説明

ハーモニックリジェクションミキサ及び位相調整方法

【課題】製造ばらつき等により発生するローカル信号の位相誤差を補正し、高精度なハーモニックリジェクション抑圧特性を得ることができるハーモニックリジェクションミキサ及び位相調整方法を提供すること
【解決手段】本発明にかかるハーモニックリジェクションミキサは、位相が異なる第1〜第3のローカル信号(LO)を用いて無線周波数信号の周波数を変換するハーモニックリジェクションミキサであって、第1のLOと第2のLOの位相差を検出する位相差検出回路21と、第1のLOと第3のLOの位相差を検出する位相差検出回路22と、位相差検出回路21において検出された位相差が第1の位相差となるように、第2のLOの位相を調整する位相調整回路11と、位相差検出回路22において検出された位相差が第2の位相差となるように、第3のLOの位相を調整する位相調整回路12と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハーモニックリジェクションミキサ及び位相調整方法に関し、特にフィードバック制御を用いたハーモニックリジェクションミキサ及びそのハーモニックリジェクションミキサにおいて用いられる位相調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のゲートの微細加工技術により、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)トランジスタがギガヘルツのRF(Radio Frequency)帯へ適用されている。これにより、CMOSプロセスを使用した無線システムLSIが一般的に作られるようになっている。トランジスタの微細加工技術により高い動作周波数が得られる一方で微細化によるプロセスばらつきが大きくなっている。このようにして発生したプロセスばらつきによる特性劣化をどういう形で補償していくかが、アナログ高周波回路集積化の課題となってきている。
【0003】
ここで、特に広い信号帯域を有する放送、通信システムにおける受信器の構成について説明する。図8における受信器は、アンテナ200と、LNA(Low Noise Amplifier)201と、ミキサ202と、信号源203と、フィルタ204と、VGA(Variable Gain Amplifier)205と、ADC(Analog to Digital Converter)206とを備えている。図7に示されるように、アンテナ200から所望信号fRF(Hz)を受信した際に、帯域内妨害波信号としてfRF×3倍、fRF×5倍等の高調波が妨害波信号として入ってくる場合がある。このような場合、信号源203から出力されるLO(ローカル)信号の高調波成分(3×fLO、5×fLO)と妨害波信号とがミキシングして所望の受信信号帯域に落ち込んでしまう。これにより受信特性が劣化するという課題がある。
【0004】
この課題の解決方法の一つとして、非特許文献1には、F×n倍(n=3、5)を抑圧することができるハーモニックリジェクションミキサ回路の構成が開示されている。図9を用いて非特許文献1に開示されているハーモニックリジェクションミキサ回路の構成を説明する。本図におけるハーモニックリジェクションミキサ回路は、LO(ローカル)信号源301と、4分周器型移相器302と、リミッタアンプ303乃至305と、ミキサ回路306乃至308と、利得加算器309乃至311とを備えている。また、図10及び図11を用いて一般的なハーモニックリジェクションミキサ回路の動作について説明する。
【0005】
LO信号源301から出力されるLO信号を理想的な矩形波信号とすると、矩形波信号は次の式を用いて表わされる。
【0006】
【数1】

【0007】
また、LO信号波形とフーリエ変換との関係は、次の式を用いて表わされる。
【0008】
【数2】

【0009】
このLO信号とRF信号との両者をミキサ回路306〜308に入力すると、図10に示されるように、奇数倍のミキシングされた信号成分が出力される。一般的な受信器の場合、3倍(3次)、5倍(5次)の高調波の信号成分が、受信特性を劣化させる成分となる。そのため、三角関数の性質を利用し図11及び図12のように45度、90度位相差を持つLO信号をLO1+√(2)×LO2+LO3として信号をかけ合わせることにより3次、5次の信号成分がキャンセルされる。LO1は基準となるLO信号であり、LO2は、LO1と45度の位相差を持つLO信号であり、LO3は、LO1と90度の位相差を持つLO信号である。
【0010】
具体的には、LO信号として0度位相差信号をVLO_0とし、45度位相差信号をVLO_45とし、90度位相差信号をVLO_90として、各LO信号の周波数成分を計算すると、次の式を用いて表わされる。
【0011】
【数3】

