説明

バイオマーカー

【課題】本発明は、炎症疾患に関連するバイオマーカーの同定、並びに測定方法等の提供を課題とする。
【解決手段】本発明者は、コンドロイチン硫酸の過剰硫酸化を誘導する酵素(例えば、GalNAc4S-6ST等)の量、または、該酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸の量の変化を測定することによって、炎症疾患の早期発見及び早期予防もしくは治療効果を効果的に判断できることを見出した。即ち、上述の物質が炎症疾患のためのバイオマーカーとして利用可能であることを見出すことに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炎症疾患の診断・検査等に利用可能なバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多種多様なバイオマーカーの開発が進められている中に腎臓の機能を評価する項目として尿中に含まれるアルブミンや、肝機能を評価するため血清中におけるGPT, GOT等が検査項目として頻繁にあげられている(非特許文献1)。しかし、これらの変化はもう既に症状が進行し、臓器機能の低下により生じる結果を評価対象としているため、まだ早期発見における方法としては十分なものとはいえない。
【0003】
なお、本発明に関する先行技術文献を以下に示す。
【0004】
【非特許文献1】Sharpe PC, Ann Clin Biochem,38, 652-664, (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非臨床実験レベルで疾患に関する治療因子の同定が盛んになり、その因子に着目した治療方法が構築されている。これに関連して、尿や血清中に含まれるタンパク質をはじめとする生体内における物質の変化を定量的に測定し、その変化の指標となる物質(バイオマーカー)の開発が行われている。如何にして病気の早期発見を可能にでき、病気の発症を阻止できるかという観点がこのバイオマーカー開発の大きな着目点になると考えられる。本発明は、炎症疾患に関連するバイオマーカーの同定、並びに測定方法等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の問題を解決し得る新しい評価指標の開発が必要であり、本発明者は既存の指標とは異なる方法について鋭意研究を行った。
【0007】
本発明者は、コンドロイチン硫酸の過剰硫酸化を誘導する酵素(例えば、GalNAc4S-6ST等)の量、または、該酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸の量の変化を測定することによって、炎症疾患の早期発見及び早期予防もしくは治療効果を効果的に判断できることを見出した。
【0008】
例えば、GalNAc4S−6ST、C4ST、C6ST、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、またはコンドロイチン硫酸E等の物質が炎症疾患の診断・検査等の測定の指標となるバイオマーカーとして利用可能であることを初めて見出すことに成功した。
【0009】
本発明者は、炎症疾患の診断、および検査等に利用可能なバイオマーカーを新たに同定することに成功し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、炎症疾患に関連するバイオマーカーの同定、並びに該バイオマーカーを利用した各種方法に関し、より具体的には、
〔1〕 コンドロイチン硫酸を構成するGalNAcの4位または6位の硫酸基転移酵素、または該酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸を含んで成る、炎症疾患マーカー、
〔2〕 前記硫酸基転移酵素がGalNAc4S−6ST、C4ST、またはC6STであり、前記硫酸化されたコンドロイチン硫酸がコンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、またはコンドロイチン硫酸Eである、〔1〕に記載の炎症疾患マーカー、
〔3〕 炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用である、〔1〕または〔2〕に記載のマーカー、
〔4〕 前記炎症疾患が、組織の線維化に起因する疾患である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のマーカー、
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のマーカーを成分とする、研究用試薬、
〔6〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のマーカーに対して結合活性を有する物質を含む、炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用試薬、
〔7〕 前記物質が抗GalNAc4S−6ST抗体である、〔6〕に記載の試薬、
〔8〕 〔1〕または〔2〕に記載のマーカーを検出マーカーとして用いることを特徴とする、炎症疾患の検査方法、
〔9〕 以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の進行度を判定する方法、
(a)間隔をおいて個体から採取された被検試料について、〔1〕または〔2〕に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)前記マーカーの量が増大している場合に、疾患が進行しているものと判定する工程
〔10〕 以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の炎症疾患治療効果を判定する方法、
(a)被検薬物の投与前後における個体から採取された被検試料について、〔1〕または〔2〕に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)投与後における前記マーカーの量が減少している場合に、被検薬物は治療効果を有するものと判定する工程
〔11〕 以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の検査方法、
(a)被検者から分離された試料について、〔1〕または〔2〕に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)健常者から分離された試料における量と比較して、前記マーカーの量が増大している場合に、炎症疾患に罹患しているものと判定する工程
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバイオマーカーであるGalNAc4S-6STは、細胞内のゴルジ体内にTransmembrane typeIIとして局在しており、主にコンドロイチン硫酸タイプA(コンドロイチン硫酸におけるGalNAc residueの炭素4位に硫酸化されたもの)を過剰硫酸化してコンドロイチン硫酸タイプEに転換する働きをする。しかし、この酵素はまだ特定されていない切断酵素により親水性部位にて切断され、血清中でも存在することが既に確認されている(Inoue, H. et al. (1986) J. Biol. Chem. 261, 4470 - 4475)。そこで、本発明は未治療群;NASHと肝硬変と対照群におけるGalNAc4S-6ST量を測定し、比較検討することで血清中に増大するGalNAc4S-6ST量を見いだすことができた。図1で示す所見は、NASH群と肝硬変群の症状の進行に対して増大するGalNAc4S-6ST量を示したものである。
【0012】
