説明

バイオイメージングに特化した変異型赤色発光ルシフェラーゼ

【課題】細胞内のpHに非感受性でフィルター等により色識別可能な最大発光波長620nm以上の赤色であり、かつ、細胞のダメージがほとんどあるいは全くなく、個々の細胞内についての長時間のイメージングを可能にする遺伝子構築物および形質転換細胞、特に形質転換ヒト細胞を提供する。
【解決手段】野生型ルシフェラーゼに変異を入れることにより、620nm以上の赤色発光を生み出す野生型より発光強度が増強された変異型ルシフェラーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報のバイオアッセイ・バイオイメージングを目的とした細胞内での発現を安定化され、発光量が増幅された変異型赤色発光ルシフェラーゼの遺伝子構築体、その組み合わせ、該遺伝子構築体で形質転換された哺乳類細胞、細胞内における遺伝子発現の評価する方法や細胞イメージングに関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学の分野では、細胞内カルシウム量の変動、細胞内タンパク質のリン酸化、エネルギーであるATPの分布或いは遺伝子の転写活性の測定など、細胞内に起きるさまざまな現象を解析することが大変重要であり、解析する手段として各種分子プローブが作成され、イメージングが行われている。とりわけ細胞内イメージングツールとして各種蛍光タンパク質が用いられている。蛍光タンパク質は細胞内での発現とほぼ同時期に、補因子を必要とせず、単独で蛍光活性を持つ。蛍光タンパク質は細胞内で蛍光活性を指標として蛋白質の局在等に関するモニター蛋白質として利用されているが、励起光を必要とし不均一な蛍光収率等のため定量化は難しく、また、細胞に励起光を当てるため細胞が損傷され、長時間の観察には適していない。
【0003】
甲虫発光酵素ルシフェラーゼはレポーター遺伝子として、細胞に与える外来因子の影響の評価、細胞内情報伝達の伝播、或は個々のタンパク質群の発現解析等に用いられている。例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子に転写活性領域を連結した遺伝子構築体を作製して細胞内に導入し、この細胞を一定時間、薬剤等で処理した後、細胞を集めて溶解し、発光基質を加えて、細胞内で合成されたルシフェラーゼ量を測定することで、転写活性を評価するシステムが挙げられる。ルシフェラーゼの発光量から転写活性を評価するので定量性に優れており、既に多くの会社から本システム関連製品が開発、市販化されている。
【0004】
甲虫ルシフェラーゼにはpHに連動して発光色を変えるホタルルシフェラーゼ群と発光色を変えないヒカリコメツキムシや鉄道虫由来ルシフェラーゼ群の2種類がある。そのうちアメリカ産ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼについて、in vitroで半減期が2−25倍程度、熱安定性を向上させた変異体において、細胞内での発光シグナルの向上が見られ、細胞内のイメージングに適したルシフェラーゼであると報告された(非特許文献1)。しかしながら、発光色の多様性に目を向けたマルチ遺伝子発現(マルチ遺伝子転写活性測定システム:近江谷克裕、中島芳浩;特許文献1)のように発光色の識別を前提とした用途においては、ホタルルシフェラーゼは発光色を変えるためイメージングプローブとして識別は不可能である。
【0005】
発光色を変えないイメージングに適した甲虫ルシフェラーゼとしてヒカリコメツキムシ由来の緑色発光ルシフェラーゼがある。ホタルルシフェラーゼ、例えばアメリカ産ホタル(Photinus pyralis)由来の野生型ルシフェラーゼに比べて細胞内での安定性が高く、発光強度が100倍以上向上している(特許文献2)。このルシフェラーゼを細胞内の種々のオルガネラに局在させた場合、発光シグナルを通じオルガネラの動態を数日間に渡って追跡することが可能である(非特許文献2)。また、イメージング用に作られたヒカリコメツキムシ由来緑色発光ルシフェラーゼを元に遺伝子改変した変異型ルシフェラーゼが作られ、発光強度が野生型の1%以下ではあるが、最大発光波長が619nmのものがある(特許文献3)。
【0006】
色識別を前提とし、生きた細胞内で発光強度が強くイメージングに適した、pHに連動して発光色を変えず識別可能であるルシフェラーゼとして、ヒカリコメツキムシ由来の緑、橙、赤色発光ルシフェラーゼがあるが、変異体を含めて最大発光波長は619nm以下しかない。最大発光波長が長波長側にシフトするほどフィルターで色識別が容易になり高感度・高分解のイメージングが可能になる。また、in vivoイメージングにおいて体内での透過性が高くなり、高感度の測定が可能になる。
【0007】