【0012】
【数4】

【0013】
【数5】

【0014】
これらのLO信号をLO1+√(2)×LO2+LO3の式に代入すると、
【0015】
【数6】

【0016】
となり、3次及び5次の成分がキャンセルされ、発生しない。
【0017】
また、特許文献1においても、上述した方法と同様の方法により高調波を除去する装置の構成が開示されている。また、特許文献2には、多段のフィルタを用いて、素因数2及び3の少なくとも一方を約数に含む整数(2,3,4,6,8,9,・・・)倍付近の周波数を有する妨害波を抑圧することができる受信器の構成について開示されている。
【0018】
また、特許文献3には、複数のミキシング信号に、キャリアにより変調されている情報信号を乗算し、乗算された信号に加重係数をそれぞれ加えることにより、高調波成分を抑圧する乗算器デバイスの構成について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特表2008−523734号公報
【特許文献2】特開2010−109918号公報
【特許文献3】特表2007−535830号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jeffrey A. Weldon著、"A 1.75-GHz Highly Integrated Narrow-Band CMOS Transmitter With Harmonic-Rejection Mixers" IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL.36, NO.12, DECEMBER 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、上述した非特許文献1において、3次及び5次の成分がキャンセルされるのはノイズ、製造ばらつき等が発生しない理想的な場合である(特許文献1乃至3においても同様)。実際にはLSIに集積化した場合の製造ばらつきがあるため、各LO信号に位相誤差が発生し、3次及び5次成分がキャンセルされないという問題がある。ハーモニックリジェクション抑圧比は次のように示される。以下の式においては、45度位相差からのずれをα、振幅誤差をβとする。
【0022】
【数7】

【0023】
【数8】

【0024】
図13に、上記誤差が発生した場合のハーモニック抑圧特性をグラフに示す。LSIの製造においては、位相誤差、振幅誤差等が生じるため、これらの誤差に応じて抑圧比が劣化し、受信器としての妨害波耐性が劣化する。そのため、受信器において通信することができない場合が生じる。受信システムによって異なるものの、ハーモニックリジェクション比特性は40〜50dBc以上必要である。そのため、位相誤差でみると1度未満、つまり誤差がほとんどない0.数度の精度が要求され、特性補償する回路構成が必要となってくる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1の態様にかかるハーモニックリジェクションミキサは、位相がそれぞれ異なる第1、第2、第3のローカル信号を用いて無線周波数信号の周波数を変換するハーモニックリジェクションミキサであって、前記第1のローカル信号と前記第2のローカル信号の位相差を検出する第1の位相差検出回路と、前記第1のローカル信号と前記第3のローカル信号の位相差を検出する第2の位相差検出回路と、前記第1の位相差検出回路において検出された位相差が第1の位相差となるように、前記第2のローカル信号の位相を調整する第1の位相調整回路と、前記第2の位相差検出回路において検出された位相差が第2の位相差となるように、前記第3のローカル信号の位相を調整する第2の位相調整回路と、を備えるものである。
【0026】
このようなハーモニックリジェクションミキサを用いることにより、第1及び第2のローカル信号における位相差と、第1及び第3のローカル信号における位相差とを調整し、位相を調整後のローカル信号を用いて、無線周波数信号の周波数を変換することができる。
【0027】
本発明の第2の態様にかかる位相調整方法は、位相がそれぞれ異なる第1、第2、第3のローカル信号を用いて無線周波数信号の周波数を変換するハーモニックリジェクションミキサにおける前記第1、第2、第3のローカル信号の位相調整方法であって、前記第1のローカル信号と、前記第1のローカル信号と実質的に同一の位相を有する第1の基準信号との位相差に応じて定まる第1の出力電圧を算出し、前記第1のローカル信号と、前記第1のローカル信号の位相を反転させた第2の基準信号との位相差に応じて定まる第2の出力電圧を算出し、前記第1及び第2の出力電圧を用いて所定の位相差に応じて定まる第3及び第4の出力電圧を算出し、前記第1の出力電圧に応じて前記第1のローカル信号の位相を調整し、前記第3又は第4の出力電圧に応じて、前記第2又は第3のローカル信号の位相を調整するものである。
