説明

バイナリーフォトマスクブランク及びバイナリーフォトマスクの製造方法

【解決手段】透明基板上に、基板側組成傾斜層及び表面側組成傾斜層を有し、膜厚が35〜60nmであり、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料で構成された遮光膜を有し、基板側組成傾斜層が、層厚が10〜58.5nm、遷移金属:ケイ素が1:2〜1:9(原子比)、透明基板側の窒素と酸素の合計が25〜40原子%、透明基板から離間する側の窒素と酸素の合計が10〜23原子%であり、表面側組成傾斜層が、層厚が1.5〜8nm、遷移金属:ケイ素が1:2〜1:9、透明基板側の窒素と酸素の合計が10〜45原子%、透明基板から離間する側の窒素と酸素の合計が45〜55原子%であるバイナリーフォトマスクブランク。
【効果】本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、露光光を十分に遮光できる、より薄膜の遮光膜を備え、基板の両面の反射率を実用上問題にならない程度に十分に低減することにより、ゴーストパターンが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路、CCD(電荷結合素子)、LCD(液晶表示素子)用カラーフィルター、磁気ヘッド等の微細加工に用いられるフォトマスクの素材となるバイナリーフォトマスクブランク、特にArF露光に用いるバイナリーフォトマスク用のバイナリーフォトマスクブランク、及びバイナリーフォトマスクブランクを用いたバイナリーフォトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工においては、特に大規模集積回路の高集積化により、回路パターンの微細化がますます必要になってきており、回路を構成する配線パターンの細線化や、セルを構成する層間の配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術への要求がますます高まってきている。そのため、これら配線パターンやコンタクトホールパターンを形成する光リソグラフィーで用いられる、回路パターンが書き込まれたフォトマスクの製造においても、前記微細化に伴い、より微細かつ正確に回路パターンを書き込むことができる技術が求められている。
【0003】
より精度の高いフォトマスクパターンをフォトマスク基板上に形成するためには、まず、フォトマスクブランク上に高精度のレジストパターンを形成することが必要になる。実際の半導体基板を加工する際の光リソグラフィーは、縮小投影を行うため、フォトマスクパターンは実際に必要なパターンサイズの4倍程度の大きさであるが、それだけ精度が緩くなるというわけではなく、むしろ、原版であるフォトマスクには露光後のパターン精度に求められるものよりも高い精度が求められる。
【0004】
更に、既に現在行われているリソグラフィーでは、描画しようとしている回路パターンは使用する光の波長をかなり下回るサイズになっており、回路の形状をそのまま4倍にしたフォトマスクパターンを使用すると、実際の光リソグラフィーを行う際に生じる光の干渉等の影響で、レジスト膜にフォトマスクパターンどおりの形状は転写されない。そこでこれらの影響を減じるため、フォトマスクパターンは、実際の回路パターンより複雑な形状(いわゆるOPC:Optical Proximity Correction(光学近接効果補正)などを適用した形状)に加工する必要が生じる場合もある。そのため、フォトマスクパターンを得るためのリソグラフィー技術においても、現在、更に高精度な加工方法が求められている。リソグラフィー性能については限界解像度で表現されることがあるが、この解像限界としては、フォトマスクを使用した半導体加工工程で使用される光リソグラフィーに必要な解像限界と同等程度、又はそれ以上の限界解像精度がフォトマスク加工工程のリソグラフィー技術に求められている。
【0005】
フォトマスクパターンの形成においては、通常、透明基板上に遮光膜を有するフォトマスクブランク上にフォトレジスト膜を形成し、電子線によるパターンの描画を行い、現像を経てレジストパターンを得、そして、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、遮光膜をエッチングして遮光パターンへと加工するが、遮光パターンを微細化する場合にレジスト膜の膜厚を微細化前と同じように維持したままで加工しようとすると、パターンに対する膜厚の比、いわゆるアスペクト比が大きくなって、レジストのパターン形状が劣化してパターン転写がうまく行かなくなったり、場合によってはレジストパターンが倒れや剥れを起こしたりしてしまう。そのため、微細化に伴いレジスト膜厚を薄くする必要がある。
【0006】
一方、レジストをエッチングマスクとしてエッチングを行う遮光膜材料については、これまで多くのものが提案されてきたが、エッチングに対する知見が多く、標準加工工程として確立されていることから、実用上、常にクロム化合物膜が用いられてきた。このようなものとして、例えば、ArFエキシマレーザ露光用のフォトマスクブランクに必要な遮光膜をクロム化合物で構成したものとしては、例えば、特開2003−195479号公報(特許文献1)に、膜厚50〜77nmのクロム化合物膜が報告されている。
【0007】
しかしながら、クロム化合物膜等のクロム系膜の一般的なドライエッチング条件である酸素を含む塩素系ドライエッチングは、有機膜に対してもある程度エッチングする性質をもつ。このため、より微細なパターンの転写を行うために、前述した必要性により、より薄いレジスト膜でエッチングを行った場合、エッチング中にレジスト膜がダメージを受けて、レジストパターンを正確に転写することが困難になってきた。そこで、微細化と高精度の両立を達成するために、レジスト性能の向上のみに依存する方法から、遮光膜の加工性を向上させるような遮光膜材料の再検討が必要となった。
【0008】
