説明

バイオディーゼル燃料及びその製造方法

【課題】トウモロコシなどの穀類や、パーム油、ココナッツ油などの従来から食用原料や工業原料として流通している植物油を用いることなく、植物資源の流通秩序を乱すことのないバイオディーゼル燃料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のバイオディーゼル燃料は、ブンカンカに由来する脂肪酸のメチルエステルを含有することを特徴とする。本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法は、ブンカンカの種子から植物油を採取する採取工程と、該植物油にメタノールを加えて酸触媒又は塩基性触媒の存在下でエステル交換を行うエステル化工程と、該エステル化工程の反応液から脂肪酸のメチルエステルを分取する分取工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料及びその製造方法に関する。より詳細には、トウモロコシなどの穀類や、パーム油、ココナッツ油などの従来から食用原料や工業原料として流通している植物油を用いることなく、植物資源の流通秩序を乱すことのないバイオディーゼル燃料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の温室効果ガスである二酸化炭素の増大に伴う地球温暖化の問題が顕在化し、京都議定書による温室効果ガスの削減、砂漠化の防止等の種々の対策が講じられつつある。こうした状況下、十数年で枯渇するとも言われている化石燃料を代替するバイオ燃料として、トウモロコシなどの穀物由来のバイオエタノール(特許文献1)や、パーム油、ココナッツ油などに由来するバイオディーゼル燃料(特許文献2、3)の開発・生産が進められている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−155875号公報
【特許文献2】特開2004−359766号公報
【特許文献3】特開2007−277288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のバイオ燃料は、食用として広く流通している穀類や、食用・工業用として広く流通している動植物油等を材料としているため、バイオ燃料の生産の増加による穀物や植物油の価格の高騰化をもたらしている。さらには、作付面積を確保するための森林伐採による砂漠化などの問題を生じている。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたもので、トウモロコシなどの穀類や、パーム油、ココナッツ油などの従来から食用原料や工業原料として流通している植物油を用いることなく、植物資源の流通秩序を乱すことのないバイオディーゼル燃料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記課題解決のため、新たなバイオディーゼル燃料の原料として、ムクロジ科(Sapindaceae)のブンカンカ(Xanthoceras sorbifolia Bunge)に注目した。ブンカンカの種子には、その重量の25%にもおよぶ油が含まれており、この含有量は他の植物には類を見ないため、バイオディーゼル燃料の原料として極めて優れている。また、ブンカンカは寒冷地や荒廃した土壌、乾燥した土壌にも強く、砂漠の緑化に貢献し得る。そして、さらに鋭意研究を行った結果、バイオディーゼル燃料として、ブンカンカに由来する脂肪酸のメチルエステルを含有すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のバイオディーゼル燃料は、ブンカンカに由来する脂肪酸のメチルエステルを含有することを特徴とする。
【0008】
本発明のバイオディーゼル燃料では、トウモロコシなどの穀類や、パーム油、ココナッツ油などの従来から食用原料や工業原料として流通している植物油を用いることなく、ブンカンカを植物資源として用いる。ブンカンカの種子に含まれている脂肪酸トリグリセリドをエステル交換反応によりメチルエステル化したものは低温流動性に優れており、ディーゼル燃料として用いることが可能となる。
【0009】
本発明のバイオディーゼル燃料では、さらに粘度調整剤が添加されていることが好ましい。寒冷地における低温流動性が更に向上するからである。
【0010】
本発明のバイオディーゼル燃料は、ブンカンカの種子から採取した植物油をエステル交換してメチルエステルとすることにより得ることができる。すなわち、本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法は、ブンカンカの種子から植物油を採取する採取工程と、該植物油にメタノールを加えて酸触媒又は塩基性触媒の存在下でエステル交換を行うエステル化工程と、該エステル化工程の反応液から脂肪酸のメチルエステルを分取する分取工程とを有することを特徴とする。
【0011】
エステル化工程における触媒に塩基性触媒を用いる場合には、メタノールを先に加えて遊離脂肪酸をメチルエステル化が終了してから、塩基性化合物を加えることが好ましい。こうであれば、植物油に含まれる遊離脂肪酸と塩基性化合物との中和反応から生ずる石鹸の生成を回避することができ、エステル交換反応の円滑化を図ることができるからである。
【0012】
さらに、粘度調整剤を添加すれば、寒冷地における低温流動性が更に向上するため、より好適なバイオディーゼル燃料を製造することができる。
【0013】