また、肝硬変マウスモデルに対して本発明者が考案している治療法にて治療した群における血清を測定した結果、増大していた血清中のGalNAc4S-6ST量が低下することを見いだすことができた。このことは、血清中のGalNAc4S-6ST量を測定するだけで治療効果を推測することができる簡易な方法としても提供できる。図2には肝硬変マウスモデルの治療後におけるGalNAc4S-6ST量を定量化した所見を示す。治療法としてはC6ST-1、C6ST-2におけるカクテルsiRNA投与によるものである。
【0013】
上述のように、GalNAc4S-6STは炎症疾患のためのバイオマーカーとして利用可能であることが見出された。
【0014】
本発明の一例としては、未治療群、治療群の血液から血清を分離して、その血清を特殊加工してあるプレートに接着させ、本発明者が開発したGalNAc4S-6STのモノクローナル抗体を用いてプレートに残存するGalNAc4S-6STを定量し、対照群におけるGalNAc4S-6ST量と比較検討することによって、効果的な早期発見及び早期予防、また治療効果の予測を行うことができる。
【0015】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、炎症疾患の診断、および検査等に利用可能なバイオマーカー(本明細書において「本発明のマーカー」と記載する場合あり)を提供する。
【0016】
本発明のマーカーとしては、好ましくは、コンドロイチン硫酸を構成するN-アセチルガラクトサミン(N-acetylgalactosamine;GalNAc)を基質とする硫酸基転移酵素が挙げられる。GalNAcとは、ヘキソサミンの一種であるガラクトサミンのN-アセチル体である。また、N-アセチルガラクトサミンは、1〜6位の部位が化学修飾を受けることが知られている。
【0017】
該酵素としてはGalNAcの4位または6位に硫酸基を転移する活性を有する酵素であれば特に制限されず、4位と6位の双方の硫酸基の転移活性を有する酵素も、本発明における上記硫酸基転移酵素に含まれる。例えば、以下の(a)〜(i)のいずれかに記載の酵素を挙げることができる。
(a) GalNAc4ST-1: N-acetylgalactosamine 4-sulfotransferase-1
別名CHST8:Carbohydrate (N-acetylgalactosamine 4-O) sulfotransferase 8
(b) GalNAc4ST-2
別名CHST9:Carbohydrate (N-acetylgalactosamine 4-O) sulfotransferase 9
(c) C4ST-1: chondroitin-4-O-sulfotransferase-1
別名CHST11:Carbohydrate (chondroitin 4) sulfotransferase 11
(d) C4ST-2
別名CHST12
(e) C4ST-3
別名CHST13
(f) C6ST-1: chondroitin-6-O-sulfotransferase-1
別名CHST3: Carbohydrate (chondroitin 6) sulfotransferase 3
(g) C6ST-2: chondroitin-6-O-sulfotransferase-2
別名CHST7: Carbohydrate (chondroitin 6) sulfotransferase 7
(h) GalNAc4S-6ST: N-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-0 sulfotransferase
(i) D4ST-1:dermatan 4 sulfotransferase 1
【0018】
本発明における硫酸基転移酵素のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列をコードするDNA配列についての情報は、例えば、公共の遺伝子データベースを利用して適宜取得することができる。例えば、本発明のマーカーとして利用可能な酵素の公共遺伝子データベースGenbankにおけるアクセッション番号、塩基配列、アミノ酸配列を以下に例示する。
【0019】
GalNAc4ST-1(アクセッション番号NM_175140、塩基配列の配列番号:1、アミノ酸配列の配列番号:2)
GalNAc4ST-2(アクセッション番号NM_199055、塩基配列の配列番号:3、アミノ酸配列の配列番号:4)
C4ST-1(アクセッション番号NM_021439、塩基配列の配列番号:5、アミノ酸配列の配列番号:6)
C4ST-2(アクセッション番号NM_021528、塩基配列の配列番号:7、アミノ酸配列の配列番号:8)
C4ST-3(アクセッション番号XM_355798、塩基配列の配列番号:9、アミノ酸配列の配列番号:10)
D4ST(アクセッション番号NM_028117、塩基配列の配列番号:11、アミノ酸配列の配列番号:12)
C6ST-1(アクセッション番号NM_016803、塩基配列の配列番号:13、アミノ酸配列の配列番号:14)
C6ST-2(アクセッション番号AB046929、塩基配列の配列番号:15、アミノ酸配列の配列番号:16)
GalNAc4S-6ST(アクセッション番号NM_015892、塩基配列の配列番号:17、アミノ酸配列の配列番号:18)
【0020】
例えば、ヒト以外の生物については、炎症疾患のマーカーとして、上記の酵素に相当する該生物のホモログタンパク質を適宜利用することができる。該ホモログとして、例えば、配列表に記載された配列と高い相同性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有し、かつ、上記タンパク質が有する機能(例えば、硫酸基転移活性等)を持つタンパク質は、本発明のマーカーとして利用可能である。上記タンパク質とは、例えば、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、通常変化するアミノ酸数が30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内である。
【0021】
本発明における上記遺伝子には、例えば、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性の遺伝子(ホモログ等)が含まれる。
【0022】
また、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17のいずれかに記載のDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、それぞれ配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17のいずれかに記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、それぞれ配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。
【0023】
当業者は、上記の高い相同性を持つタンパク質から、上記のタンパク質に機能的に同等なタンパク質を、N-アセチルガラクトサミンの4位または6位の硫酸化転移活性の有無を指標として適宜選択し、本発明のマーカーとして利用することができる。
【0024】
また、本発明のマーカーとしては、特に以下の酵素であることが好ましい。
・GalNAc4S-6ST(N-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-0 sulfotransferase)
GalNAc4S-6STは、上皮系細胞内のゴルジ体内にTransmembrane typeIIとして局在しており、主にコンドロイチン硫酸タイプA(コンドロイチン硫酸におけるGalNAc residueの炭素4位に硫酸化されたもの)を過剰硫酸化してコンドロイチン硫酸タイプEに転換する働きをする。しかし、この酵素はまだ特定されていない切断酵素により親水性部位にて切断され、血清中でも存在することが既に確認されている(Inoue, H. et al. (1986) J. Biol. Chem. 261, 4470 - 4475)。
