バッテリ温度検出装置及び車載電源分配装置
【課題】バッテリの温度を精度良く検知し、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消する。
【解決手段】PDU(車載電源分配装置)35内に温度センサー37を搭載し、温度センサー37で検出された温度に基づいてバッテリ31の温度を推定する。温度センサー37付近には、放熱板45及び/またはリレーボックス33のケースが配置されている。温度センサー37を車載電源分配装置の内部部品として取り扱うことができるため、単体としての温度センサー37を設置するための特別な機構が必要なくなり、組付け作業の手間を省くことができるとともに、バッテリの温度を精度良く検出できる。
【解決手段】PDU(車載電源分配装置)35内に温度センサー37を搭載し、温度センサー37で検出された温度に基づいてバッテリ31の温度を推定する。温度センサー37付近には、放熱板45及び/またはリレーボックス33のケースが配置されている。温度センサー37を車載電源分配装置の内部部品として取り扱うことができるため、単体としての温度センサー37を設置するための特別な機構が必要なくなり、組付け作業の手間を省くことができるとともに、バッテリの温度を精度良く検出できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ温度検出装置及びそれに関連する車載電源分配装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図11の如く、自動車内の電源系統としてバッテリ1とオルタネータ3とが併用されて、負荷5への電源供給が行われる。そして、例えば自動車の始動等においては、バッテリ1から負荷5に電源の供給を行うが、バッテリ1の電力消費を継続すると、当該バッテリ1の残存電力が少なくなってしまい、最終的には自動車の負荷5に電源供給を行うことができなくなる。そこで、エンジンの回転によってオルタネータ3が交流発電を行い、ここで発電された電力をバッテリ1に充電することで、各部の電装品に対して長時間の電源供給を可能にしている。
【0003】
ここで、従来においては、バッテリ1の温度、電圧及び出力電流といった各種の状態を検出し、これに基づいて所定の制御部(パワー・ディストリビュート・ユニット)7でレギュレータ9を制御することで、オルタネータ3から出力される発電電圧を調整することが行われている。例えば、バッテリ1の温度は温度センサー11によって検知されて制御部7に入力され、バッテリ1の電圧は当該バッテリ1の出力経路13の電圧が制御部7に入力され、バッテリ1からの出力電流はシャント抵抗等の所定の電流センサー15で検知されて制御部7に入力され、制御部7のバッテリ状態検知機能21によってバッテリ1の状態判断が行われて、この判断結果に基づいて制御部7がレギュレータ9の制御を行う。
【0004】
この他、自動車の走行速度を検知する車速センサーといった各種センサー17からの情報を制御部7の車両状態検知機能23により分析し、自動車の加速時と減速時によってオルタネータ3及びレギュレータ9からの出力を調整するようなことも行われている。
【0005】
尚、温度センサー11によりバッテリ1の温度を検知するのは、その温度の変化によって、バッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に大きく影響を与えるため、バッテリ1の温度に応じてレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整する必要があるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、温度の変化がバッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に及ぼす大きく影響を推定してレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整するためには、バッテリ1の温度を精度良く検知する必要がある。
【0007】
この場合、従来では、バッテリ1の筐体に直接に温度センサー11を取り付けていた。しかし、この場合は、バッテリ1に直接に温度センサー11を取り付ける機構が必要であり、特にバッテリ1が交換可能な部品である必要があることから、バッテリ1に温度センサー11を取り付ける機構が複雑な構造になってしまうため、部品コストが高くなるとともに、組付け作業に手間がかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、バッテリの温度を精度良く検知でき、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消し得るバッテリ温度検出装置及びそれに関連する車載電源分配装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、前記バッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置の内部に設置された温度センサーと、前記温度センサー付近に配置された、放熱板及び/またはリレーボックスのケースと、前記温度センサーで検出された温度に基づいて前記バッテリの温度を推定する推定部とを備えるものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗の積から成る熱時定数が、前記バッテリの内部の熱等価モデルから導出される当該バッテリの内部の熱時定数に一致するように、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗が設定されているものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、自動車に搭載されるバッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置であって、請求項1及び請求項2のいずれか一つに記載のバッテリ温度検出装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度センサーを車載電源分配装置の内部部品として取り扱うことができるため、単体としての温度センサーを設置するための特別な機構が必要なくなり、組付け作業の手間を省くことができるとともに、バッテリの温度を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリ温度検出装置を示す模式図である。
