説明

バッテリ管理システム

【課題】 バッテリから供給される電力により駆動されるモータを動力源として備える車両における駆動エネルギ制御を適切に行い、目的地におけるバッテリ残量を目標バッテリ残量に精度良く制御する。
【解決手段】 車両1では、使用者が設定した目標バッテリ残量に基づいてバッテリの電力消費を制御する電力消費制御、及びバッテリの劣化に関連する劣化関連パラメータの検出・記憶が行われ、サーバ2では、劣化関連パラメータがバッテリの劣化に与える影響度合を示す劣化パラメータ係数が算出される。車両1では、劣化パラメータ係数及び劣化関連パラメータに応じて、バッテリの電力消費制御が実行される。車両1が目的地に到着した時点の実バッテリ残量に基づいて実バッテリ劣化度が算出され、実バッテリ劣化度に応じて、劣化パラメータ係数算出用テーブルが修正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリから供給される電力により駆動されるモータを動力源として備える車両におけるバッテリのチャージ残量を適切に管理するためのバッテリ管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジン及びモータを動力源として備えるハイブリッド車両の制御装置が示されている。この制御装置によれば、運転者により設定された目的地に車両が到達したときに、バッテリのチャージ残量(以下「バッテリ残量」という)が目標バッテリ残量となるように、エンジン及びモータが制御される。さらにこの制御装置は、運転者が目的地においてバッテリの充電を行うか否かの意向を充電意向情報として入力する手段を備えており、充電意向情報に応じて目標バッテリ残量が修正される。これによって、モータによる駆動とエンジンによる駆動との比率を適切に制御し、目的地におけるバッテリ充電の有無に応じた適切な駆動エネルギ制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−100645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの蓄電能力は、バッテリの劣化度によって変化するので、バッテリ残量を目標バッテリ残量となるようにバッテリの電力消費を制御する場合には、バッテリの劣化度を考慮することが望ましい。上記従来の装置ではこの点を考慮した駆動エネルギ制御(エネルギマネジメント)は行われていないので、バッテリ残量を目標バッテリ残量となるように制御する際の制御精度が低下するおそれがあった。
【0005】
さらにバッテリは、使用時間や環境温度などの使用状態に依存して劣化速度が変化するので、バッテリの劣化度に応じた駆動エネルギ制御を適切に行うためには、使用状態がバッテリ劣化に与える影響度合を考慮する必要がある。
【0006】
本発明は上述した点に着目してなされたものであり、バッテリから供給される電力により駆動されるモータを動力源として備える車両における駆動エネルギ制御を適切に行い、目的地におけるバッテリ残量を目標バッテリ残量に精度良く制御することを可能とするバッテリ管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、バッテリ(15)及び該バッテリ(15)から供給される電力により駆動されるモータ(12)を動力源として備える車両(1)と、該車両(1)と無線通信可能に接続されたサーバ(2)とからなるバッテリ管理システムにおいて、前記車両(1)は、使用者が目的地及び該目的地に到達したときの目標バッテリ残量(Bg)を設定するための目標バッテリ残量設定手段と、設定された目標バッテリ残量(Bg)に基づいて前記バッテリ(15)の電力消費を制御する電力消費制御手段と、前記バッテリ(15)の劣化に関連する劣化関連パラメータ(WV,TAAVE,TDRV,NPLOT)を検出または記憶するパラメータ検出記憶手段とを備え、前記サーバ(2)は、前記劣化関連パラメータ(WV,TAAVE,TDRV,NPLOT)と、前記劣化関連パラメータが前記バッテリの劣化に与える影響度合を示す劣化パラメータ係数(β1〜β4)との相関関係を記憶する相関関係記憶手段(β1テーブル〜β4テーブル)を備え、前記車両(1)またはサーバ(2)は、前記劣化関連パラメータ(WV,