説明

バイオマーカープロフィールを用いた敗血症またはSIRSの診断

敗血症の早期予測または診断により、疾患が初期段階を超えて迅速に進行し、高い死亡率と関連する重篤な敗血症または敗血症性ショックなどのより重篤な段階となる前に臨床行為を遊離に行うことができる。早期予測または診断は、個体のバイオマーカーの発現のプロフィールを、敗血症を発生する集団を含み得る1つまたは複数の対照すなわち参照集団から得たプロフィールと比較することを含む分子診断学的手法によって行う。敗血症の発症に特徴的な個体のバイオマーカープロフィールの特性を認識することにより、臨床医が単一時点の個体の単離した体液から敗血症の発症を診断することが可能になる。したがって、患者を経時的に監視する必要性が回避され、敗血症の重大な症状が発症する前に臨床行為を行うことが有利に可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体において敗血症またはその進行段階を診断または予測する方法に関する。本発明はまた、個体において全身性炎症反応症候群を診断する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、その全体が本明細書中に参考として組み込まれている2002年11月12日出願の米国仮特許出願第60/425,322号の優先権を主張する。
【0003】
病状の早期検出は、典型的にはより有効な治療的処置、およびそれに対応してより望ましい臨床結果をもたらす。しかし、多くの場合、疾患の症状の早期検出には問題があり、したがって、診断が可能となる前に疾患は比較的進行し得る。全身性炎症状態は、このような疾患クラスの1つを表す。これらの状態、特に敗血症は、典型的には病原性微生物と宿主において過剰かつ調節不全の炎症反応を始動させる宿主の防御系との差から生じる。全身性炎症反応中の宿主の反応の複雑さにより、疾患の病因を理解しようとする努力が困難になっている(Healy、Annul. Pharmacother.、36:648-54、(2002)に総説)。立ち代って、疾患の病因の不完全な理解が、診断用バイオマーカーの発見を困難にすることに寄与している。しかし、敗血症は非常に迅速に生命を脅かす状態へと進行するので、早期かつ信頼性のある診断は必須である。
【0004】
敗血症は良く記載されている経時変化に従い、全身性炎症反応症候群(「SIRS」)陰性からSIRS陽性へ、そして敗血症へと進行し、その後、重篤な敗血症、敗血症性ショック、多臓器機能障害(「MOD」)、および最終的には死へと進行し得る。敗血症はまた、感染した個体において、個体が引き続いてSIRSを発症した場合にも生じ得る。「SIRS」は一般に、以下のパラメータの2つ以上の存在として定義される:体温が38℃より高いまたは36℃未満である;心拍数が毎分90回より高い;呼吸数が毎分20回より高い;PCO2が32mmHg未満である;および白血球数が4.0×10個の細胞/L未満であるもしくは12.0×10個の細胞/Lより高い、または10%より高い未熟なバンドの形成を有する。「敗血症」は一般に、確認された感染性プロセスを伴ったSIRSとして定義される。「重篤な敗血症」は、MOD、低血圧、播種性血管内血液凝固(「DIC」)または乳酸アシドーシス、乏尿、および精神状態の変化を含めた低灌流性異常に関連している。「敗血症性ショック」は一般に、輸液蘇生法に耐性があり、さらに低灌流性異常が存在する敗血症誘発性低血圧として定義されている。
【0005】
敗血症において臨床的に有意な病原性微生物の存在を記録することは、困難であることが分かっている。原因微生物は、典型的には患者の血液、痰、尿、創傷分泌物、留置カテーテルの表面などを培養することによって検出する。しかし、原因微生物は特定の身体微小環境中にしか存在しないかもしれず、培養した特定の材料が汚染微生物を含まないかもしれない。検出は、感染部位に微生物が少数しか存在しないことによってさらに困難になり得る。血液中に病原体が少数しか存在しないことは、血液の培養による敗血症の診断に特に問題を表す。たとえば一研究では、敗血症の臨床症状を示している患者の17%でしか陽性の培養結果が得られなかった(Rangel-Frausto他、JAMA、273:117-23、(1995))。診断は、非病原性微生物による試料の汚染によってさらに困難になり得る。たとえば、敗血症に罹患している707人の患者の研究において、検出された微生物の12.4%しか臨床的に有意でなかった(Weinstein他、Clinical Infectious Diseases、24:584-602、(1997))。
【0006】
敗血症の早期診断が困難なことは、この疾患に関連した罹患率および死亡率が高いことに反映されている。敗血症は現在、米国において死因の第10位であり、非冠状動脈集中治療室(ICU)の入院患者の間で特に流行しており、ここではこれが死の最大の原因である。死亡率の全体の率は35%と高く、米国だけで年間推定750,000件が発生している。敗血症を処置する年間費用は米国だけで10億ドルの桁にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、有効な処置および予防を可能にするための、十分早期に敗血症を診断する方法の必要性が存在する。既存の敗血症の採点システムや予測モデルのほとんどは、既に敗血症であると考えられている患者において死を含めた後期合併症の危険性のみを予測する。しかし、このようなシステムおよびモデルでは、敗血症自体の発生が予測されない。SIRSに罹患している患者のうち誰が敗血症を発生し誰が発生しないかを分類する方法が特に必要である。本明細書中で、本研究者らは、典型的には敗血症患者群対正常(すなわち非敗血症の)対照患者群において異なるレベルで発現される単一のバイオマーカーを定義する。その全体が本明細書中に参考として組み込まれている、2003年3月26日出願の米国特許仮出願第10/400,275号は、様々なバイオマーカーの発現レベルの時間依存性の変化を分析することによって早期敗血症を指摘する方法を開示している。したがって、早期敗血症を診断する最適な方法は、現在では、複数のバイオマーカーを測定することおよびこれらのバイオマーカーの発現を経時的に監視することをどちらも必要とする。
【0008】
患者を経時的に監視する必要のない、特異性および感度をもって敗血症を診断する緊急の必要性が当分野で常に存在する。理想的には、単一時点での複数のバイオマーカーを正確、迅速、かつ同時に測定する技術によって診断が行われ、これにより診断に必要な時間の間に進行する疾患を最小限に抑えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、単一時点に生体試料から採取した複数のバイオマーカーの測定によって正確、迅速、かつ感度の高い敗血症の予測および診断を可能にする。これは、個体、特に敗血症を発生する危険性にある、敗血症に罹患している、または敗血症に罹患していると疑われる個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得て、個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することによって行われる。参照バイオマーカープロフィールは、たとえば、敗血症に罹患したまたは敗血症の発症もしくは敗血症の進行における特定の段階に罹患している個体の集団(「参照集団」)から得られうる。個体のバイオマーカープロフィールが参照集団のバイオマーカープロフィールの適切な特徴となる特性を含む場合は、その個体は敗血症になる可能性がより高い、敗血症に罹患している、または参照集団と同じ敗血症における進行の特定の段階にあると診断される。参照バイオマーカープロフィールはまた、SIRSに罹患している者または感染症に罹患しているがSIRSには罹患していない者を含めた個体の様々な集団からも得られうる。したがって、本発明は、臨床医が、とりわけSIRSに罹患していない患者、SIRSに罹患しているが調査の期間中に敗血症を発生する可能性が低い患者、敗血症に罹患している患者、いつかは敗血症になる危険性にある患者を判定することを可能にする。
【0010】
本発明の方法はSIRS患者における敗血症の発症の検出または予測に特に有用であるが、当業者であれば、本発明の方法を、それだけには限定されないが、SIRSに罹患しているまたは敗血症の任意の段階にあると疑われる患者を含めた任意の患者で使用し得ることを理解しうる。たとえば、生体試料を患者から採取し、試料中のバイオマーカーのプロフィールを、それぞれのプロフィールがたとえばSIRSに罹患しているまたは敗血症の特定の段階にある者などの個体由来である、いくつかの異なる参照バイオマーカープロフィールと比較することができる。患者のバイオマーカープロフィールが特定の参照集団由来のプロフィールに対応するという分類は、この患者が参照集団内に含まれることの予測に用いられる。本発明の方法の結果もたらされる診断に基づいて、適切な治療計画をその後開始することができる。
【0011】
SIRS、敗血症または敗血症の進行の段階を診断または予測する既存の方法は、非特異的な臨床的徴候および症状に基づいており、その結果もたらされる診断はしばしば臨床的有用性が制限されている。本発明の方法は敗血症の様々な段階を正確に検出するので、これを用いて適切に治療研究に参加している可能性のある個体を同定することができる。単一時点に得られた生体試料中のバイオマーカーの発現の「スナップショット」から敗血症を予測または診断し得るので、この治療研究は重大な臨床的症状が発症する前に開始し得る。生体試料をそのバイオマーカープロフィールについてアッセイするので、特定のバイオマーカーの同定は不要である。それにもかかわらず、本発明は、敗血症または敗血症の進行の特定の段階に特徴的なプロフィールを有する特異的なバイオマーカーを同定する方法を提供する。このようなバイオマーカー自体が、敗血症を予測または診断において有用なツールとなる。
【0012】
したがって、本発明は、とりわけ、個体において敗血症の発症を予測する方法を提供する。この方法は、個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。バイオマーカープロフィールの比較では、個体における敗血症の発症を少なくとも約60%の精度で予測することができる。個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールは、核酸の測定可能な特徴である特性を含む。この方法は、敗血症の発症の前の任意の時点で再度繰り返し得る。
【0013】
本発明はまた、とりわけ、個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む、敗血症に罹患しているまたは罹患していると疑われる個体において敗血症を診断する方法も提供する。個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールは、核酸の測定可能な特徴である特性を含む。バイオマーカープロフィールの比較では、個体における敗血症を少なくとも約60%の精度で診断することができる。この方法は、個体に任意の時点で繰り返し得る。
【0014】
本発明はさらに、とりわけ、敗血症に罹患しているまたは罹患していると疑われる個体において敗血症の進行(すなわち段階)を判定する方法を提供する。この方法は、個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールは、核酸の測定可能な特徴である特性を含む。バイオマーカープロフィールの比較では、個体における敗血症の進行を少なくとも約60%の精度で判定することができる。この方法も、個体に任意の時点で繰り返し得る。
【0015】
さらに、本発明は、とりわけ、SIRSに罹患しているまたは罹患していると疑われる個体においてSIRSを診断する方法を提供する。この方法は、個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールは、核酸の測定可能な特徴である特性を含む。バイオマーカープロフィールの比較では、個体におけるSIRSを少なくとも約60%の精度で診断することができる。この方法も、個体に任意の時点で繰り返し得る。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、とりわけ、判断基準を当てはめることを含む、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法を提供する。判断基準は、(i)個体から単一時点に採取した生体試料から作成した核酸バイオマーカープロフィールを、(ii)参照集団から作成した核酸バイオマーカープロフィールと比較することを含む。判断基準を当てはめることによって、個体における敗血症の状態が判定されるまたはSIRSが診断される。この方法は、個体に1回または複数回の個別の単一時点で繰り返し得る。
【0017】
本発明はさらに、とりわけ、個体から採取した生体試料からバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法であって、個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールが核酸の測定可能な特徴である特性を含む方法を提供する。1回のこのような比較で、個体が参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができる。また、バイオマーカープロフィールの比較では、個体における敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する。
【0018】
