説明

バイオセンサー

【課題】 センサー表面を傷つけることなく少なくとも2種類以上の表面がパターニングされ、これにより非特異吸着を抑制したバイオセンサーを提供すること。
【解決手段】 疎水性高分子化合物でコーティングした基板から成るバイオセンサーであって、光活性基を有する化合物で修飾されている上記のバイオセンサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサー及びそれを用いた生体分子間の相互作用を分析する方法に関する。特に本発明は、表面プラズモン共鳴バイオセンサーに用いるためのバイオセンサー及びそれを用いた生体分子間の相互作用を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査等で免疫反応など分子間相互作用を利用した測定が数多く行われているが、従来法では煩雑な操作や標識物質を必要とするため、標識物質を必要とすることなく、測定物質の結合量変化を高感度に検出することのできるいくつかの技術が使用されている。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術である。SPR測定技術はチップの金属膜に接する有機機能膜近傍の屈折率変化を反射光波長のピークシフト又は一定波長における反射光量の変化を測定して求めることにより、表面近傍に起こる吸着及び脱着を検知する方法である。QCM測定技術は水晶発振子の金電極(デバイス)上の物質の吸脱着による発振子の振動数変化から、ngレベルで吸脱着質量を検出できる技術である。また、金の超微粒子(nmレベル)表面を機能化させて、その上に生理活性物質を固定して、生理活性物質間の特異認識反応を行わせることによって、金微粒子の沈降、配列から生体関連物質の検出ができる。
【0003】
上記した技術においては、いずれの場合も、生理活性物質を固定化する表面が重要である。以下、当技術分野で最も使われている表面プラズモン共鳴(SPR)を例として、説明する。
【0004】
一般に使用される測定チップは、透明基板(例えば、ガラス)、蒸着された金属膜、及びその上に生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜からなり、その官能基を介し、金属表面に生理活性物質を固定化する。該生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定することによって、生体分子間の相互作用を分析する。
【0005】
生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜としては、金属と結合する官能基、鎖長の原子数が10以上のリンカー、及び生理活性物質と結合できる官能基を有する化合物を用いて、生理活性物質を固定化した測定チップが報告されている(特許文献1を参照)。また、金属膜と、該金属膜の上に形成されたプラズマ重合膜からなる測定チップが報告されている(特許文献2を参照)。
【0006】
生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定する場合、検体物質は必ずしも単一成分ではなく、例えば細胞抽出液中などのような不均一系で検体物質を測定することも要求される。その場合、種々の蛋白質、脂質などの夾雑物が検出表面に非特異的な吸着を起こすと、測定検出感度が著しく低下する。上記の検出表面では、非特異吸着が極めて起こりやすく問題があった。この問題を解決するためにいくつかの方法が検討されている。例えば、金属表面にリンカーを介し、親水性のハイドロゲルを固定化することで、物理吸着を抑制する方法も使用されてきた(特許文献1、特許文献3及び特許文献4を参照)。しかしながら、この方法でも非特異吸着の抑制性は十分なレベルではなかった。
【0007】
一方、上記のようなバイオセンサーにおいて、生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定するための測定部と、このような結合反応を行わない対照部とは、同一平面に存在し、かつ、できるだけ近接していることが、測定上の外乱(温度変化、濃度変化、圧力変化)の影響を除去してベースライン変動を少なくする上で好ましい。そのためには、ポリマー薄膜を用いたSPRセンサー表面に参照部と測定部を共存させる必要が出てきた。
【0008】
特許文献5には、生物学的リガンドをポリマー表面にマイクロスタンピングする方法であって、少なくとも、加水分解、還元、光開始的グラフト重合、アミノ化、ポリエチレンオキサイドの表面交差重合、末端水酸基の化学反応、コロナ放電、プラズマエッチング、レーザー処理、イオンビーム処理のうちひとつから選ばれた方法によってポリマー表面に第一の官能基を形成し、その表面に少なくとも第二の官能基を持つ一つの生物学的リガンドを吸着させたスタンプを接触させてポリマー表面の第一の官能基と共有結合を形成させ、そして、スタンプをポリマー表面から分離することにより生化学的なリガンドを直接共有結合的にポリマー表面に固定する方法が記載されている。上記方法においては、ポリマーフイルムに固体(PDMS)を接触させてパターニングしている。しかしながら、SPR用途のセンサーは、金属薄膜の上にポリマー薄膜を付けた表面であるために物理的な強度が小さく、固体の接触はセンサー表面を傷つけることになることから、上記方法はSPR用途には適さない。
【0009】
【特許文献1】特許第2815120号
【特許文献2】特開平9−264843号
【特許文献3】米国特許第5436161号
【特許文献4】特開平8−193948号公報
【特許文献5】米国特許第6,444,254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記した問題点を解消することを解決すべき課題とした。特に、本発明は、センサー表面を傷つけることなく少なくとも2種類以上の表面がパターニングされ、これにより非特異吸着を抑制したバイオセンサーを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、疎水性高分子化合物でコーティングした基板に光活性基を有する化合物を接触させた後に、光照射によりパターニングを行うことにより所望のバイオセンサーを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、疎水性高分子化合物でコーティングした基板から成るバイオセンサーであって、光活性基を有する化合物で修飾されている上記のバイオセンサーが提供される。