因子が生体に与える影響を評価することは、薬剤を評価し新薬を開発する上で、或いは化学物質の毒性を評価する上でも大変に重要である。従来より、マウスなどの生物個体を用いた計測・評価から、細胞組織・集団を用いた計測・評価が、さらに一つの細胞レベルで細胞間、細胞内の情報変化より外来因子を評価することが行われつつある。よって光イメージングの用途は広い。この際、発光イメージングは蛍光イメージングを補う形で重要性を増しており、特にin vivoのイメージングではより近赤外光に近い赤色発光ルシフェラーゼは外部光もいらないことから有力な光となる。また、複数の細胞イメージングする上では2つの最大発光波長がより離れているものが効率的に色分割することから望ましい。
【0008】
In vivo生体内、in vitro細胞内、細胞間イメージングツールとしてルシフェラーゼを確立するためには、哺乳類細胞内におけるルシフェラーゼの高い安定性と比較的長いタンパク質質の寿命が望まれる。従来、哺乳類細胞の転写活性測定に用いられてきたアメリカ産ホタル、日本産ホタル、イリオモテボタル、南米産鉄道虫、ジャマイカ産ヒカリコメツキムシでは、充分な発光量と安定性が見られなかった。特にアメリカ産ホタル、日本産ホタルルシフェラーゼは細胞内のpH環境等で発光スペクトルが変化するため、安定な測定が難しい。pH環境等で発光スペクトルが変化しないイメージング用ルシフェラーゼはヒカリコメツキムシ由来の緑色発光ルシフェラーゼのみである。但しルシフェラーゼでは緑色、橙色、赤色発光ルシフェラーゼはあるが、最大発光波長が620nm以上を越えるイメージングに適したものはない(特許文献2、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/099421
【特許文献2】特開2007−159567号公報
【特許文献3】特開2008−289475号公報
【特許文献4】特開2006−55082号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】BaggettB et al.: Thermostability of firefly luciferases affects efficiency of detection by in vivo bioluminescence. Mol Imaging. 2004 Oct;3(4):324-32.
【非特許文献2】Viviani VR (2002) The origin, diversity and structure-function relationships of insect luciferases. Cell Mol Life Sci 59: 1833-1850.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞内のpHに非感受性でフィルター等により色識別可能な最大発光波長620nm以上の赤色の発光であり、かつ、細胞のダメージがほとんどあるいは全くなく、個々の細胞内についての長時間のイメージングを可能にする遺伝子構築物および形質転換細胞、特に形質転換ヒト細胞を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、発光酵素を分割して融合タンパク質として細胞内に導入し、発光酵素の各部分と融合した各蛋白質の相互作用をイメージングする方法、イメージング可能な形質転換細胞およびこのような融合タンパク質をコードする遺伝子構築物の組合せを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、赤色の光を発する変異型鉄道虫由来ルシフェラーゼを取得すべく種々検討した結果、野生型ルシフェラーゼ遺伝子に対して変異導入処理を施して変異型ルシフェラーゼ遺伝子を取得し、該遺伝子をベクターDNAに挿入した遺伝子構築体を含む細胞を培養すれば、野生型ルシフェラーゼの波長とほぼ同程度の赤色の発光波長を有し、哺乳類細胞内において強い発光強度有する変異型ルシフェラーゼを得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の変異型ルシフェラーゼ、変異型ルシフェラーゼをコードする遺伝子、それらの遺伝子を含む遺伝子構築体、遺伝子構築体を含む形質転換細胞、並びに形質転換細胞を用いたイメージング方法、遺伝子導入生物を用いたイメージング方法、及び転写活性測定方法を提供するものである。
【0015】
項1
鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼであって、哺乳類細胞内での発光強度が野生型ルシフェラーゼと比較して、少なくとも3倍以上上昇した変異型ルシフェラーゼ。
【0016】
項2 哺乳類細胞内におけるピーク強度の発光波長が、600〜635nmであることを特徴とする、項1に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0017】
項3 鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼがPhrixothrix属由来ルシフェラーゼである項1または2に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0018】