例えば、特開2006−78807号公報(特許文献2)は、遮光膜を構成する層の少なくとも1層が主成分としてケイ素と遷移金属とを含み、かつケイ素と遷移金属との原子比がケイ素:金属=4〜15:1である材料を用いることで、遮光性能と加工性に優れたArF露光用の遮光膜が得られることを示している。また、更にケイ素と遷移金属とを含む遮光膜を用いて、更に高精度な加工性を得るため、クロム系材料で形成された薄膜をハードマスク膜として使用する方法が、特開2007−241060号公報(特許文献3)に示されている。
【0009】
前述のように、より微細なパターンを正確に作製するためには、加工時にレジストパターンに、よりダメージを与えない加工条件で加工可能な遮光膜とすることが必要であるが、特開2007−241060号公報(特許文献3)で提案された、遷移金属とケイ素を、透過率低減機能を与える元素として含有し、更に必要に応じて窒素や酸素等の低原子量成分を含む材料を用いる遮光膜と、クロム系のハードマスク膜とを有するフォトマスクブランクの場合、レジストに対する負荷を小さくするための有効な方策としては、ハードマスク膜の膜厚と共に、遮光膜の膜厚自体を薄くする方法が挙げられる。この場合、特に、遮光膜側については、薄膜で高い遮光性を得るため、用いる材料に加える窒素や酸素等の低原子量成分は極力低濃度とされ、いわゆる金属性の高い膜が遮光膜として用いられることになる。
【0010】
ところで、フォトマスクを露光装置内で用いる際、フォトマスクはパターンを形成した面を被露光物(シリコンウエーハなど)の方に向けて設置して用いるが、露光時、露光光は透明基板のパターンが形成されている面と反対側の面、即ち基板面から入射し、透明基板内を透過し、遮光パターンが形成されている面の遮光パターンのない部分を抜けた成分がレジスト膜に至ってレジスト膜を感光させる。
【0011】
この時、レジスト膜が成膜された被照射基板(シリコンウエーハなど)の表面で露光光が反射し、更に、その反射光がフォトマスクの遮光パターンで再反射して、再びレジスト膜上に照射されるというメカニズムにより、ゴーストパターンが発生することが知られている。そこで、フォトマスクの遮光膜上には一般に反射防止膜が成膜され、マスクの反射率が抑制される。
【0012】
一方、基板側から入射した入射光の一部は遮光膜と透明基板の界面で反射し、透明基板表面(透明基板と雰囲気気体の界面)で再度反射して、遮光パターンのない部分を通過してレジスト膜に到達する成分も考えられる。例えば遮光膜を極限まで薄くするために、遮光膜全体を、軽元素を全く入れない完全な金属膜とした場合、遮光膜と透明基板の界面における波長193nmの露光光の反射率は50%を超える値となり、ゴーストパターンを与える危険性がある。特に、露光機が変形照明など斜入射系を用いているとき、再反射した露光光は遮光膜の存在しない部分を抜ける可能性が高くなり、その問題は大きくなる。そこで、裏面側に多重反射を利用して反射光を減衰させる反射防止膜を形成して反射率を抑制することが提案されている(特許文献4:国際公開第2008/139904号パンフレット)。
【0013】
しかし、この反射防止膜は、その機能を発揮するために、膜厚と屈折率の積が露光波長の4分の1波長程度であり、ある程度の透過率をもつように設計されなければならない。そこで、この反射防止膜を用いる方法で必要な遮光度と低反射率を同時に得ようとすると、膜全体の膜厚が結果として厚くなってしまう。そのため、パターン転写時のエッチング時間はその分長くなり、結果として、エッチング加工時に用いるエッチングマスクとなるレジストパターン又はハードマスクパターンを厚くする必要があり、より微細化されたパターンを高精度に得るには不利になる。更に、反射防止層を設けた場合、遮光膜との組成差からドライエッチング時にエッチング速度の違いが生じ、遮光膜パターンの側壁に段差やくびれが生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−195479号公報
【特許文献2】特開2006−78807号公報
【特許文献3】特開2007−241060号公報
【特許文献4】国際公開第2008/139904号パンフレット
【特許文献5】特開平7−140635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のように、フォトマスクを製造するためのフォトマスクブランクに設ける光学機能膜、例えば、遮光膜や位相シフト膜等は、フォトマスクとした際に必要とする物理特性、特に、光学特性や化学安定性を満たすものである必要があるが、更に、高精度なマスクパターンが容易に得られるようにするために、被加工性を高めることも必要である。特に、光リソグラフィーにおける目的パターンの微細化が進展することによって、マスクパターンについても、より微細でより高精度なパターンが求められている。
【0016】
ところで、前記の微細で高精度なパターンを無機材料膜から形成する場合、被加工膜である無機材料膜の膜厚は、必要な物理特性を満たす範囲で、なるべく薄いことが好ましい。これは、加工時に用いるレジストパターンをより高精度なものとするためには比較的膜厚を薄くする必要があることは前述のとおりであり、このレジスト膜から得られたレジストパターンを用いてドライエッチング等の方法によって無機材料膜にパターン転写を行う際の負担をなるべく小さくすることによって高精度なパターン転写が可能となるからである。
【0017】
特開2007−241060号公報(特許文献3)に示された、透過率低減機能を与える元素として遷移金属とケイ素を含有する化合物による遮光膜は、波長が200nm以下の光に対する遮光性能が高く、かつフッ素系のドライエッチング条件でエッチング加工ができるため、リソグラフィー時にレジスト材料として用いられる有機材料に対して、比較的好ましいエッチング比が確保される。しかし、このような材料を用いた場合にも、遮光性能を維持したまま薄膜化することは、加工精度を確保する上で有効であり、例えば、精度の高いバイナリーフォトマスクを得ようとした場合、遮光膜の膜厚をより薄くすることが望ましい。
【0018】
