説明

バイオ法グリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法

【課題】簡便且つ十分に脱色ができ、製品品質上、十分に高純度なグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウムを取得できるグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色法の提供。
【解決手段】グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造された微量着色不純物を含有するグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液をカチオン交換樹脂好ましくは強酸性陽イオン交換樹脂と接触させることにより微量着色不純物をイオン交換吸着除去してグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコール酸は、従来より、化粧品、染毛剤、シャンプー、トリートメント、洗浄剤(家庭用洗浄剤、工業用洗浄剤等)、金属処理剤、皮なめし剤等の重要な成分として用いられてきた。特に化粧品用途等に使用する場合、高純度であることは勿論、微量着色不純物に起因する着色についても、製品品質上、低減が求められている。
【0003】
一方、バイオ法によるグリコール酸の製造方法としては、コリネバクテリウム属に属する微生物を用いてグリコロニトリルからグリコール酸を製造する方法(特許文献1)、アシドボラックス属に属する微生物由来のニトリラーゼを用いてグリコロニトリルからグリコール酸を製造する方法(特許文献2)、ロドコッカス属又はゴルドナ属に属する微生物を用いてグリコロニトリルからグリコール酸を製造する方法(特許文献3)等が挙げられるが、前記のいずれの文献にも加水分解反応液の着色に関する記述はない。
【0004】
また、電気透析を用いた種々の有機酸塩の脱塩についても多数の先行文献が開示されており、その中でも、クロロ酢酸を過剰なアリカリ金属水酸化物を用いてけん化した液の電気透析による高純度グリコール酸の製造法(特許文献4)が代表として挙げられるが、やはり、加水分解反応液の着色及び電気透析処理による脱色については前記文献には記述がない。
【0005】
その他、グリコール酸の精製、特に着色物の除去による脱色方法としては、例えば、α−ヒドロキシ酸を少なくとも2つの結晶化段階にかけることで脱色する方法(特許文献5)、α−ヒドロキシ酸を抽出、濃縮、結晶化する方法(特許文献6)、α−ヒドロキシ酸を結晶化段階の次に蒸留段階にかける方法(特許文献7)、顆粒状活性炭を用いて粗製ヒドロキシ酸を脱色させる方法(特許文献8)等が挙げられるが、いずれもグリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸アンモニウムの電気透析液を原料とした例ではなく、簡便且つ十分な脱色方法とは言えない。
【0006】
つまり、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色する実用的な工業的方法として、簡便且つ十分な脱色方法がないのが実状である。
【特許文献1】特開昭61−56086号公報
【特許文献2】特表2005−504506号公報
【特許文献3】特開平9−28390号公報
【特許文献4】特開平9−216848号公報
【特許文献5】特表2004−509092号公報
【特許文献6】特表2004−509091号公報
【特許文献7】特表2004−509090号公報
【特許文献8】特開昭49−124025号公報
【特許文献9】特開2001−299378号公報
【特許文献10】特開平11−180971号公報
【特許文献11】特開平06−303991号公報
【特許文献12】特開昭63−209592号公報
【特許文献13】特公昭63−2596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色するに当たり、簡便且つ十分に脱色ができ、製品品質上、十分に高純度なグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウムを取得できるグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色法を提供することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸アンモニウム水溶液が、UV〜可視光領域において特異的な吸収を示す微量着色物質を含有することに着目し、その着色物質は電気透析による脱アンモニウム操作後も、十分に脱色されることはなく、従って該反応液の脱アンモニウム水溶液を別途脱色する必要が生じたため、その方法について鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに該電気透析で除去しきれなかった残存アンモニウム塩を除去する目的で行ったカチオン樹脂を用いたカチオン交換操作で、該水溶液の脱色も同時に行われる事実を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下に記載する通りの構成を有する。