TAAVE,TDRV,NPLOT)及び前記相関関係に応じて推定バッテリ劣化度(1−α)を算出する推定バッテリ劣化度算出手段と、前記車両(1)が前記目的地に到着した時点の実バッテリ残量(Bs)に基づいて実バッテリ劣化度(DDA)を算出する実バッテリ劣化度算出手段とを備え、前記車両(1)及びサーバ(2)は、相互に必要な情報の送受信を行い、前記電力消費制御手段は、前記推定バッテリ劣化度(1−α))を参照して前記電力消費制御を実行し、前記サーバ(2)は、前記実バッテリ劣化度(DDA)に応じて、前記相関関係記憶手段(β1テーブル〜β4テーブル)に記憶されている前記相関関係を修正することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバッテリ管理システムにおいて、前記劣化関連パラメータは、前記バッテリの製造番号(NPLOT)、外気温(TAAVE)、前記車両の重量(WV)、及び前記車両の総走行時間(TDRV)の少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のバッテリ管理システムにおいて、前記車両(1)またはサーバ(2)は、前記目標バッテリ残量設定手段により設定された目標バッテリ残量(Bg)の適否を判定する判定手段と、設定された目標バッテリ残量(Bg)が不適切な値であるときに、設定された目標バッテリ残量を修正することにより、修正目標バッテリ残量を算出する修正目標バッテリ残量算出手段とをさらに備え、前記電力消費制御手段は修正目標バッテリ残量に基づいて前記電力消費制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、使用者が目的地及び該目的地に到達したときの目標バッテリ残量を設定することにより、設定された目標バッテリ残量に基づいてバッテリの電力消費を制御する電力消費制御が行われる。バッテリの劣化に関連する劣化関連パラメータの検出または記憶が行われるとともに、劣化関連パラメータがバッテリの劣化に与える影響度合を示す劣化パラメータ係数が算出される。具体的には、サーバの相関関係記憶手段に格納された、劣化パラメータ係数と劣化関連パラメータとの相関関係を参照することにより、劣化パラメータ係数が算出される。さらに算出された劣化パラメータ係数及び劣化関連パラメータに応じて推定バッテリ劣化度が算出され、推定バッテリ劣化度を参照してバッテリの電力消費制御が実行される。車両が目的地に到着した時点の実バッテリ残量に基づいて実バッテリ劣化度が算出され、実バッテリ劣化度に応じて、サーバに設けられた相関関係記憶手段に記憶されている相関関係が修正される。すなわち、相関関係記憶手段に記憶されている相関関係がバッテリの実際の使用状況(プローブ情報)に応じて修正されるので、推定バッテリ劣化度の算出精度を高め、バッテリの電力消費制御を適切に実行することができる。その結果、目的地到達時の実際のバッテリ残量を精度良く目標バッテリ残量に近づけることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、劣化関連パラメータとして、バッテリの製造番号、外気温、車両重量、及び/または車両の総走行時間が適用される。これらのパラメータは、バッテリの劣化と相関の高いパラメータであることが確認されており、これらのパラメータを劣化関連パラメータとして使用することにより、推定バッテリ劣化度の算出精度を高め、バッテリの電力消費制御を適切に実行することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、使用者が設定した目標バッテリ残量の適否が判定され、設定された目標バッテリ残量が不適切な値であるときに、設定された目標バッテリ残量を修正することにより、修正目標バッテリ残量が算出され、その修正目標バッテリ残量に基づいてバッテリの電力消費制御が実行される。使用者が設定した目標バッテリ残量は、入力ミスや勘違いなどによって不適切な値となっていることがあるので、そのような場合には設定された目標バッテリ残量を修正することにより、走行時の電力消費制御を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかるバッテリ管理システムの構成を示す図である。
