説明

バリアフィルムとその製造方法

【課題】天然資源を有効利用し、かつフィルム基材表面の微細な凹凸に起因するバリア層内の欠陥の発生を抑制することで、環境負荷を抑え優れたガスバリア性を有するバリアフィルムを提供する
【解決手段】フィルム基材11の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層12を設けてなるバリアフィルム10において、機能層12が少なくとも平均径が1〜200nmの繊維径を有するセルロースナノファイバーを含む。さらに、機能層12の表面に金属酸化物からなる蒸着層を直接設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、化粧品、衛生用品、農薬、種子、電子部材、電子機器類等が、酸素や水蒸気等によって劣化したり変質したりすることを抑制する包装用材料として好適なバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、衛生用品、農薬、種子、電子部材、電子機器類等が、酸素や水蒸気等によって劣化したり変質したりすることを抑制するため、それらの包装用材料として、酸素や水蒸気の透過度を抑制したバリアフィルムが使用されている。
【0003】
それらの中で、近年、酸素や水蒸気等に対するバリア性素材として、酸化ケイ素や酸化アルミニウムのような金属酸化物膜をナノスケールでプラスチックフィルム基材上に設けたバリアフィルムが数多く提案されている。
【0004】
金属酸化物層をフィルム基材表面上に形成する方法として、真空成膜法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)、あるいはプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD)等を利用する方法がある。
【0005】
上記のようなバリアフィルムは、従来のアルミニウム箔等を使用したバリアフィルムと比較して、透明性に優れ、酸素や水蒸気に対して高いバリア性を有するという点で、食品包装に限らず、産業用用途としても期待されている技術である。
【0006】
ところで、一般にフィルム基材上には成形時やその後の表面処理により、基材表面に微細な凹凸がある。一方で金属酸化物層はガラス質の膜から成り、柔軟性等に欠け、極めて脆い性質を有する。このため、基材上に真空成膜法等により金属酸化物層を成膜した場合、この微細な凹凸上に形成したことに起因する欠陥がバリア層内に発生し、バリア性を低下させてしまうといった問題が指摘されている。
【0007】
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1では基材上に蒸着法を用いてフッ素化合物層を形成し、基材の凹凸を低減した上で金属酸化物層を形成しているため、ガスバリア性の高いバリアフィルムとなっている。しかし、蒸着法を用いる場合、基材上に成膜されたフッ素化合物層は基材表面の凹凸に追従して形成されるため、フッ素化合物膜表面は平滑にならず、バリア性向上への寄与はそれほど大きいものではなかった。
【0008】
また、特許文献2では基材上にウェット成膜法を用いて有機化合物層を形成し、基材の平滑化を図っている。この場合、基材の凹凸は低減され、バリア性向上は達成された。しかし、有機化合物層を基材上に形成させる際、硬化剤として光硬化剤を用いているため、乾燥工程を経た後紫外線照射を行わなければならず、工程が煩雑になる。また、紫外線照射により基材が劣化する恐れがあるため、基材の種類を選ばなければならない。あるいは、紫外線照射ではなく熱を用いて硬化を行う場合、100℃以上の高温処理を行わなければならない場合がほとんどであり、基材の耐熱を十分に考慮する必要がある。さらに、これら有機化合物層を形成する場合、硬化不足に由来する揮発性の低分子等が残留してしまう危険性がある。このようなバリアフィルムを食品用包材に用いると、食品に異臭が付着したり、また電子部品用包材に用いると、微少な揮発物質により電子部品が破損したりする可能性がある。さらに、特許文献2の場合、平滑化層の形成に伴うバリア特性の変化についての記載がない。
【0009】
一方、近年、資源の枯渇や大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や環境汚染、廃棄物問題などを背景に、製造時の化石資源の使用量が少なく、廃棄時において低エネルギーで処理でき二酸化炭素の排出が少ない、環境に配慮された材料の利用が注目されている。こうした中、化石資源を原料とせず、一部または全部を天然の植物などを原料とするバイオマス資源由来の材料や、環境中で分解されて水と二酸化炭素になるポリ乳酸に代表される生分解性材料の積極利用が期待されている。
【0010】
バイオマス材料の中でもその生産量の約半分を占めるセルロースは、その生産量の多さから有効利用が期待されているとともに、セルロースナノファイバーの有する高度な物性から注目されている。セルロースナノファイバーは高強度、高弾性率を有しており、さらに極めて低い熱膨張係数を有している。さらに、耐熱性に関して記述すると、ガラス転移点を持たず、230度と高い熱分解温度を示す。また、セルロースの結晶性が高いと、力学強度、耐水性、熱安定性が向上することが知られている。
【0011】
また、生分解性樹脂に着目すると、生分解性樹脂、特にポリ乳酸は、結晶性の熱可塑性樹脂であり成形加工が比較的容易にできる等の理由によりフィルム化や容器への成形が盛んに行われている。しかし、ポリ乳酸フィルム単体では、十分な力学強度や機能が得られず、その利用に制限があるのが現状である。ガス透過性が高く、包装用材料として使用するには、なんらかのガスバリア性を付与する処方が必要となる。