[1] グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色する方法であって、グリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させることを特徴とするグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
[2] ニトリル加水分解能を有する生体触媒がニトリラーゼを有するか、又は、ニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼを有することを特徴とする[1]記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
[3] カチオン交換樹脂が、強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする[1]、[2]記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
[4] カチオン交換樹脂が、予めプロトン(H)型に再生処理されたものであることを特徴とする[1]〜[3]記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
[5] グリコール酸水溶液が、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸アンモニウム水溶液を電気透析によって脱塩して得られるグリコール酸水溶液であることを特徴とする[1]〜[4]記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色するに当たり、簡便且つ十分に脱色ができ、製品品質上、十分に高純度なグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウムを取得できるグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で言うニトリル加水分解能とは、大きく分けて、1)ニトリル基を対応するカルボン酸(アンモニウム)基へ直接変換する能力(ニトリラーゼ)と、2)ニトリル基を対応する酸アミド基へ変換する能力(ニトリルヒドラターゼ)と該酸アミド基を対応するカルボン酸(アンモニウム)基へ変換する能力(アミダーゼ)を同時に有するものとの2つがある。本発明においては、これらの2つの能力の何れか一方もしくは両方を保有している生体触媒であれば如何なる形態のものでも良い。
【0012】
本発明で言う生体触媒とは、上記ニトリル加水分解活性を持つ生物体そのもの或いは生物体由来のものであれば如何なるものでもよい。具体的には、酵素そのもの、或いは該酵素を内含する微生物、動植物細胞等が挙げられるが、基本的に該酵素の活性が発揮されるならば如何なる形態でもよい。通常は、重量当たりの酵素発現量や取り扱いの容易性から、微生物菌体を使用することが好ましい。
【0013】
微生物種としては、多くのものが知られているが、ニトリラーゼ活性を有するか、ニトリルヒドラターゼ活性及びアミダーゼ活性を有していれば特に制限はない。例えばニトリラーゼ活性を有する微生物としては、Rhodococcus属、Acinetobacter属、Alcaligenes属、Psudomonas属、Corynebacterium属、Caseobacter属、Brevibacterium属、Nocardia属、Gordona属、Arthrobacter属、Bacillus属、Aureobacterium属、Enterobacter属、Escherichia属、Micrococcus属、Streptomyces属、Flavobacterium属、Aeromonas属、Mycoplana属、Cellulomonas属、Erwinia属、Candida属、Bacteridium属、Aspergillus属、Penicillium属、Cochliobolus属、Fusarium属、Rhodopseudomonas属等が挙げられる。本発明においてはこれらの中でも、特にグラム陰性菌であるAcinetobacter属、Alcaligenes属が好ましく、更に好ましくはAcinetobacter属が好ましい。
具体的には、Acinetobacter sp.AK226 (FERM BP-08590)、Acinetobacter sp.AK227(FERM BP-08591)である。これらの菌株は先行特許に開示されている。(特許文献9〜13)
【0014】