項4 212位のイソロイシン及び/又は351位のアスパラギンが他のアミノ酸に置換された項3に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0019】
項5 212位のイソロイシンが置換される他のアミノ酸が、ロイシン、アスパラギン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、およびフェニルアラニンからなる群より選択されてなる項4に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0020】
項6 212位のイソロイシンが置換される他のアミノ酸が、ロイシンであることを特徴とする項5に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0021】
項7 351位のアスパラギンが置換される他のアミノ酸が、リシン、イソロイシン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、およびフェニルアラニンからなる群より選択されてなる項4〜6のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0022】
項8 351位のアスパラギンが置換される他のアミノ酸が、リシンであることを特徴とする項4〜7のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0023】
項9 配列番号3〜7のいずれか1つに記載の遺伝子配列によってコードされる、項1または2に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【0024】
項10 項1〜9のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼをコードする遺伝子。
【0025】
項11 項10に記載の遺伝子を含むベクター。
【0026】
項12 項10に記載の遺伝子を用いて形質転換された形質転換細胞。
【0027】
項13 前記細胞が哺乳類細胞である項12に記載の形質転換細胞。
【0028】
項14 前記哺乳類細胞がヒト細胞である項13に記載の形質転換細胞。
【0029】
項15 細胞内のオルガネラのイメージングのための項12〜14のいずれか1つに記載の形質転換細胞を使用する方法。
【0030】
項16 転写活性測定のための項12〜14のいずれかに記載の形質転換細胞を使用する方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、野生型鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼに近い発光色を保持し、かつ哺乳類細胞内での発光強度が増強された、イメージングに適した赤色発光プローブの供給が可能となった。これによって細胞内イメージングを多色化、マルチ化し行うことができる。また、生体透過性の高い赤色発光によるin vivoイメージングも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ウエスタンブロット法による細胞溶解液中の変異体量の比較(A)、及び発光活性の比較(B)
【図2】野生型及び変異型赤色ルシフェラーゼの発光スペクトル
【図3】野生型及び変異型赤色ルシフェラーゼの哺乳類細胞における発光量の経時的な変化(A)及び24時間における発光量の積算値(B)
【図4】野生型及び変異型赤色ルシフェラーゼ(SLR-N351K及びSLR-I212L/N351K)の哺乳類細胞におけるin vivo細胞発光イメージング画像の一例(A)及び細胞発光量の積算値(B)
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。また、この発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はSambrook and Maniatis,” Molecular Cloning A Laboratory Manual ”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001; Ausubel, F. M. et al. ” Current Protocols in Molecular Biology ”, John Wiley & Sons, New York, N. Y, 2007等に記載されている。
【0034】
本発明の変異型ルシフェラーゼ活性とは、ルシフェリンを基質とした酵素反応の活性を表し、基質のルシフェリンが酵素反応によって励起状態になったあと、基底状態に戻る際に発する光を検出することによって測定される。
【0035】
本発明における鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼとは、鉄道虫に由来する赤色発光ルシフェラーゼであって、具体例としては配列番号1に示すアミノ酸配列が挙げられる。また、これをコードする遺伝子配列の例として配列番号2に示すポリヌクレオチド配列 が挙げられる。