【0025】
・C4ST(chondroitin 4-sulfotransferase)
コンドロイチンにおけるN-アセチルガラクトサミン残基の炭素4位に硫酸基を転移する酵素である。コンドロイチン硫酸Aを構築に直接的に関わる硫酸転移酵素である。また、同位体として3種のC4STが存在する(C4ST-1, C4ST-2, C4ST-3)。(Yamauchi, S. et al. J. Biol. Chem. 275: 8975-8981, 2000.)。
【0026】
・C6ST(chondroitin 6-sulfotransferase)
コンドロイチンにおけるN-アセチルガラクトサミン残基の炭素6位に硫酸基を転移する酵素である。コンドロイチン硫酸Cを構築に直接的に関わる硫酸転移酵素である。また、同位体として2種のC6STが存在する(C6ST-1, C6ST-2)。(Tsutsumi, K. et al. FEBS Lett. 441: 235-241, 1998.)。
【0027】
さらに本発明においては、上記硫酸基転移酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸自体も、本発明のマーカーとして利用可能である。
即ち、以下の物質は、本発明のマーカーとして好適に利用可能である。
【0028】
・CS-A(コンドロイチン硫酸A; chondroitin sulfate A)
コンドロイチンにおけるN-アセチルガラクトサミン残基の炭素4位にC4STにより硫酸基を転移された糖鎖である。
【0029】
・CS-C(コンドロイチン硫酸C; chondroitin sulfate C)
コンドロイチンにおけるN-アセチルガラクトサミン残基の炭素6位にC6STにより硫酸基を転移された糖鎖である。
【0030】
・CS-E(コンドロイチン硫酸E; chondroitin sulfate E)
コンドロイチンにおけるN-アセチルガラクトサミン残基の炭素4位,6位にC4ST, GalNAc4S-6ST各々により硫酸基を転移された糖鎖である。
【0031】
本発明の好ましい態様としては、コンドロイチン硫酸を構成するGalNAcの4位または6位の硫酸基転移酵素、または該酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸を含んで成る、炎症疾患マーカーが挙げられる。
【0032】
本発明はさらに好ましくは、GalNAc4S-6ST、C4ST、C6ST、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、およびコンドロイチン硫酸Eからなる群より選択される物質を含んで成る、炎症疾患マーカーを提供する。
【0033】
また本発明は、本発明のマーカーの存在を指標とすることによる、炎症疾患についての種々の方法(本明細書において「本発明の方法」と記載する場合あり)に関する。例えば、炎症疾患に関する種々の方法の一態様として、例えば、本発明のマーカーを検出マーカーとして用いることを特徴とする、炎症疾患の検査方法を挙げることができる。
【0034】
本発明における炎症疾患とは、生体内の組織の線維化に起因する疾患であり、炎症から起因する全ての臓器における疾患が含まれる。「組織の線維化」は、活性化マクロファージから分泌される成長因子等により線維芽細胞が浸潤し、過剰のコラーゲン等を発現する特徴を示す。本発明の炎症疾患は、炎症部位へマクロファージの浸潤が増加し活性化する病理学的特徴を示す。
【0035】
例えばup-regulateされたGalNAc4S-6STは、直接的に過硫酸化CSPGを合成し、その過硫酸化CSPGの炎症部位における過剰沈着が、炎症疾患を起因するマクロファージの浸潤を誘発させる。さらにそのマクロファージの活性化(活性化により線維芽細胞の誘導因子が分泌される)が、組織線維化に起因する線維芽細胞の浸潤の誘発を引き起こす機序を有している。
【0036】
本発明における炎症疾患としては、炎症から起因するすべての臓器における疾患を挙げることができる。具体的には、パーキンソン病、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)等を例示することができる。また、上記疾患以外にも、例えば、以下のような疾患を例示することができる。
【0037】
(1) 腎臓:糖尿病性腎症、腎炎、腎線維症、腎不全
(2) 膵臓:膵炎
(3) 肝臓:肝炎、肝硬変
(4) 胃:胃炎
(5) 肺:肺炎、肺気腫、肺線維症、気管支拡張症、喘息
(6) 心臓:動脈硬化、狭心症、心筋梗塞
(7) 気管支炎
(8) 脳:脳炎、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋肉萎縮性側索硬化症
【0038】
本発明のマーカーの存在を指標とする本発明の方法の好ましい態様としては、例えば炎症疾患の進行度を判定する方法が挙げられる。即ち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の進行度の判定方法を提供する。
(a)間隔をおいて個体から採取された被検試料について、本発明のマーカーの量を測定する工程
(b)前記マーカーの量が増大している場合に、疾患が進行しているものと判定する工程
【0039】
本方法においては、まず間隔をおいて個体から被検試料を採取する。即ち、その間隔を空けた期間において、炎症疾患の進行度合いを本発明のマーカーを指標とすることにより評価することができる。
【0040】
本発明において検査の対象となる「個体」とは、通常ヒトであるが、本発明の検査方法は必ずしもヒトのみを被検対象とする方法に限定されない。ヒト以外の生物(好ましくは、哺乳動物であり、より好ましくはマウス、ラット、サル、イヌ、ネコ等の脊椎動物や実験動物)を検査対象とすることもできる。
【0041】
本発明における個体は、通常、既に炎症疾患に罹患している患者等を挙げることができる。該患者について本発明の上記方法を実施することにより、疾患の進行度を評価することができる。
【0042】
本発明の好ましい態様においては、間隔の前後において個体から取得(分離)された試料を本発明の方法に供する。後に取得した試料における本発明のマーカーの量が、前に取得した試料におけるマーカーの量より増大している場合には、疾患がより重い方向へ進行している(例えば、軽微な状態から重篤な状態へ進行している)ものと判定される。他方、本発明のマーカーの量が減少している場合には、疾患が軽微な方向に向かっている(快復している)ものと判定される。
【0043】
本発明の方法においては、後に取得した試料における本発明のマーカーの量を、対照と比較することによって、炎症疾患の進行度を判定することも可能である。即ち、一回の測定によって、進行度の判定を行うこともできる。
【0044】
例えば、健常者に由来する試料を対照とした際には、取得した試料におけるマーカーの量が対照と比較して増大している場合に、疾患が進行しているものと判定される。他方、該マーカーの量が対照と比較して変わらない、もしくは減少している場合に、疾患から快復している、もしくは快方に向かっているものと判定される。
【0045】
本発明において個体から採取される被検試料としては、例えば、血液(血清、血管内細胞(例えば赤血球、白血球、リンパ球等))、尿、汗、涙、代謝物等を挙げることができる。また、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等を例示することができる。
【0046】
例えば被検試料として血清を用いる場合、血液からの血清分離は例えば以下のように行うことができる。まず個体から得られた血液を室温にて1時間放置し、血餅が形成されたことを確認した後、遠心機を用いて3000回転、5分遠心処理する。遠心終了後、二層に分離されたうちの上清を血清として用いる。
【0047】
