説明

バイコニカル・アンテナ

【課題】 本発明の目的は、コンピュータなどの無線インターフェースとして利用可能なように小型軽量化され、精度良く製造されたバイコニカル・アンテナを提供することにある。
【解決手段】 バイコニカル・アンテナ10aは、円柱形状の上面Aおよび下面Bのそれぞれから中心に向けて円錐台形状の空洞14a,16aを有し、円錐台形状の頂部C,Dの平面同士が平行に対向している誘電体12aと、上面Aの側の空洞14aの内面に設けられた導体膜である給電部18aと、下面Bの側の空洞16aの内面に設けられた導体膜であるグランド部20aと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信をおこなうためのバイコニカル・アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、超広帯域を利用する通信技術であるUWB(Ultra
Wideband)が注目されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。UWBは、3.1GHz〜10.6GHzの帯域において、幅がわずか1ns程度のパルスを使用する。周波数上で見ると、数GHz幅という非常に広い帯域を占有する格好になる。したがって、高速通信をおこなうことが可能となる。
【0003】
UWBにおける通信可能距離は短いため、コンピュータと周辺機器とのデータ伝送をおこなうための無線インターフェースへの利用が考えられている(非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0004】
UWBで使用されるアンテナには、バイコニカル・アンテナがある。バイコニカル・アンテナに関しては、特許文献1や特許文献2に、その構造などが開示されている。
【0005】
図11に示すように、一般的なバイコニカル・アンテナ40は、円錐台形状の金属42,44がギャップGを介して対向している。その内の一方が給電部42であり、他方がグランド部44である。給電部42は、同軸ケーブル34の中心導体30に接続されている。グランド部44は、同軸ケーブル34のシールド導体32に接続されている。給電部42の側面(傾斜面)で電磁波の放射または受信をおこなう。
【0006】
上述したように、コンピュータでUWBを使用することが考えられている。したがって、アンテナ40をコンピュータに取り付けたりする必要があり、小型化することが望ましい。特にノート型パソコンに取り付ける場合は、アンテナの小型化が望まれる。例えば、特許文献2では、ギャップの長さが数cm、その他の部分も数十cmくらいの大きさがあり、非常に大型である。なお、特許文献1には大きさは記載されていない。特許文献1や特許文献2には、アンテナを小型化し、コンピュータの無線インターフェースとして使用するようなことは記載されていない。従来技術のままでは、バイコニカル・アンテナ40を用いたコンピュータの無線インターフェースは断念しなくてはならない。
【0007】
また、UWBの周波数帯域は上述したようにマイクロ波帯域である。したがって、アンテナ40の製造は、かなりの精度が要求される。アンテナ製造時に、アンテナ40の形状・寸法の誤差が生じたり、アンテナ40の表面に傷などがつくと、アンテナ特性が変化してしまう。円錐台形状に金属を削り出したり、アンテナ40を組み立てたりするときに、極めて精密な製造が要求される。
【0008】
【特許文献1】特開2001−185942号公報
【特許文献2】特開平9−8550号公報
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2003 2−17 no.841 日経BP社
【非特許文献2】NIKKEIMICRODEVICES 2003.8 No.218 日経BP社
【非特許文献3】日経エレクトロニクス 2004 2−16 no.867 日経BP社
【非特許文献4】日経エレクトロニクス 2004 3−15 no.869 日経BP社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コンピュータなどの無線インターフェースとして利用可能なように小型軽量化され、精度良く製造されたバイコニカル・アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のバイコニカル・アンテナの要旨は、円柱形状の上面および下面のそれぞれから中心に向けて円錐台形状の空洞を有し、該円錐台形状の頂部の平面同士が平行に対向している誘電体と、前記上面側の空洞の内面に設けられた導体膜である給電部と、前記下面側の空洞の内面に設けられた導体膜であるグランド部と、を有する。
【0011】
前記給電部の方が、前記グランド部よりも高さが高い。
【0012】
