説明

バイオエタノールの製造方法

【課題】植物体であるバイオマスを簡単な方法で効率よくエタノール化する方法を提供する。
【解決手段】セルロースを含有する植物体をpH12以上のカセイカリまたはカセイソーダの水溶液に浸漬するアルカリ処理工程、前記アルカリ処理工程で処理された植物体をpH1〜5のクエン酸水溶液に浸漬し該クエン酸水溶液とともに90〜140℃に加熱し、植物体を浸漬した状態の前記クエン酸水溶液にカセイカリまたはカセイソーダを加えて該クエン酸水溶液のpHを5を越えて7.5以下になるように調整し、調整された水溶液を発酵させる、発酵した水溶液からエタノールを抽出するバイオエタノールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエタノールを得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールの製造方法としては、例えば、バイオマスの水スラリーを圧力4〜40MPaに加圧し、加圧された水スラリーを火力発電装置のボイラから供給される蒸気と反応器内で熱交換させることにより前記圧力での飽和温度以下かつ250〜400℃の範囲の温度に加熱して前記バイオマスに含有されるヘミセルロースおよびセルロースを加水分解して糖を生成し、生成された糖を発酵させるバイオエタノールの製造方法が知られている。(例えば、特許文献1参照)また、セルロースを酵素糖化させて得た糖を発酵させてエタノールを得る方法が知られている。(例えば、特許文献2参照)
【0003】
これらは大規模な高圧装置あるいは高価なセルロース糖化酵素を使用することが工業化のうえでネックとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−182925号公報
【特許文献2】特開2008−161125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、植物体であるバイオマスを簡単な方法で効率よくエタノール化する方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、セルロースを含有する植物体をpH12以上のカセイカリまたはカセイソーダの水溶液に浸漬するアルカリ処理工程、
前記アルカリ処理工程で処理された植物体をpH1〜5のクエン酸水溶液に浸漬し該クエン酸水溶液とともに90〜140℃に加熱する加熱工程、
前記植物体を浸漬した状態の前記クエン酸水溶液にカセイカリまたはカセイソーダを加えて該クエン酸水溶液のpHを5を越えて7.5以下になるように調整するpH調整工程、
調整された水溶液を発酵させる発酵工程、
発酵した水溶液からエタノールを抽出する抽出工程
を含むバイオエタノールの製造方法であることにある。
【0007】
前記バイオエタノールの製造方法においては、前記発酵工程が、前記pH調整工程で調整された水溶液にさらに大根を加えた液を発酵させる工程であり得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、植物体であるバイオマスから簡単な方法で効率よくバイオエタノールを得る製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のバイオエタノールの製造方法は、
セルロースを含有する植物体をpH12以上のカセイカリまたはカセイソーダの水溶液に浸漬するアルカリ処理工程、
前記アルカリ処理工程で処理された植物体をpH1〜5のクエン酸水溶液に浸漬し該クエン酸水溶液とともに90〜140℃に加熱する加熱工程、
前記植物体を浸漬した状態の前記クエン酸水溶液にカセイカリまたはカセイソーダを加えて該クエン酸水溶液のpHを5を越えて7.5以下になるように調整するpH調整工程、
調整された水溶液を発酵させる発酵工程、
発酵した水溶液からエタノールを抽出する抽出工程
を含んで構成される。
【0010】
本発明に用いられる植物体はセルロースを含有するものであり、ほかにリグノセルロースが含有されていてもよい。本発明に用いられる植物体としては、松、杉、檜、その他の樹木などの山野に生息する樹木や山野に生息する草木類や湖沼などの水系環境に生息する藻類、水草類が例示される。
【0011】
上記アルカリ処理工程にあっては、カセイカリまたはカセイソーダの水溶液100重量部に対して植物体が5〜15重量部(乾燥重量)用いられることが好ましい。アルカリ処理工程における処理液の温度は室温〜100℃が好ましい。処理時間は、処理液の温度が室温の場合は20〜40時間が好ましい。適した処理時間は処理液の温度が高いほど短くなり、処理液の温度が100℃の場合は1〜2分が好ましい。処理時間が長くなりすぎると液が黒ずんできて、上記加熱工程におけるセルロースの糖化が阻害される。
【0012】
カセイカリまたはカセイソーダの水溶液には植物体の処理によりリグニン等の非セルロースの多糖類を含む不純物が溶出するので、アルカリ処理によりこれら不純物が植物体から除去され後工程での発酵が効率よく行われる。上記加熱工程にあっては、アルカリ処理工程で処理された植物体を水洗したのちpH1〜5のクエン酸水溶液に浸漬し該クエン酸水溶液とともに90〜140℃に加熱することが好ましい。加熱時間は10〜50時間が好ましい。上記加熱工程により、植物体のセルロースが糖化される。この加熱工程においてはクエン酸水溶液100重量部に対して植物体がもとの乾燥重量換算で5〜15重量部投入されていることが好ましい。
