説明

バッテリ充電装置

【課題】使用者が意図せずに交流電源電圧が大きく変動した場合でもトランス巻線等に損傷を与えることなく、バッテリの充電も継続的に行えるようにする。
【解決手段】電圧検出部11は入力された三相交流電力の電圧値を検出し、制御部13はその電圧値から位相制御角を決定して、位相制御角に応じて交流電力調整部10の交流スイッチング素子のオン/オフを制御することでトランス3に供給される電力を調整する。充電中に入力交流電圧が上昇すると位相制御角(遅れ角)は大きくなり、交流スイッチング素子のオフ時間が長くなってそれだけ電圧降下は大きくなる。その結果、トランス3に供給される電圧は殆ど変化せず、バッテリ20の充電に影響を及ぼさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から供給される交流電力を利用してバッテリを充電するバッテリ充電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動式フォークリフト、電動式ゴルフカートなどの産業用電動車輌に搭載されるバッテリを充電するために、交流電源(一般的には国内では200[V]三相交流電源)から供給される交流電力を利用したバッテリ充電装置が利用されている。図4はこの種の従来のバッテリ充電装置の概略構成図である(特許文献1など参照)。
【0003】
バッテリ充電装置1において、三相交流電源2から供給される交流電力は過電流保護用のサーマルリレー6を経てトランス3の一次側巻線に供給される。このトランス3により適度に降圧されて二次側巻線から取り出された交流電力は三相全波整流回路4で整流され、出力端5から直流電力として出力され、出力端5に接続されているバッテリ20を充電する。
【0004】
例えばゴルフ場でゴルフカートに搭載されたバッテリを充電する状況を考えると、その施設内における三相交流電源の供給元から実際にバッテリ充電装置1が設置されている場所までがかなり離れている場合がある。こうした場合、三相交流電源の供給元から離れている場所では電源電圧の電圧降下が問題となることがあり、供給元で電圧を上げて(例えば200[V]→220[V]など)対処する場合があるが、そうすると供給元に近い場所では電源電圧が高すぎることになる。こうした状況に対処するため、従来のバッテリ充電装置では、トランスの一次側巻線に複数のタップを設け、入力電源電圧によって、接続するタップを手作業で切り替えることができるようになっているものもある(特許文献2など参照)。
【0005】
通常、日本国内で使用する場合には上記のような要因で入力電源電圧が或る程度ばらつくことは考慮されているが、基本的に充電中に入力電源電圧が大きく変動することは想定されていない。ところが、海外においては国や地域によって電力事業者から供給される電源電力の電圧がかなり不安定なことがある。そのため、例えば、電力需要の多い昼間に供給される交流電圧に合わせてトランスのタップ切替えを設定しておくと、電力需要の減った夜間にバッテリ充電を行っているときに入力交流電圧が大きく上昇し、サーマルリレー6が作動して充電ができなくなることがある。サーマルリレー6を設けなければ充電は可能であるが、トランス3の一次巻線に過大な電流が流れて巻線が焼損するおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2、3などには、トランス内の温度上昇や入力電源電圧などに応じてトランスの一次巻線のタップ切替えを自動的に行うバッテリ充電装置が開示されている。これによれば、充電中に電源電圧が変動しても巻線の焼損や充電の停止は免れる。しかしながら、一般的に、複数のタップを引き出すトランスは製造に手間が掛かり、コストがかなり高いものとなるとともに製造上での信頼性に問題が生じることがある。そのため、こうした高価なトランスを使用した上でさらにタップを自動的に切り替える回路まで追加すると、かなりのコスト増加が避けられない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−50514号公報
【特許文献2】特開平6−54460号公報
【特許文献3】特開平7−123601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主たる目的は、低廉なコストで以て、入力交流電圧が意図せずに変動する場合でも装置に損傷を与えることなく且つバッテリの充電も継続することができるバッテリ充電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るバッテリ充電装置は、
a)交流電源から供給される入力交流電力の電圧値を検出する電圧検出手段と、
b)前記入力交流電力に対し位相制御により電力を調整する交流電力調整手段と、
c)前記電圧検出手段により検出された電圧値に応じて位相制御角を決定し、該位相制御角に基づいて前記交流電力調整手段を制御する制御手段と、
d)前記交流電力調整手段を経た交流電圧を降圧するトランスと、
