説明

バチルス属微生物を用いた有機系廃棄物の処理方法

【課題】タンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物を長期間にわたり連続分解することのできる微生物や、微生物を用いて食肉及び食肉加工品残渣等の有機系廃棄物を長期間にわたり連続分解する有機系廃棄物の処理方法を提供すること。
【解決手段】日本各地の土壌、堆肥、食品工場の排水処理施設等から採取した多くの試料から微生物を分離し、分離した微生物について、豚肉タンパク質及び乳タンパク質を基質としたタンパク質分解活性試験、動物性脂肪(ラード)を基質とした脂肪分解活性試験を行い、これら3つの各基質に対して分解能力の高い50菌株を選抜し、この50菌株について、フラスコ系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験を行い、分解能に優れた19菌株を選抜し、それらの中でも耐塩性及び耐酸性に優れた3菌株を同定し、これらの3株が食肉及び食肉加工品残渣からなる有機系廃棄物を60日以上の長期にわたり連続分解しうることを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質及び脂肪の分解能や耐塩性及び耐酸性を有し、かつ食肉及び食肉加工品残渣の分解処理に適したバチルス属微生物や、かかるバチルス属微生物を用いた有機系廃棄物を長期的に連続分解処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を用いた有機系廃棄物の分解処理については、すでに、処理能力向上を目的とした装置や微生物製剤など様々な検討が行われ、多くの報告がなされている。しかし、それらの多くの技術が家庭、食堂、スーパーなどから排出される有機系廃棄物(いわゆる生ゴミ)に対するものである。これらの有機系廃棄物は、様々な食品から構成されていることが多く、そのため微生物の栄養となる成分も多岐にわたり、また、食品に由来する微生物の種類も様々であり、その中から環境に適応した微生物が発育しながら自然に分解が進んでいくことが多い。
【0003】
一方、食品工場などで排出される有機系廃棄物については、その構成物が単一もしくは限定されている(例えば、食肉加工品の製造工場では、食肉やハム、ソーセージなどの食肉加工品に限定される)。その場合、食品由来の微生物の種類や環境中で生育できる微生物の種類も少なく、そのような環境で長期間処理を続けると、微生物にとって生育しにくい環境になっていき、処理物の分解が十分に進まなくなることが多い。実際、特定の食品工場で連続的に排出される有機系廃棄物についての検討は極めて少ない。例えば、食肉加工工場やその関連事業所から排出される有機系廃棄物の大半は、タンパク質、脂肪、食塩の含量が高い食肉や食肉加工品残渣である。このような有機系廃棄物に対しては、処理中に脂肪の蓄積により処理物に粘性が生じ内部に空気を含み難くなり酸素が不足する、また処理物が塊になりやすくなり分解が妨げられる、処理物のpHが酸性側に傾く(酸敗状態になりやすい)、食肉加工品残渣中に含まれる塩分が蓄積する等の理由から、これまで微生物を用いた連続的な分解処理は困難であった。
【0004】
従来、これら有機系廃棄物の微生物を用いた処理方法としては、有機性廃棄物中の油分を効率的に分解するBacillus stearothermophilus No.38(FERM P−17939)を、油分を含む有機性廃棄物に60℃以上の温度で作用させる有機性廃棄物の処理方法(例えば、特許文献1参照)や、生ゴミ類(米・麺類・パンなどの穀物、牛・豚・鶏・魚などの肉類及びその油脂分、野菜類全般、果物・果物表皮、海藻類、カニ・エビなどの殻類、魚などの小骨類、卵の殻など)、おが屑その他のセルロース及びリグニン、環境ホルモン(塩分、塩基化合物)の分解に有用で、耐酸性(酸性条件下で塩分を分解する能力)を有し、重金属に対して耐性であるバチルス属微生物4株とアースロバクター属(Arthrobacter)微生物1株の混合菌を用いる有機性廃棄物の処理方法(例えば、特許文献2参照)の他、バチラス属を含む7種の微生物を用いた有機系廃棄物処理装置の運転方法(例えば、特許文献3参照)や、有機物分解能を有する中温菌(Bacillus subtilis)と高温菌(Bacillus pallidus)を有機廃棄物処理方法(例えば、特許文献4参照)や、新規バチルス属菌株を使用した生ゴミ処理方法(例えば、特許文献5参照)や、耐熱性酵素群(アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ)を産生する高温細菌(Bacillus属)を用いた食品関連廃棄物の処理方法(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−17341号公報
【特許文献2】特開2002−51767号公報
【特許文献3】特開2003−274939号公報
【特許文献4】WO2004/067197号公報
【特許文献5】特開2005−21010号公報
