説明

バッファ層を利用する多層共役ポリマー光電素子の製造

【課題】高度に安定な多層有機分子光電素子、及び単純化溶液法による多層有機分子光電素子の製造方法の提供。
【解決手段】下記のステップを含む多層有機分子光電素子の製造方法。(1)透明な基板上に有機分子Aを含む溶液を塗布するステップ。(2)有機分子Aの層上にバッファ剤を含む溶液を塗布するステップ。(3)一時的バッファ層上に有機分子Bを含む溶液を塗布するステップ。(4)任意選択で一時的バッファ層を除去するステップ。(5)2以上の有機分子層を持つ光電素子を得るため、(2)、(3)、及び(4)を繰り返すステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に安定な多層有機分子光電素子、及び多層有機分子光電素子を製造する方法を対象とする。特に、本発明は、溶液法を使用した製造プロセスの最中に層間相溶化現象の起こらない、高度に安定な多層有機分子光電素子、及び単純化された溶液法による多層有機分子光電素子を製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般の有機光電素子は、インジウム−スズ酸化物(ITO)などの透明な導電性材料からなるアノードをガラス基質上に置き、ホール注入領域、ホール輸送領域、発光領域、電子輸送領域、及びカソードをこの順で積層することによって形成される。それらで作成された有機光電素子は、アノードとカソードの間に直流電圧を掛けることにより発光する。
【0003】
有機光電素子は、無機のものよりも有利な点が多く、次世代の光電変換デバイスの一員とする将来予測のために興味を強く引き、半導体、可撓性の電子応用品、プラスチック集積回路、イルミネーション設備、平面ディスプレイ、フルカラー有機発光ディスプレイのテレビジョン、携帯電話のバックライトモジュール、可撓性電子製品、可撓性電子集積回路、及び自動車用パネル又は平面型TVなどの産業に広く利用されている。
【0004】
さらに、有機光電素子は、原材料の分子の大きさに依存して、有機分子有機光電素子と小分子有機光電素子に分けられる。小分子光電素子の供給は、日本、韓国などのアジア諸国が占有し、他方、有機分子有機光電素子は、西欧諸国に占められている。加えて有機光電素子を製造する方法については、小分子有機光電素子の製造は一般的に蒸着に基づき、有機分子有機光電素子の製造については、スピンコーティングが通常使用される。
【0005】
蒸着法によって多層小分子有機光電素子の製造が簡単にできることが知られているが、より大きな面積の有機光電素子又はデバイスには適さない。反対に、小分子を用いる素子の製造においては、有機分子有機光電素子の製造プロセスがより簡単で安価であり、従ってより大きな面積の光電素子を製造するのに適している。他方、より簡単なスピンコーティングで、有機分子有機光電素子を製造することは可能である。しかし、多層構造の製造において有機分子を使用すると、重大な問題、層間相溶化現象をもたらすことも知られている。即ち、現在製造されている有機分子有機光電素子は、光電子産業界で必要とされる生産の単純性と安定性を満足していない。
【0006】
多層有機光電素子の製造における上記の問題点を排除するために、そして有機分子の相溶性問題を解決するために、例えば従来技術において提案されている文献1から4などの多様な解決法がある。文献1は、発光材自体の溶解性の変更を対象とする方法を開示していて、即ち、ガラス基材上にスピンコーティングで有機分子材を塗布し、加熱ベーキングし、UVランプを照射して凝集させて不溶性にし、次いで、多層素子を得るために上記ステップを繰り返し、さらに蒸着とパッケージングによって多層有機素子を製造する。しかし、文献1に開示されている方法は、そのプロセスが材料の化学的性質に依存しているので、有機分子の構造のデザインに限界があり、有意義な修飾が行えない。
【0007】
さらに、文献2及び4で開示されている方法も、発光材自体の溶解性の変更を対象としていて、即ち、スピンコーティングでガラス基質上に有機分子材を塗布し、集合化させて不溶性にするために熱処理を行い、次いで、多層素子を得るために上記ステップを繰り返し、さらに蒸着とパッケージングによって多層有機素子を製造する。文献1の方法と比較し、文献2及び4で開示された方法も、材料の化学的性質に依存して進むので、従って同様に、有機分子の構造のデザインに限界があり、有意義な修飾が行えない。
【0008】
さらに、文献3で開示されている方法もやはり、発光材自体の溶解性の変更を対象としていて、即ち、ガラス基質上にスピンコーティングにより金属でドープされた有機分子材を塗布し、加熱ベーキングしてフィルムを形成し、次いで、上記ステップを繰り返して多層素子を得て、さらに蒸着とパッケージングによって、多層有機素子を製造する。文献3で開示された方法はやはり、材料の化学的性質によって進行するので、上述のように有機分子の構造のデザインに限界があり、有意義な修飾が行えない。
【0009】
従って、製造プロセスの最中に層間相溶化現象のない、高度に安定な多層有機分子光電素子、及び単純化された溶液法による多層有機分子光電素子を製造する方法が要望されている。
【0010】
