説明

バイオチップ読取装置

【課題】バイオチップ読取装置において光の利用効率を向上すること。
【解決手段】ミラー12,18との間で外部共振器を構成し、この外部共振器によるキャビティ内にゲイン媒質11とバイオチップ16を配置する。このキャビティ構造はレーザ発振器の外部共振器であり、同時にバイオチップに対して光の利用効率を向上させるためのキャビティともなっている。又キャビティ内の光をバイオチップ16の測定領域に集束レンズ15,17で集束することによって、レーザ光の利用効率を向上させ、バイオチップから発する蛍光を容易に検出することができる。蛍光はダイクロイックミラー14、吸収フィルタ19を介して受光素子21に集光される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオチップの蛍光観察用途に用いられるバイオチップ読取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は分子生物学においてDNAや蛋白質に蛍光物質を加え、レーザ光を試料に入射して蛍光物質を励起し、蛍光の発光量によってDNAや蛋白質を検出している。バイオチップは透明ガラス板上にDNAや蛋白質を高密度に集積している。このようなバイオチップにおいては、特許文献1に示されるように、レーザ光をガラス板の測定領域に照射して測定領域の試料から発光する蛍光のレベルを検出することが行われる。こうすればわずかの試料で短時間に所望の計測を行うことができる。
【0003】
バイオチップの検査では、検出したい物質と蛍光材料をあらかじめ化学的に結合させておき、バイオチップの測定領域の蛍光材料からの蛍光量を測定することで間接的に被測定物の定量評価を行う。これに利用される蛍光材料は既に多数開発されており、代表的な試薬としてCy5などがあげられる。蛍光スペクトルのピーク波長は、吸収スペクトルのピーク波長より数10nm程度長波長側にあることが多い。Cy5の場合は吸収のピークが649nm、蛍光のピークが670nmである。又蛍光のスペクトルは励起光のスペクトルによらず同様の形状となる。そのためレーザのような急峻なピークを持った光源を励起光として使用した場合でも、広帯域な光を励起光とした場合でも、その波長が吸収帯域にある限り蛍光のスペクトルの形状は同じになる。
【特許文献1】特開2001−194309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに従来のバイオチップの光学系においては、測定の対称となる試料のボリュームが小さいため光の利用効率が悪く、例えば投光した光の1%程度しか蛍光の発光に寄与していないという欠点があった。
【0005】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、光の利用効率を向上することにより微小なバイオチップにおいても十分な感度を有する蛍光分析を可能とするバイオチップの読取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明のバイオチップ読取装置は、ゲイン媒質と、一対の反射部によって形成され、その内部に前記ゲイン媒質を含む外部共振器と、前記外部共振器の内部の光の光路に配置されたバイオチップと、前記外部共振器内に設けられ、前記蛍光の波長とは異なる波長の光を選択し、前記外部共振器で発光するレーザ光の波長特性を決める光フィルタと、前記外部共振器の外に配置され、前記バイオチップから得られる蛍光を集光する集光レンズと、前記集光レンズによって集光された蛍光を受光する受光素子と、を有するものである。
【0007】
ここで前記外部共振器内に、その外部共振器の一部となる光ファイバを含むようにしてもよい。
【0008】
ここで前記光フィルタは、前記外部共振器の一方の反射部を構成し、前記バイオチップにより発光する蛍光を透過する波長特性を有するようにしてもよい。
【0009】
ここで前記バイオチップの測定すべき領域に光を集束する第1,第2の集束レンズを更に有し、前記第1,第2の集束レンズは、前記バイオチップを挟んで両側に配置するようにしてもよい。
【0010】
この課題を解決するために、本発明のバイオチップ読取装置は、光源と、前記光源からの光が導かれ、一対の反射部によって形成されたキャビティと、前記キャビティの内部の光の光路に配置されたバイオチップと、前記キャビティの外に配置され、前記バイオチップから得られる蛍光を集光する集光レンズと、前記集光レンズによって集光された蛍光を受光する受光素子と、を有するものである。
【0011】