【図2】バッテリ管理システムを構成する車両及びサーバの要部の構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す車両制御部で実行される制御処理のフローチャートである。
【図4】図2に示すバッテリ管理制御部で実行される制御処理のフローチャートである。
【図5】図4の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図6】プローブ情報に基づいて修正されたテーブルの例を示す図である。
【図7】図2に示す車両制御部で実行される制御処理(第2の実施形態)のフローチャートである。
【図8】図7の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の一実施形態にかかるバッテリ管理システムの構成を示す図であり、このバッテリ管理システムは、複数の車両1と、車両1と無線通信可能に接続されたサーバ2とからなり、各車両1は同一仕様のバッテリを搭載している。
【0015】
図2は、車両1及びサーバ2の要部の構成を示すブロック図である。すなわち、車両1は、第1動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)11と、エンジン11の駆動軸(クランク軸)13を駆動可能に配設されたモータ12と、パワードライブユニット(以下「PDU」という)14と、バッテリ15と、車両制御部16と、検出部17と、入力指示部18と、情報表示部19と、通信部20と、ナビゲーション装置30とを備え、サーバ2は、通信部41と、テーブル記憶部42と、バッテリ管理制御部43とを備えている。
【0016】
車両1においては、駆動軸13が図示しない動力伝達機構を介して車両駆動輪を駆動できるように、車両駆動系が構成されている。モータ12は、駆動軸13の回転による運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能を有する。モータ12は、PDU14に接続されており、PDU14はバッテリ15に接続されている。モータ12を正の駆動トルクで駆動するとき、すなわちバッテリ15から出力される電力でモータ12を駆動するときは、バッテリ15から出力される電力がPDU14を介してモータ12に供給される。またモータ12を回生動作させるときは、モータ12により発電される電力がPDU14を介してバッテリ15に供給され、バッテリ15の充電が行われる。PDU14には、バッテリ15のチャージ残量(バッテリ残量)Bsを検出するバッテリ残量検出部が設けられており、検出されるバッテリ残量Bsは車両制御部16に供給される。本実施形態では、バッテリ残量Bsは、満充電チャージ量CBFに対する割合(0以上1以下)で定義される。
【0017】
検出部17は、エンジン11の運転状態を示すパラメータ(エンジン回転数NE、PBAなど)、外気温TA、大気圧PAなどを検出し、その検出信号を車両制御部16に供給する。入力指示部18は、車両1の使用者(運転者または同乗者)が、目的地及び目的地到達時の目標バッテリ残量Bgを設定するためのキーボードあるいはタッチパネルなどで構成され、入力される情報を車両制御部16に供給する。情報表示部19は、例えば液晶表示装置で構成され、入力指示部18から入力される情報、ナビゲーション装置30の地図情報及び走行位置情報などを表示する。通信部20は、サーバ2との間で相互に必要な情報の送受信を行う。
【0018】
車両制御部16は、CPU(中央演算装置)、メモリ、入力回路、及び出力回路を備える電子制御ユニットであって、エンジン制御ユニット、モータ制御ユニット、空調機制御ユニット、変速機制御ユニットなどを含む。車両制御部16は、目的地到達時において、バッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgに近づく(一致する)ように駆動エネルギ制御を実行する。
【0019】
ナビゲーション装置30は、通常のナビゲーション機能に加えて、主要地点の高度情報を保持しており、目的地までの経路が決定されると、走行距離と高度変化との対応関係(以下「走行経路高度情報IHPATH」という)を車両制御部16に供給する。
【0020】
