説明

バッテリ状態表示装置

【課題】バッテリの状態を表す指標である劣化度(SOH)と充電量(SOC)を独立に評価し得るバッテリ状態表示装置を提供する。
【解決手段】バッテリ31、電流センサ72Aと,電圧センサ72Bと,記憶部72Cを有する処理部72Dを備えたバッテリ状態検出部72,表示部73,及び表示部73の表示を制御する制御部74を備えて構成され、所定の評価原理に基づいて判定された劣化度(SOH)と充電量(SOC)を各々縦軸と横軸とする2次元表示を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセグメントによってバッテリの状態を表示するバッテリ状態表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、車両等に搭載された鉛バッテリの状態を示す指標として劣化度(SOH:State Of Health)と充電量(SOC:State Of Charge)がある。これら2つの指標を各種のセンサにより検出し、その検出結果に基づいて、図9に示す如く、当該バッテリの劣化度91、充電量92として、各々複数のセグメントによってゲージ表示するバッテリ状態表示装置及びバッテリ状態表示方法が提案されている(第1従来技術)。
【0003】
上述のSOHとSOCには、「バッテリの充電量の減少は、劣化度が大きいほど早い」等の常識的な相関があるため、図10に示す如く、これらを変数とするバッテリレベル101を新たに定義し、単一のゲージ表示を行う技術も提案されている(第2従来技術)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第1従来技術に於いては、上述の如くSOHとSOCに常識的相関があるにも拘わらず個別に表示されているために、両者を視覚的に認識することが困難であるという問題があった。
【0005】
また、第2従来技術に於いては、バッテリの状態を視覚的に認識することは容易であるものの、SOHとSOCを独立に評価することが不可能であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、SOHとSOCを独立に評価することが可能で且つ全体として直観的にバッテリ状態を認識することが可能なバッテリ状態表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、請求項1記載の発明は、バッテリの状態を表示するバッテリ状態表示装置であって、表示部と、バッテリの劣化度及び充電量を各々検出するバッテリ状態検出部と、前記バッテリ状態検出部により検出された前記劣化度及び前記充電量について、一方を縦軸に、他方を横軸にとって前記表示部に2次元表示する制御部とを備えるものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のバッテリ状態表示装置であって、前記2次元表示は、縦方向と横方向にマトリクス状に配置された複数の指標を、前記バッテリ状態検出部により検出された前記劣化度及び前記充電量に基づいて選択的にオン・オフ表示することにより、各指標で表示される縦方向と横方向の表示寸法を各々変化させるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1及び請求項2記載の発明に依れば、バッテリの状態を劣化度と充電量に基づいて2次元表示するので、劣化度と充電量を各々独立に評価することが可能となり、且つ全体として直観的にバッテリ状態を認識することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<バッテリ状態の評価原理>
本発明の実施の形態に係るバッテリ状態表示装置についての具体的な説明を行う前に、本実施形態に係るバッテリ状態の評価原理について説明する。
【0011】
図1は、劣化度及び充電量の異なるバッテリについて開放電圧(バッテリが実質的に放電を行っていないときの出力電圧)とエンジン始動時の下限電圧(エンジン始動時の放電によりバッテリの出力電圧が低下したときの最低電圧)とを試験により計測した計測結果を示すグラフである。その横軸は、各放電試験に於けるエンジン始動時放電開始前のバッテリの開放電圧値に対応し、縦軸は、各放電試験に於けるエンジン始動時放電中のバッテリの下限電圧値に対応している。
【0012】