一方、例えばニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼ活性を有する微生物としては、Rhodococcus属、Corynebactgerium属、Pseudomonas属、Artrobacter属、Alcaligenes属、Batillus属、Bacteridium属、Micrococcus属、Brevibacterium属、Nocardia属等が挙げられる。
【0015】
また、本発明における生体触媒としては、例えば、天然の或いは人為的に改良したニトリラーゼ遺伝子及び/又はニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼ遺伝子を遺伝子工学的手法によって組み込んだ微生物、あるいはそこから取り出したニトリラーゼ酵素及び/又はニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼ酵素であっても構わないが、該ニトリル分解酵素の発現量が少ない微生物或いはニトリル加水分解活性の低い酵素を発現した微生物を少量用いてカルボン酸(アンモニウム)を製造するには、より多くの反応時間を要するため、可能な限りニトリル加水分解酵素を高発現した微生物、及びまたは変換活性の高いニトリル加水分解酵素を発現した微生物、或いはそこから取り出したニトリル加水分解酵素を用いることが望ましい。
【0016】
生体触媒の形態としては、微生物・動植物細胞等をそのまま用いても構わないし、又は、該微生物・動植物細胞等そのもの、該微生物・動植物細胞等に破砕等の処理をしたもの、或いは該微生物・動植物細胞等から取り出したニトリル加水分解酵素を一般的な包括法、架橋法、担体結合法等で固定化したものを用いても良い。尚、固定化する際の固定化担体の例としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸、光架橋樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
微生物・動植物細胞等をそのまま用いる場合、水(蒸留水及びまたはイオン交換水)のみに懸濁させても構わないが、通常、浸透圧の関係から無機塩のバッファー液に懸濁させて使用する。また、固定化したものを用いる場合にも、通常、浸透圧の関係からバッファー液に懸濁させて使用する。この時のバッファー液濃度は、反応液中の不純物低減の観点からは低ければ低いほど良いが、生体触媒の安定性、比活性の維持という観点からは、通常0.1M未満であり、好ましくは0.01〜0.08M、より好ましくは0.02〜0.06Mである。
【0018】
上記の生体触媒を用いて製造されるグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の濃度は通常20重量%以上であるが、経済的な理由から高濃度である程良く、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、更に好ましくは40重量%以上である。
【0019】
グリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を製造する反応方法は、固定床、移動層、流動層、撹拌槽等、いずれでもよく、また連続反応でも半回分反応でもよいが、特に固定化されていない微生物菌体を用いる場合、反応の容易性から攪拌槽を用いた半回分反応がよい。その場合、反応効率の観点から、適切な攪拌を行うのがよい。
【0020】
また、半回分反応を行う場合、生体触媒は1バッチ使い捨てでもよいし、繰り返し反応を行ってもよい。但し、繰り返し反応を行う場合、該生体触媒をグリコール酸アンモニウム高濃度から低濃度へ急激に変化させるため、浸透圧の影響等で比活性が低下する場合があるので注意を要する。
【0021】
製造されるグリコール酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量は1/50以下がよく、好ましくは1/100〜1/1000、より好ましくは1/200〜1/500がよい。製造されるグリコール酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量が多すぎると該生体触媒懸濁液由来の不純物が反応液中に多く同伴されるため精製コストが上がり、製品品質が低下するので好ましくない。逆に、製造されるグリコール酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量が少なすぎるとリアクターボリューム当たりの生産性が低下し、大きなリアクターサイズが必要となり経済的に不利となる。
【0022】
反応温度が低すぎると反応活性が低くなり、高濃度のグリコール酸アンモニウムを製造する場合、より多くの反応時間を必要とする。一方、反応温度が高すぎると生体触媒の熱による失活の影響で、目的とするグリコール酸アンモニウム濃度が高い場合、該濃度まで到達させることが困難となり、結果として新たに生体触媒の追添等の処置が必要となり触媒コストが高くなる。よって、通常、反応温度は氷点〜70℃がよく、好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃がよい。
【0023】
反応初期に微生物を懸濁させておく反応仕込み液は、水溶液であれば特に限定されないが、通常、水が用いられる。また、浸透圧の関係で微生物の安定性を上げるという観点からバッファー液を用いてもよい。また、活性を低下させない範囲であれば極性有機溶媒を任意の割合で混合させてもよい。
【0024】
反応液のpHは使用する生体触媒のニトリル加水分解活性の至適pHにすることが好ましく、通常、反応液pHは6〜13がよく、好ましくは9〜11がよい。しかし、得られる製品の都合上、必要なpHが規定されるならばこの限りではなく、反応活性の低下が極端に現れない範囲で任意に選ぶことができる。
【0025】
本発明における、カチオン交換樹脂を用いたカチオン交換には、上記のような条件で製造したグリコール酸アンモニウム水溶液をそのまま用いることもできるし、或いは電気透析による脱塩処理を施して得られるグリコール酸の水溶液を用いることもできるが、脱色の効率を高くするには電気透析による脱塩処理を施した後の水溶液の方が好ましい。
【0026】
本発明において使用されるカチオン交換樹脂としては弱酸性カチオン交換樹脂や強酸性カチオン交換樹脂を用いることができるが、好ましくは強酸性カチオン交換樹脂がよい。具体的には、例えば、ダイヤイオンSK1B、同SK104、同SK110、同SK112、同SK116、同PK208、同PK212、同PK216、同PK220、同PK228、同UBK530、同UBK550、同UBK535、同UBK555(以上三菱化学社製)、レバチットS100、同S109、同、SP112、同STV40、同MSD1368(以上バイエル社製)、アンバーライトIR120B、同120BN、同IR124、同1006F、同200CT、同252(以上オルガノ社製)、ダウエックス モノスフィア650C、同マラソンC、同HCR−S、同マラソンMSC(以上ダウケミカル・カンパニー社製)等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらのカチオン交換樹脂は、通常の方法で、予めプロトン(H+)型に再生処理してから使用する。
【0027】
本発明におけるカチオン交換樹脂の使用方法としては、通常の方法が採用される。即ち、UV〜可視光領域において特異的な吸収を示す微量着色物質を含有する、上記の生体触媒を用いて製造されるグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液に所定量のカチオン交換樹脂を添加するバッチ式でもよいし、或いはまた、該カチオン交換樹脂を樹脂塔に充填して、該グリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を通液するカラム法を採用することもできる。バッチ式の場合は、着色物質の該カチオン交換樹脂への平衡吸着に達するのに十分な時間の撹拌を行った後、上澄みを回収すれば十分に脱色されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を得ることができる。また、カラム法の場合は、樹脂通過液が、十分に脱色されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液となる。
【0028】
カチオン交換樹脂の使用量は、グリコール酸アンモニウム水溶液を処理する場合と、電気透析による脱塩処理液であるグリコール酸水溶液を処理する場合とでは異なる。グリコール酸アンモニウム水溶液の場合は、樹脂の総交換容量がアンモニウムイオンと当量以上に相当する樹脂量は必須であり、更に確実に着色成分を除去するためには、通常1.2倍当量以上の樹脂を使用するのがよい。また、グリコール酸水溶液の場合、樹脂の総交換容量が、若干含まれているカチオン成分と当量以上に相当する樹脂量であれば可能であるが、この場合もより過剰に樹脂を使用する方が好ましい。更にカラム法の場合、樹脂の破過、樹脂の再生を行うまでの時間を長くとるために、より過剰の樹脂を使用することは通常行われることである。
【0029】
樹脂処理時の温度は常温でもよいが、必要であれば樹脂の耐熱性が保証される範囲で加温しても構わない。通常は70℃以下で行われる。また、カラム法の場合、通液速度は空間速度(L/L−樹脂/Hr)で1〜20の範囲、好ましくは2〜10の範囲がよい。
【0030】
カラム法の場合、樹脂通過液に着色物質の混入が確認される点を破過点とし、そこから適当な逆再生剤(例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ液)を用いて逆再生を行い、或いは行わずに、適当な再生剤(例えば希塩酸、希硫酸等の鉱酸)を用いて再生処理を行えば、樹脂は繰り返し使用が可能である。
【0031】