【0036】
本発明における赤色発光ルシフェラーゼとは、ルシフェリン存在下に600〜635nmの最大波長の発光をし得る酵素である。より好ましくは620〜635nmの最大波長である。
【0037】
本発明の哺乳類とは、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌなどが挙げられる。好ましくはヒト、サル、マウス、ラット、ハムスターである。最も好ましくはマウスである。
【0038】
本発明における哺乳類細胞とは、上記哺乳類動物から得られる初代培養細胞であっても、不死化処理が施された株化細胞であっても良い。株化細胞の例としては、ヒト由来のHela細胞、アフリカミドリザル由来のCOS7細胞、マウス由来の3T3細胞、ハムスター由来のCHO細胞、ラット由来のPC12細胞などが挙げられる。
【0039】
本発明の変異型ルシフェラーゼは、野生型ルシフェラーゼと比較してほぼ同程度のルシフェリン存在下における最大発光波長を発光し得る。その最大発光波長の差は、20nm以下の範囲である。より好ましくは15nm以下、更に好ましくは10nm以下である。すなわち、上記の野生型ルシフェラーゼがルシフェリン存在下に発光させ得る赤色の範囲を逸脱しない範囲であればよい。
【0040】
本発明における212位のイソロイシンとは、上記の鉄道虫由来ルシフェラーゼの遺伝子配列において、配列番号8に記載の遺伝子配列とストリンジェントな条件下にてハイブリダイゼーションする部位に含まれ、配列番号8に記載の遺伝子配列中のcTC(太字部分)に対応する遺伝子がコードするアミノ酸であることを示す。具体例としては配列番号1に記載のアミノ酸配列中の212番目にあるイソロイシンがあげられる。
【0041】
本発明における212位のイソロイシンへの変異導入は、赤色発光ルシフェラーゼの哺乳類細胞内での発光強度を上昇させる目的を達成できるように、置換されるアミノ酸を選択すればよいものとする。具体的には、212位のイソロイシンが置換されるアミノ酸として、ロイシン、アスパラギン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、およびフェニルアラニンなどが挙げられる。好ましくは疎水性を調節する目的でバリン、ロイシンを選択することができる。更に好ましくはロイシンである。
【0042】
本発明における351位のアスパラギンとは、上記の鉄道虫由来ルシフェラーゼの遺伝子配列において、配列番号10に記載の遺伝子配列とストリンジェントな条件下にてハイブリダイゼーションする部位に含まれ、配列番号10に記載の塩基配列中のAAg(太字部分)に対応する遺伝子がコードするアミノ酸であることを示す。具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列中の351番目にあるアスパラギンがあげられる。
【0043】
本発明における351位のリシンへの変異導入は、赤色発光ルシフェラーゼの哺乳類細胞内での発光強度を上昇させる目的を達成できるように、置換されるアミノ酸を選択すればよいものとする。具体的には、351位のアスパラギンが置換されるアミノ酸としてリシン、イソロイシン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、またはフェニルアラニンなどが挙げられる。好ましくは正の電荷を有するリシン、アルギニンである。更に好ましくはリシンである。
【0044】
本発明の変異型ルシフェラーゼは、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼで、野生型に比べて哺乳類細胞で発現した際に発光強度を増した変異型ルシフェラーゼである。鉄道虫由来赤色変異型ルシフェラーゼの遺伝子としては、配列番号3〜7のいずれか1つの遺伝子が例示される。従って、配列番号1の遺伝子で規定される野生型ルシフェラーゼにおける212位のイソロイシン及び、或いは351位のアスパラギンが他のアミノ酸残基に置換された変異体が例示される。
【0045】
本発明におけるストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが生じ、非特異的なハイブリダイゼーションが生じないような条件を言う。このような条件は、「1×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaHPO,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中の42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する」条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明の変異型ルシフェラーゼ遺伝子を含むベクターには、必要に応じて変異型ルシフェラーゼ遺伝子を導入するためのマルチクローニングサイト、プロモータ配列、エンハンサー配列、ポリアデニレーション配列、インスレータ配列、選択マーカー遺伝子配列、複製起点を有していても良いものとする。ここで、哺乳類細胞を宿主細胞として本発明の変異型ルシフェラーゼを組換え体として発現させる場合は、さらに転写開始サイトとしてのKozak配列や、CMVプロモータのような強力なプロモータを有していることが望ましい。
