バイオディーゼル燃料
【課題】原料に動物性油脂を含むような廃食物油を用いた場合であっても、目詰まり点が低く、寒冷地でも使用可能なバイオディーゼル燃料を提供することを課題とする。さらに、貯蔵安定性及び燃焼特性に優れたバイオディーゼル燃料を提供することを課題とする。
【解決手段】動物性油脂に含まれるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を10〜25%にすることにより実用的な範囲で、低温特性にも優れ、かつ貯蔵安定性及び燃焼特性にも優れたバイオディーゼル燃料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】動物性油脂に含まれるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を10〜25%にすることにより実用的な範囲で、低温特性にも優れ、かつ貯蔵安定性及び燃焼特性にも優れたバイオディーゼル燃料及びその製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオディーゼル燃料に関する。特に動物性油脂を原料とし、動物性油脂本来
の目詰まり点よりも低い目詰まり点を有するバイオディーゼル燃料に関する。また、動物
性油脂由来の燃料の目詰まり点を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油の確認可採年数が約40年とその枯渇が危惧されている中で、石油代替燃料
としてバイオディーゼル燃料(以下、単にBDFということがある)が注目されている。
BDFは油脂の主成分であるトリアシルグリセリドをメタノールとエステル交換した脂肪
酸メチルエステル(以下、単にFAMEということがある)である。BDFは軽油とほぼ
同等の発熱量と類似した物理性状を有するためにディーゼル燃料として有望であり、軽油
に比べてSOxや黒煙の排出量を大幅に低減できる特長を有する。現在、欧州を中心にバ
ージンの植物性油脂を原料とした大規模なBDF製造が一部実用化されている。一方、日
本ではバージンの植物性油脂のみならず、廃食物油を原料としたBDFの製造方法が検討
されているものの、植物性廃食物油が主であり、国内で排出される廃食物油の大部分であ
る動物性油脂からのBDFの製造方法に関しては、いまだ十分な検討はなされていない。
また、動物性油脂を含有している廃食物油を原料とする場合、原料が多様であることから
製造したBDFの燃料性状が不均一となり、石油代替燃料として実用化するには未だ問題
があった。従って、動物性油脂を含む廃食物油に対して燃料性状を均一化するBDF製造
プロセスの構築が必要である。本発明者らは、これまで動物性油脂が既存の植物性油脂B
DF製造法により植物性油脂とほぼ同収率でBDFを製造できることを報告した(非特許
文献1)。
【非特許文献1】中森秀紀、平野勝巳ら、第16回廃棄物学会研究発表会講演論文集、p702−704(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
動物性油脂BDFと植物性油脂BDFの燃料性状を比較した結果、動物性油脂BDFは
目詰まり点が高く、寒冷地では使用できないことが判明した。この問題点に鑑みて本発明
の目的は、原料に動物性油脂を含むような廃食物油を用いた場合であっても、一定の性状
、特に目詰まり点が低いBDFを提供することを課題とする。
また、実用的な燃焼特性及び貯蔵安定性に優れた動物性油脂BDFの提供を別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために動植物性油脂BDFの凝固過程に着目して鋭
意研究をした結果、驚くべきことに動物性油脂に含まれるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率と目詰まり点に一定の相関関係があることを見出し、低温特
性に優れたBDFを完成するに至った。
また、動物性油脂BDFの燃焼特性及び貯蔵安定性についても検討を行った結果、上記パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を所定の範囲とすることにより実用可能なBDFを完成することができた。
すなわち、上記BDFに関する本発明は以下の構成を有する。
1)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が25重量%以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
2)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、目詰まり点が5℃以下であることを特徴とするバイオディーゼル燃料。
3)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が10重量%以上である前記1)に記載のバイオディーゼル燃料。
4)さらに軽油を含む前記1)〜3)のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料。
5)動物性油脂をメタノールとエステル交換反応してバイオディーゼル燃料を製造する方法において、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率を調整することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。
6)パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率の調整が、晶析又は他の成分との混合によるものである前記5)に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
7)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料について、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有量を測定し、合計した含有率を求め、下記式(1)に代入することによって目詰まり点を予測する方法。
【0005】
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、動物性油脂を原料として含む場合であっても、植物性油脂を原料とす
る場合と同様に、低温特性に優れたBDFを製造することができる。また、原料が廃食物油のように多様なものであっても、一定水準の性質を有する燃料を製造することができ、わが国の廃食物油の再利用を促進することができる。さらに、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率をコントロールすることにより所望の目詰まり点を有する燃料を製造することができ、日本国内あるいは世界の異なる基準に合わせたBDFを提供することができる。
また、本発明によれば、動物性油脂が本来有する優れた燃料特性を生かし、さらに貯蔵
安定性にも優れた実用的なBDFを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いる油脂の原料は、植物性油脂、動物性油脂、それらの混合物を利用するこ
とができる。また、バージンの油だけでなく、廃食物油などいずれも用いることができる
。特に、そのままでは目詰まり点が不明な、混合物である廃食物油などに本発明を用いれ
ば、廃食物油の再利用につながり大きな効果が期待できる。
【0008】
本発明でいう動物性油脂とは、動物性の油脂、例えば豚、牛、鶏などの構成成分である
油脂をいい、動物性油脂由来成分とはこれらをそのままあるいは、物理的、化学的処理を
加えて成分の組成を変更したものも含む意である。動物性油脂由来成分は、アルカリ条件
下、メタノールとエステル交換する反応により脂肪酸メチルエステルが得られる。動物性
油脂由来の脂肪酸メチルエステルは、密度、セタン価、発熱量ともに軽油と同等であり、
石油代替燃料として用いることができる
【0009】
本発明でいうバイオディーゼル燃料(BDF)とは、それ単独で、あるいは軽油など他
の燃料と混合することで燃料として用いられるものであって、特にその由来を動植物性油
脂とするものが好ましく用いられる。本明細書では、動物性油脂を原料として製造される
BDFを単に動物性油脂BDFということがある。他の燃料と混合する場合の割合は、燃料として要求される性能を満たす範囲であれば特に限定されない。
【0010】
本発明は、BDFに含まれるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有
率と目詰まり点に一定の相関関係があることを見出したことに基づく発明である。当初、
低温下での目詰まりの原因は、温度低下に伴う動粘度の変化も要因として検討したが、後
述する実施例より、温度低下に伴う動粘度の変化は、動物性油脂BDFにおいても大豆油
BDFとほぼ同等であることがわかり、目詰まりの原因は流動性の悪化ではないことが判
明した。
動物性油脂由来のBDFの構成成分は、ミスチリン酸メチル(C14Me)、パルミチ
ン酸メチル(C16Me)、パルミトレイン酸メチル(C16:1Me)、マルガリン酸
メチル(C17Me)、ステアリン酸メチル(C18Me)、オレイン酸メチル(C18
:1Me)、リノール酸メチル(C18:2Me)、リノレン酸メチル(C18:3Me
)、ドコセン酸メチル(C22:1Me)などであるが、このうちパルミチン酸メチル(
C16Me)とステアリン酸メチル(C18Me)を合計した含有率と目詰まり点の間に
以下の関係式(1)、(2)が成り立つことを見出した。ここで、式(1)は、式(2)を凝固開始温度Tの式に変形したものである。以下の式で固体の濃度は、C16MeとC18Meの合計含有率に相当する。後述する実施例より、BDFの目詰まり点は凝固を開始する温度と相関が高いことから、本願では凝固開始温度を目詰まり点の指標として用いた。
以下の式で固相の活量係数は、理論式を実測値に合わせるためのいわゆる補正係数であ
り、後述する試験より、本発明では0.75が適当であった。純成分sの融解熱は、C1
6Meの融解熱55350J/mol、C18Meの融解熱64430J/mol(日本
油化学会編,第四版 油化学便覧,(丸善),p278(2001)に記載)を固相の構
成成分比であるC16Me:C18Me=57.5:42.5で相加平均した値であり、
58969.80J/molである(同上)。純成分sの凝固開始温度は、C16Me:
C18Me=57.5:42.5の割合で調整した試料の凝固開始温度の測定値(24.