また、図1中の曲線G1は、新品(実質的に新品であればよい(以下同様))のバッテリについての計測結果に基づいて描かれたものであり、曲線G2〜G4は、使用されて或る程度劣化したバッテリについての計測結果に基づいて描かれたものであり、曲線G2、G3、G4の順に劣化が進んでいる。
【0013】
図1に示す如く、バッテリの劣化度が進むにつれて対応する曲線G1〜G4がグラフの概ね右方向(または右下方向)へシフトしていることを読み取ることができる。特に、下限電圧値が所定の基準レベル(例えば、9V)以下の領域では、曲線G1を基準とした曲線G2〜G4の右方向へのシフト量が対応するバッテリの劣化度に応じて増加する傾向にあることが分かる。このことから、曲線G1に対応した新品のバッテリのエンジン始動時放電特性(各充電量に応じた各放電電圧値に対するエンジン始動時放電中の下限電圧値)を導出しておけば、これを基準としてバッテリの状態評価を行うことができる。
【0014】
図2は、バッテリのエンジン始動時の放電特性について説明するためのグラフであり、図2中の曲線G1は、図1中の曲線G1に対応している。
【0015】
図3に示す如く、エンジン始動時にバッテリ31に接続されるエンジン始動時負荷LS(バッテリの内部抵抗以外の負荷であって、スタータ、その他の抵抗要素等を含む)の抵抗値をRSとし、バッテリ31の内部抵抗値をRBとし、バッテリ31の開放電圧値をVOとし、バッテリ31にエンジン始動時負荷LSを接続して放電を行わせた際の出力電圧の最低値である下限電圧値をVLとすると、これらのパラメータRS、RB、VO、VLの間には、次の関係が成り立つ。
【0016】
【数1】

【0017】
この式(1)をVLについて解くと次のようになる。
【0018】
【数2】

【0019】
この式(2)に於いて、内部抵抗値RBが開放電圧値VO(即ち、バッテリ31の充電量)により変化しないと仮定すると、エンジン始動時負荷LSの抵抗値RSは開放電圧値VOの値に依らず一定であるため、図2のグラフの座標系の(0,0)(図2のグラフの座標軸の基点は(0,0)ではない)を通る直線G5に対応した式(値VO、VLの比例関係を表す式)が得られる。
【0020】
実際には、式(2)に於ける内部抵抗値RBは、開放電圧値VO(バッテリ31の充電量)の減少に伴って増加するため、下限電圧値VLの低下割合は、曲線G1のように開放電圧値VOの減少に伴って増大するようになっている。
【0021】
即ち、図2のグラフの曲線G1の直線G5からの縦軸マイナス方向への乖離量が開放電圧値VOの減少に伴って徐々に大きくなるのは、開放電圧値VOの減少に伴う内部抵抗値RBの増加によるものであるということができる。
【0022】
そこで、本評価原理では、開放電圧値VO(バッテリ31の充電量)の減少に伴うバッテリ31の内部抵抗値RBの増加割合が、新品のバッテリ31であればどのバッテリ31についても略共通した特性であることを利用して、その特性を有効に利用することにより、新品のバッテリ31のエンジン始動時負荷LSに対する車両固有の放電特性を容易に検出するものとする。
【0023】
即ち、新品のバッテリ31に於ける開放電圧値VOの減少に伴う内部抵抗値RBの増加割合に関する情報を予め取得してシステムに記憶させておき、工場等での車両組立完成時、出荷時、車両がエンドユーザに引き渡されたとき、またはエンドユーザ引き渡し後一定期間内等のバッテリ31が新品の状態にあるときに、バッテリ31に対するエンジン始動時負荷LSを用いた放電特性(基準となる充電量に於ける新品のバッテリ31の開放電圧値VOとエンジン始動時負荷LSを接続した際の下限電圧値VL)の計測により、図2のグラフ上に於ける車両固有の1つの計測点を取得し、その計測点と予め格納された内部抵抗値RBの増加割合に関する情報とに基づいて、新品のバッテリ31のエンジン始動時負荷LSに対する車両固有の放電特性を取得できることが分かった。
【0024】
尚、前記車両固有の計測点については、複数回の計測を行って得られた計測結果について平均化(加重平均を含む)等の数値処理を施したものを利用しても良く、その場合、計測時のバッテリ31の開放電圧(充電量)の値に応じて開放電圧が最大の計測点について優先的に利用したり、加重平均の寄与を大きくする等の方法が考えられる。
【0025】
より具体的には、先ず、新品のバッテリ31の充電量が満充電状態(実質的に満充電状態であれば良い(以下同様))であるときの初期基準開放電圧値VOIF及び内部抵抗値RBIFと、充電量が低下したときの各開放電圧値VOIに於ける内部抵抗値RBIのRBIFに対する変化率(RBI/RBIF)とを試験により計測する。