前記下面に取り付けられた円筒形状の誘電体と、前記円筒形状の内面に設けられ、前記グランド部に接続された導体膜であるグランド補強部と、を有する。
【0013】
前記上面側の円錐台形状の頂部に設けられた円盤形の空洞と、前記円盤形の空洞の内面に設けられた導体膜であるリフレクターと、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、給電部とグランド部との間を誘電体で満たしているため、アンテナが小型化される。また、給電部とグランド部の内部を空洞にするため、アンテナが軽量になる。さらに、給電部とグランド部とを構成する導体膜は、無電解銅メッキで形成することができるため、形状の精度が高くなり、高周波のアンテナとして適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明のバイコニカル・アンテナの実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
図1の本発明のバイコニカル・アンテナ10aは、円柱形状の上面Aおよび下面Bのそれぞれから中心に向けて円錐台形状の空洞14a,16aを有し、その円錐台形状の頂部C,Dの平面同士が平行に対向している誘電体12aと、上面Aの側の空洞14aの内面に設けられた導体膜である給電部18aと、下面Bの側の空洞16aの内面に設けられた導体膜であるグランド部20aと、を有する。
【0017】
従来と比較して、給電部18aとグランド部20aの間を誘電体12aで満たしているため、アンテナ全体の形状が小型化されている。これは、誘電体12aの比誘電率が空気よりも高く、アンテナ内の電磁波の波長を短くできるためである。なお、給電部18aとグランド部20aの間は、図1に示すように、円錐台形状の傾斜面同士の間を含む。
【0018】
誘電体12aの比誘電率は例えば3.6である。誘電体12aとしてエポキシ樹脂などが使用可能であるが、同じ誘電率であれば他の樹脂であっても良い。
【0019】
また、給電部18aとグランド部20aは内部が空洞14a,16aとなっている。これは、式1で示す表皮の厚さδまでしか電磁波が導体内に入り込めないため、内部を導体で満たす必要がないからである。なお、式1においてμは導体の透磁率、fは周波数、σは導体の導電率である。内部を空洞114a,16aにすることによって、アンテナ10aが軽量化される。
【0020】
【数1】

【0021】
導体膜は、銅や金などで構成する。膜厚は、少なくとも表皮の厚さδ以上となるようにする。例えば、膜厚は0.1μm以上になるようにする。
【0022】
給電部18aの方が、グランド部20aよりも高さが高い。一般的なバイコニカル・アンテナは、給電部とグランド部の高さが同じであるが、種々のシミュレーションによって、高さを変えることにより円柱形状の直径が小さくなることがわかっている。アンテナの小型化に向いている。
【0023】
バイコニカル・アンテナ10aは、上記下面Bに取り付けられた円筒形状の誘電体13aと、円筒形状の内面に設けられ、グランド部20aに接続された導体膜であるグランド補強部24aと、を有する。例えば、グランド部20aの底面の直径とグランド補強部24aの直径は同じである。グランド部20aが給電部18aよりも小さくなっており、この小さくなった分をグランド補強部24aで補っている。
【0024】
上面Aの円錐台形状の頂部Cに設けられた円盤形の空洞26aと、円盤形の空洞26aの内面に設けられた導体膜であるリフレクター28aと、を有する。
【0025】
バイコニカル・アンテナ10aは、中心導体30と、中心導体30を覆う絶縁体と、絶縁体を覆うシールド導体32とを有する同軸ケーブル34を有する。同軸ケーブル34の一端は、グランド部20a(グランド補強部24aを含む)の空洞16a,22aに挿入され、中心導体30が給電部18aに、シールド導体32がグランド部20aに接続されている。中心導体30とグランド部20aとは絶縁されている。
【0026】
同軸ケーブル34の他端にはコネクター36が接続され、バイコニカル・アンテナ10aが種々の回路に接続できるようになっている。
【0027】
バイコニカル・アンテナ10aの形状の一例を以下に示す。給電部20aの頂部Cおよび底部Aの直径は、それぞれ11.0mmおよび2.8mmである。給電部18aの高さは8.0mmである。グランド部20aの頂部Dおよび底部Bの直径は、それぞれ2.8mmおよび9.4mmである。グランド部20aの高さは5.0mmである。リフレクター28aの直径および高さは、それぞれ2.8mmおよび1.0mmである。グランド補強部24aの直径および高さは、それぞれ9.4mmおよび13.0mmである。給電部18aとグランド部20aとのギャップGは、2.8mmである。
【0028】