【0028】
このような位相調整方法を用いることにより、第1及び第2のローカル信号における位相差と、第1及び第3のローカル信号における位相差とを調整し、位相を調整後のローカル信号を用いて、無線周波数信号の周波数を変換することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、製造ばらつき等により発生するローカル信号の位相誤差を補正し、高精度なハーモニックリジェクション抑圧特性を得ることができるハーモニックリジェクションミキサ及び位相調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態1にかかるハーモニックリジェクションミキサの構成図である。
【図2】実施の形態1にかかるハーモニックリジェクションミキサの構成図である。
【図3】実施の形態1にかかるミキサの動作を示す図である。
【図4】実施の形態1にかかるミキサからの出力電圧を示す図である。
【図5】実施の形態2にかかるハーモニックリジェクションミキサの構成図である。
【図6】実施の形態2にかかる制御電圧値の算出処理におけるフローチャートである。
【図7】実施の形態1及び2にかかる位相調整回路の構成図である。
【図8】一般的な受信器の構成図である。
【図9】非特許文献1におけるハーモニックリジェクションミキサの構成図である。
【図10】非特許文献1におけるミキサが生成する信号成分を示す図である。
【図11】非特許文献1におけるハーモニックリジェクションミキサの動作原理を示す図である。
【図12】非特許文献1におけるハーモニックリジェクションミキサの動作原理を示す図である。
【図13】非特許文献1におけるハーモニックリジェクションミキサの特性劣化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1を用いて本発明の実施の形態1にかかるハーモニックリジェクションミキサの構成例について説明する。ハーモニックリジェクションミキサは、位相調整回路11及び12と、位相差検出回路21及び22と、ミキサ31乃至33と、利得増幅器41乃至43と、加算器44とを備えている。また、ミキサ31乃至33は、無線周波数信号(RF)を受け取る。さらにハーモニックリジェクションミキサは、ローカル信号1(LO1)と、LO1と45度の位相差を有するローカル信号2(LO2)と、LO1と90度の位相差を有するローカル信号3(LO3)とを受け取る。
【0032】
位相差検出回路21は、LO1とLO2とを受け取る。LO2は、位相調整回路11から出力される。また、位相差検出回路22は、LO1とLO3とを受け取る。LO3は、位相調整回路12から出力される。位相差検出回路21は、LO1とLO2との位相差を検出する。LO1とLO2との位相差は、理想的には45度であるが、ノイズ、製造ばらつき等の影響により、実際には45度±α1(α1:位相誤差)の位相差が発生する。また、位相差検出回路22も同様に、LO1とLO3との位相差を検出する。位相差検出回路22によって検出される位相差は、理想的には90度であるが、実際には位相差検出回路21と同様に90度±α2(α2:位相誤差)の位相差が発生する。
【0033】
位相差検出回路21は、検出した位相差を位相調整回路11へ出力する。位相差検出回路21は、検出した位相差45度±α1に関する情報を出力してもよく、位相誤差α1に関する情報を出力してもよい。同様に、位相差検出回路22は、検出した位相差90度±α2に関する情報もしくは位相誤差α2に関する情報を、位相調整回路12へ出力する。
【0034】
位相調整回路11は、位相誤差α1を0にするように、入力されるLO2の位相を調整する。位相調整回路11は、位相を調整したLO2を、ミキサ32及び位相差検出回路21へ出力する。また、位相調整回路12は、位相誤差α2を0にするように、入力されるLO3の位相を調整する。位相調整回路12は、位相を調整したLO3を、ミキサ33及び位相差検出回路22へ出力する。
【0035】
ミキサ31は、LO1とRFとをかけ合わせることにより、|fRF±fLO1|にダウンコンバートされた周波数を有する中間周波数信号1(IF1)を利得増幅器41へ出力する。fRFは、RFの周波数を示し、fLO1は、LO1の周波数を示す。ミキサ32は、位相調整回路11によってLO1との位相差が0になるように補正されたLO2とRFとをかけ合わせることにより、|fRF±fLO2|にダウンコンバートされた周波数を有する中間周波数信号2(IF2)を利得増幅器42へ出力する。fLO2は、LO2の周波数を示す。ミキサ33は、位相調整回路12によって位相差が0になるように補正されたLO3とRFとをかけ合わせることにより、|fRF±fLO3|にダウンコンバートされた周波数を有する中間周波数信号3(IF3)を利得増幅器43へ出力する。fLO3は、LO3の周波数を示す。
