説明

バルクハウゼンノイズ検査装置

【課題】 脱磁機を別途設けることなく、残留磁気の影響を受けない高精度の検査を行うことができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 検査対象物30を磁化する励磁コイル3、および磁化された検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル4を有する検出ヘッド1と、前記励磁コイル3に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源5とを備える。この構成において、検出ヘッド1に脱磁機能を持たせて検査対象物30の残留磁気を脱磁する脱磁手段20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削焼け、残留応力、硬度、荷重などの非破壊検査を行う検査装置として、バルクハウゼンノイズを利用した種々のバルクハウゼンノイズ検査装置が提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【特許文献2】特開2001−133441号公報
【特許文献3】特開2006−266686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バルクハウゼンノイズは、検査対象物の残留磁気により変化する。軸受などの機械部品の製作の研磨工程では、マグネットチャックなどを使用するので、部品に磁気が残留する。このため、このような機械部品を検査対象物とする場合、バルクハウゼンノイズの値が機械部品の残留磁気の影響を受け、研削焼けなどの検出精度が悪くなる。この場合には、検査対象物を脱磁してから、バルクハウゼンノイズ検査装置で検査を行なえば良いが、そのために脱磁機を別途準備する必要がある。
【0005】
この発明の目的は、脱磁機を別途設けることなく、残留磁気の影響を受けない高精度の検査を行うことができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記検出ヘッドに脱磁機能を持たせて前記検査対象物の残留磁気を脱磁する脱磁手段を設けたことを特徴とする。
この構成のバルクハウゼンノイズ検査装置によると、前記検出ヘッドに脱磁機能を持たせて検査対象物の残留磁気を脱磁する脱磁手段を設けたたので、脱磁機を別途設けることなく、残留磁気の影響を受けない高精度の検査を行うことができる。
【0007】
この発明において、前記脱磁手段は、前記検出ヘッドに設けられ前記検査対象物を脱磁する脱磁コイルと、時間とともに振幅の減衰する交流磁界を発生させる交流電流を前記脱磁コイルに供給する脱磁用電源部とを有し、前記電源は前記脱磁用電源部と、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する励磁用電源部とを有するものとしても良い。このように時間とともに振幅の減衰する交流磁界を発生させることで、効果的に脱磁が行える。
【0008】
この発明において、前記励磁コイルを前記脱磁コイルに共用しても良い。このように、バルクハウゼンノイズの検出に用いる励磁コイルを、脱磁手段の脱磁コイルに共用すれば、専用の脱磁コイルを別途設ける必要がなく、それだけ検出ヘッドをコンパクトに構成できる。
【0009】
この発明において、前記検出ヘッドで検出されたバルクハウゼンノイズから、前記検査対象物の表面部の性状を検出する信号処理手段を設けても良い。この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズの検出を行うまでの処理のみを行うものとしても良いが、上記の信号処理手段を設けることで、さらに、検査対象物の表面部の特定の性状の検出までを行うことができる。検出する前記表面の性状は、例えば、表面の研削焼け、残留応力、欠陥等である。検出されたバルクハウゼンノイズから適宜処理して得たバルクハウゼンノイズ値を閾値と比較することなどで、上記研削焼け、残留応力、欠陥等の検出が可能となる。
【0010】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、転動装置の表面または転動装置部品の表面の性状の検出に用いるものとしても良い。この場合に、前記転動装置の表面または転動装置部品の表面に前記検出ヘッドを摺接させることで、表面の性状を検出するものとしても良い。検出ヘッドを摺接させると、エアギャップが生じず、感度良く安定して検出が行える。検出する前記表面の性状は、表面の研削焼け、または残留応力、または欠陥であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記検出ヘッドに脱磁機能を持たせて前記検査対象物の残留磁気を脱磁する脱磁手段を設けたため、脱磁機を別途設けることなく、残留磁気の影響を受けない高精度の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】同バルクハウゼンノイズ検査装置の脱磁手段における脱磁コイルに発生させる交流磁界の波形図である。
【図3】同バルクハウゼンノイズ検査装置の具体的構成図である。