本方法の工程(a)においては、上記被検試料中のマーカーの量を測定する。上記被検試料中のマーカーの量の測定は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。
【0048】
例えば、本発明のマーカーを認識する抗体(本明細書においては単に「本発明の抗体」と記載する場合あり)を用いて測定することができる。本発明の抗体を用いて、例えば、ウェスタンブロッティング法、ELISA法等を実施して、本発明のマーカーの存在量を測定することが可能である。本発明のマーカーの検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0049】
本発明のマーカーに結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然の本発明のマーカー、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)マーカータンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のマーカーや合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、本発明のマーカータンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、本発明のマーカーに結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のマーカーや合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0050】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のマーカーに結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0051】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のマーカーは、その由来となる動物種について制限されないが、哺乳動物、例えばマウス、ヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、当業者においては、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて、適宜、取得することができる。
【0052】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片あるいは中央部のキナーゼ活性部位等が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0053】
本発明における抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFv)(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, Vol. 113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp. 269-315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; VanDijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab’、F(ab')2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。このような抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。また、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、GST、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることも可能である。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。
【0054】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0055】
被検試料中の本発明のマーカーの量の測定方法の別の態様としては、本発明のマーカーに対して特異的に結合する物質(核酸、ペプチド、タンパク質、化合物等)に化学標識させ、その標識された複合体(本発明のマーカーと結合した化合物)を検出することによっても行うことができる。
【0056】
さらに本発明のマーカーの量の測定方法の別の態様としては、本発明のマーカーに修飾される糖鎖等に化学標識させ、その標識された産物を検出することによっても行うことができる(Prescher,J.A. et al. Chemical Remodelling of Cell Surfaces in Living Animals. Nature 2004, 430, 873-877.)。該化学標識としては、例えば蛍光物質による標識等が挙げられる。
【0057】
さらに、本発明のマーカーがリンパ球、白血球等の血管内細胞により産生される場合、本発明のマーカーをコードする遺伝子のDNA、mRNAを検出することによっても本発明のマーカーの量の測定を行うことができる。
【0058】
具体的には、本発明のマーカータンパク質をコードする遺伝子の発現量の測定は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。
【0059】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の翻訳産物(タンパク質)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からタンパク質試料を調製し、該タンパク質試料に含まれる本発明のマーカーの量を測定する。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
遺伝子の発現量を、該遺伝子の転写産物(mRNA)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からRNA試料を調製し、該RNA試料に含まれる本発明のマーカーをコードするRNAの量を測定する。また、被検試料からcDNA試料を調製し、該cDNA試料に含まれる本発明のマーカーをコードするcDNAの量を測定することによって、発現量を評価することも可能である。被検試料からのRNA試料やcDNA試料は、個体から採取された被検試料から、当業者に周知の方法で調製することができる。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。
【0061】
また本発明のマーカーにおけるCS-A、CS-C、およびCS-Eは糖鎖であるため、これらマーカーの量の測定は、上記方法以外にも、例えばこれら糖鎖に対し特異的なレクチン等の結合を指標として測定することが可能である。
【0062】
本発明の判定方法を用いることで、炎症疾患の進行度について検査することが可能となる。本発明の判定方法により炎症疾患の予防や治療におけるより効率的な戦略、治療方針を決める手助けとなる。
【0063】
また本発明の方法の他の態様としては、例えば、本発明のマーカーを指標とする、薬物の炎症疾患治療効果を判定する方法を挙げることができる。
【0064】
上記方法の好ましい態様としては、以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の炎症疾患治療効果を判定する方法である。
(a)被検薬物の投与前後における個体から採取された被検試料について、本発明のマーカーの量を測定する工程
(b)投与後における前記マーカーの量が減少している場合に、被検薬物は治療効果を有するものと判定する工程
【0065】
本方法においては、被検薬物の投与前後において個体から採取(分離)された被検試料について、本発明のマーカーの検出を行う。