【図2】本発明のバッテリ温度検出装置の他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図3】本発明のバッテリ温度検出装置の他の熱系モデルを示す図である。
【図4】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図5】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを示す図である。
【図6】自動車がアイドリング状態のときのバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図7】自動車の走行時におけるバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図8】エンジン停止時におけるバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図9】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図10】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図11】自動車における一般的な電源制御系の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
{第1実施形態}
本発明の第1実施形態に係るバッテリ温度検出装置は、図1の如く、自動車のバッテリ31の付近に配置されて、当該バッテリ31から各種の負荷への電源分配を行うPDU(パワー・ディストリビュート・ユニット:車載電源分配装置)35内に、バッテリ31の温度を検出する温度センサー37を設置し、この温度センサー37で検知された温度によりバッテリ31の温度を演算・推定するものである。
【0015】
具体的に、このバッテリ温度検出装置は、絶縁樹脂としては比較的熱抵抗が小さい特性を有してPDU35に内蔵された単数または複数の電源分配用の電力部品としてのパワー・デバイス41を実装する実装基板43と、この実装基板43に密着配置されるとともにバッテリ31の付近に配置される放熱板45と、実装基板43上に搭載された温度センサー37と、この温度センサー37で検知された温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定する演算部47とを備える。
【0016】
PDU35は、バッテリ31から各種の負荷への電源供給をオンオフ制御するとともに、レギュレータ(図示省略)から出力されるオルタネータ(図示省略)の出力電圧を調整したり各種の負荷のオンオフを行うためのリレーボックス33を制御するなどの電源制御機能を司るものである。
【0017】
温度センサー37は、実装基板43上に搭載され、この実装基板43の搭載位置における温度を検知し、当該検知結果を電気信号として演算部47に出力する。
【0018】
実装基板43は、絶縁樹脂のなかでは比較的熱抵抗の小さいポリスチレン等の材料が使用されて形成される。これにより、この実装基板43の周囲温度に対する温度差が、最高でも約20℃程度に抑えられるものである。そして、実装基板43が薄厚に形成されることにより放熱板45の温度が伝達されやすいようになっている。この実装基板43上には回路パターン(図示省略)が形成され、当該回路パターンに、温度センサー37、パワー・デバイス41及び演算部47が接続される。
【0019】
放熱板45は、アルミニウム、銅またはこれらの成分を含む合金等の金属材料が使用されて構成された既知のものがそのまま利用され、またその熱抵抗も既知のものが使用される。そして、実装基板43の熱抵抗が低いことから、実装基板43上の温度センサー37が検知する温度は、放熱板45の温度であるものと仮定できるものである。
【0020】
演算部47は、ROM及びRAM等が内蔵または接続されるマイクロコンピュータチップであり、温度センサー37で得られた温度情報や、バッテリの出力電圧及び出力電流の他、自動車の車速等の各部から与えられる情報に基づいてパワー・デバイス41をオンオフ制御するものであり、ROM内に予め格納されたソフトウェアプログラムに従って動作する機能要素である。
【0021】
そして、演算部47は、温度センサー37で検知された温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定し、これに基づいてパワー・デバイス41をオンオフ制御する機能を有する。
【0022】
ここで、演算部47におけるバッテリ31の温度の演算・推定機能について説明する。
【0023】
温度センサー37で検出される温度は、実際には、バッテリ31の温度ではなく実装基板43を介した放熱板45の温度であるが、この放熱板45の温度は、バッテリ31の温度とともに、パワー・デバイス41での発熱の影響を大きく受けるものである。
【0024】
そこで、演算部47では、単数または複数のそれぞれのパワー・デバイスを何時オンオフしたかの情報を演算部47自身で把握し、このオンオフした時刻に基づいて、温度センサー37の検知温度を放熱板45の温度に関する時定数に基づいて補正することで、パワー・デバイス41の発熱による影響を除去した周囲温度を推定し、この周囲温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定する。
【0025】
かかる演算・推定の具体例として、演算部47においては、放熱板45の温度変化についての簡易的な熱系モデルとして一次遅れ熱系モデルを事前に作成しておき、この一次遅れ熱系モデルを用いて、パワー・デバイス41の発熱による温度上昇をパワーデバイス41のオンオフ状態から推定して、バッテリ31の温度外気温からバッテリ31の温度を演算・推定する。
【0026】
演算部47での簡易的な熱系モデルを説明すると、放熱板45の熱抵抗をR、同じくその熱容量をCとすれば、放熱板45の温度に係る時定数は次の(1)式のようになる。
【0027】
T=R・C … (1)
また、温度に係るゲインをK、ラプラス演算子をsとすると、この放熱板45に関する熱系モデルを1次遅れで表わした場合、その温度θo は印加熱量θi に対して次の(2)式で表わされる。
【0028】
θo/θi=K/(1+Ts) … (2)
ここで、放熱板45の熱抵抗Rは、使用される材料によって既知である。また、放熱板45の熱容量Cと、ゲインKと、パワー・デバイス41のオンオフ動作時の発熱によって放熱板45に与えられる印加熱量θiは、実車環境での事前実験等により予め求められる。
【0029】