本発明はさらに、とりわけ、個体から採取した生体試料からバイオマーカープロフィールを得ること、および個体のバイオマーカープロフィールを参照集団の生体試料から得た参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法を提供する。参照集団は、正常な参照集団、SIRS陽性参照集団、感染した/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の進行の段階にある参照集団、約0〜36時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、約36〜60時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、および約60〜84時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群より選択され得る。個体のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールは、核酸の測定可能な特徴である特性を含む。1回のこのような比較で、個体が参照集団のメンバーであるかどうかを分類することができ、比較によって個体における敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する。
【0019】
さらに別の実施形態では、本発明は、とりわけ、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法であって、(i)個体の生体試料から得たバイオマーカープロフィールと(ii)参照集団の生体試料から得たバイオマーカープロフィールとの間の少なくとも1つの核酸バイオマーカーの測定可能な特性を比較することを含む方法を提供する。この比較に基づいて、個体は参照集団に属するまたは属さないものとして分類される。また、この比較では、個体における敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する。一実施形態では、核酸バイオマーカーは、表2〜10のうち任意の1つに記載のバイオマーカー群から選択される。
【0020】
さらなる実施形態では、本発明は、とりわけ、個体の生体試料から作成したバイオマーカープロフィール中で核酸バイオマーカーのセットから少なくとも2つの特性を選択することを含む、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法を提供する。これらの特性を参照集団の生体試料から作成したバイオマーカープロフィールにおける同じ核酸バイオマーカーのセットと比較する。1回のこのような比較で、少なくとも約60%の精度で個体が参照集団のメンバーであるかどうかを分類することができ、この比較によって個体における敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する。
【0021】
本発明はまた、とりわけ、個体の生体試料に含まれる少なくとも2つの核酸バイオマーカーの存在量の変化を判定すること、およびこれらのバイオマーカーの存在量の変化を参照集団の生体試料中でのこれらのバイオマーカーの存在量の変化と比較することを含む、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する方法を提供する。あるいは、個体のバイオマーカープロフィールにおける少なくとも2つの核酸バイオマーカーの存在量を、参照集団のバイオマーカープロフィールにおける少なくとも2つの核酸の存在量と比較してもよい。どちらの比較でも、個体が参照集団のメンバーであるかどうかを分類することができ、この比較によって個体における敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、とりわけ、敗血症に罹患した参照集団および敗血症に罹患していない参照集団の生体試料の少なくとも1つの核酸バイオマーカーの存在量の変化または存在量と比較した、少なくとも1、2、3、4、5、10もしくは20以上の核酸バイオマーカーの存在量の変化または存在量を判定することを含む、個体において敗血症の状態を判定する方法を提供する。核酸バイオマーカーは、表2〜10のうち任意の1つに記載の核酸からなる群より選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、個体から単一の時点で(「スナップショット」)または疾患の進行の過程で得られた1つまたは複数の生体試料を用いた、敗血症の迅速、感度の高い、かつ正確な診断または予測を可能にする。有利なことに、敗血症を臨床的症状の発症の前に診断または予測し得、その結果より有効な治療行為が可能になる。
【0024】
「全身性炎症反応症候群」、すなわち「SIRS」とは、24時間の間に以下の状態の2つ以上に見られるように様々な重篤な臨床的状態(insult)に対する臨床反応をいう:
・体温が38℃(100.4°F)より高いまたは36℃(96.8°F)未満である;
・心拍数(HR)が90回/分より高い;
・呼吸数(RR)が20回/分より高い、またはPCO2が32mmHg未満である、もしくは人口呼吸を必要とする;および
・白血球数(WBC)が12.0×10個/Lより高いもしくは4.0×10個L未満であるか、または10%より高い未熟な形成(バンド)を有する。
【0025】
これらのSIRSの症状は、将来改善された定義によって変更または補完され得る、SIRSの共通定義を表す。本定義は、現在の臨床慣行を明確にするために使用し、本発明の重要な態様を表すものではない。
【0026】
SIRSに罹患している患者は、上に定義したSIRSとして分類される臨床症状を有するが、敗血症であるとは臨床的にみなされない。敗血症を発生する危険性にある個体には、ICUの患者および火傷または他の損傷などの他の生理的外傷を患った患者が含まれる。「敗血症」とは、確認された感染症のプロセスに関連するSIRS陽性状態をいう。敗血症の臨床上の疑いは、SIRS患者のSIRS陽性状態が感染症のプロセスの結果ではないかという疑惑から生じる。本明細書中で使用する「敗血症」には、それだけには限定されないが、敗血症の発症、重篤な敗血症および敗血症の最終段階に関連するMODを含めた敗血症のすべての段階が含まれる。
【0027】
「敗血症の発症」とは、敗血症の早期段階、すなわち、臨床症状が敗血症の臨床上の疑いを支持するのに十分となる前の段階をいう。本発明の方法を用いることにより、慣用技術を用いた場合に敗血症が疑われる時点より前に敗血症を検出するので、早期敗血症での患者の疾患状態を、敗血症の症状がより明らかになった時に遡及的に確認することしかできない。患者が敗血症となる正確な機構は本発明の重要な態様ではない。本発明の方法では、感染症のプロセスの起源に依存せずにバイオマーカープロフィールの変化を検出することができる。敗血症がどのように生じるかにかかわらず、本発明の方法によって、以前に使用した参照によって分類した、敗血症またはSIRSを罹患しているまたは罹患していると疑われる患者の状態を判定することが可能となる。
【0028】
「重篤な敗血症」とは、臓器不全、低灌流性異常、または敗血症誘発性低血圧に関連する敗血症をいう。低灌流性異常には、それだけには限定されないが、乳酸アシドーシス、乏尿、または精神状態の急性の変化が含まれる。「敗血症性ショック」とは、十分な静脈輸液負荷に応答性がなく、末梢低灌流の症状を有する敗血症誘発性低血圧をいう。「転換患者」とは、患者を監視している期間の間、典型的にはICUに滞在中に敗血症の臨床上の疑いへと進行するSIRS陽性患者をいう。「非転換患者」とは、患者を監視している期間の間、典型的にはICUに滞在中に敗血症の臨床上の疑いへと進行しないSIRS陽性患者をいう。
【0029】
「バイオマーカー」とは、タンパク質およびその断片、ペプチド、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、有機または無機化学物質、天然ポリマー、および小分子など、生体試料中に存在し、かつ生体試料から単離し得るまたは生体試料中で測定され得る、事実上任意の生体化合物である。さらに、バイオマーカーは、完全な分子全体、あるいは部分的に機能的である、またはたとえば抗体もしくは他の特異的結合タンパク質によって認識可能なその一部分であることができる。バイオマーカーは、バイオマーカーの測定可能な性状が敗血症の特定の段階などの患者の所定の状態に関連している場合は、情報価値があるとみなされる。このような測定可能な性状には、たとえば、個体の生体試料中にバイオマーカーが存在すること、存在しないこと、もしくはその濃度、および/またはそれがバイオマーカーのプロフィールの一部として存在することが含まれ得る。バイオマーカーのこのような測定可能な性状は、本明細書中では「特性」として定義される。この特徴はバイオマーカーの2つ以上の測定可能な性状の比であってもよく、バイオマーカーは、たとえば何であるかが知られているものであっても知られていないものであってもよい。「バイオマーカープロフィール」は、少なくとも2つのこのような特性を含み、この特性はたとえば核酸および炭水化物などの同一または異なるバイオマーカーのクラスに対応していることができる。バイオマーカープロフィールはまた、少なくとも3、4、5、10、20、30以上の特性を含み得る。一実施形態では、バイオマーカープロフィールは数百、数千もの特性を含む。別の実施形態では、バイオマーカープロフィールは少なくとも1つの内部標準の少なくとも1つの測定可能な性状を含む。
【0030】
「表現型の変化」とは、患者の所定の状態に関連するパラメータにおける検出可能な変化である。たとえば、表現型の変化は体液中のバイオマーカーの増加または低減を含み得、この変化は敗血症または敗血症の発症に関連している。表現型の変化はさらに、バイオマーカーの測定可能な性状の変化ではない患者の所定の状態の検出可能な性状における変化を含み得る。たとえば、表現型の変化には体温、呼吸数、脈拍、血圧、または他の生理的パラメータにおける検出可能な変化が含まれ得る。このような変化は、当業者に周知の慣用技術を用いた臨床観察および測定によって判定することができる。本明細書中で使用する「慣用技術」とは、本発明によるバイオマーカープロフィールを得ずに表現型の変化に基づいて個体を分類する技術である。
【0031】
「判断基準」とは、患者の分類に使用する方法である。この基準は、その全体が本明細書中に参考として組み込まれているHastie他、「The Elements of Statistical Learning」、Springer-Verlag、(Springer、New York、(2001))に例示されているように、当分野で知られている1つまたは複数の形態をとることができる。試料中の分子の複雑な混合物におけるバイオマーカーの分析により、データセットに特性が生じる。判断基準を用いて特性のデータセットに従って、敗血症の発症の予測、敗血症の進行の判定、敗血症の診断する、またはSIRSの診断を行い得る。
【0032】
判断基準の当てはめには完全な分類は必要でない。一実施形態では、分類を少なくとも約90%、またはそれ以上の確実性で行い得る。他の実施形態では、確実性は少なくとも約80%、少なくとも約70%、または少なくとも約60%である。確実性の有用な度合いは、本発明の具体的な方法に応じて変動し得る。「確実性」とは、正確に分類された個体の合計数を分類に供した個体の合計数で割算したものと定義される。本明細書中で使用する「確実性」とは、「精度」を意味する。分類はまた、その「感度」によって特徴づけられ得る。分類の「感度」は、敗血症に罹患していると正しく同定された敗血症患者の割合に関連する。当分野において「感度」とは、真の陽性の数を真の陽性と偽の陰性との合計で割算したものと定義される。対照的に、この方法における「特異性」は、敗血症に罹患していないと正しく同定された患者の割合として定義される。すなわち、「特異性」は、真の陰性の数を真の陰性と偽の陽性との合計で割算したものに関連する。一実施形態では、感度および/または特異性は、少なくとも約90%、少なくとも約80%、少なくとも約70%または少なくとも約60%である。十分な確実性で個体を分類するのに使用し得る特性の数は、典型的には約4つである。しかし、求められる確実性の度合い次第では特性の数はそれ以上またはそれ以下であってもよいが、すべての場合で少なくとも1つはある。一実施形態では、個体を分類するのに使用し得る特性の数は、高い確実性で個体を分類することを可能にするように最適化されている。
【0033】
患者における敗血症またはSIRSの「状態の判定」とは、(1)患者において敗血症もしくはSIRSの存在を検出する、(2)患者において敗血症の発症もしくはSIRSを予測する、または(3)患者において敗血症の進行を測定するために患者のバイオマーカープロフィールを分類することを包含する。敗血症またはSIRSの「診断」とは、患者において敗血症またはSIRSを同定または検出することを意味する。本発明は、明白に観察可能な臨床症状の前に敗血症を検出する感度が高いので、敗血症の同定または検出には、上で定義した敗血症の発症の検出が含まれる。すなわち、「敗血症の発症の予測」とは、患者のバイオマーカープロフィールを、SIRSの特定の段階から敗血症へ、または感染した状態から敗血症へ(すなわち、感染症から汚染SIRSによる感染症)と進行している個体由来のプロフィールに対応していると分類することを意味する。敗血症またはSIRSの「進行の検出」または「進行の判定」とは、既に敗血症またはSIRSに罹患していると診断された患者のバイオマーカープロフィールを分類することを意味する。たとえば、敗血症に罹患していると診断された患者のバイオマーカープロフィールを分類することは、敗血症から重篤な敗血症またはMODを伴った敗血症への患者の進行を検出または判定することを包含することができる。
【0034】
本発明によれば、敗血症は、個体から得た試料からバイオマーカーのプロフィールを得ることによって診断または予測し得る。本明細書中で使用する「得る」とは、「手に入れる」ことを意味する。本発明は、感染症、またはさらには敗血症に罹患しているが、未だ敗血症に罹患していると診断されていない個体、敗血症に罹患していると疑われている個体、または敗血症を発生する危険性にある個体において敗血症を予測および診断するのに特に有用である。同様に、本発明を個体においてSIRSを検出および診断するのに使用し得る。すなわち、本発明は、SIRSの臨床上の疑いを確認するために使用し得る。本発明はまた、感染症、菌血症、敗血症、重篤な敗血症、敗血症性ショックなどの敗血症の様々な段階を検出するためにも使用し得る。
