説明

バイオアッセイ用高分子化合物およびこれを用いたバイオアッセイ用基材

【課題】吸着防止剤をコーティングすることなく、タンパク質の非特異的な吸着・結合を抑制できるバイオアッセイ用高分子化合物およびこれを用いたバイオアッセイ用基材を提供すること。
【解決手段】少なくとも、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットを有する高分子化合物であって、ブロック共重合体であることを特徴とするバイオアッセイ用高分子化合物であって、好ましくは、高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格であるバイオアッセイ用高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の対象物質の検出および分析等に用いるバイオアッセイ用高分子化合物、およびこれを用いたバイオアッセイ用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や脂質などの生体分子混在下で特定の物質を検出するバイオチップ等に用いられるバイオアッセイ用基材は、近年、疾病の診断用途などで広く応用されてきている。しかしながら、多くの場合、特定の物質を検出する特異的反応と同時に、共存するタンパク質などが基材表面への非特異吸着が発生するため、これがノイズなり、高感度化の妨げとなっている。このような背景から、タンパク質の非特異吸着を抑制する材料が求められている。
【0003】
例えば、ELISAなどで用いられるサンドイッチ法では、一次抗体を固定化した後に抗原および二次抗体の非特異的吸着を防止するため、吸着防止剤のコーティングが行われるが、これらの非特異的吸着防止能は十分でない。また、一次抗体を固定化した後に吸着防止剤をコーティングするため、固定化した蛋白質の上にコーティングされてしまう場合があり、二次抗体と反応できないという問題があった。このため、一次抗体固定化後の吸着防止剤コーティング工程がなく、かつ生理活性物質の非特異的吸着量の少ないバイオアッセイ用基材が求められている。
【0004】
タンパク質の非特異的吸着量を低減させる1つのアプローチとして、官能基、スペーサー基、および結合基を含む活性成分、架橋用成分、マトリックス形成成分を支持体上に被覆し、硬化させることで、支持体上に強固に結合した機能性表面を形成できることが開示されている(たとえば、特許文献1)。しかしながら、この開示された方法では支持体上で低分子成分の硬化が進行するため、支持体がプラスチック基板の場合には反りや変形が起きる恐れがあった。また、網の目状に絡み合ったマトリックスが形成されることから、生理活性物質を固定化するための官能基の反応が抑制されたり、固定化した生理活性物質の機能発現の再現性が悪いなどの問題があった。また、洗浄を行ってもマトリックス内部に入り込んだタンパク質を除去しきれないために非特異吸着を十分に抑制できないといった問題もあった。
【特許文献1】特表2004−531390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、吸着防止剤をコーティングすることなく、タンパク質の非特異的な吸着・結合を抑制できるバイオアッセイ用高分子化合物およびこれを用いたバイオアッセイ用基材を提供することを目的とする。ここで言う基材とは、各種チップ、プレート、粒子、容器等、バイオアッセイに利用可能なあらゆる材料を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)少なくとも、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットを有する高分子化合物であって、ブロック共重合体であることを特徴とするバイオアッセイ用高分子化合物、
(2)前記高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である(1)記載のバイオアッセイ用高分子化合物、
(3)前記高分子化合物が下記一般式[1]で表されるものである(1)または(2)記載のバイオアッセイ用高分子化合物、
【化1】

(式中R1、R2は水素原子またはメチル基を、R3は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。m、nは自然数である。)
(4)前記一般式[1]において、Xがエチレンオキシ基である(3)記載のバイオアッセイ用高分子化合物、
(5)前記一般式[1]において、Rがアルキル基、シクロアルキル基、芳香族類のいずれかである(3)又は(4)記載のバイオアッセイ用高分子化合物、
(6)前記アルキル基またはシクロアルキル基の炭素数が2〜10である(5)記載のバイオアッセイ用高分子化合物、
(7) (1)〜(6)いずれか記載のバイオアッセイ用高分子化合物を含む表面コーティング材料、
(8) (7)記載の表面コーティング材料を含む層を表面に形成したバイオアッセイ用基材、
(9)前記基材の形状が、スライド形状基板、プレート、容器、マイクロフルイディスク基板のいずれかである(8)記載のバイオアッセイ用基材、
(10)前記基材の材質がプラスチック製である(8)または(9)記載のバイオアッセイ用基材、
(11)前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィン、ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである(11)記載のバイオアッセイ用基材、