【特許文献1】「溶液法による多色有機発光ディスプレイ」 C.David Muller,Aur?lie Falcou,Nina Reckefuss,Markus Rojahn,Valurie Wiederhim,Paula Rudati,Holger Frohne,Oskar Nuyken,Heinrich Becker,Klaus Meerholz,Nature,421,829〜833(20 Feb 2003),Letters to Nature.
【特許文献2】「電子応用分野のためのポリマー多層システム」 Kruger,H.;Wedel,A.;Janietz,S.pp.267〜271.
【特許文献3】「有機発光ダイオードにおける界面微細構造の役割:テトラアリールジアミンと銅フタロシアニンを組合わせた中間層」 Advanced Materials,Volume 14,Issue 8,Date:April,2002,Pages:565〜569,J.Cui,Q.Huang,J.G.C.Veinot,H.Van,T.J.Marks.
【特許文献4】「架橋ネットワーク、電子ブロッキング中間層を使用する励起ポリマー発光ダイオードの性能」 Advanced Materials,Volume 16,Issue 21,Date:November,2004,Pages:1948〜1953,H.Yan,B.J.Scott,Q.Huang,T.J.Marks.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記状況を鑑みて、本発明の目的は、高度に安定な多層有機分子光電素子、及び多層有機分子光電素子を製造する方法を提供することである。
【0012】
従って、本発明者らは、多層有機分子光電素子を製造する方法を鋭意検討し、上記課題が、以下の構成を持つ高度に安定な多層有機分子光電素子を使用することで解決されることを見出し、これにより本発明を完遂した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
つまり本発明は、
(1)有機分子Aの層を形成するために、ガラス又はプラスチック製の清浄で透明な基質上に有機分子Aを含む溶液を塗布するステップ、
(2)一時的バッファ層を形成するために、有機分子Aの層上にバッファ剤を含む溶液を塗布するステップ、
(3)有機分子Bの層を形成するために、一時的バッファ層上に有機分子Bを含む溶液を塗布するステップ、
(4)任意選択で一時的バッファ層を除去するステップ、及び
(5)2以上の有機分子層をもつ光電素子を得るために、(2)、(3)及び(4)を繰り返すステップ、
を含む多層有機分子光電素子を製造する方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、液晶表示素子又は液晶ディスプレイで使用できる多層有機分子光電素子を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による多層有機分子光電素子を製造する方法は、溶液法で作られる2層以上の有機分子の、任意のフィルムの製造に利用できる。いわゆる「溶液法」は、液体状態にするため有機分子材が溶媒に均一溶解され、コーティングやインクジェットにより基質上に塗布され、溶媒を蒸発させた後に有機層が形成される方法を示す。
【0016】
本発明による方法を、添付図面を参照しながら以下に記述する。例えば図1aから1dは、本発明による方法で、2層有機分子素子を製造するための製造プロセスを示す略図である。多層有機分子光電素子を製造するこの方法により、初めに図1aに示すように基質上に有機分子Aの層が形成され、次いで図1bに示すように、有機分子Bを含む溶液がその上を傷付けさせないために、有機分子Aの層上に、一時的バッファ層が形成される。続いて、図1cに示すように、このバッファ層上に有機分子Bの層が形成され、次いで一時的バッファ層が除去され、この結果、図1dに示すように有機分子Bの層が、有機分子Aの層上に損傷を与えることなく形成され、基質上に、有機分子A及びBを含むフィルム又は素子が首尾よく得られる。従って本方法により、基質上には、有機分子Aの層、一時的バッファ層、有機分子Bの層がこの順に存在し、後で一時的バッファ層を除いて、有機分子A及びBの層を含むフィルム又は素子が形成される。
【0017】
おそらくは、図1aから1dに示されている2層有機分子光電素子を製造する本方法によって、2よりも更に多い層の素子が製造できる。具体的には、図1a〜1dで示されたプロセスを繰り返すことであり、有機分子層上に一時的バッファ層を形成し、その上に他の有機分子層を形成し、次いでバッファ層を除去することで、有機分子の2以上の層を含むフィルム又は素子が作成される。さらに本方法により、有機分子A、有機分子B、有機分子C、・・・の3以上の層を含むフィルム又は素子が、有機分子Aの層、一時的バッファ層、有機分子Bの層、一時的バッファ層、有機分子Cの層、・・・を連続して形成し、次いで各バッファ層を除去することにより作成される。従って、本方法は、有機分子の2以上の層をもつ任意の光電フィルム又は光電素子を製造するのに利用でき、必要ならば溶液法によって作成できる。
【0018】
加えて、本方法により多層有機分子光電素子で使用できる透明基質は、例えば、ガラス、あるいはポリカーボネート、ポリエーテル−スルホン、ポリメタクリレート、又はポリないしトリアセチルセルロースなどのいずれか一つから選ばれる柔軟性フィルムである。
【0019】