【0066】
本発明における被検薬物(薬剤)としては、特に制限されないが、例えば、既存の種々の薬物を挙げることができる。また、本発明の方法に供する物質は、薬効が既に知られている物質に限定されず、種々の化合物について、炎症疾患治療効果の程度を評価することができる。また、本発明の方法に供する薬物としては、例えば、DNAもしくはRNA等の核酸、または、核酸を内包したリポソーム(リン脂質小胞体)等であってもよい。本発明の方法によって、例えば、核酸を成分とする遺伝子治療剤について、炎症疾患の治療効果を検査することができる。
【0067】
本方法における被検試料中のマーカーの量の測定は、上述のとおりに実施することができる。
【0068】
本方法においては次いで、被検薬物投与後における前記マーカーの量が減少している場合に、被検薬物は炎症疾患治療効果を有するものと判定する。
【0069】
本発明の上記方法は、例えば、炎症疾患モデル動物を利用して行うことも可能である。即ち、炎症疾患モデル動物に対して被検薬物を投与し、該動物から取得された被検試料について、本発明のマーカーの量を測定する。対照あるいは投与前と比べてマーカーの量が有意に減少している場合には、該薬物は炎症疾患に対して治療効果があるものと判定される。
【0070】
ここで「治療」とは、炎症疾患に対して、必ずしも完全な治療効果を有する場合に限定せず、部分的な効果あるいは改善効果、または疾患進行を止める効果を有する場合も含まれる。また、該治療効果には、予防効果も含まれる。
【0071】
本発明の方法を用いることで、薬物の炎症疾患治療効果を効率的に判定することが可能となる。本発明の方法により、炎症疾患に有効な薬物を効率的に選択することが可能となり、炎症疾患の治療におけるより効率的な戦略、治療を進める手助けになる。
【0072】
また本発明の方法により治療効果を有すると判定された薬物は、炎症疾患治療剤として用いることもできる。
【0073】
また本発明の方法の別の態様としては、例えば、本発明のマーカーを指標とする、炎症疾患の検査方法を挙げることができる。即ち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の検査方法に関する。
(a)被検者から分離された試料について、本発明のマーカーの量を測定する工程
(b)健常者から分離された試料における量と比較して、前記マーカーの量が増大している場合に、炎症疾患に罹患しているものと判定する工程
【0074】
本方法においては、被検者から取得(分離)された試料について、本発明のマーカーの量を測定する。
【0075】
本方法においては次いで、当該試料における本発明のマーカーの量を測定する。マーカーの量の測定は、上述のとおり実施することができる。
【0076】
本方法においては次いで、対照または健常者から分離された試料におけるマーカーの量と、被検者から分離された試料におけるマーカーの量を比較する。健常者におけるマーカーの量より、被検者のマーカーの量が増大している場合、被検者は炎症疾患に罹患しているものと判定される。
【0077】
本発明の方法により、炎症疾患を罹患しているかどうか症状等から診断が困難である場合であっても、本発明のマーカーの量を測定することによって炎症疾患に罹患しているか否かを判定することが可能である。また、本発明のマーカーを定量することにより、炎症疾患の進行状態を適宜判断することも可能である。
【0078】
本発明のマーカーは、炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用として用いることができる。
【0079】
また本発明は、本発明のマーカーを成分とする研究用試薬(検査薬)を提供する。該試薬は、本発明のマーカーを指標とする研究や検査に使用される。例えば、学術的な分野において研究用試薬として用いられる。
【0080】
本発明の試薬には、炎症疾患の検査方法に応じて、前記本発明のマーカー以外に、各種の抗体、標識物質等を組み合わせることができる。これらの調製方法に関しては、上述の通りである。
【0081】
さらに本発明は、本発明のマーカーを検出するための物質を成分とする、本発明の方法用試薬に関する。好ましい態様においては、本発明のマーカーに対して結合活性を有する物質を含んで成る、炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用試薬を提供する。
【0082】
本発明のマーカーに対して結合活性を有する物質としては、例えば本発明のマーカーに結合する抗体、レクチン、ペプチド、低分子化合物等を挙げることができる。本発明のマーカーに結合する抗体の好ましい態様としては、上述のとおり、本発明のマーカーの量を測定するために使用される種々の抗体が挙げられる。一例を示せば、本発明のマーカーに対して結合活性を有する物質として、GalNAc4S-6STに結合する抗体(抗GalNAc4S-6ST抗体)が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0084】
〔実施例1〕健常者、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者と肝硬変(LC)患者における血清中のGalNAc4S-6ST量の比較検討
NASH患者群と肝硬変患者群の血清中におけるGalNAc4S-6STの変化を検討した。実験手順として、プレート内の血清タンパク質量を均一にする為にタンパク質定量試薬であるBCA assay kit (PIERCE) を用いて健常者群、NASH患者群そして肝硬変患者群における血清中のタンパク質量を測定した後、この測定に使用されるプレート(Nunc社製)へ各群の血清(10μg/well)と標準曲線の算出に用いられる抗原ペプチド(ペプチド研社製;250 ng〜10 pgの範囲内)を注入し、一晩4℃の冷蔵庫にて保管することで、特殊加工されているプレートへ各群の血清を接着させた。それぞれの血清中に含まれるGalNac4S-6STの検出はGalNac4S-6STにおいて特異的な一次抗体と標識された二次抗体を用いることで血清中に含まれる量を検出した。
【0085】
GalNAc4S-6STの検出までの手段としては、ブロッキング過程に2倍希釈したブロックエース(雪印乳業株式会社社製)の50μl/wellにて2時間室温で放置後、GalNAc4S-6STの検出として作成された;anti-GalNAc4S-6ST Ab (rabbit IgG) を0.035μg/wellとなるように10倍希釈のブロックエース溶液にて調製した後、その一次抗体反応は37℃、1時間でおこなわれ、二次抗体のanti-rabbit IgG-HRP標識 (1:15000, ICN Biomedicals)は37℃、30分で反応させた。
【0086】
次に発色過程として、TMB基質(Sigma-Aldrich社製)を50μl添加し、20分ほど反応させた後にプレートリーダー(POWER Wave XS、BIO-TEK社製)にて発色度合いを測定した。まず、標準曲線において得られた数値をグラフ化してその曲線に相関する関数を求めた。その相関関数をもちいて各群の血清から検出されたGalNAc4S-6ST量を表す数値をその関数から算出することで図1に示された各群の血清中におけるGalNAc4S-6ST量を求めることができた。
【0087】
ここで示されるように、健常者の血清中におけるGalNAc4S-6ST量を基準として数値を比較したところ病気の進行(NASHと肝硬変は直線上にある疾患である;Farrell G.C. and Larter C.Z., Hepatology 43:99-112)につれて血清中に含まれる量は増大する傾向を示した。
【0088】
〔実施例2〕血清中のGalNAc4S-6ST量は治療効果を示す判定マーカー