【0013】
好ましくは、本発明のバイオセンサーにおいては、基板に光照射を施すことにより少なくとも2種類以上の表面がパターニングされている。
好ましくは、基板は金属表面あるいは金属膜である。
好ましくは、金属表面あるいは金属膜は、金、銀、銅、白金又はアルミニウムからなる群より選ばれる自由電子金属からなるものである。
【0014】
好ましくは、金属膜の厚さは1オングストロームから5000オングストロームである。
好ましくは、疎水性高分子化合物のコーティング厚さは1オングストローム以上5000オングストローム以下である。
【0015】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、基板上の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有する。
好ましくは、光活性基を有する化合物が、生理活性物質を固定化することができる官能基を有している。
好ましくは、生理活性物質を固定化することができる官能基は、−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基である。
【0016】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、基板上の最表面上の所定の領域であって光照射によりパターニングされた領域に、生理活性物質を固定化することができる官能基を有する。
【0017】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、非電気化学的検出に使用され、さらに好ましくは表面プラズモン共鳴分析に使用される。
【0018】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるための測定チップであって、上記誘電体ブロックと上記金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている上記の測定チップに形成されている。
【0019】
本発明の別の側面によれば、疎水性高分子化合物でコーティングした基板に光活性基を有する化合物を接触させる工程を含む、上記した本発明のバイオセンサーの製造方法が提供される。
好ましくは、疎水性高分子化合物でコーティングした基板に光活性基を有する化合物を接触させる工程、及び該基板の所定の領域のみにパターニングしながら光を照射する工程を含む、上記した本発明のバイオセンサーの製造方法が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の側面によれば、生理活性物質が共有結合により表面に結合している、上記した本発明のバイオセンサーが提供される。
好ましくは、光活性基を有する化合物を用いて生理活性物質が固定化されている、上記のバイオセンサーが提供される。
好ましくは、同一面内に少なくとも、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を結合させた測定部と、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を有さない参照部とが存在する。
【0021】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のバイオセンサーと生理活性物質とを接触させて、該バイオセンサーの表面に該生理活性物質を共有結合により結合させる工程を含む、バイオセンサーに生理活性物質を固定化する方法が提供される。
【0022】
本発明のさらに別の側面によれば、生理活性物質が共有結合により表面に結合している本発明のバイオセンサーと被験物質とを接触させる工程を含む、該生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法が提供される。
好ましくは、生理活性物質と相互作用する物質を非電気化学的方法により検出または測定し、さらに好ましくは、生理活性物質と相互作用する物質を表面プラズモン共鳴分析により検出または測定する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、センサー表面を傷つけることなく少なくとも2種類以上の表面がパターニングされ、これにより非特異吸着を抑制したバイオセンサーを提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のバイオセンサーは、疎水性高分子化合物でコーティングした基板から成るバイオセンサーであって、光活性基を有する化合物で修飾されていることを特徴とする。さらに好ましくは、本発明のバイオセンサーは、基板に光照射を施すことにより少なくとも2種類以上の表面がパターニングされていることを特徴とする。
【0025】
先ず、本発明で用いる疎水性高分子化合物について説明する。
本発明で用いる疎水性高分子化合物は、吸水性を有しない高分子化合物であり、水への溶解度(25℃)が10%以下、より好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0026】
疎水性高分子化合物を形成する疎水性単量体としては、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、アリル化合物類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類等から任意に選ぶことができる。疎水性高分子化合物としては、1種類のモノマーから成るホモポリマーでも、2種類以上のモノマーから成るコポリマーでもよい。
【0027】
本発明で好ましく用いられる疎水性高分子化合物としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルクロライド、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ナイロンなどが挙げられる。
【0028】
