説明

バイオマス燃焼排ガス用脱硝触媒及び脱硝方法

【課題】 従来技術になる触媒がバイオマス燃焼排ガス中で急激に劣化することに鑑み、バイオマス燃焼排ガスのように燃焼灰中に高濃度のカリウム成分を含有する排ガスの処理に用いても劣化し難い脱硝触媒を実現し、これを用いてバイオマス燃焼排ガスを長期間高効率で脱硝できる方法を提供する。
【解決手段】 酸化チタンと、酸化チタンに対し1を越えて15重量%以下のリン酸またはリン酸アンモニウム塩とを水の存在下で接触させ、表面にリン酸イオンを吸着させた酸化チタンに、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸もしくはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩もしくはバナジル塩とを、0を越えて8原子%以下で担持した排ガスの浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、排ガス浄化触媒とそれを用いた排ガスの浄化方法に係り、特にバイオマスの燃焼排ガス中に含まれるカリウムの化合物による劣化を防止した、窒素酸化物のアンモニア(NH3)還元用触媒とそれを用いたバイオマス燃焼排ガスの脱硝方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中のCO2濃度増大に起因する地球の温暖化が予想を上回る速度で進行し、CO2排出量の低減が緊急の課題となっている。CO2排出低減策として、省エネによる化石燃料使用量の低減、燃焼排ガス中のCO2の回収・隔離など化石燃料を使用する上での対策、太陽電池や風力発電などの自然エネルギーの利用などが進められている。これらに加え、化石燃料に替えてバイオマスを燃料にした発電がCO2の増加を招かない方法として注目され、特に欧州を中心にバイオマス専焼または化石燃料との混焼の形で盛んに採用され始めている。
【0003】
これらバイオマス燃焼排ガスは、化石燃料に比べ含まれる硫黄分が少ない利点があるが、木材チップ、ピートなど植物由来の材料の燃焼灰には潮解性の炭酸カリウムが大量に含まれ、排ガスの脱硝に用いられる触媒が急速に劣化する現象を引き起こすことが知られている。
【0004】
特許文献1には、アンモニア接触還元用脱硝触媒において、バナジウムによるチタチア担体のシンタリングを防止するために、チタニア担体の表面にリン酸を吸着させ、焼成した後、バナジウムを担持する方法が記載されているが、バイオマス燃料排ガスのような、高濃度のカリウム成分を含有する排ガス処理や、これによる触媒の被毒については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−232075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明が解決しようとする課題は、上記従来技術になる触媒がバイオマス燃焼排ガス中で急激に劣化することに鑑み、バイオマス燃焼排ガスのように燃焼灰中に高濃度のカリウム成分を含有する排ガスの処理に用いても劣化し難い脱硝触媒を実現し、これを用いてバイオマス燃焼排ガスを長期間高効率で脱硝できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
(1)酸化チタンと、酸化チタンに対しH3PO4として1を越えて15重量%以下のリン酸またはリン酸アンモニウム塩とを水の存在下で接触させ、表面にリン酸イオンを吸着させた酸化チタンに、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸もしくはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩もしくはバナジル塩とを、0を越えて8原子%以下で担持したことを特徴とする排ガスの浄化用触媒。
(2)バイオマス専焼、またはこれと化石燃料とを混焼した排ガスに、還元剤としてNH3を吹き込み後、(1)記載の触媒と接触させ、排ガス中に含まれる窒素酸化物を還元除去することを特徴とする排ガスの浄化方法。
【0008】
本発明者らは、脱硝触媒がバイオマス燃焼灰に含まれるカリウム化合物により被毒を受ける過程を仔細に研究した結果、カリウムの多くが炭酸塩として存在し、これが起動停止時の高湿潤時に潮解して触媒中にしみ込み、酸化チタン(TiO2)上に存在するアンモニア(NH3吸着点に吸着してNH3の吸着を阻害し、これにより触媒を失活させることを見出し、本願発明を完成するに至った。炭酸カリウムによる触媒の失活、及びこれを改善するための本願発明の触媒のメカニズムを模式的に説明すると以下のようである。
【0009】
脱硝反応に用いられる還元剤であるNH3は、酸化チタン上の酸点であるOH基に式1のように吸着される。他方、触媒中に進入した炭酸カリウム中のカリウムイオンもOH基に式2のように吸着され、その吸着力がNH3より強いためNH3の吸着を阻害する。これがカリウムによる脱硝触媒の失活の原因であり、バイオマス燃焼排ガス中の脱硝触媒で急激な脱硝率の低下をもたらしている。

