説明

バイオリアクタの動作方法

【課題】生きている組織を支持し且つ培養するためのバイオリアクタとして機能できるバイオリアクタの動作方法の提供。
【解決手段】ウェル14に栄養素を供給し、前記ウェル14の上の基材12中に支持されている皿24中に生物材料を与え、この皿24は、前記生物材料を上に支持する膜20を含み、前記栄養素が該生物材料と相互作用することを可能にするものであり、前記ウェル14および基材12を、密封ポート28,30を有する蓋26で覆い、そして管状部材を用いて、生物材料および/または栄養素を、該蓋26を除去することなく前記ポート28,30を介して導入するまたは取り出すこと、を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生きている組織を支持し且つ培養するためのバイオリアクタとして機能できるバイオリアクタの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオリアクタシステムは、栄養素を保持するためのウェル画成用基材と、そのウェル中に置かれている薄い膜であって、その上に生物材料が存在している膜を有する底壁を含む皿、およびそのウェルおよび皿を覆う一体カバーを有している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
バイオリアクタの一実施形態では、ウェルを画成する基材、生物材料を保持するためのウェル上に支持された皿、およびウェルおよび皿の上の蓋が含まれる。その蓋には、ウェルまたは皿から材料を導入するまたは取り出すためのおよび圧力解放のための少なくとも一つの密封用開口部が含まれる。ウェルは、栄養素を保持するのに用いることができるが、皿は、それら栄養素と接触している膜を有する。蓋は、好ましくは、皿およびウェルから材料を導入するおよび/または取り出すために、皿の上の一つと、ウェルの一部分の上にあって皿の上にはないもう一つを含む少なくとも二つの密封可能開口部を有する。蓋には、好ましくは、通気用の少なくとも一つの気体透過性膜が含まれる。一体的なカバーを、貯蔵または輸送などのために、蓋の上に与えることもできる。開口部は各々、好ましくは、シリンジ若しくはピペットまたは他の適当なサイズの供給ノズルの周囲をシールするのに役立つように、一つまたは多数の例えばX形のスリットを有する隔壁である。
【0004】
本発明の一実施形態は、蓋の取り外しを必要とすることなく、バイオリアクタのいろいろな部分で、内容物への好都合な外部からの接近を可能にする。このような接近容易性は、汚染の危険を減少させ、そしてそのシステムを、あまり労力を要するものでなくさせ且つ一層自動化しやすくさせることができる。他の特徴および利点は、次の詳細な説明、図面および請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、本発明の一実施形態での構成要素を示す簡単な横断面図である。
【図2】図2は、ウェル画成基材の平面図である。
【図3】図3は、ウェル画成基材の横断面図である。
【図4】図4は、本発明による皿の平面図である。
【図5】図5は、本発明による皿の横断面図である。
【図6】図6は、本発明の第一の実施形態による蓋の平面図である。
【図7】図7は、本発明による外カバーの平面図である。
【図8】図8は、隔壁の二つの実施形態の一方の平面図である。
【図9】図9は、隔壁の横断面図である。
【図10】図10は、隔壁の二つの実施形態のもう一方の平面図である。
【図11】図11は、隔壁の横断面図である。
【図12】図12は、蓋に用いるための気体透過性膜の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、本発明の一実施形態に係る構成要素を示す横断面図である。バイオリアクタ(10)は、ウェル(14)を画成する基材(12)を有する。基材(12)は、更に、棚(22)を有するが、それらは、好ましくは、基材の他の部分と一体成形されることが望ましい。
【0007】
皿(24)は、基材(12)の棚(22)の上に置かれる一つまたはそれを超えるフランジ(18)を有する。皿(24)の底には、ポリカーボネート膜のような膜(20)が設けられている。細胞、組織または他の生きている生物材料は、皿(24)中に配置されるので、その材料は、膜(20)の上に置かれることになる。栄養素は、ウェル(14)中の栄養素が膜(20)を介して生物材料と接触するように、少なくとも膜(20)のレベルまでウェル(14)中に与えられる。
【0008】
ここまで記載された構造は、概して、知られている。更に、皿および基材を覆う一体の蓋を提供することも知られている。このような蓋は、皿中の膜上の細胞または組織に、そして更には、基材のウェル中の栄養素に接触するために取り外すことができる。
【0009】
本発明の実施形態によれば、蓋(26)は、図1にポート(28)および(30)として二つのものが示されている少なくとも一つの密封可能なポートと、防湿気体透過性膜(32)とを有する。膜(32)には、TYVEK(登録商標)(TYVEKは、E.I. duPont de Nemours and Company の登録商標である)のシートが含まれうる。このシートは、紙の外観を有するが、不織高密度ポリエチレン(HDPE)製である。膜(32)は、通気を可能にするし、しかもその一部分が皿(24)の上にあり且つ一部分が基材(12)の上にあるように置かれている。一つの気体透過性膜が、この図1に示されているが、下の図6に示されるように、蓋に配置されるきわめて多数のものがありうるし、更に通気が望まれる場合、膜を追加しうると考えられる。