サーバ2の通信部41は、車両1との間で必要な情報の送受信を行い、テーブル記憶部42は、バッテリ15の劣化に与える影響度合を示す劣化パラメータ係数βn(n=1〜4)と、バッテリ15の劣化に関連する車両運転状態パラメータ(以下「劣化関連パラメータ」という)との相関関係を示すβ1テーブル〜β4テーブルを格納し、バッテリ管理制御部43は、車両1のバッテリの使用状態を管理するための処理を行う。本実施形態では、劣化関連パラメータとして、車両1の車重WV、平均外気温TAAVE、バッテリ15の使用開始時点からの総走行時間TDRV、及びバッテリ15の製造番号NPLOTを用いる。平均外気温TAAVEとしては、例えば現時点から過去1時間の期間における外気温TAの平均値が使用される。また製造番号NPLOTは、予め車両制御部16のメモリに格納されている。
【0021】
図3は、車両1の車両制御部16において実行される駆動エネルギ制御のフローチャートであり、図4は、サーバ2のバッテリ管理制御部43におけるバッテリ管理制御のフローチャートである。両図を参照して、制御動作を説明する。
【0022】
ステップS11では、目的地及び目標バッテリ残量Bgの入力を使用者に促す表示を行う。目的地及び目標バッテリ残量Bgが入力されると、入力値が適切か否かを判別する(ステップS12)。この判別は、例え「1.0」より大きな値が設定された場合、あるいは目的地までの経路がほとんど登り坂であるにもかかわらず、現状のバッテリ残量Bsより相当大きな目標バッテリ残量Bgが設定された場合などように、明らかに誤入力と推定されるときに不適切と判定し、目標バッテリ残量Bgを修正するとともに修正後の目標バッテリ残量Bgを情報表示部19に表示し、使用者に了解を求める(ステップS13)。了解が得られたときはステップS14に進む。図示は省略しているが、了解が得られないときは再入力を促し、再入力値が適切であるときは、ステップS12からステップS14に進む。
ステップS14では、上記劣化関連パラメータWV、TAAVE、TDRV、及びNPLOTをサーバ2に送信する。
【0023】
これに対応して図4のステップS51では、送信された劣化関連パラメータWV、TAAVE、TDRV、及びNPLOTを受信し、次いで受信した劣化関連パラメータに応じて、対応する劣化パラメータ係数β1〜β4を算出する(ステップS52)。具体的には、車重WVに応じて図5に示すβ1テーブルを検索して、第1劣化パラメータ係数β1を算出し、平均外気温TAAVEに応じて図5に示すβ2テーブルを検索して、第2劣化パラメータ係数β2を算出し、総走行時間TDRVに応じて図5に示すβ3テーブルを検索して、第3劣化パラメータ係数β3を算出し、製造番号NPLOTに応じて図5に示すβ2テーブルを検索して、第4劣化パラメータ係数β4を算出する。
【0024】
β1テーブルは、車重WVが増加するほど第1劣化パラメータ係数β1が増加するように設定されており、β2テーブルは、平均外気温TAAVEが10℃近傍であるときに第2劣化パラメータ係数β2が最小値をとるように設定されており、β3テーブルは、総走行時間TDRVが増加するほど第3劣化パラメータ係数β3が増加するように設定されており、β4テーブルは、製造番号NPLOTが示す製造年月日が古くなるほど第4劣化パラメータ係数β4が増加するように設定されている。各劣化パラメータ係数β1〜β4は、いずれも0から1の間の値をとるように設定されている。
【0025】
ステップS53では、算出した劣化パラメータ係数β1〜β4を、劣化関連パラメータを送信した車両1へ送信する。
【0026】
図3に戻り、ステップS15では、送信された劣化パラメータ係数β1〜β4を受信し、次いで劣化パラメータ係数β1〜β4を用いて、目的地到達時の推定バッテリ残量Bseを算出する(ステップS16)。推定バッテリ残量Bseの算出は、具体的には以下の手順で行われる。
【0027】
1)下記式(1)に劣化パラメータ係数β1〜β4を適用し、非劣化度係数αを算出する。式(1)において、Pn(n=1〜N,N=4)は、0から1の間の値に予め設定される重み係数であり、非劣化度係数αは、各劣化パラメータ係数に対応する非劣化度係数(1−βn)(n=1〜N,N=4)の重み付け平均値に相当する。
【数1】

【0028】