【0035】
個体から得たバイオマーカーのプロフィール、すなわち試験バイオマーカープロフィールを、参照バイオマーカープロフィールと比較する。参照バイオマーカープロフィールは、1の個体または2以上の個体の集団から作成することができる。集団は、たとえば3、4、5、10、15、20、30、40、50以上の個体を含み得る。さらに、本発明の方法において比較する参照バイオマーカープロフィールおよび個体の(試験)バイオマーカープロフィールは、試験および参照バイオマーカープロフィールは異なる時点で採取した生体試料から作成されたものであり、互いに比較するという条件で、同じ個体から作成してもよい。たとえば、試料を研究期間の開始時に個体から得てよい。その後、その試料から採った参照バイオマーカープロフィールを、同じ個体のその後の試料から作成したバイオマーカープロフィールと比較し得る。このような比較は、たとえば、経時的な繰返しの分類によって個体における敗血症の状態を判定するために使用し得る。
【0036】
参照集団は、SIRSに罹患していない個体(「SIRS陰性」)、SIRSには罹患していないが感染症のプロセスを患っている個体、SIRSを患っているが敗血症が存在しない個体(「SIRS陽性」)、敗血症の発症を患っている個体、敗血症陽性であり敗血症の進行の段階の1つを患っている個体、敗血症を発生する危険性を増大させる生理的外傷を有する個体から選択され得る。さらに、参照集団はSIRS陽性であり得、その後に慣用技術を用いて敗血症を診断される。たとえば、参照プロフィールの作成に用いたSIRS陽性患者の集団は、参照バイオマーカープロフィールを作成する目的で生体試料を採取した約24、48、72、96時間以上後に敗血症を診断されるかもしれない。一実施形態では、SIRS陽性個体の集団は、慣用技術を用いて、生体試料を採取した約0〜36時間、約36〜60時間、約60〜84時間、または約84〜108時間後に敗血症を診断される。バイオマーカープロフィールが敗血症またはその進行段階の1つを表示している場合は、臨床医は、敗血症の臨床的症状が現れる前に処置を開始し得る。処置は、典型的には、感染源を判定するために患者を検査することを含む。感染源の場所を判定した後、臨床医は、典型的には、好ましくは膿瘍の排出または感染したカテーテルの除去などの関連する経験的抗菌治療を開始する前、および場合によっては追加の補助療法手段の前に、感染部位から培養物を得る。敗血症の治療法は、Healy、上記に総説されている。
【0037】
本発明の方法は、個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。本明細書中で使用する「比較」には、個体および参照プロフィールの少なくとも1つの差異を識別する任意の手段が含まれる。したがって、比較はクロマトグラフィースペクトルの目視検査を含み得、また、比較はプロフィールの特性に割り当てられた値の演算的または統計的な比較を含み得る。このような統計的な比較には、それだけには限定されないが、判断基準を当てはめることが含まれる。バイオマーカープロフィールが少なくとも1つの内部標準を含む場合は、バイオマーカープロフィールの差異を識別するための比較はこれら内部標準の特徴も含み得、そのようなバイオマーカーの特性を内部標準の特徴と相関させる。比較によって敗血症もしくはSIRSを獲得する見込みを予測することができる;または、比較によって敗血症もしくはSIRSが存在することもしくは存在しないことを確認することができる;または、比較によって個体がその段階であり得る敗血症の段階を示すことができる。
【0038】
したがって、本発明により、ある監視期間に亘る時間集約的なアッセイを実施する必要性およびそれぞれのバイオマーカーを同定する必要性が除かれる。本発明は個体を分類するための監視期間を必要としないが、個体に危険性がなくなるまで、個体の繰返しの分類、すなわち繰返しのスナップショットを経時的にとり得ることは理解されよう。あるいは、個体から得たバイオマーカーのプロフィールを、同じ個体から異なる時点で得た1つまたは複数のバイオマーカーのプロフィールと比較し得る。当業者は、繰返しの分類の過程で行われるそれぞれの比較により、個体が参照集団のメンバーであるかどうかを分類できることを理解されよう。
【0039】
敗血症が存在しない状態からMODまでの敗血症の進行における様々な段階に対応する様々な生理的状態にある個体は、特徴的なバイオマーカープロフィールによって識別し得る。本明細書中で使用する「個体」とは、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトまたは非ヒト霊長類である。用語「個体」、「対象」および「患者」は、本明細書中で互換可能に使用される。個体は、正常である、SIRSもしくは敗血症に罹患していることが疑われている、SIRSもしくは敗血症を発症する危険性にある、またはSIRSもしくは敗血症に罹患していることが確認されているとすることができる。敗血症の進行に関連付けられている多くの既知のバイオマーカーが存在するが、これらのマーカーのすべてが初期の前臨床段階に現れるわけではない。初期段階敗血症に特徴的なバイオマーカーのサブセットは、実際、最終的に敗血症の臨床的症状を示す個体から得た試料の遡及的な分析によってしか決定されないかもしれない。理論に拘束されるものではないが、敗血症をもたらす初期病理学的感染症さえもバイオマーカーの発現における特定の変化に反映される生理的変化を引き起こし得る。たとえば敗血症の一段階の特徴的なバイオマーカープロフィールが決定された後は、個体から得た生体試料からのバイオマーカーのプロフィールをこの参照プロフィールと比較して、試験対象もその敗血症の特定の段階にあるかどうかを判定し得る。
【0040】
敗血症の一段階から別の段階へ、または正常な状態(すなわち敗血症もしくはSIRSを罹患していないことに特徴づけられる状態)から敗血症もしくはSIRSへ、およびその逆の、集団の進行は、バイオマーカープロフィールの変化によって特徴づけられ、特定のバイオマーカーがますます高いレベルで発現され、他のバイオマーカーの発現がダウンレギュレートされていく。バイオマーカープロフィールのこれらの変化は、たとえば感染症および/または炎症に対する参照集団における生理応答の進行的な確立を反映している可能性がある。当業者であれば、生理応答が鎮静するにつれて参照集団のバイオマーカープロフィールも変化することを理解されよう。上述のように、本発明の利点の1つは、単一の生体試料由来のバイオマーカープロフィールを用いて、個体が特定の集団のメンバーであると分類する能力である。しかし、当業者であれば、特定の生理応答が確立されているのか鎮静されているのかの判定が、その後の個体の分類によって容易になり得ることを理解されよう。このために、本発明は、敗血症またはSIRSに対する生理応答が確立されるまたは鎮静するにつれて発現のレベルが上昇も低下もする数々のバイオマーカーを提供する。たとえば、調査者は、敗血症に対する生理応答が確立されるにつれて強度が変化することが知られている個体のバイオマーカープロフィールの特性を選択することができる。個体のその後の生体試料由来のプロフィールにおける同じ特性を比較することによって、個体がより重篤な敗血症に向かって進行しているのか、または正常な状態に向かって進行しているのかを確立することができる。
【0041】
バイオマーカーの分子の種類は本発明に重要でない。実際、本発明は既に同定されたバイオマーカーに限定されるべきでない(2003年3月26日出願の米国特許出願第10/400,275号参照)。したがって、所定の個体集団、特に敗血症の早期段階の1つにある集団に特徴的である新規のバイオマーカーが同定されることが期待される。本発明の一実施形態では、バイオマーカーを同定および単離する。その後、これを使用して、様々な診断的アッセイにおいてバイオマーカーの検出を容易にすることができる特異的に結合する抗体を産生させ得る。この目的のために、任意の免疫アッセイにおいてバイオマーカー分子に結合することができる任意の抗体、抗体フラグメントまたは誘導体を使用し得る(たとえばFab、Fv、またはscFvフラグメント)。このような免疫アッセイは当分野で周知である。バイオマーカーがタンパク質である場合、これの配列決定を行い、十分に確立されている技術を用いて、それをコードする遺伝子をクローニングし得る。
【0042】
本発明の方法は、たとえばICUに収容された患者のスクリーニングに使用し得る。たとえば血液などの生体試料を、収容直後に採取する。血液中のタンパク質および他の分子の複雑な混合物をバイオマーカーのプロフィールとして分離する。これは、何らかの物理的または化学的特性に基づいてこれらの分子を再現可能に識別する任意の技術または技術の組合せを使用することによって行い得る。一実施形態では、分子をマトリックス上に固定し、その後、レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析によって分離および識別する。各分子またはその断片の質量/電荷比を反映する特徴的な脱離パターンによってスペクトルが作成される。別の実施形態では、細胞抽出物から得られた様々なmRNA種からバイオマーカーを選択し、個体のmRNA種をcDNAのアレイとハイブリダイズさせることによってバイオマーカープロフィールを得る。cDNAアレイの診断的使用は当分野で周知である(たとえば、Zou他、Oncogene、21:4855-4862、(2002)参照)。さらに別の実施形態では、タンパク質および核酸の分離方法の組合せを用いてプロフィールが得られる。
【0043】
本発明はまた、個体において敗血症の状態を判定するまたはSIRSを診断するのに有用なキットを提供する。本発明のキットは、少なくとも1つのバイオマーカーを含む。本発明において有用な特定のバイオマーカーを本明細書中に記載した。キットのバイオマーカーを使用して、本発明によるバイオマーカープロフィールを作成し得る。一般に、キットのバイオマーカーは、少なくともある程度の特異性をもって、バイオマーカープロフィールを作成した生体試料中に含まれるバイオマーカー分子に結合する。キットの化合物のクラスの例には、それだけには限定されないが、タンパク質およびその断片、ペプチド、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、有機および無機化学物質、ならびに天然および合成ポリマーが含まれる。バイオマーカー(もしくは複数のバイオマーカー)はアレイの一部であるか、またはバイオマーカー(もしくは複数のバイオマーカー)を別々にかつ/もしくは個別にパッケージしてもよい。キットはまた、本発明のバイオマーカープロフィールを作成するために使用する少なくとも1つの内部標準も含み得る。同様に、内部標準は上述の化合物のクラスの任意のものであることができる。本発明のキットはまた、バイオマーカープロフィールを作成した生体試料中に含まれるバイオマーカーを検出可能に標識するために使用することができる試薬も含み得る。この目的のために、キットは、バイオマーカーを記載した以下の表のうち任意の1つに示した、少なくとも2、3、4、5、10、20種以上のバイオマーカーと特異的に結合する抗体またはその機能的フラグメントのセットを含み得る。抗体自体を検出可能に標識してもよい。キットはまた、アプタマーなどの特異的なバイオマーカー結合構成成分も含み得る。バイオマーカーが核酸を含む場合は、キットは、バイオマーカーまたはバイオマーカーの相補鎖と二重鎖を形成する能力を有するオリゴヌクレオチドプローブを提供し得る。オリゴヌクレオチドプローブは検出可能に標識し得る。
【0044】
本発明のキットは、バイオマーカーを用いて抗体を生成させる場合、製薬用賦形剤、希釈剤および/または助剤も含み得る。製薬用助剤の例には、それだけには限定されないが、保存料、湿潤剤、乳化剤、および分散剤が含まれる。微生物作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸(phenol sorbic acid)などを含むことによって確実にすることができる。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を含めることが望ましいこともある。注射用製薬剤形の吸収時間の延長は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を含むことによってもたらすことができる。
【0045】
バイオマーカープロフィールの作成
一実施形態によれば、本発明の方法は、個体から採取した生体試料からバイオマーカーのプロフィールを得ることを含む。生体試料は、血液、血漿、唾液、血清、痰、尿、脳脊髄液、細胞、細胞抽出物、組織試料、組織生検、糞便試料などであり得る。参照バイオマーカープロフィールは、たとえば、SIRS陰性個体、SIRS陽性個体、敗血症の発症を患っている個体および既に敗血症に罹患している個体からなる群より選択される個体の集団から得ることができる。既に敗血症に罹患している個体由来の参照バイオマーカープロフィールは、感染症、菌血症、重篤な敗血症、敗血症性ショックまたはMODなどの敗血症の進行の任意の段階で得ることができる。
【0046】