遮光膜を薄膜化して、かつ十分な遮光性能を得るためには、膜の露光光に対する吸収係数を大きくするため、窒素や酸素などの軽元素の含有率を低くし、より金属性の高い膜とする必要がある。露光装置内では、前述のとおり、フォトマスクの遮光パターンが設けてある面を、レジスト膜が成膜された被露光基板側に向けて設置されるが、この際、遮光パターン表面が金属性の高い材料であると、露光光に対する反射率が高くなり、露光時、レジスト膜が成膜された被露光基板から反射した露光光がマスク表面(フォトマスクパターン又は透明基板の表面)で再反射し、再びレジスト膜に照射されてしまうことによるゴーストパターンが形成される危険がある(このような、フォトマスク表面側での反射を表面反射と称する)。
【0019】
一方、フォトマスクの透明基板側では、透明基板側から入射した露光光が遮光膜と透明基板との界面で反射し、更に、透明基板とフォトマスク周囲の気体との界面で再反射して、レジスト膜に照射されてしまうことによるゴーストパターンが形成される危険性もある(このような、遮光膜と透明基板との界面、及び透明基板と外気との界面における反射を裏面反射と称する)。特に、高解像性を得るために、露光光の斜入射成分を強く使う照明技術、例えば、液浸露光法では、フォトマスクに用いる透明基板程度の厚さでも、裏面反射による反射光が、遮光パターンのない部分を抜けてレジスト膜に照射される危険性が高くなる。そこで、遮光膜の膜厚を非常に薄いものとするために、遮光膜に金属性の高い膜を使用する場合には、表面側だけでなく、遮光膜と透明基板の間の界面での反射率を制御する何らかの方策が用いることが好ましい。
【0020】
しかし、国際公開第2008/139904号パンフレット(特許文献4)のような膜中での多重反射光の位相差を用いて反射光を減衰させる反射防止膜を、遮光膜と透明基板の間に設けた場合、このタイプの反射防止膜は、露光光の波長に合せて設計され、かつ反射防止膜はある程度の透過率が必要であるため、十分な遮光能をもたせるために膜厚を厚くした遮光膜と、この反射防止膜とを合わせた膜厚はかなり厚いものとなってしまう。更に、パターン加工を行う場合にも、反射防止膜と遮光膜の組成が異なることから、ドライエッチング条件に対するエッチング速度に差が生じ、パターンの側面の形状が不良になる危険性もある。
【0021】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、基板の両面の反射率を実用上問題にならない程度に十分に低減することによりゴーストパターンを抑制し、かつ露光光を十分に遮光できる、より薄膜の遮光膜を備えるバイナリーフォトマスクブランク、及びバイナリーフォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、遮光膜を極薄とした場合に、原理的にはトレードオフになってしまう遮光膜の膜厚と表面及び裏面の反射率との問題を両立させ、ゴーストパターンを与える危険性を低くし、かつ高精度な加工を可能とするためには、基板上に形成した遮光膜に、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料を用い、遮光膜の基板側と表面側(基板より最も離間した側)に窒素及び酸素の合計の含有率が層の厚さ方向に傾斜している層を配し、前記基板側の層を前記表面側の層より厚くすることによって、遷移金属とケイ素を含有する化合物を用いる遮光膜において、膜厚を厚くすることなく反射率を必要十分に低下させ、かつ高精度に制御された加工後の遮光膜パターン形状、特に、パターンの側面の垂直性が高い遮光膜パターンが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0023】
従って、本発明は、以下のバイナリーフォトマスクブランク、及びバイナリーフォトマスクの製造方法を提供する。
請求項1:
透明基板上に、光学濃度が2.5以上3.5以下の遮光膜を有するバイナリーフォトマスクブランクであって、
前記遮光膜が、透明基板側より基板側組成傾斜層と、基板から最も離間して設けられた表面側組成傾斜層とを有し、膜厚が35〜60nmであり、かつ遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料で構成され、
前記基板側組成傾斜層が、層厚が10〜58.5nmであり、窒素及び酸素の合計の含有率が層厚方向に透明基板側に向かって増加する層であり、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの3層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、前記基板側組成傾斜層を構成するケイ素系材料の組成が、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)であり、前記基板側組成傾斜層の透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が25〜40原子%、かつ透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が10〜23原子%であり、
前記表面側組成傾斜層が、層厚が1.5〜8nmであり、窒素及び酸素の合計の含有率が層厚方向に透明基板側に向かって減少する層であり、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの2層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、前記表面側組成傾斜層を構成するケイ素系材料の組成が、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)であり、前記表面側組成傾斜層の透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が10〜45原子%、かつ透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が45〜55原子%である
ことを特徴とするバイナリーフォトマスクブランク。
請求項2:
前記基板側組成傾斜層と前記表面側組成傾斜層との間に中間層を有し、該中間層が、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料で構成され、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)、かつ窒素と酸素の合計の含有率が10〜23原子%であることを特徴とする請求項1記載のバイナリーフォトマスクブランク。
請求項3:
前記基板側組成傾斜層が、その層厚方向の一部又は全部が、窒素と酸素の合計の含有率が層厚方向に連続的に変化する層であることを特徴とする請求項1又は2記載のバイナリーフォトマスクブランク。
請求項4:
更に、前記遮光膜上にクロム系材料で形成されたハードマスク膜を有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のバイナリーフォトマスクブランク。
請求項5:
前記遮光膜を構成する全ての層が、窒素を3原子%以上含有することを特徴とする請求項4記載のバイナリーフォトマスクブランク。
請求項6:
請求項1乃至5のいずれか1項記載のバイナリーフォトマスクブランクに、膜厚150nm以下のレジスト膜を形成し、該レジスト膜から形成したレジストパターンを用いてマスクパターンを形成することを特徴とするバイナリーフォトマスクの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、露光光を十分に遮光できる、より薄膜の遮光膜を備え、基板の両面の反射率を実用上問題にならない程度に十分に低減することにより、ゴーストパターンが抑制される。更に、本発明のバイナリーフォトマスクブランクに対し、クロム系材料で形成されたハードマスクを用いたマスク加工を行った場合、極めて高精度なフォトマスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のバイナリーフォトマスクブランクの一例を示す断面図であり、(A)は、遮光膜が基板側組成傾斜層と表面側組成傾斜層とで構成されたもの、(B)は、基板側組成傾斜層と中間層と表面側組成傾斜層で形成されたものを示す。
【図2】実施例2で得られた遮光膜パターンの断面のSEM像である。
【図3】比較例1で得られた遮光膜パターンの断面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、透光部と遮光部の2種の部分からなるバイナリーフォトマスクの素材となるものであり、石英基板等の透明基板上に、光学濃度が2.5以上3.5以下の遮光膜を有する。バイナリーフォトマスクにおいては、遮光膜が除去された透明基板のみの部分が透光部となり、透明基板上に遮光膜が存在する(残存している)部分が遮光部となる。この遮光膜は、バイナリーフォトマスク用であるため、光学濃度が2.5以上であることが要求され、好ましくは3.0以上とされるが、本発明の遮光膜は、後述する本発明の層構成を有するため、膜厚を60nm以下、特に55nm以下、とりわけ50nm以下とした場合であっても、所定の遮光性が確保される。なお、遮光膜の膜厚は35nm以上である。
【0027】
遮光膜は、例えば、図1(A)に示されるように、透明基板1上に遮光膜2が形成され、透明基板1側より基板側組成傾斜層21及び表面側組成傾斜層22を有している。また、遮光膜の基板側組成傾斜層と表面側組成傾斜層との間に、中間層を設けることが可能である。この中間層は、遮光機能が必須であるが、その他の機能や構造は特定されない。遮光膜は、遷移金属、例えばモリブデン等と、窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料、特に、モリブデン等の遷移金属と、窒素とを含むケイ素材料で構成される。
【0028】
本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、遮光膜の基板側の面(裏面)側と基板と離間する面(表面)側に、それぞれ、構成材料の組成において、窒素と酸素の合計の含有率が膜厚方向に変化する組成傾斜層を配した膜構成を有する。この場合、それぞれの組成傾斜層は、組成が層厚方向に連続的に変化する層、組成が一定の層を組み合わせた多層、組成が一定の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層とを組み合わせた多層、組成が層厚方向に連続的に変化する層を組み合わせた多層で構成することができる。組成傾斜層は、前記膜構成とすることにより、層厚方向に断続的又は連続的に吸収係数が変化するようになっている。
【0029】
遮光膜を構成する基板側組成傾斜層は、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの3層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、層厚方向に組成が変化する層であり、露光光に対して、基板側の面で吸収係数が低く、基板から離間する側の面で吸収係数が高い層である。
【0030】
特に、基板側組成傾斜層は、その層厚方向の一部又は全部が、窒素と酸素の合計の含有率が層厚方向に連続的に変化する層であることが好ましい。このような層構成とすることで、一定の膜厚において遮光性能を大きく低下させることなく、反射制御を効率的に行うことができる。
【0031】
基板側組成傾斜層の層厚は10〜58.5nm、好ましくは13〜53.5nm、より好ましくは15〜48.5nmである。また、基板側組成傾斜層が、単一組成の層のみを組み合わせた多層である場合には、層数は3層以上であり、層数の上限は特に限定されないが、通常20層以下である。また、基板側組成傾斜層が、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層を含む組み合わせの場合は、層数は2層以上であり、層数の上限は特に限定されないが、通常20層以下である。組成の差が大きい層同士が接する箇所ではエッチング時に、ギャップの発生のおそれがあるが、単一組成の層のみを組み合わせた3層以上の多層の構成、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層を含む構成とすることで、ギャップの発生が防止できる。