有機分子A及びBの層を形成するためには、共役導電性又は発光性である限り、任意の有機分子材料及び小分子材料が、特別な制限なく本発明で使用できる。例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)をベースとする有機分子、ポリ(p−フェニレンエチレン)(PPE)をベースとする有機分子、ポリフルオレンをベースとする有機分子、ポリチオフェンをベースとする有機分子、ポリピロールをベースとする有機分子、及びこれらをユニットとして組み合わせて形成されるコポリマーのような高分子材など、置換又は非置換の芳香族性共役有機分子が使われる。さらに、共役導電性又は発光性をもつ低分子は、アントラセン、ペンタセン、フェナンスレン、ルブレン、2,3−ベンズアントラセン、ペリレン、9,10−フェナンスレンキノン、トリフェニレン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、N,N'−ジ[(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル]−1,1−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPD)、チタニルフタロシアニン、4,4',4"−トリス(N−(ナフチレン−2−イル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)、N,N'−ビス(4−メチルフェニル)−N,N'−ビス(フェニル)−1,4−フェニレンジアミン、トリフェニルアミン、トリ−p−トリルアミン、トリス(4−(ジエチルアミノ)フェニル)アミン、N,N'−ジフェニルベンジジン、2−(4−ビフェニリル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオール、2−(4−ブロモフェニル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、5−フェニル−1,3,4−オキサジオール−2−チオール、2,1,3−ベンズオキサジアゾール−5−カルボン酸、5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオール、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、ペルフルオロテトラシアノキノリルジメタン(TCNQF4)、又は2−[4−((ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノフェニル)−シアノメチレン)−2,5−シクロヘキサジエン−1−イルジエン]マロンニトリル、及び/又はトリ−(8−ヒドロキシキノリノアト)アルミニウム(AlQ3)、8−ヒドロキシキノリン亜鉛塩(ZnQ3)、N,N−ビフェニル−N,N−ビス−3−メチルフェニル−1,1−ビフェニル−4,4−ジアミン(TPD)、4,4'−ビス(9−カルバゾリル)−2,2'−ビフェニル(CBP)、などの金属錯体である。
【0020】
さらに、バッファ層として本発明で使用される材料に関して、有機分子の層の特性を低下させない限り特別な制限はない。しかし、有機分子Aの層を溶解しないものを使用するのが好ましい。好ましいバッファ剤は、例えば、1,2−プロピレングリコール、エタノール、又はグリセリンなどの、有機分子を溶解しないアルコール溶液又はアルカン溶液である。
【0021】
さらに、本発明の効果を発現させる観点から、バッファ剤の分子量が2000未満であることが好ましい。加えて、本発明の操作のし易さ及び効果の観点から、バッファ剤溶液の粘度(Vbf)は、10〜2000η/mPas、より好ましくは15〜1950η/mPas、最も好ましいのは20〜1900η/mPasの範囲であることが好ましい。さらに、バッファ層の取り除き易さの観点からは、バッファ剤溶液の沸点(Tbf)が350℃未満であることも好ましい。また、本発明の効果発現の観点から、バッファ剤溶液の粘度(Vbf)と分子Aの溶液の粘度(VA)との差(Vbf−VA)が1〜2000η/mPas、より好ましくは5〜1900η/mPas、特に好ましくは10〜1800η/mPas、最も好ましくは20〜1700η/mPasの範囲であることが好ましい。
【0022】
さらに多層有機分子光電素子を製造する本方法では、バッファ層として使用される材料の形態に関する特別な制限はなく、液体又は固体の状態であってもよい。また、バッファ層の厚みは、本発明の効果を低下させない限り、特に制限はない。
【0023】
はじめに、本発明におけるバッファ層塗布の工業的利用を記述する。
【0024】
[参考例1](バッファ層なし)
ITO基質上にBP−79(商品名、ダウ・ケミカルズ製)ドープ(濃度:2wt%、溶媒:キシレン)を塗布し、120℃のホットプレート上で1時間乾燥し、厚み計ET−4000で測定して厚さ約1500Åのフィルムを形成した。同じ手順でキシレン有機溶媒をBL層上にスピンコートすると、残留フィルム厚は約100Åと測定された。有機溶媒(例えばキシレン)を直接その上にスピンコートしたときには、BP−79高分子層の約1400Åが溶出することが分かった。
【0025】
[参考例2](アルカンバッファ層)
