説明

バイオマス処理装置及びバイオマス処理方法

【課題】バイオエタノールの製造技術において、従来よりも効率よくバイオマス原料を加水分解することを目的としたバイオマス処理装置を提供する。
【解決手段】バイオマス処理装置に係るバイオマスの処理方法において、前記バイオマス原料に加圧熱水を通水させて加水分解するバイオマス処理で、前記加圧熱水に酸を添加するバイオマス処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス処理装置及びバイオマス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールの製造技術において、バイオマス原料を加圧熱水で加水分解することでセルロース及びヘミセルロースからから多糖及びオリゴ糖(キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖)を生成する加圧熱水分解技術と、この多糖及びオリゴ糖を固体酸触媒で単糖化する固体酸触媒単糖化技術とがある(下記非特許文献1参照)。そして、上記加圧熱水分解技術では、加水分解速度を推し量る指標として、バイオマスの種類に応じた加圧熱水の温度、バイオマス原料供給量と加圧熱水供給量との比率、イオン積(水中のHイオンとOHイオンのモル濃度の積)などがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】鹿児島県工業技術センター研究報告No14「加圧熱水を用いた木質バイオマスの分解挙動」(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術における加水分解速度の指標としてのイオン積であるが、このイオン積が大きいほど、加水分解速度が速くなり、イオン積が小さいほど、加水分解速度が遅くなる。そして、加圧熱水分解技術では、温度の上昇とともに水のイオン積が大きくなるので、この性質を利用して加水分解速度を速くすることができる。しかし、水のイオン積は、250℃で最大となり、それより高温では徐々に減少する(下記参考文献1参照)。そして、水のイオン積が最大となる温度と、セルロースの最適な加水分解温度である250℃〜300℃とが一致しないので、イオン積を生かした効率のよい加水分解を行うことが難しい。また、上記従来技術では、水を250℃〜300℃まで昇温させるので、多大なエネルギー投入が必要となる。
(参考文献1) Ortwin Bobleter, “Hydrothermal Degradation of Polymers Derived from Plants”, Prrog. Polym. Sci.,Vol.19, 797-841(1994)
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、バイオマスを従来よりも効率よく加水分解することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、バイオマス処理装置に係る第1の解決手段として、バイオマスに加圧熱水を通水させて加水分解するバイオマス処理装置であって、前記加圧熱水を酸性にするという手段を採用する。
【0007】
本発明では、バイオマス処理装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、バイオマスに加圧熱水を通水させて多糖類とオリゴ糖を生成し、当該多糖類とオリゴ糖を分解することで単糖類を生成し、当該単糖類をアルコール発酵することでエタノールを生成するバイオマス処理装置であって、前記アルコール発酵で発生する二酸化炭素を前記加圧熱水に添加するという手段を採用する。
【0008】
本発明では、バイオマス処理装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、バイオマスに加圧熱水を通水させて多糖類とオリゴ糖を生成し、当該多糖類とオリゴ糖を固体酸触媒で分解することで単糖類を生成するバイオマス処理装置であって、前記単糖類の生成時に生じる有機酸を前記加圧熱水に添加するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、バイオマス処理装置に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記単糖類をアルコール発酵することでエタノールを生成するバイオマス処理装置であって、前記固体酸触媒の分解により生成される前記単糖類と有機酸の混合液に、前記アルコール発酵で発生する二酸化炭素を添加することで前記有機酸を回収し、当該有機酸を前記加圧熱水に添加するという手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、バイオマス処理装置に係る第1の解決手段として、バイオマスに加圧熱水を通水させて加水分解するバイオマス処理方法であって、酸を加圧熱水に添加するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸を添加した加圧熱水でバイオマスを加水分解する。このような加圧熱水は、イオン積が大きいので加水分解速度が速い。そのため、加圧熱水の温度を下げたとしても効果的に加水分解することができるので、バイオマスを効率よく加水分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るバイオマス処理装置Aの機能構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の変形例に係る有機物処理装置Bの機能構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るバイオマス処理装置Aは、第1のポンプ1、酸性水調整槽2、第2のポンプ3、予熱器4、加圧熱水反応器5、冷却器6、背圧弁7、オリゴ糖貯槽8、第3のポンプ9、固体酸触媒反応槽10、処理液槽11及びエタノール発酵槽12から構成されている。