8℃+273.15=297.95K)である。
【0011】
【0012】
【0013】
上記関係式(1)をグラフで表したものを図5に示す。本図によれば、例えば、京都市のBDF規格である凝固開始温度(T)が−5℃の場合を達成するためには、C16MeとC18Meを合計した含有率は、15%以下とする必要があることがわかる。また、例えば欧州の場合、地域によりかなり温度差があるために明確ではないが、BDFの凝固開始温度は−20〜5℃を要求される。従って、この場合のC16MeとC18Meを合計した含有率は、−20℃以下であれば、4%以下、5℃以下であれば25%以下とする必要があることがわかる。
【0014】
このように本発明は、バイオディーゼル燃料の使用地域での必要とされる低温特性を満
たすようにパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が調整されている
ことを特徴とする。低温特性を上げるためには、該合計含有率は、例えば、25重量%以下が好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下が最も好ましい場合がある。なお、合計含有率が25重量%より高いと凝固開始温度は5℃より高くなってしまい、低温特性の面から望ましくない。
また、換言すれば、本発明のバイオディーゼル燃料は、目詰まり点が5℃以下であるこ
とが好ましく、0℃以下がさらに好ましく、−5℃以下が最も好ましい場合がある。
【0015】
本発明のBDFは、そのままでも燃料として用いることができるが、低温域でも固化せ
ずに液体性状を有する燃料であることから、他の液体燃料と混合して用いることができる
。他の液体燃料としては、市販の燃料である軽油や重油などを挙げることができる。その
うちでも、ディーゼルエンジン用の燃料としては軽油が好ましく用いられる。
【0016】
また、本発明のBDFは、燃焼特性の面からは、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率は、10%以上必要であり、13%以上がさらに望ましい。10%未満であると着火性が悪くなり、また含有率は高い方がより着火性が良いからである。
従って、前述の低温特性と燃焼特性の両方を満たす実用的な範囲としては、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率は、10%以上25%以下であることが望ましく、13%以上25%以下がさらに望ましく、13%以上15%以下が最も望ましい。
なお、貯蔵安定性は動物性油脂BDFのパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率に左右されることはないことが本発明によりわかった。すなわち、貯蔵安定性は、リノレン酸メチルの酸化による動粘度の上昇に起因することが判明したが、動物性油脂BDFは元来リノレン酸メチルの絶対含有量が少ないからである。従って、上述の低温特性と燃焼特性からパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を調整することで、貯蔵安定性、低温特性及び燃焼特性に優れた実用的なBDFが得られる。
【0017】
本発明のバイオディーゼル燃料(BDF)の製造方法は、動物性油脂をアルカリ条件下
メタノールとエステル交換して脂肪酸メチルエステル(FAME)を製造するに際し、B
DF中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率が25重量%以
下となるように調整することにより行われる。BDF中のC16MeとC18Meを合計
した含有率は、上記のとおり、要求される目詰まり点(凝固開始温度)によって異なるが
、含有率を低下させるには、他の成分との混合により希釈する方法、又は晶析により、固
体として析出させて除く方法が挙げられる。
希釈は、例えば、原料段階で、動物性油脂を植物性油脂などで希釈し、これらの混合油
脂をメタノールとエステル交換することにより、C16MeとC18Meが動物性油脂の
みの場合より少ないFAMEを得ることができる。また、あるいは動物性油脂からFAM
Eを得た後、C16MeとC18Me以外のFAMEを混合して希釈する方法が挙げられ
る。前者の希釈する液体としては、大豆油、菜種油、ひまわり油などの植物性油脂が挙げ
られ、後者の希釈する液体としては、C16Me及びC18Meの含有率の低い植物油脂
由来BDF又は軽油が挙げられる。
また、晶析は、例えば、反応槽内の中心に撹拌翼、槽の下部及び上部を冷媒により独立
して温度制御可能に構成された晶析装置を用いて行われる。本装置の内部にBDFを投入
し、槽上部を10℃から−10℃に温度制御することにより、C16Me及びC18Me
を析出させることができる。
【0018】
本発明により、動物性油脂由来成分を含むBDFの目詰まり点を評価又は予測する方法
は、次のように行われる。まず、そのパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有
量を測定し、合計し、BDF全体に対する割合、つまり、含有率を求め、これを上記式(
2)にあてはめることによって目詰まり点(凝固開始温度)を算出し、評価又は予測する
。
【実施例】
【0019】
〔試験例1〕BDFの製造
1.遊離脂肪酸除去
試料として、牛脂試薬(和光純薬工業株式会社製)、豚脂(三木屋商店有限会社製)、
大豆油試薬(和光純薬工業株式会社製)を用いた。これらについて以下に示す酸価分析を
行い、中和に必要な水酸化ナトリウム理論量を算出した。この酸価分析値の1.1倍の水
酸化ナトリウムを純水10mlに加え、試料150gと共に80℃で30秒間撹拌した後
、3000rpmで5分間遠心分離を行い、得られた上層を以下の試験において、処理油として用いた。
2.酸価分析方法
試料20gを三角フラスコに計り取り、中性溶剤100ml(ジエチルエーテル:99
.5vol%エタノール=1:1)にフェノールフタレイン指示薬0.3mlを加え、0
.1mol/L水酸化カリウム−エタノール溶液で中和したものを加えて溶解させた。固
体試料の場合は湯浴上で溶解した後、溶剤を加えた。0.1mol/L水酸化カリウム標
準液で滴定し、指示薬の変色が30秒間続いたときを中和の終点と定めた。
酸価=(5.611×A×F)/B (3)
ただし A:0.1mol/L水酸化カリウム標準溶液使用量[ml]
F:0.1mol/L水酸化カリウム標準溶液のファクター
B:試料採取量[g]
【0020】
3.粗製BDFの製造
各試料の処理油100g、メタノール30g、水酸化ナトリウム0.45gをセパラブ
ルフラスコ(柴田科学株式会社製)に投入し、ホットスターラーを用いて60℃で30分
間加熱撹拌した。この際、セパラブルフラスコカバー(柴田科学株式会社製)の上部にジ
ムロート冷却器を設けて揮発するメタノールを還流した。反応終了後、直ちに分液漏斗に
移して30分間静置分離した。得られた上層からメタノールを留去し、粗製BDFとした
。
【0021】
4.粗製BDFの精製
前記で得られた各粗製BDFに対して50wt%の純水を加え、ホットスターラーを用
いて70℃で5分間加熱撹拌した。その後、分液漏斗に移して30分間静置分離し、上層
と下層に分けた。上層に対して上記操作を1回繰り返し、得られた上層を各BDFとした
。
【0022】
〔試験例2〕 低温特性試験
1.各BDFの動粘度分析
動粘度の分析は、JIS−K2283に準拠して行った。
図1にJIS−K2283の「動粘度および混合比の推定方法」に規定された計算法(日
本規格協会編,JISハンドブック25石油,(日本規格協会),p893−900(2
005))に基づき作図した各BDFの温度と動粘度の関係を示す。なお、参考のために
京都市のBDFの規格を併記した。
図1より、牛脂BDFおよび豚脂BDFの動粘度は京都市のBDFの規格内であり、温
度低下に伴う動粘度の変化は大豆油BDFとほぼ同等であることがわかった。すなわち、