参考例1と同様に、厚み計ET−4000で測定の表1に示した厚みで、BP−79高分子層をITO基質上に形成した。続いて、上述のようにBP−79高分子層のフィルム上に、表1に示すバッファ剤をそれぞれスピンコートし、加熱しながら乾燥し、バッファ層(BL)を形成した。次に、キシレン有機溶媒をBL層上にスピンコートし、その残留フィルム厚さを上述のように測定して、第1発光層に対するバッファ層の保護効果を観察した。
【0026】
【表1】

T0:BP−79高分子層の初期厚み、T1:キシレン塗布後の発光層の残留厚み。
【0027】
表1から、参考例2のアルカンをバッファ層としたBP−79高分子発光層は、約1000〜1150Åが溶出したが、参考例1の1400Åより小さいことが分かる。従って、バッファ層を使用する参考例2は、バッファ層のない参考例1より、保護効果がある。
【0028】
[参考例3](アルコール性バッファ層)
参考例2のアルカンバッファ剤を表2に示すアルコール性バッファ剤に代えた他は、参考例2と同じ操作を用いて、BP−79高分子層、バッファ層及びキシレン有機溶媒層を、ITO基質上に形成し、厚み計ET−4000で測定したフィルム厚を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2から、参考例3のアルコールをバッファ層としたBP−79高分子発光層は、約950〜1100Åが溶出したが、参考例1の1400Åより小さいことが分かる。従って、バッファ層を使用した参考例3も、バッファ層のない参考例1より保護効果がある。
【0031】
従って、単純化溶液法で多層有機分子素子を製造する方法の中で、本発明の技術概念に従い「バッファ層」を使用することで、従来技術で見つかった層間相溶性の問題を効果的に解決できることが、参考例1〜3の結果から分かる。
本発明の実施例を以下に記述するが、それに本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
<有機分子A層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子A(PFO溶液)層用ドープを調製するために、ポリ(9,9−ジオクタニルフルオレン)(商品名:ADS129BE、American Dye Corp.製、分子量:40000〜120000)をp−キシレン(沸点:138.37℃)又はトルエン(沸点:110.63℃)に溶解した。
【0033】
<バッファ層用ドープの調製>
沸点187.6℃、分子量76.095g/mol、粘度が0℃で248η/mPas、25℃で40.0η/mPasの1,2−プロピレングリコールをバッファ層用のドープとして使用した。
【0034】
<有機分子B層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子B層用のドープを調製するために、1,3,5−シス−(N−フェニルベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)をトルエン(沸点:110.63℃)に溶解した。
【0035】
<有機分子A及びBの層を含む光電素子の調製>
ITO基質上にフォトリソグラフィにより、アノード及びカソードの領域を画定した。次いで、そのITO基質上に、スピンコーティングによってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチリルスルホネート)(PEDOT)を塗布し、厚さ40nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)200℃で5分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0036】
次に、スピンコーティングにより、上記で得たPFO溶液をPEDOT上に塗布し、厚さ60nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)120℃で40分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0037】
次にPFOフィルム上に、約1秒間でプロピレングリコールをスピンコートし、まだ液状であって元のPFOフィルムを保護している間に、このバッファ層上に素早くTPBIを塗布した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)120℃で1時間加熱し、次いで15分間アニール処理して、バッファ層中の溶媒を除去した。その後、上記のようにして得た素子を、カルシウム、アルミニウム電極、及びパッケージングの連続熱蒸着のためにグローブボックスに入れた。
【0038】
その後、上記のようにして得た光電素子の、電圧−電流特性をケースレー(Keithley)2400電流電圧計で測定し、スペクトルとしての光学特性、照度、発光効率、及びCIE座標をPR650で測定し、統合的な電気及び光学特性をコンピュータプログラムと繋いだケースレー2400電流電圧計で測定した。さらに、光電性能を図2及び図3に示す。図2及び図3に示された試験結果から、2層PFOの素子(ホール−ブロッキング層のTPBIを含む)が、単層PFOより性能が勝っていたことが分かる。従って、本発明は、多層光電素子の製造に有効に使用できる。
【実施例2】
【0039】