血清中におけるGalNAc4S-6ST量の変化が治療効果の判定に有効であると考え、以下に示すC6STカクテルsiRNA治療された肝硬変モデルマウスを採用した。この肝硬変モデルマウスは四塩化炭素を持続的に投与し、肝臓の線維化を惹起させるモデルマウスである(Sakaida I., et al. Hepatology 40:1304-1311, 2004)。まず、C57BL/6Jマウス(雌、7週齢、日本クレア社製)に、四塩化炭素5μl /100 g体重(Sigma社製)とミネラルオイル95μl /100 g体重(Sigma-Aldrich社製)を混合したものを週2回ずつ4週間に渡り(最終週は1回投与で計7回)、腹腔内に注射し、肝硬変モデルを誘導させた。
【0089】
治療は、コンドロイチン鎖を構成する2つのアミノ糖のうち、GalNAc残基の炭素6位の硫酸化に関与するC6ST-1とC6ST-2遺伝子に対するGene world社製のC6STカクテルsiRNA(1μg/200μl-0.1 %アテロコラーゲン(高研社製))を上記の肝硬変モデルマウス(四塩化炭素投与4回後)へ投与することでおこなわれた。その後、治療群の血液から分離して得られた血清中に含まれるGalNAc4S-6ST量の比較検討をおこなった。血清分離としては、各群(対照群、未治療群、治療群)から得られた血液を室温にて1時間放置し、血餅が形成されたことを確認した後、遠心機を用いて3000回転、5分にて遠心した。遠心終了後、二層に分離されたうちの上清を血清として用いた。この各血清群を実施例1同様の方法で測定することで算出された結果を図2に示した。
【0090】
ここで示される結果として、対照群と比べ多量にGalNAc4S-6STが検出された肝硬変モデル群だが、治療を受けた後の血清中におけるGalNAc4S-6ST量は低下した。これは、実施例5に示されるGalNAc4S-6ST遺伝子発現の低下とも相関する結果を示した。これより、治療後の血清中のGalNAc4S-6ST量を検出することで治療効果の予測を安易に血清から判定することができるバイオマーカー、そして検出ツールとして使用できることが確認できた。
【0091】
以下、実施例2で用いられた肝硬変モデルマウスの治療効果を示す所見の実施例を示す。
【0092】
〔実施例3〕C6ST-1,C6ST-2カクテルsiRNAによるそれらの遺伝子発現抑制
実施例2に記載した肝硬変モデルマウスの未治療群、治療群と対照群から採取した肝臓の第2葉の一部を1.5 mlチューブにとりわけ、液体窒素で凍結した。組織50 mgに対し、RNA-Bee(TEL-TEST社製)1 mlを加えてホモジナイズした懸濁液にクロロホルム200μl(Sigma-Aldrich社製)を加え穏やかに混合後、約5分氷冷し、12,000 rpm、4℃、15分間遠心分離機(Centrifuge 5417R、eppendolf社製)を用い遠心分離をおこなった。遠心分離後の上澄み液500μlを別の1.5 mlチューブに移し、上澄み液と同等量のイソプロパノール500μl(Sigma-Aldrich社製)を加え、混合後1μlのグリコーゲン(Invitrogen社製)を加え、15分間氷冷した。氷冷15分後、12,000 rpm、4℃、15分間遠心し、その後、75%エタノール1000μl(Sigma-Aldrich社製)で3回洗浄して得られたRNA沈殿物を30分〜1時間、自然乾燥させた後、大塚蒸留水(大塚製薬製)に溶解させ、さらに大塚蒸留水にて100倍希釈し、UVプレート(コーニングコースター社製)上でプレートリーダー(POWER Wave XS、BIO-TEK社製)により抽出したサンプル中のRNA濃度を算出した。得られたRNAサンプルを500 ng/20μlの濃度に調整し、68℃、3分間、BLOCK INCUBATOR(ASTEC社製)にて加温し、10分間氷冷した。氷冷後、予め調整していたRT PreMix液(組成:25 mg MgCl2 18.64μl(Invitrogen社製)、5×Buffer 20μl(Invitrogen社製)、0.1 M DTT 6.6μl(Invitrogen社製)、10 mM dNTP mix 10μl(Invitrogen社製)、Rnase Inhibitor 2μl(Invitrogen社製)、MMLV Reverse Transcriptase 1.2μl(Invitrogen社製)、Random primer 2μl(Invitrogen社製)、滅菌蒸留水(大塚蒸留水;大塚製薬社製))を80μl加え、BLOCK INCUBATORにて42℃、1時間、99℃、5分間、加熱した後、氷冷しcDNA 100μlを作成した。
【0093】
得られたcDNAを用いて、以下の組成でPCR反応を行った。SYBR Premix EX taq 12.5μl (TAKARA社製)、滅菌蒸留水11.3μl(大塚蒸留水)、プライマー0.1μl (50 pmol/μl)、cDNA1μlを混合させ、Real-time PCR Dice(TAKARA社製)により95℃ 5秒、60℃ 30秒で40サイクル反応させた。反応終了後、36B4遺伝子を内部標準として発現量の測定をおこなった。C6ST-1、C6ST-2の遺伝子発現の様子を図3に示す。
【0094】
C6ST-1遺伝子の発現は対照群と比べ未治療群で過剰発現していたが、C6ST siRNA治療によりその過剰発現を抑制していたことが示唆された。同様に、C6ST-2においても未治療群で過剰発現されている反面、その治療によってその過剰発現の抑制が認められた。
【0095】
Real time PCRのプライマー配列;
C6ST-1
F-TGTTCCTGGCATTTGTGGTCATA (配列番号:19)
R-CCAACTCGCTCAGGGACAAGA (配列番号:20)
【0096】
C6ST-2
F-GCTGTGTAATACCCTGATCCCTGAA (配列番号:21)
R-CACAGTGTGATAGATCGCCTCCA (配列番号:22)
【0097】
36B4
F-TTCCAGGCTTTGGGCATCA (配列番号:23)
R-ATGTTCAGCATGTTCAGCAGTGTG (配列番号:24)
【0098】
〔実施例4〕C6ST siRNAによるCSPG過剰蓄積の抑制
実施例2に記載したように、肝硬変モデルマウスから採取した肝臓の第2葉の一部を凍結用包埋剤OCTコンパウンド(Miles社製)に包埋し、液体窒素でブロックを作製した。その凍結ブロックからクリオスタット(Microm社製)を用いて5μmの切片を作成した。
【0099】
得られた切片をアセトン(和光社製)で10分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄し、さらに一次抗体として抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)抗体(クローンCS56、マウスモノクローナル抗体、1:100希釈;生化学工業)を添加し、4℃で一晩反応させた。その後、ヒストファインマウスステインキット(ニチレイ社製)を用いて二次抗体反応を行った後、DAB基質溶液(ニチレイ社製)を添加し、光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色発色の度合いを確認した。得られた免疫染色所見を図4に示す。左図の列が未治療群、右図の列がC6ST siRNA治療群である。治療群においてCSPGの蓄積を抑制していた様子を観察することができた。
【0100】
〔実施例5〕C6STカクテルsiRNAによるGalNAc4S-6ST発現抑制
実施例3同様に、各群のcDNAをテンプレートとしてGalNac4S-6STにおける発現を解析した。その結果を図5に示す。C6STカクテルsiRNA治療にも関わらず、未治療で過剰発現していたGalNAc4S-6STが治療することによってその過剰発現を抑制していることが認められた。
【0101】
Real-time PCR プライマー配列;
GalNAc4S-6ST
F-GTGAGTTCTGCTGCGGTCCA (配列番号:25)
R-AGTCCATGCTGATGCCCAGAG (配列番号:26)
【0102】
〔実施例6〕マクロファージの浸潤と炎症性サイトカインのTNF-αの抑制