したがって、放熱板45の熱抵抗R、熱容量C、ゲインK及びパワー・デバイス41の動作時のタイミングで与えられる印加熱量θiを既知の値とし、上記の(1)式及び(2)式に基づいて、放熱板45の周囲温度θo、即ち放熱板45の温度のうちのバッテリ31により影響を受けた成分θoを、マイクロコンピュータチップである演算部47で容易に演算することができる。
【0030】
また、バッテリ31と放熱板45とは必ずしも密着しておらず、その間にある程度の離間距離L1が生じるため、かかる離間距離L1を考慮して、先に演算された放熱板45の周囲温度θoとバッテリ31の温度Tbとの相関関係が、温度分布、遅れ時間、輻射熱の影響等の各種のパラメータを考慮して、実車環境での事前実験等により予め求められ、かかる相関関係が演算式として演算部47のROM内に記憶されている。
【0031】
そして、演算部47におけるバッテリ31の温度に係る演算・推定処理手順としては、まず自動車の停車時において、PDU35の演算部47は、自動車のイグニション・スイッチがオフとなったときの温度とその時刻とを記憶する第1の工程と、次にイグニション・スイッチがオンとなったときに、(1)式及び(2)式に基づいてバッテリ31の停止時における温度θoを推定する第2の工程と、自動車の走行中において、(1)式及び(2)式に基づいてバッテリ31の温度を推定する第3の工程とがある。かかる処理手順は、演算部47のROM内に記憶されている。
【0032】
かかる演算部47での演算・推定処理により、温度センサー37をPDU35の内部部品として取り扱うことができるので、従来のように、単体としての温度センサーを取り扱う必要がなくなる。したがって、バッテリの筐体に、そのバッテリを交換可能としながらも、その筐体に直接に温度センサーを取り付ける場合等に比べて、そのための特別な機構が必要なくなり、部品コストを低減でき、且つ組付け作業の手間を省くことが可能となる。
【0033】
また、通常はバッテリ31の設置場所とPDU35の設置場所は固定されるため、バッテリ31とPDU35の位置関係にズレが生じることがない。したがって、交換可能な自動車部品としてのバッテリ31に直接に温度センサー37を取り付ける場合に比べて、放熱板45とバッテリ31との位置関係のズレが生じにくくなる。このため、従来に比べて、温度センサー37で検知した温度に基づいてバッテリ31の温度を精度良く演算・推定できる利点がある。
【0034】
尚、上記の(1)式及び(2)式は例示であり、温度センサー37で検知された温度とバッテリ31の温度との相関関係は、実験により、または理論的に予め求められるものであればどのようなものが使用されてもよい。また、必ずしも演算式でなくてもよく、例えば温度センサー37で検知された温度とバッテリ31の温度との相関関係が反映されたデータテーブルを利用しても差し支えない。
【0035】
{第2実施形態}
第1実施形態では、一次遅れ熱系モデルとして、上記(1)式及び(2)式を用いてバッテリ31の温度を推定する例を挙げて説明したが、この第2実施形態では、図2に示すようにバッテリ31に出入りする複数の種類の熱を考慮に入れてバッテリ31の内部温度に係る相関関係を予め定義しておき、その相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を推定するものである。バッテリ温度検出装置の構成は、図1に示した第1実施形態と同じである。
【0036】
ここで、図2はバッテリ31の熱収支モデルを示している。図2において、符号51はバッテリケース、符号53はバッテリ31を位置決めして搭載するためのトレイ、符号55,57はバッテリ31の端子をそれぞれ示している。
【0037】
図2の如く、バッテリ31に出入りする熱として代表的なものは、エンジンからの対流や輻射によりバッテリケース51に伝達される第1の熱Qeと、トレイ53を通じてバッテリケース51に伝達される第2の熱Qpと、端子55,57に接続されてワイヤーハーネス(図示省略)から端子55,57を通じてバッテリ31の内部に伝達される第3の熱Qtがある。この他、ワイヤーハーネスと端子55,57との間での接触抵抗によって変動するジュール熱や、バッテリ31の内部の電極反応熱及び内部抵抗熱等もあるが、これらの熱は、上記の第1〜第3の熱Qe,Qp,Qtに比較すると、バッテリ31の内部温度に与える影響が少ないものとなる。
【0038】
また、図4はエンジンルーム内でファンの風が吹いている状態を考慮した場合の熱収支モデルを示している。図4中の符号T1は端子55,57の外側温度、符号T2は端子55,57の内側温度、符号T3はエンジンルーム内の壁面温度、符号T4はエンジンルーム内の空気温度、符号T5,T7はバッテリケース51の外側温度、符号T6,T8はバッテリケース51の内側温度、符号T9はバッテリ31内の電解液である希硫酸の中央温度をそれぞれ示している。
【0039】
これらの符号T1〜T9を用いて熱等価回路(熱系モデル)を表すと、図5のようになる。尚、図5中の符号R1,R2は端子55,57の両端の熱抵抗、符号R3〜R5は風の影響による熱抵抗、符号R6はバッテリケース51の熱抵抗、符号R7,R9はバッテリ31内の希硫酸の中央に至るまでの熱抵抗、符号R8はトレイ53及びバッテリケース51の熱抵抗をそれぞれ示している。
【0040】
ここで、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)をRe、トレイ53の熱抵抗をRp、端子55,57の熱抵抗(R1,R2)をRt、バッテリケース51の熱抵抗(R6)をRcとし、バッテリ31の内部の電極反応熱及び内部抵抗熱等を無視することとすると、バッテリ31の熱等価回路(熱系モデル)は図3のようになる。尚、図3中の符号T∞は実験で得られたバッテリ31の飽和温度を示している。また、各熱抵抗Re,Rt,Rcは実験により求められる。かかる熱系モデルを考慮して、上記各熱Qe,Qp,Qtとバッテリ31の内部温度TBとの相関関係の関数式またはデータテーブルを、実験及び/またはシミュレーションで求めておけばよい。
【0041】
そうすると、実車搭載時には、エンジンからの対流や輻射によりバッテリケース51に伝達される第1の熱Qeと、トレイ53を通じてバッテリケース51に伝達される第2の熱Qpと、端子55,57に接続されてワイヤーハーネス(図示省略)から端子55,57を通じてバッテリ31の内部に伝達される第3の熱Qtとを計測するだけで、これらの計測値を、予め求めておいた相関関係に当てはめるだけで、バッテリ31の温度を効率よく推測できる。
【0042】