【0014】
バイオマス処理装置Aは、外部から供給された原料に所定温度(例えば150〜300℃程度)かつ所定圧力以上(例えば飽和蒸気圧以上)の加圧熱水を所定時間通水させることで加水分解により多糖類を生成し、この多糖類から単糖類を生成し、さらにこの単糖類をアルコール発酵することでエタノールを生成する装置である。
【0015】
本出願人は、特願2009−219362(平成21年9月24日出願、発明の名称:バイオマス処理装置及び方法)として、加圧熱水反応装置(前段糖化装置)における熱水温度を調節することによりバイオマス(木質系バイオマス)に含まれる多糖類(炭水化物)からキシロオリゴ糖とセロオリゴ糖とを個別に取得し、キシロオリゴ糖を第1触媒反応装置(後段糖化装置)で処理することによりキシロース(C10:五炭糖)に単糖化すると共に、セロオリゴ糖を第2触媒反応装置(後段糖化装置)で処理することによりグルコース(C12:六炭糖)に単糖化し、さらにキシロースを第1発酵装置で発酵処理すると共に、グルコースを第2発酵装置で発酵処理することによりバイオエタノール(CO)を製造するバイオマス処理装置及び方法を提案している。
【0016】
周知のように、木質系バイオマスは、セルロース(多糖類)、ヘミセルロース(多糖類)及びリグニンを主成分とするが、このような成分の木質系バイオマスに熱水を作用させることにより、セルロースやヘミセルロースをさらに重合度の低い多糖類(キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖及びこれらより多少重合度が高い各種多糖糖)に分解することができる。本バイオマス処理装置Aは、上述したバイオマス処理装置と同等の基本機能を奏するものであり、外部から粒状のバイオマスを原料として受け入れ、当該原料を例えばグルコース(単糖類)に分解する。
【0017】
第1のポンプ1は、外部から供給される水を酸性水調整槽2に送出する。
酸性水調整槽2は、第1のポンプ1から流入する水に、エタノール発酵槽12から流入する二酸化炭素(CO2)を添加することで所定濃度の酸性水を生成する。
第2のポンプ3は、酸性水調整槽2から供給される酸性水を加圧して予熱器4に送出する。
予熱器4は、第2のポンプ3から流入する加圧水を所定温度まで加熱し、加圧熱水として加圧熱水反応器5に送出する。
【0018】
加圧熱水反応器5は、外部から供給される木質系バイオマス(バイオマス)が内部空間に充填され、予熱器4から流入する加圧熱水を木質系バイオマスに通水させ、その後にこの加圧熱水を冷却器6に流出するように構成されている。この加圧熱水反応器5内に加圧熱水が流入すると、木質系バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースが第1の多糖類(重合度が10以上)に分解され、さらにこの第1の多糖類が第2の多糖類(重合度が10程度のセロオリゴ糖、キシロオリゴ糖)に分解される。
【0019】
そして、加圧熱水反応器5が冷却器6に流出する加圧熱水には、木質系バイオマスの加水分解によって生成される第1と第2の多糖類が含まれている。以下では、このように多糖類を含む加圧熱水を分解液と称する。なお、加圧熱水反応器5は、加水分解の最中に、温度が低下しないように保温される。
【0020】
冷却器6は、加圧熱水反応器5から流入する分解液を冷却し、背圧弁7に送出する。
背圧弁7は、加圧熱水反応器5内の圧力を保持するとともに冷却器6から流入する分解液を流量調整しながらオリゴ糖貯槽8に送出する。
オリゴ糖貯槽8は、背圧弁7から流入する第1と第2の多糖類(セロオリゴ糖やキシロオリゴ糖)を含む分解液を貯蔵する。
【0021】
固体酸触媒反応槽10は、オリゴ糖貯槽8から流入する分解液と予め充填されている固体酸触媒とを混合することで分解(つまり単糖化)を促進させるものである。このような単糖化により、分解液に含まれる第1と第2の多糖類が分解されて単糖類(キシロース及びグルコース)が生成される。そして、固体酸触媒反応槽10は、単糖類と固体酸触媒とを含む混合液を処理液槽11に流出する。
【0022】
処理液槽11は、上記固体酸触媒反応槽10から流入する混合液を固液分離することで単糖類を含む単糖液と固体酸触媒とを分離し、固体酸触媒を回収して上記固体酸触媒反応槽10に供給する(再利用する)。処理液槽11は、一方、単糖液をエタノール発酵槽12に送出する。なお、この単糖液には、単糖類のほかに有機酸(ギ酸及び酢酸など)が含まれる。そして、このような処理液槽11としては沈殿槽を用いることができる。つまり、沈殿槽に供給された混合液の内、固体である固体酸触媒は槽底部に沈殿し、上澄み液が単糖液としてエタノール発酵槽12に送出される。
【0023】
エタノール発酵槽12は、上記処理液槽11から流入する単糖液に、酵母等のエタノール発酵微生物と、窒素、リン等の栄養源とを添加し、適切な温度、pH等の条件下で微生物を培養して単糖液をアルコール発酵させることでバイオエタノールを生成するものである。エタノール発酵微生物としては、サッカロミセス属酵母などの公知の各種微生物を用いることができる。エタノール発酵槽12は、このように生成されたバイオエタノールを図示しない蒸留装置に送出する。さらに、エタノール発酵槽12では、アルコール発酵により発生した二酸化炭素(CO)を酸性水調整槽2に送出する。