【0026】
そして、新品のバッテリ31の開放電圧値VOIの変化に対する内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)を、開放電圧値VOIを変数とした関数(例えば、式(3)のような関数)を近似的に求め、その関数に関する情報を予めシステムに記憶させておく。
【0027】
尚、各開放電圧値VOIに於ける内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)の具体的な計測方法については後述する。
【0028】
【数3】

【0029】
次に、工場等での車両組立完成時等のバッテリ31が新品の状態にあり、且つ、バッテリ31が満充電状態であるときに、開放電圧値(初期基準開放電圧値)VOIFと、そのバッテリ31のエンジン始動時負荷LSを接続した際のバッテリ1の下限電圧値(初期基準下限電圧値)VLIFとを計測する。バッテリ31が満充電状態であるか否かの判定は、例えばバッテリ31の開放電圧値を計測し、その値が満充電状態に対応した所定の基準レベル以上になっているか否かを判定することにより行われる。尚、上述の如く、初期基準開放電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFの計測を複数回行ってそれらを平均等したものを利用してもよい。
【0030】
この初期基準開放電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFについての計測結果と、上式(3)の関数(又はそれと同等なデータテーブル)を用いることにより、車両に搭載された新品のバッテリ31のエンジン始動時負荷LSに対する開放電圧値VOIの変化に伴う下限電圧値VLIの変化を示す関係式は、次式で与えられる。
【0031】
【数4】

【0032】
ここで、上式(4)中のパラメータVLKは、図2のグラフの直線G5上に於ける開放電圧値がVOIであるときの下限電圧値であり、下記の式(5)により与えられる。
【0033】
【数5】

【0034】
式(4)の関係式の導出は、例えば、次のようにして行われる。即ち、上式(1)の関係を図2のグラフに於ける座標点PFについて当て嵌めることを考えた場合、開放電圧値がVOIFのとき(満充電時)の内部抵抗値RBをRBIFとすると、次の関係式(6)が得られる。
【0035】
【数6】

【0036】
また、上式(1)の図2のグラフに於ける座標点PIについて当て嵌めることを考えた場合、開放電圧値がVOIのときの内部抵抗値RBが上式(3)よりRB=f(VOI)・RBIFとして得られるため、次の関係式(7)が得られる。
【0037】
【数7】

【0038】
よって、関係式(6)の右辺を関係式(7)の左辺のパラメータ(RS/RBIF)に代入したものをパラメータVLIについて解くと、上記関係式(4)が得られる。
【0039】
このようにして導出した開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとの関係に関する情報は、車両固有のエンジン始動時負荷LSの抵抗値RSが反映されているため、この情報を用いることができるようになり、車両固有の負荷環境等を反映したバッテリ31の状態評価を行うことができる。
【0040】
ここで、図2のグラフ中の値VOIE、VLIEは、新品のバッテリ31が充電量ゼロ(実質的に充電量がゼロであれば良い(以下同様))のときの開放電圧値及び下限電圧値に各々対応している。また、値VOIE、VLIEの具体例は、例えば、12.8V、10.5Vである。
【0041】
次に、新品のバッテリ31に於ける開放電圧値VOの減少に伴う内部抵抗値RBの増加割合に関する情報の取得方法について説明する。
【0042】
先ず、本評価原理では、例えば、バッテリ容量試験に関するJIS規格に従い、新品のバッテリ31に対する容量試験を行う。ここで、JIS規格の容量試験とは、満充電状態のバッテリ31に一定電流値(例えば、0.2A)の放電を行わせ、その放電開始時からバッテリ31の出力電圧が充電量ゼロに対応した電圧値(例えば、10.5V)に到達するまでの所要時間を計測し、その所要時間と放電電流値(例えば、0.2A)との乗算値をバッテリ容量とする試験である。
【0043】