【特許文献6】特開2003−305444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、食肉及び食肉加工品残渣等のタンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物を長期間にわたり連続分解することのできる微生物や、微生物を用いて食肉及び食肉加工品残渣等の有機系廃棄物を長期間にわたり連続分解する有機系廃棄物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究し、日本各地の土壌、堆肥、食品工場の排水処理施設等から採取した多くの試料から1000株近くの微生物を分離し、分離した微生物について、豚肉タンパク質及び乳タンパク質を基質としたタンパク質分解活性試験、動物性脂肪(ラード)を基質とした脂肪分解活性試験を行い、豚肉タンパク質,乳タンパク質及び動物性脂肪(ラード)の3つの各基質に対して分解能力の高い50菌株を選抜し、この50菌株について、フラスコ系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験を行い、分解能に優れた19菌株を選抜し、それらの中でも耐塩性及び耐酸性に優れた3菌株を同定し、これらの3株が食肉及び食肉加工品残渣からなる有機系廃棄物を60日以上の長期にわたり連続分解しうることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)タンパク質及び脂肪の分解能を有し、食塩濃度6%,pH7.3,温度32℃の条件下で発育可能及び食塩濃度0.5%,pH4.0〜8.0,温度32℃の条件下で発育可能な耐塩性及び耐酸性を有し、かつ食肉及び食肉加工品残渣(分析値:タンパク質16%、脂肪23%、塩分1.5%)を7日間培養処理したときの減少率(%)[(培養前の重量−培養7日目の重量)/培養前の重量×100]が5.0%以上であることを特徴とするバチルス属微生物や、(2)食塩濃度0.5%,pH7.3,50℃の条件下で発育可能であることを特徴とする上記(1)記載のバチルス属微生物や、(3)バチルス・リヘニホルミス又はバチルス・ズブチリスであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のバチルス属微生物や、(4)バチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、又はバチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)であることを特徴とする上記(3)記載のバチルス属微生物に関する。
【0009】
また本発明は、(5)上記(1)〜(4)のいずれか記載のバチルス属微生物1株又は2株以上用いて、タンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物を長期的に連続分解することを特徴とする有機系廃棄物の処理方法や、(6)バチルス属微生物として、バチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、及びバチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)から選ばれる1株又は2株以上を用いることを特徴とする上記(5)記載の有機系廃棄物の処理方法や、(7)タンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物が、食肉及び食肉加工品残渣であることを特徴とする上記(5)又は(6)記載の有機系廃棄物の処理方法や、(8)60日以上の長期にわたり連続分解することを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれか記載の有機系廃棄物の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバチルス属微生物を用いると、食肉及び食肉加工品残渣等のタンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物を長期間にわたり連続分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のバチルス属微生物としては、タンパク質及び脂肪の分解能を有し、食塩濃度6%,pH7.3,温度32℃の条件下で発育可能及び食塩濃度0.5%,pH4.0〜8.0,温度32℃の条件下で発育可能な耐塩性及び耐酸性を有し、かつ食肉及び食肉加工品残渣(分析値:タンパク質16%、脂肪23%、塩分1.5%)を、7日間培養処理したときの減少率(%)[(培養前の重量−培養7日目の重量)/培養前の重量×100]が5.0%以上であるバチルス属に属する微生物であれば特に制限されず、上記「分解能」,「発育可能」及び「5.0%以上」の判断は、それぞれ後述する実施例1の記載における「(1)分解活性試験」,「(3)発育特性試験」及び「(2)フラスコの系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験」におけると同様に判定することができ、これらバチルス属微生物として分離したNo.3株,No.132株,No.146株,No.502株,No.515株の5株を例示することができる。
【0012】
これら5株は、食塩濃度0.5%,pH7.3,50℃の条件下で発育可能であるが、これら5株の中でもpH4.0において発育が旺盛なバチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、バチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)を好適に例示することができる。