目詰まりの原因は流動性の悪化ではないことが本試験により判明した。
【0023】
2. 各BDFの目詰まり点分析
目詰まり点の分析はJIS−K2288に準拠して行った。図2に各BDFのDSC降
温曲線を示す。なお、参考のために各BDFの目詰まり点を併記した。
図2より、各BDFは目詰まり点とほぼ同等の温度から凝固を開始することがわかった
。以上のことから、目詰まりの原因は固体の析出であることが判明した。本試験結果より
BDFの目詰まり点は凝固を開始する温度と相関が高いことから、本願では凝固開始温度
を目詰まり点の指標として用いた。図2より、各BDFはそれぞれ2つの凝固ピークが出
現することがわかる。これは、多成分のFAMEで構成される各BDFの固液平衡状態が
固相中での相互溶解がない共晶型であることを意味することから、凝固温度が成分により
2つに分かれると考えられる。
(DSC分析)
各BDFはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製EXSTAR6100 DSC
を用い、示差走査熱量測定を行った。なお、DSC降温曲線においてピークが出現し始め
た温度を凝固開始温度とした。
<測定条件等>
測定範囲 −40〜+40mW
測定感度 0.2μW
測定条件 窒素流量 50ml/min
降温速度 5℃/min
サンプリング回数 3回/秒
【0024】
3.各BDFの脂肪酸組成分析
日本油化学会の基準油脂分析試験法の脂肪酸組成分析(FID昇温ガスクロマトグラフ
法)に準拠し、FAME組成を定量した。
図3に各BDFの脂肪酸組成(FAME組成)分析結果を示す。なお、参考のためにF
AMEの凝固開始温度を併記した。図3より、炭素数が14以上の飽和FAMEは各BD
Fに比べ凝固開始温度が高いことから、析出する固体は各BDFの主成分であるパルミチ
ン酸メチル(C16Me)およびステアリン酸メチル(C18Me)と想定された。
【0025】
4.添加BDFの調製
牛脂BDF1.6gに対して、オレイン酸メチル(以下、C18:1Me、シグマアル
ドリッチジャパン株式会社製)又はステアリン酸メチル(C18Me、東京化成工業株式
会社製)を0.4g添加し、それぞれFAMEの標準試薬を20wt%含有する牛脂BD
Fを調製した。さらに、C18:1Me又はC18Me標準試薬の含有率を20wt%か
ら50wt%および80wt%に変化させたものを調製した。これらの試料は10分間超
音波照射下で攪拌し、DSC分析を行った。結果を図4に示す。これによれば、C18M
eの添加率が増えるに従って、凝固開始温度が上昇していることからC18Meが凝固の
原因であることがわかる。対照的にC18:1Meの添加率が増えるに従って、凝固開始
温度は低下していることから、C18:1Meは凝固の原因ではないことがわかる。
【0026】
5.C16MeおよびC18Meの合計含有率と凝固開始温度の関係
図5に各BDFのFAME組成から算出したC16MeおよびC18Meの合計含有率
と凝固開始温度(実測値)の関係を破線及びプロットで示す。ここでいう各BDFとは、
牛脂、豚脂、鶏脂、大豆油、牛脂と大豆油の混合油脂から製造したBDFおよび牛脂BD
FにC18:1Meの混合率を変化させ添加したBDFを指す。
なお、参考のために京都市のBDFの規格と、固体の濃度をC16MeおよびC18Meの合計含有率、固相の活量係数を1とみなして共晶型における固液平衡の関係式である下記式(1)、(2)より求めた凝固開始温度の計算値を実線で示した(化学工学会監修,分離,(培風館),p16-18(1995))。
式中、固体の濃度は、C16MeとC18Meの合計含有率に相当する。固相の活量係
数は、理論式を実測値に合わせるためのいわゆる補正係数であり、本発明では0.75が
適当であった。純成分sの融解熱は、C16Meの融解熱55350J/mol、C18
Meの融解熱64430J/mol(日本油化学会編,第四版 油化学便覧,(丸善),
p278(2001)に記載)を固相の構成成分比であるC16Me:C18Me=57
.5:42.5で相加平均した値であり、58969.80J/molである(同上)。
純成分sの凝固開始温度は、C16Me:C18Me=57.5:42.5の割合で調整
した試料の凝固開始温度の測定値(24.8+273.15=297.95K)である。
【0027】
また、上記式(2)を凝固開始温度Tの式に変形し、下記式(1)に示す。
【0028】
図5より、凝固開始温度の実測値(プロット及び破線)と計算値(実線)は同様の傾向
を示すことがわかる。さらに、計算値は固相の活量係数を0.75と仮定して補正を行う
と実測値とほぼ一致した。すなわち、式(1)より凝固開始温度はC16MeおよびC1
8Meの合計含有率によって一意的に決定すると考えられる。以上のことから、C16M
eおよびC18Meが凝固して目詰まりを生起させるため、目詰まり点はC16Meおよ
びC18Meの合計含有率に依存することが判明した。図5における凝固開始温度の計算
値(補正あり)より、C16MeおよびC18Me合計含有率を15%以下に低減することにより目詰まり点を−5℃以下(京都市BDF規格)に低下させることができた。
【0029】
6.添加物種類別の凝固開始温度とC16MeおよびC18Meの合計含有率との関係
図6に各BDFのFAME組成から算出したC16MeおよびC18Meの合計含有率
と凝固開始温度(実測値)の関係をプロットで示す。ここでいう各BDFとは、牛脂、豚
脂、鶏脂、大豆油から製造したBDFにC18:1Me、C18:2Me、C18Me、
軽油の混合率を変化させ添加したBDFを指す。また、牛脂モデルBDFとは、牛脂BDFの脂肪酸組成に合わせ、単独の標準試薬を混合したBDFを指す。本結果によれば、原料となる油脂の種類に関わらず、また添加物の種類に関わらず、どの動物性油脂の場合も、ほぼ同一直線上にのり、C16MeとC18Meの合計含有率と凝固開始温度との間には、添加物及び原料油脂の種類に関わらずに一定の関係があるといえることがわかった。
【0030】
〔試験例3〕 C16MeとC18Meの合計含有率の調整
1.希釈による調整
前記「試験例2、4.添加BDF調製」と同様の方法により、動物性油脂由来のBDFに
対してC18:1Meを添加することにより、C18Me及びC16Meの濃度を希釈す
ることができた。
【0031】
2.晶析による調整
図7に晶析装置の一例を示す。500mLの反応槽内の中心に撹拌翼、底部に冷媒が設
置されている。また槽上部の外側を冷媒が循環している。このような装置の内部にBDF
300gを投入し、槽上部を10℃から−10℃まで徐冷し、槽底部を10℃から−5℃
に温度制御を行いつつ撹拌して、120分間反応させてC16Me及びC18Meを析出
させた。晶析前後のFAME組成を表1に示す。C16Meは、晶析前は24.6%であ
ったところ、晶析後は、5.0%に減少した。また、C18Meは晶析前は18.0%で
あったところ、晶析後は4.1%に減少した。この結果、晶析によりこれらの合計した含
有率を42.6%から9.1%に減少させることができた。豚脂についても同様の試験を
行ったところ、牛脂の場合と同様の結果を得た。
【0032】
【表1】
【0033】
〔試験例4〕 他の燃料との混合
1.牛脂BDFと軽油との混合
牛脂BDFの含有率が20wt%および50wt%および80wt%になるように牛脂
BDFと2号軽油を混合した。これらの試料は10分間超音波照射下で攪拌し、DSC分
析を行った。結果を図8に示す。
これより、牛脂BDF単独では、凝固開始温度がほぼ10℃であるが、牛脂軽油混合B
DFでは、軽油の含有率が増えるにしたがって凝固開始温度が低下し、軽油80%、牛脂
BDF20%ではほぼ−5℃であった。ここで用いた牛脂BDFのC16MeとC18M
eの合計含有率は44.8%である。牛脂BDFの含有率が20wt%および50wt%
および80wt%は、C16MeとC18Meの合計含有率に換算するとそれぞれ、9.
