バクテリアセルロースの製造方法および製造用培地
【課題】 リンゴ搾汁残渣を有効利用して、安価に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを製造することのできる培地を提供すること。
【解決手段】 窒素源となり得る第一廃棄物1から酵素糖化処理過程P1によって酵素糖化液(第一糖化液)10を、また第二廃棄物2から酵素糖化処理過程P2によって酵素糖化液(第二糖化液)20をそれぞれ得、混合処理過程P3によって第一糖化液10と第二糖化液20とを混合し、これにpH調整処理過程P4等の必要な後処理をして、培地100を構成する。第一廃棄物としてはオカラを、また第二廃棄物としてはその他の植物性廃棄物、たとえばリンゴ搾汁残渣を用いることができる。
【解決手段】 窒素源となり得る第一廃棄物1から酵素糖化処理過程P1によって酵素糖化液(第一糖化液)10を、また第二廃棄物2から酵素糖化処理過程P2によって酵素糖化液(第二糖化液)20をそれぞれ得、混合処理過程P3によって第一糖化液10と第二糖化液20とを混合し、これにpH調整処理過程P4等の必要な後処理をして、培地100を構成する。第一廃棄物としてはオカラを、また第二廃棄物としてはその他の植物性廃棄物、たとえばリンゴ搾汁残渣を用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースの製造方法および製造用培地に係り、特に、セルロース生産菌を用いて安価にバクテリアセルロースを製造可能な培地およびその製造条件を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物がセルロースを生産するという事実は、100年以上前にA.J.Brownによって報告されている。このような、微生物が生産するセルロースは、一般にバクテリアセルロースやバイオセルロースと呼ばれている(以下、「バクテリアセルロース」あるいは「BC」と称する)。1992年頃に日本で一大ブームとなった通称「ナタ・デ・ココ」は独特の食感で好まれたデザート食材であるが、その弾力を生み出しているのは、まさしく微生物によって生産されたバクテリアセルロースである。
【0003】
バクテリアセルロースは、植物由来のセルロースには見られない優れた性質を持つことで知られている。たとえば、植物セルロースがリグニンやヘミセルロースなどを含むのに対して、バクテリアセルロースは純粋なセルロースのみであること、バクテリアセルロースの繊維幅が植物セルロースに比べ、100分の1から1000分の1と言われるほど細いこと、水素結合の強さや面配向性に起因した高いヤング率を有すること、液晶を形成することなど、物質としての高付加価値的特性が存在する。
【0004】
このようなバクテリアセルロースの特性を活用し、従来から様々な利用研究が進められている。たとえば、燃料電池電解質膜への利用(向井まい他:セルロース学会第13回年次大会講演要旨集、p73、2006)、ガン診断用計測デバイスやUV対策化粧品(田渕眞理:化学と生物、45、p600−601、2007)など、工業、医療分野へ向けた開発である。
【0005】
バクテリアセルロースが実際に商品化された事例としては、スピーカ等の音響振動板に利用されたケースがある(特許第2953743号)。また、バクテリアセルロースの生産量を向上させる培地の開発も従来から進められており、多くの技術的提案がなされている(特許第2766165号、特許第2816939号、特許第3809551号、特開平5−1718、特開平7−184675、特開平7−184677、特開平8−34802、特開平9−296003、特開平10−146198、特開平11−181001、特開2000−4895、特開2005−80571)。
【0006】
しかしながら、先に述べたような利用研究の実用化を促進するためには、バクテリアセルロースの低コスト生産を可能とすることが必須の条件である。かかる観点から、食品加工廃棄物を利用したバクテリアセルロース生産技術の開発は意義の大きいテーマであるが、研究事例は未だ少ない状況である。とはいえこれまで、ビートパルプの酵素糖化によって得られたグルコースを原料としたバクテリアセルロース生産(非特許文献1)、バナナ皮、タマネギ、ニンジンの熱水抽出液やメロン皮、スイカ皮の搾汁液を培地としたバクテリアセルロース生産(非特許文献2)、キノコ生産および加工の廃棄物中に残存する水溶性糖分からのバクテリアセルロース生産(非特許文献3)などの技術が開示されている。
【0007】
【非特許文献1】樋渡和寿ほか:農産物加工廃棄物等の利用による高機能性多糖類の生合成と利用技術に関する研究 平成9年度 科学技術庁委託調査研究報告、p18−21、1998
【非特許文献2】清水祐一ほか:苫小牧工業高等専門学校紀要、No.37、p127−134、2002
【非特許文献3】玉井裕:細胞壁の構築過程を模倣した人工細胞壁の創製 平成15−17年度、p105−129、2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて本願発明者らはこれまで、リンゴ加工場から果汁製造の際に大量に排出されてコストをかけて処理されるリンゴ搾りかす、いわゆるリンゴ搾汁残渣を有効活用すること、併せてバクテリアセルロースの生産コスト低減を目的として、リンゴ搾汁残渣を糖質資源としたバクテリアセルロースの生産試験に取り組んできた。その中で、リンゴ搾汁残渣を酵素によって糖化処理して得られた糖化液を培地とした生産試験を実施した。しかし、良好な生産を得るためには酵母エキスなどの発酵栄養分を別に添加する必要があり、結局、リンゴ搾汁残渣単独ではバクテリアセルロースを生産することが困難であった(高橋匡:フードケミカル、21、p29−31、2005;高橋匡:果汁協会報、558、p1−9、2005)
【0009】
つまり、リンゴ搾汁残渣のみでは発酵栄養源としての窒素量が不足していると考えられ、何らかの方法によってこれを補う必要があった。すなわち本発明が解決しようとする課題は、リンゴ搾汁残渣を有効利用して、かつ安価に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを良好に製造することのできる培地、およびそれによるバクテリアセルロース製造方法を提供することである。
【0010】
また本発明が解決しようとする課題は、リンゴ搾汁残渣に限らず窒素量の乏しい植物性廃棄物を有効利用して、かつ安価に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを良好に製造することのできる培地、およびそれによるバクテリアセルロース製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、食品加工残渣として排出されるリンゴ搾汁残渣とオカラを酵素処理によって糖化し、その糖化液を単独もしくは混合したものをセルロース生産用の培地としてセルロース生産菌を培養することで、安価にバクテリアセルロースを生産できることを見出した。つまり、所期の目的であるバクテリアセルロースの生産コスト低減を十分に実現可能な窒素源として、同じく植物性廃棄物であるオカラを利用することによって該課題の解決手段たる本発明に至った。大豆から豆腐・豆乳を製造する際に排出されるタンパク質豊富な廃棄物であるオカラを原料として利用することは、窒素源を補うことのみならず、培地コストを抑える点でも大いに有効である。
【0012】
すなわち、本願において特許請求もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
(1) バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物を原料として含む、バクテリアセルロース製造用培地。