【0047】
本発明の変異型ルシフェラーゼ遺伝子を含むベクターを哺乳類細胞内に導入する方法は、細胞導入後の用途に対して適当な公知の方法を選択して実施することができる。具体的な方法として、リポフェクション法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。
【0048】
本発明における哺乳類細胞内での発光強度は、上記方法によって変異型ルシフェラーゼ遺伝子が導入された形質転換細胞を、変異型ルシフェラーゼの基質となるルシフェリンを含有させた適当な培地にて培養することで形質転換細胞にルシフェリンを取り込ませた後に、形質転換細胞内で生じる酵素反応によって得られる発光を測定することが出来る。測定には公知の方法を用いることが可能で、フォトンカウンティング方式などによるルミノメータを用いた公知の方法にて測定することが出来る。
【0049】
更にフォトンカウンティング装置を備えた顕微鏡を用いることによって、培養細胞レベル、培養細胞の1細胞単位、もしくは1細胞内のオルガネラのイメージングを行うことが出来る。そこで、顕微鏡の観察雰囲気内にインキュベーター機能を備えることによって細胞を生きた状態にした、長時間のリアルタイム測定や、in vivoイメージングを行うことも可能である。
【0050】
本発明の変異型赤色発光ルシフェラーゼ遺伝子を用いることによって、特許文献2に記載された用途に用いることが出来る。その具体例を以下に示す。
【0051】
本発明の変異型遺伝子構築体で哺乳類細胞を形質転換した場合、該形質転換細胞は十分に高い発光量を得ることができる。異種タンパク質ないしタグを結合させると発光量が低下するため、何も結合させない場合であっても発光量が不十分である従来の遺伝子構築物では異種タンパク質ないしタグを結合させることは困難であった。一方、本発明では異種タンパク質ないしタグを結合させる発光酵素による発光量が非常に高いため、異種タンパク質ないしタグを結合させた状態で個々の哺乳類細胞のイメージングを行うことができる。
【0052】
本発明の発光酵素と融合される異種タンパク質としては、任意の異種タンパク質が挙げられ、本発明の発光酵素と融合されるタグとしてはPEST 配列又はユビキチン又はこれらの生物学的に活性な断片又はこれらの変異体若しくは誘導体をコードするヌクレオチド配列によりコードされる蛋白質不安定化シグナル、核局在化シグナル、膜局在化シグナル、細胞質局在化シグナル、ミトコンドリア局在化シグナル、ER局在化シグナルが挙げられる。上記のような本発明の発光酵素と融合した異種タンパク質若しくはタグを、発光色の異なるイメージング用緑色ルシフェラーゼなどと融合した他の異種タンパク質若しくはタグと同時に併用することで、細胞内の小器官を発光色の違いで識別することができる。
【0053】
上記の不安定化因子は、発光酵素蛋白質を不安定化するPEST配列等を使用してもよく、ポリAシグナルを欠如させたり、c-fos、c-jun 、c-myc 、GM-CSF、 IL-3 、TNF-α、IL-2、IL-6、IL-8、IL-10、ウロキナーゼ、bcl-2、Cox-2、PAI-2等の種々の遺伝子由来の配列を発光酵素遺伝子に連結して発光酵素のmRNAを不安定化してもよい。
【0054】
発光酵素蛋白質又はそのmRNAを不安定化することで、ある刺激に対する発光酵素の発現量の変化をより正確に(タイムラグなく)観察することができる。これは、哺乳類細胞中での発現効率がホタルよりも高い本発明の遺伝子構築体により初めて実現されるものである。
【0055】
タグとして使用されるPEST配列は、オルニチンデカルボキシラーゼの3‘末端又はその変異体が好ましく、オルニチンデカルボキシラーゼの3‘末端又はその変異体は哺乳類由来のものが好ましく、一般的によく使用されるのはマウス由来のものである 。なお、PESTは、プロリン(P)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びスレオニン(T)の豊富なアミノ酸配列を指し、PEST 配列を含むタンパク質は半減期が短いことが知られている。
【0056】
本発明の1つの実施形態では、ルシフェラーゼスプリットアッセイであって、発光酵素を例えばN末端部分とC末端部分の2つに分け、各々をコードするDNAを異種タンパク質と連結し、これらの遺伝子構築体を1つの細胞で共発現させる。ここで、発光酵素のN末端部分と発光酵素のC末端部分は別々に発現されるが、これらが近接した位置に来ると、発光するように設計することができる。
【0057】