(12)(1)〜(6)いずれか記載のバイオアッセイ用高分子化合物の製造方法であって、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットを含むモノマー又は疎水性基を有するユニットを含むモノマーのいずれか一方である第一の成分とリビング合成用触媒との溶液中に開始剤を加えて重合を行い、更に他方のモノマーである第二の成分を追加して重合を継続することによりブロックポリマーを得ることを特徴とするバイオアッセイ用高分子化合物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高分子化合物をバイオアッセイ用基材に塗布すれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、タンパク質の非特異的な吸着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の高分子化合物は、少なくとも、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットを有する高分子化合物であって、ブロック共重合体であることを特徴とする。この高分子化合物は、各成分がブロック化されていることから、少なくとも以下の特徴を有する。疎水性相互作用が発現しやすく、疎水性基を有するユニットを介して疎水性基板に吸着しやすい。また、同じ組成のランダムコポリマーに比較して水に対する溶解性が低下するので、該高分子化合物を基材に塗布した場合、アッセイ中でのポリマーの脱落が抑制される。さらには、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットが親水性であるので、該高分子化合物を塗布した基材を水系の溶液に浸漬させると該親水性ユニットが溶液界面に偏在化する。すなわち、アッセイ中での非特異吸着の低減が期待できる。
【0009】
本発明の高分子化合物は、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットを有するブロックコポリマーであればよい。ただし、合成の容易さを考慮すると、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーが好ましい。一方、非特異吸着抑制の観点からは、ジブロックコポリマーおよび親水性ブロック−疎水性ブロック−親水性ブロックのトリブロックコポリマーが好ましい。
【0010】
本発明の高分子化合物に含まれる非特異吸着を抑制できるユニットは、特に構造を限定しないが、下記一般式[1]の構成単位の左部の構成単位で示されるように、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが好ましい。なかでもXはエチレンオキシ基であることが最も好ましい。式中のアルキレンオキシ基Xの繰り返し数pは1〜20の整数である。mは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。R1、R2は水素原子またはメチル基を示す。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の高分子化合物に含まれる非特異吸着を抑制できるユニットの組成割合(一般式[1]を例にするならばm、nの和に対するmの比率)は特に制限されるものではないが、高分子化合物の全ユニットに対して10〜90mol%が好ましく、より好ましくは20〜80mol%、最も好ましくは30〜70mol%である。組成比が下限値を下回ると、非特異的吸着が多くなる。一方、上限値を上回ると水溶性が高まり、ブロックコポリマーといえどもアッセイ中高分子化合物が溶出してしまう恐れが出てくる。ただし、高分子化合物のいずれかの部分に、基材と共有結合できる官能基類を導入し、基材と化学的に結合させる場合はこの限りではない。この場合、疎水性基を有するユニットに導入するのがより好ましい。たとえば、シランカップリング剤を有するユニットを導入しておく方法などが簡便で好ましい。
【0013】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットは、特に構造を限定しないが、前記一般式[1]の構成単位の右部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル基残基に疎水性基が結合した構造であることが好ましい。疎水基は特に限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族類が挙げられる。より好ましくは、前記アルキル基が炭素数2〜6のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族類である。アルキル基は特に構造を限定されるものではなく、直鎖であっても、分岐していてもよい。式中、nは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0014】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットの組成割合(一般式[1]を例にするならばm、nの和に対するnの比率)は特に制限されるものではないが、高分子化合物の全ユニットに対して10〜90mol%が好ましく、より好ましくは20〜80mol%、最も好ましくは30〜70mol%である。
【0015】
また、本発明の高分子化合物には、非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットのほかに任意の機能を有するユニットを導入してもよい。前述の基材と共有結合できる官能基類以外の例としては、生理活性物質を固定化する官能基を導入することも可能である。このようにして得られた高分子化合物は、生理活性物質を介して特定のタンパク質などを捕捉することができるバイオチップなどに用いることもできる。
【0016】
生理活性物質を固定化する官能基としては、化学的に活性な基、受容体基、リガンド基などがあるが、これらに限定されない。具体的な例としては、アルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ヒドロキシル基、アクリレート基、マレイミド基、ヒドラジド基、アジド基、アミド基、スルホネート基、ストレプトアビジン、金属キレートなどがあるがこれらに限定されない。これらの中でも生理活性物質に多く含まれるアミノ基との反応性の点からアルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基が好ましく、また生理活性物質と結合定数が高いビオチンが好ましい。なかでもモノマーの保存安定性の点から活性エステル基が最も好ましい。
【0017】
前記官能基には、その種類に応じて、各種タンパク質、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、糖脂質、糖ペプチド、及び/又はこれらを有する生理活性物質など、さまざまな生理活性物質を固定化することができる。これらの生理活性物質の基材への固定化方法としては、スポッターを使用して生理活性物質が溶解した溶液を点着する方法、生理活性物質が溶解した溶液を容器などに分注して固定化する方法などがある