疎水性高分子化合物の基板へのコーティングは常法によって行うことができ、例えば、スピン塗布、エアナイフ塗布、バー塗布、ブレード塗布、スライド塗布、カーテン塗布、さらにはスプレー法、蒸着法、キャスト法、浸漬法等によって行うことができる。
【0029】
浸漬法は、基板を疎水性高分子化合物溶液に接触させた後に、前記疎水性高分子化合物溶液を含まない液に接触させる方法でコーティングを行う。好ましくは、疎水性高分子化合物溶液の溶剤と疎水性高分子化合物を含まない液の溶剤とは、同一の溶剤である。
【0030】
浸漬法では、疎水性高分子化合物のコーティング用溶剤を適切に選択することで、基板の凹凸、曲率、形状などに依らず基板表面に均一なコーティング厚みの疎水性高分子化合物層が得られる。
【0031】
浸漬法のコーティング用溶剤は特に限定されず、疎水性高分子化合物の一部を溶解すれものであれば任意の溶剤を用いることができる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド等のホルムアミド系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤、フェノキシエタノール等のアルコール系溶剤、2−ブタノン等のケトン系溶剤、トルエン等のベンゼン系溶剤などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0032】
基板に接触させる疎水性高分子化合物の溶液は、疎水性高分子化合物が完全に溶解しても、疎水性高分子化合物の不溶解成分を含む懸濁液でもよい。液温は、疎水性高分子化合物の一部が溶解する液体状態であれば特に制限はないが、−20℃以上100℃以下が好ましい。基板を疎水性高分子化合物の溶液に接触させている間に液温を変動させても良い。溶液の疎水性高分子化合物濃度に特に制限はないが、好ましくは0.01%以上30%以下、さらに好ましくは0.1%以上10%以下である。
【0033】
固体基板を疎水性高分子化合物溶液に接触させる時間は特に制限されないが、好ましくは1秒以上24時間以下、さらに好ましくは3秒以上1時間以下である。
【0034】
疎水性高分子化合物を含まない液としては、溶剤自身のSP値(単位:(J/cm3)1/2)と疎水性高分子化合物のSP値との差が、1以上20以下であることが好ましく、3以上15以下であることがさらに好ましい。SP値は、分子間の凝集エネルギー密度の平方根で表され、溶解度パラメーターとも呼ばれる。本発明では、SP値δは下記式で算出した。各官能基の凝集エネルギーEcohとモル容積Vは、Fedorsが規定した値を使用した(R.F.Fedors、Polym.Eng.Sci.、14(2)、P147、P472(1974))。
δ=(ΣEcoh/ΣV)1/2
例として、疎水性高分子化合物および溶剤のSP値を挙げると、ポリメチルメタクリレート-ポリスチレンコポリマー(1:1):21.0に対する溶剤2−フェノキシエタノール:25.3、ポリメチルメタクリレート:20.3に対する溶剤アセトニトリル:22.9、ポリスチレン:21.6に対する溶剤トルエン:18.7である。
【0035】
基板を、疎水性高分子化合物を含まない液に接触させる時間は特に制限されないが、好ましくは1秒以上24時間以下、さらに好ましくは3秒以上1時間以下である。液温は、溶剤が液体状態であれば特に制限はないが、−20℃以上100℃以下が好ましい。基板を溶剤に接触させている間に液温を変動させてもよい。揮発させにくい溶剤を使用する場合、溶剤を除去する目的で、該溶媒に接触させた後、互いに溶解する揮発性溶剤で置換してもよい。
【0036】
疎水性高分子化合物のコーティング厚さは特に限定されないが、好ましくは1オングストローム以上5000オングストローム以下であり、特に好ましくは10オングストローム以上3000オングストローム以下である。
【0037】
次に、本発明で用いる光活性基を有する化合物について説明する。本発明で用いられる光活性基とは、150nm〜1200nmの領域の光照射により分解され、ラジカルを発生する基を指す。具体的には、光ナイトレンを発生するアジド基や、一般に光でラジカルを発生するジアゾ基、ベンゾフェノン基、トリクロロメチル基、α−ヒドロキシアセトフェノン基、α−アルコキシアセトフェノン基等が挙げられ、さらに、これらの光活性基を有する化合物としては、アジド化合物、ジアゾ化合物、トリクロロメチル−トリアジン化合物等が挙げられる。光活性基を有する化合物の具体例としては以下の化合物があげられるが、これらに限定されない。
【0038】
【化1】

【0039】
本発明におけるパターン形成を行う場合のエネルギー付与方法には特に制限はなく、光活性基を分解してラジカルを発生させることが可能であれば、露光、加熱のいずれの方法も使用できるが、コスト、装置の簡易性の観点からは活性光線を照射する方法が好ましい。画像様の露光に活性光線の照射を適用する場合、デジタルデータに基づく走査露光、リスフィルムを用いたパターン露光のいずれも使用することができる。パターン形成に用いる方法としては、加熱、露光等の輻射線照射により書き込みを行う方法が挙げられる。例えば、赤外線レーザ、紫外線ランプ、可視光線などによる光照射、γ線などの電子線照射、サーマルヘッドによる熱的な記録などが可能である。これらの光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。またg線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。一般的に用いられる具体的な態様としては、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが好適に挙げられる。コンピュータのデジタルデータによるダイレクトパターン形成を行うためには、レーザ露光によりエネルギーを付与することが好ましい。レーザとしては、炭酸ガスレーザ、窒素レーザ、Arレーザ、He/Neレーザ、He/Cdレーザ、Krレーザ等の気体レーザ、液体(色素)レーザ、ルビーレーザ、Nd/YAGレーザ等の固体レーザ、GaAs/GaAlAs、InGaAsレーザ等の半導体レーザ、KrFレーザ、XeClレーザ、XeFレーザ、Ar2等のエキシマレーザ等を使用することができる。なかでも、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。この後、水で洗浄することにより、未露光部の化合物を溶解除去する。