【0013】
上記pH調整工程においては、処理された植物体を含む加熱工程後の処理液を室温あるいは室温に近い温度に冷却した後カセイカリまたはカセイソーダを加えることが好ましい。また、この冷却の前または後に処理された植物体を含む加熱工程後の処理液をミキサーで攪拌することが好ましい。
【0014】
上記発酵工程にあっては、pH調整工程で処理された植物体を含む加熱工程後の処理液に酵素、酵母、または微生物を添加して発酵を行わせる。pH調整工程で処理された植物体を含む加熱工程後の処理液を5時間以上、特に10〜100時間発酵可能温度に保つことが好ましい。この発酵可能温度としては酵素や酵母の種類にもよるが20〜37℃が好ましい。この発酵過程において、発酵にかかわる酵素がクエン酸塩に作用し、この作用が発酵の促進に寄与する。
【0015】
また、上記発酵工程にあっては、pH調整工程で処理された植物体を含む加熱工程後の処理液に酵素、酵母、または微生物と大根を添加して発酵を行わせることがさらに好ましい。大根は当初投入された植物体100重量部に対して3〜5重量部添加されることが好ましい。これにより、エタノールの収率が2〜3割程度向上する。
【0016】
上記発酵工程において、処理液中の糖がエタノールに転化する。
【0017】
上記抽出工程における、液中のエタノールを抽出する方法は特に限定されず、例えば、蒸留により多段濃縮する常法を用いることができる。
【0018】
本発明により、乾燥した植物体に対して15重量%以上のエタノールを得ることができる。
【0019】
本発明の植物体糖化方法にあっては、草木類を用いる場合、カセイカリまたはカセイソーダの水溶液に浸漬する前に草木類を加圧盤で挟んで加圧して形態をほぐすことが糖化の効率上好ましい。
【0020】
本発明により植物体に含まれるセルロースを効率よく糖化することができる。また、本発明は高圧装置や高価なセルロース糖化酵素を購入して使用することがないので経済的である。
【実施例】
【0021】
実施例1
試料として琵琶湖に生息している水草(オオカナダモ)(乾燥重量300g)を用い、pH13のカセイカリ水溶液3Lに24時間浸漬したのち水洗し、pH2のクエン酸水溶液4Lに投入した。この試料を投入状態のクエン酸水溶液を121℃に昇温し、10時間この温度にキープした。次いでこの試料を投入状態のクエン酸水溶液を室温に自然冷却後カセイカリを加えて中和し、ミキサーで攪拌した。次いでこの液に酵母(白神コダマ酵母 ドライ)を2g加えて室温で24時間発酵させた。発酵液を2段蒸留して濃度80重量%のエタノール水溶液50mLを得た。
【0022】
実施例2
試料として琵琶湖に生息している水草(オオカナダモ)(乾燥重量300g)を用い、pH13のカセイカリ水溶液3Lに24時間浸漬したのち水洗し、pH2のクエン酸水溶液4Lに投入した。この試料を投入状態のクエン酸水溶液を121℃に昇温し、10時間この温度にキープした。次いでこの試料を投入状態のクエン酸水溶液を室温に自然冷却後カセイカリを加えて中和し、次いでこの液に大根15gを加えてミキサーで攪拌した。次にこの液に酵母(白神コダマ酵母 ドライ)を2gと室温で24時間発酵させた。発酵液を2段蒸留して濃度80重量%のエタノール水溶液67mLを得た。
【0023】
比較例1
試料として琵琶湖に生息している水草(オオカナダモ)(乾燥重量300g)を用い、pH2のクエン酸水溶液4Lに投入した。この試料を投入状態のクエン酸水溶液を121℃に昇温し、10時間この温度にキープした。次いでこの試料を投入状態のクエン酸水溶液を室温に自然冷却後カセイカリを加えて中和し、ミキサーで攪拌した。次いでこの液に酵母(白神コダマ酵母 ドライ)を2g加えて室温で24時間発酵させた。発酵液を2段蒸留したがエタノールの生成は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により得られるエタノールは石油系の燃料の代替として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有する植物体をpH12以上のカセイカリまたはカセイソーダの水溶液に浸漬するアルカリ処理工程、
前記アルカリ処理工程で処理された植物体をpH1〜5のクエン酸水溶液に浸漬し該クエン酸水溶液とともに90〜140℃に加熱する加熱工程、
前記植物体を浸漬した状態の前記クエン酸水溶液にカセイカリまたはカセイソーダを加えて該クエン酸水溶液のpHを5を越えて7.5以下になるように調整するpH調整工程、
調整された水溶液を発酵させる発酵工程、
発酵した水溶液からエタノールを抽出する抽出工程
を含むバイオエタノールの製造方法。
【請求項2】
前記発酵工程が、前記pH調整工程で調整された水溶液にさらに大根を加えた液を発酵させる工程である、請求項1に記載のバイオエタノールの製造方法。

【公開番号】特開2012−100594(P2012−100594A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252747(P2010−252747)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【特許番号】特許第4713688号(P4713688)
【特許公報発行日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(597150865)
【Fターム(参考)】