【0012】
現在の酸素や水蒸気等のバリアフィルムは化石資源から製造されているため、製造時におけるエネルギーの消費や廃棄時における焼却などにより温暖化や環境汚染などを通して地球環境に負荷を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−340955号公報
【特許文献2】特開2009−12310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような背景技術を考慮してなさられたもので、天然資源を有効利用し、かつフィルム基材表面の微細な凹凸に起因するバリア層内の欠陥の発生を抑制することで、環境負荷を抑え優れたガスバリア性を有するバリアフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層を設けてなるバリアフィルムにおいて、前記機能層が少なくとも平均径が1〜200nmの繊維径を有するセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするバリアフィルムである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に、金属酸化物からなる蒸着層を設けることを特徴とする請求項1に記載のバリアフィルムである。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、前記機能層の上に前記蒸着層が直接形成されていることを特徴とする請求項2に記載のバリアフィルムである。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、前記機能層の硬化厚みが20〜1000nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0019】
また、請求項5に記載の発明は、前記フィルム基材または前記機能層において、前記蒸着層と接する表面の算術平均粗さ(Ra)が2000nm以下を有することを特徴とする請求項2または3に記載のバリアフィルムである。
【0020】
また、請求項6に記載の発明は、前記セルロースナノファイバーがセルロース重量に対してカルボキシル基含有量が0.1〜3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0021】
また、請求項7に記載の発明は、前記セルロースナノファイバーがセルロース重量に対してカルボキシル基含有量が1.3〜3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0022】
また、請求項8に記載の発明は、前記セルロースナノファイバーが結晶性セルロースであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0023】
また、請求項9に記載の発明は、前記機能層が水溶性多糖類を含有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0024】
また、請求項10に記載の発明は、前記水溶性多糖類がセロウロン酸であることを特徴とする請求項9に記載のバリアフィルムである。
【0025】
また、請求項11に記載の発明は、前記機能層が無機層状鉱物を含有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0026】
また、請求項12に記載の発明は、前記フィルム基材が生分解性を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のバリアフィルムである。
【0027】
また、請求項13に記載の発明は、前記フィルム基材がポリ乳酸系材料であることを特徴とする請求項12に記載のバリアフィルムである。
【0028】
また、請求項14に記載の発明は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層および蒸着層をこの順に設けてなるバリアフィルムにおいて、前記フィルム基材にウェット塗工により前記機能層を形成する工程と、前記機能層に電子ビーム加熱方式の真空蒸着により前記蒸着層を形成する工程とを具備し、前記機能層が少なくとも平均径が1〜200nmの繊維径を有するセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするバリアフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、酸素透過度が低く優れたガスバリア性を有し、加工適正や保存適正に優れたバリアフィルムが製造可能となり、さらに従来石油原料よりなる合成樹脂から形成されていた機能層を天然由来であるセルロースを原料として使用することにより製造時及び廃棄時の環境負荷を低減することができる。さらに、セルロースナノファイバーが形成する緻密な層により、機能層自身として高いガスバリア性を発現するため、バリア特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のバリアフィルムの一実施形態の断面概略図である。
