説明

バイオマスを加圧熱水中で炭化する際に起こるタール化抑制方法

【課題】「おから」等のバイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化する場合に、簡便に副生成物の発生を抑制する。
【解決手段】加圧熱水中で加熱して炭化を行う原料に対して、有機溶媒による脂質抽出処理又は脂質含有量が少ない紙又はおがくず等を添加することを行うことにより、脂質含有量を0wt%以上5%以下もしくは0wt%より多く5wt%以下に低下させることにより、バイオマスを加圧熱水中で炭化を行ってもタール等の副生成物の発生を抑制することが可能である。この方法は、簡便な前処理あるいはそれ自体が有機性廃棄物である紙やおがくず等を少量添加するものであり、精密な温度制御は必要ではなく、また単一の処理槽でのバッチ処理が可能であり、簡便な方法で課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを加圧熱水中で炭化する際に、有機物が熱分解と重合に起因するタール化することを抑制することに関する。
【背景技術】
【0002】
大半が有機性廃棄物として処分されているバイオマスは、加圧熱水中で炭化することにより酸素/炭素原子比を低下させることができ、その値を0.38以下にすることにより固体成分の発熱量を25.1MJ/kg以上とすることができ、重油代替燃料として使用可能な高濃度バイオマススラリーにし得るバイオマスとなる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化物を得る際、反応温度を2段階に分け一次反応を200〜260℃としてヘミセルロースを炭化した後、二次反応を270〜330℃としてセルロースの炭化を行うことにより、タール等の副生成物の発生を抑制する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、この先行炭化技術においては、タール等の副生成物の発生を抑制するために、一次反応と二次反応を適切に行うため多段式の反応槽を必要とし、昇温速度を制御するために高い精度で温度制御を行う必要があることから、簡便な装置では実現できない不都合を招く。
【0005】
バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化物を得る際、原料の種類によりタール等の副生成物の発生量が著しく異なることに注目して実験を行った結果、原料に含まれる脂質含有率が高い原料を加圧熱水中で加熱した場合に、タール等副生成物の発生が多くなることが判明した。
【特許文献1】特許公開2005−179379号
【特許文献2】特許公開2006−36977号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明における課題は、バイオマスを加圧熱水中で炭化し炭化物を得る場合、有機物が熱分解および重合によりタール化する現象が見られ、粘性の高いタールが容器内壁やバルブに付着することを、簡便に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化する場合に原料に含まれる脂質含有率を低下させるために、原料となるバイオマスから脂質をジエチルエーテル又はクロロホルムとメタノールの混合溶液等の脂質可溶の有機溶媒で抽出し分離することを特徴とする請求項1記載のタール化抑制方法である。
【0008】
請求項2にかかる発明は、バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化する場合に原料に含まれる脂質含有率を低下させるために、原料となるバイオマスに原料に比較して脂質含有率が低い副原料を添加することを特徴とするタール化抑制方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
請求項1にかかる発明のタール化抑制方法は、原料となるバイオマスを、ジエチルエーテル又はクロロホルムとメタノールの混合溶液等の脂質可溶の有機溶媒と混合・撹拌し脂質の抽出を行う。これをろ過等により固形物を分離し、必要ならば有機溶媒を留去又は蒸発させる。この固形物に対して1〜20倍量の水を加えて加圧熱水中で加熱し炭化物を得る。この際の加圧熱水中で炭化を行う原料に含まれる脂質含有率は、固形物中0wt%以上5wt%以下に低下させるものである。この場合の脂質含有率は5wt%を上限とし、より低い含有率にすることが好ましい。
【0010】
バイオマスと脂質可溶の有機溶媒の混合比率は、用いる有機溶媒に対する脂質の溶解度に応じて調整し、加圧熱水中で炭化を行う原料に含まれる脂質含有率を固形物中0wt%以上5wt%以下になるようにする。この場合の脂質含有率は5wt%を上限とし、より低い含有率にすることが好ましい。
【0011】
請求項2にかかる発明のタール化抑制方法は、原料となるバイオマスに対して原料と比較して脂質含有率が低い副原料を添加することにより、加圧熱水中で炭化処理する原料に含まれる脂質含有率を固形物中0wt%より多く5wt%以下に調整し、加圧熱水中で加熱し炭化物を得る。この場合の脂質含有率は5wt%を上限とし、より低い含有率にすることが好ましい。
また、加圧熱水中で炭化される原料であるバイオマスは、炭化に際して固形物に対して水を1〜20倍量含んでいるものとする。
【実施例】
【0012】
以下に実施例を示し、具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
加圧熱水中で炭化を行う原料(例えば「おから」)とジエチルエーテル又はクロロホルム:メタノール混液を、重量比で1:1となるように混合し、往復振とう機を用いて30分間振とう抽出を行った。
【0014】
原料より抽出した脂質を分離するために、ガラス繊維ろ紙を敷いた吸引濾過器上に、上記混合物を移し、有機溶媒を原料から濾別する。その後、原料から有機溶媒を除くため、室温で開放状態を6時間程度保ち、有機溶媒を蒸発させた。この時に原料中に含まれる脂質の割合は4.9〜5.9wt%であった。
【0015】
上記原料を用いて水分を80%に調節し、容積2.4Lのオートクレーブを用いて240℃、7MPaの条件の加圧熱水中で炭化を行ったところ、処理を行わなかったものと比べてタール化が抑制された。
脂質含有率5.9wt%の原料を用いて加圧熱水中で炭化を行った場合には、脂質抽出処理を行わない原料を用いた場合よりもタール化は抑制されていたが、容器内に少量の付着が見られた。
脂質含有率4.9wt%の原料を用いて加圧熱水中で炭化を行った場合には、脂質抽出処理を行わない原料を用いた場合には、タール化は抑制されており、容器内への付着は見られなかった。
【0016】
また、加圧熱水中で炭化を行う原料(例えば「おから」)に、脂質含有量が原料に比較的して少ない副原料として紙又はおがくずを添加した。原料に対する添加割合はそれぞれ、紙は4〜12wt%、おがくずは1〜5wt%の範囲となるようにした。
【0017】
上記原料を用いて水分を80%に調節し、容積2.4Lのオートクレーブを用いて240℃、7MPaの条件の加圧熱水中で炭化を行ったところ、処理を行わなかったものと比べてタール化が抑制され、紙又はおがくずの添加量が多くなるほどタール化抑制効果が高くなった。
【0018】
この時、紙の添加割合を4wt%とした場合には、少量のタールが容器内に付着していたが、5wt%以上添加した場合には、容器へのタールの付着は見られなかった。
おがくずの添加割合を1〜2wt%とした場合には、タールが容器内に付着していたが、3wt%以上添加した場合には、容器へのタールの付着は少なくなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化する際に起こるタール化を抑制する方法であって、原料となるバイオマスに含まれる脂質をジエチルエーテル又はクロロホルムとメタノールの混合溶液等の脂質可溶の有機溶媒で抽出して分離し、脂質含有率を0wt%以上5wt%以下に低下させることを特徴とするタール化抑制方法。
【請求項2】
バイオマスを加圧熱水中で加熱して炭化する際に起こるタール化を抑制する方法であって、原料となるバイオマスに原料と比較して脂質含有率が低い副原料を添加して、脂質含有率を0wt%より多く5wt%以下に低下させることを特徴とするタール化抑制方法。

【公開番号】特開2007−332236(P2007−332236A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164352(P2006−164352)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、環境省、地球温暖化対策技術開発事業委託業務、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【Fターム(参考)】