ここで前記バイオチップの測定すべき領域に光を集束する第1,第2の集束レンズを更に有し、前記第1,第2の集束レンズは、前記バイオチップを挟んで両側に配置するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する請求項1〜6の発明によれば、キャビティ構造を用いているため何度も光を試料に入射することができ、高感度でバイオチップの蛍光を検出することができる。又請求項1〜4の発明では、レーザの外部共振器と感度を上げるためのキャビティ構造とを一体化することによって、2つのキャビティを夫々設けた場合に比べてキャビティ間の調整を不要とし、高感度でバイオチップより発生する蛍光を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態によるバイオチップ読取装置の構成を示す図である。本図においてレーザ光源のゲイン媒質11は図示しない駆動部によって駆動されるものであり、左端部にミラー12が接続され、右端は開放されている。ミラー12は後述する外部共振器の一方の反射部となっている。ゲイン媒質11の右端側方の光軸に沿って図示のようにレンズ13が配置され、更にダイクロイックミラー14が光軸に対して45°の角度で配置されている。ダイクロイックミラー14はレーザ光を反射し、レーザ光によって励起される蛍光を透過するもので、光フィルタとして機能する。そしてこのダイクロイックミラー14で反射される光の光軸に沿って、第1の集束レンズ15、バイオチップ16、更に第2の集束レンズ17とミラー18を図示のように配置しておく。集束レンズ15,17はコリメートレンズ13で平行となった光をバイオチップ16の測定領域に集束するものであり、バイオチップ16に対して互いに対称な位置に配置されている。又ミラー18も反射部であり、ゲイン媒質11の端部に設けられるミラー12との間でキャビティ構造となってレーザの外部共振器を構成する。キャビティ構造では、光を多重反射させることによってバイオチップ16に照射される光量を実効的に大きくすることができる。又この光軸上にはダイクロイックミラー14を通過する位置に吸収フィルタ19が設けられ、更にその上部には吸収フィルタ19を透過した光を集束するレンズ20が設けられる。吸収フィルタ19は蛍光を透過させ、その他の光を遮断するフィルタであり、レンズ20はバイオチップ16より発生する蛍光を受光素子21に集束するものである。
【0014】
次にこの実施の形態の動作について説明する。光源のゲイン媒質11を図示しない駆動部によって駆動すると、ミラー12と18との間で外部共振器が構成され、この間の光学長に応じたモード及び波長でレーザ光が発光する。図2はダイクロイックミラー14の特性と発振波長及び蛍光の関係を示すグラフである。この図に示すようにミラー12からミラー18までの間の外部共振器長が例えば10mmであれば、波長625nm付近では20nmの波長幅に約100本のピークが得られる。このピークは図中曲線Aで示すダイクロイックミラー14の波長特性で制限される。従って温度変化などで外部共振器長が変化したり、バイオチップ16の基板の厚さの相違によりキャビティの光学系にわずかな変化があったとしても、そのレーザ光の波長特性の包絡線波形はダイクロイックミラー14の波長特性のみで決定されるため、全体の形状に影響はない。そして集束レンズ15,17によってバイオチップ16の測定領域にレーザ光を集束させることができる。
【0015】
さて、このときバイオチップ16の測定領域に所定の物質が存在する場合には、レーザ光に励起されて蛍光が発生し、図示の曲線Bで示すスペクトルで蛍光が発生する。尚図2の縦軸は曲線Bについては単に相対値を示すものである。この散乱光の一部は集束レンズ15によって平行光に変換され、ダイクロイックミラー14に入射する。蛍光の波長は図2に示すダイクロイックミラー14の波長特性から長波長側にずれた波長となっているため、ダイクロイックミラー14を透過する。そして更に吸収フィルタ19を介してレンズ20により受光素子21に集束される。これによって高感度でバイオチップに存在する物質を検出することができる。この実施の形態では、レーザの外部共振器と感度を上げ多重反射のための多重キャビティ構造とを一体化することによって、2つのキャビティを夫々設けた場合に比べてキャビティ間の調整を不要とし、高感度でバイオチップより発生する蛍光を検出することができる。
【0016】
尚この実施の形態においては、レーザ光と蛍光の部分は分離しているため、例えばゲイン媒質11とミラー12の間に空間を設け、この光の一部を取り出すことによってレーザ光を参照光としてモニタすることができる。又この実施の形態ではレンズ16と17とを測定点に対して対称な位置に配置しているが、レンズ15,17はバイオチップを挟んでその上下に配置され、バイオチップを透過した光を平行光とするものとすれば、必ずしも対称位置に配置する必要はない。又レンズ17,ミラー18に代えて凹面鏡を用いることもできる。