また、エステル化工程において、マイクロ波加熱を用いることもできる。マイクロ波加熱とは、マイクロ波によって発生する分子内での電気双極子の回転、振動による内部発熱のことである。マイクロ波加熱により、分子に直接エネルギーを与えることができ、エステル化の反応をより迅速に行うことができる。
【0014】
また、エステル化工程を100℃以上かつ1気圧以上の条件で行なうことも好ましい。こうであれば、さらにエステル化を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1を参照しつつ説明する。
【0016】
(採取工程S1)
まず、採取工程S1として、ブンカンカの種子から搾圧や抽出、あるいはそれら双方を行なってブンカンカ原油を採取する。さらに、ブンカンカ原油からろ過等により脱ガムして油成分を分取し、脱酸、活性白土、活性炭などを用いた脱色・脱臭により、精製度の比較的高いブンカンカ精製油が得られる。さらに、ブンカンカ原油やブンカンカ精製油を冷却することによって固体成分を除き、さらに精製度を高めたブンカンカ高精製油を得ることができる。バイオディーゼル燃料製造のための原料となる植物油としては、ブンカンカ原油、ブンカンカ精製油及びブンカンカ高精製油を単独または混合して用いることができる。
【0017】
(エステル化工程S2)
次に、エステル化工程S2として、ブンカンカ由来の植物油とメチルアルコールとを、酸性触媒若しくは塩基性触媒の存在下で、エステル交換反応を行う。これにより、植物油に含まれる脂肪酸トリグリセライドや遊離脂肪酸が脂肪酸メチルエステルに変換される。
【0018】
酸性触媒として使用できる化合物としては、例えば、濃硫酸、硫酸、濃塩酸、塩酸、スルホン酸、固体酸触媒(金属酸化物、ゼオライト、イオン交換樹脂など)などが挙げられる。これらのうち、濃硫酸、濃塩酸、スルホン酸及び固体酸触媒が好ましい。酸性触媒の添加量は、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる量であれば特に制限されず、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよいが、植物油とメチルアルコールの混合物の全量に対して、0.5〜1質量%が好ましい。エステル交換反応の温度は、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる温度であれば特に制限されないが、110〜160℃が好ましい。反応時間その他の反応条件については、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる条件となるように、適宜設定すればよい。
【0019】
また、塩基性触媒を用いてエステル交換反応を行なう場合には、予め植物油に含まれる遊離脂肪酸を、例えば硫酸などの酸性触媒存在下、メチルアルコールを用いてメチルエステルに変換した後、エステル交換反応をおこなうことが望ましい。遊離脂肪酸が残った状態で塩基性触媒を加えると、脂肪酸の塩(すなわち石鹸)ができて、その後の円滑なエステル化反応が困難となるからである。塩基性触媒は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイドなどアルコキサイド、固体塩基触媒などの公知の塩基性触媒が挙げられ、これらのうち、水酸化ナトリウムが好ましい。塩基性触媒の添加量は、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる量となるよう適宜決定すればよいが、植物油(予め遊離脂肪酸をメチルエステル化したもの)とメチルアルコールの混合物の全量に対して、0.3〜1質量%が好ましい。エステル交換反応温度は、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる温度であれば特に制限されず、公知の条件を使用することができるが、通常50℃〜60℃が好ましい。反応時間その他の反応条件については、脂肪酸を所望のメチルエステルに変換できる条件であれば特に制限されず、適宜決定すればよい。
【0020】
(分取工程S3)
最後に、分取工程S3として、エステル化工程S2で生成した脂肪酸メチルエステルを分取する。分取方法としては、所望の脂肪酸メチルエステルを分取できる方法であれば特に制限されず公知の分取方法を使用することができる。例えば、エステル交換反応の反応混合物から、生成したグリセリンをその比重差を利用して自然分離または遠心分離により層分離・除去し、次に水または中和剤を用いて洗浄し、脂肪酸メチルエステル層を得る。この脂肪酸メチルエステル層に加熱処理等その他の公知の方法を施すことによりその水分を除去し、そのままバイオディーゼル燃料として用いることができ、且つ好ましい低温流動性を有する脂肪酸メチルエステルを得ることができる。また、脂肪酸メチルエステル層(その水分を除去したものを含む。)に分留操作、結晶化操作などの公知の精製操作を施すことにより、バイオディーゼル燃料として用いることができ且つより好ましい低温流動性を有する脂肪酸メチルエステルを得ることができる。ここで、低温流動性とは、JISK2269.3に規定する試験方法により測定した脂肪酸メチルエステルの流動点が、15℃以下であることをいい、好ましい低温流動性とは、該流動点が5℃以下であることをいい、より好ましい低温流動性とは、該流動点がマイナス5℃以下であることをいう。
【0021】
