同一面上にある。
【0026】
表板13は弦11の中央部に近い位置にあるが、ハープなどの撥弦楽器で弦を發く位置は、ほぼ弦の中央部であるので、演奏の妨げになることはない。
【0027】
図7に、図5に示したハープの一本の弦11の取り付け構造を示す。
弦11はチューニングペグ16とブリッジ10の弦穴14との間に張られているため、側板17に固着されているブリッジ10にはチューニングペグ16の方向に弦の張力が作用している。側板17の表面から弦穴14までの寸法hが大きい場合は、複数の弦の張力の総和をWとして、ブリッジ10が固着された側板17にはM=Whの曲げモーメントが作用する。
【0028】
図4に示した従来構造のハープの表板3の平均的な幅lと、本発明実施例のハープの側板17の表面から弦穴14までの寸法hとを比較した場合、本発明の一実施例の側板17の表面から弦穴14までの寸法hは図1に示した従来のハープの表板3の平均的な幅lより遥かに小さいので、側板17に作用する曲げモーメントMは非常に小さな値となる。
【0029】
ネック15とブリッジ10との間に、22本の弦を張った小型ハープの場合、弦の張力の合計値は図1に示した従来例のハープの場合と同様に約170Kgである。しかしながら、それらの張力は図4に示した従来例のように面に垂直に作用するのではなく、面の中央部で面に平行に横向きの力として作用する。そのため、側板17には横方向の引張りの力が作用するが、大きな曲げモーメントにはならない。
【0030】
したがって、側板17を薄い材料により大きな面積にすることができるので、響きの良い豊かな音で演奏可能なハープを得ることができる。
さらに、側板17の幅を大きくすることも可能であるため、重量を殆ど増加させることなく、大きな共鳴胴12を構成し、より豊かな音量を得ることが可能となる。
【0031】
なお、側板17に作用する曲げモーメントが小さくても長時間経過した場合に側板17が僅かに変形する可能性を否定することはできない。そのようなことを防ぐには、側板17の裏側に幅が狭く長手方向に長い力木24を弦の引っ張り方向や斜め方向に何本か貼り付け、側板17の曲げ剛性を大きくしておくことが望ましい。
【0032】
図8に、他の実施例を示す。
この実施例では、17本の弦を張ったハープの例を示す。
弦楽器で演奏される音の高さは、弦の長さや弦の単位長当りの質量及びその弦に印加する張力によって決まるが、本実施例の場合は、低音弦21-L1,21-L2,21-L3,21-L4の4本には、金属巻線やナイロンなどの樹脂巻線を施し単位長当りの質量を増加した弦を用いている。このような弦を使用することによって、短い弦長で低い音を得ることができるので、楽器全体を小型に構成することができる。
【0033】
図1に示した従来構造のハープの場合には、全ての弦の長さはネックに摩擦係合して埋め込まれたチューニングペグ6から斜めに一平面に構成されている表板3の弦穴4までの寸法によって段階的に一義的に決まる。
【0034】
このような場合特に低音弦のみ短く構成して楽器全体の寸法を小型に構成することは出来ない。表板は一平面に構成されているので、仮に低音弦を短くして楽器全体を小型に構成しようとした場合には、同時に高音弦も比例的に短くなってしまい所定の音の高さ(音の振動数)を得ようとした場合弦の張力を下げる必要が生じ、結果として発音される音の音量が減ってしまうばかりでなく、音色も損なわれる。
【0035】
図8に示す実施例の場合には、弦の一方の端を構成しているブリッジを高音側ブリッジ10-1と低音側ブリッジ10-2に分割し、低音弦21-L1,21-L2,21-L3,21-L4の4本に金属巻線やナイロンなどの樹脂巻線を施し単位長当りの質量を増加した弦を用いることによって、低音弦の長さを短く構成することが可能となり、楽器全体を小型に構成出来る。
【0036】
共鳴胴22は側板27,27’,湾曲した表板23,彎曲した裏板23’及び、上板28によって形成されている。また、側板27には、高音側共鳴孔30-1及び低音側共鳴孔30-2が開けられている。ネック25の一方の端は上板28に、もう一方の端は底板に固定されている。ネック25のチューニングペグ26が埋め込まれている面と側板27の面は同一面に構成されている。
【0037】