即ち、本評価原理では、満充電状態で新品のバッテリ31に、JIS規格に準拠した一定電流値(例えば、0.2A)を放電させつつ、そのときのバッテリ31の出力電圧の推移を計測する。
【0044】
図4のグラフ中の曲線G7は、そのときのバッテリ31の出力電圧の推移を計測した結果を示すものであり、グラフ中の値VAFは、放電開始前の満充電状態のバッテリ31の出力電圧値(開放電圧値)であり、前述の値VOIFに対応している。値VAEは、バッテリ31の充電量ゼロに対応する放電終了時の開放電圧値であり、前述の値VOIEに対応している。
【0045】
また、値VBFは、放電開始直後のバッテリ31の出力電圧値であり、値VBEは、バッテリ31の充電量ゼロに対応する放電終了時の出力電圧値であり、値TEは、充電量ゼロに対応する放電終了時の時間を示している。
【0046】
また、直線G8は、放電による充電量の減少に伴って変化するバッテリ31の開放電圧の計測値の推移を直線で近似したものである。
【0047】
また、このグラフ中のハッチングを付した領域が、充電量の減少に伴うバッテリ31の内部抵抗値RBの増加の影響を反映している部分であり、図2及び後述する図5のグラフのハッチングを付した領域に対応している。
【0048】
続いて、図4のグラフに於ける曲線G7上に於ける点と直線G8上に於ける点とのグラフの縦軸方向に沿った差の大きさは、その時点に於けるバッテリ31の内部抵抗値RBに比例するため、放電開始時(満充電時)に於ける値VAFと値VBFとの差D2と、放電の過程の直線G8上の各点と曲線G7上の各点との差D3との比率(D3/D2)により、各開放電圧値VOに於ける内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を導出することができる。
【0049】
図5のグラフ中の曲線G9は、そのように導出した開放電圧値VOの変化に対する内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を示しており、この曲線G9に基づいて前述の式(3)が決定される。
【0050】
このようにして取得した開放電圧値VOの変化に対する内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)は、バッテリ31のグレード等の相違に依存する度合が低いが、種々のバッテリ31に対する適用性を向上させるため、種々のバッテリ31に対する試験により取得した内部抵抗値RBの変化率(RB/RBF)を平均化したものを使用するのが望ましい。
【0051】
次に、図6を参照して、上式(4)、(5)の関係式(またはその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)を用いたバッテリ31の状態(SOH及びSOC)の評価原理について説明する。
【0052】
先ず、劣化度の評価原理について説明する。図6のグラフ中の曲線はG1は、上述のように、予めシステムに記憶させた上式(4)、(5)の関係式(またはその関係式と等価な開放電圧値VOIと下限電圧値VLIとを対応付けたデータテーブル)と、上述の初期基準開放電圧値VOIF及び初期基準下限電圧値VLIFとを用いて導出したものである。この図6の曲線G1及び値VOIF、VLIFに関する情報は、システムに記憶されてバッテリ31の状態評価に用いられる。
【0053】
そして、バッテリ1の使用が開始されている状態に於いて、バッテリ31のSOHを評価する際には、エンジン始動時に於けるエンジン始動時負荷LSがバッテリ31に接続される前の開放電圧である使用後開放電圧値VORと、エンジン始動時負荷LSがバッテリ31に接続されたとき下限電圧である使用後下限電圧値VLRとが計測される。
【0054】
このとき、バッテリ31の充電量は、必ずしも満充電状態である必要はない。
【0055】
続いて、図6のグラフの曲線G1上に於ける下限電圧値が使用後下限電圧値VLRと等しい値であるときの開放電圧値を対応基準開放電圧値VOSとして導出し、予め記憶された初期基準開放電圧値VOIFとその対応基準開放電圧値VOSとの差である第1の差分値D11と、初期基準開放電圧値VOIFと使用後開放電圧値VORとの差である第2の差分値D12とを比較することにより、その時点に於けるバッテリ31の劣化度が検出される。
【0056】
この検出原理は、前述の図1を用いて説明したバッテリ31の劣化度が小さいほどグラフ上の計測点(VO,VL)は曲線G1に近付くように略左方向にシフトするという特性を利用したものである。