NH3+HO-Ti-(TiO2上の活性点) → NH4-O-Ti- (式1)
1/2K2CO3+HO-Ti-(TiO2上の活性点) → K-O-Ti- +1/2H2O+1/2CO2 (式2)
【0010】
これに対し本願発明の触媒は、予めTiO2の活性点の一部にリン酸イオンを式3のように吸着させおくことにより、進入したカリウムイオンの大半は、NH3吸着点より強い酸であるリン酸イオンとまず反応し(式3)、その結果TiO2上にOH基を作り出し、このOHがNH3の吸着点となり、式2で減少したNH3の吸着点を補うため、劣化速度を飛躍的に小さくすることができる。

H3PO4+3(HO-Ti-) → PO4(-Ti-)3+3/2H2O (式3)
3/2K2CO3+PO4(-Ti-)3+3/2H2O → K3PO4+3(HO-Ti-) (式4)

【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、排ガス中に含まれるカリ化合物による触媒の劣化を大幅に低減することができ、これにより、バイオマス燃料の燃焼排ガスの脱硝装置の性能を高く維持すると共に、触媒交換の頻度の低減など、脱硝装置の運転費用を大幅に減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明の触媒は、カリウムイオンと反応してNH3吸着点を形成するリン酸イオンを吸着させたTiO2を用い、これに活性成分としてMoまたは及びWのオキソ酸もしくはオキソ酸塩と、Vのオキソ酸塩もしくはバナジル塩とを、0を越えて8原子%以下で担持したことを特徴とする。本願発明の実施に当っては、以下の点に考慮する必要がある。
【0013】
酸化チタンに吸着され得るPO4イオンは、TiO2の表面積当り約5重量%であり、通常使われる100乃至300m2/gのTiO2原料では5乃至15重量%が吸着させうる最大量であり、それ以上ではNH3の吸着し得るOH基がなくなり、大きな活性低下を引き起こす。従ってTiO2原料の種類にもよるが、H3PO4の添加量はTiO2の15重量%以下、好ましくは10重量%以下にすることが、耐久性及び脱硝活性を両立させ、好結果が得られ易い。また添加量の少ない方には制限が無いが、顕著な耐K被毒性を示させるためには、TiO2に対し1重量%以上に選定することが望ましい。
【0014】
リン酸イオンを吸着せしめたTiO2に添加する活性成分としては、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸もしくはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩もしくはバナジル塩とを使用することができる。その添加量には特に制限は無いが、TiO2に対し各々0を越えて8原子%以下が好ましい。TiO2原料の比表面積が大きい場合には高い値を、低いときは添加量を少なく選定すると、脱硝性能を高く維持、SO2の酸化性能を低くできるので好都合である。
本願発明の触媒において、これら活性成分の添加方法はどのような方法でもあってもよいが、水の存在下で混練または加熱混練する方法が経済的であり、優れている。さらに活性成分担持後の触媒成分は、公知の方法によりハニカム状に成形して用いられる他、網状に加工した金属基板やセラミック繊維の網状物に目を埋めるように塗布して板状化した後、波型などにスペーサ部を成形したものを積層し、触媒構造体として触媒装置に用いることができる。特に後者はカリウム化合物を含む灰が触媒間に堆積しにくいので好結果を与え易い。
【0015】
なお、本願発明の触媒には、成形のためのバインダーであるシリカゾルなどの結合剤や、強化を目的とする無機繊維の添加を行うことが可能であり、このようにして得られる触媒も本願発明の範囲であることは言うまでもない。
【実施例】
【0016】
以下具体例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