【0010】
ポート(28)および(30)は、利用可能であるが、好ましくは、使用中でない場合は密閉されるように設計される。これらポートは、材料を与えるまたは抜き取るのに用いられる針、シリンジ、ノズルまたは他の適当なサイズの管状装置の出入りを可能にし、しかもその周囲をシールすることができる。中心のポート(30)は、細胞または組織を皿(24)に供給するのに用いることができる。外側のポート(28)は、ウェル(14)へ栄養素を導入し、またはウェル(14)から栄養素を抽出するのに用いることができる。シーリングは不可欠ではないが、好ましくは、管が挿入された場合、追加の作業を必要とすることなく、その周囲をポートがシールする(すなわち、それがセルフシールする)ように自動的に起こることが望ましい。
【0011】
以下の図2〜12は、本発明の実施形態を更に詳細に示す。各々の図面は、一定の縮尺で描かれているが、それら図面は、必ずしも同じ縮尺で描かれていない。図面は、代表的である形状および寸法などの多数の具体的な特徴を有するが、多数の変更がありうる。
【0012】
図2および図3は、栄養素のためのウェルを画成し、しかも培養されている細胞または組織を保持するための皿を支持する基材(12)を示す。基材(12)は、好ましくは、一体成形プラスチック製品から形成されていて、三つの僅かに高い支持リブ(44)を含む床(42)と、棚(48)の壁を形成する三つの半径方向内側に伸長している部分を有する外側壁(46)とを含む。外側壁(46)は、蓋(図6)に関して基材(40)の向きを定めるのに用いることができる少なくとも一つの小さいくぼみを有する。各々の棚(48)は、その半径方向内端に小さいノッチ(50)を有する。側壁(46)の上端において、フランジ(52)は、半径方向外側に伸長後、外側に傾斜する下方伸長部分(56)および外側伸長部分(58)を有する。フランジ(52)は、更に、フランジ(52)の周囲に(好ましくは、均等に)分布する上端に小さいノッチ(54)を有する。目安として、全体の直径は約14〜15cmであってよい。
【0013】
図4および図5を参照すると、培養される生物材料を保持するための皿(24)は、側壁(62)、フランジ(18)および膜(20)を有する。フランジ(18)は、切り取られたノッチ(68)を有してもよいが、図2および図3に示される基材(12)の棚(22)の上に置かれる。基材中の場合、膜(66)は、支持リブ(44)の上端の直ぐ上にある。基材(12)によって作られるウェル中に栄養素を入れることにより、それら栄養素は、膜(20)を介して生物材料へと通過することができる。側壁およびフランジは、一体プラスチック成形体であってよく、膜は、ポリカーボネート製であってよい。
【0014】
図6を参照すると、蓋(26)は、実質的に平らな部分(72)およびポート(28、29および30)を有する。これらポートは、蓋(26)の半径に沿って、蓋(26)の中心にあるポート(30)、外縁付近のポート(28)およびそれらの間のポート(29)として配置されている。蓋(26)は、図1に関して上に定義されているような、好ましくはHDPE製の気体透過性膜(80、82および86)を支持している。蓋(26)が皿(24)の上に与えられ、その皿がウェルの上にある場合、ポート(30)は、皿の中心の上に位置し、ポート(28)は、皿の膜の外縁にあり、そしてポート(29)は、ウェルの一部分の上にあり、皿の上にはない。気体透過性膜(80、82および86)は、それらの一部分がウェルの上および皿の上にあり、一部分は皿の上にないように置かれている。蓋(26)の外縁において、リムは、上方、水平方向外側、下方、次に水平方向外側に伸長している。外径部分は、その外フランジに形成されるノッチ(84)も有する。蓋のリムのサイズは、基材(12)のフランジ(52)の上に滑り摩擦嵌めできるようなサイズおよび形状にされ、ノッチ(84)は、ノッチ(54)と一致するサイズにされる。
【0015】
図7を参照すると、外側カバー(90)は、実質的に平らな上方部分(92)と、安定性および支持性を提供するほぼ外縁に広がるへこみ部分(94)を含む外縁とを有する一体プラスチック成形品である。この外蓋は、蓋(26)の上に、貯蔵期間または他の更に長い休止期間取り付けられる。
【0016】
図8〜11は、ポート(28、29および30)(図6)のような口の二つの実施形態を示す。図6に関して図8および図9を参照すると、第一の形式のポート(100)は、蓋(70)の上に置かれるために上端に大きい直径部分(102)を有する軟質で柔軟性のシリコーン製である。ポート(100)の上端には開口部(104)があり、底には単一スリット(106)がある。その底は、X形二重スリットでもよい。
【0017】