2)ナビゲーション装置30から供給される走行経路高度情報IHPATH及び車両1の現在位置から目的地までの走行距離DPATHに応じて、目的地までの走行に要する推定チャージ消費量Dr、及び目的地までの走行中に充電可能なチャージ量である推定チャージ充電量Crを算出する。例えば、走行経路中に下り坂がある場合には、推定チャージ充電量Crが「0」より大きくなる。なお、推定チャージ消費量Dr及び推定チャージ充電量Crは、バッテリが劣化していない基準状態に対応して算出され、バッテリ残量Bsと同様に満充電チャージ量CBFに対する割合(0以上1以下)を示す値をとる。
【0029】
3)非劣化度係数α、推定チャージ消費量Dr、及び推定チャージ充電量Crを下記式(2)に適用して、推定バッテリ残量Bseを算出する。
Bse=Bs−Dr/α+Cr×α (2)
【0030】
ステップS17では、推定バッテリ残量BseにマージンBmを加算した値が、目標バッテリ残量Bg以上であるか否かを判別する。その答が肯定(YES)であるときは、目的地に到達するするまで、通常の駆動エネルギ制御を実行する(ステップS20,S211)。一方、ステップS17の答が否定(NO)であって、目的地到達時のバッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgより小さくなる可能性があるときは、目的地に到達するまで充電モード制御を実行する(ステップS18,S19)。充電モード制御では、例えば空調装置の作動を抑制することが行われる。
【0031】
目的地に到達すると、ステップS22に進み、その時点の実バッテリ残量Bs、目標バッテリ残量Bg、及びその時点の劣化関連パラメータWV、TAAVE、TDRV、及びNPLOTをサーバ2に送信する。
【0032】
車両1によるこの送信動作に対応して、サーバ2は、送信された実バッテリ残量Bs、目標バッテリ残量Bg、及びその時点の劣化関連パラメータWV、TAAVE、TDRV、及びNPLOTを受信する(図4,ステップS54)。次いで、下記式(3)に実バッテリ残量Bs及び目標バッテリ残量Bgを適用し、実バッテリ劣化度DDAを算出する(ステップS55。式(3)は、目的地到達時における実バッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgと等しいときに、劣化度が「0」となるように定義されている。
DDA=1−Bs/Bg (3)
【0033】
ステップS56では、実バッテリ劣化度DDAに応じて、劣化パラメータ係数テーブル、すなわちβ1テーブル〜β4テーブルの修正(学習)を行う。この修正は、具体的には下記の手順で行う。
【0034】
1)実バッテリ劣化度DDAと上述した重み係数Pnとを下記式(4)に適用し、劣化パラメータ係数βnに対応する劣化係数値βAnを算出する。式(4)のΣPnは、重み係数Pn(n=1〜N,N=4)の合計である。
βAn=DDA×N×Pn/ΣPn (4)
【0035】
2)劣化係数値βAnを下記式(5)に適用して、劣化関連パラメータの値XLn(n=1〜4,すなわちWV,TAAVE、TDRV、及びNPLOTの今回値)に対応する現在の劣化パラメータ係数値βnZ(XLn)を修正することにより、劣化パラメータ係数値βn(XLn)を算出する。式(5)のCLRNは、0よりから1の間の値であって0に近い値(例えば0.05)に設定される学習係数である。
βn(XLn)=CLRN×βAn+(1−CLRN)×βnZ(XLn) (5)
【0036】
例えば平均外気温TAAVE=15℃に対応する劣化パラメータ係数β2の現在値β2Z(15℃)が「0.2」である場合において、式(4)により算出された劣化係数値βA2が「0.3」であるときは、下記の演算が行われ、β2テーブルの平均外気温15℃対応する係数値β2(15℃)が「0.205」に修正される。
0.05×0.3+0.95×0.2=0.205
【0037】
このように車両1の実際のバッテリ使用状態に対応したプローブ情報を用いてサーバ2に格納されているβnテーブルが修正されるので、図5に示す各テーブルは、ある程度修正(学習)が進むと、例えば図6に太線で示すように変化し、テーブルの設定特性が実際のバッテリ劣化特性に対応したもの近づいていく。したがって、推定バッテリ残量Bseの算出精度を高め、バッテリの電力消費制御を適切に実行することができる。その結果、目的地到達時における実バッテリ残量Bsを目標バッテリ残量Bgに近づける(一致させる)制御の精度を高めることができる。