00、22.41、35.85%である。
【0034】
2.牛脂BDFと大豆油BDFとの混合
牛脂試薬と大豆油試薬を予め重量比2:1又は1:2に混合して前記1.〜3.と同様
の操作を行い、牛脂大豆油混合BDFを製造した。このBDFについてDSC分析を行っ
た。結果を図9に示す。
これより、牛脂BDF単独では、凝固開始温度がほぼ10℃であるが、牛脂大豆混合
BDFでは、大豆BDFの含有率が増えるにしたがって凝固開始温度が低下し、大豆油B
DF100%ではほぼ−5℃であった。
【0035】
〔試験例5〕 貯蔵安定性試験
1.過酸化物価(POV)、動粘度測定
各BDF 60gを100mlの三角フラスコに入れ、40℃のインキュベーター(三商株式会社製、SIB−35)内で0、4、8、12、16週間静置して貯蔵した。貯蔵された各BDFに対し、基準油脂分析試験法2.5.2.1に基づいた過酸化物価(POV)測定(酢酸−イソオクタン法)および動粘度測定を行った。また、貯蔵された各BDFをプロパノール/ヘキサン(5:4)に溶解し、高速液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)を行った。分析条件を以下に示す。さらに、質量分析計(LCQ、Thermo Electron社製)を用い、APCI法にて質量分析を行った。結果を図10〜12に示す。
(LC−MS分析条件)
装置:Waters社製、Alliance2695
カラム:L−columnODS(2.1mm×150mm、粒子径5μm)
移動層:
A:水、B:アセトニトリル、C:プロパノール/ヘキサン(5:4)
30%A+70%Bを0分間、100%Bを10分間、50%B+50%Cを20分間でグラジエントした後、50%B+50%Cで20分間保持した。
【0036】
2.結果
図10に各BDFにおける動粘度の経時変化を示す。なお、図中に京都市BDF規格を併記した。これより、牛脂BDFは時間経過に伴う過酸化物(POV)の生成がほとんど見られず、また動粘度も変化せずほぼ一定である。一方、大豆油BDFは4週間後から過酸化物が生成し、それに伴い動粘度も上昇している。さらに、大豆油BDFの動粘度は16週間後には京都市のBDF規格外になっている。このことから動粘度はBDFから生成した過酸化物が要因となり、上昇したのではないかと考えられる。従って、牛脂BDFは大豆BDFに比べ貯蔵安定性に優れているといえる。
【0037】
次にPOV生成についてさらに検討を加えた。図11に大豆油BDFの貯蔵0週間及び4週間後におけるLC−MS分析を行って得られたトータルイオンクロマトグラムを示す。4週間後に新たなピークが出現しており(10〜15min)、この新たなピークに対する質量分析を行って得られたマススペクトル解析結果を図12に示す。これより、検出されたスペクトルはリノレン酸メチル(C18:3Me)のハイドロパーオキサイドまたはジハイドロパーオキサイドのフラグメントイオンと推定された。リノレン酸メチルは2重結合を3つ有することから反応性が高いことが知られており(藤谷健,あぶらの話,(裳華房),p84-87(1996))、そのため、貯蔵されている期間に酸化してハイドロパーオキサイドに変化したためと考えられる。
【0038】
以上のことから、BDFの貯蔵安定性はリノレン酸メチル(C18:3Me)の含有率に依存することが示された。表2より動物油脂BDFは植物油脂BDFに比べてリノレン酸メチルの含有率が低く、貯蔵安定性に優れていることが判明した。なお、低温特性改善のためにC16MeおよびC18Meを低減すると、リノレン酸メチル含有率が相対的に上昇するが、その量は微量であるために貯蔵安定性には影響しないと考えられる。
【0039】
【表2】
【0040】
〔試験例6〕 燃焼特性評価試験
1.発熱量の測定
燃研式デジタル熱量計(小川サンプリング株式会社製、OSK100−5)を用い、BDFおよび軽油の高位発熱量を測定した。この際、発生した水分量を測定し、低位発熱量を算出した。
2.実機性能試験
供試機関には、ヤンマーディーゼル株式会社製の立型空冷4サイクル単気筒ディーゼル機関(L48A)を用いた。ディーゼル機関の機関仕様を表3に示す。なお、試験は機関回転数3000rpmおよび燃料噴射量0.2ml/s一定で行った。
【0041】
【表3】
【0042】
4.結果
(1)発熱量
図13にBDFの低位発熱量を、表4にBDFの元素分析値を示す。なお、参考のために軽油の発熱量を併記した。これより、牛脂BDFの低位発熱量は軽油に比べ若干劣るものの大豆油BDFとほぼ同等であることがわかる。また、表4より、牛脂BDFおよび大豆油BDFの元素分析値がほぼ同一であったことから、FAME組成による発熱量の変化はほとんどないと考えられる。従って、BDFは原料油脂の種類によらずほぼ同等の発熱量を有することが判明した。
【0043】
【表4】
【0044】
(2)実機性能試験・着火性試験
図14に定常状態(燃焼室壁面温度約600℃)における各BDFの指圧線図を示す。なお、参考のために軽油の指圧線図を同図中に示す。
定常状態の指圧線図より、牛脂BDF、鶏脂BDFおよび大豆油BDFは軽油と同等以上の着火性および出力を発揮しており、ディーゼル燃料として十分に機能すると考えられる。
ここで、FAMEのセタン価を表5(Knothe,G.,Matheaus,A.,C.,Ryan,T.,W.,III,Fuel,82,971-975(2003))に示すが、FAMEの不飽和度が上昇すると、セタン価が減少している。飽和結合に対して不飽和結合は立体的に炭素−炭素結合が平面であるため、環状中間体が不安定であると考えられるからである。従って、牛脂BDF、鶏脂BDF、大豆油BDFは、この順序で飽和FAMEの含有率が高いため(表2より)、飽和FAMEの含有率の違い、すなわち、C16Me+C18Me合計含有率の違いにより着火性と出力に違いが生じるのではないかと推定できる。
そして、各BDFの定常状態の指圧線図における立ち上がり方を詳細に検討すると、大豆油BDFと軽油は、ほぼ同様の立ち上がりを示しているが、次に鶏脂BDFが早く、牛脂BDFが一番早い立ち上がりを示している。これらの飽和脂肪酸含有率(C16Me+C18Me合計含有率)は、大豆油BDF、鶏脂BDF、牛脂BDFでそれぞれ、13.3%、22.3%、42.6%であり、この順序が立ち上がりの早さ及び出力の差と同じ順序であることから、上記推定が正しいものであると裏づけられる。
以上より、軽油と同等の燃焼特性を得るためには、C16Me+C18Me合計含有率は10%以上必要であり、13%以上がさらに望ましいといえる。
【0045】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、動物性油脂を原料として含む場合であっても、植物性油脂を原料とする場合と同様に、低温特性に優れた燃料を提供することができる。また、原料が廃食物油のように多様なものであっても、一定水準の性質を有する燃料を製造することができ、わが国の廃食物油の再利用を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】各BDFの温度と動粘度の関係を示す図である。
【図2】各BDFのDSC降温曲線を示す図である。
【図3】各BDFのFAME組成を示す図である。
【図4】FAME添加による牛脂BDFの凝固開始温度変化を示す図である。
【図5】C16MeとC18Meの合計含有率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図6】各BDFおよび添加物種類別の凝固開始温度を示す図である。
【図7】晶析装置の概念図を示す図である。
【図8】牛脂BDFと軽油の混合率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図9】牛脂BDFと大豆油BDFの混合率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図10】各BDFの貯蔵期間経過に伴うPOV及び動粘度変化を示す図である。
【図11】大豆油BDFのトータルイオンクロマトグラムを示す図である。
【図12】4週間経過後の大豆油BDFにおける生成物質のマススペクトルを示す図である。
【図13】BDFの低位発熱量を示す図である。
【図14】定常状態におけるBDFの指圧線図を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 撹拌翼
2 冷媒
3 反応槽
4 晶析装置
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオディーゼル燃料に関する。特に動物性油脂を原料とし、動物性油脂本来
の目詰まり点よりも低い目詰まり点を有するバイオディーゼル燃料に関する。また、動物
性油脂由来の燃料の目詰まり点を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油の確認可採年数が約40年とその枯渇が危惧されている中で、石油代替燃料
としてバイオディーゼル燃料(以下、単にBDFということがある)が注目されている。