ここで、図6は自動車がアイドリング状態のときのバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図、図7は自動車の走行時におけるバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図、図8はエンジン停止時におけるバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図であり、図6〜図8中の符号61はバッテリ31の周囲温度、符号63はリレーボックス33のケースの温度、符号65はバッテリ31の内部温度をそれぞれ示している。
【0043】
図6〜図8に示したように、バッテリ31の周囲温度61とリレーボックス33のケース温度63とは相関関係が強い。具体的には、図6及び図8においては、バッテリ31の周囲温度61とリレーボックス33のケース温度63とは類似しており、また図7においてはバッテリ31の周囲温度61を平滑化した曲線に類似している。
【0044】
このように、バッテリ31に出入りする複数の種類の熱とバッテリ31の内部温度との相関関係は、時系列的に変化するため、相関関係には時間の要素を含ませるようにして、実験及びシミュレーションに基づいて予め決定される。かかる相関関係を例えば一次遅れ熱系モデルとして予め表しておくことで、図1に示した演算部47は、効率よくバッテリ31の内部温度を推定することができる。
【0045】
尚、図6に示した自動車のアイドリング状態においては、ファンが非駆動であるため風の影響は殆どないものと考えることができるため、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)Reは固定値として考えることができる。したがって、この固定値であるReを適用した相関関係を用いる。
【0046】
これに対して、図7に示した自動車の走行状態においては、ファンが駆動しているため風の影響がある。したがって、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)Reは可変値として考えることができ、よって、この固定値であるReを適用した相関関係を用いる。
【0047】
また、図8においては、バッテリ31の冷却時間においてエンジン停止時点からの時間によりバッテリ31の温度を推定することができる。
【0048】
即ち、図6〜図8に示すように、バッテリ31の周囲温度61は、リレーボックス33に設置された温度センサー37でそのケース温度63を計測し、このケース温度63をバッテリ31の周囲温度61に代用することができる。したがって、このリレーボックス33のケース温度63を、上記の例えば端子55,57の外側温度T1、エンジンルーム内の壁面温度T3及びバッテリケース51の外側温度T7等に適用して、予め用意した相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を容易に推定できる。
【0049】
尚、温度センサー37の設置位置は、トレイ53の下部、バッテリ31の端子55,57、バッテリ31のボディーアース等、リレーボックス33以外の場所で追加で設置しても差し支えないが、リレーボックス33に設置することで、風の影響を受けにくくなる。勿論、第1実施形態のように、PDU(パワー・ディストリビュート・ユニット:車載電源分配装置)35内の放熱板45の付近に温度センサー37を設置し、この温度センサー37を用いて、この実施形態における相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を演算・推定してもよいことは勿論である。この場合、放熱板が風などによる温度外乱因子を緩和する効果がある。
【0050】
また、温度センサー37での計測結果をリレーボックス33の内部で用いて各リレーのオンオフ制御を行うなどすれば、温度センサー37と各リレーとの間の配線も省略できる。
【0051】
しかも、リレーボックス33内にユニット化して設置することで、温度センサー37をリレーボックス33の内部部品として取り扱うことができ、リレーボックス33と温度センサー37とを別々に取り扱う場合に比べて便利である。
【0052】
また、第1実施形態においては、温度センサー37で放熱板45の温度を測定し、その測定結果に基づいてバッテリ31の内部温度を推定していたが、温度センサー37はPDU35の内部であればどこに設置されても差し支えない。
【0053】
さらに、例えば、バッテリ31の充放電時及び自動車のアイドリング時のバッテリ31の温度変化を実際測定したところ、1)バッテリ31の自己発熱による温度変化は無視できる、2)バッテリ31の周辺温度によってバッテリ内部の電解液の温度が決まる、という見知が本出願人によって得られた。
【0054】
そこで、バッテリ31内部の電解液31aの熱等価モデルを、例えば図9のように単純化し、熱抵抗R0と熱容量C0の積(R0×C0=時定数)に対応するように、図10の如く、車載電源分配装置の内部の温度センサー37付近の熱容量cと熱抵抗rを設定すれば、理論的に演算なしで、バッテリ31の電解液31aの温度を推定することができる。実際は、温度センサー37を断熱材で包むことで熱抵抗rを調整し、また、温度センサー37付近に熱容量cが高いもの(放熱板、パワーデバイス,リレーボックス33の側ケース、または別部品等)を設置することで、車載電源分配装置の熱容量cと熱抵抗rをバッテリ31内部の熱抵抗R0と熱容量C0に対応するよう設定できる。このようにすれば、演算回路なしでバッテリ31の内部温度を効率よく推定でき、この温度に基づいて適切な電源分配を行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
31 バッテリ
33 リレーボックス
35 PDU
37 温度センサー
41 パワー・デバイス
43 実装基板
45 放熱板
47 演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ温度検出装置及びそれに関連する車載電源分配装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図11の如く、自動車内の電源系統としてバッテリ1とオルタネータ3とが併用されて、負荷5への電源供給が行われる。そして、例えば自動車の始動等においては、バッテリ1から負荷5に電源の供給を行うが、バッテリ1の電力消費を継続すると、当該バッテリ1の残存電力が少なくなってしまい、最終的には自動車の負荷5に電源供給を行うことができなくなる。そこで、エンジンの回転によってオルタネータ3が交流発電を行い、ここで発電された電力をバッテリ1に充電することで、各部の電装品に対して長時間の電源供給を可能にしている。
【0003】