開口部(104)とスリット(106)との間には、空洞(108)がある。ポート(100)は、蓋(70)の厚みにほぼ等しい軸方向長さを有する減少した直径部分(112)と、下方および内側に傾斜した表面(110)とを有する。蓋(70)は、減少した直径部分(112)の寸法である直径を有する開口部を有する。ポート(100)は、充分に柔軟性であるので、減少した直径部分(112)中に蓋がスナップ嵌めするまで傾斜部分が圧縮すると、その孔に押し込むことができる。
【0018】
ポートの底にあるスリットは、液体および気体が漏出するのを防ぐのに役立つ。開口部(104)より直径が僅かに大きい針、ノズルまたはシリンジなどの管は、皿またはウェル中に物質を与えるのにまたはそこから物質を抽出するのに用いられる。管をポートに挿入すると、それは、開口部(104)の周囲に柔軟性プラスチックで締り嵌めを形成するので、それが挿入されたり、抜き取られたりすると、充分なシールが維持される。
【0019】
図10および図11を参照すると、ポートのもう一つの変型例を示す。この実施形態において、その底には、液体を導入するまたは取り出すのに用いられる管の周囲をシールすることができるX形開口部(120)がある。
【0020】
図12は、気体透過性膜を示す。その膜を、シール用部分(112)で加熱密封する。点線(114)は、膜を越えて出入り可能である膜の領域を規定している。環状領域(116)は、プラスチック蓋が膜(80、82および86)を覆っている部分である。
【0021】
本発明のバイオリアクタは、多数の異なった種類の生物材料を取り扱うまたは処理するのに用いることができる。一つの用途は、生きている皮膚同等物(LSE)の形成にある。LSEを作るには、ヒト皮膚細胞(線維芽細胞)を、皮膚の主要タンパク質であるコラーゲンと一緒にする。線維芽細胞は、コラーゲンを介して移動して、それを再配列するが、ヒトコラーゲンも生産する。この後、ヒト表皮細胞を、皮膚層の上に置いて、それを覆う。数日後、表皮細胞を、空気への暴露によって刺激して、角質層として知られる皮膚の外側保護層の形成を完了する。これら細胞は、皿中の膜上に与えられ且つ処理されが、ウェル中に与えられた栄養素は、この処理を支援するのに役立つ。
【0022】
本発明のシステムは、蓋にあるポートから生物材料を挿入し且つ取り出すために、蓋を取り外すことを必要としない、しかも典型的な現行法とは異なり、著しい労力を必要としない、一層好都合な自動化を可能にする。自動化システムにおいて、バイオリアクタは、コンベヤーで、またはバイオリアクタを一つの場所から別の場所へと移動できる機械的取扱装置で輸送しうると考えられる。ロボット工学を用いてまたはx−y−z移動機械で、シリンジまたは他のノズルを、バイオリアクタ中におよびバイオリアクタから移動させて、材料を挿入するまたは取り出すことができる。x−y−z移動機械は、三直交方向各々の移動のためのものである三つの異なったモーターを有することができ、異なったタイプのモーターおよび駆動スクリューなどの駆動装置を含むことができる。
【0023】
本発明の実施形態を記載してきたが、請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく改良を行うことができることは明らかである。例えば、一部分の形状およびサイズ、並びに、棚、ポートおよび膜などの部材の数は、変更することができる。本明細書中の実施形態に一体的と規定された若干の部品は、多数の成形品から形成されうるし、互いに緩やかにまたは一体に連結されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリアクタの動作方法であって、
ウェルに栄養素を供給し、
前記ウェルの上の基材中に支持されている皿中に生物材料を与え、この皿は、前記生物材料を上に支持する膜を含み、前記栄養素が該生物材料と相互作用することを可能にするものであり、
前記ウェルおよび基材を、密封ポートを有する蓋で覆い、そして
管状部材を用いて、生物材料および/または栄養素を、該蓋を除去することなく前記ポートを介して導入するまたは取り出すこと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ポートを、管状部材が前記ポート中にない場合に密閉し、管状部材が前記ポート中にある場合は、このポートが管状部材の周囲を密封する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記管状部材を、前記ポート中におよびポート外に自動的に移動させる請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−46087(P2010−46087A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245374(P2009−245374)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【分割の表示】特願2004−519660(P2004−519660)の分割
【原出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(501077000)オーガノジェネシス インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】