(2) バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(以下、「第一廃棄物」という。)、および別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(以下、「第二廃棄物」という。)を原料とする、バクテリアセルロース製造用培地。
(3) 前記第一廃棄物はオカラであることを特徴とする、(1)または(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(4) 前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物は植物体可食部からの搾汁残渣であることを特徴とする、(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(5) 前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物はリンゴ果実搾汁残渣であることを特徴とする、(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【0013】
(6) 前記第一廃棄物から酵素糖化液(以下、「第一糖化液」という。)を得、前記第二廃棄物から酵素糖化液(以下、「第二糖化液」という。)を得、該第一糖化液と該第二糖化液とを混合して調製されることを特徴とする、(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(7) 前記第一糖化液は、前記第二糖化液の25重量%以上用いられることを特徴とする、(6)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(8) 前記第一廃棄物と前記第二廃棄物の混合物から酵素糖化液を製造することを特徴とする、(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(9) (1)ないし(8)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地を用いてセルロース生産菌を培養し、バクテリアセルロースを得る、バクテリアセルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバクテリアセルロース製造方法および製造用培地は以上のように構成されるため、これによれば、リンゴ搾汁残渣、またはその他の窒素量の乏しい植物性廃棄物を有効利用して、安価かつ良好に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを製造することができる。
【0015】
特にリンゴ搾汁残渣を用いる場合についていえば、本発明は、リンゴ加工場から排出されるリンゴ搾汁残渣と、豆腐加工場から排出されるオカラとをバクテリアセルロース生産の培地として利用することにより、低コストでバクテリアセルロースを製造でき、かつ産業廃棄物を再利用することにより環境負荷の軽減に寄与することができる。
【0016】
なおまた本発明では、糖化酵素としてセルラーゼを使用して、植物細胞壁を微生物が資化できる低分子の糖質に酵素分解している。酸分解法と異なり酵素処理法を実施することで、その後の廃液処理も不要であり、同時に廃棄物の固形物量低減により、環境負荷の軽減につながることから、環境にやさしく、分解後の後処理といった特段の工程および設備も不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明のバクテリアセルロース製造用培地は、原料として、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(第一廃棄物)を用いること、あるいは第一廃棄物に加えて、別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(第二廃棄物)も用いることを、基本的な構成とする。
【0018】
第一廃棄物は、酵素糖化可能であること、および窒素源となることが要件であり、豆腐・豆乳製造過程において発生する廃棄物であるオカラを、好適に用いることができる。第一廃棄物は酵素処理によって糖化するものであるため、糖質源と窒素源を兼ね、それ単独でバクテリアセルロースの培地原料として用いることもできる。なお、本発明の第一廃棄物としてはその他、たとえばゴマ・ナタネ・ベニバナ・ヒマワリといった油糧種子の搾油残渣等も窒素源となるため、要件を満たす。
【0019】
第二廃棄物は、酵素糖化可能であることが要件である。第二廃棄物が良好な窒素源とならない場合でも、上記第一廃棄物を併用することによって、セルロース生産菌による良好なバクテリアセルロース生産が得られ、かつ廃棄物利用によって安価な培地とすることができる。
【0020】
第二廃棄物としては、たとえばリンゴ搾汁残渣を好適に用いることができる。上述の通り、リンゴ搾汁残渣単独では生育良好なバクテリアセルロース製造用培地を得ることは困難であるが、窒素源たり得る第一廃棄物と併せ用いることによって、リンゴ搾汁残渣を培地原料として利用することが充分に可能である。なお、本発明の第二廃棄物としてはリンゴ搾汁残渣の他、広く植物体可食部からの搾汁残渣や、その他の植物性の廃棄物も該当する。つまり、酵素糖化可能な、換言すれば糖質源となり得る廃棄物であれば、食品加工過程から産出するものも、食品加工以外の加工過程から産出するものも、あるいは生産時・収穫時・出荷時等加工以外の過程から産出するものも、本発明の第二廃棄物に該当する。
【0021】
ここで植物体可食部とは、果実・野菜・穀類・豆類・山菜類その他食用になる植物体における可食部をいう。特に果実では、リンゴ・ナシ・モモ・ブドウ・ミカン・ナツミカン・その他柑橘類・セイヨウナシ・カキ・クリ・オウトウ・ウメ・バナナ・パインアップル・ブルーベリー・カシス・キウイフルーツその他の果実、また野菜では、イチゴ・スイカ・メロン等の果実的野菜、トマト・カボチャ・エダマメ・スイートコーン等の果菜類、ホウレンソウ・ニンニク・タマネギ等の葉茎菜類、ニンジン・ビート・ゴボウ・ナガイモ・その他のヤマノイモ属・ヤーコン等の根菜類、ショウガ等の香辛野菜、等における各可食部をいう。
【0022】
なおまた、植物体可食部の搾汁残渣以外の廃棄物も、糖質源となり得る限り、本発明の第二廃棄物に該当する。たとえば可食部から分離されるリンゴ・パインナップルの芯・皮、クリ・ミカン・バナナ・メロン・スイカ・カボチャ・ナガイモの皮、ニンジン・ゴボウ・ダイコンの葉・皮、スイートコーンの皮・芯等、広く該当する。さらに、非食用の植物体の廃棄物も含む。たとえば、花き類の葉・茎・根、等である。また、キノコ生産・加工時において生じる廃棄物等、菌類由来の加工廃棄物も該当する。
【0023】
図1は、本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の一例を示す基本フロー図である。図示するように、第一廃棄物および第二廃棄物の両方を用いて培地を調製、製造する場合、第一廃棄物1から酵素糖化処理過程P1によって酵素糖化液(第一糖化液)10を、また第二廃棄物2から酵素糖化処理過程P2によって酵素糖化液(第二糖化液)20をそれぞれ得、混合処理過程P3によって第一糖化液10と第二糖化液20とを混合し、これにpH調整処理過程P4等の必要な後処理をして、培地100を構成するものとすることができる。
【0024】
なお図1−2は、追って詳述する実施例におけるバクテリアセルロース製造過程を詳細に示すフロー図である(なお、図中「スミチーム」は登録商標)。
【0025】
一方、これとは異なる方法で培地を製造することもできる。