【0038】
本実施形態では、車両1の入力指示部18が目標バッテリ残量設定手段に相当し、検出部17がパラメータ検出記憶手段の一部に相当し、車両制御部16が、電力消費制御手段、パラメータ検出記憶手段の一部、推定バッテリ劣化度算出手段、判定手段、及び修正目標バッテリ残量算出手段を構成する。またサーバ2のテーブル記憶部42が相関関係記憶手段に相当し、バッテリ管理制御部43が実バッテリ劣化度算出手段を構成する。具体的には、図3のステップS17〜S21が電力消費制御手段に相当し、ステップS16が推定バッテリ劣化度算出手段に相当し、β1テーブル〜β4テーブルが相関関係記憶手段に相当し、図4のステップS55が実バッテリ劣化度算出手段に相当する。本実施形態では、劣化パラメータ係数βnに応じて非劣化度係数αが算出されるため、(1−α)が推定バッテリ劣化度に相当する。
【0039】
[第2の実施形態]
本実施形態は、車両1における推定バッテリ残量Bseの算出タイミングを変更したものであり、本実施形態では車両制御部16において、図3の処理に代えて図7に示す処理が実行される。図7は、図3のフローチャートにおいてステップS15とS16の間にステップS31〜S33を追加したものである。本実施形態は、以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
【0040】
図7のステップS31では、バッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bg以下であるか否かを判別し、この答が否定(NO)であるときは通常の駆動エネルギ制御を実行する(ステップS32)。ステップS33では、目的地に到達したか否かを判別し、この答が否定(NO)であるときはステップS31に戻る。
【0041】
ステップS31の答が肯定(YES)であってBs≦Bgとなったときは、ステップS16に進む。また車両1が目的地に到達し、ステップS33の答が肯定(YES)となると、直ちにステップS22に進む。
【0042】
図8は、図7の処理を説明するための図であり、横軸は走行距離DSTを示す。出発地P0おいては、バッテリ残量Bs=Bs0であり、最初は通常の駆動エネルギ制御が実行され(図7,S31,S32)、徐々にバッテリ残量Bsが減少する。地点P1からは登り坂となり、バッテリ残量Bsの減少率が増加する。地点P2に達したときにバッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgと等しくなる。その時点で図7のステップS31からS16に進み、推定バッテリ残量Bseが算出される。図8に示す例では、地点P3からP4までの下り坂及びその後の地点P5までの区間で充電が可能であるため、ステップS17の答が肯定(YES)となり、通常制御が継続される。地点P3までは登り坂であるため、バッテリ残量Bsは減少し、地点P3からP5のまでの区間で充電が行われて、バッテリ残量Bsが増加する。地点P5においてバッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgと等しくなり、そのまま目的地PDに到達する。
【0043】
以上のように本実施形態では、バッテリ残量Bsが目標バッテリ残量Bgまで低下した時点で、推定バッテリ残量Bseの算出が行われ、必要に応じて充電モード制御が行われる。したがって、推定バッテリ残量Bseは車両1がより目的地に近づいた地点で算出されるため、算出精度を高めることができる。
【0044】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、劣化パラメータ係数βnに応じた非劣化度係数αの算出(推定バッテリ劣化度の算出)、設定された目標バッテリ残量Bgの適否判定、及び修正目標バッテリ残量の算出を車両1の車両制御部16で実行し、実バッテリ劣化度DDAの算出をサーバ2のバッテリ管理制御部43で行うようにしたが、これらの演算は車両1またはサーバ2の何れで行ってもよい。すなわち、車両1またはサーバ2の何れでも実行可能な処理は、適宜その機能分担を決定し、決定された役割分担に応じた相互の情報伝達を行うようにすることができる。