本発明の変異型ルシフェラーゼの活性は、宿主の哺乳類細胞の細胞溶解液に含まれた状態で測定することも出来る。宿主細胞の溶解方法は、公知の方法を用いて行うことが出来る。具体的には、界面活性剤を含む生理的緩衝液によってホモジェナイズまたは超音波破砕することによって宿主細胞を溶解させる方法である。上記緩衝液には、タンパク質分解酵素の阻害剤が含まれていてもよいものとする。このような方法によって得られた変異型ルシフェラーゼを含む細胞溶解液を用いることで、ルシフェラーゼの活性を測定することが出来る。
【0058】
本発明における変異型ルシフェラーゼの基質となるルシフェリンは、公知のものを用いることが出来る。具体的にはD−ホタルルシフェリン、L−ホタルルシフェリン、D−ホタルルシフェリン6’ベンジルエーテル(luciferin-6’-benzyl ether、D−ホタルルシフェリン6’メチルエーテル(luciferin-6’-methyl etherなどが挙げられる。
【0059】
本発明の変異型ルシフェラーゼ活性測定は、変異型ルシフェラーゼを含む宿主細胞の細胞溶解液と混合させた後、フォトンカウンティング方式などによるルミノメータを用いた公知の方法にて測定することが出来る。また、発光スペクトルも同様に公知の方法にて測定することが可能である。ここで、基質となるルシフェリンは宿主細胞の溶解に用いる生理的緩衝液に含まれた形で存在し、細胞溶解操作と同時に変異型ルシフェラーゼと反応させても良いものとする。
【0060】
本発明における変異型ルシフェラーゼの製造法は、細胞内において合成した後に、精製することによって得られる。具体的な例として、特許文献4に記載された野生型ルシフェラーゼの製造法と同様の方法を用いて実施することが出来る。
【0061】
本発明の変異型ルシフェラーゼ遺伝子が導入された形質転換細胞を用いて、転写活性測定する方法は、公知の方法を参照することが可能であり、具体的な例としては特許文献2に記載された方法が挙げられる。
【0062】
具体的には、本発明における変異型ルシフェラーゼ遺伝子上流に転写活性(プロモーター活性)を有するか、有する可能性のある被験配列を連結した遺伝子カセットを細胞へ導入するか、または相同性組換えなどによって、ある被験配列下に変異型ルシフェラーゼ遺伝子を有する遺伝子が組み込まれた形質転換細胞を作成する。その後、前記の被験配列の転写制御下で発現される変異型ルシフェラーゼの活性を指標にして、該被験制御配列の転写活性を測定することが出来る。細胞への導入方法および変異型ルシフェラーゼの活性測定方法は、上述の方法によって実施できる。
【0063】
なお、本発明の変異型ルシフェラーゼ遺伝子に対して、上述のそれぞれ機能の期待を減殺しない範囲であれば、変異、置換、欠失、挿入、タンデム化などの改変を加えることは当業者が容易に実施できるものである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1
鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼ(Phrixothrix RED:PhRED)の野生型アミノ酸配列を保持し、コドンユーセージが哺乳類型に変更されたcDNA(配列番号2)をpCMVプロモータの下流に挿入したベクターを基本とした。本プラスミドを鋳型にルシフェラーゼの3つのアミノ酸残基を他の残基にすべくインバースPCR法による部位特的変異部位の導入を行った。変異導入は、部位特異的変異導入キットKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡績)をキット付属の取扱説明書に従い実施し、得られたプラスミドを用いて、大腸菌コンピテントセルDH5α(東洋紡績)の形質転換を行った。すなわち、212番目のIleに対応するコドンの位置をCTCにして(表1の太字部位)、これをPrimer#1(配列番号8)とした。また、背中合わせの逆方向の相補鎖をPrimer#2(配列番号9)とした。これによって212番目のIleがLueに変更された変異体SLR-I212Lを構築した。351番目のAsnに対応するコドンの位置をAAGにして(表1の太字部位)、これをPrimer#3(配列番号10)とした。また、背中合わせの逆方向の相補鎖をPrimer#4(配列番号11)とした。これによって、351番目のAsnがLysに変更された変異体SLR-N351Kを構築した。463番目のSerに対応するコドンの位置をCGTにして(表1の太字部位)、これをPrimer#5(配列番号12)とした。また、背中合わせの逆方向の相補鎖をPrimer#6(配列番号13)とした。これによって、463番目のSerが、Argに変更されたSLR-S463Rを構築した。変異の配列の確認はシークエンサー(ABI3100; Applied Biosystems)で行った。1つのアミノ酸残基を変異させた部位特異的変異体を基本にさらに変異を加え、最終的に5種(SLR-I212L;配列番号3、SLR-N351K;配列番号4、SLR-S463R;配列番号5、SLR-I212L/N351K;配列番号6、SLR-I212L/S463R;配列番号7)作成した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例2