【0036】
利得増幅器41は、IF1の利得を1倍し、加算器44へ出力する。利得増幅器42は、IF2の利得を√(2)倍し、加算器44へ出力する。利得増幅器43は、IF3の利得を1倍し、加算器44へ出力する。加算器44は、それぞれ取得した信号を、IF1+√(2)×IF2+IF3として足し合わせることにより、3次及び5次の高調波成分が抑圧されたIF信号を出力する。
【0037】
続いて、図2を用いて本発明の実施の形態1にかかるハーモニックリジェクションミキサの詳細な構成例について説明する。ハーモニックリジェクションミキサは、ローカル信号源51と、4分周移相器52と、リミッタアンプ61乃至63と、リミッタアンプ71乃至77と、位相調整用バラクタ容量13乃至15と、ミキサ31乃至33と、位相比較器34及び35と、利得増幅器41乃至43と、加算器44と、フィルタ回路81及び82と、オペアンプ91及び92と、基準電圧93及び94と、を備えている。図1と同一の符号を付しているものは図1と同一の機能を有するため、詳細な説明を省略する。
【0038】
ローカル信号源51は、ローカル信号を生成し、4分周移相器52へ出力する。4分周移相器52は、ローカル信号源51から受け取ったローカル信号を4分周し、0度、45度、90度の位相差信号をリミッタアンプ61乃至63へ出力する。45度の位相差信号とは、リミッタアンプ61へ出力する0度の位相差信号と比較して45度の位相差を有する信号である。また、90度の位相差信号とは、リミッタアンプ61へ出力する0度の位相差信号と比較して90度の位相差を有する信号である。本図においては、移相器として、4分周移相器について説明しているが、RC型のパッシブタイプの移相器を用いてもよい。
【0039】
リミッタアンプ61は、0度の位相差信号をリミッタアンプ71、74及び76へ出力する。リミッタアンプ62は、45度の位相差信号をリミッタアンプ72及び75へ出力する。リミッタアンプ63は、90度の位相差信号をリミッタアンプ73及び77へ出力する。この時、リミッタアンプ74乃至77は、リミッタアンプ71乃至73のレプリカ回路として動作させるため、リミッタアンプ71乃至73と同一回路、同形状及び同特性のリミッタアンプとする。リミッタアンプ74乃至77は、受け取った信号の振幅を調整して、位相比較器34及び35へ出力する。位相比較器34は、リミッタアンプ74及び75から、0度の位相差信号と45度の位相差信号を受け取り、位相比較動作を行う。
【0040】
ここで、位相比較器34及び35における位相比較動作について、図3及び図4を用いて説明する。図3に示されるように、位相比較器34又は35は、入力される2つの信号の周波数が同じ場合、位相差0度〜180度の範囲において既知の電圧を出力する。理想的には、図4に示されるように位相差が0度の場合、位相比較器34及び35から出力される電圧は、動作範囲の最小値Vminとなる。位相差が180度の場合、位相比較器34及び35から出力される電圧は、動作範囲の最大値Vmaxとなる。位相差が90度の場合、位相比較器34及び35から出力される電圧は、(Vmax+Vmin)/2となる。位相差が45度の場合、位相比較器34及び35から出力される電圧は、(Vmax+Vmin)/4となる。位相比較器34から出力される電圧が45度を示す電圧である場合には、45度の位相差信号は、0度の位相差信号と比較して、45度の位相差が得られていることとなる。ここで、位相差が45±α1度である場合、位相比較器34は、既知の電圧(Vmax+Vmin)/4の近傍の電圧値を出力する。位相比較器35も同様である。
【0041】
図2に戻り、位相比較器34は、0度の位相差信号及び45度の位相差信号を比較することにより求められる電圧値を、フィルタ回路81を介してオペアンプ91へ出力する。位相比較器35も同様に、0度の位相差信号及び90度の位相差信号を比較することにより求められる電圧値を、フィルタ回路82を介してオペアンプ92へ出力する。オペアンプ91は、基準電圧93であるVREF45=(Vmax+Vmin)/4と位相比較器34から出力された電圧値とを比較する。フィルタ回路81及び82は、余分な高調波成分を除去して、電圧値をオペアンプ91及び92へ出力する。オペアンプ91は、位相調整用バラクタ容量14に対して、位相誤差α1が0に補正されるように電圧をかける。オペアンプ92は、基準電圧94であるVREF90=(Vmax+Vmin)/2と位相比較器35から出力された電圧値とを比較する。オペアンプ92は、位相調整用バラクタ容量15に対して、位相誤差α2が0に補正されるように電圧をかける。
【0042】
