説明

バイオディーゼル燃料(BDF)製造時の副生物グリセリンからの水素製造

【課題】バイオディーゼル燃料(BDF)がカーボンニュートラルな軽油代替として注目されつつあるが、その製造時に副生されて、大量に産業廃棄物になろうとしているグリセリンから水素を製造する方法を提供する。
【解決手段】バイオディーゼル燃料を製造する際副生するグリセリンに加水・加温して輸送可能とした上で、水蒸気改質反応により水素を60から80%の高い回収率で得る。水蒸気改質反応は、S/C(炭素元素数に対するスチームモル数の比)を1以上5以下、反応圧力常圧以上から1MPa未満、反応温度500℃から900℃の範囲で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマスからのディーゼル燃料(BDF)製造時に大量に副生するグリセリンから水素を製造する方法に関する
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼル燃料(BDF)はカーボンニュートラルな軽油代替として注目されつつあるが、その製造時に原料油脂の10%程度のグリセリンが副生される。このグリセリンには触媒や未反応脂肪酸が混入しており、また常温で容易に固化するためにその処理が非常に困難な状況にある。このグリセリンをいかに有効に処理するかが課題である
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バイオマスエネルギーの一つであるバイオディーゼルは、生物由来の油脂から作られるディーゼルエンジン用燃料の一種である。製法としては植物性油脂とメタノールなどのアルコールを反応させて製造する方法が知られ、化式1に示すように動植物性油脂1モルから3モルの燃料が得られる一方で、油脂と等モルのグリセリンが副生してくる。
【化1】

このようにバイオディーゼル燃料は原料である動植物性油脂またはその廃食油からグリセリン相当部分をエステル交換により取り除き、粘度等を下げるなどの化学的処理を施し、脂肪酸メチルエステル(FAME)を製造して軽油代替を目指すものであることから、不可避的に副生されるグリセリンをどう有効に処理するかが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための一つの手段として、特許文献1にあるように超臨界条件下で油脂とメタノールとを反応させ、脂肪酸基の炭素鎖分解によりグリセリンを生成させない方法が提唱されているが、反応圧力が20〜60MPaと高く、操作性、経済性の問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−096473号
【0006】
そこで請求項1に記載のように、副生グリセリンそのもの処理に着目してその欠点ある粘度が高い点は、加水・加温処理で克服して、含まれる不純物は高温反応で燃焼およびスラグ化させることとした。そのうえでNi触媒などを充填した改質反応器において加水分をスチーム化させて化式2に示すような水素製造反応を常圧近傍で行わせることによりグリセリンを水素製造の原料とすることが可能となった。
【化2】