【0013】
本発明の有機系廃棄物の処理方法としては、上記本発明のバチルス属微生物1株又は2株以上用いて、タンパク質及び脂肪を多く含有する(主成分とする)有機系廃棄物を長期的に連続分解する処理方法であれば特に制限されるものではなく、上記有機系廃棄物としては、畜産及び食肉産業から排出される家畜の糞尿,屠体,皮,臓器,血液,食肉残渣,食肉加工品残渣などのタンパク質及び脂肪を多く含有する動物性残渣や生ゴミを好適に例示することができ、中でもタンパク質、脂肪,食塩を多量含む食肉工場や関連の事業所から排出される成形過程での食肉残渣や加工中、加工後に排出される食肉加工品残渣を特に好適に例示することができる。また、上記長期的に連続分解する処理方法とは、10日以上、好ましくは30日以上、特に好ましくは60日以上、一つの処理槽内で有機系廃棄物を追加投入しながら分解処理することを云う。
【0014】
本発明の有機系廃棄物の処理方法に用いる本発明のバチルス属微生物は単独株でもよいが、2株以上同時に用いることが好ましい。例えば、バチルス・リヘニホルミスNo.3株、バチルス・ズブチリスNo.132株、及びバチルス・リヘニホルミスNo.146株の3株を同時に用いると、60日以上の長期にわたり連続分解処理することができる。また、本発明のバチルス属微生物は分解処理の最初に投入しておけばよいが、必要に応じて連続分解中に追加投入することができる。有機系廃棄物が、例えば、タンパク質16%、脂肪23%、塩分1.5%からなる食肉及び食肉加工品残渣の場合におけるバチルス属微生物の初発菌数は、廃棄物1gあたり、1.0×10CFU以上、例えば1.0×10〜10CFUが好ましい。これらバチルス属微生物は、そのまま投与することもできるが、木屑等の担体と混合して投与してもよい。
【0015】
有機系廃棄物の連続分解処理に際しては、必要に応じて、炭素源や窒素源等を配合することができる。連続分解処理の際には、処理槽内に設置された攪拌板を連続的あるいは間欠的に回転させることにより、処理物内全体に空気を送り込むと同時に排気口により排気を行う。また分解処理温度やpHは、通常コントロールする必要はないが、必要に応じて、20〜50℃,pH4〜8にコントロールすることができる。
【0016】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
[菌株のスクリーニング]
日本各地の土壌、堆肥、食品工場の排水処理施設等から採取した各試料を10倍に希釈後、標準寒天培地(日水製薬製)に画線し、32℃で48時間培養した。培養後、出現したコロニーの中から421株の細菌を分離した。これらの分離菌株を用いて、次の(1)分解活性試験、(2)フラスコの系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験、(3)発育特性試験、により段階的にスクリーニングを行った。
【0018】
(1)分解活性試験
1)タンパク質分解活性
豚肉タンパク質及び乳タンパク質(カゼイン)を基質とした寒天培地上に直径5mmのウェルを無菌的にあけ、滅菌生理食塩水で1.0×10CFU/mlに調製した各菌液30μlをウェル内に添加した。32℃で48時間培養し、豚肉タンパク質及び乳タンパク質が分解されることにより形成されたクリアゾーンの大きさを指標としてタンパク質分解活性を評価した。クリアゾーンを生じなかったものを「−」、クリアゾーンを生じたものは、直径10mm未満を「+」、直径10mm以上25mm未満を「++」、直径25mm以上を「+++」の3段階で評価し、表1〜3に示した。なお、豚肉タンパク質及び乳タンパク質(カゼイン)を基質とした寒天培地の作製方法を次に示す。
【0019】
(豚肉タンパク質を基質とした寒天培地の作製方法)
豚ロース赤身挽肉を等量の滅菌生理食塩水で一晩浸漬後、6000rpmで20分間遠心分離により得られた上清を80℃で30分間加熱殺菌し、豚肉タンパク質懸濁液とした。0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)1Lに寒天20.0gを加え加温溶解し、120℃で15分間滅菌を行い、豚肉タンパク質懸濁液10%を加えてよく攪拌した後、滅菌シャーレに分注し、固化させた。
【0020】
(乳タンパク質を基質とした寒天培地の作製方法)
0.4%クエン酸ナトリウム溶液1Lに酵母エキス2.5g、トリプトン5.0g、グルコース1.0g、寒天15.0g、カゼインナトリウム10.0g、1M塩化カルシウム溶液20.0mlを加え加温溶解し、120℃で15分間滅菌を行った後、滅菌シャーレに分注し、固化させた。
【0021】
2)脂肪分解活性
動物性脂肪(ラード)を基質とした寒天培地上に1.0×10CFU/mlに調製した各菌液30μlを添加し、塗抹した。32℃で48時間培養し、脂肪分解によるpHの低下(指示薬の青変)により脂肪分解活性を評価した。青変が認められなかったものを「−」、青変が認められたものは青変の程度により、微かに青変を「+」、青変を「++」、強く青変を「+++」の3段階で評価し、表1〜3に示した。なお、動物性脂肪を基質とした寒天培地の作製方法を次に示す。
【0022】
(動物性脂肪を基質とした寒天培地の作製方法)