BDFは油脂の主成分であるトリアシルグリセリドをメタノールとエステル交換した脂肪
酸メチルエステル(以下、単にFAMEということがある)である。BDFは軽油とほぼ
同等の発熱量と類似した物理性状を有するためにディーゼル燃料として有望であり、軽油
に比べてSOxや黒煙の排出量を大幅に低減できる特長を有する。現在、欧州を中心にバ
ージンの植物性油脂を原料とした大規模なBDF製造が一部実用化されている。一方、日
本ではバージンの植物性油脂のみならず、廃食物油を原料としたBDFの製造方法が検討
されているものの、植物性廃食物油が主であり、国内で排出される廃食物油の大部分であ
る動物性油脂からのBDFの製造方法に関しては、いまだ十分な検討はなされていない。
また、動物性油脂を含有している廃食物油を原料とする場合、原料が多様であることから
製造したBDFの燃料性状が不均一となり、石油代替燃料として実用化するには未だ問題
があった。従って、動物性油脂を含む廃食物油に対して燃料性状を均一化するBDF製造
プロセスの構築が必要である。本発明者らは、これまで動物性油脂が既存の植物性油脂B
DF製造法により植物性油脂とほぼ同収率でBDFを製造できることを報告した(非特許
文献1)。
【非特許文献1】中森秀紀、平野勝巳ら、第16回廃棄物学会研究発表会講演論文集、p702−704(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
動物性油脂BDFと植物性油脂BDFの燃料性状を比較した結果、動物性油脂BDFは
目詰まり点が高く、寒冷地では使用できないことが判明した。この問題点に鑑みて本発明
の目的は、原料に動物性油脂を含むような廃食物油を用いた場合であっても、一定の性状
、特に目詰まり点が低いBDFを提供することを課題とする。
また、実用的な燃焼特性及び貯蔵安定性に優れた動物性油脂BDFの提供を別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために動植物性油脂BDFの凝固過程に着目して鋭
意研究をした結果、驚くべきことに動物性油脂に含まれるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率と目詰まり点に一定の相関関係があることを見出し、低温特
性に優れたBDFを完成するに至った。
また、動物性油脂BDFの燃焼特性及び貯蔵安定性についても検討を行った結果、上記パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を所定の範囲とすることにより実用可能なBDFを完成することができた。
すなわち、上記BDFに関する本発明は以下の構成を有する。
1)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が25重量%以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
2)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、目詰まり点が5℃以下であることを特徴とするバイオディーゼル燃料。
3)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が10重量%以上である前記1)に記載のバイオディーゼル燃料。
4)さらに軽油を含む前記1)〜3)のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料。
5)動物性油脂をメタノールとエステル交換反応してバイオディーゼル燃料を製造する方法において、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率を調整することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。
6)パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率の調整が、晶析又は他の成分との混合によるものである前記5)に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
7)動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオディーゼル燃料について、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有量を測定し、合計した含有率を求め、下記式(1)に代入することによって目詰まり点を予測する方法。
【0005】
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、動物性油脂を原料として含む場合であっても、植物性油脂を原料とす
る場合と同様に、低温特性に優れたBDFを製造することができる。また、原料が廃食物油のように多様なものであっても、一定水準の性質を有する燃料を製造することができ、わが国の廃食物油の再利用を促進することができる。さらに、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率をコントロールすることにより所望の目詰まり点を有する燃料を製造することができ、日本国内あるいは世界の異なる基準に合わせたBDFを提供することができる。
また、本発明によれば、動物性油脂が本来有する優れた燃料特性を生かし、さらに貯蔵
安定性にも優れた実用的なBDFを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いる油脂の原料は、植物性油脂、動物性油脂、それらの混合物を利用するこ
とができる。また、バージンの油だけでなく、廃食物油などいずれも用いることができる
。特に、そのままでは目詰まり点が不明な、混合物である廃食物油などに本発明を用いれ
ば、廃食物油の再利用につながり大きな効果が期待できる。
【0008】
本発明でいう動物性油脂とは、動物性の油脂、例えば豚、牛、鶏などの構成成分である
油脂をいい、動物性油脂由来成分とはこれらをそのままあるいは、物理的、化学的処理を
加えて成分の組成を変更したものも含む意である。動物性油脂由来成分は、アルカリ条件
下、メタノールとエステル交換する反応により脂肪酸メチルエステルが得られる。動物性
油脂由来の脂肪酸メチルエステルは、密度、セタン価、発熱量ともに軽油と同等であり、
石油代替燃料として用いることができる
【0009】
本発明でいうバイオディーゼル燃料(BDF)とは、それ単独で、あるいは軽油など他
の燃料と混合することで燃料として用いられるものであって、特にその由来を動植物性油
脂とするものが好ましく用いられる。本明細書では、動物性油脂を原料として製造される
BDFを単に動物性油脂BDFということがある。他の燃料と混合する場合の割合は、燃料として要求される性能を満たす範囲であれば特に限定されない。
【0010】
本発明は、BDFに含まれるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有
率と目詰まり点に一定の相関関係があることを見出したことに基づく発明である。当初、
低温下での目詰まりの原因は、温度低下に伴う動粘度の変化も要因として検討したが、後
述する実施例より、温度低下に伴う動粘度の変化は、動物性油脂BDFにおいても大豆油
BDFとほぼ同等であることがわかり、目詰まりの原因は流動性の悪化ではないことが判
明した。
動物性油脂由来のBDFの構成成分は、ミスチリン酸メチル(C14Me)、パルミチ
ン酸メチル(C16Me)、パルミトレイン酸メチル(C16:1Me)、マルガリン酸
メチル(C17Me)、ステアリン酸メチル(C18Me)、オレイン酸メチル(C18
:1Me)、リノール酸メチル(C18:2Me)、リノレン酸メチル(C18:3Me
)、ドコセン酸メチル(C22:1Me)などであるが、このうちパルミチン酸メチル(
C16Me)とステアリン酸メチル(C18Me)を合計した含有率と目詰まり点の間に
以下の関係式(1)、(2)が成り立つことを見出した。ここで、式(1)は、式(2)を凝固開始温度Tの式に変形したものである。以下の式で固体の濃度は、C16MeとC18Meの合計含有率に相当する。後述する実施例より、BDFの目詰まり点は凝固を開始する温度と相関が高いことから、本願では凝固開始温度を目詰まり点の指標として用いた。
以下の式で固相の活量係数は、理論式を実測値に合わせるためのいわゆる補正係数であ
り、後述する試験より、本発明では0.75が適当であった。純成分sの融解熱は、C1
6Meの融解熱55350J/mol、C18Meの融解熱64430J/mol(日本
油化学会編,第四版 油化学便覧,(丸善),p278(2001)に記載)を固相の構
成成分比であるC16Me:C18Me=57.5:42.5で相加平均した値であり、
58969.80J/molである(同上)。純成分sの凝固開始温度は、C16Me:
C18Me=57.5:42.5の割合で調整した試料の凝固開始温度の測定値(24.