【図4】同バルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この実施形態のバルクハウゼンノイズ検査装置は、励磁コイル3と検出コイル4を含む検出ヘッド1と、前記励磁コイル3に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する励磁用電源部6を含む電源5と、前記検出コイル4の出力信号を処理してバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ検出回路8と、検出対象物30の残留磁気を脱磁する脱磁手段20とを備える。前記電源5およびバルクハウゼンノイズ検出回路8は、検出ヘッド1とは別体の検査装置本体2における回路基板上に実装されている。検査時には、前記検出ヘッド1が検査対象物30の表面に押し当てられる。検出ヘッド1の検査対象物30に接触させる接触面には摩擦低減用のカバーや被覆等(図示せず)を設けても良い。
【0014】
検出ヘッド1における励磁コイル3は、検査対象物30を磁化するためのコイルであって、磁心となる鉄心13に巻かれている。また、検出ヘッド1における検出コイル4は、磁化された前記検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出するためのコイルであって、磁心となる鉄心14に巻かれている。前記各鉄心13,14は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。検出コイル4は鉄心14の無い空心コイルであっても良い。検出ヘッド1を検査対象物30の表面に押し当てた状態で、前記各鉄心13,14が検査対象物30の表面に押し当てられる。
【0015】
脱磁手段20は、前記励磁用コイル3で代用される脱磁用コイルと、図2のように時間とともに振幅の減衰する交流磁界を発生させる交流電流を脱磁用コイル(励磁用コイル3と共用)に供給する脱磁用電源部7とを有する。脱磁用電源部7の供給する交流電流は、時間とともに減衰する交流電流である。前記電源4は、この脱磁用電源部7と前記励磁用電源部6とを有する。励磁用電源部6は振幅の減衰しない交流電流を供給するが、その交流電流の振幅、周波数および波形を変化させることができ、この交流電流に直流バイアス電流を重畳することも可能である。
【0016】
前記検出ヘッド1には、前記励磁コイル3や検出コイル4のほか、検査対象物30を励磁する磁束を検出する磁界センサ15が設けられている。前記電源5は、励磁用電源部6および脱磁用電源部7のほか、前記磁界センサ15が検出する磁束の強さに基づき励磁用電源部6の交流電流を制御して検査対象物30を励磁する磁束を一定に保つ図示しない電流制御部を有する。バルクハウゼンノイズ検出回路8は、検出コイル4の検出信号を増幅する増幅器11や、その増幅された検出信号からバルクハウゼンノイズを抽出する抽出フィルタ12などからなる。
【0017】
図3は、前記バルクハウゼンノイズ検査装置のより具体的な構成例を示す。検出ヘッド1は、筒状のケース16内に、励磁コイル3を巻いた鉄心13と、検出コイル4を巻いた鉄心14を設置して構成される。励磁コイル3は巻枠17を介して鉄心13に巻かれ、検出コイル4は巻枠18を介して鉄心14に巻かれる。励磁コイル3と検出コイル4は、モールド材19A,19Bにより前記ケース16内で一体化されている。
【0018】
検査装置本体2は、前記電源5、バルクハウゼンノイズ検出回路8のほかに、同検出回路8で抽出されたバルクハウゼンノイズを信号処理する信号処理回路9を有する。具体的には、信号処理回路9は、バルクハウゼンノイズ信号の実効値、振幅の最大値や平均値、包絡線の振幅などを測定し、これをバルクハウゼンノイズ値とする。バルクハウゼンノイズ値は、交流磁界の数サイクル分のバルクハウゼンノイズの値を測定し、それらの平均値を求めたものであっても良い。この信号処理回路9では、測定したバルクハウゼンノイズ値から、検査対象物30の表面の性状を検出する。例えば、バルクハウゼンノイズ値が、予め定められたしきい値を超えたときに、検査対象物30の表面に研削焼けなどの異常があると判断する。しきい値を別の値とすることで、微細な割れや空洞等の欠陥があると判断するものとできる。また、信号処理回路9は、バルクハウゼンノイズ値から、検査対象物30の表面部の残留応力を測定するものとしても良い。検査装置本体2は表示部10に接続される。表示部10は、測定したバルクハウゼン値や、異常の有無などを表示する。
【0019】
この構成のバルクハウゼンノイズ検査装置を用いた検査対象物30の非破壊検査では、バルクハウゼンノイズの検出に先立ち、脱磁手段20により検査対象物30の脱磁を行う。この脱磁では、検出ヘッド1を検査対象物30に押し当てて鉄心13を検査対象物30に接触させることで鉄心13と検査対象物30とで磁気回路を構成する。この状態で、励磁コイル3を脱磁コイルに代用して、検査装置本体2の電源5の脱磁用電源部7から振幅が時間とともに減衰する交流電流を前記励磁コイル3に供給する。これにより、図2のように振幅が時間とともに減衰する交流磁界を励磁コイル3に発生させ、検査対象物30を交流脱磁する。
【0020】
このように、検査対象物30の残留磁気を脱磁してから、バルクハウゼンノイズの検出を以下のように行う。脱磁の場合と同様に、検査対象物30に検出ヘッド1を押し当てると、鉄心13,14が検査対象物30に接触し、鉄心13と検査対象物30とで磁気閉回路が構成される。この状態で、検査装置本体2の電源5の励磁用電源部7から振幅が減衰しない一定の交流電流を前記励磁コイル3に供給する。これにより、励磁コイル3に一定振幅の交流磁界を発生させ、検査対象物30を磁化する。検出コイル4は、磁化された検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出する。検出コイル4が検出したバルクハウゼンノイズ信号は、検査装置本体2のバルクハウゼンノイズ検出回路8において、増幅器11で増幅され、抽出フィルタ12によりバルクハウゼンノイズ信号が抽出される。抽出されたバルクハウゼンノイズ信号は次段の信号処理回路9で処理されて、バルクハウゼンノイズ値が算出され、この値から検査対象物30の表面異常(研削焼けなど)の有無などが判断される。