【0032】
基板側組成傾斜層は、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含有するケイ素材料からなり、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)は1:2〜1:9(原子比)、好ましくは1:2〜1:5(原子比)である。更に、炭素等の軽元素を含んでいてもよいが、品質の制御の上では、窒素及び酸素以外の軽元素は合計3原子%以下であることが好ましく、特に、窒素、酸素及び炭素以外の軽元素を、不純物量を超える量で含むものでないことが好ましい。
【0033】
また、基板側組成傾斜層は、透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率を25〜40原子%とし、透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率を10〜23原子%とする。両界面間の組成は、基板側組成傾斜層の前記層構成によって、層厚方向に断続的又は連続的に窒素と酸素の合計の組成比(窒素と酸素の合計の含有率(原子%))が変化し、層厚方向に透明基板側に向かって増加(基板から離間するに従い減少)するようになっている。更に、窒素と酸素のうち、好ましくは窒素を3原子%以上、より好ましくは5原子%以上含有させておくことで、クロム系材料で形成されたハードマスク膜を使用したマスク加工終了後に、塩素系のドライエッチングでハードマスク膜を除去する工程を用いても、サイドエッチングを防止することができる。
【0034】
基板側組成傾斜層は、後述の表面側組成傾斜層に対して膜厚が厚く形成されるが、このようにすることで、遮光膜の表面側及び裏面側の反射率を、40%を超えない割合、特に35%以下に制御することが可能になる。
【0035】
本発明においては、遮光膜を基板側組成傾斜層と表面側組成傾斜層のみで構成することができるが、両層の間に中間層を形成してもよい。具体的には、例えば、図1(B)に示されるような、透明基板1上に遮光膜2が形成され、遮光膜2が、透明基板1側より基板側組成傾斜層21及び表面側組成傾斜層22を有し、更に、両層の間に中間層23が形成されているものが挙げられる。
【0036】
中間層は、組成が層厚方向全体に亘って連続的に変化する層とすることができる。この場合、中間層の基板側は、窒素と酸素の合計の含有率が基板側組成傾斜層とは逆に傾斜していてもよく、また、中間層の表面側は、窒素と酸素の合計の含有率が表面側組成傾斜層とは逆に傾斜していてもよい。中間層は、基本的には組成変化の小さい層とすることが好ましく、より好ましくは単一組成の層として形成される。中間層も、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含有するケイ素材料からなり、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)は1:2〜1:9(原子比)、好ましくは1:2〜1:5(原子比)である。更に、炭素等の軽元素を含んでいてもよいが、軽元素は露光光に対する吸収係数を下げるため、窒素及び酸素以外の軽元素は合計3原子%以下であることが好ましく、特に、窒素、酸素及び炭素以外の軽元素を、不純物量を超える量で含むものでないことが好ましい。
【0037】
一方、窒素と酸素の合計の含有率は10〜23原子%とし、特に10〜15原子%であることが好ましい。窒素と酸素の合計の含有率を前記範囲内とすることで、膜の導電性と化学的安定性を両立させることができる。前述のように、遮光膜として必要な高い吸収係数を得るためには、軽元素の含有量がなるべく少ないことが好ましいが、ドライエッチング時に、好ましい加工形状を得るためには、中間層の窒素と酸素の合計の含有率を前記範囲内とすることで、基板側組成傾斜層及び後述する表面側組成傾斜層との間で、遮光膜全体の膜厚、反射制御性能及び加工性能の点でバランスのよい遮光膜とすることができる。更に、上述のように、後述するクロム系材料で形成されたハードマスク膜と組み合わせて用いる際には、窒素が3原子%以上含まれることが好ましく、5原子%以上含まれることがより好ましい。
【0038】
中間層の層厚は、遮光膜全体が必要とする光学濃度に合わせて設計され、基板側組成傾斜層及び表面側組成傾斜層の、組成及び層厚に応じて設定される。特に、本発明の遮光膜では、基板側組成傾斜層の層厚を40nm以上とする場合もあるが、このような場合には、必ずしも中間層を設ける必要はなく、また、中間層を設ける場合であっても、その層厚が1nm程度でも光学濃度が2.5以上の遮光膜を、60nm以下の膜厚で実現することができる。中間層の層厚は、好ましくは48.5nm以下、より好ましくは1〜43.5nm、更に好ましくは1〜38.5nmである。
【0039】
遮光膜の表面側(基板から最も離間した側)を構成する表面側組成傾斜層は、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの2層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、層厚方向に組成が変化する層であり、露光光に対して、基板側の面で吸収係数が高く、基板から離間する側の面で吸収係数が低い層である。
【0040】
表面側組成傾斜層の層厚は1.5〜8nm、好ましくは3〜6nmである。また、表面側組成傾斜層が、単一組成の層のみを組み合わせた多層である場合には、層数は2層以上であり、層数の上限は特に限定されないが、通常5層以下である。また、表面側組成傾斜層が、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層を含む組み合わせの場合は、層数は2層以上であり、層数の上限は特に限定されないが、通常5層以下である。組成の差が大きい層同士が接する箇所ではエッチング時に、ギャップの発生のおそれがあるが、単一組成の層のみを組み合わせた2層以上の多層の構成、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層を含む構成とすることで、ギャップの発生が防止できる。特に、表面側組成傾斜層は、基板側組成傾斜層より薄いため、2層であっても、エッチング時のギャップ発生の防止の十分な効果が得られる。また、表面側組成傾斜層は、層厚が十分に薄いので、より単純な層構成である層厚方向に組成が一定である層のみの組み合わせや、組成が層厚方向に連続的に変化する層が好適に適用できる。