8℃+273.15=297.95K)である。
【0011】
【0012】
【0013】
上記関係式(1)をグラフで表したものを図5に示す。本図によれば、例えば、京都市のBDF規格である凝固開始温度(T)が−5℃の場合を達成するためには、C16MeとC18Meを合計した含有率は、15%以下とする必要があることがわかる。また、例えば欧州の場合、地域によりかなり温度差があるために明確ではないが、BDFの凝固開始温度は−20〜5℃を要求される。従って、この場合のC16MeとC18Meを合計した含有率は、−20℃以下であれば、4%以下、5℃以下であれば25%以下とする必要があることがわかる。
【0014】
このように本発明は、バイオディーゼル燃料の使用地域での必要とされる低温特性を満
たすようにパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率が調整されている
ことを特徴とする。低温特性を上げるためには、該合計含有率は、例えば、25重量%以下が好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下が最も好ましい場合がある。なお、合計含有率が25重量%より高いと凝固開始温度は5℃より高くなってしまい、低温特性の面から望ましくない。
また、換言すれば、本発明のバイオディーゼル燃料は、目詰まり点が5℃以下であるこ
とが好ましく、0℃以下がさらに好ましく、−5℃以下が最も好ましい場合がある。
【0015】
本発明のBDFは、そのままでも燃料として用いることができるが、低温域でも固化せ
ずに液体性状を有する燃料であることから、他の液体燃料と混合して用いることができる
。他の液体燃料としては、市販の燃料である軽油や重油などを挙げることができる。その
うちでも、ディーゼルエンジン用の燃料としては軽油が好ましく用いられる。
【0016】
また、本発明のBDFは、燃焼特性の面からは、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率は、10%以上必要であり、13%以上がさらに望ましい。10%未満であると着火性が悪くなり、また含有率は高い方がより着火性が良いからである。
従って、前述の低温特性と燃焼特性の両方を満たす実用的な範囲としては、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率は、10%以上25%以下であることが望ましく、13%以上25%以下がさらに望ましく、13%以上15%以下が最も望ましい。
なお、貯蔵安定性は動物性油脂BDFのパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率に左右されることはないことが本発明によりわかった。すなわち、貯蔵安定性は、リノレン酸メチルの酸化による動粘度の上昇に起因することが判明したが、動物性油脂BDFは元来リノレン酸メチルの絶対含有量が少ないからである。従って、上述の低温特性と燃焼特性からパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを合計した含有率を調整することで、貯蔵安定性、低温特性及び燃焼特性に優れた実用的なBDFが得られる。
【0017】
本発明のバイオディーゼル燃料(BDF)の製造方法は、動物性油脂をアルカリ条件下
メタノールとエステル交換して脂肪酸メチルエステル(FAME)を製造するに際し、B
DF中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率が25重量%以
下となるように調整することにより行われる。BDF中のC16MeとC18Meを合計
した含有率は、上記のとおり、要求される目詰まり点(凝固開始温度)によって異なるが
、含有率を低下させるには、他の成分との混合により希釈する方法、又は晶析により、固
体として析出させて除く方法が挙げられる。
希釈は、例えば、原料段階で、動物性油脂を植物性油脂などで希釈し、これらの混合油
脂をメタノールとエステル交換することにより、C16MeとC18Meが動物性油脂の
みの場合より少ないFAMEを得ることができる。また、あるいは動物性油脂からFAM
Eを得た後、C16MeとC18Me以外のFAMEを混合して希釈する方法が挙げられ
る。前者の希釈する液体としては、大豆油、菜種油、ひまわり油などの植物性油脂が挙げ
られ、後者の希釈する液体としては、C16Me及びC18Meの含有率の低い植物油脂
由来BDF又は軽油が挙げられる。
また、晶析は、例えば、反応槽内の中心に撹拌翼、槽の下部及び上部を冷媒により独立
して温度制御可能に構成された晶析装置を用いて行われる。本装置の内部にBDFを投入
し、槽上部を10℃から−10℃に温度制御することにより、C16Me及びC18Me
を析出させることができる。
【0018】
本発明により、動物性油脂由来成分を含むBDFの目詰まり点を評価又は予測する方法
は、次のように行われる。まず、そのパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有
量を測定し、合計し、BDF全体に対する割合、つまり、含有率を求め、これを上記式(
2)にあてはめることによって目詰まり点(凝固開始温度)を算出し、評価又は予測する
。
【実施例】
【0019】
〔試験例1〕BDFの製造
1.遊離脂肪酸除去
試料として、牛脂試薬(和光純薬工業株式会社製)、豚脂(三木屋商店有限会社製)、
大豆油試薬(和光純薬工業株式会社製)を用いた。これらについて以下に示す酸価分析を
行い、中和に必要な水酸化ナトリウム理論量を算出した。この酸価分析値の1.1倍の水
酸化ナトリウムを純水10mlに加え、試料150gと共に80℃で30秒間撹拌した後
、3000rpmで5分間遠心分離を行い、得られた上層を以下の試験において、処理油として用いた。
2.酸価分析方法
試料20gを三角フラスコに計り取り、中性溶剤100ml(ジエチルエーテル:99
.5vol%エタノール=1:1)にフェノールフタレイン指示薬0.3mlを加え、0
.1mol/L水酸化カリウム−エタノール溶液で中和したものを加えて溶解させた。固
体試料の場合は湯浴上で溶解した後、溶剤を加えた。0.1mol/L水酸化カリウム標
準液で滴定し、指示薬の変色が30秒間続いたときを中和の終点と定めた。
酸価=(5.611×A×F)/B (3)
ただし A:0.1mol/L水酸化カリウム標準溶液使用量[ml]
F:0.1mol/L水酸化カリウム標準溶液のファクター
B:試料採取量[g]
【0020】
3.粗製BDFの製造
各試料の処理油100g、メタノール30g、水酸化ナトリウム0.45gをセパラブ
ルフラスコ(柴田科学株式会社製)に投入し、ホットスターラーを用いて60℃で30分
間加熱撹拌した。この際、セパラブルフラスコカバー(柴田科学株式会社製)の上部にジ
ムロート冷却器を設けて揮発するメタノールを還流した。反応終了後、直ちに分液漏斗に
移して30分間静置分離した。得られた上層からメタノールを留去し、粗製BDFとした
。
【0021】
4.粗製BDFの精製
前記で得られた各粗製BDFに対して50wt%の純水を加え、ホットスターラーを用
いて70℃で5分間加熱撹拌した。その後、分液漏斗に移して30分間静置分離し、上層
と下層に分けた。上層に対して上記操作を1回繰り返し、得られた上層を各BDFとした
。
【0022】
〔試験例2〕 低温特性試験
1.各BDFの動粘度分析
動粘度の分析は、JIS−K2283に準拠して行った。
図1にJIS−K2283の「動粘度および混合比の推定方法」に規定された計算法(日
本規格協会編,JISハンドブック25石油,(日本規格協会),p893−900(2
005))に基づき作図した各BDFの温度と動粘度の関係を示す。なお、参考のために
京都市のBDFの規格を併記した。
図1より、牛脂BDFおよび豚脂BDFの動粘度は京都市のBDFの規格内であり、温
度低下に伴う動粘度の変化は大豆油BDFとほぼ同等であることがわかった。すなわち、