【0057】
即ち、バッテリ31の劣化度が小さければ小さいほど図6のグラフ上の計測点P11(VOR,VLR)は、対応する曲線G1上の座標点P12に近付いていくようになっており、その計測点P11の座標点P12に対する近付き度合に基づいてバッテリ31の劣化度を評価するようになっている。
【0058】
次に、充電量の評価原理について説明する。
【0059】
充電量の評価も、劣化度の評価と同様に、図6のグラフの曲線G1上で表されるバッテリ31が新品のときの放電電圧と下限電圧値との関係を用いて行われ、充電量の評価の際に、使用後開放電圧値VORと使用後下限電圧値VLRとが計測される。
【0060】
尚、記憶部には、上式(3)の内部抵抗変化率の取得に伴って取得された新品のバッテリ31の充電量ゼロのときの開放電圧である最低基準開放電圧値VOIEが初期設定として予め記憶されている。
【0061】
そして、劣化度の評価のときと同様にして図6のグラフの曲線G1上に於ける下限電圧値が使用後下限電圧値VLRと等しい値であるときの開放電圧値を対応基準開放電圧値VOSとして導出する。
【0062】
そして、使用が開始されているその時点に於けるバッテリ31の充電量がゼロのときを想定したときの開放電圧である最低使用後開放電圧値VOREを、次のようにして導出する。
【0063】
即ち、予め取得された初期基準開放電圧値VOIFから最低基準開放電圧値VOIEを引いた値D13に対する初期基準開放電圧値VOIFから最低使用後開放電圧値VOREを引いた値D14の比が、初期基準開放電圧値VOIFから対応基準開放電圧値VOSを引いた値D11に対する初期基準開放電圧値VOIFから使用後開放電圧値VORを引いた値D12の比と等しくなるようにして導出して、最低使用後開放電圧値VOREを導出する。
【0064】
そして、初期基準開放電圧値VOIFと最低使用後開放電圧値VOREとの差である第3の差分値D21と、使用後開放電圧値VORと最低使用後開放電圧値VOSとの差である第4の差分値D22とを比較することにより、その時点に於けるバッテリ31の充電量を検出するようになっている。
【0065】
この検出原理は、バッテリ31の充電量が満充電状態から減少するのに従って、図6のグラフの横軸に平行な仮想線L1上に於ける計測点P11に対応した座標点P21が、満充電量に対応する座標点P22側から充電量ゼロ状態に対応する座標点P23側に近付く特性を利用したものである。
【0066】
<構成>
図7は、本発明の実施の形態に係るバッテリ状態表示装置を示すブロック図である。図7に示す如く、このバッテリ状態表示装置70は、例えば、バッテリ31と、バッテリ状態検出部72と、表示部73と、制御部74とを備えて構成されており、車両等に搭載されたバッテリ31の状態を表示する。
【0067】
バッテリ状態検出部72は、電流センサ72Aと、電圧センサ72Bと、記憶部72Cを有する処理部72Dとを備えて構成されている。
【0068】
電流センサ72Aは、バッテリ31に対する電流の入出力量を検出するものである。電圧センサ72Bは、バッテリ31の出力電圧を検出するものである。記憶部72Cは、例えば、ROM及びRAM等が適用され、処理部72Dが行う各種の情報処理動作に必要なプログラム等が格納されている外、例えば、電圧センサ72Bによって予め測定された新品のバッテリ31が満充電状態の初期基準開放電圧値VOIF、初期基準下限電圧値VLIF、バッテリ31の充電量がゼロのときの最低基準開放電圧値VOIE、最低基準下限電圧値VLIE、開放電圧値VOIの変化に対する内部抵抗値RBIの変化率(RBI/RBIF)を近似的に表す開放電圧値VOIを変数とした上式(3)のような関数に関する情報や、関係式(4)、(5)の形で表された開放電圧値VOIの変化と下限電圧値VLIの変化との関係に関する情報等が格納されている。
【0069】
処理部72Dは、ROMやRAM等の記憶部72Cと協働して一般的なCPU内に於いて予め定められたソフトウェアプログラムによって動作する機能要素であり、バッテリ31の状態を表示するための各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行うものである。
【0070】