図2は、本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の他の例を示す基本フロー図である。図示するように、第一廃棄物1と第二廃棄物2を必要に応じて前処理を施した後でこれらを混合処理過程P21において混合し、得られた混合物23から酵素糖化処理過程P22により酵素糖化液24を得て、これにpH調整処理過程P23等の必要な後処理をして、培地200を構成するものとしてもよい。
【0026】
なお図2−2は、図2に示した基本フローに基づくバクテリアセルロース製造過程の例を示すフロー図である(なお、図中「スミチーム」は登録商標)。また、
図2−3は、図2に示す製造方法における、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比によるバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。これらに図示するように、図2に示す製造方法でも、一定のバクテリアセルロース生産を得ることができる。
【実施例】
【0027】
本発明のバクテリアセルロース製造用培地は、特に第一廃棄物としてオカラを、第二廃棄物としてリンゴ果実搾汁残渣を用いるものとすることができる。以下、かかる実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
まず、セルロース生産菌として酢酸菌の一種、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)を用い、好ましくはGluconacetobacter xylinus NBRC16682株を使用することでバクテリアセルロースの生産量が増加する。
【0029】
バクテリアセルロース生産菌は液体培地で前培養を行い、菌数を増やした後に使用するが、このときの培地には、前記Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株の分譲元である独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)で推奨するポリペプトン、イーストエキストラクト、グルコース、マンニトール、硫酸マグネシウム7水和物、エタノールで組成されるMediumNo.350(表1)を、好適に使用することができた。ただしこれに限定されるものではなく、セルロース生産菌の増菌が確認できるものであれば、いかなる培地を使用してもよい。
【0030】
【表1】
【0031】
MediumNo.350を培地として使用し、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株を30℃の下で振とう培養した培養液をバクテリアセルロース生産の種菌として使用した。
【0032】
本発明において供試菌株としたGluconacetobacter xylinus NBRC16682株では、MediumNo.350を培地とした場合、pHが3から7の範囲でバクテリアセルロースの生産が確認され、特にpH5から7の範囲で生産量が増大した。
【0033】
一方、リンゴ搾汁残渣ならびにオカラを液体培地として利用するために、酵素処理前処理として、リンゴ搾汁残渣に対しては湿重量比で等量の加水を、オカラに対しては湿重量比で4倍量の加水をし、ミキサーで粉砕した後にオートクレーブ処理(121℃、20min)した。その後、セルラーゼ系の糖化酵素を残渣湿重量比で0.5(w/w)%加えて40℃の下で振とう処理し、遠心分離した上澄み液を濾過して糖化液を回収した。この操作によって液化が進み、細胞壁多糖が酵素分解されるため、リンゴ搾汁残渣およびオカラの容積が減り、次第にグルコースなどの水溶性糖類が増加した糖化液を回収することができた。
【0034】
その後、糖化液を任意の割合で混合し、pHを5から7に調整し、滅菌後に種菌を培地の2%相当接種し、30℃の下で1週間静置培養し、バクテリアセルロースの生産を行った。セルロース生産菌は糖質や窒素源その他無機成分などを栄養源として、菌体外にセルロースを産出し、徐々に培地表面から白色のバクテリアセルロースを形成した。
【0035】
得られたバクテリアセルロースは培地成分や菌体を含んでいることから、たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液などによって不純物を除去することで、精製されたバクテリアセルロースを得ることができた。その結果、リンゴ搾汁残渣による糖化液(以下、「リンゴ搾汁残渣糖化液」、または「リンゴ残渣糖化液」という。)およびオカラによる糖化液(以下、「オカラ糖化液」という。)の混合比率が3:1以上から生産が増加し、オカラ糖化液100%の培地でも生産を確認した。両者の混合比率は、好ましくは1:1から1:2付近であり、このときバクテリアセルロースの生産量が極大となった。このことから、第一糖化液(ここではオカラ由来の酵素糖化液)は、第二糖化液(同じく、リンゴ搾汁残渣由来の酵素糖化液)の25重量%以上用いることを、培地製造の目安とすることができると考えられる。
【0036】
<セルロース生産菌の選抜>
バクテリアセルロースの生産量を向上させるため、高生産能を有するセルロース生産菌を選抜することは必須である。そこで、表2に示したセルロース生産菌を供試菌株とし、それぞれ冷蔵保存してある斜面スラントから2白金耳をMediumNo.350(20ml)に植菌し、30℃の下で3日間振とう培養した(前培養液)。これとは別に調製したMediumNo.350をpH3、5、7、9、11に調整し、滅菌したものをBC生産培地とした(滅菌シャーレに5ml分注)。これに前培養液100μlを接種し、30℃の下1週間静置培養した。
【0037】
【表2】
【0038】
1週間後、生産されたバクテリアセルロースを回収し、2%SDS水溶液や4%NaOH水溶液で洗浄を繰り返し、含浸した培地や菌体を除去したうえで、ガラスフィルターでろ過し水洗後に乾燥重量を測定した。
表3は、各供試菌株による各pHごとのバクテリアセルロース生産量平均値を示すものである(バクテリアセルロース生産量の単位:mg)。なお、表中「BC」はバクテリアセルロースを指す。以下の各図表も同様である。また図3は、表3をグラフ化したものである。これらに示されるように、NBRC16682株(表中の第5番目菌株)において最もバクテリアセルロースの生産量が多く、pH5から7の範囲で高い生産が確認された。
【0039】
【表3】
【0040】
<セルロース生産菌の前培養>
続いて、バクテリアセルロース生産試験に使用する生産菌の前培養を行った。ここでは、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株、および、過去の試験(高橋匡:フードケミカル、21、p29−31、2005;高橋匡:果汁協会報、558、p1−9、2005)で使用していたGluconacetobacter xylinus NBRC13693株(従来株)を供試菌株とし、それぞれ冷蔵保存してある斜面スラントから2白金耳をMediumNo.350(20ml)に植菌し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC:新日本化学工業株式会社)1.0(w/v)%相当を添加し、30℃の下約24時間振とう培養した(前培養液1)。この前培養液1から新たなMediumNo.350(100ml)に5ml接種し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)1.0(w/v)%を添加し、30℃の下3日間振とう培養した(前培養液2)。
【0041】
<リンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化>
一方、リンゴ搾汁残渣湿重量1に対し水1を加え、ミキサーで破砕した等量加水残渣700g(残渣350g相当、水350g相当)をオートクレーブ処理(121℃、20min)したのち、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)1.75g(残渣湿重量比0.5%相当)を加え、40℃の下で振とう処理した。なお、pHは未調整とし、このとき4.3であった。また、オカラ1に対し水4を加え、ミキサーで破砕した4倍量加水オカラ570g(オカラ114g相当、水456g相当)をpH7.3から4.3に調整したのち、オートクレーブ処理(121℃、20min)し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)0.57g(オカラ湿重量比0.5%相当)を加え、40℃の下で振とう処理した。それぞれ12時間経過時で液化を確認したうえで酵素処理終了とし、その後、酵素失活のためにオートクレーブ処理(121℃、5min)した。その後、リンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化液を遠心分離(15,200×g、30min)し、その上澄み液を定性ろ紙No.2を使い吸引ろ過することで糖化液を得た。このとき回収された糖化液はリンゴ搾汁残渣では564g、オカラでは484gであった。
【0042】
<BC生産培地の調製およびBC生産>
このようにして得られたリンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化液を表4に示す混合比率にて混合し、pHを6.8から6.9の範囲に調整し、オートクレーブ処理(121℃、20min)で滅菌し、培地とした。各培地を滅菌シャーレに5mlずつ分注し、これに前培養液2から100μlを接種し、30℃の下1週間静置培養した。
【0043】
【表4】
【0044】
得られたバクテリアセルロースは2%SDS水溶液や4%NaOH水溶液で洗浄を繰り返し、ガラスフィルターでろ過し水洗後に乾燥して重量を測定し、これをバクテリアセルロース生産量とした。
表5は、供試菌株ごと、各糖化液混合比ごとのバクテリアセルロース生産量平均値を示すものである。表において、バクテリアセルロース生産量の単位はmg、また各糖化液の混合比は、糖化液総量100ml中のオカラ糖化液量(ml)にて示した(前掲表4参照)。また図4は、表5をグラフ化したものである。
【0045】
【表5】
【0046】
これらに示されるように、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株の場合には、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比率が3:1から1:1の間でバクテリアセルロースの生産が増加し、1:1から1:2付近において生産量が極大となり、オカラ糖化液100%の培地でも生産を確認した。また同混合比率が5:1以下ではバクテリアセルロースが生産されなかった。一方、従来使用してきたNBRC13693株ではバクテリアセルロースの生産量が低く、オカラ糖化液100%の培地では生産されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
セルロースの純度、繊維幅、ヤング率、液晶形成能等の点で優れた特性を備える素材であるバクテリアセルロースは、食品製造・医療・その他工業全般に亘り、今後ますますその応用分野の拡大が進むものと考えられる。本発明によれば、リンゴ搾汁残渣等の植物性・あるいは菌類由来の廃棄物を有効利用して、安価にバクテリアセルロースを製造することができる。これは、コストをかけて処理せざるを得ない廃棄物の有効利用ともなる。また、従来の酸分解法とは異なって酵素処理法によるため廃液処理も不要であり、同時に廃棄物の固形物量も低減されるため環境負荷低減につなる。したがって、産業上の利用性が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の一例を示す基本フロー図である。
【図1−2】実施例におけるバクテリアセルロース製造過程を示すフロー図である。
【図2】本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の他の例を示す基本フロー図である。
【図2−2】図2に示した基本フローに基づくバクテリアセルロース製造過程の例を示すフロー図である。
【図2−3】図2に示す製造方法における、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比によるバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。
【図3】各供試菌株による各pHごとのバクテリアセルロース生産量を示すグラフである
【図4】供試菌株ごと、各糖化液混合比ごとのバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1…第一廃棄物
2…第二廃棄物
10…酵素糖化液(第一糖化液)
20…酵素糖化液(第二糖化液)
23…混合物
24…酵素糖化液
100、200…バクテリアセルロース製造用培地
P1、P2、P22…酵素糖化処理過程
P3…混合処理過程
P4、P23…pH調整処理過程
P21…混合処理過程
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースの製造方法および製造用培地に係り、特に、セルロース生産菌を用いて安価にバクテリアセルロースを製造可能な培地およびその製造条件を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物がセルロースを生産するという事実は、100年以上前にA.J.Brownによって報告されている。このような、微生物が生産するセルロースは、一般にバクテリアセルロースやバイオセルロースと呼ばれている(以下、「バクテリアセルロース」あるいは「BC」と称する)。1992年頃に日本で一大ブームとなった通称「ナタ・デ・ココ」は独特の食感で好まれたデザート食材であるが、その弾力を生み出しているのは、まさしく微生物によって生産されたバクテリアセルロースである。
【0003】
バクテリアセルロースは、植物由来のセルロースには見られない優れた性質を持つことで知られている。たとえば、植物セルロースがリグニンやヘミセルロースなどを含むのに対して、バクテリアセルロースは純粋なセルロースのみであること、バクテリアセルロースの繊維幅が植物セルロースに比べ、100分の1から1000分の1と言われるほど細いこと、水素結合の強さや面配向性に起因した高いヤング率を有すること、液晶を形成することなど、物質としての高付加価値的特性が存在する。
【0004】
このようなバクテリアセルロースの特性を活用し、従来から様々な利用研究が進められている。たとえば、燃料電池電解質膜への利用(向井まい他:セルロース学会第13回年次大会講演要旨集、p73、2006)、ガン診断用計測デバイスやUV対策化粧品(田渕眞理:化学と生物、45、p600−601、2007)など、工業、医療分野へ向けた開発である。
【0005】
バクテリアセルロースが実際に商品化された事例としては、スピーカ等の音響振動板に利用されたケースがある(特許第2953743号)。また、バクテリアセルロースの生産量を向上させる培地の開発も従来から進められており、多くの技術的提案がなされている(特許第2766165号、特許第2816939号、特許第3809551号、特開平5−1718、特開平7−184675、特開平7−184677、特開平8−34802、特開平9−296003、特開平10−146198、特開平11−181001、特開2000−4895、特開2005−80571)。