【0040】
本発明では、疎水性高分子化合物で被覆され、さらに光活性基を有する化合物で被覆されたバイオセンサー表面に、光照射により少なくとも2種類以上の表面をパターニングする。パターニングは、例えば、生理活性物質を固定化する部分と、生理活性物質を固定化しない部分をパターニングするために行うことができる。
【0041】
同一面内に作る少なくとも2種類以上の表面としては、例えば、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を結合させた測定部と、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を有さない参照部との組み合わせが挙げられる。
【0042】
本発明においては、上記のように同一面内に測定部と参照部とを設けることにより外乱によるベースライン変動を相殺し、実質的に安定化することが可能となる。
【0043】
本発明においては、例えば、疎水性高分子化合物で基板をコーティングした後に、生理活性物質を固定化することができる官能基と光活性基との両方を有する化合物を基板に接触させ、その後、該基板の所定の領域のみにパターニングしながら光を照射して、該官能基と光活性基との両方を有する化合物を疎水性高分子化合物に結合させることができる。この操作により、光照射された領域のみに生理活性物質を固定化することができる官能基を有する領域が形成される。そして光照射後に、基板を適当な液体(例えば、水など)で洗浄して、未結合の(官能基と光活性基との両方を有する)化合物を除去することにより、基板の表面を、生理活性物質を固定化できる官能基を有する領域と、このような官能基を有さない領域とにパターニングすることができる。
【0044】
本明細書において、生理活性物質を固定化することができる官能基の種類は特に限定されないが、好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0045】
上記のようにして得られたバイオセンサー用表面において、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属表面又は金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0046】
本発明で言うバイオセンサーとは最も広義に解釈され、生体分子間の相互作用を電気的信号等の信号に変換して、対象となる物質を測定・検出するセンサーを意味する。通常のバイオセンサーは、検出対象とする化学物質を認識するレセプター部位と、そこに発生する物理的変化又は化学的変化を電気信号に変換するトランスデューサー部位とから構成される。生体内には、互いに親和性のある物質として、酵素/基質、酵素/補酵素、抗原/抗体、ホルモン/レセプターなどがある。バイオセンサーでは、これら互いに親和性のある物質の一方を基板に固定化して分子認識物質として用いることによって、対応させるもう一方の物質を選択的に計測するという原理を利用している。
【0047】
本発明のバイオセンサーは好ましくは、金属表面又は金属膜を疎水性高分子化合物でコーティングしたものである。金属表面あるいは金属膜を構成する金属としては、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0048】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、5オングストローム以上5000オングストローム以下であるのがさらに好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0049】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0050】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0051】
本発明のバイオセンサー用表面上に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0052】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0053】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0054】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0055】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0056】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0057】
上記のようにして生理活性物質を固定化したバイオセンサーは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0058】
即ち、本発明によれば、生理活性物質が固定化された本発明のバイオセンサーを用いて、これに被験物質を接触させることにより、該バイオセンサーに固定化されている生理活性物質と相互作用する物質を検出及び/又は測定する方法が提供される。
被験物質としては例えば、上記した生理活性物質と相互作用する物質を含む試料などを使用することができる。
【0059】
本発明では、バイオセンサー用表面に固定化されている生理活性物質と被験物質との相互作用を非電気化学的方法により検出及び/又は測定することが好ましい。非電気化学的方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術などが挙げられる。
【0060】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のバイオセンサーは、例えば、透明基板上に配置される金属膜を備えていることを特徴とする表面プラズモン共鳴用バイオセンサーとして用いることができる。
【0061】
表面プラズモン共鳴用バイオセンサーとは、表面プラズモン共鳴バイオセンサーに使用されるバイオセンサーであって、該センサーより照射された光を透過及び反射する部分、並びに生理活性物質を固定する部分とを含む部材を言い、該センサーの本体に固着されるものであってもよく、また脱着可能なものであってもよい。