【図2】本発明のバリアフィルムの他の一実施形態の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明におけるバリアフィルムの一実施形態の断面概略図である。本発明におけるバリアフィルム10は、フィルム基材11の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層12を設けてなるバリアフィルムにおいて、機能層12が少なくとも平均径1〜200nmの繊維径を有するナノファイバーを含んで形成されたものである。ここで、フィルム基材11の両面に機能層を形成してもよい。また、フィルム基材11と機能層12の間になんらかの層が形成されていてもよく、さらに機能層12上になんらかの層が形成されていてもよい。
【0032】
図2は、本発明におけるバリアフィルムの他の一実施形態の断面概略図である。バリアフィルム20上は、フィルム基材21の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層22を設けてなるバリアフィルムにおいて、機能層22が少なくとも平均径1〜200nmの繊維径を有するナノファイバーを含んで形成されたものであって、フィルム基材21の少なくとも一方の面に金属酸化物よりなる蒸着層23が形成されている。特に、機能層22の上に蒸着層23が直接形成されていることが好ましい。
【0033】
機能層22の上に蒸着層23が直接形成されていることにより、フィルム基材21の持つ凹凸を機能層22により平滑化し、フィルムの外部に接する表面積を小さくするとともに機能層22のフィルム基材21と反対側の面に形成される蒸着層23の蒸着時の付着性を向上させ、同時に蒸着時のピンホールやクラックの発生を抑制することができる。
【0034】
次に、バリアフィルム10および20を形成する各層の構成内容の詳細を記載する。
【0035】
<フィルム基材>
本発明に用いられるフィルム基材11および21はPETフィルム、PAフィルム、PPフィルム等のいずれを用いてもよい。さらに、フィルム基材11および21が生分解性を有することが好ましく、さらにポリ乳酸系材料であることが好ましい。基材が生分解性を持つことにより、フィルム基材11および21上にそれぞれ形成される機能層12および22もセルロースを原料とし、生分解性を有するため、廃棄特性に極めて優れたバリアフィルムとなる。また、機能層12および22の形成性向上のため、フィルム基材11および21に表面処理を施し、濡れ性やアンカー効果を付与してもよい。表面処理については特に限定されないが、本発明の趣旨やコスト面、工程の簡便さから、コロナ放電処理やプラズマ処理、紫外線照射、アルカリ表面処理などの改質が好ましい。処理による表面粗さの変化はレーザー変位計またはレーザー顕微鏡により確認することができる。
【0036】
蒸着層と接するフィルム基材11および21において、基材表面の算術平均粗さRaが2000nm以下を有することが好ましい。表面粗さが小さい基材に関しては、機能層形成による表面の平滑性を向上させる点に関しては優位性が薄いが、機能層自身の持つガスバリア性によってバリアフィルムとしてのガス透過を抑制すること作用をもたらす。粗さRaが2000nmより大きいと、フィルム基材表面の凹凸に機能層の充填が十分に行えず、機能層表面を平滑化することができない。
【0037】
<機能層>
本発明に用いられる機能層12および22の形成方法として、ウェット成膜法を用いることができ、公知の方法を用いることができる。具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター等である。ウェット成膜方法を用いることにより、フィルム基材表面の凹凸形状に追従せずに表面形状が平滑な機能層を形成することができるため、機能層12および22に続く蒸着層23は平滑な面上に形成することができる。
【0038】
機能層12および22に含まれるセルロースナノファイバーの原料となるセルロース繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。ナノファイバー化前後のセルロース繊維の繊維径はTEM観察またはAFM観察により確認することができる。
【0039】
本発明に用いられる機能層12および22に含有されるセルロースナノファイバーは水中でセルロースを機械的処理し、セルロース繊維径が1〜200nmになるまで微細化したものを用いる。なお、セルロースは、固形分濃度0.05〜10重量%の水分散液、好ましくは0.1〜5重量%の水分散液にした後、機械的処理することが好ましい。微細化の方法としては高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー磨砕、凍結粉砕、メディアミルなどが挙げられるが、いずれの方法を用いてもよい。また、機械的処理を行う前工程として、セルロースを化学処理してもよい。化学処理については後述する。また、セルロースナノファイバーが結晶性セルロースであることが好ましい。結晶性が高いと、機能層12および22の力学強度、耐水性、熱安定性が向上する。
【0040】
セルロースナノファイバーを含む水分散液より形成された機能層12および22の硬化厚みは20nm以上1000nm以下であることが好ましい。硬化厚みが20nm未満であると、フィルム基材5の表面凹凸を一様に覆うことが出来ず、形成した機能層表面に平滑性を付与することができず、蒸着時のピンホールやクラック発生等を抑制する効果が得られないため、バリア性が低下する。また、硬化厚みが1000nmより大きいと、ハンドリング時に機能層12および22にクラック発生等の問題が生じやすくなり、また機能層形成材料の必要量が増加するためコスト増による経済的な問題が生じ、生産性が低下する。
【0041】