【0006】
しかしながら、先に述べたような利用研究の実用化を促進するためには、バクテリアセルロースの低コスト生産を可能とすることが必須の条件である。かかる観点から、食品加工廃棄物を利用したバクテリアセルロース生産技術の開発は意義の大きいテーマであるが、研究事例は未だ少ない状況である。とはいえこれまで、ビートパルプの酵素糖化によって得られたグルコースを原料としたバクテリアセルロース生産(非特許文献1)、バナナ皮、タマネギ、ニンジンの熱水抽出液やメロン皮、スイカ皮の搾汁液を培地としたバクテリアセルロース生産(非特許文献2)、キノコ生産および加工の廃棄物中に残存する水溶性糖分からのバクテリアセルロース生産(非特許文献3)などの技術が開示されている。
【0007】
【非特許文献1】樋渡和寿ほか:農産物加工廃棄物等の利用による高機能性多糖類の生合成と利用技術に関する研究 平成9年度 科学技術庁委託調査研究報告、p18−21、1998
【非特許文献2】清水祐一ほか:苫小牧工業高等専門学校紀要、No.37、p127−134、2002
【非特許文献3】玉井裕:細胞壁の構築過程を模倣した人工細胞壁の創製 平成15−17年度、p105−129、2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて本願発明者らはこれまで、リンゴ加工場から果汁製造の際に大量に排出されてコストをかけて処理されるリンゴ搾りかす、いわゆるリンゴ搾汁残渣を有効活用すること、併せてバクテリアセルロースの生産コスト低減を目的として、リンゴ搾汁残渣を糖質資源としたバクテリアセルロースの生産試験に取り組んできた。その中で、リンゴ搾汁残渣を酵素によって糖化処理して得られた糖化液を培地とした生産試験を実施した。しかし、良好な生産を得るためには酵母エキスなどの発酵栄養分を別に添加する必要があり、結局、リンゴ搾汁残渣単独ではバクテリアセルロースを生産することが困難であった(高橋匡:フードケミカル、21、p29−31、2005;高橋匡:果汁協会報、558、p1−9、2005)
【0009】
つまり、リンゴ搾汁残渣のみでは発酵栄養源としての窒素量が不足していると考えられ、何らかの方法によってこれを補う必要があった。すなわち本発明が解決しようとする課題は、リンゴ搾汁残渣を有効利用して、かつ安価に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを良好に製造することのできる培地、およびそれによるバクテリアセルロース製造方法を提供することである。
【0010】
また本発明が解決しようとする課題は、リンゴ搾汁残渣に限らず窒素量の乏しい植物性廃棄物を有効利用して、かつ安価に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを良好に製造することのできる培地、およびそれによるバクテリアセルロース製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、食品加工残渣として排出されるリンゴ搾汁残渣とオカラを酵素処理によって糖化し、その糖化液を単独もしくは混合したものをセルロース生産用の培地としてセルロース生産菌を培養することで、安価にバクテリアセルロースを生産できることを見出した。つまり、所期の目的であるバクテリアセルロースの生産コスト低減を十分に実現可能な窒素源として、同じく植物性廃棄物であるオカラを利用することによって該課題の解決手段たる本発明に至った。大豆から豆腐・豆乳を製造する際に排出されるタンパク質豊富な廃棄物であるオカラを原料として利用することは、窒素源を補うことのみならず、培地コストを抑える点でも大いに有効である。
【0012】
すなわち、本願において特許請求もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
(1) バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物を原料として含む、バクテリアセルロース製造用培地。
(2) バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(以下、「第一廃棄物」という。)、および別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(以下、「第二廃棄物」という。)を原料とする、バクテリアセルロース製造用培地。
(3) 前記第一廃棄物はオカラであることを特徴とする、(1)または(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(4) 前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物は植物体可食部からの搾汁残渣であることを特徴とする、(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(5) 前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物はリンゴ果実搾汁残渣であることを特徴とする、(2)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【0013】
(6) 前記第一廃棄物から酵素糖化液(以下、「第一糖化液」という。)を得、前記第二廃棄物から酵素糖化液(以下、「第二糖化液」という。)を得、該第一糖化液と該第二糖化液とを混合して調製されることを特徴とする、(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(7) 前記第一糖化液は、前記第二糖化液の25重量%以上用いられることを特徴とする、(6)に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(8) 前記第一廃棄物と前記第二廃棄物の混合物から酵素糖化液を製造することを特徴とする、(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
(9) (1)ないし(8)のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地を用いてセルロース生産菌を培養し、バクテリアセルロースを得る、バクテリアセルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバクテリアセルロース製造方法および製造用培地は以上のように構成されるため、これによれば、リンゴ搾汁残渣、またはその他の窒素量の乏しい植物性廃棄物を有効利用して、安価かつ良好に、セルロース生産菌によるバクテリアセルロースを製造することができる。
【0015】
特にリンゴ搾汁残渣を用いる場合についていえば、本発明は、リンゴ加工場から排出されるリンゴ搾汁残渣と、豆腐加工場から排出されるオカラとをバクテリアセルロース生産の培地として利用することにより、低コストでバクテリアセルロースを製造でき、かつ産業廃棄物を再利用することにより環境負荷の軽減に寄与することができる。
【0016】