なお、分取工程S3で得たバイオディーゼル燃料に対して、必要に応じて粘度調整剤を混合することも好ましい(粘度調整工程S4)。粘度調整剤を前記バイオディーゼル燃料に混合することにより、その低温流動性を更に改善することができる。粘度調整剤は、脂肪酸メチルエステルの流動点を所望の流動点に改善することができるものであれば特に制限されず公知の粘度調整剤を使用することができ、例えば、ポリアルキルメタクリレート(PMA)、ポリアクリレート(PA)、アルキル化芳香族化合物、フマレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アルコール類などの公知の化合物を挙げられ、これらのうち、PMA、EVA、炭素数が3〜5の脂肪族アルコールが好ましい。粘度調整剤の添加量は、脂肪酸メチルエステルの流動点を所望の流動点に改善することができる添加量であれば特に制限されず公知の添加量を使用することができ、脂肪酸メチルエステル100重量部に対して、PMAについては0.1〜0.3重量部、EVAについては、0.5〜1.5重量部、炭素数が3〜5の脂肪族アルコールについては、10〜25重量部を添加するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(採取工程)
ブンカンカの種子100kgから圧搾機により、25kgのブンカンカ原油を得た。このブンカンカ原油をろ過し、脱酸、活性炭を用いる脱臭により、ブンカンカ油20Lを得た。
【0023】
(エステル化工程)
−酸性エステル交換工程−
10Lのブンカンカ油と2Lのメチルアルコールに対して、0.5質量%の濃硫酸を加え、マントルヒータで160℃に加熱し、4.5時間エステル化した。反応混合物を、水層が中性になるまで水洗、乾燥し、脂肪酸メチルエステル12Lを得た。該エステルは、JIS K2269-3に規定する試験方法で40℃の流動点を示した。
【0024】
−塩基性エステル交換工程−
ブンカンカ油10Lとメチルアルコール0.8Lに対して濃硫酸10mLを加え、35℃で1時間加熱攪拌し、加熱を止め更に1時間攪拌し、その後8時間静置し、遊離脂肪酸をメチルエステルとした。
【0025】
前記反応混合物に対して、室温攪拌下、予め水酸化ナトリウム35gを1.2Lのメタノールに溶かした溶液を加え、下層に生成するグリセリンを除去しつつ、55℃で2時間攪拌した。その後1時間静置し、下層に生成したグリセリンを除去し、上層(脂肪酸メチルエステル)を4Lの水で洗浄、乾燥した。該エステルは、JISK2269.3に規定する試験方法で40℃の流動点を示した。
【0026】
上記実施例では、エステル化を常圧下で加熱して行なったが、マイクロウエーブ加熱法を適用しても良い。すなわち、マイクロ波発振器、エステル化用の反応容器、導波管、アンテナなどの加熱部からなるマイクロウエーブ反応装置内で、上記実施例のエステル化を連続送液方式で行うこともできる。これにより、所望の反応温度への到達時間の大幅減少による反応時間の短縮、エネルギー効率の向上による環境負荷の減少、均一的且つ連続的加熱による反応ムラの防止等を図ることができる。
【0027】
エステル化工程をオートクレーブ中において、加圧し、100℃以上の温度で行なうことも好ましい。こうであれば、さらにエステル化を迅速に行うことができる。
【0028】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態におけるバイオディーゼル燃料の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0030】
S1…採取工程
S2…エステル化工程
S3…分取工程
S4…粘度調整工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブンカンカ(Xanthoceras sorbifolia Bunge:キサントケラス ソルビフォリア)に由来する脂肪酸のメチルエステルを含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料。
【請求項2】
粘度調整剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載のバイオディーゼル燃料。
【請求項3】
ブンカンカの種子から植物油を採取する採取工程と、該植物油にメタノールを加えて酸触媒又は塩基性触媒の存在下でエステル交換を行うエステル化工程と、該エステル化工程の反応液から脂肪酸のメチルエステルを分取する分取工程とを有することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項4】
分取工程で得た脂肪酸のメチルエステルに粘度調整剤を添加する粘度調整工程を有することを特徴とする請求項3又は4記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項5】
エステル化工程においてマイクロ波加熱を用いることを特徴とする請求項3又は4記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項6】
エステル化工程は100℃以上かつ加圧下で行なうことを特徴とする請求項3又は4記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−13511(P2010−13511A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172854(P2008−172854)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(508199794)株式会社エスペック (1)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】