位相調整用バラクタ容量13乃至15は、ある基準電圧Vrefでの基準のバラクタ容量値Cref(F)に対し、Cref+ΔCと容量が大きくなれば、LO信号の位相を遅延させ、Cref−ΔCと容量が小さくなればLO信号の位相を進むように、位相調整を行うことができる。これより、オペアンプ91は、45度位相差信号の位相が進んでいれば、位相調整用バラクタ容量14の容量を大きくするために、位相調整用バラクタ容量14に対して相対的に高い電圧をかける。また、オペアンプ91は45度位相差信号の位相が遅れていれば、位相調整用バラクタ容量14の容量を小さくするために、位相調整用バラクタ容量14に対して相対的に低い電圧をかける。オペアンプ92も同様に、位相調整用バラクタ容量15に対してかける電圧を調整する。
【0043】
位相調整用バラクタ容量14は、リミッタアンプ62から受け取った45度位相差信号の位相を調整し、リミッタアンプ72を介してミキサ32へ信号を出力する。また、位相調整用バラクタ容量15は、リミッタアンプ63から受け取った90度位相差信号の位相を調整し、リミッタアンプ73を介してミキサ33へ信号を出力する。
【0044】
ミキサ31乃至33、利得増幅器41乃至43及び加算器44の動作は図1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0045】
以上説明したように、位相調整用バラクタ容量14及び15の容量を調整するために、位相比較器34及び35と、オペアンプ91及び92とを用いることにより、45度位相差信号及び90度位相差信号における位相誤差が抑圧される。そのため、ミキサ31及び33以降の動作により、良好なハーモニックリジェクション抑圧比を得ることができる。
【0046】
(実施の形態2)
続いて、図5を用いて本発明の実施の形態2にかかるハーモニックリジェクションミキサの構成例について説明する。図5におけるハーモニックリジェクションミキサは、ローカル信号源51と、4分周移相器52と、リミッタアンプ61乃至63と、位相調整用バラクタ容量13乃至15と、リミッタアンプ71乃至73と、ミキサ31乃至33と、利得増幅器41乃至43と、加算器44と、ADC(アナログデジタル変換器)101乃至103と、位相誤差検出・補正回路104乃至106と、DAC(デジタルアナログ変換器)107乃至109と、インバータ110及び111と、スイッチ112及び113とを備えている。ローカル信号源51と、4分周移相器52と、リミッタアンプ61乃至63と、位相調整用バラクタ容量13乃至15と、リミッタアンプ71乃至73と、ミキサ31乃至33と、利得増幅器41乃至43と、加算器44とは、図2のハーモニックリジェクションミキサに示されているものと同様の機能を有するため、詳細な説明を省略する。
【0047】
本図におけるハーモニックリジェクションミキサは、位相誤差検出及び位相誤差補正を行う校正期間と、中間周波数信号を出力する通常期間とを有する。以下に、校正期間におけるハーモニックリジェクションミキサの動作について説明する。
【0048】
校正期間においては、ミキサ31乃至33は、スイッチ113を切り替えてRF信号ではなく、LO信号を受け取る。ミキサ31乃至33が受け取るLO信号は、4分周移相器52から出力される0度位相差信号である。
【0049】
はじめに、0度位相差信号の位相誤差の検出及び補正を行う。この場合、スイッチ112はオープンな状態にされる。これより、0度位相差信号は、4分周移相器52から、インバータ110及び111を介してミキサ31へ出力される。また、ミキサ31は、リミッタアンプ61及71を介して0度位相差信号を受け取る。
【0050】
ミキサ31は、インバータ111から出力された0度位相差信号とリミッタアンプ71から出力された0度位相差信号の位相差に応じて定まる電圧値をADC103へ出力する。ミキサ31は、二つの0度位相差信号の位相差を比較しているため、理想的には図4において示されるVminの値が出力される。しかし、0度位相差信号が、リミッタアンプ61及び71を通過する際に発生する位相誤差等を考慮すると、Vminとは異なる電圧値がADC103へ出力される。
【0051】
ADC103は、ミキサ31から出力された電圧に関する情報をデジタル信号へ変換し、電圧値を検出する。位相誤差検出・補正回路106は、ADC103において検出される電圧値が最小になるように、位相調整用バラクタ容量13を制御する電圧を調整する。また、位相調整用バラクタ容量13へ出力される電圧は、DAC109においてアナログ信号に変換され出力される。位相誤差検出・補正回路106は、ADC103において検出される電圧値が最小になるように、位相誤差の補正処理を複数回繰り返す。位相誤差検出・補正回路106は、複数回補正処理を実行し、ADC103において検出される電圧値が最小となった際に、位相調整用バラクタ容量13へ出力した電圧値を保持する。