【0018】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、構造制御の容易さから、各種リビング重合が好ましい。中でも、リビングラジカル重合が簡便で好ましい。リビングラジカル重合には、ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法、有機テルル化合物を用いる重合法、ヨウ素移動重合法、可逆的付加-開裂連鎖移動型のラジカル重合など様々な合成法が開発されているが、中でも、原子移動ラジカル重合法は汎用性が高く好ましい。原子移動ラジカル重合法に用いられる遷移金属錯体の例としては、銅、ルテニウム、鉄、ニッケルなどが挙げられる。
【0019】
重合で用いられるモノマーは、本発明のポリマーが得られるものであれば特に制限されるものではない。非特異吸着を抑制できるユニットを有するモノマーとしては、ホスホリルコリン基を含むものでは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等を挙げられるが、入手性から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどが好ましい。ホスホリルコリン基を含まないモノマーとしては、例えばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびその水酸基の一置換エステル、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよびその水酸基の一置換エステル、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール (メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、非特異的吸着の少なさ及び入手性からメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレートなどが好ましい。なお、本発明において(メタ)アクリルはアクリル及び/またはメタクリルを示し、(メタ)アクリレートはアクリレート及び/またはメタクリレートを示す。
【0020】
疎水性基を有するモノマーの具体的な例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、iso−ネオペンチル(メタ)アクリレート、sec−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、iso−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、iso−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、iso−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、iso−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、iso−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、iso−オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレートなどが挙げられる。これらのなかで好ましいのが、n―ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレートシクロヘキシルメタクリレートである。
【0021】
本発明の高分子化合物の合成溶媒としては、それぞれの単量体が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0022】
本発明のブロックポリマーの合成方法は、特に制限されるものではないが、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットを含むモノマー又は疎水性基を有するユニットを含むモノマーのいずれか一方である第一の成分とリビング合成用触媒との溶液中に開始剤を加えて重合を行い、さらに他方のモノマーである第二の成分を追加して重合を継続することによりブロックポリマーを得る方法が簡便で好ましい。また、第二の成分を追加する際、溶媒を併せて追加してもよい。トリブロックポリマーを合成する場合は、同様に第三の成分を追加するとよい。
【0023】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
【0024】
基材表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜50重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0025】
有機溶剤としては、本発明の高分子化合物が溶解すれば、特に制限されるものではないが、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類またはこれらを主体とする混合溶媒がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0026】
本発明に用いる基材としては、特に制限されるものではないが、スライド形状基板、96穴プレート、384穴プレート、容器、マイクロフルイディスク基板が好ましい。材質としては、例えばプラスチック、ガラス、金属蒸着膜を有する基板などがあげられる。プラスチックの具体例としては、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレンなど各種ポリオレフィン、ポリサロフォン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなど各種(メタ)アクリル樹脂があげられる。
【実施例】
【0027】
《実施例1》
(高分子化合物の合成例)