【0062】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。
【0063】
表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析する表面プラズモン測定装置としては、Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号公報参照)。上記の系を用いる表面プラズモン測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0064】
本発明のバイオセンサーは、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるための測定チップが好ましく、上記誘電体ブロックと上記金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている上記の測定チップ中に形成して、使用することができる。
【0065】
本発明では、具体的には、特開2001−330560号公報記載の図1〜図32で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置、特開2002−296177号公報記載の図1〜図15で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置を好ましく用いることができる。特開2001−330560号公報および特開2002−296177号公報に記載の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
【0066】
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
【0067】
上記構成の表面プラズモン測定装置において、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角で入射させると、該金属膜に接している被測定物質中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と被測定物質との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
【0068】
この全反射減衰(ATR)が生じる入射角、すなわち全反射減衰角(θSP)より表面プラズモンの波数が分かると、被測定物質の誘電率が求められる。この種の表面プラズモン測定装置においては、全反射減衰角(θSP)を精度良く、しかも大きなダイナミックレンジで測定することを目的として、特開平11−326194号公報に示されるように、アレイ状の光検出手段を用いることが考えられている。この光検出手段は、複数の受光素子が所定方向に配設されてなり、前記界面において種々の反射角で全反射した光ビームの成分をそれぞれ異なる受光素子が受光する向きにして配設されたものである。
【0069】
そしてその場合は、上記アレイ状の光検出手段の各受光素子が出力する光検出信号を、該受光素子の配設方向に関して微分する微分手段が設けられ、この微分手段が出力する微分値に基づいて全反射減衰角(θSP)を特定し、被測定物質の屈折率に関連する特性を求めることが多い。
【0070】
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0071】
上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
【0072】
なおこの漏洩モード測定装置においても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
【0073】
また、上述した表面プラズモン測定装置や漏洩モード測定装置は、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモン測定装置の場合は金属膜であり、漏洩モード測定装置の場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角(θSP)の角度を測定している。
【0074】
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角(θSP)を測定し、該全反射減衰角(θSP)の角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このような特定物質とセンシング物質との組み合わせとしては、例えば抗原と抗体、あるいは抗体と抗体が挙げられる。具体的には、ウサギ抗ヒトIgG抗体をセンシング物質として薄膜層の表面に固定し、ヒトIgG抗体を特定物質として用いることができる。
【0075】
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰角(θSP)の角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角(θSP)の角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用した測定装置に適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角(θSP)の角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる(本出願人による特願2000−398309号参照)。このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角(θSP)の角度変化量の測定を行っている。
【0076】
さらに、ターンテーブル等に搭載された複数個の測定チップの測定を順次行うことにより、多数の試料についての測定を短時間で行うことができる全反射減衰を利用した測定装置が、特開2001−330560号公報に記載されている。
【0077】
本発明のバイオセンサーを表面プラズモン共鳴分析に使用する場合、上記したような各種の表面プラズモン測定装置の一部として適用することができる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