本発明における電気透析とは、当業者に知られる一般的な方法であって、特に限定されるものではない。例えば、バイポーラ膜とカチオン膜を組み合わせて該カチオン膜をアンモニウムイオンに通過させ、別室に持っていくことでグリコール酸水溶液を得る方法、或いはバイポーラ膜とアニオン膜を組み合わせて該アニオン膜をグリコール酸アニオンに通過させ、別室に持っていくことでグリコール酸水溶液を得る方法、或いはバイポーラ膜とカチオン交換膜とアニオン交換膜を組み合わせて、それぞれアンモニウムイオンとグリコール酸アニオンを通過させ、別室に持っていくことでグリコール酸水溶液とアンモニア水を得る方法等を挙げることができる。
<実施例>
【0032】
以下実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例により限定されるものではなく、その要旨を超えない限り、様々な変更、修飾が可能である。
【0033】
反応液の分析は、以下のごとく実施した。
基質であるα−ヒドロキシニトリル及び生成物であるα−ヒドロキシ酸水溶液又はグリコール酸アンモニウムは、高速液体クロマトグラフィーで測定した。カラムはイオン排除カラム(島津Shim−pack SCR−101H)、カラム温度は40℃、移動相はリン酸水溶液(pH=2.3)、検出器はUV(島津SPD−10AV vp、210nm)及びRI(島津RID−6A)で実施した。
【0034】
カチオン交換処理液の脱色の評価は、以下のごとく実施した。
着色程度の評価(色相変化)は、色度計を用いて実施した。装置は、柳本製作所製空気浴法微量融点測定装置を用いた。評価結果は色差表示法(JIS Z 8730)に則り、L値、a値、b値の3つで表される。L値は明度で白黒の度合いを表し、Lが100の場合完全な白となり、Lが0の場合完全な黒となる。また、a値は大きくなるほど赤味が濃く、小さくなるほど緑味が濃くなる。また、b値は大きくなるほど黄味が強く、小さくなるほど青味が強くなる。
【実施例1】
【0035】
[生体触媒の調製]
塩化ナトリウム0.1重量%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05重量%、硫酸第一鉄七水和物0.005重量%、硫酸アンモニウム0.1重量%、硝酸カリウム0.1重量%硫酸マンガン五水和物0.005重量%を含む培養液250mlを三角フラスコに仕込み、pHが7になるように水酸化ナトリウムで調整し、121℃で20分間滅菌した後、アセトニトリル0.5重量%を添加した。これにAcinetobacter sp.AK226を接種して30℃で振とう培養した(前培養)。ミーストパウダー0.3重量%、グルタミン酸ナトリウム0.5重量%、硫酸アンモニウム0.5重量%、リン酸水素二カリウム0.2重量%、リン酸二水素カリウム0.15重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.18重量%、塩化マンガン4水和物0.02重量%、塩化カルシウム二水和物0.01重量%、硫酸鉄7水和物0.003重量%、硫酸亜鉛7水和物0.002重量%、硫酸銅5水和物0.002重量%、大豆油2重量%を含む培養液3Lを5Lジャーファーメンターに仕込み、121℃で20分間滅菌した後、前記の前培養液を接種して30℃で通気攪拌を行った。培養開始10時間後から大豆油のフィードを開始した。PHは7になるようにリン酸及びアンモニア水でコントロールし、最終的に約5重量%のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を得た。更に0.06Mリン酸バッファーを用いて2回洗浄を行い、最終的にリン酸バッファーに懸濁されたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(乾燥菌体濃度5〜10重量%)を得た。
【0036】
[バイオ法グリコール酸アンモニウム水溶液の調製]
上記で得られたAcinetobacter sp.AK226懸濁液を用いて、グリコロニトリルの加水分解によるグリコール酸アンモニウムの蓄積実験を行った。既知菌体濃度のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を濃度が1.02重量%となるように2L四ツ口フラスコに予め仕込まれた蒸留水316mlに懸濁させた。該フラスコにpH計と温度計を設置し反応液のpHと温度をモニタリングできるようにして、50℃恒温水槽に入れてスターラー攪拌を実施し、内温が50℃になるまでしばらく保持した。次に原料の55重量%グリコロニトリル水溶液(東京化成製)を、定量ポンプを用いて連続的に添加すると同時に、5wt%KOH水溶液定量ポンプでpHが6.5〜7に維持されるように添加した。反応中は定期的にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーでグリコロニトリルとグリコール酸アンモニウム濃度を測定し、定常グリコロニトリル濃度が2重量%以下になるように原料のポンプフィード速度を調節した。最終的なグリコール酸アンモニウム蓄積濃度は56.7重量%であった。得られたグリコール酸アンモニウムをメンブレンフィルター(1ミクロン)で減圧濾過し、AK226菌体及びそれに由来する残骸物やタンパクを除去し、バイオ法グリコール酸アンモニウム水溶液852gを得た。