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)6mmol、CuBr0.12mmol、2,2’-ビピリジル0.24mmol、メタノール6mlを、酸素、水蒸気ともに1ppm以下に制御したグローブボックス内で封管に処方し、さらに2-ブロモ−2-メチルプロピオン酸エチル0.12mmolを添加し、密栓した。40℃で4時間反応させた後、グローブボックス内で酢酸エチル1mlとメタクリル酸n−ブチル(BMA)8.4mmol追加し、さらに20時間反応を継続した。得られた重合溶液を再沈殿精製することによりブロックポリマーを得た。
【0028】
《比較例1》
(高分子化合物の比較合成例)
MPC6mmol、BMA6mmol、CuBr0.12mmol、2,2’-ビピリジル0.24mmol、メタノール6ml、酢酸エチル1mlを、グローブボックス内で封管に処方し、さらに2-ブロモ−2-メチルプロピオン酸エチル0.12mmolを添加し、密栓した。40℃で24時間反応させた後、得られた重合溶液を再沈殿精製することによりランダムポリマーを得た。
【0029】
得られたポリマーを1H―NMRで測定し、この高分子化合物の組成比を算出した。表1に結果を示した。ほぼ同じ組成のブロックポリマーおよびランダムポリマーが得られた。
【0030】
【表1】

【0031】
(水への溶解性についての検証)
実施例1および比較例1のポリマーの0.3wt%エタノール溶液をそれぞれ作製し、環状ポリオレフィン(COC)製スライド状基板に塗布、風乾させた。該基板を水へ浸漬させ、その前後の膜厚および接触角を調査した。その結果を図1に示した。
【0032】
膜厚は、実施例、比較例ともに浸漬により減少するが、実施例の方が膜厚を維持する傾向にある。また、接触角については、実施例のポリマーを塗布した基板は浸漬後も接触角は低いが、比較例のポリマーを塗布した基板は、膜厚が薄くなったために基板の影響を受けるようになり、接触角が高くなった。
【0033】
これらのことより、本発明のポリマーは、アッセイ中に基材からの脱落が抑制され、しかも、タンパク質の非特異吸着を抑制するブロックが表面に偏在することが示唆される。
【0034】
(各ポリマーの非特異吸着量の測定)
実施例1および比較例1のポリマーの0.3wt%エタノール溶液をそれぞれ作製し、環状ポリオレフィン(COC)製96穴プレートの各ウェルに分注し、10分間静置した。その後溶液を回収し、プレートを風乾させた。純水を分注し、一晩静置した後、除去した。表面が乾燥しないうちに、1μg/mlに調整したHRP標識化BSAのPBSバッファー溶液を100μl分注し、シールして1時間静置した。TritonX−100を0.05wt%含有するPBSバッファーでウェルを3回洗浄した。この工程後もウェルに残存しているHRP標識化BSAを非特異吸着したものとみなし、SUMILON(登録商標)ペルオキシダーゼ用発色キット(ML−1120T、基質:TMBZ)を用いて検出を行った。各ウェルに発色剤と基質の混合液(発色液)を100μl分注し、遮光下で15分反応させた。その後停止液を100μl分注し、450nmの吸光度を測定した。結果を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例のブロックポリマーを塗布したプレートは、比較例のランダムポリマーを塗布したプレートに比較して、ほぼ同じ組成にも関わらずタンパク質の非特異吸着が少ないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】塗布乾燥後、及び水に浸漬させた後の膜厚および接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットおよび疎水性基を有するユニットを有する高分子化合物であって、ブロック共重合体であることを特徴とするバイオアッセイ用高分子化合物。
【請求項2】
前記高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である請求項1記載のバイオアッセイ用高分子化合物。
【請求項3】
前記高分子化合物が下記一般式[1]で表されるものである請求項1または2記載のバイオアッセイ用高分子化合物。
【化1】

(式中R1、R2は水素原子またはメチル基を、R3は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。m、nは自然数である。)
【請求項4】
前記一般式[1]において、Xがエチレンオキシ基である請求項3記載のバイオアッセイ用高分子化合物。
【請求項5】
前記一般式[1]において、Rがアルキル基、シクロアルキル基、芳香族類のいずれかである請求項3又は4記載のバイオアッセイ用高分子化合物。
【請求項6】
前記アルキル基またはシクロアルキル基の炭素数が2〜10である請求項5記載のバイオアッセイ用高分子化合物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のバイオアッセイ用高分子化合物を含む表面コーティング材料。
【請求項8】
請求項7記載の表面コーティング材料を含む層を表面に形成したバイオアッセイ用基材。
【請求項9】
前記基材の形状が、スライド形状基板、プレート、容器、マイクロフルイディスク基板のいずれかである請求項8記載のバイオアッセイ用基材。
【請求項10】
前記基材の材質がプラスチック製である請求項8または9記載のバイオアッセイ用基材。
【請求項11】
前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィン、ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである請求項11記載のバイオアッセイ用基材。
【請求項12】
請求項1〜6いずれか記載のバイオアッセイ用高分子化合物の製造方法であって、タンパク質の非特異吸着を抑制できるユニットを含むモノマー又は疎水性基を有するユニットを含むモノマーのいずれか一方である第一の成分とリビング合成用触媒との溶液中に開始剤を加えて重合を行い、更に他方のモノマーである第二の成分を追加して重合を継続することによりブロックポリマーを得ることを特徴とするバイオアッセイ用高分子化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126700(P2010−126700A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305864(P2008−305864)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】