<有機分子A層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子A(MEH−PPV溶液)の層用のドープを調製するために、ポリ[2−メトキシ−5−(2'−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](商品名:ADS100RE、American Dye Corp.製、分子量:>500000)をp−キシレン(沸点:138.37℃)又はトルエン(沸点:110.63℃)に溶解した。
【0040】
<バッファ層用ドープの調製>
沸点187.6℃、分子量76.095g/mol、粘度が0℃で248η/mPas、25℃で40.0η/mPasの1,2−プロピレングリコールをバッファ層用のドープとして使用した。
【0041】
<有機分子B層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子B層用ドープを調製するために、LUMATION*BP105(商品名、ダウケミカルズ製、Ip:5.8eV、沸点138.37℃)をp−キシレンに溶解した。
【0042】
<有機分子A及びBの層を含む光電素子の調製>
ITO基質上にフォトリソグラフィによってアノード及びカソードの領域を画定した。次いで、そのITO基質上に、スピンコーティングによってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチリルスルホネート)(PEDOT)を塗布し、厚さ40nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)200℃で5分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0043】
次に、スピンコーティングによりPEDOT上に、上記で得たMEH−PPV溶液を塗布し、厚さ50nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3torr)120℃で40分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0044】
次に、約1秒間でMEH−PPVフィルム上にプロピレングリコールをスピンコートし、まだ液状で元のMEH−PPVフィルムを保護している間に、このバッファ層上に素早くTPBIを塗布した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)120℃で1時間加熱し、次に15分間アニール処理して、バッファ層中の溶媒を除去した。その後、上記のようにして得た素子を、カルシウム、アルミニウム電極、及びパッケージングの連続熱蒸着のために、グローブボックスに入れた。
【0045】
その後、上記で得た光電素子の電圧−電流特性をケースレー2400電流電圧計で測定し、スペクトルとしての光学特性、照度、発光効率、及びCIE座標をPR650で測定し、統合的な電気及び光学特性を、コンピュータプログラムに繋いだケースレー2400電流電圧計で測定した。さらに、光電性能を図4及び図5に示す。図4及び図5に示された試験結果から、2層MEH−PPVの素子(ホール−ブロッキング層BP105を含む)は、単層MEH−PPVより性能が勝っていたことが分かる。従って、本発明は、多層光電素子の製造において有効に使用できる。
【実施例3】
【0046】
<有機分子A層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子A(DPOClO−DOMe−PPV溶液)層用のドープを調製するために、ポリ[(2−(4−(3,7−ジメチルオクチルオキシ)フェニル)−3−フェニル−1,4−フェニレンビニレン)−co−(2,5−ジメチル−1,4−フェニレンビニレン)](DPOC10−DOMe−PPV)(EA=3.2、IP=5.6)をp−キシレン(沸点:138.37℃)又はトルエン(沸点:110.63℃)に溶解した。
【0047】
<バッファ層用ドープの調製>
沸点187.6℃、分子量76.095g/mol、粘度が0℃で248η/mPas、25℃で40.0η/mPasの1,2−プロピレングリコールをバッファ層用のドープとして使用した。
【0048】
<有機分子B層用ドープの調製>
濃度2wt%の有機分子B層用のドープを調製するために、1,3,5−シス−(N−フェニルベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)をトルエン(沸点:110.63℃)に溶解した。
【0049】
<有機分子A及びBの層を含む光電素子の調製>
ITO基質上にフォトリソグラフィによってアノード及びカソードの領域を画定した。次いで、そのITO基質上に、スピンコーティングによってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチリルスルホネート)(PEDOT)を塗布し、厚さ40nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)200℃で5分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0050】
次に、上記で得たDPOClO−DOMe−PPV溶液をスピンコーティングによりPEDOT上に塗布し、厚さ60nmのフィルムを形成した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)120℃で40分間加熱し、次に15分間アニール処理をした。