【発明の効果】
【0007】
今後、環境調和型燃料としてバイオディーゼル燃料が注目され普及が進むものと考えられる。ところで、経産省 総合資源エネルギー調査会資料によると我国のH18年度の軽油生産量は約3,600万klであり、仮に軽油の1%がバイオ系ディーゼルに置換された場合であっても約36万klのバイオディーゼル燃料と約12万klのグリセリンが副生することになり、将来を見据えての副生グリセリンの有効利用技術の確立は極めて重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
請求項2に記載のように、前記の水蒸気改質反応器において、S/C(炭素元素数に対するスチームモル数の比)を1以上5以下が好ましく、1以上4以下がより好ましく、2以上3以下が最も好ましい。この範囲未満では化式1に示すように原料グリセリンに対する水蒸気が化学量論比を下回り未反応分が増加する傾向があり好ましくなく、この範囲を超過すると水蒸気原単位が高くなり技術的意義が希薄となる。反応器圧力は常圧から1MPa、反応温度500℃から900℃の範囲で行うグリセリン水蒸気改質反応方法であることを特徴とする。常圧未満では生産性が低下する傾向が見られ、1MPa以上でも原理的には可能であるが、付帯機器コストが上昇するなど技術的意義が希薄となる。反応温度が所定範囲未満では未反応分が増えリサイクルコストが上昇する傾向が見られ、900℃以上では例えばリアクターの配管材料のコストが上昇するなどの理由から好ましくない。
【実施例】
【0009】
以下実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
触媒には円柱状(3mmφ×3mmH)の担持ニッケル系触媒(GITSR−101)を図1に示すような固定床に充填し、試験条件はS/C比2、反応温度700℃、圧力常圧、および触媒床での空間速度12,000(v/v)/h−1とした。この試験はグリセリンと水の混合溶液を用いることで、水との混合によりグリセリンの粘度を下げること、およびグリセリンと水蒸気を同時に送液することにより改質条件のバラツキを低減する特徴を有している。図2に示すように触媒に対する原料チャージ量が高い、すなわちGHSV(空間速度)12,000(v/v)/h−1)条件であってもグリセリンの転化率は約75%に達し、このときのガス組成は図3に示すように水素:60%、CO:18%、CO:22%だった。Ni系触媒は水性ガスシフト反応に対しても活性を示すためCOの生成は水蒸気改質反応と同時に進む逆水性ガスシフト反応により生じるものと考えられた。
【実施例2】
【0011】
触媒には実施例1で用いた担持ニッケル系触媒を用い、触媒床での空間速度を6,000(v/v)/h−1とした他は同じ条件でグリセリンの水蒸気改質反応を行った。このときのグリセリンの転化率は約83%に達し(図1)、このときのガス組成は実施例1とほぼ同等であった。
【実施例3】
【0012】
GHSV(空間速度)12,000(v/v)/h−1で、 グリセリン転化率は図2に示すように500℃で20%、600℃で30%、700℃で70%であった。また生成ガス中の水素分は500℃で55%、600℃で60%、700℃で60%であり、500℃付近ではC(メタン)生成が認められた。グリセリンの沸点(b.p.約290℃)の制約を受けること、グリセリンが熱分解し始めるのは400℃からなどから、改質反応は500℃以上で進行するものと想定された。反応温度500℃以上では水素含量は55%以上あり、グリセンリンから効率的に水素が生成することが示唆された。その他のガス成分としては殆どCOとCOであった。COは上述のように逆水性ガスシフト反応で進むものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0013】
バイオディーゼル燃料(BDF)の普及に伴い、産業廃棄物の新たな発生として懸念されていた副生物のグリセリンが、クリーンエネルギーである水素源として有効に原料化されることに第一の意義がある。
【0014】
水素ガスは従来からアンモニア原料などとして主として化学工業に多く使われてきたが、近来、燃料電池などクリーンなエネルギーとしての需要が高まりつつある。この水素を如何に安く、かつ、高純度な品質で製造・精製ないしは回収して安定的に供給できるかが現在社会的に問われている課題である。水素の製造法および使用先として工業的には、石油精製工場でのガソリン接触分解装置や製鉄所のコークスガスから得られる水素ガスの大半が自家消費となり、足りない分や外販用には石油精製工場や石油化学工場でナフサや天然ガスを原料とした水蒸気改質装置からの水素ガスが使用されているが、それらをすべてあわせてもWE−NET平成12年度報告書によると水素供給可能量は92.7億Nm3/年であり、一方2020年度水素必要量は386.7億Nm/年といわれており、大きな需給ギャップがある。従いこの水素需給ギャップをバイオ分野から埋めていく大きな可能性となりえるものである。
【0015】
また原料油脂を石油精製の水素化処理技術を応用して不純物を除去して製造する水素化処理油(BHD=Bio Hydrofined Diesel)の開発も行われている。この際に必要となる水素自給源としても本方法は利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実験に使用した固定床流通系装置のリアクター部を示す図である。
【図2】反応温度とグリセリンの転化率を示す図である。
【図3】反応温度とグリセリンの水蒸気改質中のガス組成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料(BDF)製造の際、副生するグリセリンに加水・加温して輸送可能とした上で、改質反応器においてスチームを発生させ、水素を含む改質ガスを発生させることを特徴とする、グリセリンからの水素製造を実施する処理方法
【請求項2】
前記の水蒸気改質反応器において、S/C(炭素元素数に対するスチームモル数の比)を1以上5以下、反応器圧力常圧以上から1MPa未満、反応温度500℃から900℃の範囲で行うことを特徴とするグリセリン水蒸気改質反応方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13041(P2009−13041A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196696(P2007−196696)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(505417367)株式会社エプシロン (10)
【Fターム(参考)】