実施例4で記載されたように処理された肝臓の切片に対して、ラット抗マウスF4/80抗体(クローン; CI:A3-1, 1:200希釈;BMA社製)を添加し、室温1時間で反応させた。続いて二次抗体としてHRP標識されたラットIgG(1:25希釈;バイオソース社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。このようにして、得られた各群の組織所見とF4/80陽性細胞の数を比較した結果を図6に示す。また、実施例3同様な手法により解析したTNF-αの発現結果も示した。すべての所見においてC6ST siRNA治療群では、炎症に関与する因子の抑制が確認された。
【0103】
Real-time PCR プライマー配列;
TNF-α
F-CAGGAGGGAGAACAGAAACTCCA (配列番号:27)
R-CCTGGTTGGCTGCTTGCTT (配列番号:28)
【0104】
〔実施例7〕線維化関連遺伝子の抑制
線維化に関連する遺伝子において、実施例3に記載された手法を用いて遺伝子発現解析を行った。その結果を図7に示す。肝硬変モデルマウス(未治療群)群において示された線維化に関する遺伝子らは過剰発現していたが、治療群の過剰発現が有意に抑制された。ここに挙げられているα-SMAとI型コラーゲンに関しては直接的な線維化に関与するタンパク質の合成遺伝子であり、CTGFとTGF-βは線維芽細胞の浸潤を惹起させる因子の合成遺伝子である。CSPG合成を阻害するC6ST siRNA治療により上記の線維化に関連する遺伝子を発現する細胞群(主にマクロファージ及び線維芽細胞)の浸潤が抑制された。
【0105】
Real-time PCRプライマー配列;
α-SMA
F-GAGCATCCGACACTGCTGACA (配列番号:29)
R-AGCACAGCCTGAATAGCCACATAC (配列番号:30)
【0106】
Type 1 collagen
F-ACCCGATGGCAACAATGGA (配列番号:31)
R-ACCAGCAGGGCCTTGTTCAC (配列番号:32)
【0107】
36B4 (acidic ribosomal phosphoprotein P0)
F-TTCCAGGCTTTGGGCATCA (配列番号:33)
R-TGTTCAGCATGTTCAGCAGTGTG (配列番号:34)
【0108】
TGF-β
GTGTGGAGCAACATGTGGAACTCTA (配列番号:35)
TTGGTTCAGCCACTGCCGTA (配列番号:36)
【0109】
CTGF
ACCCGAGTTACCAATGACAATACC (配列番号:37)
CCGCAGAACTTAGCCCTGTATG (配列番号:38)
【0110】
〔実施例8〕I型コラーゲン蓄積の抑制
実施例7の結果を裏付ける組織所見を得る為に、線維化の度合いを示すI型コラーゲンの免疫染色により検証した。実施例4同様に作成した、肝臓の切片へ(一次抗体であるウサギ抗マウスI型コラーゲン抗血清(1:2000希釈 ;LSL社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(1:25希釈;社製cappel社製)を室温で30分間反応させた。
【0111】
得られた所見とその肝線維化度合いを数値化した結果を図8に示す。この肝線維化度合いを既報(Dai K, et al. World J Gactroenterol. 31:4822-4826, 2005, Hillebrandt S, et al. Nature Genetics 37:835-843, 2005)に従って評価した。その結果、C6ST siRNA治療群のI型コラーゲンにおける沈着が緩和された。
【0112】
〔実施例9〕レニン−アンギオテンシンに関する遺伝子発現
血圧の上昇に関与するアンギオテンシンIIの合成経路に関するアンギオテンシノーゲンと、アンギオテンシン変換酵素(ACE)における遺伝子発現について、実施例3同様に解析をおこなった。それぞれの遺伝子発現の結果を図9に示す。両者ともにC6ST siRNA治療によって発現の低下を示す結果を確認することができた。
【0113】
Real time PCRプライマー配列:
Angiotensinogen
TGACCCAGTTCTTGCCACTGAG (配列番号:39)
ACACCGAGATGCTGTTGTCCAC (配列番号:40)
【0114】
ACE
AGTACAACTGGGCGCCAAACA (配列番号:41)
GGAAATTGACGCGGTTGGAC (配列番号:42)
【0115】
〔実施例10〕C6ST siRNA治療によるcell renewalの促進(BrdU検出)
実施例2の肝硬変モデルマウスの屠殺1時間前にBrdUを100μl(5 mg/ml:Sigma-Aldrich社製)静脈に注入した。その後、実施例4で記載されたように処理された肝臓の切片に対して、2規定の塩酸で室温下、20分処理した後、ラット抗BrdU抗体(クローン; CI:A3-1, 1:200希釈;abcam社製)を添加し、室温1時間で反応させた。続いて二次抗体としてHRP標識されたラットIgG (1:25希釈;バイオソース社製)を添加した。
【0116】
C6ST siRNA治療群における肝細胞の再生を観察した所見を図10に示す。さらに、BrdU陽性細胞の数を比較した結果も図10に示す。その結果、明白にC6ST siRNA治療群において肝細胞の再生が促進していることが示唆された。
【0117】
〔実施例11〕健常者、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者における血清中のC4ST-1量の比較検討
NASH患者の血清中におけるC4ST-1の変化を検討することにした。実験手順として、プレート内の血清タンパク質量を均一にする為にタンパク質定量試薬であるBCA assay kit(PIERCE)を用いて健常者、NASH患者における血清中のタンパク質量を測定した後、この測定に使用されるプレート(Nunc社製)へ各々の血清(10μg/well)を注入し、一晩4℃の冷蔵庫にて保管することで、特殊加工されているプレートへ各々の血清を接着させた。それぞれの血清中に含まれるC4ST-1の検出はC4ST-1において特異的な一次抗体とHRP標識された二次抗体を用いることで血清中に含まれる量を検出した。
【0118】
C4ST-1の検出までの手段としては、ブロッキング過程に2倍希釈したブロックエース(雪印乳業株式会社社製)の50μl/wellにて2時間室温で放置後、C4ST-1の検出として作成された;anti-C4ST-1 mAb (mouse IgG:Abcam社) を0.05μg/wellとなるように10倍希釈のブロックエース溶液にて調製した後、その一次抗体反応は37℃、1時間でおこなわれ、二次抗体のanti-mouse IgG-HRP標識(1:2500, Jackson ImmunoResearch)は37℃、30分で反応させた。
【0119】
次に発色過程として、TMB基質(Sigma-Aldrich社製 )を50μl添加し、20分ほど反応させた後にプレートリーダー(POWER Wave XS、BIO-TEK 社製)にて発色度合いを測定した結果を図11に示す。図11の各データは、n=4の平均として示されている。
【0120】
その結果として、NASH患者の血清中に含まれるC4ST-1量は健常者に比べて高い数値を示していることから、C4ST-1も炎症疾患のバイオマーカーとして使用できることを示唆した。
【0121】
〔実施例12〕健常者、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者における血清中のCS-AとCS-E量の比較検討