ここで、従来においては、バッテリ1の温度、電圧及び出力電流といった各種の状態を検出し、これに基づいて所定の制御部(パワー・ディストリビュート・ユニット)7でレギュレータ9を制御することで、オルタネータ3から出力される発電電圧を調整することが行われている。例えば、バッテリ1の温度は温度センサー11によって検知されて制御部7に入力され、バッテリ1の電圧は当該バッテリ1の出力経路13の電圧が制御部7に入力され、バッテリ1からの出力電流はシャント抵抗等の所定の電流センサー15で検知されて制御部7に入力され、制御部7のバッテリ状態検知機能21によってバッテリ1の状態判断が行われて、この判断結果に基づいて制御部7がレギュレータ9の制御を行う。
【0004】
この他、自動車の走行速度を検知する車速センサーといった各種センサー17からの情報を制御部7の車両状態検知機能23により分析し、自動車の加速時と減速時によってオルタネータ3及びレギュレータ9からの出力を調整するようなことも行われている。
【0005】
尚、温度センサー11によりバッテリ1の温度を検知するのは、その温度の変化によって、バッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に大きく影響を与えるため、バッテリ1の温度に応じてレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整する必要があるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、温度の変化がバッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に及ぼす大きく影響を推定してレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整するためには、バッテリ1の温度を精度良く検知する必要がある。
【0007】
この場合、従来では、バッテリ1の筐体に直接に温度センサー11を取り付けていた。しかし、この場合は、バッテリ1に直接に温度センサー11を取り付ける機構が必要であり、特にバッテリ1が交換可能な部品である必要があることから、バッテリ1に温度センサー11を取り付ける機構が複雑な構造になってしまうため、部品コストが高くなるとともに、組付け作業に手間がかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、バッテリの温度を精度良く検知でき、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消し得るバッテリ温度検出装置及びそれに関連する車載電源分配装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、前記バッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置の内部に設置された温度センサーと、前記温度センサー付近に配置された、放熱板及び/またはリレーボックスのケースと、前記温度センサーで検出された温度に基づいて前記バッテリの温度を推定する推定部とを備えるものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗の積から成る熱時定数が、前記バッテリの内部の熱等価モデルから導出される当該バッテリの内部の熱時定数に一致するように、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗が設定されているものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、自動車に搭載されるバッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置であって、請求項1及び請求項2のいずれか一つに記載のバッテリ温度検出装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度センサーを車載電源分配装置の内部部品として取り扱うことができるため、単体としての温度センサーを設置するための特別な機構が必要なくなり、組付け作業の手間を省くことができるとともに、バッテリの温度を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリ温度検出装置を示す模式図である。
【図2】本発明のバッテリ温度検出装置の他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図3】本発明のバッテリ温度検出装置の他の熱系モデルを示す図である。
【図4】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図5】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを示す図である。
【図6】自動車がアイドリング状態のときのバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図7】自動車の走行時におけるバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図8】エンジン停止時におけるバッテリとその周辺の温度変化を示す図である。
【図9】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図10】本発明のバッテリ温度検出装置のさらに他の熱系モデルを説明するために示す模式図である。
【図11】自動車における一般的な電源制御系の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
{第1実施形態}
本発明の第1実施形態に係るバッテリ温度検出装置は、図1の如く、自動車のバッテリ31の付近に配置されて、当該バッテリ31から各種の負荷への電源分配を行うPDU(パワー・ディストリビュート・ユニット:車載電源分配装置)35内に、バッテリ31の温度を検出する温度センサー37を設置し、この温度センサー37で検知された温度によりバッテリ31の温度を演算・推定するものである。
【0015】
具体的に、このバッテリ温度検出装置は、絶縁樹脂としては比較的熱抵抗が小さい特性を有してPDU35に内蔵された単数または複数の電源分配用の電力部品としてのパワー・デバイス41を実装する実装基板43と、この実装基板43に密着配置されるとともにバッテリ31の付近に配置される放熱板45と、実装基板43上に搭載された温度センサー37と、この温度センサー37で検知された温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定する演算部47とを備える。