e)該トランスの二次側巻線に接続され、バッテリを充電するために交流電力を直流化する整流手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
本発明に係るバッテリ充電装置の一態様として、前記制御手段は、電圧値又は基準電圧に対する電圧差と位相制御角との対応関係を示すデータを保持する情報記憶手段を有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るバッテリ充電装置では、バッテリ充電中に例えば入力交流電圧が上昇すると、電圧検出手段がこの電圧上昇を検出し、制御手段はその電圧値又は電圧上昇幅に応じて交流電力調整のための位相制御角を決定する。そして制御手段はその位相制御角に基づいて交流電力調整手段における例えば交流スイッチング素子での電力の導通、遮断を制御し、トランスに印加される交流電圧を下げる。入力交流電圧の上昇幅が大きいほど位相制御による電圧の降下も大きくなり、トランスに印加される交流電圧自体は入力交流電圧の変動の影響を殆ど受けずに済む。
【0012】
このようにして本発明に係るバッテリ充電装置では、バッテリ充電中に入力交流電圧が上昇した場合でも問題なくバッテリの充電を継続して行うことができ、またトランスの焼損などの損失も防止することができる。
【0013】
さらに、トランスの一次巻線のタップ切替えは不要になり、複数のタップを設けること自体が必要なくなる。それにより、トランスを製造する際のコストが大幅に削減できるとともに、製造工程が簡単になることでトランスの信頼性が向上し歩留まりの向上も達成できる。なお、本発明に係るバッテリ充電装置では、タップ切替えが不要になる代わりにサイリスタ等の交流スイッチング素子が必要になるが、そうした半導体素子は安価に供給されているので、複数タップ付きのトランスを使用する場合に比べれば低コストで済む。また、自動タップ切替えのためにはリレーなどの開閉器が必要になるが、交流電力調整手段の場合、そうした部品は必要ないので総合的なコストの差は明白である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例によるバッテリ充電装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施例によるバッテリ充電装置の概略構成図である。前述の従来の装置と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0015】
本実施例によるバッテリ充電装置1では、リーケージトランス3の一次側巻線の上流側の各交流線路に交流電力調整部10が介挿されている。この例では、交流電力調整部10は交流スイッチング素子として二個のサイリスタを逆並列に接続した構成であるが、双方向サイリスタ(トライアック)を用いる等、適宜の素子を利用することができる。交流電力調整部10よりもさらに上流側の交流線路は電圧検出部11及び位相検出部12に接続されている。電圧検出部11は交流電源電圧を検出して電圧値(電圧の実効値)を出力するものであり、位相検出部12は三相の各交流電圧の位相、具体的には例えばゼロクロス点のタイミングを検出するものである。
【0016】
電圧検出部11、位相検出部12の出力はいずれもCPUを中心に構成される制御部13に入力され、制御部13は後述のような処理を行って交流電力調整部10に含まれる各交流スイッチング素子をオン/オフする制御信号を出力することで交流電力を調整する。また、直流電圧検出部15は三相全波整流回路4の出力である直流電圧の電圧値を検出し、その電圧値は制御部13に与えられている。即ち、制御部13はこの直流電圧の電圧値によっても交流電力調整部10を制御可能となっている。
【0017】
図2は交流電力調整部10における交流電力調整動作を示す波形図である。図2(A)に示すような全波の交流電圧に対し、制御部13は位相制御角(ここでは遅れ角)αを決定して、交流電圧のゼロクロス点を基点として位相制御角αまでの期間中は交流電力を遮断し、それ以降次のゼロクロス点までの期間中は交流電力を導通するように交流スイッチング素子のオン/オフ制御信号を生成する。これにより、交流電力調整部10の出力における交流電力は図2(B)に示すように、位相制御角αに相当する期間が欠損した波形となる。実際にはこの交流電力の波形は鈍り、波形上で欠損した面積の分だけ電圧の実効値が下がることになる。
【0018】
制御部13は電圧検出部11により与えられる電圧値に応じて上記位相制御角αを決定するが、この実施例では、そのために予め設定された電圧/位相制御角変換テーブル14を使用する。即ち、位相制御角αと交流電力調整部10での電圧降下量(又は電圧降下率)との関係は予め計算又は実験的に求めておくことができるから、それに基づいて予め、図3に示すような電圧値Vと位相制御角αとの対応関係を表すテーブルを作成しておく。図3においてVはここで想定している最低電圧であり、例えば入力交流電圧の幅を320〜440[V]と想定する場合にVは320[V]とすればよい。なお、図3では電圧値Vと位相制御角αとの関係を直線で示しているが、これは或る関数で定義できることを示しているだけであり直線であるとは限らない。