なおまた本発明では、糖化酵素としてセルラーゼを使用して、植物細胞壁を微生物が資化できる低分子の糖質に酵素分解している。酸分解法と異なり酵素処理法を実施することで、その後の廃液処理も不要であり、同時に廃棄物の固形物量低減により、環境負荷の軽減につながることから、環境にやさしく、分解後の後処理といった特段の工程および設備も不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明のバクテリアセルロース製造用培地は、原料として、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(第一廃棄物)を用いること、あるいは第一廃棄物に加えて、別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(第二廃棄物)も用いることを、基本的な構成とする。
【0018】
第一廃棄物は、酵素糖化可能であること、および窒素源となることが要件であり、豆腐・豆乳製造過程において発生する廃棄物であるオカラを、好適に用いることができる。第一廃棄物は酵素処理によって糖化するものであるため、糖質源と窒素源を兼ね、それ単独でバクテリアセルロースの培地原料として用いることもできる。なお、本発明の第一廃棄物としてはその他、たとえばゴマ・ナタネ・ベニバナ・ヒマワリといった油糧種子の搾油残渣等も窒素源となるため、要件を満たす。
【0019】
第二廃棄物は、酵素糖化可能であることが要件である。第二廃棄物が良好な窒素源とならない場合でも、上記第一廃棄物を併用することによって、セルロース生産菌による良好なバクテリアセルロース生産が得られ、かつ廃棄物利用によって安価な培地とすることができる。
【0020】
第二廃棄物としては、たとえばリンゴ搾汁残渣を好適に用いることができる。上述の通り、リンゴ搾汁残渣単独では生育良好なバクテリアセルロース製造用培地を得ることは困難であるが、窒素源たり得る第一廃棄物と併せ用いることによって、リンゴ搾汁残渣を培地原料として利用することが充分に可能である。なお、本発明の第二廃棄物としてはリンゴ搾汁残渣の他、広く植物体可食部からの搾汁残渣や、その他の植物性の廃棄物も該当する。つまり、酵素糖化可能な、換言すれば糖質源となり得る廃棄物であれば、食品加工過程から産出するものも、食品加工以外の加工過程から産出するものも、あるいは生産時・収穫時・出荷時等加工以外の過程から産出するものも、本発明の第二廃棄物に該当する。
【0021】
ここで植物体可食部とは、果実・野菜・穀類・豆類・山菜類その他食用になる植物体における可食部をいう。特に果実では、リンゴ・ナシ・モモ・ブドウ・ミカン・ナツミカン・その他柑橘類・セイヨウナシ・カキ・クリ・オウトウ・ウメ・バナナ・パインアップル・ブルーベリー・カシス・キウイフルーツその他の果実、また野菜では、イチゴ・スイカ・メロン等の果実的野菜、トマト・カボチャ・エダマメ・スイートコーン等の果菜類、ホウレンソウ・ニンニク・タマネギ等の葉茎菜類、ニンジン・ビート・ゴボウ・ナガイモ・その他のヤマノイモ属・ヤーコン等の根菜類、ショウガ等の香辛野菜、等における各可食部をいう。
【0022】
なおまた、植物体可食部の搾汁残渣以外の廃棄物も、糖質源となり得る限り、本発明の第二廃棄物に該当する。たとえば可食部から分離されるリンゴ・パインナップルの芯・皮、クリ・ミカン・バナナ・メロン・スイカ・カボチャ・ナガイモの皮、ニンジン・ゴボウ・ダイコンの葉・皮、スイートコーンの皮・芯等、広く該当する。さらに、非食用の植物体の廃棄物も含む。たとえば、花き類の葉・茎・根、等である。また、キノコ生産・加工時において生じる廃棄物等、菌類由来の加工廃棄物も該当する。
【0023】
図1は、本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の一例を示す基本フロー図である。図示するように、第一廃棄物および第二廃棄物の両方を用いて培地を調製、製造する場合、第一廃棄物1から酵素糖化処理過程P1によって酵素糖化液(第一糖化液)10を、また第二廃棄物2から酵素糖化処理過程P2によって酵素糖化液(第二糖化液)20をそれぞれ得、混合処理過程P3によって第一糖化液10と第二糖化液20とを混合し、これにpH調整処理過程P4等の必要な後処理をして、培地100を構成するものとすることができる。
【0024】
なお図1−2は、追って詳述する実施例におけるバクテリアセルロース製造過程を詳細に示すフロー図である(なお、図中「スミチーム」は登録商標)。
【0025】
一方、これとは異なる方法で培地を製造することもできる。
図2は、本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の他の例を示す基本フロー図である。図示するように、第一廃棄物1と第二廃棄物2を必要に応じて前処理を施した後でこれらを混合処理過程P21において混合し、得られた混合物23から酵素糖化処理過程P22により酵素糖化液24を得て、これにpH調整処理過程P23等の必要な後処理をして、培地200を構成するものとしてもよい。
【0026】
なお図2−2は、図2に示した基本フローに基づくバクテリアセルロース製造過程の例を示すフロー図である(なお、図中「スミチーム」は登録商標)。また、
図2−3は、図2に示す製造方法における、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比によるバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。これらに図示するように、図2に示す製造方法でも、一定のバクテリアセルロース生産を得ることができる。
【実施例】
【0027】
本発明のバクテリアセルロース製造用培地は、特に第一廃棄物としてオカラを、第二廃棄物としてリンゴ果実搾汁残渣を用いるものとすることができる。以下、かかる実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
まず、セルロース生産菌として酢酸菌の一種、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)を用い、好ましくはGluconacetobacter xylinus NBRC16682株を使用することでバクテリアセルロースの生産量が増加する。
【0029】
バクテリアセルロース生産菌は液体培地で前培養を行い、菌数を増やした後に使用するが、このときの培地には、前記Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株の分譲元である独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)で推奨するポリペプトン、イーストエキストラクト、グルコース、マンニトール、硫酸マグネシウム7水和物、エタノールで組成されるMediumNo.350(表1)を、好適に使用することができた。ただしこれに限定されるものではなく、セルロース生産菌の増菌が確認できるものであれば、いかなる培地を使用してもよい。
【0030】
【表1】
【0031】
MediumNo.350を培地として使用し、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株を30℃の下で振とう培養した培養液をバクテリアセルロース生産の種菌として使用した。
【0032】
本発明において供試菌株としたGluconacetobacter xylinus NBRC16682株では、MediumNo.350を培地とした場合、pHが3から7の範囲でバクテリアセルロースの生産が確認され、特にpH5から7の範囲で生産量が増大した。
【0033】
一方、リンゴ搾汁残渣ならびにオカラを液体培地として利用するために、酵素処理前処理として、リンゴ搾汁残渣に対しては湿重量比で等量の加水を、オカラに対しては湿重量比で4倍量の加水をし、ミキサーで粉砕した後にオートクレーブ処理(121℃、20min)した。その後、セルラーゼ系の糖化酵素を残渣湿重量比で0.5(w/w)%加えて40℃の下で振とう処理し、遠心分離した上澄み液を濾過して糖化液を回収した。この操作によって液化が進み、細胞壁多糖が酵素分解されるため、リンゴ搾汁残渣およびオカラの容積が減り、次第にグルコースなどの水溶性糖類が増加した糖化液を回収することができた。