【0016】
PDU35は、バッテリ31から各種の負荷への電源供給をオンオフ制御するとともに、レギュレータ(図示省略)から出力されるオルタネータ(図示省略)の出力電圧を調整したり各種の負荷のオンオフを行うためのリレーボックス33を制御するなどの電源制御機能を司るものである。
【0017】
温度センサー37は、実装基板43上に搭載され、この実装基板43の搭載位置における温度を検知し、当該検知結果を電気信号として演算部47に出力する。
【0018】
実装基板43は、絶縁樹脂のなかでは比較的熱抵抗の小さいポリスチレン等の材料が使用されて形成される。これにより、この実装基板43の周囲温度に対する温度差が、最高でも約20℃程度に抑えられるものである。そして、実装基板43が薄厚に形成されることにより放熱板45の温度が伝達されやすいようになっている。この実装基板43上には回路パターン(図示省略)が形成され、当該回路パターンに、温度センサー37、パワー・デバイス41及び演算部47が接続される。
【0019】
放熱板45は、アルミニウム、銅またはこれらの成分を含む合金等の金属材料が使用されて構成された既知のものがそのまま利用され、またその熱抵抗も既知のものが使用される。そして、実装基板43の熱抵抗が低いことから、実装基板43上の温度センサー37が検知する温度は、放熱板45の温度であるものと仮定できるものである。
【0020】
演算部47は、ROM及びRAM等が内蔵または接続されるマイクロコンピュータチップであり、温度センサー37で得られた温度情報や、バッテリの出力電圧及び出力電流の他、自動車の車速等の各部から与えられる情報に基づいてパワー・デバイス41をオンオフ制御するものであり、ROM内に予め格納されたソフトウェアプログラムに従って動作する機能要素である。
【0021】
そして、演算部47は、温度センサー37で検知された温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定し、これに基づいてパワー・デバイス41をオンオフ制御する機能を有する。
【0022】
ここで、演算部47におけるバッテリ31の温度の演算・推定機能について説明する。
【0023】
温度センサー37で検出される温度は、実際には、バッテリ31の温度ではなく実装基板43を介した放熱板45の温度であるが、この放熱板45の温度は、バッテリ31の温度とともに、パワー・デバイス41での発熱の影響を大きく受けるものである。
【0024】
そこで、演算部47では、単数または複数のそれぞれのパワー・デバイスを何時オンオフしたかの情報を演算部47自身で把握し、このオンオフした時刻に基づいて、温度センサー37の検知温度を放熱板45の温度に関する時定数に基づいて補正することで、パワー・デバイス41の発熱による影響を除去した周囲温度を推定し、この周囲温度に基づいてバッテリ31の温度を演算・推定する。
【0025】
かかる演算・推定の具体例として、演算部47においては、放熱板45の温度変化についての簡易的な熱系モデルとして一次遅れ熱系モデルを事前に作成しておき、この一次遅れ熱系モデルを用いて、パワー・デバイス41の発熱による温度上昇をパワーデバイス41のオンオフ状態から推定して、バッテリ31の温度外気温からバッテリ31の温度を演算・推定する。
【0026】
演算部47での簡易的な熱系モデルを説明すると、放熱板45の熱抵抗をR、同じくその熱容量をCとすれば、放熱板45の温度に係る時定数は次の(1)式のようになる。
【0027】
T=R・C … (1)
また、温度に係るゲインをK、ラプラス演算子をsとすると、この放熱板45に関する熱系モデルを1次遅れで表わした場合、その温度θo は印加熱量θi に対して次の(2)式で表わされる。
【0028】
θo/θi=K/(1+Ts) … (2)
ここで、放熱板45の熱抵抗Rは、使用される材料によって既知である。また、放熱板45の熱容量Cと、ゲインKと、パワー・デバイス41のオンオフ動作時の発熱によって放熱板45に与えられる印加熱量θiは、実車環境での事前実験等により予め求められる。
【0029】
したがって、放熱板45の熱抵抗R、熱容量C、ゲインK及びパワー・デバイス41の動作時のタイミングで与えられる印加熱量θiを既知の値とし、上記の(1)式及び(2)式に基づいて、放熱板45の周囲温度θo、即ち放熱板45の温度のうちのバッテリ31により影響を受けた成分θoを、マイクロコンピュータチップである演算部47で容易に演算することができる。
【0030】
また、バッテリ31と放熱板45とは必ずしも密着しておらず、その間にある程度の離間距離L1が生じるため、かかる離間距離L1を考慮して、先に演算された放熱板45の周囲温度θoとバッテリ31の温度Tbとの相関関係が、温度分布、遅れ時間、輻射熱の影響等の各種のパラメータを考慮して、実車環境での事前実験等により予め求められ、かかる相関関係が演算式として演算部47のROM内に記憶されている。
【0031】
そして、演算部47におけるバッテリ31の温度に係る演算・推定処理手順としては、まず自動車の停車時において、PDU35の演算部47は、自動車のイグニション・スイッチがオフとなったときの温度とその時刻とを記憶する第1の工程と、次にイグニション・スイッチがオンとなったときに、(1)式及び(2)式に基づいてバッテリ31の停止時における温度θoを推定する第2の工程と、自動車の走行中において、(1)式及び(2)式に基づいてバッテリ31の温度を推定する第3の工程とがある。かかる処理手順は、演算部47のROM内に記憶されている。
【0032】
かかる演算部47での演算・推定処理により、温度センサー37をPDU35の内部部品として取り扱うことができるので、従来のように、単体としての温度センサーを取り扱う必要がなくなる。したがって、バッテリの筐体に、そのバッテリを交換可能としながらも、その筐体に直接に温度センサーを取り付ける場合等に比べて、そのための特別な機構が必要なくなり、部品コストを低減でき、且つ組付け作業の手間を省くことが可能となる。
【0033】
また、通常はバッテリ31の設置場所とPDU35の設置場所は固定されるため、バッテリ31とPDU35の位置関係にズレが生じることがない。したがって、交換可能な自動車部品としてのバッテリ31に直接に温度センサー37を取り付ける場合に比べて、放熱板45とバッテリ31との位置関係のズレが生じにくくなる。このため、従来に比べて、温度センサー37で検知した温度に基づいてバッテリ31の温度を精度良く演算・推定できる利点がある。
【0034】