【0052】
次に、180度位相差信号の位相誤差の検出及び補正を行う。この場合、スイッチ112は短絡した状態にされる。これより、4分周移相器52から出力される0度位相差信号は、インバータ110及びスイッチ112を介してミキサ31へ出力される。インバータ110において0度位相差信号の位相が反転するため、ミキサ31は、インバータ110から、0度位相差信号と180度の位相差を有する180度位相差信号を受け取る。また、ミキサ31は、リミッタアンプ61及び71を介して0度位相差信号を受け取る。このようにして、最小電圧値を検出した処理と同様に、最大電圧値を検出する。位相誤差検出・補正回路106は、ADC103において検出される電圧値が最大となった際に、位相調整用バラクタ容量13へ出力した電圧値を保持する。
【0053】
このようにして、位相差が0度である際に出力される最小電圧値と、位相差が180度である際に出力される最大電圧値とを検出することにより、位相差が45度である場合の電圧期待値を(最小電圧値+最大電圧値)/4と算出することができる。また、位相差が90度である場合の電圧期待値を(最小電圧値+最大電圧値)/2と算出することができる。
【0054】
次に、スイッチ112をオープンにした状態にする。このようにすることにより、ミキサ32は、スイッチ113を介して0度位相差信号を受け取り、リミッタアンプ72を介して、45度位相差信号を受け取る。ミキサ32は、受け取った0度位相差信号と45度位相差信号との位相差に応じて定まる電圧値をADC102へ出力する。
【0055】
ADC102は、ミキサ32から出力された電圧に関する情報をデジタル信号へ変換し、電圧値を検出する。位相誤差検出・補正回路105は、ADC102において検出される電圧値が、位相差が45度である場合の電圧期待値になるように、位相調整用バラクタ容量14を制御する電圧を調整する。また、位相調整用バラクタ容量14へ出力される電圧は、DAC108においてアナログ信号に変換され出力される。位相誤差検出・補正回路105は、ADC102において検出される電圧値が、位相差が45度である場合の電圧期待値になるように、位相誤差の補正処理を複数回繰り返す。位相誤差検出・補正回路105は、複数回補正処理を実行し、ADC102において検出される電圧値が最も電圧期待値の近傍となった際に、位相調整用バラクタ容量14へ出力した電圧値を保持する。
【0056】
また、位相誤差検出・補正回路104は、ミキサ33及びADC101から出力される0度位相差信号と90度位相差信号との位相差に応じて定まる電圧値が、位相差が90である場合の電圧期待値になるように調整を行う。さらに、位相調整用バラクタ容量15へ最適な電圧値を出力する。処理動作は、位相差が45度である場合と同様の動作であるため、詳細な説明は省略する。
【0057】
上述したような処理を実行することにより、位相誤差検出・補正回路104乃至106は、ミキサ31乃至33が取得するローカル信号(LO1乃至LO3)の位相誤差を0にするような電圧値(制御電圧値)を位相調整用バラクタ容量13乃至15へ出力することができる。位相調整用バラクタ容量13乃至15における制御電圧値が決定された後に、スイッチ113を切り替えて、ミキサ31乃至33は、RFを受け取る。ミキサ31乃至33がRFを受け取ることにより、ハーモニックリジェクションミキサは、通常期間における動作を開始する。
【0058】
通常期間においては、ミキサ31乃至33と、利得増幅器41乃至43と、加算器44とは、実施の形態1における動作と同様であり、3次及び5次の高調波成分を抑圧して中間周波数信号(IF)を出力する。
【0059】
続いて、図6を用いて本発明の実施の形態2にかかる、位相調整用バラクタ容量13乃至15の制御電圧値の算出処理の流れについて説明する。
【0060】
はじめに、スイッチ113を切り替えてLO信号(0度位相差信号)をミキサ31乃至33へ出力することにより、ハーモニックリジェクションミキサは、校正期間における動作を開始する。これにより、ハーモニックリジェクションミキサは、位相調整用バラクタ容量13乃至15の補正処理を開始する(S11)。
【0061】
次に、位相誤差検出・補正回路106は、0度位相差信号を用いて、電圧の最小値(Vmin)を検出する(S12)。具体的には、ミキサ31において0度位相差信号同士を比較した結果を出力し、ADC103において二つの0度位相差信号の位相差に応じた電圧値を検出する。位相誤差検出・補正回路106は、ADC103において検出された電圧値を用いて、電圧の最小値を検出する。
【0062】