上記の形状のバイコニカル・アンテナ10aのVSWR(voltage standing wave ratio)をシミュレーションによって求めている。その結果が図2である。使用したシミュレーターは、Ansoft社のHFSSである。シミュレーションは、同軸ケーブル36をグランド補強部24aの下端Eで終端させてシミュレーションしている。UWB使用帯域において、VSWRが2以下となっている。また、UWB使用帯域外になると急激にVSWRが上昇している。アンテナ10aを使用するにあたって必要な帯域だけ使用することができ、アンテナ特性が良好であることを示している。なお、VSWRは、1に近づくほどアンテナとして良好に利用でき、2以下であれば実用上問題ない。
【0029】
アンテナ10aの形状や比誘電率を種々変化させたシミュレーションの結果を以下に示す。シミュレーターは上記のものと同じである。
【0030】
図3に誘電体12aの比誘電率を種々変化させたシミュレーション結果を示す。比誘電率が3.6のときが最も良く、3.0や4.0でも良好なアンテナ特性を示す。単に比誘電率を高くするだけでは、所望のアンテナ特性が得られないことがわかる。
【0031】
図4にギャップGを変化させた場合のシミュレーション結果を示す。ギャップGが2.8mmのときに最も良いアンテナ特性を示している。ギャップGが2.8mmよりも広すぎたり狭すぎたりするとアンテナ特性が悪化するのがわかる。
【0032】
図5に給電部18aの高さを変化させた場合のシミュレーション結果を示す。給電部18aの高さが8.0mmのときに最もアンテナ特性が良くなる。高さを低くすると低周波側でアンテナ特性が悪化し、高さを高くすると高周波側でアンテナ特性が悪化する。
【0033】
図6にグランド部20aの高さを変化させた場合のシミュレーション結果を示す。グランド部20aの高さが5または6mmのときにアンテナ特性が良く、7mmであっても良好である。アンテナの小型化を考慮すると、5mmが好ましい。また、高さが低くなると低周波側でアンテナ特性が悪化する。
【0034】
図7にグランド補強部24aの高さを変化させた場合のシミュレーション結果を示す。グランド補強部24aの高さが13mmまたは15mmのときにアンテナ特性が最も良い。アンテナ10aの小型化を考慮すると13mmが好ましい。
【0035】
図8にバイコニカル・アンテナ10aの幅、言い換えると給電部18aの円錐台形の底部Aの直径を変化させたときのシミュレーション結果を示す。11mmが最も良く、10mmや12mmでも良好なアンテナ特性である。9.0mmになると、中間の周波数帯でVSWRが2以上となり、アンテナ特性が悪化してしまう。
【0036】
リフレクター28aの高さを変化させたときのシミュレーション結果を図9に示す。リフレクター28aの高さが1.0または1.5mmのときにアンテナ特性が良好である。アンテナ10aの小型化を考慮すると1.0mmがよい。リフレクター28aの高さを低くすると高周波側でアンテナ特性が悪化し、高くすると低周波側でアンテナ特性が悪化する。
【0037】
次に、本発明のバイコニカル・アンテナ10aの製造方法について説明する。次の(1)〜(4)の工程でバイコニカル・アンテナ10aが製造される。
【0038】
(1)旋盤加工(少量生産)または金型成形(大量生産)により、円柱形状の上面Aおよび下面Bから中心に向かって円錐台形状の空洞を有する誘電体12aを形成する。また、下面Bには円筒形状の誘電体13aが誘電体12aと一体になっており、同時に形成される。
【0039】
(2)無電解銅メッキによって円錐台形状の空洞14a,16aの内面に導体膜を形成する。この導体膜は、上面側が給電部18a、下面側がグランド部20aになる。無電解銅メッキをおこなうときに、給電部18a、グランド部20a、グランド補強部24a以外の部分は、リフトオフレジストをほどこしておく。無電解銅メッキ後にリフトオフレジストを除去し、給電部18aなど以外のメッキを除去する。また、無電解銅メッキで膜厚が薄いようであれば、そのメッキをベースとして電気銅メッキをほどこしても良い。また、銅板を金型で打ち抜いた電極で給電部18aを構成しても良い。必要に応じてバリなどを取り除いたり寸法の違いなどを調整したりする最終仕上げをおこなう。
【0040】
(3)同軸プローブ34を準備し、上記下側E(B)の空洞から同軸プローブ34を空洞16a,22a内に挿入し、中心導体30を給電部18aに接続し、シールド導体32をグランド部20aに接続する。
【0041】
(4)同軸プローブ34にコネクター36を取り付ける。これによって、アンテナ10aが完成する。
【0042】
本発明のバイコニカル・アンテナ10aは、無電解銅メッキで給電部18aやグランド部20aを形成している。したがって、給電部18aなどは、導体から削り出すよりも形状の精度が高く、高周波のアンテナに適している。また、導体を削りだして給電部などを作るよりも量産しやすい利点がある。
【0043】