具体的には、電圧センサ72Bにより計測される使用後開放電圧値VOR、使用後下限電圧値VLRと、記憶部72Cに格納されている関係式(3)〜(5)及び初期基準開放電圧値VOIF、初期基準下限電圧値VLIF、最低基準開放電圧値VOIE、最低基準下限電圧値VLIEに基づいて、図6に示される値D11、D12、D21、D22を算出し、D12/D11により劣化度を評価すると共に、D22/D21により充電量を評価するようになっている。
【0071】
表示部73は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶表示装置)等が適用されて後述する制御部74からの制御によってバッテリ31の状態表示を行うものである。
【0072】
制御部74は、バッテリ状態検出部72によって検出されたバッテリ状態(上記劣化度及び充電量)に基づいて表示部73の表示を制御するものである。例えば、バッテリ状態検出部72によって、図6に示す如く、劣化度が新品のバッテリ31に対してD12/D11と評価され、充電量が満充電状態に対してD22/D21と評価された場合には、それらを量子化して、例えば、図8(a)〜(d)に示す如く、劣化度及び充電量を2次元表示するものである。
【0073】
具体的には、表示部73の表示画面内に於いて、例えば縦軸に劣化度をとり横軸に充電量をとって、バッテリ状態検出部72により検出された劣化度(D12/D11)及び充電量(D22/D21)を2次元表示する。この場合、2次元表示は、縦方向と横方向にマトリクス状に配置された複数の指標(セグメント)73aを、バッテリ状態検出部72により検出された劣化度及び充電量に基づいて選択的にオン・オフ表示することにより、各指標73aで表示される縦方向と横方向の表示寸法を各々変化させる。尚、各指標73aは、この実施形態では、縦方向と横方向に各々均等に分割されて、同一寸法に設定されている。
【0074】
こうして、例えば、バッテリ31が新品で満充電時には、図8(a)に示す如く、全ての指標73aがオン表示される。また、劣化が進むと、図8(b)に示す如く、劣化度(D12/D11)に応じて縦方向に表示寸法が減少するように、各指標73aが上から下に向かって順次オフ表示される。
【0075】
一方、充電量が減少(増加)すると、図8(c)に示す如く、充電量(D22/D21)に応じて横方向に表示寸法が減少(増加)するように、各指標73aが右(左)から左(右)に向かって順次オフ(オン)表示される。尚、図8(d)は、劣化が或る程度進み、充電量も或る程度減少している一般的な状態での表示の一例を示している。
【0076】
<動作>
上記の評価原理を適用した上記構成のバッテリ状態表示装置70の動作を説明する。
【0077】
先ず、図7に示す如く、イグニションスイッチ(以下、「IGスイッチ」)75がオン操作されるのに伴って、バッテリ31に接続された電圧センサ72Bがバッテリ31の開放電圧VORを計測し、処理部72Dに計測値を送出する。
【0078】
処理部72Dは、電圧センサ72Bから送出された計測値に基づいてエンジン始動前のバッテリ31の充電量(初期充電量)を検出する。このとき、バッテリ31が満充電状態であるか否かの判定も合わせて行われる。
【0079】
続いて、スタータ76が駆動されてエンジン(図示省略)が始動されるのに伴って、処理部72Dは、後述するエンジン始動時状態判定処理を行ってから、エンジン始動後劣化判定動作を行う。
【0080】
この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(または満充電に近い状態)になったバッテリ31への電流流入状況を電流センサ72Aを介して処理部72Dが検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ31の劣化度が判定される。
【0081】
また、処理部72Dは、電流センサ72Aが計測した計測電流値を積算することによって、エンジン始動時等の所定の基準時以降にバッテリ31から放電された全電流量を逐次検出し、その検出結果に基づいてバッテリ31に対して行うべき充電量を決定するようになっている。
【0082】
充電量の制御は、例えば、オルタネータ(図示省略)の発電量(出力電圧等)を制御することによって行われる。
【0083】
ここで、処理部72Dが実行するエンジン始動時状態判定処理について説明する。エンジン始動時状態判定処理に於いては、エンジン始動時負荷LSがバッテリ31に接続された際の下限電圧値が使用後下限電圧値VLRとして電圧センサ72Bを介して計測され、この使用後下限電圧値VLRと、IGスイッチ75がオン操作されたときに計測した開放電圧である使用後開放電圧値VORと、記憶部72Cに格納されている情報に基づいて、その時点に於けるバッテリ31の劣化度(D12/D11)及び充電量(D22/D21)が判定され、制御部74に送出される。