【0017】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態によるバイオチップ読取装置について説明する。図3はバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。本図において、図1と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態では光フィルタ31とゲイン媒質11の端部に設けられるミラー12との間で外部共振器を構成している。ここで光フィルタ31は光軸に垂直に配置され、前述した図1のダイクロイックミラー14と同一の特性を有するもので、レーザ発振器の反射部となっている。光フィルタ31とミラー12で形成される外部共振器の間には、前述した集束レンズ15、バイオチップ16及び集束レンズ17を配置している。これによってレーザ光源の外部共振器を構成すると共に、キャビティ構造による多重反射を実現している。第2の実施の形態においてもゲイン媒質11を駆動することによってレーザ発振が生じ、このときにバイオチップに特定の物質があれば、多重反射によりバイオチップから高レベルの蛍光を発生させることができる。蛍光は集束レンズ15によって平行光に変換され、光フィルタ31、吸収フィルタ19、レンズ20を介して受光素子21で集光される。従って蛍光の有無によって試料の状態を判別することができる。
【0018】
この実施の形態においては、第1の実施の形態に比べダイクロイックミラーが不要となるため、構成を簡略化することができる。
【0019】
(第3の実施の形態)
次に本発明の第3の実施の形態によるバイオチップ読取装置について説明する。図4はバイオチップ読取装置の光学系を示す図であり、前述した各実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態ではゲイン媒質11とミラー12との間に光ファイバ32を設けている。光ファイバ32はこのミラー12と光フィルタ31との間で形成される外部共振器長を長くすることによって、光フィルタの特性内でのピーク数を大きくするものである。例えば外部共振器長は数百mmとすることができる。例えば100mmの共振器長では657nm付近で0.02nm以下の間隔のマルチモード発振が可能となり、光源の安定性を向上させることができる。この場合にもバイオチップ16に所定の物質が存在する場合には蛍光が生じ、この蛍光が集束レンズ15によって平行光に変換され、光フィルタ31、吸収フィルタ19を介して受光素子21に加わる。これにより試料の状態を判別することができる。
【0020】
(第4の実施の形態)
次に本発明の第4の実施の形態によるバイオチップ読取装置について説明する。図5はバイオチップ読取装置の光学系を示す図であり、前述した各実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態では光フィルタ31と集束レンズ15との間を第2の実施の形態より大きくしている。こうしてミラー12と光フィルタ31との間で形成される外部共振器長を長くすることによって、光フィルタの特性内でのピーク数を大きくするものである。例えば外部共振器長は数百mmとすることができる。例えば100mmの共振器長では657nm付近で0.02nm以下の間隔のマルチモード発振が可能となり、光源の安定性を向上させることができる。この場合にもバイオチップ16に所定の物質が存在する場合には蛍光が生じ、この蛍光が集束レンズ15によって平行光に変換され、光フィルタ31、吸収フィルタ19を介して受光素子21に加わる。これにより試料の状態を判別することができる。
【0021】
(第5の実施の形態)
次に本発明の第5の実施の形態によるバイオチップ読取装置について説明する。図6はバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。本図において前述した各実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態でも光フィルタ31と光ファイバ32の端部のミラー18との間で外部共振器を構成している。又光ファイバ32を用いているため、外部共振器長を拡大することができる。この実施の形態では集束レンズ15を省略することによって平行なレーザ光をバイオチップ16に入射しており、光をバイオチップ16の測定領域に集光させないようにしている。しかしこの実施の形態でも、多重反射をしているため、バイオチップに光が集光しなくても光の利用効率はそれほど低下することがなく、バイオチップ16への光の入射位置のアライメントが容易になるという効果を得ることができる。又この例ではレンズ15が不要となるため、光学系を簡略化することができる。
【0022】
(第6の実施の形態)