【0045】
また上述した実施形態では、劣化関連パラメータとして車重WV、平均外気温TAAVE、車両総走行時間TDRV、及びバッテリ製造番号NPLOTを用いたが、これに限るものではなく、バッテリの劣化に影響を及ぼす他のパラメータ、例えばバッテリ温度、バッテリ出力電流積算値などを用いるようにしてもよい。
【0046】
また上述した実施形態では、本発明をハイブリッド車両に適用した例を示したが、本発明はバッテリにより駆動されるモータのみを動力源とする電気自動車にも適用可能である。その場合には、図3あるいは図7のステップS18における充電モードで制御は、主としてバッテリ使用電力を節約する節電制御を行う。
【0047】
また上記式(1)及び(4)に適用される重み係数Pnの値は、サーバ2において必要に応じて(例えば、劣化関連パラメータとバッテリ劣化との関係に関する新たな知見が得られたときなどにおいて)適宜更新し、車両1に通知することが望ましい。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 サーバ
12 モータ
15 バッテリ
16 車両制御部(電力消費制御手段、パラメータ検出記憶手段、推定バッテリ劣化度算出手段、判定手段、修正目標バッテリ残量算出手段)
17 検出部(パラメータ検出記憶手段)
18 入力指示部(目標バッテリ残量設定手段)
20 通信部
41 通信部
42 テーブル記憶部(相関関係記憶手段)
43 バッテリ管理制御部(実バッテリ劣化度算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ及び該バッテリから供給される電力により駆動されるモータを動力源として備える車両と、該車両と無線通信可能に接続されたサーバとからなるバッテリ管理システムにおいて、
前記車両は、使用者が目的地及び該目的地に到達したときの目標バッテリ残量を設定するための目標バッテリ残量設定手段と、設定された目標バッテリ残量に基づいて前記バッテリの電力消費を制御する電力消費制御手段と、前記バッテリの劣化に関連する劣化関連パラメータを検出または記憶するパラメータ検出記憶手段とを備え、
前記サーバは、前記劣化関連パラメータと、前記劣化関連パラメータが前記バッテリの劣化に与える影響度合を示す劣化パラメータ係数との相関関係を記憶する相関関係記憶手段を備え、
前記車両またはサーバは、前記劣化関連パラメータ及び前記相関関係に応じて推定バッテリ劣化度を算出する推定バッテリ劣化度算出手段と、前記車両が前記目的地に到着した時点の実バッテリ残量に基づいて実バッテリ劣化度を算出する実バッテリ劣化度算出手段とを備え、
前記車両及びサーバは、相互に必要な情報の送受信を行い、
前記電力消費制御手段は、前記推定バッテリ劣化度を参照して前記電力消費制御を実行し、
前記サーバは、前記実バッテリ劣化度に応じて、前記相関関係記憶手段に記憶されている前記相関関係を修正することを特徴とするバッテリ管理システム。
【請求項2】
前記劣化関連パラメータは、前記バッテリの製造番号、外気温、前記車両の重量、及び前記車両の総走行時間の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリ管理システム。
【請求項3】
前記車両またはサーバは、前記目標バッテリ残量設定手段により設定された目標バッテリ残量の適否を判定する判定手段と、設定された目標バッテリ残量が不適切な値であるときに、設定された目標バッテリ残量を修正することにより、修正目標バッテリ残量を算出する修正目標バッテリ残量算出手段とをさらに備え、前記電力消費制御手段は修正目標バッテリ残量に基づいて前記電力消費制御を実行することを特徴とする請求項1または2に記載のバッテリ管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−115863(P2013−115863A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257569(P2011−257569)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】