【0051】
次に、約1秒間でDPOClO−DOMe−PPVフィルム上にプロピレングリコールをスピンコートし、まだ液状で元のDPOClO−DOMe−PPVフィルムを保護している間に、このバッファ層上に素早くTPBIを塗布した。スピンコーティングの後、それを真空中(10−3Torr)120℃で1時間加熱し、次に15分間アニール処理して、バッファ層中の溶媒を除去した。その後、上記のようにして得た素子を、カルシウム、アルミニウム電極、及びパッケージングの連続熱蒸着のために、グローブボックスに入れた。
【0052】
その後、上記のようにして得た光電素子の電圧−電流特性をケースレー2400電流電圧計で測定し、スペクトルとしての光学特性、照度、発光効率、及びCIE座標をPR650で測定し、統合化された電気及び光学特性を、コンピュータプログラムに繋いだケースレー2400電流電圧計で測定した。さらに、光電性能を図6及び図7に示す。図6及び図7に示された試験結果から、2層DPOCl0−DOMe−PPVの素子(ホール−ブロッキング層TPBIを含む)が、単層DPOCl0−DOMe−PPVより性能が勝っていたことが分かる。従って、本発明は、多層光電素子の製造において有効に使用できる。
【0053】
本発明の技術概念に従い、単純化溶液法で多層有機分子素子を製造する方法の中で、発明に係る「バッファ層」を使用することで、従来技術で見出された層間相溶性の問題を効果的に解決できることが、上記実施例の結果から分かる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明による多層光電素子を製造する方法を示す略図である。
【図2】図2は、本発明の方法により実施例1で製造された光電素子の、電圧と電流発光効率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の方法により実施例1で製造された光電素子の、電圧と電流密度の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の方法により実施例1で製造された光電素子の、電圧と照度の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の方法により実施例2で製造された光電素子の、電圧と電流発光効率の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の方法により実施例2で製造された光電素子の、電圧と電流密度の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の方法により実施例2で製造された光電素子の、電圧と照度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の方法により実施例3で製造された光電素子の、電圧と電流発光効率の関係を示すグラフである。グラフ中に示された構造は、DPOC10−DOMe−PPVである。
【図9】図9は、本発明の方法により実施例3で製造された光電素子の、電圧と電流密度の関係を示すグラフである。グラフ中に示された構造は、DPOC10−DOMe−PPVである。
【図10】図10は、本発明の方法により実施例3で製造された光電素子の、電圧と照度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)有機分子Aの層を形成するために、ガラス又はプラスチックの清浄で透明な基質上に有機分子Aを含む溶液を塗布するステップ、
(2)一時的バッファ層を形成するために、有機分子Aの層上にバッファ剤を含む溶液を塗布するステップ、
(3)有機分子Bの層を形成するために、一時的バッファ層上に有機分子Bを含む溶液を塗布するステップ、
(4)任意選択で一時的バッファ層を除去するステップ、及び
(5)有機分子の2以上の層をもつ光電素子を得るために、(2)、(3)及び(4)を繰り返すステップ、
を含む多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項2】
前記透明基質が、ガラス、あるいはポリカーボネート、ポリエーテル−スルホン、ポリメタクリレート、又はポリないしトリアセチルセルロースなどのいずれか一つから選ばれる軟質フィルムである、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項3】
前記有機分子A及びBが芳香族性共役有機分子又はメタロセンである、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項4】
前記芳香族性共役有機分子が、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)をベースとする有機分子、ポリ(p−フェニレンエチレン)(PPE)をベースとする有機分子、ポリフルオレンをベースとする有機分子、ポリチオフェンをベースとする有機分子、ポリピロールをベースとする有機分子、及び/又はユニットとしてこれらのいずれかの組み合わせで形成されるコポリマーから選ばれる、請求項3に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項5】