【0041】
表面側組成傾斜層は、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含有するケイ素材料からなり、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)は1:2〜1:9(原子比)、好ましくは1:2〜1:6(原子比)である。更に、炭素等の軽元素を含んでいてもよいが、品質の制御の上では、窒素及び酸素以外の軽元素は合計3原子%以下であることが好ましく、特に、窒素、酸素及び炭素以外の軽元素を、不純物量を超える量で含むものでないことが好ましい。
【0042】
また、表面側組成傾斜層は、透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率を10〜45原子%、好ましくは20〜40原子%とし、透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率を45〜55原子%、好ましくは45〜50原子%とする。両界面間の組成は、表面側組成傾斜層の前記層構成によって、層厚方向に断続的又は連続的に窒素と酸素の合計の組成比(窒素と酸素の合計の含有率(原子%))が変化し、層厚方向に透明基板側に向かって減少(基板から離間するに従い増加)するようになっている。更に、上述のように、後述するクロム系材料で形成されたハードマスク膜と組み合わせて用いる際には、窒素が3原子%以上含まれることが好ましく、5原子%以上含まれることがより好ましい。
【0043】
また、表面側組成傾斜層の表層部の厚さ1nm程度の範囲にあっては、製造工程中の洗浄処理や表面酸化によって酸素含有量が増加することがある。そのため、表面側組成傾斜層の表層部の前記範囲は、上述した含有率の範囲の対象外としてよい。
【0044】
表面側組成傾斜層は、基板側組成傾斜層に対して膜厚が薄く形成されるが、このようにしても、遮光膜の表面側及び裏面側の反射率を、40%を超えない割合、特に35%以下に制御することは可能である。
【0045】
本発明の最も好ましい遮光膜の態様としては、透明基板側より、層厚10〜40nmの、組成が層厚方向に連続的に変化する層で構成された基板側組成傾斜層と、層厚10〜35nmの中間層と、層厚6nm以下の表面側組成傾斜層とを有するものを挙げることができる。
【0046】
遮光膜(遮光膜を構成する各層)を形成する方法としては、スパッタリングによる方法が最も容易に均質性に優れた膜を得るため好ましく、DCスパッタリング、RFスパッタリング等のいずれの方法も用いることができ、特にDCスパッタリングが好ましい。スパッタリングによる前述のような遷移金属とケイ素を含有し、更に窒素及び/又は酸素を含有する膜の成膜方法はよく知られており、基本的には公知の方法(例えば、特許文献3:特開2007−241060号公報)に従って成膜できる。
【0047】
遷移金属とケイ素の組成比は、予め目的の組成となるように、遷移金属とケイ素との比率を調整した1種類のターゲットを用いてもよいが、複数の異なる種類のターゲットを用いて、ターゲットに加える電力によって組成比を調整してもよい。ターゲットとして具体的には、遷移金属を含有するケイ素ターゲットのみ、又は遷移金属ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせ、遷移金属を含有するケイ素ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせ、遷移金属ターゲットと遷移金属を含有するケイ素ターゲットとの組み合わせ、若しくは遷移金属ターゲットと遷移金属を含有するケイ素ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせを用いることができる。
【0048】
スパッタリングガスとしては、公知の不活性ガス、反応性ガスを用いればよいが、好ましくはアルゴンガスのみ、又はアルゴンガスと、窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス等との組み合わせによって、前述の組成が得られるように調整する。吸収係数を調整するためには、予め各層を試作して、スパッタリング条件と成膜速度とを確認し、遮光膜が必要とする遮光性を有するように、遮光膜を構成する基板側組成傾斜層、中間層及び表面側組成傾斜層のスパッタリング条件を設定し、スパッタリング条件を変化させて成膜を行えばよい。この際、段階的又は連続的に吸収係数が変化する膜を得る場合には、例えば、スパッタリングガスの組成を段階的又は連続的に変化させればよい。また、複数種類のターゲットを用いる場合には、各ターゲットに加える電力を段階的又は連続的に変化させて、遷移金属とケイ素の比を多段又は連続的に変化させることもできる。
【0049】
成膜時のガス圧は、膜の応力、耐薬品性、耐洗浄耐性などを考慮して適宜設定すればよく、通常0.01〜1Pa、特に0.03〜0.3Paとすることで、耐薬品性が向上する。更に、スパッタターゲットに投入する電力はターゲットの大きさ、冷却効率、成膜のコントロールのしやすさなどによって適宜設定すればよく、通常0.1〜5W/cm2とすればよい。
【0050】
更に、本発明のフォトマスクブランクには、遮光膜の上(表面側組成傾斜層の表面側)に、遮光膜を高精度に加工するためのクロム系材料で形成されたハードマスク膜を形成してもよい。
【0051】