加温融解させたラードのろ液100mlを45℃に保温した乳鉢に入れ、弱アルカリ性に調製したビクトリアブルー75mgを加え、すり潰した後、90℃に保温して色素粒子が見えなくなるまで攪拌及びろ過し、色素脂肪液とした。蒸留水1Lに寒天20.0g、ペプトン5.0g、肉エキス5.0gを加え加温溶解し、120℃で15分間滅菌を行い、色素脂肪液5%を加えてよく攪拌した後、滅菌シャーレに分注し、固化させた。
【0023】
【表1】



【0024】
【表2】



【0025】
【表3】



【0026】
分解活性試験の結果から、3つの各基質に対して分解能力の高い菌株として50株を選抜し、次の(2)フラスコの系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験に供した。
【0027】
(2)フラスコの系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験
500ml容の三角フラスコに、担体として木屑60g、水30ml、分解対象物として食肉及び食肉加工品残渣30gを加え混合後、アルミ箔でフラスコに蓋をし、120℃で30分滅菌を行ったものを試験系として用いた。分解対象物として用いた食肉及び食肉加工品残渣は、重量比率が食肉10%、ハム30%、ソーセージ30%、ベーコン30%になるように混合した後、5mm目に細断したものを用いた(タンパク質16%、脂肪23%、塩分1.5%、水分58%)。分解活性試験で選抜した50株の各菌株を1.0×10CFU/mlに調製し、無菌的にフラスコ内に8ml添加した。また対照には滅菌水を8ml加えた。各フラスコを32℃で7日間培養し、重量及び外観の変化を観察した。培養中は毎日2回、フラスコ全体を撹拌し、内容物中に酸素が十分にいきわたるようにした。培養前と培養7日目の内容物重量から減少率を次に示す計算式にて算出した。また、微生物の分解作用により内容物の湿潤あるいは液状化が観察されることから、外観的に内容物の変化が認められないものを「−」、湿潤あるいは液状化が認められたものを「+」、強く湿潤あるいは液状化が認められたものを「++」として表4に示す。
減少率(%):(培養前の重量−培養7日目の重量)/培養前の重量×100
【0028】
【表4】

【0029】
フラスコの系による食肉及び食肉加工品残渣分解試験の結果から、減少率が5.0%以上で、かつ湿潤または液状化が「+」以上であった19株を選抜し、各菌株を次の(3)発育特性試験に供した。
【0030】
(3)発育特性試験
選抜した各菌株の食塩濃度、pH、培養温度における発育特性試験を行った。トリプトソーヤブイヨン(日水製薬製、食塩濃度0.5%、pH7.3)を基本培地として用い、食塩濃度を0.5、2.0、4.0、6.0、8.0%に調製した培地、またpHを3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0に調製した培地をそれぞれ10ml作製した。各培地に1.0×10CFU/mlに調製した各菌液100μlを添加し、32℃で48時間培養した後の発育程度を評価した。また基本培地を用いて20、30、40、50、60℃に温度を変えて48時間培養した後の発育程度を評価した。発育の評価は吸光度計(波長660nm)により吸光値0.0を発育なし「−」、0.0〜0.3を発育「+」、0.3以上を強く発育「++」として表5に示す。
【0031】
【表5】


【0032】
発育特性試験の結果から、食塩濃度0.5%〜6.0%、pH4.0〜8.0、温度20℃〜50℃で強く発育「++」した菌株としてNo.3株、No.132株、No.146株を選抜した。スクリーニング試験の結果から、選抜されたNo.3株、No.132株、No.146株の3株は、タンパク質、脂肪分解活性が高く、食肉及び食肉加工品残渣を効率よく分解し、かつ耐塩性(食塩6.0%で発育)、耐酸性(pH4.0で発育)を有する。
【実施例2】
【0033】
[菌株の同定]
選抜したNo.3株、No.132株、No.146株について、常法に従い形態学的及び生理学的性質から属の同定を行った結果、いずれの株もバチルス(Bacillus)属であった。またバチルス属同定キットであるAPI 50CHB(BioMerieux製)を用いて生化学的性質から種の判別を行った結果、No.3株とNo.146株はバチルス・リヘニホルミス(Bacillus licheniformis)、No.132株はバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)と同定された。その結果を表6に示す。これら3株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に、それぞれバチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、バチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)として寄託されている。
【0034】
【表6】


【実施例3】
【0035】
[実機による食肉及び食肉加工品残渣分解試験]