目詰まりの原因は流動性の悪化ではないことが本試験により判明した。
【0023】
2. 各BDFの目詰まり点分析
目詰まり点の分析はJIS−K2288に準拠して行った。図2に各BDFのDSC降
温曲線を示す。なお、参考のために各BDFの目詰まり点を併記した。
図2より、各BDFは目詰まり点とほぼ同等の温度から凝固を開始することがわかった
。以上のことから、目詰まりの原因は固体の析出であることが判明した。本試験結果より
BDFの目詰まり点は凝固を開始する温度と相関が高いことから、本願では凝固開始温度
を目詰まり点の指標として用いた。図2より、各BDFはそれぞれ2つの凝固ピークが出
現することがわかる。これは、多成分のFAMEで構成される各BDFの固液平衡状態が
固相中での相互溶解がない共晶型であることを意味することから、凝固温度が成分により
2つに分かれると考えられる。
(DSC分析)
各BDFはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製EXSTAR6100 DSC
を用い、示差走査熱量測定を行った。なお、DSC降温曲線においてピークが出現し始め
た温度を凝固開始温度とした。
<測定条件等>
測定範囲 −40〜+40mW
測定感度 0.2μW
測定条件 窒素流量 50ml/min
降温速度 5℃/min
サンプリング回数 3回/秒
【0024】
3.各BDFの脂肪酸組成分析
日本油化学会の基準油脂分析試験法の脂肪酸組成分析(FID昇温ガスクロマトグラフ
法)に準拠し、FAME組成を定量した。
図3に各BDFの脂肪酸組成(FAME組成)分析結果を示す。なお、参考のためにF
AMEの凝固開始温度を併記した。図3より、炭素数が14以上の飽和FAMEは各BD
Fに比べ凝固開始温度が高いことから、析出する固体は各BDFの主成分であるパルミチ
ン酸メチル(C16Me)およびステアリン酸メチル(C18Me)と想定された。
【0025】
4.添加BDFの調製
牛脂BDF1.6gに対して、オレイン酸メチル(以下、C18:1Me、シグマアル
ドリッチジャパン株式会社製)又はステアリン酸メチル(C18Me、東京化成工業株式
会社製)を0.4g添加し、それぞれFAMEの標準試薬を20wt%含有する牛脂BD
Fを調製した。さらに、C18:1Me又はC18Me標準試薬の含有率を20wt%か
ら50wt%および80wt%に変化させたものを調製した。これらの試料は10分間超
音波照射下で攪拌し、DSC分析を行った。結果を図4に示す。これによれば、C18M
eの添加率が増えるに従って、凝固開始温度が上昇していることからC18Meが凝固の
原因であることがわかる。対照的にC18:1Meの添加率が増えるに従って、凝固開始
温度は低下していることから、C18:1Meは凝固の原因ではないことがわかる。
【0026】
5.C16MeおよびC18Meの合計含有率と凝固開始温度の関係
図5に各BDFのFAME組成から算出したC16MeおよびC18Meの合計含有率
と凝固開始温度(実測値)の関係を破線及びプロットで示す。ここでいう各BDFとは、
牛脂、豚脂、鶏脂、大豆油、牛脂と大豆油の混合油脂から製造したBDFおよび牛脂BD
FにC18:1Meの混合率を変化させ添加したBDFを指す。
なお、参考のために京都市のBDFの規格と、固体の濃度をC16MeおよびC18Meの合計含有率、固相の活量係数を1とみなして共晶型における固液平衡の関係式である下記式(1)、(2)より求めた凝固開始温度の計算値を実線で示した(化学工学会監修,分離,(培風館),p16-18(1995))。
式中、固体の濃度は、C16MeとC18Meの合計含有率に相当する。固相の活量係
数は、理論式を実測値に合わせるためのいわゆる補正係数であり、本発明では0.75が
適当であった。純成分sの融解熱は、C16Meの融解熱55350J/mol、C18
Meの融解熱64430J/mol(日本油化学会編,第四版 油化学便覧,(丸善),
p278(2001)に記載)を固相の構成成分比であるC16Me:C18Me=57
.5:42.5で相加平均した値であり、58969.80J/molである(同上)。
純成分sの凝固開始温度は、C16Me:C18Me=57.5:42.5の割合で調整
した試料の凝固開始温度の測定値(24.8+273.15=297.95K)である。
【0027】
また、上記式(2)を凝固開始温度Tの式に変形し、下記式(1)に示す。
【0028】
図5より、凝固開始温度の実測値(プロット及び破線)と計算値(実線)は同様の傾向
を示すことがわかる。さらに、計算値は固相の活量係数を0.75と仮定して補正を行う
と実測値とほぼ一致した。すなわち、式(1)より凝固開始温度はC16MeおよびC1
8Meの合計含有率によって一意的に決定すると考えられる。以上のことから、C16M
eおよびC18Meが凝固して目詰まりを生起させるため、目詰まり点はC16Meおよ
びC18Meの合計含有率に依存することが判明した。図5における凝固開始温度の計算
値(補正あり)より、C16MeおよびC18Me合計含有率を15%以下に低減することにより目詰まり点を−5℃以下(京都市BDF規格)に低下させることができた。
【0029】
6.添加物種類別の凝固開始温度とC16MeおよびC18Meの合計含有率との関係
図6に各BDFのFAME組成から算出したC16MeおよびC18Meの合計含有率
と凝固開始温度(実測値)の関係をプロットで示す。ここでいう各BDFとは、牛脂、豚
脂、鶏脂、大豆油から製造したBDFにC18:1Me、C18:2Me、C18Me、
軽油の混合率を変化させ添加したBDFを指す。また、牛脂モデルBDFとは、牛脂BDFの脂肪酸組成に合わせ、単独の標準試薬を混合したBDFを指す。本結果によれば、原料となる油脂の種類に関わらず、また添加物の種類に関わらず、どの動物性油脂の場合も、ほぼ同一直線上にのり、C16MeとC18Meの合計含有率と凝固開始温度との間には、添加物及び原料油脂の種類に関わらずに一定の関係があるといえることがわかった。
【0030】
〔試験例3〕 C16MeとC18Meの合計含有率の調整
1.希釈による調整
前記「試験例2、4.添加BDF調製」と同様の方法により、動物性油脂由来のBDFに
対してC18:1Meを添加することにより、C18Me及びC16Meの濃度を希釈す
ることができた。
【0031】
2.晶析による調整
図7に晶析装置の一例を示す。500mLの反応槽内の中心に撹拌翼、底部に冷媒が設
置されている。また槽上部の外側を冷媒が循環している。このような装置の内部にBDF
300gを投入し、槽上部を10℃から−10℃まで徐冷し、槽底部を10℃から−5℃
に温度制御を行いつつ撹拌して、120分間反応させてC16Me及びC18Meを析出
させた。晶析前後のFAME組成を表1に示す。C16Meは、晶析前は24.6%であ
ったところ、晶析後は、5.0%に減少した。また、C18Meは晶析前は18.0%で
あったところ、晶析後は4.1%に減少した。この結果、晶析によりこれらの合計した含
有率を42.6%から9.1%に減少させることができた。豚脂についても同様の試験を
行ったところ、牛脂の場合と同様の結果を得た。
【0032】
【表1】
【0033】
〔試験例4〕 他の燃料との混合
1.牛脂BDFと軽油との混合
牛脂BDFの含有率が20wt%および50wt%および80wt%になるように牛脂
BDFと2号軽油を混合した。これらの試料は10分間超音波照射下で攪拌し、DSC分
析を行った。結果を図8に示す。
これより、牛脂BDF単独では、凝固開始温度がほぼ10℃であるが、牛脂軽油混合B
DFでは、軽油の含有率が増えるにしたがって凝固開始温度が低下し、軽油80%、牛脂
BDF20%ではほぼ−5℃であった。ここで用いた牛脂BDFのC16MeとC18M
eの合計含有率は44.8%である。牛脂BDFの含有率が20wt%および50wt%
および80wt%は、C16MeとC18Meの合計含有率に換算するとそれぞれ、9.