前記芳香族性共役有機分子が、アントラセン、ペンタセン、フェナンスレン、ルブレン、2,3−ベンズアントラセン、ペリレン、9,10−フェナンスレンキノン、トリフェニレン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、N,N'−ジ[(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル]−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPD)、チタニルフタロシアニン、4,4',4"−トリス(N−(ナフチレン−2−イル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)、N,N'−ビス(4−メチルフェニル)−N,N'−ビス(フェニル)−1,4−フェニレンジアミン、トリフェニルアミン、トリ−p−トリルアミン、トリ(4−(ジエチルアミノ)フェニル)アミン、N,N'−ジフェニルブレンジジン、2−(4−ビフェニリル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオール、2−(4−ブロモフェニル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、5−フェニオル−1,3,4−オキサジオール−2−チオール、2,1,3−ベンズオキサジオール−5−カルボン酸、5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジオール−2−チオール、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、ペルフルオロテトラシアノキノリルジメタン(TCNQF4)、又は2−[4−((ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノフェニル)−シアノメチレン)−2,5−シクロヘキサジエン−1−イルジエン]マロンニトリルである、請求項3に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項6】
前記金属錯体が、トリ−(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(AlQ3)、8−ヒドロキシキノリン亜鉛塩(ZnQ3)、N,N−ビフェニル−N,N−ビス−3−メチルフェニル−1,1−ビフェニル−4,4−ジアミン(TPD)、4,4'−ビス(9−カルバゾリル)−2,2'−ビフェニル(CBP)などである、請求項3に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項7】
前記バッファ剤が前記有機分子Aの層を溶解しない材料である、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項8】
前記バッファ剤が有機分子を溶解しないアルコール性溶液又はアルカン溶液である、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項9】
前記バッファ剤がメタノール、エタノール又はグリセリンである、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項10】
前記バッファ剤の分子量(Mbf)が前記有機分子Aの層の分子量(MA)より小さい、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項11】
前記バッファ剤の分子量(Mbf)が2000以下である、請求項7に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項12】
前記バッファ剤溶液の粘度(Vbf)が分子Aの溶液の粘度(VA)より高い、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項13】
前記バッファ剤溶液の粘度(Vbf)と前記分子Aの溶液の粘度(VA)との差(Vbf−VA)が1〜2000η/mPasの範囲にある、請求項9に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項14】
前記バッファ剤溶液の沸点(Tbf)が350℃以下である、請求項11に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項15】
液晶表示素子又は液晶ディスプレイの製造に利用可能な、請求項1に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法。
【請求項16】
請求項1ないし15に記載の多層有機分子光電素子を製造する方法により作られる多層有機分子光電素子。
【請求項17】
液晶表示素子又は液晶ディスプレイで利用可能な、請求項16に記載の多層有機分子光電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−134300(P2007−134300A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−376944(P2005−376944)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(598139748)國立交通大學 (92)
【Fターム(参考)】