一実施形態では、試料中のバイオマーカーのサブセットだけが分析されるようにバイオマーカーのプロフィールを作成するために、分離方法を使用し得る。たとえば、試料中の分析されるバイオマーカーは、試料中の核酸バイオマーカーのみが得られるように分画した細胞抽出物由来のmRNA種からなるか、または、バイオマーカーはクロマトグラフィー技術によって分画した試料中のタンパク質の全量の一部分からなり得る。あるいは、分離方法を用いずにバイオマーカーのプロフィールを作成することができる。たとえば、試料中のバイオマーカーと特異的な複合体を形成する標識した化合物を用いて生体試料を検索することができ、この場合、特異的複合体内の標識の強度がバイオマーカーの測定可能な特徴である。このような特異的複合体の形成に適切な化合物は、標識した抗体である。一実施形態では、増幅可能な核酸を標識として、抗体を用いてバイオマーカーを測定する。さらに別の実施形態では、それぞれが核酸標識の一方の鎖にコンジュゲートした2つの抗体が、2つの核酸鎖が増幅可能な核酸を形成するようにバイオマーカーと相互作用した場合に、核酸標識が増幅可能となる。
【0047】
別の実施形態では、バイオマーカープロフィールは、バイオマーカーが核酸またはその相補対であり得る核酸のアレイなどのアッセイ由来であり得る。たとえば、バイオマーカーはリボ核酸であり得る。また、バイオマーカープロフィールを、核磁気共鳴、核酸アレイ、ドットブロット、スロットブロット、逆転写増幅およびノーザン分析からなる群より選択された方法を用いて得てもよい。別の実施形態では、バイオマーカープロフィールを、バイオマーカーに特異的な抗体またはその機能的フラグメントを反応させることによって免疫学的に検出する。抗体の機能的フラグメントとは、完全な抗体が結合する抗原に結合する能力を少なくともある程度保持している、抗体の一部分である。それだけには限定されないがscFvフラグメント、FabフラグメントおよびF(ab)フラグメントを含めたフラグメントは、組換えによって産生させるか、酵素的に産生させることができる。別の実施形態では、アプタマーなど抗体以外の特異的結合分子を用いてバイオマーカーに結合させ得る。さらに別の実施形態では、バイオマーカープロフィールは、感染性因子またはその成分の測定可能な性状を含み得る。さらに別の実施形態では、バイオマーカープロフィールは、タンパク質もしくは核酸の断片が含まれ得る、または代謝物が含まれ得る小分子の測定可能な性状を含み得る。
【0048】
バイオマーカープロフィールは、1つまたは複数の分離方法を用いて作成し得る。たとえば、適切な分離方法には、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)、ESI−MS/MS、ESI−MS/(MS)(nは0より大きい整数である)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)、表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(SELDI−TOF−MS)、シリコン上脱離/イオン化(DIOS)、二次イオン質量分析(SIMS)、四重極飛行時間(Q−TOF)、大気圧化学イオン化質量分析(APCI−MS)、APCI−MS/MS、APCI−(MS)、大気圧光イオン化質量分析(APPI−MS)、APPI−MSMS、およびAPPI−(MS)などの質量分析方法が含まれ得る。他の質量分析方法には、とりわけ、四重極、フーリエ変換型質量分析(FTMS)およびイオントラップが含まれ得る。他の適切な分離方法には、化学抽出分離、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性(逆相)液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)または薄層、ガスもしくは液体クロマトグラフィーなどの他のクロマトグラフィー、あるいはそれらの任意の組合せが含まれ得る。一実施形態では、分離方法を適用する前に生体試料を分画し得る。
【0049】
バイオマーカープロフィールは、バイオマーカー自体の物理的な分離を必要としない方法によっても作成し得る。たとえば、核磁気共鳴(NMR)分光分析を使用して分子の複雑な混合物からバイオマーカーのプロフィールを分解し得る。腫瘍を分類するためのNMRの類似の使用が、たとえばHagberg、NMR Biomed.、11:148-56、(1998)に開示されている。さらなる手順には、個々のバイオマーカーを物理的に分離せずにバイオマーカーのプロフィールを作成するために使用し得る核酸増幅技術が含まれる(たとえばStordeur他、J. Immunol. Methods、259:55-64、(2002)およびTan他、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA、99:11387-11392、(2002)参照)。
【0050】
一実施形態では、レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析を使用して、バイオマーカーが入射レーザーの照射によってイオン化されて固体担体から気化されたタンパク質またはタンパク質断片であるバイオマーカーのプロフィールを作成する。その後、その質量対電荷(「m/z」)比に依存するそれぞれのタンパク質に特徴的な飛行時間によってプロフィールを作成する。様々なレーザー脱離/イオン化が当分野で知られている(たとえば、Guttman他、Anal. Chem.、73:1252-62、(2001)およびWei他、Nature、399:243-46、(1999)参照)。
【0051】
レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析により、大量の情報を比較的短時間で作成することが可能となる。生体試料を、試料中のバイオマーカーのすべてまたはそのサブセットに結合する種々の担体に塗布する。細胞溶解液または試料をこれらの表面に、事前に精製または分画してまたはせずに、少ない場合は0.5μLの体積を直接塗布する。溶解物または試料は、担体表面に塗布する前に濃縮または希釈することができる。その後、レーザー脱離/イオン化を使用して、3時間もの短時間の間に試料または複数の試料の質量スペクトルが作成される。
【0052】
別の実施形態では、個体の細胞抽出物からの全mRNAをアッセイし、生体試料から得られた様々なmRNA種をバイオマーカーとして使用する。プロフィールは、当分野で知られている標準方法を用いて、たとえば、これらのmRNAをオリゴヌクレオチドまたはcDNAを含み得るプローブのアレイにハイブリダイズさせることによって得られうる。あるいは、mRNAを、すべて当分野で知られているゲル電気泳動またはドットブロット、スロットブロットもしくはノーザン分析などのブロット方法に供し得る(たとえば、Sambrook他、「Molecular Cloning、第3版」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、(2001)参照)。mRNAプロフィールはまた、たとえばStordeur他、上記に記載されているように、逆転写、次いで生じたcDNAの増幅および検出によっても得られうる。別の実施形態では、プロフィールは、質量分光分析と組み合わせた核酸アレイなどの方法の組合せを用いて得られうる。
【0053】
データ分析アルゴリズムの使用
一実施形態では、個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することは、判断基準を当てはめることを含む。この判断基準はコンピュータパターン認識アルゴリズムなどのデータ分析アルゴリズムを含むことができる。他の適切なアルゴリズムには、それだけには限定されないが、特性の値の分布の差を検出するロジスティック回帰またはノンパラメトリックアルゴリズムが含まれる(たとえばウィルコクソンの符号付検定)。判断基準は、1、2、3、4、5、10、20以上の特性に基づき得る。一実施形態では、判断基準は数百以上の特性に基づく。判断基準の当てはめは、分類木アルゴリズムの使用も含み得る。たとえば、参照バイオマーカープロフィールは少なくとも3つの特性を含み得、これらの特性が分類木アルゴリズムにおける予測の判断材料である。データ分析アルゴリズムでは、集団(またはクラス)内のメンバーであるかどうかが少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%および少なくとも約90%の精度で予測される。
【0054】
適切なアルゴリズムが当分野で知られており、その一部がHastie他、上記に総説されている。このようなアルゴリズムでは、血液試料などの生体材料由来の複雑なスペクトルを分類して、個体を、正常であるか、またはバイオマーカーの発現レベルが特定の病状に特徴的であるとして識別する。このようなアルゴリズムを、判断基準を当てはめる速度および有効性を増大させるため、および調査者による偏りを避けるために使用し得るが、当業者は、本発明の方法の実施にはコンピュータに基づいたアルゴリズムは必要ないことを理解されるであろう。
【0055】
バイオマーカープロフィールの作成に用いた方法にかかわらず、アルゴリズムをバイオマーカープロフィールの比較に当てはめ得る。たとえば、Harper、「Pyrolysis and GC in Polymer Analysis」、Dekker、New York、(1985)に記載のように、適切なアルゴリズムを、ガスクロマトグラフィーを用いて作成したバイオマーカープロフィールに当てはめることができる。さらに、Wagner他、Anal. Chem、74:1824-35、(2002)は、静電飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)によって得られたスペクトルに基づいて個体を分類する能力を向上させるアルゴリズムを開示している。さらに、Bright他、J. Microbiol. Methods、48:127-38、(2002)は、MALDI−TOF−MSスペクトルを分析することによって細菌株を高い確実性(79〜89%の正しい分類率)で識別する方法を開示している。Dalluge、Fresenius J. Anal. Chem.、366:701-11、(2000)は、複雑な生体試料中のバイオマーカーのプロフィールの分類におけるMALDI−TOF−MSおよび液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化質量分析(LC/ESI−MS)の使用について記載している。
【0056】
バイオマーカー
本発明の方法は、敗血症またはSIRSの診断または予測に用いるバイオマーカープロフィールを作成することによって実施することができる。プロフィールの作成が本発明の実施には十分であるので、プロフィールを構成するバイオマーカーは知られている必要がなく、またその後に同定する必要もない。
【0057】
本発明のバイオマーカープロフィールを作成するために使用するバイオマーカーには、感染症に対する免疫系の応答の状態についての情報を与えることが知られているものが含まれ得るが、これらのバイオマーカーはすべて同等に情報価値があるわけではない。これらのバイオマーカーには、コートタンパク質、リポ多糖(内毒素)、リポテイコ酸などの宿主または病原体自体由来のホルモン、自己抗体、可溶性および不溶性受容体、成長因子、転写因子、細胞表面マーカーおよび可溶性マーカーが含まれることができる。他のバイオマーカーには、それだけには限定されないが、CD64タンパク質などの細胞表面タンパク質;CD11bタンパク質;HLA−DRタンパク質およびHLA−DQタンパク質を含めたHLAクラスII分子;CD54タンパク質;CD71タンパク質;CD86タンパク質;表面結合腫瘍壊死因子受容体(TNF−R);Toll様受容体などのパターン認識受容体;インターロイキンIL−1、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、およびIL−18などの可溶性マーカー;腫瘍壊死因子α(TNF−α);ネオプテリン;C−反応性タンパク質(CRP);プロカルシトニン(PCT);6−ケトFlα;トロンボキサンB2;ロイコトリエンB4、C3、C4、C5、D4およびE4;インターフェロンγ(IFNγ);インターフェロンα/β(IFNα/β);リンフォトキシンα(LTα);補体成分(C’);血小板活性化因子(PAF);ブラジキニン、一酸化窒素(NO);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF);マクロファージ抑制因子(MIF);インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra);可溶性腫瘍壊死因子受容体(sTNFr);可溶性インターロイキン受容体sIL−1rおよびsIL−2r;トランスフォーミング成長因子β(TGFβ);プロスタグランジンE(PGE);顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);ならびに他の炎症伝達物質が含まれる(Oberholzer他、Shock、16:83-96、(2001)およびVincent 他、「The Sepsis Text」、Carlet他編、(Kluwer Academic Publishers、2002)に総説)。一般的にかつ臨床的に菌血症に関連付けられているバイオマーカーも、このようなバイオマーカーが生体試料中に一般的であり高頻度に発生することを条件として、本発明に有用なバイオマーカーの候補である。バイオマーカーは、タンパク質もしくは核酸の断片であることができる低分子量化合物を含むことができ、または代謝物を含み得る。代謝物などの低分子量化合物が存在することまたはその濃度は、敗血症および/またはSIRSに関連する表現型の変化を反映し得る。具体的には、小分子バイオマーカーの濃度の変化は、低体温症もしくは高体温、心拍数もしくは呼吸数の上昇、組織低酸素症、代謝性アシドーシスまたはMODなどの、SIRSおよび/または敗血症に対する応答における任意の生理的変化から生じる細胞代謝の変化に関連しているかもしれない。また、バイオマーカーはタンパク質バイオマーカーをコードしているRNAおよびDNA分子も含み得る。
【0058】