酸化チタン(石原産業社製、比表面積290m2/g)900g、85%リン酸84.5g、シリカゾル(日産化学社製,OSゾル)219g及び水5568gをニーダに入れて45分間混練し、リン酸をTiO2表面に吸着させた。これにモリブデン酸アンモニウム113g及びメタバナジン酸アンモニウム105gを添加して更に1時間混練し、リン酸を吸着したTiO2表面にMoとVの化合物を担持させた。その後、シリカアルミナ系セラミック繊維(東芝ファインフレックス社製)を151gを徐々に添加しながら、30分間混練して均一なペースト状物を得た。得られたペーストを、厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した厚さ0.7mmの基材の上にき、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、メタルラス基材の網目を埋めるように塗布した。これを風乾後、500℃で2時間焼成して本願発明の触媒を得た。この触媒の組成はTi/Mo/V=88/5/7原子比であり、H3PO4添加量はTiO2に対し8重量%である。
【0017】
[実施例2及び3]
実施例1において、リン酸添加量をそれぞれ84.5gを10.6g及び42.4gに変える以外は同様にして触媒を調製した。
[実施例4]
実施例1において、リン酸の添加量を159g、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を121gにそれぞれ変更する以外は同様にして触媒を調製した。本触媒の組成はTi/Mo/V=88/5/8原子比でありH3PO4添加量はTiO2に対し15重量%である。
【0018】
[実施例5及び6]
実施例1に用いた酸化チタンを比表面積90m2/gの酸化チタンに変更し、リン酸の添加量をTiO2に対し4重量%に変え、さらにメタバナジン酸アンモニウムとモリブデン酸アンモニウムとを、6.8gと61.8g、及び27.7gと62.7gとにそれぞれ変更する以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。本触媒の組成はTi/Mo/V=96.5/3/0.5原子比、及び95/3/2原子比、H3PO4添加量はTiO2に対し4重量%である。
[実施例7]
実施例1の触媒に用いたモリブデン酸アンモニウム113gをメタタングステン酸アンモニウム162gに変える以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。本触媒の組成はTi/W/V=88/5/7原子比であり、H3PO4添加量はTiO2に対し8重量%である。
【0019】
[比較例1〜4]
実施例1、5〜7において、リン酸の添加及び吸着処理を行わない以外は同様にして触媒を調製した。
[試験例]
実施例1〜7及び比較例1〜4の触媒を20mm幅×100mm長さに切り出し、バイオマス燃焼灰中に含まれるカリウム化合物による劣化を模擬するため、これに炭酸カリウムの水溶液を触媒成分に対しK2Oとして0.5重量%の添加量になるように含浸後、150℃で乾燥した。
【0020】
上記模擬試験後の触媒と模擬試験前の触媒を三枚用い、表1の条件でそれぞれの触媒の脱硝性能を測定し、各触媒のK劣化に対する耐毒性を評価した。得られた結果を表2に纏めて示した。
【0021】
表1において実施例触媒は、模擬試験前後での脱硝性能の低下が小さいのに対し、比較例の触媒は大きな低下を示している。このように本願発明の触媒はカリ化合物による劣化を大幅に軽減することができ、それにより長期にわたりバイオマス燃焼排ガス脱硝装置の性能を高く維持することが可能である。その結果、頻繁に触媒交換の頻度を大幅に減らすことができ、脱硝装置の運転費用を大きく低減することが可能になる。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと、酸化チタンに対しH3PO4として1を越えて15重量%以下のリン酸またはリン酸アンモニウム塩とを水の存在下で接触させ、表面にリン酸イオンを吸着させた酸化チタンに、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸もしくはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩もしくはバナジル塩とを、0を越えて8原子%以下で担持したことを特徴とする排ガスの浄化用触媒。
【請求項2】
バイオマス専焼、またはこれと化石燃料とを混焼した排ガスに、還元剤としてNH3を吹き込み後、請求項1記載の触媒と接触させ、排ガス中に含まれる窒素酸化物を還元除去することを特徴とする排ガスの浄化方法。

【公開番号】特開2011−161364(P2011−161364A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26577(P2010−26577)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】