尚、上記の(1)式及び(2)式は例示であり、温度センサー37で検知された温度とバッテリ31の温度との相関関係は、実験により、または理論的に予め求められるものであればどのようなものが使用されてもよい。また、必ずしも演算式でなくてもよく、例えば温度センサー37で検知された温度とバッテリ31の温度との相関関係が反映されたデータテーブルを利用しても差し支えない。
【0035】
{第2実施形態}
第1実施形態では、一次遅れ熱系モデルとして、上記(1)式及び(2)式を用いてバッテリ31の温度を推定する例を挙げて説明したが、この第2実施形態では、図2に示すようにバッテリ31に出入りする複数の種類の熱を考慮に入れてバッテリ31の内部温度に係る相関関係を予め定義しておき、その相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を推定するものである。バッテリ温度検出装置の構成は、図1に示した第1実施形態と同じである。
【0036】
ここで、図2はバッテリ31の熱収支モデルを示している。図2において、符号51はバッテリケース、符号53はバッテリ31を位置決めして搭載するためのトレイ、符号55,57はバッテリ31の端子をそれぞれ示している。
【0037】
図2の如く、バッテリ31に出入りする熱として代表的なものは、エンジンからの対流や輻射によりバッテリケース51に伝達される第1の熱Qeと、トレイ53を通じてバッテリケース51に伝達される第2の熱Qpと、端子55,57に接続されてワイヤーハーネス(図示省略)から端子55,57を通じてバッテリ31の内部に伝達される第3の熱Qtがある。この他、ワイヤーハーネスと端子55,57との間での接触抵抗によって変動するジュール熱や、バッテリ31の内部の電極反応熱及び内部抵抗熱等もあるが、これらの熱は、上記の第1〜第3の熱Qe,Qp,Qtに比較すると、バッテリ31の内部温度に与える影響が少ないものとなる。
【0038】
また、図4はエンジンルーム内でファンの風が吹いている状態を考慮した場合の熱収支モデルを示している。図4中の符号T1は端子55,57の外側温度、符号T2は端子55,57の内側温度、符号T3はエンジンルーム内の壁面温度、符号T4はエンジンルーム内の空気温度、符号T5,T7はバッテリケース51の外側温度、符号T6,T8はバッテリケース51の内側温度、符号T9はバッテリ31内の電解液である希硫酸の中央温度をそれぞれ示している。
【0039】
これらの符号T1〜T9を用いて熱等価回路(熱系モデル)を表すと、図5のようになる。尚、図5中の符号R1,R2は端子55,57の両端の熱抵抗、符号R3〜R5は風の影響による熱抵抗、符号R6はバッテリケース51の熱抵抗、符号R7,R9はバッテリ31内の希硫酸の中央に至るまでの熱抵抗、符号R8はトレイ53及びバッテリケース51の熱抵抗をそれぞれ示している。
【0040】
ここで、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)をRe、トレイ53の熱抵抗をRp、端子55,57の熱抵抗(R1,R2)をRt、バッテリケース51の熱抵抗(R6)をRcとし、バッテリ31の内部の電極反応熱及び内部抵抗熱等を無視することとすると、バッテリ31の熱等価回路(熱系モデル)は図3のようになる。尚、図3中の符号T∞は実験で得られたバッテリ31の飽和温度を示している。また、各熱抵抗Re,Rt,Rcは実験により求められる。かかる熱系モデルを考慮して、上記各熱Qe,Qp,Qtとバッテリ31の内部温度TBとの相関関係の関数式またはデータテーブルを、実験及び/またはシミュレーションで求めておけばよい。
【0041】
そうすると、実車搭載時には、エンジンからの対流や輻射によりバッテリケース51に伝達される第1の熱Qeと、トレイ53を通じてバッテリケース51に伝達される第2の熱Qpと、端子55,57に接続されてワイヤーハーネス(図示省略)から端子55,57を通じてバッテリ31の内部に伝達される第3の熱Qtとを計測するだけで、これらの計測値を、予め求めておいた相関関係に当てはめるだけで、バッテリ31の温度を効率よく推測できる。
【0042】
ここで、図6は自動車がアイドリング状態のときのバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図、図7は自動車の走行時におけるバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図、図8はエンジン停止時におけるバッテリ31とその周辺の温度変化を示す図であり、図6〜図8中の符号61はバッテリ31の周囲温度、符号63はリレーボックス33のケースの温度、符号65はバッテリ31の内部温度をそれぞれ示している。
【0043】
図6〜図8に示したように、バッテリ31の周囲温度61とリレーボックス33のケース温度63とは相関関係が強い。具体的には、図6及び図8においては、バッテリ31の周囲温度61とリレーボックス33のケース温度63とは類似しており、また図7においてはバッテリ31の周囲温度61を平滑化した曲線に類似している。
【0044】
このように、バッテリ31に出入りする複数の種類の熱とバッテリ31の内部温度との相関関係は、時系列的に変化するため、相関関係には時間の要素を含ませるようにして、実験及びシミュレーションに基づいて予め決定される。かかる相関関係を例えば一次遅れ熱系モデルとして予め表しておくことで、図1に示した演算部47は、効率よくバッテリ31の内部温度を推定することができる。
【0045】
尚、図6に示した自動車のアイドリング状態においては、ファンが非駆動であるため風の影響は殆どないものと考えることができるため、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)Reは固定値として考えることができる。したがって、この固定値であるReを適用した相関関係を用いる。
【0046】
これに対して、図7に示した自動車の走行状態においては、ファンが駆動しているため風の影響がある。したがって、エンジンからの対流や輻射における熱抵抗(R3〜R5)Reは可変値として考えることができ、よって、この固定値であるReを適用した相関関係を用いる。
【0047】
また、図8においては、バッテリ31の冷却時間においてエンジン停止時点からの時間によりバッテリ31の温度を推定することができる。
【0048】
即ち、図6〜図8に示すように、バッテリ31の周囲温度61は、リレーボックス33に設置された温度センサー37でそのケース温度63を計測し、このケース温度63をバッテリ31の周囲温度61に代用することができる。したがって、このリレーボックス33のケース温度63を、上記の例えば端子55,57の外側温度T1、エンジンルーム内の壁面温度T3及びバッテリケース51の外側温度T7等に適用して、予め用意した相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を容易に推定できる。