バイオマーカーは、好中球の活性化または単球の非活性化などの白血球の変化に関与する少なくとも1つの分子を含むこともできる。CD64およびCD11bの発現の増加は、好中球および単球の活性化の徴候として認識される(Oberholzer他、上記およびVincent他、上記に総説)。本発明において有用となり得るバイオマーカーは、とりわけ、マクロファージ溶解産物に関連するものおよびサイトカイン代謝の変化のマーカーである(Gagnon他、細胞、110:119-31、(2002);Oberholzer他、上記;Vincent他、上記参照)。
【0059】
バイオマーカーはまた、炎症プロセスに関与していることが知られている、または関与していることが判明したシグナル伝達因子も含むことができる。シグナル伝達因子は、受容体結合、受容体活性化、細胞内キナーゼの活性化、転写因子の活性化、遺伝子の転写および/または翻訳レベルの変化、ならびに代謝プロセスの変化などを含めた事象の細胞内カスケードを開始し得る。シグナル伝達分子およびこれらの分子によって活性化されたプロセスを、本発明の目的のためにまとめて「敗血症経路に関与する生体分子」と定義する。関連する予測用のバイオマーカーは敗血症経路に関与する生体分子を含むことができる。
【0060】
したがって、本発明の方法は、予測に用いるバイオマーカーを同定するために偏りのない手法を使用し得るが、当業者には、生理応答または様々なシグナル伝達経路に関連するバイオマーカーの特定の群が特定の注目の対象であり得ることが明らかであろう。これは、生体試料由来のバイオマーカーを、バイオマーカーとの直接かつ特異的な相互作用によって様々なバイオマーカーの量を測定するために使用することができるアレイ(たとえば抗体アレイまたは核酸アレイ)と接触させる場合に特にそうである。この場合、アレイの成分の選択は、特定の経路が個体における敗血症またはSISRの状態の判定に関連するという示唆に基づいていてよい。特定の生体分子が敗血症またはSIRSの予測または診断的に用いる特性を有していることが示されているため、強調的に生理調節されている他の生体分子も同様に予測または診断に用いる特性をもたらし得るという期待が生じ得る。しかし、当業者であれば、生物系の複雑さが原因でこのような期待は実現されないかもしれないことを理解されよう。たとえば、特異的mRNAバイオマーカーの量が予測に用いる特性である場合、他のバイオマーカー発現が翻訳後のレベルで調節されているのであれば、別のバイオマーカーのmRNA発現の協奏的な変化は測定可能ではないかもしれない。さらに、バイオマーカーのmRNA発現レベルは、敗血症に対する生理応答に関与しているまたは関与していないかもしれない複数の収束する経路によって影響を受け得る。
【0061】
バイオマーカーは、例として示し限定するものではないが、宿主あるいは患者由来の血液、血漿、唾液、血清、尿、脳脊髄液、痰、糞便、細胞および細胞抽出物、または他の体液試料、組織試料もしくは組織生検であることができる任意の生体試料から得ることができる。個体から採取する明確な生体試料は異なり得るが、サンプリングは、好ましくは最小限の侵襲性であり、かつ慣用技術によって容易に行えるものである。
【0062】
表現型の変化の測定は、任意の慣用技術によって実施し得る。体温、呼吸数、脈拍、血圧、または他の生理的パラメータの測定は、臨床観察および測定によって行うことができる。バイオマーカー分子の測定には、たとえば、存在、濃度、発現レベル、またはバイオマーカー分子に関連する任意の他の値を示す測定が含まれ得る。バイオマーカー分子を検出する様式は、典型的には生体試料からこれらのバイオマーカーのプロフィールを生成する方法に依存する。たとえば、2D−PAGEによって分離したバイオマーカーは、当分野で十分に確立されているクマシーブルー染色または銀染色によって検出する。
【0063】
有用なバイオマーカーの単離
有用なバイオマーカーは既に同定されていない、または関係する生理状態に関連しているバイオマーカーを含むことが期待される。本発明の一態様では、有用なバイオマーカーは、生体試料からのバイオマーカープロフィールの成分として同定される。このような同定は、免疫アッセイまたは自動マイクロシーケンシングを含めた当分野の任意の周知の手順によって行い得る。
【0064】
有用なバイオマーカーを同定した後、バイオマーカーを数多くの周知の単離手順のうち1つによって単離し得る。したがって、本発明は、個体の集団から得た参照バイオマーカープロフィールを得ること、敗血症または敗血症の進行における段階の1つの予測または診断に用いる参照バイオマーカープロフィールの特性を同定すること、その特性に対応するバイオマーカーを同定すること、およびバイオマーカーを単離することを含む、敗血症の診断または予測に用いるバイオマーカーを単離する方法を提供する。単離した後、バイオマーカーを用いて、たとえばそれがタンパク質である場合はバイオマーカーに結合する抗体を産生させるために使用するか、核酸である場合は特異的オリゴヌクレオチドプローブを生じさせるために使用し得る。
【0065】
当業者であれば、バイオマーカーの分子構造を決定するために有用な特性をさらに特徴づけることができることを容易に理解されよよう。この方式で生体分子を特徴づける方法は当分野で周知であり、高分解能質量分析、赤外線分光測定、紫外線分光測定および核磁気共鳴が含まれる。核酸バイオマーカーのヌクレオチド配列、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列、ならびに炭水化物バイオマーカーの組成および配列を決定する方法も、当分野で周知である。
【0066】
本発明のSIRS患者への応用
一実施形態では、本明細書中に記載した方法を使用して敗血症を発生する危険性に特にあるSIRS患者をスクリーニングする。SIRS陽性患者から生体試料を採取し、試料中のバイオマーカーのプロフィールを、最終的に敗血症へと進行したSIRS陽性個体由来の参照プロフィールと比較する。患者のバイオマーカープロフィールが、敗血症へと進行したSIRS陽性集団の参照プロフィールに対応しているとする分類は、SIRS陽性患者も同様に敗血症へと進行することの診断指標である。その後、敗血症の進行を制するまたは予防するために治療計画を開始し得る。
【0067】
別の実施形態では、本明細書中に記載した方法を使用して患者がSIRSに罹患しているという臨床上の疑いを確認する。この場合、試料中のバイオマーカーのプロフィールを、SIRSに罹患しているまたはSIRSに罹患していない個体の参照集団と比較する。その後、患者のバイオマーカープロフィールが1つの集団または他の集団に対応しているとする分類を使用して、個体がSIRSに罹患しているまたはSIRSに罹患していないとして診断することができる。
【0068】
実施例
以下の実施例は本発明に包含される実施形態の代表的なものであり、決して本発明に含まれる目的を限定するものではない。
【実施例1】
【0069】
1.1.生体試料の受取および分析
患者ボランティアの2つの集団について参照バイオマーカープロフィールを確立した。第1の集団(「SIRS群」)は、SIRSを発症して、「1日目」に本試験に参加したが、入院中に敗血症へと進行しなかった患者を表す。第2の集団(「敗血症群」)は、同様にSIRSを発症して、1日目に本試験に参加したが、試験に参加後、典型的には少なくとも数日後に敗血症へと進行した患者を表す。各試験群から血液試料を約24時間毎に採取した。敗血症群における敗血症の臨床上の疑いは「0時間」に起こった。「−24時間の時点」および「−48時間の時点」は、敗血症群において敗血症の発症の臨床上の疑いが起こった日のそれぞれ24時間および48時間に採取した試料を表す。すなわち、敗血症群の試料には、試験に参加した日(1日目)、敗血症の臨床上の疑いの48時間前(−48時間の時点)、敗血症の臨床上の疑いの24時間前(−24時間の時点)、および敗血症の発症の臨床上の疑いが起こった日(時間0)に採取したものが含まれる。
【0070】
1.2.生体試料由来のmRNAの分析
当業者に知られている方法を用いて、患者から単離した全血試料を抽出してmRNAを取り出した。適切なRNA単離手順は、たとえば、RNA METHODOLOGIES, A LABORATORY GUIDE FOR ISOLATION AND CHARACTERIZATION、第2版、R.E. Farrell, Jr.編、Academic Press、(1998)、55-104ページに見つかる。RNAqueous(商標)システム(Phenol−Free全RNA単離キット、カタログ番号1912、バージョン9908;Austin, Texas)を用いた使用に記述されているように、フィルターに基づいた全RNA単離手法を使用し得る。RNAの単離および続く操作に使用した手順は、Source Precision Medicineに譲渡されているWO03/040404号にさらに記載されている。
【0071】
単離した後、メッセージ特異的プライマーまたはランダムプライマーを用いて選択されたRNA種を増幅した。特異的プライマーを、Unigene(National Center for Biotechnology Information、National Library of Medicine、Bethesda, Maryland)などの公開データベースから得たデータから設計した。プライマーは、RT−PCRを使用して、当業者に一般に知られている原理を用いて試料中に存在する特異的RNA配列を増幅するように設計した(WO03/040404号、22ページ、24−32行参照)。RNA配列は、ABI9600、9700、または7700サイクラー(Applied Biosystems、Foster City, California)などの恒温または熱サイクラーのいずれかを用いて増幅し得る。その後、増幅したRNAを、TaqMan(商標)システム(PCR試薬キット、プロトコル、パート第402823、改定A(1996)、Applied Biosystems、Foster City, California)に記載のように、たとえば蛍光標識検出プライマーを用いて検出し得る。RNAの検出および定量は当分野で周知の技術によって行い得る(たとえば、WO03/040404号、23ページ、5−13行参照)。
【0072】
患者の血液からRNAを単離し、RNAを精製した後、以下のプロトコルを使用してRNAを増幅し、表1に示した核酸プローブを有する72メンバーの遺伝子発現アレイと反応させた。
【0073】
材料
1.Applied BiosystemsのTaqMan逆転写試薬キット(P/N 808−0234)。キットの構成成分:10×TaqMan RT緩衝液、25mMの塩化マグネシウム、デオキシNTP混合物、ランダムヘキサマー、RNase阻害剤、MultiScribe逆転写酵素(50U/mL)、およびRNase/DNaseを含まない水(AmbionのDEPC処理水(製品番号9915G)または同等物)。
【0074】
方法
2.RNA試料を−80℃の冷凍庫から取り出し、室温で解凍し、すぐに氷上に置いた
3.それぞれのRT反応について以下の逆転写酵素試薬のカクテルを調製した
1回の反応あたり(mL)
10×RT緩衝液 10.0
25mM MgCl 22.0
dNTP 20.0
ランダムヘキサマー 5.0
RNase阻害剤 2.0
逆転写酵素 2.5
18.5
合計: 80.0mL
【0075】
4.1.5mLのマイクロ遠心管中で各RNA試料を全体積20mLとし、80mLのRT反応混合液を加えた。ピペットの吸い出しにより溶液を混合した
5.試料を室温で10分間インキュベートした
6.その後、試料を37℃で1時間インキュベートした
7.最後に、試料を90℃で10分間インキュベートした
8.その後、試料をマイクロ遠心機で短時間遠心した
9.その後、PCRをすぐに行う場合は試料を氷上に置いた。それ以外の場合は、今後の使用のために試料を−20℃で保存した
10.すべてのRT試料で、18S rRNAおよびβアクチンmRNAを対照として用いてPCRの品質対照を行なった。
【0076】
第1鎖cDNAを用いたプライマープローブの使用は上述の通りであった。72メンバーの遺伝子発現アレイに結合した増幅RNAの測定を、以下の手順に従って行なった。
【0077】
材料
1.各目的遺伝子用に20×プライマー/プローブ混合物;18S内在対照用に20×プライマー/プローブ混合物;2×TaqMan Universal PCRマスターミックス;血液試料から抽出したRNAから転写したcDNA;Applied Biosystemsの96ウェルの光学反応プレート;Applied Biosystemsの光学キャップ、または光学的に透明なフィルム;およびApplied BiosystemのPrism7700配列検出機。
【0078】
方法
2.目的遺伝子用のプライマー/プローブ、18S内在対照用のプライマー/プローブ、および2×PCRマスターミックスを含む、各プライマー/プローブ混合物のストックを作成した。以下の例は、1つの遺伝子で、2つの条件を試験する4つ組の試料(2つのプレート)の典型的な設定を例示する
1×(1ウェルあたり)
2×マスターミックス 12.50
20×18S用プライマー/プローブ混合物 1.25
20×目的遺伝子用プライマー/プローブ混合物 1.25
合計 15.00μL
【0079】
3.cDNA95μLを2000μLの水で希釈することによってcDNA標的のストックを作成した。cDNAの量を、Ct値が10〜18、典型的には12〜13となるように調節した
3.15μLのプライマー/プローブ混合物をピペットでApplied Biosystemsの96ウェルの光学反応プレートの適切なウェルに入れた
4.cDNAストック溶液10μLをピペットでApplied Biosystemsの96ウェルの光学反応プレートの各ウェルに入れた
5.プレートをApplied Biosystemsの光学キャップ、または光学的に透明なフィルムで密閉した
6.その後、AB Prism7700配列検出機を用いてプレートを分析した。
【0080】