高音側ブリッジ10-1と低音ブリッジ10-2は側板27の所定の位置に固着されている。高音側ブリッジ10-1に係止されている弦の長さは従来構造のハープの場合と同等の長さに設定されているので高音弦の張力を低下させる必要は全く無く発音される音の音量低下を招くことは無い。弦の張力により表板3に作用する曲げモーメントによって側板27の変形を防ぐために、側板27の裏側に幅が狭く長手方向に長い力木31を弦の引っ張り方向に4本貼り付け、側板27の曲げ剛性を大きくしている。
【0038】
実施例に示したハープにおいて、複数の弦はブリッジの弦穴に繋着している。この構造に代えて、バイオリン属の楽器で行われているように裏板あるいは裏板に取り付けられた部材に繋着する構造とすることも可能である。
【0039】
一部の弦の弦長を短くして楽器全体を小型に構成しているにも拘わらず、表板27の位置は弦の中央部に近い位置まで大きくできるので、側板27の表面積は従来構造のハープの場合より1.5倍近くまで大きく確保できる。
【0040】
従来構造のハープは高さ:765mm、正面巾:230mm、奥行:500mm、重量:3.2Kgであったものが、同等の能力を有する本発明実施例のハープは、高さ:600mm、正面巾:110mm、奥行:400mm、重量:2.4Kgで済む。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るハープは、従来構造のハープの場合より共鳴胴の厚さを小さくしても従来構造のハープと同等体積の共鳴胴を構成でき、響きの良い豊かな音で演奏可能な楽器を構成出来る。
また、共鳴胴の厚さを従来構造のハープと同等程度まで厚くすれば共鳴胴の体積は従来構造のハープの1.5倍程度まで大きく構成でき、更に響きの良い大きな音量の音で演奏可能な楽器を構成出来る。
【0042】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るハープは小型軽量化することが可能となり楽器の持ち運びなどの利便性は大きく向上したと共に発音される音の音量音質とも、損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のハープの側面図。
【図2】図1のハープの斜視図。
【図3】図1のハープの内部構造の説明図。
【図4】図1のハープに作用する力の説明図。
【図5】本発明実施例のハープの側面図。
【図6】図5のハープの斜視図。
【図7】図5のハープに作用する力の説明図。
【図8】本発明のさらに他の実施例のハープ斜視図。
【符号の説明】
【0044】
1,11,21 弦
11-L 最低音弦
11-H 最高音弦
2,12,22 共鳴胴
3,13,23 表板
3’,13’,23’裏板
4,14 弦穴
5,15,25 ネック
5a,15a ピラー
6,16,26 チューニングペグ
7,7’,17,17’,27,27’ 側板
8,18,28 上板
9,19,29 底板
10 ブリッジ
10-1 高音側ブリッジ
10-2 低音側ブリッジ
24,31 力木
30-1 高音側共鳴孔
30-2 低音側共鳴孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドとピラーと共鳴胴とからなり、前記ヘッドと前記共鳴胴との間に複数の弦が張られるハープであって、
前記ヘッドには前記複数の弦を巻着するための複数のチューニングペグが取り付けられ、
前記共鳴胴が前記ヘッドのチューニングペグが取り付けられる面と同じ面内にある側面部を有し、
前記側面部に前記複数の弦を繋着する弦穴が設けられた細長形状のブリッジが固着された、ハープ。
【請求項2】
前記共鳴胴の前記側面部の内側に前記複数の弦の方向と平行な方向に力木が取り付けられている、請求項1のハープ。
【請求項3】
前記ブリッジが高音弦用のブリッジと、低音弦用のブリッジとに分割されて設けられている、請求項1のハープ。
【請求項4】
さらに、前記側面部に高音側共鳴孔及び低音側共鳴孔が設けられている、請求項3のハープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−171682(P2007−171682A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370708(P2005−370708)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(500565722)
【出願人】(500588673)有限会社細川 (1)
【Fターム(参考)】