次に本発明の第6の実施の形態によるバイオチップ読取装置について説明する。図7はバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。本図において前述した各実施の形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。この実施の形態ではゲイン媒質11の端部にミラー12と41を設けてレーザ発振器を構成している。そしてミラー41より出射されるレーザ光の光軸上にレンズ13を配置し、更に光軸に沿って45°の角度でダイクロイックミラー14を配置する。そしてダイクロイックミラー14で反射される位置に、半透過ミラー42、集束レンズ15、バイオチップ16、集束レンズ17を配置し、更にミラー18を配置する。ここで半透過ミラー42はレーザ光の一部を反射させるもので、ミラー18との間でキャビティ構造が構成される。これによってバイオチップに入射するレーザ光を多重反射させることができる。又バイオチップ16から出射した蛍光はレンズ15を介して平行光となって半透過ミラー14を透過する。そして吸収フィルタ19、レンズ20を介して受光素子21に集光される。この場合にはレーザ光の共振器と多重反射のためのキャビティ構造とを分離しているため、キャビティ構造による光の利用効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明はバイオチップ読取装置において、高感度でバイオチップの試料の状態を判別することができ、バイオチップの検査を容易に行うことができる。従ってバイオチップの用途を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【図2】本実施の形態によるダイクロイックミラーの特性及び蛍光の波長特性を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【図7】本発明の第6の実施の形態によるバイオチップ読取装置の光学系を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
11 ゲイン媒質
12,18,41 ミラー
13,15,17,20 レンズ
14 ダイクロイックミラー
16 バイオチップ
19 吸収フィルタ
21 受光素子
31 光フィルタ
32 光ファイバ
42 半透過ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲイン媒質と、
一対の反射部によって形成され、その内部に前記ゲイン媒質を含む外部共振器と、
前記外部共振器の内部の光の光路に配置されたバイオチップと、
前記外部共振器内に設けられ、前記蛍光の波長とは異なる波長の光を選択し、前記外部共振器で発光するレーザ光の波長特性を決める光フィルタと、
前記外部共振器の外に配置され、前記バイオチップから得られる蛍光を集光する集光レンズと、
前記集光レンズによって集光された蛍光を受光する受光素子と、を有するバイオチップ読取装置。
【請求項2】
前記外部共振器内に、その外部共振器の一部となる光ファイバを含む請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項3】
前記光フィルタは、前記外部共振器の一方の反射部を構成し、前記バイオチップにより発光する蛍光を透過する波長特性を有する請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項4】
前記バイオチップの測定すべき領域に光を集束する第1,第2の集束レンズを更に有し、
前記第1,第2の集束レンズは、前記バイオチップを挟んで両側に配置した請求項1〜3のいずれか1項記載のバイオチップ読取装置。
【請求項5】
光源と、
前記光源からの光が導かれ、一対の反射部によって形成されたキャビティと、
前記キャビティの内部の光の光路に配置されたバイオチップと、
前記キャビティの外に配置され、前記バイオチップから得られる蛍光を集光する集光レンズと、
前記集光レンズによって集光された蛍光を受光する受光素子と、を有するバイオチップ読取装置。
【請求項6】
前記バイオチップの測定すべき領域に光を集束する第1,第2の集束レンズを更に有し、
前記第1,第2の集束レンズは、前記バイオチップを挟んで両側に配置した請求項5項記載のバイオチップ読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−209377(P2008−209377A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49070(P2007−49070)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】