TaqMan方式を用いる場合、蛍光の閾値レベルを生じさせるのに必要な増幅サイクルの数により、試料中に存在していた各遺伝子に対応するmRNAの量の半定量的な推定値がもたらされる。この方式で実施した場合、測定値の平均変動係数(SD/平均×100)は典型的に5%未満であり、2%未満であり得る。リアルタイムPCR増幅を定量する方法は、たとえばHirayama他、Blood、92:46-52、(1998)に記載されている。定量的リアルタイム増幅のさらなる態様は、たとえばWO03/04040号、20−23ページに記載されており、このような方法の変形は当分野で周知である。
【0081】
1.3.データ分析および結果
各試料について、発現アレイ上の72個の異なるcDNAプローブと結合したmRNAの濃度を測定した。この例では、各mRNAがバイオマーカーであり、試料中のそれぞれの濃度がそのバイオマーカーの特徴となることができる。バイオマーカーの濃度を、アレイの様々なcDNAプローブと特異的な二重鎖を形成するその能力によって決定した。アレイのcDNAプローブは、表1に示すように、様々なサイトカイン、ケモカインまたは成長因子、細胞マーカー、プロテイナーゼまたはプロテイナーゼインヒビター、受容体、転写調節因子、および酵素を含めたタンパク質をコードする遺伝子に対応する。星印で示したプローブは、WO03/040404号、46−52ページに記載のアレイ上に存在する。
【表1】

【0082】

【0083】
1.3.1.相互検証
様々な手法を使用して、個体をSIRSまたは敗血症群に分類するための判断基準の情報を与えることができる特性を同定でき、これらを以下に記載する。選択の偏りは、判断基準が比較的少数のバイオマーカープロフィールからの多数の特性に基づいている場合、判断基準の情報を与える特性の同定に影響を与えることがある(Ambroise他、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA、99:6562-66、(2002)参照)。選択の偏りは、特性を選択するためにデータを使用し、その後、選択プロセスにおける変動を考慮せずに選択された特性を条件として性能を推測する場合に起こり得る。この結果は、分類精度の過大評価である。選択の偏りを補わなければ、判断基準がランダム入力パラメータに基づいている場合でも分類精度は100%に至り得る(同書)。選択の偏りは、性能の推定プロセスに特性の選択、すなわちその性能の推定プロセスが10倍相互検証であるのか、ブートストラップ手順の一種であるのかを含めることによって回避し得る(たとえば、本明細書中に参考として組み込まれているHastie他、上記、7.10−7.11参照)。
【0084】
本発明の一実施形態では、モデルの性能を10倍相互検証によって測定する。10倍相互検証は、データを10個の排他的な群にランダムに分けることによって進行する。各群を順次除外し、モデルを残りの9個の群に当てはめる。当てはめたモデルを除外した群に当てはめ、予測クラスの確率が生じる。単に予測クラスを作成することによって、予測クラスの確率を実際のクラスのメンバーシップと比較することができる。たとえば、敗血症の確率が0.5より高ければ、予測クラスは敗血症である。
【0085】
逸脱度は、確率を実際の結果と比較する手段である。本明細書中で使用する「逸脱度」とは、以下のように定義される:
【数1】

【0086】
[式中、Pは指定したクラスの確率である。]
逸脱度は、クラスの確率が実際のクラスに対して高い場合に最少となる。2つのモデルが所定のデータに対して同じ予測を生じることができるが、好ましいモデルの予測用の逸脱度はより小さい。10倍相互検証の10回の繰返しのそれぞれにおいて、その回でモデルの当てはめから排除した症例について予測逸脱度を計算する。この結果は、10個の偏りのない逸脱度である。典型的には、これら10個の逸脱度を合計して、全データセットのモデル性能(すなわち精度)の全体的な要約を作成する。実際に10個の異なるモデルを当てはめたので、相互検証では特定のモデルの性能を証明するわけではない。むしろ、10個のモデルは一般的なモデリングプロセスによって作成され、相互検証によってこのプロセスの性能は証明された。このプロセスにより生じる11番目のモデルは、最初の10個と同様の予測用の性能を有する可能性が高い。典型的には、10倍相互検証を使用することにより100%未満のモデル性能が生じるが、10倍相互検証の後に得られる性能は、試験セット以外の試料から得たバイオマーカープロフィールに当てはめた場合に、生物学的に意味のある判断基準の予測用の精度をより綿密に反映することが期待される。
【0087】
1.3.2.分類木分析
このデータを分析する1つの手法は、大きなデータセットにおいてパターンおよび関係性を検索する分類木アルゴリズムを使用することである。「分類木」とは、患者をクラスの1つに正確に配置するように設計された一連の質問を用いて特定の患者を特定のクラス(たとえば敗血症またはSIRS)に分類するための再帰的区分である。それぞれの質問は、患者の状態が所定の予測の判断材料を満たすかどうかを質問し、それぞれの質問を、患者が分類されるクラスが決定されるまでユーザを分類木に沿って導くために用いる。本明細書中で使用する「予測の判断材料(predictor)」とは、ある特性の値の範囲である。本実施例では、特性は核酸バイオマーカーの濃度である。核酸バイオマーカーは表2〜10のうち任意の1つに記載のものから選択され得るが、当業者は、他の核酸バイオマーカーが本発明に有用であり得ることを理解されよう。「状態」とは、個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定する特性の単一の特異的な値である。本実施例では、「クラス名」は敗血症およびSIRSである。したがって、分類木では、ユーザは、個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定した第1の核酸バイオマーカーの濃度が第1の特性の予測用の範囲の所定の範囲内にあるかどうかを最初に質問する。最初の質問の答えは、個体がSIRSまたは敗血症に罹患しているかどうかを判定する方向を決定し得る。他方で、最初の質問の答えは、ユーザが、個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定した第2の核酸バイオマーカーの濃度が第2の特性の予測用の範囲の所定の範囲内にあるかどうかを質問することを、さらに指示するかもしれない。ここでも、第2の質問の答えは、方向を決定し得るか、または患者の分類が最終的に決定されるまで分類木に沿ってユーザを導き得る。
【0088】
1.3.3.多重加法回帰木
多重加法回帰木(MART)を使用する自動化された順応性のあるモデリング技術を用いて、特性のセットを2つの集団うち1つに属するとして分類した。MARTモデルでは、すべての予測に適用される定数を指定する開始オフセットを使用し、次いで一連の回帰木を使用する。その当てはめは、それぞれの木の決定点の数、当てはめる木の数、および特定の木がどの程度根本的にMARTモデルに影響を与えるかを指定する「粒状度定数」によって指定される。それぞれの繰返しで、回帰木を当てはめて、当てはめ基準の最も急な下降の方向を推定する。その方向に粒状度定数によって指定された長さを有するステップをとる。これにより、MARTモデルは開始オフセットおよび回帰木によって提供されたステップからなる。観察値と予測値との差を再度計算し、サイクルが再度進み、予測の漸進的な改良(refinement)がもたらされる。このプロセスは、事前に決定されたサイクル数の間、または何らかの停止基準が始動されるまで続く。
【0089】
それぞれの木における分岐の数は、特に有意な当てはめパラメータである。それぞれの木が1つの分岐しか有さない場合は、モデルは1つの特性しか見ず、2つの予測の判断材料を組み合わせる能力を有さない。それぞれの木が2つの分岐を有する場合は、モデルは特性間の2方向の相互作用に適応することができる。3つの木では、モデルは3方向の相互作用に適応することができ、以降同様である。
【0090】
特性および既知のクラスの状態(たとえば敗血症またはSIRS)を用いて、データセットについて予測するクラスの状態における特性セットの値を決定した。MARTは、分類判断基準に対する個々の特性の寄与または重要性の尺度を提供する。具体的には、所定の木に分岐での選択において単一の特性が判断基準に寄与する度合いを測定して、最終的な判断基準の判定におけるその重要性に応じて特性の順序を提供することができる。同じデータセットでMART分析を繰り返すことにより、特に判断基準の確立において重要性がより低い特性に関して僅かに異なる特性順序が得られうる。したがって、本発明において有用な、予測に用いる特性のセットおよびその対応するバイオマーカーは、本明細書中に記載したものから僅かに異なり得る。
【0091】
MART技術の1つの実装は、R統計的プログラミング環境のモジュール、すなわち「パッケージ」中に見つかる(Venables他、Modern Applied Statistics with S、第4版、(Springer、2002);www.r-project.org参照)。この文献中に報告されている結果は、Rのバージョン1.7.0および1.7.1を用いて計算されている。「gbm」と呼ばれるGreg Ridgeway博士によって書かれたMARTを実施するモジュールは、無料でダウンロード可能である(www.r-project.org参照)。MARTアルゴリズムは10倍相互検証に影響を受けやすい。粒状度パラメータを0.05に設定し、gbmパッケージの内部停止基準は、それぞれの印した繰返しでデータ数の20%を除外することに基づいていた。相互作用の度合いは1に設定したので、特性間の相互作用は考慮されなかった。Gbmパッケージは各特性の相対的な重要性をパーセンテージで推定し、バイオマーカープロフィールのすべての特性で累積的に100%に等しくなる。合わせて全重要性の少なくとも90%を占める最も高い重要性の特性が、潜在的に予測値を有するものとして報告される。すべてのMARTモデルの当てはめにおける停止基準がモデルの当てはめおよび特性の選択における確率的な構成要素に寄与することに注目されたい。したがって、同じデータに基づいて行う複数のMARTモデリングで、僅かに、または場合によっては完全に異なる特性セットを選択し得る。このような異なるセットは同じ予測用の情報を伝えるので、すべてのセットが本発明において有用である。MARTモデルを十分な回数当てはめることによって、バイオマーカープロフィール内の予測に用いる特性のすべての可能なセットが得られることが期待される。したがって、予測の判断材料の開示したセットは、個体を集団へと分類するために使用することができる特性セットの代表的なものでしかない。
【0092】
様々な試料から得た核酸バイオマーカープロフィールからのデータを、上述のようにMARTを用いて分析した。この分析では、0時間の時点の敗血症集団は23人の患者からなり、SIRS集団は24人の患者からなっていた。一方、−24時間の時点および−48時間の時点の集団は、それぞれ24人および21人の敗血症およびSIRSに罹患した個体からなっていた。表1に記載の72個のバイオマーカーすべてに対応する特性を分析した。
【0093】
0時間の時点の集団では、当てはめたモデルは23個の木を含んでおり、モデルは特性間の相互作用を許容しなかった。10倍相互検証を用いて、モデルは24人のSIRS患者のうち19人および23人の敗血症患者のうち15人を正しく分類し、モデルの感度65%および特異性79%が得られた。表2に、モデルによって決定された重要性の順序に従ってバイオマーカーを示す。重要性が0の特性はすべて除外した。「−1」の符号で示したマーカーは、敗血症が進行するにつれて敗血症陽性集団において漸進的に高いレベルで発現され、一方、「1」の符号で示したバイオマーカーは漸進的に低いレベルで発現された。
【表2】

【0094】
−24時間の時点の集団では、当てはめたモデルは12個の木を含んでおり、モデルは特性間の相互作用を許容しなかった。10倍相互検証を用いて、モデルは21人のSIRS患者中15人および24人の敗血症患者中17人を正しく分類し、モデルの感度71%および特異性71%が得られた。表3に、モデルによって決定された重要性の順序に従ってバイオマーカーを示す。
【表3】

【0095】
−48時間の時点の集団では、当てはめたモデルは9個の木を含んでおり、モデルは特性間の相互作用を許容しなかった。10倍相互検証を用いて、モデルは21人中8人のSIRS患者および24人中20人の敗血症患者を正しく分類し、モデルの感度83%、特異性38%、および精度62%が得られた。表4に、モデルによって決定された重要性の順序に従ってバイオマーカーを示す。
【表4】

【0096】
1.3.4.ロジスティック回帰分析
ロジスティック回帰は、上述の分析からのデータストリームを分析するさらに別の手段を提供する。「シグナル強度」は、特定の核酸バイオマーカーの濃度に等しい。所定の核酸バイオマーカーのシグナルが存在しければ、シグナル強度「0」が割り当てられる。その後、所定の核酸バイオマーカーのシグナル強度の標準偏差(SD)から合わせたSIRS集団および敗血症集団のプロフィールから得られる。SIRS集団と敗血症集団との間にシグナル強度の差がない場合(すなわちSD=0)、シグナル強度をそれ以上考慮しない。回帰分析の前に、当分野で周知の方法を用いてシグナル強度をスケーリングする。スケーリングアルゴリズムは、Hastie他、上記、第11章に概説されている。
【0097】
1.3.5.ウィルコクソンの符号付検定の分析
さらに別の方法では、ウィルコクソンの符号付検定などのノンパラメトリック試験を使用して目的の個々のバイオマーカーを同定することができる。バイオマーカープロフィールの特性は、そのバイオマーカーを個体が特定の参照集団に属すると分類するために使用することができる確実性の度合いを示す「p値」を割り当てられる。一般に、予測値を有するp値は約0.05未満である。低いp値を有するバイオマーカーは、それ自体で個体の分類に使用することができる。あるいは、個体を分類するために2つ以上のバイオマーカーの組合せを使用することができ、この場合、組合せはバイオマーカーの相対p値に基づいて選択される。一般に、所定のバイオマーカーの組合せには、低いp値を有するバイオマーカーが好ましい。個体をこの方式で分類するために少なくとも3、4、5、6、10、20または30個以上のバイオマーカーの組合せも使用することができる。当業者は、任意の所定のバイオマーカーの相対p値は、参照集団の大きさに応じて変動し得ることを理解されよう。