NASH患者の血清中におけるCS-AとCS-Eの変化を検討することにした。実験手順として、プレート内の血清タンパク質量を均一にする為にタンパク質定量試薬であるBCA assay kit(PIERCE)を用いて健常者、NASH患者における血清中のタンパク質量を測定した後、この測定に使用されるプレート(Nunc社製)へ各々の血清(10μg/wellを注入し、一晩4℃の冷蔵庫にて保管することで、特殊加工されているプレートへ各々の血清を接着させた。それぞれの血清中に含まれるCS-A、CS-Eの検出は各々において特異的な一次抗体とHRP標識された二次抗体を用いることで血清中に含まれる量を検出した。
【0122】
CS-AとCS-Eの検出までの手段としては、ブロッキング過程に10倍希釈したブロックエース(雪印乳業株式会社社製)の50μl/wellにて2時間室温で放置後、CS-AとCS-Eの検出として作成された;anti-CS-A mAb(クローン名:2H6, mouse IgM, 生化学工業)とanti-CS-E mAb(クローン名:Mo-225, mouse IgM, 生化学工業)を0.05μg/wellとなるように100倍希釈のブロックエース溶液にて調製した後、その一次抗体反応は37℃、1時間でおこなわれ、二次抗体のanti-mouse IgM Ab-HRP標識 (1:2500, Jackson ImmunoResearch)は37℃、30分で反応させた。
【0123】
次に発色過程として、TMB基質(Sigma-Aldrich社製)を50μl添加し、20分ほど反応させた後にプレートリーダー(POWER Wave XS、BIO-TEK 社製)にて発色度合いを測定した結果を図12に示す。図12の各データは、n=4の平均として示されている。
【0124】
その結果として、NASH患者の血清中に含まれるCS-A, CS-E量も健常者に比べて高い数値を示していることから、これらも炎症疾患のバイオマーカーとして使用できることを示唆した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
従来のバイオマーカーは、既に病気が進行した故に産生される指標がほとんどでどれも早期発見及び早期予防を実際に結び付けることができるものは少ない。本発明における指標は、直接的に疾患に結びつくGalNAc4S-6ST酵素故に早期発見及び早期予防につながり、また治療効果を示すことのできる発明となり得る。また、この発明を創薬の臨床治験において治療効果の評価法として用いることで創薬候補物質のドロップアウトを防ぎ、今後更なる創薬開発へ大きな役割を担うことができる新しいバイオマーカー開発に起因するものとして提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】病気が進行するにつれてGalNAc4S-6STの血清中に含まれる量が増大している所見を示す図である。
【図2】肝硬変により増大したGalNAc4S-6STがC6STのカクテルsiRNA治療にて低下する所見を示す図である。なお、本法はパーキンソン病、潰瘍性大腸炎、肺気腫、NASHマウスモデルにても適応できる結果を確認することができている。
【図3】C6ST-1,C6ST-2カクテルsiRNAによるそれらの遺伝子発現抑制効果を示す図である。
【図4】免疫染色所見を示す写真である。左の列が未治療群、右の列がC6ST siRNA治療群である。治療群においてCSPGの蓄積を抑制していた様子を観察することができた。
【図5】各群のcDNAをテンプレートとしてGalNac4S-6STにおける発現を解析した結果を示す図である。C6STカクテルsiRNA治療にも関わらず、未治療で過剰発現していたGalNAc4S-6STが治療することによってその過剰発現を抑制していることが認められた。
【図6】マクロファージの浸潤と炎症性サイトカインのTNF-αの抑制作用を示す図および写真である。光学顕微鏡下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。このようにして、得られた各群の組織所見とF4/80陽性細胞の数を比較した結果を写真で示す。
【図7】線維化関連遺伝子の抑制作用を示す図である。
【図8】I型コラーゲン蓄積の抑制作用を示す図である。
【図9】血圧の上昇に関与するアンギオテンシンIIの合成経路に関するアンギオテンシノーゲンと、アンギオテンシン変換酵素における遺伝子発現の結果を示す図である。
【図10】C6ST siRNA治療群における肝細胞の再生を観察した所見を示す写真および図である。
【図11】NASH患者と健常者にける血清中のC4ST-1量を比較した結果を示す図である。NASH患者の血清においてC4ST-1の量が多く確認された。
【図12】NASH患者と健常者にける血清中のCS-AとCS-E量を比較した結果を示す図である。NASH患者の血清においてCS-A、CS-Eの量が多く確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチン硫酸を構成するGalNAcの4位または6位の硫酸基転移酵素、または該酵素によって硫酸化されたコンドロイチン硫酸を含んで成る、炎症疾患マーカー。
【請求項2】
前記硫酸基転移酵素がGalNAc4S−6ST、C4ST、またはC6STであり、前記硫酸化されたコンドロイチン硫酸がコンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、またはコンドロイチン硫酸Eである、請求項1に記載の炎症疾患マーカー。
【請求項3】
炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用である、請求項1または2に記載のマーカー。
【請求項4】
前記炎症疾患が、組織の線維化に起因する疾患である、請求項1〜3のいずれかに記載のマーカー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のマーカーを成分とする、研究用試薬。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のマーカーに対して結合活性を有する物質を含む、炎症疾患の診断用、治療効果判定用または進行度判定用試薬。
【請求項7】
前記物質が抗GalNAc4S−6ST抗体である、請求項6に記載の試薬。
【請求項8】
請求項1または2に記載のマーカーを検出マーカーとして用いることを特徴とする、炎症疾患の検査方法。
【請求項9】
以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の進行度を判定する方法。
(a)間隔をおいて個体から採取された被検試料について、請求項1または2に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)前記マーカーの量が増大している場合に、疾患が進行しているものと判定する工程
【請求項10】
以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の炎症疾患治療効果を判定する方法。
(a)被検薬物の投与前後における個体から採取された被検試料について、請求項1または2に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)投与後における前記マーカーの量が減少している場合に、被検薬物は治療効果を有するものと判定する工程
【請求項11】
以下の工程(a)および(b)を含む、炎症疾患の検査方法。
(a)被検者から分離された試料について、請求項1または2に記載のマーカーの量を測定する工程
(b)健常者から分離された試料における量と比較して、前記マーカーの量が増大している場合に、炎症疾患に罹患しているものと判定する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−180711(P2009−180711A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22650(P2008−22650)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(505156709)株式会社ステリック再生医科学研究所 (16)
【Fターム(参考)】