【0049】
尚、温度センサー37の設置位置は、トレイ53の下部、バッテリ31の端子55,57、バッテリ31のボディーアース等、リレーボックス33以外の場所で追加で設置しても差し支えないが、リレーボックス33に設置することで、風の影響を受けにくくなる。勿論、第1実施形態のように、PDU(パワー・ディストリビュート・ユニット:車載電源分配装置)35内の放熱板45の付近に温度センサー37を設置し、この温度センサー37を用いて、この実施形態における相関関係に基づいてバッテリ31の内部温度を演算・推定してもよいことは勿論である。この場合、放熱板が風などによる温度外乱因子を緩和する効果がある。
【0050】
また、温度センサー37での計測結果をリレーボックス33の内部で用いて各リレーのオンオフ制御を行うなどすれば、温度センサー37と各リレーとの間の配線も省略できる。
【0051】
しかも、リレーボックス33内にユニット化して設置することで、温度センサー37をリレーボックス33の内部部品として取り扱うことができ、リレーボックス33と温度センサー37とを別々に取り扱う場合に比べて便利である。
【0052】
また、第1実施形態においては、温度センサー37で放熱板45の温度を測定し、その測定結果に基づいてバッテリ31の内部温度を推定していたが、温度センサー37はPDU35の内部であればどこに設置されても差し支えない。
【0053】
さらに、例えば、バッテリ31の充放電時及び自動車のアイドリング時のバッテリ31の温度変化を実際測定したところ、1)バッテリ31の自己発熱による温度変化は無視できる、2)バッテリ31の周辺温度によってバッテリ内部の電解液の温度が決まる、という見知が本出願人によって得られた。
【0054】
そこで、バッテリ31内部の電解液31aの熱等価モデルを、例えば図9のように単純化し、熱抵抗R0と熱容量C0の積(R0×C0=時定数)に対応するように、図10の如く、車載電源分配装置の内部の温度センサー37付近の熱容量cと熱抵抗rを設定すれば、理論的に演算なしで、バッテリ31の電解液31aの温度を推定することができる。実際は、温度センサー37を断熱材で包むことで熱抵抗rを調整し、また、温度センサー37付近に熱容量cが高いもの(放熱板、パワーデバイス,リレーボックス33の側ケース、または別部品等)を設置することで、車載電源分配装置の熱容量cと熱抵抗rをバッテリ31内部の熱抵抗R0と熱容量C0に対応するよう設定できる。このようにすれば、演算回路なしでバッテリ31の内部温度を効率よく推定でき、この温度に基づいて適切な電源分配を行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
31 バッテリ
33 リレーボックス
35 PDU
37 温度センサー
41 パワー・デバイス
43 実装基板
45 放熱板
47 演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、
前記バッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置の内部に設置された温度センサーと、
前記温度センサー付近に配置された、放熱板及び/またはリレーボックスのケースと、
前記温度センサーで検出された温度に基づいて前記バッテリの温度を推定する推定部とを備えるバッテリ温度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、
前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗の積から成る熱時定数が、前記バッテリの内部の熱等価モデルから導出される当該バッテリの内部の熱時定数に一致するように、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗が設定されているバッテリ温度検出装置。
【請求項3】
自動車に搭載されるバッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置であって、
請求項1及び請求項2のいずれか一つに記載のバッテリ温度検出装置を備える車載電源分配装置。
【請求項1】
自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、
前記バッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置の内部に設置された温度センサーと、
前記温度センサー付近に配置された、放熱板及び/またはリレーボックスのケースと、
前記温度センサーで検出された温度に基づいて前記バッテリの温度を推定する推定部とを備えるバッテリ温度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、
前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗の積から成る熱時定数が、前記バッテリの内部の熱等価モデルから導出される当該バッテリの内部の熱時定数に一致するように、前記温度センサー付近の熱容量及び熱抵抗が設定されているバッテリ温度検出装置。
【請求項3】
自動車に搭載されるバッテリの周辺に配置されて電力部品を用いて当該バッテリからの電源を複数の負荷に分配する車載電源分配装置であって、
請求項1及び請求項2のいずれか一つに記載のバッテリ温度検出装置を備える車載電源分配装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−66002(P2011−66002A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232450(P2010−232450)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【分割の表示】特願2004−133733(P2004−133733)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【分割の表示】特願2004−133733(P2004−133733)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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