作成された変異が導入されたベクターはマウス由来のNIH3T3細胞に遺伝子導入した。細胞はDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM; Sigma-Aldrich) 10% FBS培地にて5% CO2の37℃の条件で培養した。遺伝子導入する前日に35 mmディッシュあたりの細胞数を3×105cellsとした。遺伝子のプラスミド量を1000 ng/dishとしLipofectamine PLUS (インビトロジェン社)にて遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、48時間後に細胞を回収、細胞をPBSで洗浄後、タカラバイオ製の細胞溶解剤(M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent)150μlで溶かし、その一部の25μlに対してルシフェリン溶液((LARII; Promega)を50μl加え、直ちに20秒間の積算測定によって発光活性を測定した。測定にはATTO(AB-2250)を使用した。一方、細胞溶解液のタンパク質量をバイオラッド社のProtein Assay kitで測定、2μgのサンプルをSDS−PAGE電気泳動を行い、膜に転写、ウエスタンブロットを行った。一次抗体として精製赤色ルシフェラーゼをウサギに免疫して調製された抗血清を2500倍希釈して使用し、2次抗体としてhorseradish peroxidase-conjugated anti-rabbit IgG (Jackson ImmunoResearch)を用いた。ECL Western Blotting Detection Reagents (GEヘルスケアバイオサイエンス)で発光させ、LAS-4000miniPR(富士フィルム)で発光量をイメージング化した。(記載が不十分かと思い、少し補足させていただきましたので、ご確認お願いします)。 図1Aは、ウエスタンブロットした結果であり、タンパク質の発現は若干の差があるものの同程度であった。図1Bは個々の発光量をタンパク質の発現量でノーマライズしたものである。これによると野生型に比べて、SLR-I212L、SLR-I212L/N351K、SLR-I212L/S463Rの3種で発光量が8倍前後に増加した。
【0067】
実施例3
各種変異体の発光スペクトルを測定した。測定はアトー社製AB-1850Sを使用、細胞溶解液15 μlにルシフェリン溶液((LARII; Promega)を15μl加え測定した。変異体5種のうち、SLR-I212L、SLR-S463R、SLR-I212L/S463Rは野生型とほぼ同じであったが、SLR-N351K、SLR-I212L/N351Kは10nmほど全体に発光スペクトルがブルーシフトしたが、全ての変異体の最大発光波長は620nm以上であった(図2)。
【0068】
実施例4
実施例1で作成した各種プラスミド1000 ng/dishを35mmディッシュに培養したマウス由来のNIH3T3細胞に遺伝子導入した。遺伝子導入20時間後、100 μM D-ルシフェリン(DMEM 培地に10% FBS, 20 mM Hepes/NaOH (pH 7.0))に置き換え、連続発光量測定装置アトー社AB-2500に入れ、5% CO2 20℃の環境下、20分間隔で1分間の発光量の積算を行いながら約30時間にわたり発光活性の変化を測定した。図3Aは野生型及び各種変異体の発光活性の変化を調べたものであり、繰り返し行い再現性を確認した。その結果、SLR-N351K及びSLR-I212L/N351Kで高い発光量示すことが明らかになった。この違いを定量的に検討するため、24時間の発光量を積算した。図3Bは積算量を表したものであるが、SLR-N351K及びSLR-I212L/N351K共に野生型に比べて5倍以上の発光量が向上していることを示していた。
【0069】
実施例5
生細胞において変異体において発光強度の向上が見られたことから、野生型及び発光値が上昇したSLR-N351K及びSLR-I212L/N351Kのin vivo細胞イメージングを行った。同量の遺伝子ベクターをマウス由来のNIH3T3細胞に遺伝子導入後、細胞発光イメージング装置アトー社製セルグラフAB-3000Bにて発光計測を行った。図4Aはin vivo細胞発光イメージング画像の一例であるが、繰り返し映像を集め確認した。SLR-N351Kにおいて特に発光強度の高い画像が得られた。この発光量の変化を明らかにするため、Metamorph (Universal Imaging, Brandywine)のソフトを用いて解析した結果が図4Bである。野生型に比べてSLR-N351Kで4倍以上のSLR-I212L/N351Kにおいて3.5倍以上の明るい画像が得られることが明らかとなった。
【0070】