クロム系材料で形成されたハードマスク膜としては、特開2007−241060号公報(特許文献3)に示されているものなどを挙げることができるが、特に高精度な加工を行うためには、ハードマスク自体も高精度に加工される必要がある。そのため、膜厚は1nm以上10nm以下であることが好ましく、また、組成は、クロムが50原子%以上100原子%以下、特に60原子%以上95原子%以下、酸素が0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上30原子%以下、窒素が0原子%以上50原子%以下、特に5原子%以上40原子%以下、炭素が0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上10原子%以下であることが好ましい。
【0052】
ハードマスク膜の成膜は、遮光膜と同様、スパッタリングにより行うことが好ましく、例えば、クロムターゲットを用い、アルゴンガスのみで行なう方法、窒素や窒素酸化物等の反応性ガスのみ、又は窒素や窒素酸化物等の反応性ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行う方法(例えば、特許文献5:特開平7−140635号公報参照)を挙げることができる。スパッタガスの流量は、膜特性に合わせて調整すればよく、成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚さ方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。
【0053】
クロム系材料のハードマスク膜を用いることにより、高精度なエッチング加工が可能となるが、上述のように、本発明の遮光膜に用いられるケイ素系材料を、全層で窒素を含むもの、特に、窒素を3原子%以上、好ましくは5原子%以上含むものとした場合には、ハードマスク膜を剥離するための、クロム系材料のドライエッチング条件において、遮光膜が形状変化しにくいため、ハードマスク膜をより有効に適用することができる。
【0054】
本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、ArF露光(波長193nmのArFエキシマレーザ光による露光)に用いるバイナリーフォトマスク用のバイナリーフォトマスクブランクとして特に好適である。また、本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、遮光膜上又はハードマスク膜上にレジスト膜を形成し、このレジスト膜からレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクパターンとして遮光膜、又はハードマスク膜及び遮光膜をエッチングし、レジスト膜及び/又はハードマスク膜を剥離することにより、バイナリーフォトマスクを製造することができるが、本発明のバイナリーフォトマスクブランクは、膜厚の薄いレジスト膜、例えば150nm以下、特に50〜120nmの厚さのレジスト膜を用いた場合であっても、高精度に遮光膜パターンを形成することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0056】
[実施例1]
石英基板上に、スパッタ法にて、ケイ素ターゲットとモリブデンシリサイドターゲットを用い、スパッタガスにアルゴンと窒素ガスを用いて、基板側組成傾斜層及び表面側組成傾斜層からなるMoSiNの遮光膜を成膜した。
【0057】
まず、Mo:Si=1:2.5(原子比)で、基板側で窒素量が29原子%、基板から離間する側で窒素量が19原子%となるように窒素ガス濃度を連続的に変えながら厚さ45nmの基板側組成傾斜層を形成した。続けて、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が38原子%となる条件で厚さ2nmの層、更に、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が47原子%となる条件で厚さ2nmの層を形成し、2層からなる表面側組成傾斜層として、バイナリーフォトマスクブランクを得た。
【0058】
得られた遮光膜の膜厚は49nmであり、波長193nmの光に対し、光学濃度ODは3.10、基板側からの光の反射率は32%、基板と離間する側からの光の反射率は34%であった。
【0059】
次に、得られたバイナリーフォトマスクブランクに、CrN膜(Cr:N=9:1(原子比))を、膜厚10nmとなるようスパッタ法で成膜した後、電子線露光用レジストを塗布して厚さ150nmのレジスト膜を形成し、電子線で露光、現像を行ってレジストの線幅120nmのライン&スペースパターンを形成した。次に、Cl2ガス(185sccm)、O2ガス(55sccm)及びHeガス(9.25sccm)をエッチングガスとしたドライエッチングを行うことによって、CrN膜をパターニングしてレジストパターンを転写し、その後に、SF6ガス(18sccm)及びO2ガス(45sccm)をエッチングガスとしたドライエッチングを行うことによって、遮光膜をドライエッチングし、その後、レジストパターンとCr膜とを除去した。
【0060】
得られた遮光膜パターンの断面形状をSEMで観察した。SEMによる観察から、垂直性のよい断面が確認された。
【0061】
[実施例2]
石英基板上に、スパッタ法にて、ケイ素ターゲットとモリブデンシリサイドターゲットを用い、スパッタガスにアルゴンと窒素ガスを用いて、基板側組成傾斜層、中間層及び表面側組成傾斜層からなるMoSiNの遮光膜を成膜した。
【0062】
まず、Mo:Si=1:2.5(原子比)で、基板側で窒素量が29原子%、基板から離間する側で窒素量が19原子%となるように窒素ガス濃度を連続的に変えながら厚さ19nmの層を基板側組成傾斜層として形成し、更に、Mo:Si=1:2.5(原子比)で、窒素量が19原子%となる条件で、厚さ25nmの層を中間層として形成した。続けて、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が38原子%となる条件で厚さ2nmの層、更に、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が47原子%となる条件で厚さ2nmの層を形成し、2層からなる表面側組成傾斜層として、バイナリーフォトマスクブランクを得た。