【0034】
その後、糖化液を任意の割合で混合し、pHを5から7に調整し、滅菌後に種菌を培地の2%相当接種し、30℃の下で1週間静置培養し、バクテリアセルロースの生産を行った。セルロース生産菌は糖質や窒素源その他無機成分などを栄養源として、菌体外にセルロースを産出し、徐々に培地表面から白色のバクテリアセルロースを形成した。
【0035】
得られたバクテリアセルロースは培地成分や菌体を含んでいることから、たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液などによって不純物を除去することで、精製されたバクテリアセルロースを得ることができた。その結果、リンゴ搾汁残渣による糖化液(以下、「リンゴ搾汁残渣糖化液」、または「リンゴ残渣糖化液」という。)およびオカラによる糖化液(以下、「オカラ糖化液」という。)の混合比率が3:1以上から生産が増加し、オカラ糖化液100%の培地でも生産を確認した。両者の混合比率は、好ましくは1:1から1:2付近であり、このときバクテリアセルロースの生産量が極大となった。このことから、第一糖化液(ここではオカラ由来の酵素糖化液)は、第二糖化液(同じく、リンゴ搾汁残渣由来の酵素糖化液)の25重量%以上用いることを、培地製造の目安とすることができると考えられる。
【0036】
<セルロース生産菌の選抜>
バクテリアセルロースの生産量を向上させるため、高生産能を有するセルロース生産菌を選抜することは必須である。そこで、表2に示したセルロース生産菌を供試菌株とし、それぞれ冷蔵保存してある斜面スラントから2白金耳をMediumNo.350(20ml)に植菌し、30℃の下で3日間振とう培養した(前培養液)。これとは別に調製したMediumNo.350をpH3、5、7、9、11に調整し、滅菌したものをBC生産培地とした(滅菌シャーレに5ml分注)。これに前培養液100μlを接種し、30℃の下1週間静置培養した。
【0037】
【表2】
【0038】
1週間後、生産されたバクテリアセルロースを回収し、2%SDS水溶液や4%NaOH水溶液で洗浄を繰り返し、含浸した培地や菌体を除去したうえで、ガラスフィルターでろ過し水洗後に乾燥重量を測定した。
表3は、各供試菌株による各pHごとのバクテリアセルロース生産量平均値を示すものである(バクテリアセルロース生産量の単位:mg)。なお、表中「BC」はバクテリアセルロースを指す。以下の各図表も同様である。また図3は、表3をグラフ化したものである。これらに示されるように、NBRC16682株(表中の第5番目菌株)において最もバクテリアセルロースの生産量が多く、pH5から7の範囲で高い生産が確認された。
【0039】
【表3】
【0040】
<セルロース生産菌の前培養>
続いて、バクテリアセルロース生産試験に使用する生産菌の前培養を行った。ここでは、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株、および、過去の試験(高橋匡:フードケミカル、21、p29−31、2005;高橋匡:果汁協会報、558、p1−9、2005)で使用していたGluconacetobacter xylinus NBRC13693株(従来株)を供試菌株とし、それぞれ冷蔵保存してある斜面スラントから2白金耳をMediumNo.350(20ml)に植菌し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC:新日本化学工業株式会社)1.0(w/v)%相当を添加し、30℃の下約24時間振とう培養した(前培養液1)。この前培養液1から新たなMediumNo.350(100ml)に5ml接種し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)1.0(w/v)%を添加し、30℃の下3日間振とう培養した(前培養液2)。
【0041】
<リンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化>
一方、リンゴ搾汁残渣湿重量1に対し水1を加え、ミキサーで破砕した等量加水残渣700g(残渣350g相当、水350g相当)をオートクレーブ処理(121℃、20min)したのち、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)1.75g(残渣湿重量比0.5%相当)を加え、40℃の下で振とう処理した。なお、pHは未調整とし、このとき4.3であった。また、オカラ1に対し水4を加え、ミキサーで破砕した4倍量加水オカラ570g(オカラ114g相当、水456g相当)をpH7.3から4.3に調整したのち、オートクレーブ処理(121℃、20min)し、10分間UV照射により殺菌処理したセルラーゼ(スミチーム〈登録商標〉AC)0.57g(オカラ湿重量比0.5%相当)を加え、40℃の下で振とう処理した。それぞれ12時間経過時で液化を確認したうえで酵素処理終了とし、その後、酵素失活のためにオートクレーブ処理(121℃、5min)した。その後、リンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化液を遠心分離(15,200×g、30min)し、その上澄み液を定性ろ紙No.2を使い吸引ろ過することで糖化液を得た。このとき回収された糖化液はリンゴ搾汁残渣では564g、オカラでは484gであった。
【0042】
<BC生産培地の調製およびBC生産>
このようにして得られたリンゴ搾汁残渣およびオカラの糖化液を表4に示す混合比率にて混合し、pHを6.8から6.9の範囲に調整し、オートクレーブ処理(121℃、20min)で滅菌し、培地とした。各培地を滅菌シャーレに5mlずつ分注し、これに前培養液2から100μlを接種し、30℃の下1週間静置培養した。
【0043】
【表4】
【0044】
得られたバクテリアセルロースは2%SDS水溶液や4%NaOH水溶液で洗浄を繰り返し、ガラスフィルターでろ過し水洗後に乾燥して重量を測定し、これをバクテリアセルロース生産量とした。
表5は、供試菌株ごと、各糖化液混合比ごとのバクテリアセルロース生産量平均値を示すものである。表において、バクテリアセルロース生産量の単位はmg、また各糖化液の混合比は、糖化液総量100ml中のオカラ糖化液量(ml)にて示した(前掲表4参照)。また図4は、表5をグラフ化したものである。
【0045】
【表5】
【0046】
これらに示されるように、Gluconacetobacter xylinus NBRC16682株の場合には、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比率が3:1から1:1の間でバクテリアセルロースの生産が増加し、1:1から1:2付近において生産量が極大となり、オカラ糖化液100%の培地でも生産を確認した。また同混合比率が5:1以下ではバクテリアセルロースが生産されなかった。一方、従来使用してきたNBRC13693株ではバクテリアセルロースの生産量が低く、オカラ糖化液100%の培地では生産されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