【0084】
制御部74は、このようにして判定された劣化度及び充電量を、予め定められたソフトウェアプログラムに従って量子化して、例えば、図8(a)〜(d)に示す如く、劣化度を縦軸、充電量を横軸として2次元表示する。
【0085】
以上のように、バッテリ31の状態を劣化度と充電量に基づいて2次元表示するので、縦軸の表示寸法と横軸の表示寸法とから劣化度と充電量を各々独立に評価することが可能となり、且つ全体として直観的にバッテリ状態を認識することが可能となる。
【0086】
<変形例>
本実施の形態に於いては、劣化度と充電量の2次元表示を、図8(a)〜(d)に示す如く、縦軸に劣化度、横軸に充電量としたが、これらを互いに入れ換え、縦軸に充電量、横軸に劣化度としても構わないのは勿論である。
【0087】
また、バッテリ31の劣化度及び充電量を、バッテリ状態検出部72に於いて使用後開放電圧値VOR、使用後下限電圧値VLRよりD12/D11及びD22/D21を算出することにより求めたが、他の方法により算出しても良く、劣化度及び充電量の検出方法は特に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】劣化度及び充電量の異なるバッテリについて開放電圧とエンジン始動時の下限電圧とを試験により計測した計測結果を示すグラフである。
【図2】バッテリのエンジン始動時の放電特性について説明するためのグラフである。
【図3】エンジン始動時にバッテリに接続される負荷とバッテリの内部抵抗との関係を模式的に示す回路図である。
【図4】JIS容量試験を利用して新品のバッテリの放電時の出力電圧の推移を計測したときのグラフである。
【図5】放電に伴う開放電圧の変化に対する内部抵抗変化率の推移を示すグラフである。
【図6】導出したバッテリのエンジン始動時の放電特性に基づいてバッテリの状態評価を行う原理を説明するためのグラフである。
【図7】本発明の実施の形態に係るバッテリ状態表示装置を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るバッテリ状態表示装置の表示例を示す図である。(a)は、新品のバッテリの満充電状態を示す図である。(b)は、劣化が進んだバッテリの満充電状態を示す図である。(c)は、新品のバッテリの充電量減少時を示す図である。(d)は、劣化が進んだバッテリの充電量減少時を示す図である。
【図9】従来のバッテリ状態表示装置の表示画面の一例を示す図である。
【図10】従来のバッテリ状態表示装置の表示画面の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
31 バッテリ
70 バッテリ状態表示装置
72 バッテリ状態検出部
72A 電流センサ
72B 電圧センサ
72C 記憶部
72D 処理部
73 表示部
74 制御部
75 IGスイッチ
76 スタータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの状態を表示するバッテリ状態表示装置であって、
表示部と、
バッテリの劣化度及び充電量を各々検出するバッテリ状態検出部と、
前記バッテリ状態検出部により検出された前記劣化度及び前記充電量について、一方を縦軸に、他方を横軸にとって前記表示部に2次元表示する制御部と
を備えることを特徴とするバッテリ状態表示装置。
【請求項2】
請求項1記載のバッテリ状態表示装置であって、
前記2次元表示は、縦方向と横方向にマトリクス状に配置された複数の指標を、前記バッテリ状態検出部により検出された前記劣化度及び前記充電量に基づいて選択的にオン・オフ表示することにより、各指標で表示される縦方向と横方向の表示寸法を各々変化させることを特徴とするバッテリ状態表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−93358(P2007−93358A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282293(P2005−282293)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】