【0098】
ウィルコクソンの符号付検定を用いて、表1に記載のプローブを有する発現アレイと特異的な二重鎖を形成した(すなわちハイブリダイズした)バイオマーカーに、所定の時間に敗血症集団とSIRS集団とを比較することによってp値を割り当てた。すなわち、0時間の時点、−24時間の時点、および−48時間の時点に採取した生体試料から得たバイオマーカープロフィールの特性にp値を割り当てた。これらのp値をそれぞれ表5、6および7に記載した。この分析では、敗血症およびSIRSの集団は、時間0(表5)ではそれぞれ23人および24人の患者からなっており、敗血症およびSIRSの−24時間の時点および−48時間の時点(表6および7)の集団は、それぞれ24人および21人の患者からなっていた。
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
ノンパラメトリック検定(たとえばウィルコクソンの符号付検定)を代わりに用いて、敗血症に向かって進行している集団における特性の漸進的な出現または消失に基づいた特性のp値を見出すことができる。この試験方式では、敗血症およびSIRS群の試験に参加した時点(1日目の試料)からのデータを用いて、まず所定の特性の基底値を測定する。その後、敗血症およびSIRSの試料中の特性の強度を、特性の強度がその基底値から増加したか減少したかを判定するために、たとえば−48時間の時点の試料と比較する。最後に、敗血症集団対SIRS集団における特性の強度の基底からの差にp値を割り当てる。表8〜10に記載した以下のp値は、これらの差を基底からp値で測定した際に得られたものである。
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
【表10】

【0104】
特定の代表的な実施形態および詳細を参照して本発明を完全に記載したが、本明細書中に記載した本発明の精神または範囲から逸脱せずに変更および改変を行うことができることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】SIRSから敗血症への進行を示す図である。敗血症の状態は少なくとも3つの段階からなり、敗血症患者は重篤な敗血症から敗血症性ショックから多臓器機能障害へと進行する。
【図2】敗血症とSIRSとの関係を示す図である。ベン図に示す様々なセットは、示した状態に罹患している個体の集団に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)単一時点で前記個体から採取した第1の生体試料から第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が少なくとも約60%の精度で判定される方法。
【請求項2】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)前記個体の第1の生体試料から第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを、参照集団から得た参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって、前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される方法。
【請求項3】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)前記個体の第1の生体試料から第1のバイオマーカープロフィールを得ること、ならびに
(b)前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを、正常な参照集団、SIRS陽性参照集団、感染した/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の進行の一段階にある参照集団、約0〜36時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、約36〜60時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、および約60〜84時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群より選択された、参照集団の生体試料から得た参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって、前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される方法。
【請求項4】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)(i)前記個体の第1の生体試料から得られた第1のバイオマーカープロフィールと(ii)参照集団の生体試料から得られたバイオマーカープロフィールとの少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの間の測定可能な特徴を比較すること、および
(b)前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類すること
を含み、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される方法。
【請求項5】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)前記個体の第1の生体試料から作成した第1のバイオマーカープロフィールにおいて、宿主反応核酸バイオマーカーのセットから少なくとも2つの特性を選択すること、および
(b)参照集団の生体試料から作成したバイオマーカープロフィールにおいて、同じ宿主反応核酸バイオマーカーのセットの前記少なくとも2つの特性を比較すること
を含み、前記比較は、少なくとも約60%の精度で前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される方法。
【請求項6】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、
(a)前記個体の第1の生体試料から得た第1のバイオマーカープロフィールに含まれる少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量または存在量の変化を判定すること、および
(b)前記存在量または前記存在量の変化を、参照集団の生体試料に含まれる前記少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量または存在量の変化と比較すること
を含み、前記比較によって、前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される方法。
【請求項7】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、(i)敗血症に罹患した参照集団および(ii)SIRSに罹患している参照集団の生体試料に含まれる少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量の変化と比較した、前記個体の第1の生体試料から得られた第1のバイオマーカープロフィールに含まれる前記少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量の変化を判定することを含み、前記少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーが表2〜10のうち任意の1つに記載の宿主反応核酸の群から選択されるものである、上記方法。
【請求項8】
個体において敗血症の状態を判定する方法であって、(i)敗血症に罹患した参照集団および(ii)SIRSに罹患した参照集団の生体試料に含まれる少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量と比較した、前記個体の第1の生体試料から得られた第1のバイオマーカープロフィールに含まれる前記少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーの存在量を判定することを含み、前記少なくとも2つの宿主反応核酸バイオマーカーが表2〜10のうち任意の1つに記載の宿主反応核酸の群から選択されるものである、上記方法。
【請求項9】
前記少なくとも2つの核酸バイオマーカーが表2〜10のうち任意の1つに記載の核酸の群から選択される、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生体試料が血液、脳脊髄液、細胞、細胞抽出物、組織試料、および組織生検からなる群より選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(a)前記個体から採取した第2の生体試料から第2のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体の第2のバイオマーカープロフィールを前記参照バイオマーカープロフィールと比較すること
をさらに含み、前記個体の第2のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記第2の比較は、前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記第2の比較によって前記個体における敗血症の状態が判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法を繰り返す毎に採取した別々の生体試料から、前記個体からの別々のバイオマーカープロフィールを得る、前記方法を少なくとも1回繰り返すことをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記個体の前記生体試料を約24時間の間隔で採取する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記個体における前記敗血症の状態の判定が、前記個体における敗血症の発症を予測することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記敗血症の発症が慣用技術を用いた前記個体における敗血症の判定の少なくとも約24時間前に予想される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記敗血症の発症が慣用技術を用いた前記個体における敗血症の判定の少なくとも約48時間前に予想される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記敗血症の発症が慣用技術を用いた前記個体における敗血症の判定の少なくとも約96時間前に予想される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記個体における前記敗血症の状態の判定が、前記個体において敗血症の進行を判定することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記個体における前記敗血症の状態の判定が、前記個体において敗血症を診断することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記比較が判断基準を当てはめることを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記判断基準のを当てはめがデータ分析アルゴリズムを使用することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記データ分析アルゴリズムが分類木の使用を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記データ分析アルゴリズムがノンパラメトリックである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記データ分析アルゴリズムにより特性の値の分布の差が検出される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ノンパラメトリックアルゴリズムが、ウィルコクソンの符号付検定を使用することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記データ分析アルゴリズムが、多重加法回帰木を使用することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記データ分析アルゴリズムがロジスティック回帰である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記データ分析アルゴリズムが少なくとも2個の入力パラメータを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記データ分析アルゴリズムが少なくとも5個の入力パラメータを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記データ分析アルゴリズムが少なくとも10個の入力パラメータを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記データ分析アルゴリズムが少なくとも20個の入力パラメータを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記データ分析アルゴリズムが表2〜10のうち任意の1つに記載の特性の少なくとも2つを入力パラメータとして使用する、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記判断基準により前記個体における敗血症の状態が少なくとも約60%の精度で判定される、請求項20に記載の方法。