また、機能層12および22には水溶性多糖類を含有し、特に水溶性多糖類がセロウロン酸であることが好ましい。セロウロン酸とは、再生セルロースやマーセル化セルロースを原料として、TEMPO酸化触媒等を用いた選択的な酸化反応を行うことにより得られた、水溶性のβ−1,4−ポリウロン酸のことである。セロウロン酸はバイオマス由来であり、セルロースと同じグルコース骨格を持つためにセルロース分散液中でも高い相溶性を持つ。そのため、セルロースナノファイバーの隙間に充填され、層密度を増大させることが可能になったとともに、セロウロン酸自身の有する高いバリア性により、バリアフィルム10および20のバリア性が向上する。またセロウロン酸水溶液により分散液の粘度を調整することにより、固形分濃度を低下させることなく塗工性を容易に制御できるとともに膜厚の制御幅を広げることができる。さらに、セロウロン酸はセルロースと同等の高い線膨張係数を保有するため、セルロース特有の低熱膨張係数を保持したまま上述のように特性が向上する。
【0042】
機能層12および22にセロウロン酸等の水溶性多糖類を含有させる方法として、セルロースナノファイバーを含む水分散液に多糖類を溶解させ、多糖類含有セルロースナノファイバーの水分散液を塗工する方法(以下、方法1とする)、または、多糖類水溶液を作製し、多糖類水溶液とセルロースナノファイバーを含む水分散液とを順次塗工する方法(以下、方法2とする)、またはセルロースナノファイバーの水分散液を塗工したフィルムを多糖類水溶液中に浸漬させる方法(以下、方法3とする)のいずれかを用いることができる。方法2においては、多糖類水溶液とセルロースナノファイバーを含む水分散液のどちらを先に塗工しても構わない。ただし、濃度により異なるが、一般的に多糖類水溶液の方がセルロースナノファイバーを含む水分散液よりも表面張力が大きく、フィルム基材への濡れ性が低い。このため、被塗工面であるフィルム基材11および21表面の濡れ性が十分となり面内に一様な層が形成されるよう、基材表面に表面処理を施してもよい。また、塗液にアルコールなどの溶剤や添加剤を添加して、表面張力を低下させてもよい。
【0043】
また、機能層12および22に無機層状鉱物を含んでもよい。無機層状鉱物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等を挙げることができるが、これらの中でも溶液中の安定性や塗工性等の点からモンモリロナイトが好ましい。また、モンモリロナイトを添加することにより、機能層12および22自身のバリア性を向上させるこができ、結果的にバリアフィルム10および20のガスバリア性を向上させることができる。
【0044】
セルロースナノファイバーを含む水分散液をフィルム基材11および21に塗工した後、塗液を乾燥させることにより機能層12および22が形成される。乾燥方法としてはコンベア炉、バッチ炉、または真空バッチ炉等を用いることができ、
【0045】
蒸着層と接する機能層12および22において、機能層表面の算術平均粗さRaが2000nm以下を有することが好ましい。表面粗さが小さい基材に関しては、機能層形成による表面の平滑性を向上させる点に関しては優位性が薄いが、機能層自身の持つガスバリア性によってバリアフィルムとしてのガス透過を抑制すること作用をもたらす。粗さRaが2000nmより大きいと、フィルム基材表面の凹凸に機能層の充填が十分に行えず、機能層表面を平滑化することができない。
【0046】
<蒸着層>
本発明に用いられる蒸着層23を形成する蒸着方法は、真空成膜法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)、あるいはプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD)などが挙げられ、これらの真空プロセスにより、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の蒸着層を形成することができる。
【0047】
蒸着層23の好ましい膜厚は、バリアフィルムの用途や蒸着膜の膜組成等に応じて異なるが、通常数十Å〜5000Åの範囲が好ましい。この蒸着層が薄すぎると蒸着層の連続性が維持されなくなり、厚すぎるとクラックが発生しやすくなる。
【0048】
なお、蒸着層23を形成する前工程として、プラズマ処理などを行うことにより、機能層表面の水分や塵等を除去すると共にその表面の平滑化、活性化を促進させてもよい。
【0049】
<セルロースの化学処理>
本発明に用いられる機能層12および22を形成するセルロースは、化学処理を行い、さらにこれに続く機械的処理を施すことにより、ナノファイバーを得ることができる。セルロースの化学処理の一例を下記に示す。
【0050】
セルロースを化学処理する方法として、触媒として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理方法が提案されている。この方法によりセルロースC6位の水酸基がカルボキシル化されると、ナノファイバー相互の静電反発が高まり膨潤するため、低エネルギー投入による機械的処理によってセルロースがナノファイバー化し、セルロースの水分散液が得られる。さらに、本方法を利用すると、得られたセルロースナノファイバーの分子量低下が抑えられるため、機能層12および22は高い力学強度を有する。
【0051】