【0024】
次に、このように構成されたバイオマス処理装置Aにおける加水分解について詳しく説明する。
セルロース及びヘミセルロースの加水分解には、水による水熱加水分解のほかに、酸性水による酸加水分解、アルカリ性水によるアルカリ加水分解がある。これは、酸またはアルカリの添加でイオン積(水中のHイオンとOHイオンのモル濃度の積)を大きくして加水分解を促進させる方法である。そこで、本実施形態に係るバイオマス処理装置Aでは、酸性水調整槽2において加水分解に用いる水に二酸化炭素を添加する。
【0025】
その仕組みとして、まず、エタノール発酵槽12においてアルコール発酵で発生した二酸化炭素(CO)を酸性水調整槽2に送出する。そして、酸性水調整槽2は、流入する二酸化炭素を水に添加することで、所定濃度の酸性水を生成する。そして、加圧熱水反応器5は、この酸性水からなる加圧熱水により木質系バイオマスを加水分解する。
【0026】
ここで、酸性水を使用するのは、加圧熱水反応の後段の固体酸触媒反応槽10における固体酸触媒反応において、アルカリ金属が被毒物質となるためである。そして、酸の添加によってイオン積を大きくできるため、セルロース及びヘミセルロースの加水分解速度が速くなる。これによって、加水分解反応における加圧熱水の温度をさげても、加水分解速度を維持することができる。そして、エタノール発酵の副生成物である二酸化炭素を使用することで、生産コスト削減につながる。
【0027】
以上のように、本実施形態では、加水分解に用いる水にアルコール発酵で発生した二酸化炭素を水に添加することで酸性水を生成し、当該酸性水を加圧するとともに加熱することで加圧熱水を生成し、当該加圧熱水で木質系バイオマスを加水分解する。このような加圧熱水は、イオン積が大きいので加水分解速度が速い。そのため、加圧熱水の温度を下げたとしても効果的に加水分解することができるので、木質系バイオマスを効率よく加水分解することができる。また、アルコール発酵で発生した二酸化炭素を使用するので、大きな費用を新たに費やす必要がない。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、エタノール発酵槽12において発生した二酸化炭素を添加することで、加水分解におけるイオン積を大きくしたが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
例えば、図2に示すように、処理液槽11の単糖液にエタノール発酵槽で発生した二酸化炭素を添加する。すると、酸性が高くなって、単糖液に溶け込んでいた有機酸(ギ酸及び酢酸など)が気化する。そして、凝縮器13がこれらの有機酸を回収するとともに凝縮する。そして、凝縮器13は、有機酸を酸性水調整槽2に送出する。酸性水調整槽2は、有機酸を水に添加することで、酸性水を生成する。
【0030】
このように、固体酸触媒反応の副生成物である有機酸を使用して酸性水を生成するので、大きな費用を新たに費やす必要がない。また、上記有機酸以外にも酸としては、硫酸及び塩酸などを用いることができる。しかし、硫酸及び塩酸は、外部から調達する必要があるので、二酸化炭素または有機酸を用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0031】
A…バイオマス処理装置、1…第1のポンプ、2…酸性水調整槽、3…第2のポンプ、4…予熱器、5…加圧熱水反応器、6…冷却器、7…背圧弁、8…オリゴ糖貯槽、9…第3のポンプ、10…固体酸触媒反応槽、11…処理液槽、12…エタノール発酵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスに加圧熱水を通水させて加水分解するバイオマス処理装置であって、
前記加圧熱水を酸性にすることを特徴とするバイオマス処理装置。
【請求項2】
バイオマスに加圧熱水を通水させて多糖類を生成し、当該多糖類を分解することで単糖類を生成し、当該単糖類をアルコール発酵することでエタノールを生成するバイオマス処理装置であって、
前記アルコール発酵で発生する二酸化炭素を前記加圧熱水に添加することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス処理装置。
【請求項3】
バイオマスに加圧熱水を通水させて多糖類を生成し、当該多糖類を固体酸触媒で分解することで単糖類を生成するバイオマス処理装置であって、
前記単糖類の生成時に生じる有機酸を前記加圧熱水に添加することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス処理装置。
【請求項4】
前記単糖類をアルコール発酵することでエタノールを生成するバイオマス処理装置であって、
前記固体酸触媒の分解により生成される前記単糖類と有機酸の混合液に、前記アルコール発酵で発生する二酸化炭素を添加することで前記有機酸を回収し、当該有機酸を前記加圧熱水に添加することを特徴とする請求項3に記載のバイオマス処理装置。
【請求項5】
バイオマスに加圧熱水を通水させて加水分解するバイオマス処理方法であって、
酸を加圧熱水に添加することを特徴とするバイオマス処理方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−142895(P2011−142895A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8557(P2010−8557)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】