これらの結果、野生型の赤色ルシフェラーゼが最も赤色の波長を含むルシフェラーゼであるが、620nm以上の最大発光波長をもつルシフェラーゼとして、哺乳類細胞内において安定且つ高強度赤色ルシフェラーゼとしてSLR-N351K及びSLR-I212L/N351K変異体が実用可能でること明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、甲虫シフェラーゼとして620nm以上のピーク波長を有する生きた細胞において高強度の発光を示す変異型ルシフェラーゼを提供する。特に、野生型鉄道虫由来ルシフェラーゼ遺伝子より高強度発光量で、より安定な変異型赤色鉄道虫由来のルシフェラーゼを得ることが可能となる。これらの変異型赤色鉄道虫由来のルシフェラーゼは、細胞あるいは組織透過性に優れるため、in vivo発光イメージングに好適となる。また、ATP検出において、赤色等の有色溶液中の物質、例えば、血液中のATP含有量を測定するといった場合において、測定感度を向上させることが可能となる。さらに、野生型と変異型、あるいは、ピーク発光波長の異なる2種類の変異型ルシフェラーゼを用いて、2色のレポーター遺伝子を用いることが可能となり、例えば、複数の遺伝子の転写活性を同時に測定すること等に利用することができ、創薬・医療・食品検査などの産業界に寄与することが大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼであって、哺乳類細胞内での発光強度が野生型ルシフェラーゼと比較して、少なくとも3倍以上上昇した変異型ルシフェラーゼ。
【請求項2】
哺乳類細胞内におけるピーク強度の発光波長が、600〜635nmであることを特徴とする、請求項1に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項3】
鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼがPhrixothrix属由来ルシフェラーゼである請求項1または2に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項4】
212位のイソロイシン及び/又は351位のアスパラギンが他のアミノ酸に置換された請求項3に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項5】
212位のイソロイシンが置換される他のアミノ酸が、ロイシン、アスパラギン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、およびフェニルアラニンからなる群より選択されてなる請求項4に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項6】
212位のイソロイシンが置換される他のアミノ酸が、ロイシンであることを特徴とする請求項5に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項7】
351位のアスパラギンが置換される他のアミノ酸が、リシン、イソロイシン、スレオニン、セリン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、チロシン、システイン、およびフェニルアラニンからなる群より選択されてなる請求項4〜6のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項8】
351位のアスパラギンが置換される他のアミノ酸が、リシンであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項9】
配列番号3〜7のいずれか1つに記載の遺伝子配列によってコードされる、請求項1または2に記載の変異型ルシフェラーゼ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の変異型ルシフェラーゼをコードする遺伝子。
【請求項11】
請求項10に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の遺伝子を用いて形質転換された形質転換細胞。
【請求項13】
前記細胞が哺乳類細胞である請求項12に記載の形質転換細胞。
【請求項14】
前記細胞がヒト細胞である請求項13に記載の形質転換細胞。
【請求項15】
細胞内のオルガネラのイメージングのための請求項12〜14のいずれか1つに記載の形質転換細胞を使用する方法。
【請求項16】
転写活性測定のための請求項12〜14のいずれかに記載の形質転換細胞を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−50258(P2011−50258A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199543(P2009−199543)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高機能簡易型有害性評価手法の開発/培養細胞を用いた有害性評価手法の開発/高機能毒性予測試験法基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】