図1に記載の装置(本発明の表面プラズモン共鳴測定装置)を実験に用いた。なお、図1に記載の装置の詳細は、特開2003−254906号公報に記載されている。
【0079】
実施例1:測定チップの作製(本発明)
(1)疎水性膜の作成
金属膜として50nmの金が蒸着された本発明の誘電体ブロックをModel-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、1mg/mlのポリスチレンのメチルエチルケトン溶液5μlを金属膜に接触するように添加し、25℃で15分間静置した。その後、減圧下で40℃2時間乾燥した。
【0080】
(2)2分割表面の作成
前記(1)で得られたサンプルにO-(2-アジドエチル)-O-[2-(ジグリコシル-アミノ)エチル]ヘプタエチレングリコール(Azi-PEG-acid(n=8))(Fluka製)10質量%水溶液を10μl加えた。さらに測定領域の半分を金属製のマスクで遮光してModel-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、水洗した。次に400mMの1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドのエタノール溶液と100mMのペンタフルオロフェノールのエタノール溶液の1:1混合液100μlを加え、25℃で30分静置した。エタノールで5回洗浄後、10mMビオチン-LC-アミン(PIERCE社製)のエタノール溶液を20μl添加して25℃20分放置した。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。更に、上記とは逆のパターンを持つ金属製のマスクで露光済みの部分を遮光して上記と同様な露光を行った。次に400mMの1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドのエタノール溶液と100mMのペンタフルオロフェノールのエタノール溶液の1:1混合液100μlを加え、25℃で30分静置した。エタノールで5回洗浄後、1Mエタノールアミンのエタノール溶液を20μl添加し25℃20分放置した。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。このチップを2分割表面チップと呼ぶ。
【0081】
比較例1:接触による二分割表面の作成
測定に使用する誘電体ブロックの測定部の半分に接触するスタンプをPDMSにて作成した。表面はプラズマオゾン処理して溶液の濡れ性を確保した。
【0082】
50nmの金が蒸着された本発明の誘電体ブロックをModel-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間クリーニング処理した後、1mg/mlのPMMAのメチルエチルケトン溶液5μlを金属膜に接触するように添加し、25℃で15分間静置した。得られたPMMA膜の厚さは20nmであった。
1N NaOH水溶液を前記PMMA膜に接触するように添加し、60℃5時間静置した後、水で3回洗浄した。本処理によりPMMA膜表面にカルボキシル基を導入した。
【0083】
400mMの1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドのエタノール溶液と、100mMのペンタフルオロフェノールのエタノール溶液を1:1で混合し、その混合液100μlを前記のカルボキシル基を導入したPMMA膜表面に接触させ、25℃で30分静置した。その後、エタノールで5回洗浄した。
【0084】
上記で得られたサンプルに、400mMの1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドのエタノール溶液と100mMのペンタフルオロフェノールのエタノール溶液の1:1混合液100μlを加え、25℃で30分静置した。エタノールで5回洗浄後、10mMビオチン-LC-アミン(PIERCE社製)のエタノール溶液を浸したスタンプを20分間接触させた。その後、スタンプを外し、1Mエタノールアミンのエタノール溶液を40μl添加して25℃20分放置した。その後、エタノールで1回洗浄した後、隔壁を外して、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。このサンプルをPMMA接触処理チップと呼ぶ。
【0085】
試験例1:
(1)2分割表面の評価(非特異吸着測定)
実施例1で作成した光2分割表面チップと比較例1で作成したPMMA接触処理チップのそれぞれに、1重量%のDMSO(ジメチルスルフォキシド)を含むHBS-EP溶液を100μl添加してベースラインを1分測定し、この点を始点とした。その後、液交換して100μg/mlのウシ血清アルブミン(HBS-EP溶液)と1重量%のDMSO(ジメチルスルフォキシド)を含むHBS-EP溶液を測定した。なお、HBS-EP溶液の組成は、HEPES(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonicAcid)0.01mol/l(pH7.4)、NaCl0.15mol/l、EDTA 0.003mol/l、Surfactant P20 0.005重量%である。15分放置後を終点として測定を終了した。測定面及び参照面の値を差し引いた後、終点−始点の値を求め、これをNSBとした。ビオチン誘導体で表面修飾した測定面はウシ血清アルブミンとは相互作用しないので、NSBは0に近いほうが好ましい。
【0086】
(2)2分割表面の評価(結合測定)
実施例1で作成した光2分割表面チップと比較例1で作成したPMMA接触処理チップのそれぞれに、1重量%のDMSO(ジメチルスルフォキシド)を含むHBS-EP溶液を100μl添加してベースラインを1分測定し、この点を始点とした。その後、液交換して0.1μg/mlのアビジンと100μg/mlのウシ血清アルブミン及び1重量%のDMSO(ジメチルスルフォキシド)を含むHBS-EP溶液を測定した。15分放置後を終点として測定を終了した。測定面及び参照面の値を差し引いた後、終点−始点の値を求め、これをBINDとした。
【0087】
(3)評価結果