【0021】
なお、前記脱磁処理によっても検査対象物30に若干の残留磁気が残る場合には、バルクハウゼンノイズの検出に先立ち、例えば磁界センサ15(図1)を残留磁気検出用センサとして利用することで残留磁気を検出し、バルクハウゼンノイズ検出時に信号処理回路9でバルクハウゼンノイズ値を算出する際に、前記残留磁気の検出値に基づきバルクハウゼンノイズ値を補正するようにしても良い。
【0022】
このように、このバルクハウゼンノイズ検査装置では、検査対象物30の残留磁気を脱磁する脱磁手段20を設けているので、脱磁機を別途設けることなく、残留磁気の影響を受けない高精度の検査を行うことができる。
【0023】
また、この実施形態では、バルクハウゼンノイズの検出に用いる励磁コイル3を、脱磁手段20の脱磁コイルに共用しているので、専用の脱磁コイルを別途設ける必要がなく、それだけ検出ヘッド1をコンパクトに構成できる。
【0024】
図4は、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の品質を検査する装置として使用しており、具体的には軸受の内輪21の転走面21aの研削焼けを検出する。バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、移動可能な支持部材22に支持され、支持部材22の移動により軸受内輪21の転走面21aの表面を摺動しながら異常箇所を検出する。軸受内輪21は回転軸23の外径面に嵌着されており、回転軸23を回転させることで、軸受内輪21の転走面21aの全周面に前記検出ヘッド1を摺動させて研削焼けを検査することができる。
オンライン上で、このようにバルクハウゼンノイズ検査装置を使用すると、軸受内輪21の転走面21aの研削焼けなどの異常を全数検査することができ、品質保証能力を高めることができる。
【0025】
図4では、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を軸受内輪21の転走面21aにおける研削焼けの検査に用いた例を示したが、検出する表面情報は残留応力や欠陥であっても良い。また、検査対象物は軸受部品である内輪21に限らず、例えば軸受そのものの表面情報を検出するものとしても良い。また、検査対象物は軸受に限らず他の転動装置や転動装置部品であっても良く、この場合にもその転動装置や転動装置部品の表面情報を精度良く検出することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…検出ヘッド
3…励磁コイル(脱磁コイル兼用)
4…検出コイル
5…電源
6…励磁用電源部
7…脱磁用電源部
20…脱磁手段
21…軸受内輪(転動装置部品)
30…検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記検出ヘッドに脱磁機能を持たせて前記検査対象物の残留磁気を脱磁する脱磁手段を設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記脱磁手段は、前記検出ヘッドに設けられ前記検査対象物を脱磁する脱磁コイルと、時間とともに振幅の減衰する交流磁界を発生させる交流電流を前記脱磁コイルに供給する脱磁用電源部とを有し、前記電源は前記脱磁用電源部と、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する励磁用電源部とを有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記励磁コイルを前記脱磁コイルに共用したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記検出ヘッドで検出されたバルクハウゼンノイズから、前記検査対象物の表面部の性状を検出する信号処理手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、転動装置の表面または転動装置部品の表面の性状の検出に用いられるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項5において、前記転動装置の表面または転動装置部品の表面に前記検出ヘッドを摺接させることで、表面の性状を検出するものとしたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項において、検出する前記表面の性状が、表面の研削焼け、または残留応力、または欠陥であるバルクハウゼンノイズ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−249764(P2010−249764A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101639(P2009−101639)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】