00、22.41、35.85%である。
【0034】
2.牛脂BDFと大豆油BDFとの混合
牛脂試薬と大豆油試薬を予め重量比2:1又は1:2に混合して前記1.〜3.と同様
の操作を行い、牛脂大豆油混合BDFを製造した。このBDFについてDSC分析を行っ
た。結果を図9に示す。
これより、牛脂BDF単独では、凝固開始温度がほぼ10℃であるが、牛脂大豆混合
BDFでは、大豆BDFの含有率が増えるにしたがって凝固開始温度が低下し、大豆油B
DF100%ではほぼ−5℃であった。
【0035】
〔試験例5〕 貯蔵安定性試験
1.過酸化物価(POV)、動粘度測定
各BDF 60gを100mlの三角フラスコに入れ、40℃のインキュベーター(三商株式会社製、SIB−35)内で0、4、8、12、16週間静置して貯蔵した。貯蔵された各BDFに対し、基準油脂分析試験法2.5.2.1に基づいた過酸化物価(POV)測定(酢酸−イソオクタン法)および動粘度測定を行った。また、貯蔵された各BDFをプロパノール/ヘキサン(5:4)に溶解し、高速液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)を行った。分析条件を以下に示す。さらに、質量分析計(LCQ、Thermo Electron社製)を用い、APCI法にて質量分析を行った。結果を図10〜12に示す。
(LC−MS分析条件)
装置:Waters社製、Alliance2695
カラム:L−columnODS(2.1mm×150mm、粒子径5μm)
移動層:
A:水、B:アセトニトリル、C:プロパノール/ヘキサン(5:4)
30%A+70%Bを0分間、100%Bを10分間、50%B+50%Cを20分間でグラジエントした後、50%B+50%Cで20分間保持した。
【0036】
2.結果
図10に各BDFにおける動粘度の経時変化を示す。なお、図中に京都市BDF規格を併記した。これより、牛脂BDFは時間経過に伴う過酸化物(POV)の生成がほとんど見られず、また動粘度も変化せずほぼ一定である。一方、大豆油BDFは4週間後から過酸化物が生成し、それに伴い動粘度も上昇している。さらに、大豆油BDFの動粘度は16週間後には京都市のBDF規格外になっている。このことから動粘度はBDFから生成した過酸化物が要因となり、上昇したのではないかと考えられる。従って、牛脂BDFは大豆BDFに比べ貯蔵安定性に優れているといえる。
【0037】
次にPOV生成についてさらに検討を加えた。図11に大豆油BDFの貯蔵0週間及び4週間後におけるLC−MS分析を行って得られたトータルイオンクロマトグラムを示す。4週間後に新たなピークが出現しており(10〜15min)、この新たなピークに対する質量分析を行って得られたマススペクトル解析結果を図12に示す。これより、検出されたスペクトルはリノレン酸メチル(C18:3Me)のハイドロパーオキサイドまたはジハイドロパーオキサイドのフラグメントイオンと推定された。リノレン酸メチルは2重結合を3つ有することから反応性が高いことが知られており(藤谷健,あぶらの話,(裳華房),p84-87(1996))、そのため、貯蔵されている期間に酸化してハイドロパーオキサイドに変化したためと考えられる。
【0038】
以上のことから、BDFの貯蔵安定性はリノレン酸メチル(C18:3Me)の含有率に依存することが示された。表2より動物油脂BDFは植物油脂BDFに比べてリノレン酸メチルの含有率が低く、貯蔵安定性に優れていることが判明した。なお、低温特性改善のためにC16MeおよびC18Meを低減すると、リノレン酸メチル含有率が相対的に上昇するが、その量は微量であるために貯蔵安定性には影響しないと考えられる。
【0039】
【表2】
【0040】
〔試験例6〕 燃焼特性評価試験
1.発熱量の測定
燃研式デジタル熱量計(小川サンプリング株式会社製、OSK100−5)を用い、BDFおよび軽油の高位発熱量を測定した。この際、発生した水分量を測定し、低位発熱量を算出した。
2.実機性能試験
供試機関には、ヤンマーディーゼル株式会社製の立型空冷4サイクル単気筒ディーゼル機関(L48A)を用いた。ディーゼル機関の機関仕様を表3に示す。なお、試験は機関回転数3000rpmおよび燃料噴射量0.2ml/s一定で行った。
【0041】
【表3】
【0042】
4.結果
(1)発熱量
図13にBDFの低位発熱量を、表4にBDFの元素分析値を示す。なお、参考のために軽油の発熱量を併記した。これより、牛脂BDFの低位発熱量は軽油に比べ若干劣るものの大豆油BDFとほぼ同等であることがわかる。また、表4より、牛脂BDFおよび大豆油BDFの元素分析値がほぼ同一であったことから、FAME組成による発熱量の変化はほとんどないと考えられる。従って、BDFは原料油脂の種類によらずほぼ同等の発熱量を有することが判明した。
【0043】
【表4】
【0044】
(2)実機性能試験・着火性試験
図14に定常状態(燃焼室壁面温度約600℃)における各BDFの指圧線図を示す。なお、参考のために軽油の指圧線図を同図中に示す。
定常状態の指圧線図より、牛脂BDF、鶏脂BDFおよび大豆油BDFは軽油と同等以上の着火性および出力を発揮しており、ディーゼル燃料として十分に機能すると考えられる。
ここで、FAMEのセタン価を表5(Knothe,G.,Matheaus,A.,C.,Ryan,T.,W.,III,Fuel,82,971-975(2003))に示すが、FAMEの不飽和度が上昇すると、セタン価が減少している。飽和結合に対して不飽和結合は立体的に炭素−炭素結合が平面であるため、環状中間体が不安定であると考えられるからである。従って、牛脂BDF、鶏脂BDF、大豆油BDFは、この順序で飽和FAMEの含有率が高いため(表2より)、飽和FAMEの含有率の違い、すなわち、C16Me+C18Me合計含有率の違いにより着火性と出力に違いが生じるのではないかと推定できる。
そして、各BDFの定常状態の指圧線図における立ち上がり方を詳細に検討すると、大豆油BDFと軽油は、ほぼ同様の立ち上がりを示しているが、次に鶏脂BDFが早く、牛脂BDFが一番早い立ち上がりを示している。これらの飽和脂肪酸含有率(C16Me+C18Me合計含有率)は、大豆油BDF、鶏脂BDF、牛脂BDFでそれぞれ、13.3%、22.3%、42.6%であり、この順序が立ち上がりの早さ及び出力の差と同じ順序であることから、上記推定が正しいものであると裏づけられる。
以上より、軽油と同等の燃焼特性を得るためには、C16Me+C18Me合計含有率は10%以上必要であり、13%以上がさらに望ましいといえる。
【0045】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、動物性油脂を原料として含む場合であっても、植物性油脂を原料とする場合と同様に、低温特性に優れた燃料を提供することができる。また、原料が廃食物油のように多様なものであっても、一定水準の性質を有する燃料を製造することができ、わが国の廃食物油の再利用を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】各BDFの温度と動粘度の関係を示す図である。
【図2】各BDFのDSC降温曲線を示す図である。
【図3】各BDFのFAME組成を示す図である。
【図4】FAME添加による牛脂BDFの凝固開始温度変化を示す図である。
【図5】C16MeとC18Meの合計含有率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図6】各BDFおよび添加物種類別の凝固開始温度を示す図である。
【図7】晶析装置の概念図を示す図である。
【図8】牛脂BDFと軽油の混合率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図9】牛脂BDFと大豆油BDFの混合率と凝固開始温度の関係を示す図である。
【図10】各BDFの貯蔵期間経過に伴うPOV及び動粘度変化を示す図である。
【図11】大豆油BDFのトータルイオンクロマトグラムを示す図である。
【図12】4週間経過後の大豆油BDFにおける生成物質のマススペクトルを示す図である。
【図13】BDFの低位発熱量を示す図である。
【図14】定常状態におけるBDFの指圧線図を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 撹拌翼
2 冷媒
3 反応槽
4 晶析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率が25重量%以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
【請求項2】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、目詰まり点が5℃以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
【請求項3】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率が10重量%以上である請求項1に記載のバイオディーゼル燃料。
【請求項4】
さらに軽油を含む請求項1〜3のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料。
【請求項5】
動物性油脂をメタノールとエステル交換反応してバイオディーゼル燃料を製造する方法に
おいて、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合
計の含有率を調整することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項6】
パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率の調整が、晶析又は他の成分と
の混合によるものである請求項5に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項7】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料について、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有量を測定し、合計した含有率を求め、下記式(1)に代入することによって目詰まり点を予測する方法。
【請求項1】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率が25重量%以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
【請求項2】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、目詰まり点が5℃以下であることを特徴とするバイオディーゼル
燃料。
【請求項3】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料であって、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリ
ン酸メチルを合計した含有率が10重量%以上である請求項1に記載のバイオディーゼル燃料。
【請求項4】
さらに軽油を含む請求項1〜3のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料。
【請求項5】
動物性油脂をメタノールとエステル交換反応してバイオディーゼル燃料を製造する方法に
おいて、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合
計の含有率を調整することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項6】
パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの合計の含有率の調整が、晶析又は他の成分と
の混合によるものである請求項5に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項7】
動物性油脂を原料として、メチルエステル化して得られる脂肪酸エステルを含むバイオデ
ィーゼル燃料について、バイオディーゼル燃料中におけるパルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの各含有量を測定し、合計した含有率を求め、下記式(1)に代入することによって目詰まり点を予測する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−81730(P2008−81730A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174965(P2007−174965)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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