上記測定の結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
接触にて2分割表面を作成すると、金上の薄膜が破壊され、金表面が現れるため、非特異吸着が悪化した。これは、実際の結合の値に非特異吸着分が上乗せされることになり測定精度を下げる結果となる。このことより、本発明の構成によって目的が達成されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明で用いた表面プラズモン共鳴測定装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子化合物でコーティングした基板から成るバイオセンサーであって、光活性基を有する化合物で修飾されている上記のバイオセンサー。
【請求項2】
基板に光照射を施すことにより少なくとも2種類以上の表面がパターニングされている、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項3】
基板が金属表面あるいは金属膜である、請求項1又は2に記載のバイオセンサー。
【請求項4】
金属表面あるいは金属膜が、金、銀、銅、白金又はアルミニウムからなる群より選ばれる自由電子金属からなるものである、請求項3に記載のバイオセンサー。
【請求項5】
金属膜の厚さが1オングストロームから5000オングストロームである、請求項3又は4に記載のバイオセンサー。
【請求項6】
疎水性高分子化合物のコーティング厚さが1オングストローム以上5000オングストローム以下である、請求項1から5の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項7】
基板上の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有する、請求項1から6の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項8】
光活性基を有する化合物が、生理活性物質を固定化することができる官能基を有している、請求項7に記載のバイオセンサー。
【請求項9】
生理活性物質を固定化することができる官能基が、−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基である、請求項7又は8に記載のバイオセンサー。
【請求項10】
基板上の最表面上の所定の領域であって光照射によりパターニングされた領域に、生理活性物質を固定化することができる官能基を有する、請求項7から9の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項11】
非電気化学的検出に使用される、請求項1から10の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項12】
表面プラズモン共鳴分析に使用される、請求項1から11の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項13】
誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるための測定チップであって、上記誘電体ブロックと上記金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている上記の測定チップに形成されている、請求項1から12の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項14】
疎水性高分子化合物でコーティングした基板に光活性基を有する化合物を接触させる工程を含む、請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサーの製造方法。
【請求項15】
疎水性高分子化合物でコーティングした基板に光活性基を有する化合物を接触させる工程、及び該基板の所定の領域のみにパターニングしながら光を照射する工程を含む、請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサーの製造方法。
【請求項16】
生理活性物質が共有結合により表面に結合している、請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項17】
光活性基を有する化合物を用いて生理活性物質が固定化されている、請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項18】
同一面内に少なくとも、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を結合させた測定部と、生理活性物質又はそれと相互作用する物質を有さない参照部とが存在する、請求項16又は17に記載のバイオセンサー。
【請求項19】
請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサーと生理活性物質とを接触させて、該バイオセンサーの表面に該生理活性物質を共有結合により結合させる工程を含む、バイオセンサーに生理活性物質を固定化する方法。
【請求項20】
生理活性物質が共有結合により表面に結合している請求項1から13の何れかに記載のバイオセンサーと被験物質とを接触させる工程を含む、該生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法。
【請求項21】
生理活性物質と相互作用する物質を非電気化学的方法により検出または測定する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生理活性物質と相互作用する物質を表面プラズモン共鳴分析により検出または測定する、請求項20又は21に記載の方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−53092(P2006−53092A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236071(P2004−236071)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】