【0037】
[バイオ法グリコール酸水溶液の調製]
上記で得られたグリコール酸アンモニウム水溶液の一部を用いて、50.2重量%グリコール酸アンモニウム水溶液500gを調製し、バイポーラ膜電気透析装置を用いて脱アンモニウムを行った。使用した装置は、ACILYZER EX3B(株式会社トクヤマ製)で、部屋数は10室、膜面積は550cm2。バイポーラ膜とカチオン交換膜の組み合わせで構成されており、原料室に該グリコール酸アンモニウム500gを、アルカリ室に1.0重量%のアンモニア水500gを、電極室に0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いた。脱塩当初は、30Vの定電圧運転を実施し、運転開始から80分程度で4Aの定電流運転に切り替えた。運転中の液温は冷却操作で40℃に一定に保ち、運転の推移は原料室のpH及び電導度で監視し、終点を見極め、最終的に37.8重量%のグリコール酸水溶液が得られた。
【0038】
[脱色試験]
上記で得られたグリコール酸水溶液300gを、予めプロトン(H)型に再生処理された強酸性カチオン交換樹脂アンバーライトIR120B(商品名オルガノ(株))40mlを充填した樹脂塔にダウンフローで通液し、フラクションコレクターで採取した。樹脂塔は内径14mm、フィード速度は2.66ml/min(空間速度=4)、フラクション条件は5.3ml/本、処理温度は室温で実施した。原料液が無くなった時点で、蒸留水のフィードを原料液と同一条件で行うことで押出操作を行った。各フラクションのpHを測定しpH範囲が1.69〜0.71のものを回収、混合することで処理液とした。処理前と処理後の色相変化は表1のごとくであった。
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
実施例1で得られたグリコール酸アンモニウム水溶液の一部20gを予めプロトン(H)型に再生処理された強酸性カチオン交換樹脂アンバーライトIR120B(商品名オルガノ(株))100mlを充填した樹脂塔にダウンフローで通液し、フラクションコレクターで採取した。樹脂塔は内径14mm、フィード速度は3.33ml/min(空間速度=2)、フラクション条件は1ml/本、処理温度は室温で実施した。原料液が無くなった時点で、蒸留水のフィードを原料液と同一条件で行うことで押出操作を行った。各フラクションのpHを測定しpH範囲が1.72〜0.73のものを回収、混合することで処理液とした。処理前と処理後の色相変化は表2のごとくであった。
【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、製品品質上、十分に高純度のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を製造することができるので、得られた高純度のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液は種々の用途、特に化粧品用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液を脱色する方法であって、グリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液をカチオン交換樹脂と接触させることを特徴とするグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
【請求項2】
ニトリル加水分解能を有する生体触媒がニトリラーゼを有するか、又は、ニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼを有することを特徴とする請求項1記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
【請求項3】
カチオン交換樹脂が、強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
【請求項4】
カチオン交換樹脂が、予めプロトン(H)型に再生処理されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。
【請求項5】
グリコール酸水溶液が、グリコロニトリルを原料にニトリル加水分解能を有する生体触媒を用いて製造されたグリコール酸アンモニウム水溶液を電気透析によって脱塩して得られるグリコール酸水溶液であることを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかに記載のグリコール酸水溶液又はグリコール酸アンモニウム水溶液の脱色方法。

【公開番号】特開2007−295820(P2007−295820A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125071(P2006−125071)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】