上述の化学処理は次の手順で行われる。水中で分散させたセルロースにニトロキシラジカルと臭化ナトリウムとを添加して室温で攪拌しながら次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してセルロースの酸化を行う。酸化反応中に水酸化ナトリウムを添加し、反応系内のpHを10.0に制御する。この時、セルロース繊維表面のC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化される。十分水洗し、得られたセルロースを微細化したものを機能層の構成材料として用いることが出来る。
【0052】
なお、酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩が使用でき、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。臭化物としては、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられ、臭化ナトリウムが好ましい。
【0053】
機能層12および22に用いられるセルロースナノファイバーは、化学処理により、セルロースがセルロース重量に対してカルボキシル基含有量が0.1〜3.0mmol/g、好ましくは1.3〜3.0mmol/gを有する。こうして得られた化学処理後セルロースは、水中での機械的処理による繊維の微細化が進行しやすく、均質な分散液が得られるため、基材上で均一な膜厚かつ均質な層形成が可能となる。また、微細化が進行するとセルロースナノファイバーの繊維径は数nmオーダーとなり、この細い繊維径が機能層として緻密な膜を形成し、高いバリア性を発現すると考えられる。
【0054】
なお、セルロースに含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出される。化学処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.8となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー(株)、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0056】
<実施例1>
以下の手順により、バリアフィルムの作製を行った。
【0057】
(1)機能層用材料
セルロース:漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「Machenzie」)
TEMPO:市販品(東京化成工業(株)、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬(株)、(アンチホルミン)、Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬(株))
【0058】
(2)セルロース水分散液の作製手順
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプをイオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。ここに、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、水酸化ナトリウムの消費が無くなるまで反応を行い、イオン交換水で十分に水洗した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー、AUT−701)を用いて0.1N水酸化ナトリウムにより電導度滴定を行ったところ、カルボキシル基量が1.5mmol/gと算出された。
【0059】
得られた酸化パルプをイオン交換水中で固形分1%となるように調整し、ミキサー(岩谷産業(株)、IFM−650D)を用いて30分間攪拌し、微細化することにより透明なセルロース水分散液が得られた。このときのセルロースはAFM観察により繊維高さ2.5nm、幅約20nmあった。
【0060】
(3)バリアフィルムの製造
基材フィルムとしてPETフィルム(東レ(株)、「ルミラー」、厚み25um)を用い、塗工面をコロナ放電処理機(春日電機(株)、CG−102)を用いて表面処理した。処理面に(2)の作製手順により作製したセルロース水分散液を#50のバーコーターにて塗布した。これを60℃で60分間乾燥させ、透明なバリアフィルムを得た。このとき、セルロース水分散液により形成された機能層の硬化厚みは0.6umであった。
【0061】
<実施例2>
実施例1と同様にしてセルロース水分散液を作製し、同PETフィルムにセルロース分散液を塗布し、透明フィルムを得た。
【0062】
次に、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、酸化ケイ素(キャノンオプトロン(株)、SiO)を加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.5×10−2Paにおいて硬化膜厚が50nmのSiOx膜を形成した。
【0063】
<実施例3>
実施例1と同様にして、セルロース水分散液の作製を行った。続いて、セロウロン酸は特許文献(特開2008−49606)を参考に自作したものを使用した。再生セルロースを用いて作製したセロウロン酸をイオン交換水に溶解させ、固形分5%のセロウロン酸水溶液を得た。PETフィルム(東レ(株)、「ルミラー」、厚み25um)を用い、片面に(2)の作製手順により作製したセルロース水分散液を#50のバーコーターにて塗布し、60℃60分間乾燥させた後、セロウロン酸水溶液を#10のバーコーターにて塗布、同条件により乾燥させた。次いで実施例2と同様条件にて真空蒸着装置を用いて50nmのSiOx膜を形成した。