次に、位相誤差検出・補正回路106は、0度位相差信号及び180度位相差信号を用いて、電圧の最大値(Vmax)を検出する(S13)。具体的には、ミキサ31において0度位相差信号と180度位相差信号とを比較した結果を出力し、ADC103において0度位相差信号と180度位相差信号との位相差に応じた電圧値を検出する。位相誤差検出・補正回路106は、ADC103において検出された電圧値を用いて、電圧の最大値を検出する。
【0063】
次に、位相誤差検出・補正回路106は、ミキサ31乃至33から出力される電圧範囲を決定する(S14)。具体的には、位相誤差検出・補正回路106は、最小電圧値(Vmin)と、最大電圧値(Vmax)とを決定する。
【0064】
次に、位相誤差検出・補正回路106は、位相調整用バラクタ容量13における位相遅延容量を決定する(S15)。具体的には、位相誤差検出・補正回路106は、二つの0度位相差信号の位相を比較し、位相誤差が0度もしくは0度に近くなるような制御電圧値を決定し、位相調整用バラクタ容量13へ出力する。
【0065】
次に、位相誤差検出・補正回路105は、45度の位相差を有する場合の電圧期待値を算出する(S16)。具体的には、位相誤差検出・補正回路105は、位相誤差検出・補正回路106において決定されたVmin及びVmaxを用いて、(Vmin+Vmax)/4の値を、45度の位相差を有する場合の電圧期待値として決定する。
【0066】
次に、位相誤差検出・補正回路105は、位相調整用バラクタ容量14における位相遅延容量を決定する(S17)。具体的には、位相誤差検出・補正回路105は、0度位相差信号と45度位相差信号との位相差に応じて出力される電圧値が、電圧期待値もしくは電圧期待値に近くなるような制御電圧値を決定する。位相誤差検出・補正回路105は、決定した制御電圧値を位相調整用バラクタ容量14へ出力する。
【0067】
次に、位相誤差検出・補正回路104は、90度の位相差を有する場合の電圧期待値を算出する(S18)。具体的には、位相誤差検出・補正回路104は、位相誤差検出・補正回路106において決定されたVmin及びVmaxを用いて、(Vmin+Vmax)/2の値を電圧期待値として決定する。
【0068】
次に、位相誤差検出・補正回路104は、位相調整用バラクタ容量15における位相遅延容量を決定する(S19)。具体的には、位相誤差検出・補正回路104は、0度位相差信号と90度位相差信号との位相差に応じて出力される電圧値が、電圧期待値もしくは電圧期待値に近くなるような制御電圧値を決定する。位相誤差検出・補正回路104は、決定した制御電圧値を位相調整用バラクタ容量15へ出力する。これにより、位相調整用バラクタ容量13乃至15の制御電圧値の算出処理を終了する(S20)。
【0069】
以上説明したように、本発明の実施の形態2にかかるハーモニックリジェクションミキサを用いることにより、実施の形態1と同様に、位相調整用バラクタ容量13乃至15における位相遅延容量を制御することにより、良好なハーモニック抑圧比を確保することができる。なお、図1に示す位相調整回路には、位相調整用バラクタ容量13乃至15の他に、図7に示されるエミッタフォロワ回路が用いられてもよい。
【0070】
図7に示すエミッタフォロワ回路においては、バイポーラトランジスタQ1及びQ2が、正電源電位VCCと負電源電位VEEの間に直列に接続されている。また、出力端子OUTが、正電源電位VCC側バイポーラトランジスタQ1のエミッタと負電源電位VEE側バイポーラトランジスタQ2のコレクタとに接続されている。アナログ信号がバイポーラトランジスタQ1のベースから入力端子INを用いて入力され、バイポーラトランジスタQ1が導通駆動する。バイポーラトランジスタQ2のベースからバイポーラトランジスタQ2に流れる電流を調整するために、電圧源Vbiasが接続されている。この電圧源Vbiasを変化させることにより、エミッタフォロワ回路のエミッタ電流IEEを変化させることができる。このようにして、エミッタ電流IEEを制御することにより、入力端子INに入力されたアナログ信号の位相を可変にして、出力端子OUTから出力させることができる。
【0071】
さらに、本発明の実施の形態1と異なり、ミキサ31乃至33から出力される信号を用いて位相誤差を検出している。そのため、位相誤差検出・補正回路104乃至106は、通常期間において実際に信号が通過する信号ラインにおいて発生する位相誤差を解消することができる。これより、実施の形態1と比較してさらに良好なハーモニック抑圧比を確保することができる。
【0072】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
11、12 位相調整回路
13〜15 位相調整用バラクタ容量
21、22 位相差検出回路
31〜33 ミキサ
34、35 位相比較器
41〜43 利得増幅器
44 加算器
51 ローカル信号源
52 4分周移相器
61〜63 リミッタアンプ