【請求項34】
前記判断基準により前記個体における敗血症の状態が少なくとも約70%の精度で判定される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記判断基準により前記個体における敗血症の状態が少なくとも約80%の精度で判定される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記判断基準により前記個体における敗血症の状態が少なくとも約90%の精度で判定される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記個体における敗血症の状態の判定が、慣用技術を用いて前記個体が敗血症に罹患していると判定される臨床上の疑いの少なくとも約48時間前に行われる、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記判断基準を10倍相互検証に供した、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記参照バイオマーカープロフィールを単一個体を含む集団から得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記参照バイオマーカープロフィールを少なくとも2の個体を含む集団から得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記参照バイオマーカープロフィールを少なくとも20の個体を含む集団から得る、請求項40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記参照バイオマーカープロフィールを、正常な参照集団、SIRS陽性参照集団、感染した/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の進行の一段階にある参照集団、約0〜36時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、約36〜60時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、および約60〜84時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群より選択された集団から得る、請求項1から2および4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記個体の第2のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することをさらに含み、前記第2のバイオマーカープロフィールを前記個体から採取した第2の生体試料から得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記個体の第2の生体試料を、前記個体から第1の生体試料を採取した約24時間後に採取する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
第2のバイオマーカープロフィールを第1のバイオマーカープロフィールの場合とは異なる参照バイオマーカープロフィールと比較する、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが少なくとも1つのmRNAの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得る前に前記生体試料を分画する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
少なくとも1つの分離方法を使用して前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
少なくとも2つの分離方法を使用して前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得る、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記少なくとも1つの分離方法が、化学抽出分離、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび参照バイオマーカープロフィールが、感染性因子のタンパク質成分をコードしている核酸の測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記成分がウイルスコートタンパク質である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、感染症に応答した免疫系の状態についての情報を与えるタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、ホルモン、成長因子、転写因子、細胞表面マーカー、および細胞由来の可溶性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、菌血症に関連するタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、マクロファージ溶解に関連するタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、敗血症経路に関連するタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが、組織低酸素症、多臓器機能障害、および代謝性アシドーシスからなる群より選択された生理的状態に関連するタンパク質をコードしている核酸バイオマーカーの測定可能な性状を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
個体において敗血症の発症を予測する方法であって、
(a)表2〜10のうち任意の1つに記載の宿主反応核酸バイオマーカーの群から選択された少なくとも2つのバイオマーカーを含むバイオマーカープロフィール中の少なくとも2つの特性の状態を測定すること、および
(b)前記測定した前記少なくとも2つの特性の状態を、参照集団中の同じ少なくとも2つの特性の対応する状態の値と比較すること
を含み、1回のこのような比較で、前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体における敗血症の発症が予測される方法。
【請求項60】
前記敗血症の発症の予測が、慣用技術によって敗血症の発症が確認される場合の敗血症の発症の約12〜36時間前に行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記敗血症の発症の予測が、慣用技術によって敗血症の発症が確認される場合の敗血症の発症の約36〜60時間前に行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記敗血症の発症の予測が、慣用技術によって敗血症の発症が確認される場合の敗血症の発症の約60〜84時間前に行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
個体においてSIRSを診断する方法であって、
(a)前記個体から採取した第1の生体試料から第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団から得た参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、1回のこのような比較で、前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体におけるSIRSが診断される方法。
【請求項64】
個体においてSIRSを診断する方法であって、
(a)前記個体から単一時点でのバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記個体のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記バイオマーカープロフィールの比較によって前記個体におけるSIRSを少なくとも約60%の精度で診断することができる方法。
【請求項65】
個体においてSIRSを診断する方法であって、(i)前記個体から単一時点に採取した生体試料から作成した第1のバイオマーカープロフィールを、(ii)参照集団から作成した参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較が前記個体においてSIRSの状態を判定する判断基準を当てはめることを含む方法。
【請求項66】
個体においてSIRSを診断する方法であって、
(a)前記個体から採取した第1の生体試料から第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団の生体試料から得た参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、前記参照集団が正常な参照集団、SIRS陽性参照集団、および感染した/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の進行の一段階にある参照集団、約0〜36時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、約36〜60時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、ならびに約60〜84時間後に慣用技術によって敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群より選択され、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、1回のこのような比較で、前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記比較によって前記個体におけるSIRSが診断される方法。
【請求項67】
個体においてSIRSを診断する方法であって、(i)前記個体の第1の生体試料から得られた第1のバイオマーカープロフィールと(ii)参照集団の生体試料から得たバイオマーカープロフィールとの間で少なくとも1つのバイオマーカーの測定可能な特徴を比較することを含み、前記比較によって前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類され、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって前記個体におけるSIRSが診断される方法。
【請求項68】
個体においてSIRSを診断する方法であって、
(a)個体の第1の生体試料から作成したバイオマーカープロフィール中のバイオマーカーのセットから少なくとも2つの特性を選択すること、および
(b)前記特性を参照集団の生体試料から作成したバイオマーカープロフィール中の同じバイオマーカーのセットと比較すること
を含み、1回のこのような比較で、少なくとも約60%の精度で前記個体が前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記個体のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって前記個体におけるSIRSが診断される方法。
【請求項69】
個体においてSIRSを診断する方法であって、
(a)個体の第1の生体試料に含まれる少なくとも2つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化を判定すること、および
(b)前記個体の生体試料中の前記バイオマーカーの前記存在量または存在量の変化を、参照集団の生体試料中のこれらのバイオマーカーの存在量または存在量の変化と比較すること
を含み、前記比較によって、前記個体を前記参照集団に属するまたは属さないものとして分類することができ、前記個体のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールが宿主反応核酸の測定可能な特徴である特性を含み、前記比較によって前記個体におけるSIRSが診断される方法。
【請求項70】
個体においてSIRSを診断する方法であって、正常な参照集団の生体試料から得た前記少なくとも1つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化と比較して、前記個体の生体試料から得た少なくとも1つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化を判定することを含み、前記バイオマーカーが表2〜10のうち任意の1つに記載の宿主反応核酸からなる群より選択されるものである、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−506069(P2006−506069A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552104(P2004−552104)
【出願日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/036021
【国際公開番号】WO2004/044556
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505172813)ベクトン,ディッキンソン アンド カンパニー (5)
【Fターム(参考)】