セルロースの純度、繊維幅、ヤング率、液晶形成能等の点で優れた特性を備える素材であるバクテリアセルロースは、食品製造・医療・その他工業全般に亘り、今後ますますその応用分野の拡大が進むものと考えられる。本発明によれば、リンゴ搾汁残渣等の植物性・あるいは菌類由来の廃棄物を有効利用して、安価にバクテリアセルロースを製造することができる。これは、コストをかけて処理せざるを得ない廃棄物の有効利用ともなる。また、従来の酸分解法とは異なって酵素処理法によるため廃液処理も不要であり、同時に廃棄物の固形物量も低減されるため環境負荷低減につなる。したがって、産業上の利用性が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の一例を示す基本フロー図である。
【図1−2】実施例におけるバクテリアセルロース製造過程を示すフロー図である。
【図2】本発明のバクテリアセルロース製造用培地製造方法の他の例を示す基本フロー図である。
【図2−2】図2に示した基本フローに基づくバクテリアセルロース製造過程の例を示すフロー図である。
【図2−3】図2に示す製造方法における、リンゴ搾汁残渣糖化液とオカラ糖化液の混合比によるバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。
【図3】各供試菌株による各pHごとのバクテリアセルロース生産量を示すグラフである
【図4】供試菌株ごと、各糖化液混合比ごとのバクテリアセルロース生産量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1…第一廃棄物
2…第二廃棄物
10…酵素糖化液(第一糖化液)
20…酵素糖化液(第二糖化液)
23…混合物
24…酵素糖化液
100、200…バクテリアセルロース製造用培地
P1、P2、P22…酵素糖化処理過程
P3…混合処理過程
P4、P23…pH調整処理過程
P21…混合処理過程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物を原料として含む、バクテリアセルロース製造用培地。
【請求項2】
バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(以下、「第一廃棄物」という。)、および別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(以下、「第二廃棄物」という。)を原料とする、バクテリアセルロース製造用培地。
【請求項3】
前記第一廃棄物はオカラであることを特徴とする、請求項1または2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項4】
前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物は植物体可食部からの搾汁残渣であることを特徴とする、請求項2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項5】
前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物はリンゴ果実搾汁残渣であることを特徴とする、請求項2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項6】
前記第一廃棄物から酵素糖化液(以下、「第一糖化液」という。)を得、前記第二廃棄物から酵素糖化液(以下、「第二糖化液」という。)を得、該第一糖化液と該第二糖化液とを混合して調製されることを特徴とする、請求項2、4または5のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項7】
前記第一糖化液は、前記第二糖化液の25重量%以上用いられることを特徴とする、請求項6に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項8】
前記第一廃棄物と前記第二廃棄物の混合物から酵素糖化液を製造することを特徴とする、請求項2、4または5のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地を用いてセルロース生産菌を培養し、バクテリアセルロースを得る、バクテリアセルロースの製造方法。
【請求項1】
バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物を原料として含む、バクテリアセルロース製造用培地。
【請求項2】
バクテリアセルロース製造用培地であって、酵素糖化可能でかつ窒素源ともなる植物性廃棄物(以下、「第一廃棄物」という。)、および別の酵素糖化可能な植物性廃棄物(以下、「第二廃棄物」という。)を原料とする、バクテリアセルロース製造用培地。
【請求項3】
前記第一廃棄物はオカラであることを特徴とする、請求項1または2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項4】
前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物は植物体可食部からの搾汁残渣であることを特徴とする、請求項2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項5】
前記第一廃棄物はオカラであり、前記第二廃棄物はリンゴ果実搾汁残渣であることを特徴とする、請求項2に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項6】
前記第一廃棄物から酵素糖化液(以下、「第一糖化液」という。)を得、前記第二廃棄物から酵素糖化液(以下、「第二糖化液」という。)を得、該第一糖化液と該第二糖化液とを混合して調製されることを特徴とする、請求項2、4または5のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項7】
前記第一糖化液は、前記第二糖化液の25重量%以上用いられることを特徴とする、請求項6に記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項8】
前記第一廃棄物と前記第二廃棄物の混合物から酵素糖化液を製造することを特徴とする、請求項2、4または5のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のバクテリアセルロース製造用培地を用いてセルロース生産菌を培養し、バクテリアセルロースを得る、バクテリアセルロースの製造方法。
【図1】
【図1−2】
【図2】
【図2−2】
【図2−3】
【図3】
【図4】
【図1−2】
【図2】
【図2−2】
【図2−3】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2009−232813(P2009−232813A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86157(P2008−86157)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月7日 第18回日本MRS学術シンポジウム実行委員会発行の「The 18th Symposium of The Materials Research Society of Japan Program and Abstracts」に発表
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月7日 第18回日本MRS学術シンポジウム実行委員会発行の「The 18th Symposium of The Materials Research Society of Japan Program and Abstracts」に発表
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
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