【0064】
<実施例4>
実施例1と同様にして、作製したセルロース水分散液をイオン交換水にて希釈し、固形分濃度を0.5%に調製した後、乾燥重量でセルロースと同量のモンモリロナイト((株)ホージュン)を添加し、混合液とした。この液を実施例2と同条件にて塗工、その後実施例2と同様条件にて真空蒸着装置を用いて50nmのSiOx膜を形成した。
【0065】
<比較例1>
基材フィルムとしてPETフィルム(東レ(株)、「ルミラー」、厚み25um)を用意し、コロナ処理を施したものを比較サンプルとした。
【0066】
<比較例2>
基材フィルムとしてPETフィルム(東レ(株)、「ルミラー」、厚み25um)を用意しコロナ処理した後、実施例2と同様条件にて真空蒸着装置を用いて50nmのSiOx膜を形成し、比較サンプルとした。
【0067】
[評価]
実施例1〜4及び、比較例1、2で得られた各バリアフィルムについて、一部のサンプルについてバリアフィルムの表面粗さを、全てにおいて密着性及び酸素透過度を次のように測定した。
【0068】
[表面粗さ]
レーザー変位計((株)オプレンス、MLH−50)を用いて20nmステップにて算術平均粗さ(Ra)を測定した。
【0069】
[密着性]
セロハンテープ密着試験(クロスカット試験)を行い、フィルム基材上に形成された層の密着性を評価し、剥離の見られたものは×、見られなかったものは○として評価した。
【0070】
[酸素透過度]
酸素透過度装置(モダンコントロール、OXTRAN 10/50A)を用いて30℃、70%RH雰囲気下で測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、フィルム基材上に機能層を形成することにより、基材表面の粗さが大きく低減されていることが分かる。また、機能層を形成することにより蒸着層なしでも酸素透過度は低くなる上、さらに蒸着層を形成することにより高い酸素遮断性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0073】
10・・・バリアフィルム
11・・・フィルム基材
12・・・機能層
20・・・バリアフィルム
21・・・フィルム基材
22・・・機能層
23・・・蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層を設けてなるバリアフィルムにおいて、
前記機能層が少なくとも平均径が1〜200nmの繊維径を有するセルロースナノファイバーを含む
ことを特徴とするバリアフィルム。
【請求項2】
前記フィルム基材の少なくとも一方の面に、金属酸化物からなる蒸着層を設けることを特徴とする請求項1に記載のバリアフィルム。
【請求項3】
前記機能層の上に前記蒸着層が直接形成されていることを特徴とする請求項2に記載のバリアフィルム。
【請求項4】
前記機能層の硬化厚みが20〜1000nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項5】
前記フィルム基材または前記機能層において、前記蒸着層と接する表面の算術平均粗さ(Ra)が2000nm以下を有することを特徴とする請求項2または3に記載のバリアフィルム。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーがセルロース重量に対してカルボキシル基含有量が0.1〜3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーがセルロース重量に対してカルボキシル基含有量が1.3〜3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバーが結晶性セルロースであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項9】
前記機能層が水溶性多糖類を含有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項10】
前記水溶性多糖類がセロウロン酸であることを特徴とする請求項9に記載のバリアフィルム。
【請求項11】
前記機能層が無機層状鉱物を含有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項12】
前記フィルム基材が生分解性を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のバリアフィルム。
【請求項13】
前記フィルム基材がポリ乳酸系材料であることを特徴とする請求項12に記載のバリアフィルム。
【請求項14】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、少なくとも機能層および蒸着層をこの順に設けてなるバリアフィルムにおいて、
前記フィルム基材にウェット塗工により前記機能層を形成する工程と、
前記機能層に電子ビーム加熱方式の真空蒸着により前記蒸着層を形成する工程とを具備し、
前記機能層が少なくとも平均径が1〜200nmの繊維径を有するセルロースナノファイバーを含む
ことを特徴とするバリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73174(P2011−73174A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224532(P2009−224532)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】