上記(2)の工程で無電解銅メッキをおこなったが、金などを蒸着させて導体膜を形成しても良い。メッキと同様に、精度良く給電部18aなどを形成することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるとはない。例えば、図10に示すように、給電部18bとグランド部20bとが対象な形をしたバイコニカル・アンテナ10bであっても良い。給電部18bおよびグランド部20bは、上記の実施形態と同様に導体膜で形成し、内部は空洞14b,16bにする。また、導体膜の形成も無電解銅メッキをおこなって形成する。無電解銅メッキなどにより、寸法形状の精度が高いアンテナ10bとなり、高周波のアンテナとして適している。
【0045】
図1のリフレクター28aの直径を種々変化させても良い。リフレクター28aによって、ある周波数帯域をカットすることができる。図10の給電部18bに図1と同様に頂部Cにリフレクターを設けても良く、そのリフレクターの直径を種々変化させても良い。また、図1において、リフレクター28aが無い構成であっても良い。
【0046】
誘電体12aは、エポキシ樹脂を使用する以外にアルミナなどを使用しても良い。この場合、上記(1)の工程は、アルミナを図1などに示す形の型にいれて乾燥・焼成する工程となる。
【0047】
図1の給電部18aおよびグランド部20aの空洞14a,14bは、底面の大きさが異なったが、同じであっても良い。
【0048】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のバイコニカル・アンテナの構成を示す図である。
【図2】図1のバイコニカル・アンテナのVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図3】誘電体の比誘電率を種々変化させた場合のVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図4】ギャップを変化させた場合のVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図5】給電部の高さを変化させた場合のVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図6】グランド部の高さを変化させた場合のVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図7】グランド補強部の高さを変化させた場合のVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図8】バイコニカル・アンテナの給電部の円錐台形の底部の直径を変化させたときのVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図9】リフレクターの高さを変化させたときのVSWRのシミュレーション結果を示す図である。
【図10】給電部とグランド部とが対象となっているバイコニカル・アンテナの構成を示す図である。
【図11】従来のバイコニカル・アンテナの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10a,10b,40:バイコニカル・アンテナ
12a,12b,13a:誘電体
14a,4b,16a,16b,22a,26a:空洞
18a,18b,42:給電部
20a,20b,44:グランド部
24a:グランド補強部
28a:リフレクター
30:中心導体
32:シールド導体
34:同軸ケーブル
36:コネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の上面および下面のそれぞれから中心に向けて円錐台形状の空洞を有し、該円錐台形状の頂部の平面同士が平行になって対向している誘電体と、
前記上面側の空洞の内面に設けられた導体膜である給電部と、
前記下面側の空洞の内面に設けられた導体膜であるグランド部と、
を有するバイコニカル・アンテナ。
【請求項2】
前記給電部の高さが、前記グランド部の高さよりも高い請求項1に記載のバイコニカル・アンテナ。
【請求項3】
前記下面において、前記柱状の誘電体と一体的に形成され、内部に円筒形状の空洞を有する誘電体と、
前記円筒形状の空洞の内面に設けられ、前記グランド部に接続された導体膜であるグランド補強部と、
を有する請求項2に記載のバイコニカル・アンテナ。
【請求項4】
前記上面側の円錐台形状の頂部に設けられた円盤形の空洞と、
前記円盤形の空洞の内面に設けられた導体膜であるリフレクターと、
を有する請求項1乃至3に記載のバイコニカル・アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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