市販の家庭用生ゴミ処理機を2台用いて試験を行った。本機はいわゆるバイオ式であり、担体(木屑)中や投入される食品由来の微生物によって分解処理するものであり、1日約800g(メーカー推奨)の処理能力を有する。1台は対照区、もう1台は菌株添加区として試験を行った。菌株添加区に用いる担体については、混在する微生物の影響を無くすためにあらかじめ120℃で50分間滅菌及び乾燥を行った後、担体に対して10CFU/gになるよう調製したNo.3株、No.132株、No.146株を各30g添加した。対照区は、メーカー指定の担体をそのまま用いた。
【0036】
分解対象物は前述の実施例1(2)記載の食肉及び食肉加工品残渣を用い、約2日毎に700〜800gを各機の処理槽内に投入していき、60日間の処理を行った。処理中は約2日毎に内容物の重量を測定した。また1週間毎に内容物20gを採取し、水分及び耐熱性菌数の測定を行った。
【0037】
水分の測定は、内容物10gを常圧加熱乾燥法により定法に従って行った。耐熱性菌数の測定は、内容物10gを滅菌生理食塩水で10倍希釈後、10mlをとり75℃で30分間加熱処理し、その液の一般生菌数を測定することによって求めた。一般生菌数の測定は定法に従って行った。
【0038】
処理期間における投入量及び内容物の重量変化を図1に示す。分解対象物の合計投入量は21.6kgであり、期間を通して、対照区に比べ菌株添加区は、内容物重量が低く維持された。
【0039】
内容物の重量と水分量から乾燥重量による減量化率(乾減量化率)を次に示す計算式にて算出した。本式により得られる値は、分解対象物中に含まれる水分の蒸発による減量化を加味しないために有機物の分解による減量化だけを表すことになる。
乾減量化率(%):(投入物の乾燥重量−処理後の投入物の乾燥重量)/投入物の乾燥重量×100
【0040】
処理期間における乾燥重量による減量化率の変化を図2に示した。処理期間を通して対照区に比べ、菌株添加区は減量化率が高く維持されることが認められた。
【0041】
処理期間における耐熱性菌数の挙動を図3に示した。菌株添加区で添加後に10CFU/g存在していた耐熱性菌数は、処理期間を通して安定していた。
【0042】
これらの結果から、得られたNo.3株、No.132株、No.146株を生ゴミ処理機に添加することにより、投入した食肉及び食肉加工品残渣の分解処理効率を向上し、かつ安定した処理が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のバチルス属No.3株、No.132株、No.146株の混合菌を用いた処理期間における内容物の重量変化を示す図である。
【図2】本発明のバチルス属No.3株、No.132株、No.146株の混合菌を用いた処理期間における乾燥重量による減量化率の変化を示す図である。
【図3】本発明のバチルス属No.3株、No.132株、No.146株の混合菌を用いた処理期間における耐熱性菌数の挙動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び脂肪の分解能を有し、食塩濃度6%,pH7.3,温度32℃の条件下で発育可能及び食塩濃度0.5%,pH4.0〜8.0,温度32℃の条件下で発育可能な耐塩性及び耐酸性を有し、かつ食肉及び食肉加工品残渣(分析値:タンパク質16%、脂肪23%、塩分1.5%)を7日間培養処理したときの減少率(%)[(培養前の重量−培養7日目の重量)/培養前の重量×100]が5.0%以上であることを特徴とするバチルス属微生物。
【請求項2】
食塩濃度0.5%,pH7.3,50℃の条件下で発育可能であることを特徴とする請求項1記載のバチルス属微生物。
【請求項3】
バチルス・リヘニホルミス又はバチルス・ズブチリスであることを特徴とする請求項1又は2記載のバチルス属微生物。
【請求項4】
バチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、又はバチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)であることを特徴とする請求項3記載のバチルス属微生物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のバチルス属微生物1株又は2株以上用いて、タンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物を長期的に連続分解することを特徴とする有機系廃棄物の処理方法。
【請求項6】
バチルス属微生物として、バチルス・リヘニホルミスNo.3株(FERM AP−21208)、バチルス・ズブチリスNo.132株(FERM AP−21210)、及びバチルス・リヘニホルミスNo.146株(FERM AP−21209)から選ばれる1株又は2株以上を用いることを特徴とする請求項5記載の有機系廃棄物の処理方法。
【請求項7】
タンパク質及び脂肪を多く含有する有機系廃棄物が、食肉及び食肉加工品残渣であることを特徴とする請求項5又は6記載の有機系廃棄物の処理方法。
【請求項8】
60日以上の長期にわたり連続分解することを特徴とする請求項5〜7のいずれか記載の有機系廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−199938(P2008−199938A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38615(P2007−38615)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】