【0019】
次に、本実施例によるバッテリ充電装置1の特徴的な動作について説明する。出力端5にバッテリ20が接続されて充電が開始されると、電圧検出部11は三相交流電源2から供給されている電源電圧を検出し、その電圧値を制御部13に送る。また、位相検出部12は各相の交流電圧波形のゼロクロス点を検出して、ゼロクロスがあるとパルス信号を制御部13に送る。制御部13では電圧値を受けて電圧/位相制御角変換テーブル14を用いてその時点で最適な位相制御角αを決定する。そして、位相検出部12からゼロクロスパルス信号が与えられると、その信号の発生時点から位相制御角αに相当する時間が経過するまでの期間を示すパルス信号を生成し、これに基づいて交流電力調整部10にオン/オフ制御信号を送って交流スイッチング素子をオン/オフ駆動させる。
【0020】
例えば充電開始時に入力交流電圧が380[V]であったとすると、このときに制御部13は位相制御角α1を決定して交流電力を調整するが、途中で入力交流電圧が10%以上高い420[V]まで上昇した場合には、この電圧の上昇を検知した制御部13は位相制御角をα1からα2(α1<α2)に変更する。これにより、交流電力調整部10における交流電圧の電圧降下は大きくなり、リーケージトランス3の一次側巻線に印加される交流電圧は入力交流電圧上昇前と殆ど変わらない。これにより、三相全波整流回路4から直流電力を出力してバッテリ20を良好に充電し続けることができる。
【0021】
なお、制御部13はバッテリ20に印加される直流電圧の電圧値も監視し、例えばこの電圧値が異常に高くなった場合に異常状態であると判断して入力交流電力を遮断する等の制御を行うことができる。このようにリーケージトランス3の入力側に介挿された交流電力調整部10は入力交流電圧の変動に応じて交流電力を調整する機能のみならず、直流電圧の異常の発生、或いは他の原因により、リーケージトランス3に供給される電力を遮断したい場合にも利用することができる。
【0022】
上記実施例では、交流電力調整部10では交流スイッチング素子をオンするタイミングを制御するオン位相制御を行っているが、交流スイッチング素子をオフするタイミングを制御するオフ位相制御を行ってもよい。
【0023】
また、電圧/位相制御角変換テーブル14の代わりに、電圧検出部11で検出された電圧値と基準電圧との差から位相制御角を求めるテーブルとしてもよい。さらにまた、テーブルの代わりに計算式を用い、電圧値や電圧差から計算式に則った計算を行って位相制御角を求めてもよい。
【0024】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載以外の点において本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、又は追加を行っても、本願の特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例によるバッテリ充電装置の概略構成図。
【図2】交流電力調整部における交流電力調整動作を示す波形図。
【図3】交流電力の電圧値と位相制御角との関係の一例を示す図。
【図4】従来のバッテリ充電装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0026】
1…バッテリ充電装置
2…三相交流電源
3…トランス
4…三相全波整流回路
5…出力端
10…交流電力調整部
11…電圧検出部
12…位相検出部
13…制御部
14…電圧/位相制御角変換テーブル
15…直流電圧検出部
20…バッテリ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)交流電源から供給される入力交流電力の電圧値を検出する電圧検出手段と、
b)前記入力交流電力に対し位相制御により電力を調整する交流電力調整手段と、
c)前記電圧検出手段により検出された電圧値に応じて位相制御角を決定し、該位相制御角に基づいて前記交流電力調整手段を制御する制御手段と、
d)前記交流電力調整手段を経た交流電圧を降圧するトランスと、
e)該トランスの二次側巻線に接続され、バッテリを充電するために交流電力を直流化する整流手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ充電装置。
【請求項2】
前記制御手段は、電圧値又は基準電圧に対する電圧差と位相制御角との対応関係を示すデータを保持する情報記憶手段を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ充電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−43090(P2008−43090A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215569(P2006−215569)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(392026888)京都電機器株式会社 (43)
【Fターム(参考)】