71〜77 リミッタアンプ
81、82 フィルタ回路
91、92 オペアンプ
93、94 基準電圧
101〜103 ADC
104〜106 位相誤差検出・補正回路
107〜109 DAC
110、111 インバータ
112、113 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相がそれぞれ異なる第1、第2、第3のローカル信号を用いて無線周波数信号の周波数を変換するハーモニックリジェクションミキサであって、
前記第1のローカル信号と前記第2のローカル信号の位相差を検出する第1の位相差検出回路と、
前記第1のローカル信号と前記第3のローカル信号の位相差を検出する第2の位相差検出回路と、
前記第1の位相差検出回路において検出された位相差が第1の位相差となるように、前記第2のローカル信号の位相を調整する第1の位相調整回路と、
前記第2の位相差検出回路において検出された位相差が第2の位相差となるように、前記第3のローカル信号の位相を調整する第2の位相調整回路と、を備えるハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項2】
前記第1の位相差検出回路は、
前記第1のローカル信号と前記第2のローカル信号との位相差に応じて予め定められた電圧値を出力する第1の位相比較器を有し、
前記第2の位相差検出回路は、
前記第1のローカル信号と前記第3のローカル信号の位相差に応じて予め定められた電圧値を出力する第2の位相比較器を有する、請求項1記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項3】
前記第1の位相調整回路は、
前記第1の位相比較器から出力される電圧値に応じて容量を調整する第1の可変容量ダイオードを有し、
前記第2の位相調整回路は、
前記第2の位相比較器から出力される電圧値に応じて容量を調整する第2の可変容量ダイオードを有する、請求項2記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項4】
前記第1のローカル信号、前記第1の位相調整回路において位相が調整された前記第2のローカル信号又は前記第2の位相調整回路において位相が調整された前記第3のローカル信号と、前記無線周波数信号とを混合させるミキサをさらに備える、請求項2又は3に記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項5】
前記第1及び第2の位相比較器は、前記ミキサと実質的に同一の特性を有するミキサである、請求項4記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項6】
前記第1及び第2の位相調整回路において前記第1、第2及び第3のローカル信号の位相を調整する校正期間と、前記第1、第2及び第3のローカル信号と、前記無線周波数信号とを混合して周波数変換を行う通常期間とを切り替えるスイッチをさらに備え、
前記校正期間の場合、前記第1及び第2の位相比較器は、前記第1のローカル信号と、前記第2又は第3のローカル信号との位相差に応じて予め定められた電圧値を出力し、
前記通常期間の場合、前記第1及び第2の位相比較器は、前記ミキサとして動作する前記請求項4又は5記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項7】
前記校正期間において、前記第1又は第2の位相比較器は、
2つのローカル信号の位相が実質的に同一である場合に出力する電圧値を算出し、さらに2つのローカル信号の位相差が180度異なる場合に出力する電圧値を算出する、請求項6記載のハーモニックリジェクションミキサ。
【請求項8】
位相がそれぞれ異なる第1、第2、第3のローカル信号を用いて無線周波数信号の周波数を変換するハーモニックリジェクションミキサにおける前記第1、第2、第3のローカル信号の位相調整方法であって、
前記第1のローカル信号と、前記第1のローカル信号と実質的に同一の位相を有する第1の基準信号との位相差に応じて定まる第1の出力電圧を算出し、
前記第1のローカル信号と、前記第1のローカル信号の位相を反転させた第2の基準信号との位相差に応じて定まる第2の出力電圧を算出し、
前記第1及び第2の出力電圧を用いて所定の位相差に応じて定まる第3及び第4の出力電圧を算出し、
前記第1の出力電圧に応じて前記第1のローカル信号の位相を調整し、
前記第3又は第4の出力電圧に応じて、前記第2又は第3のローカル信号の位相を調整する、位相調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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