【0063】
得られた遮光膜の膜厚は48nmであり、波長193nmの光に対し、光学濃度ODは3.05、基板側からの光の反射率は34%、基板と離間する側からの光の反射率は34%であった。
【0064】
次に、得られたバイナリーフォトマスクブランクを用い、実施例1と同様の方法で、遮光膜パターンを形成し、その断面形状をSEMで観察した。SEM像を図2に示す。SEMによる観察から、垂直性のよい断面が確認された。
【0065】
[比較例1]
石英基板上に、スパッタ法にて、ケイ素ターゲットとモリブデンシリサイドターゲットを用い、スパッタガスにアルゴンと窒素ガスを用いて、3層からなる遮光膜を成膜した。
【0066】
まず、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が38原子%となる条件で厚さ2nmの層を形成した。続けて、Mo:Si=1:2.2(原子比)で、窒素量が0原子%となる条件で厚さ35nmの層、更に、Mo:Si=1:3.5(原子比)で、窒素量が38原子%となる条件で厚さ5nmの層を形成して、バイナリーフォトマスクブランクを得た。
【0067】
得られた遮光膜の膜厚は42nmであり、波長193nmの光に対し、光学濃度ODは3.05、基板側からの光の反射率は42%、基板と離間する側からの光の反射率は43%であった。
【0068】
次に、得られたバイナリーフォトマスクブランクを用い、実施例1と同様の方法で、遮光膜パターンを形成し、その断面形状をSEMで観察した。SEM像を図3に示す。SEMによる観察から、垂直性が低い断面が確認された。
【符号の説明】
【0069】
1 透明基板
2 遮光膜
21 基板側組成傾斜層
22 表面側組成傾斜層
23 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、光学濃度が2.5以上3.5以下の遮光膜を有するバイナリーフォトマスクブランクであって、
前記遮光膜が、透明基板側より基板側組成傾斜層と、基板から最も離間して設けられた表面側組成傾斜層とを有し、膜厚が35〜60nmであり、かつ遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料で構成され、
前記基板側組成傾斜層が、層厚が10〜58.5nmであり、窒素及び酸素の合計の含有率が層厚方向に透明基板側に向かって増加する層であり、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの3層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、前記基板側組成傾斜層を構成するケイ素系材料の組成が、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)であり、前記基板側組成傾斜層の透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が25〜40原子%、かつ透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が10〜23原子%であり、
前記表面側組成傾斜層が、層厚が1.5〜8nmであり、窒素及び酸素の合計の含有率が層厚方向に透明基板側に向かって減少する層であり、組成が層厚方向に連続的に変化する層、単一組成の層のみの2層以上の組み合わせ、単一組成の層と組成が層厚方向に連続的に変化する層との組み合わせ、又は組成が層厚方向に連続的に変化する層の組み合わせで構成され、前記表面側組成傾斜層を構成するケイ素系材料の組成が、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)であり、前記表面側組成傾斜層の透明基板側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が10〜45原子%、かつ透明基板から離間する側の界面の窒素と酸素の合計の含有率が45〜55原子%である
ことを特徴とするバイナリーフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記基板側組成傾斜層と前記表面側組成傾斜層との間に中間層を有し、該中間層が、遷移金属と窒素及び/又は酸素とを含むケイ素材料で構成され、遷移金属とケイ素の含有比(遷移金属:ケイ素)が1:2〜1:9(原子比)、かつ窒素と酸素の合計の含有率が10〜23原子%であることを特徴とする請求項1記載のバイナリーフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記基板側組成傾斜層が、その層厚方向の一部又は全部が、窒素と酸素の合計の含有率が層厚方向に連続的に変化する層であることを特徴とする請求項1又は2記載のバイナリーフォトマスクブランク。
【請求項4】
更に、前記遮光膜上にクロム系材料で形成されたハードマスク膜を有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のバイナリーフォトマスクブランク。
【請求項5】
前記遮光膜を構成する全ての層が、窒素を3原子%以上含有することを特徴とする請求項4記載のバイナリーフォトマスクブランク。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のバイナリーフォトマスクブランクに、膜厚150nm以下のレジスト膜を形成し、該レジスト膜から形成したレジストパターンを用いてマスクパターンを形成することを特徴とするバイナリーフォトマスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−53458(P2012−53458A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162793(P2011−162793)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】