説明

バルクハウゼンノイズ検査装置

【課題】 バルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサや検査対象物の変位による影響を受けずに、高精度の検査が可能なバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 検査対象物30を磁化する励磁コイル2と、磁化された検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサ3と、励磁コイル2に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源12とを備える。ノイズ検出センサ3と検査対象物30の間のギャップを検出するギャップ検出センサ21を設ける。このギャップ検出センサ21の出力に基づきノイズ検出センサ3の出力をセンサ出力補正手段24で補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体の金属材料が磁化する過程では、金属材料中に混在する非磁性体や内部欠陥などにピンニングされて磁壁の移動が不連続性を有することで、バルクハウゼンノイズが発生する。このバルクハウゼンノイズの大きさは、金属材料の硬度や残留応力などと相関を持つため、バルクハウゼンノイズを測定することで、金属材料からなる検査対象物を破壊することなく金属組織推定に用いることができる情報を得ることが可能となる。
【0003】
このバルクハウゼンノイズを利用した非破壊検査装置として、測定者が検出ヘッドを検査対象物に押し当てて検査するバルクハウゼンノイズ検査装置が知られている(例えば特許文献1)。検出ヘッドには、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルが含まれる。特許文献1に開示のバルクハウゼンノイズ検査装置では、予め検査対象物の材質ごとにバルクハウゼンノイズの大きさと材料の硬度との関係性を測定しておいて、検出されるバルクハウゼンノイズの大きさから検査対象物の表面における研削焼けによる異常箇所を検出する。この場合、検査対象物が大量生産品であると、その全数検査では、摩耗等の問題が生じないように検査対象物に対して検出ヘッドを非接触で測定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように検査対象物に対して検出ヘッドを非接触状態で検査する場合には、検査対象物と検出ヘッドの間のギャップが変動すると、バルクハウゼンノイズの大きさも変動するので、誤検出の原因となる。
【0006】
そこで、例えば、検査対象物と検出ヘッドの間のギャップをギャップセンサで検出し、その出力をフィードバックして検出ヘッドを定置制御する方法が考えられる。
しかし、この場合、検出ヘッドの追従性が遅く、ギャップ変動の影響が残るという問題がある。また、小寸法の材料を検査対象物とする場合には小型の検出ヘッドが要求されるが、上記した方法のようにギャップセンサを新たに配置すると検出ヘッドが大型化してしまい、小寸法の検査対象物の検査が困難になるという問題も生じる。
【0007】
この発明の目的は、バルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサや検査対象物の変位による影響を受けることなく、高精度の検査が可能なバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
この発明の他の目的は、検出部を大型化させることなく、検査対象物とノイズ検出センサの間のギャップを検出するギャップ検出センサを配置することができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の構成にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサと、このギャップ検出センサの出力に基づき前記ノイズ検出センサの出力を補正するセンサ出力補正手段とを設けたことを特徴とする。
この構成によると、ノイズ検出センサの出力を、センサ出力補正手段が、ギャップ検出センサの出力に基づき補正するようにしているので、ノイズ検出センサと検査対象物の間のギャップがどのように変動しても、常にギャップが一定の状態でのバルクハウゼンノイズと同等に補正されたバルクハウゼンノイズを検出することができる。そのため、検査条件が均一化され、検出されるバルクハウゼンノイズに検査対象物やノイズ検出センサの変位による影響が生じるのを排除できて、検出精度が向上する。また、ノイズ検出センサを検査対象物と非接触とするため、摩耗の問題が生じず、検査対象物の生産過程でその全数検査を効率良く行うことができる。
【0009】
この発明において、前記ギャップ検出センサの出力と前記ノイズ検出センサの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、前記センサ出力補正手段は、前記ギャップ検出センサの出力と前記記憶手段の記憶するデータとから前記ノイズ検出センサの出力を補正するものとしても良い。
前記記憶手段には、例えばギャップ検出センサの検出するギャップが所定値より大きい値のとき、これに対応して所定値より小さい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値を増加側に補正する値が記憶される。逆に、ギャップ検出センサの検出するギャップが所定値より小さい値のとき、これに対応して所定値より大きい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値を減少側に補正する値が記憶される。これにより、センサ出力補正手段は、ギャップ検出センサの検出するギャップに対応する補正係数を記憶手段から読み出して、ギャップ検出センサの出力をギャップが一定の状態での値に補正することができる。なお、この明細書において「所定値」とは定められた値を言う。
【0010】
この発明において、前記ギャップ検出センサは、電磁誘導を利用した磁気式センサ、ホール効果を利用した磁気式センサ、光学式センサ、静電容量式センサのいずれであっても良い。
【0011】
この発明の第2の構成にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記ノイズ検出センサを鉄心とこの鉄心に巻かれるノイズ検出用コイルとで構成したバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサを設け、このギャップ検出センサを前記ノイズ検出センサと兼用の鉄心とこの鉄心に巻かれるギャップ検出用コイルとで構成したことを特徴とする。
ギャップ検出センサを設けたこのバルクハウゼンノイズ検査装置では、ギャップ検出センサの出力を用いて、例えば上記した第1の構成のように、ノイズ検出センサの出力を補正することで、検出されるバルクハウゼンノイズに検査対象物やノイズ検出センサの変位による影響が生じるのを排除できて、検出精度の向上が可能となる。とくに、このバルクハウゼンノイズ検査装置では、ギャップ検出センサをノイズ検出センサと兼用の鉄心とこの鉄心に巻かれるギャップ検出用コイルとで構成しているので、検出部を大型化させることなくギャップ検出センサを配置することができる。
【0012】
この発明の第2の構成において、前記ギャップ検出センサの出力に基づき前記ノイズ検出センサの出力を補正するセンサ出力補正手段を設けても良い。
この構成の場合、ノイズ検出センサと検査対象物の間のギャップがどのように変動しても、常にギャップが一定の状態でのバルクハウゼンノイズを検出することができる。そのため、検査条件が均一化され、検出されるバルクハウゼンノイズに検査対象物やノイズ検出センサの変位による影響が生じるのを排除できて、検出精度が向上する。
【0013】
この発明の第2の構成において、さらに、前記ギャップ検出センサの出力と前記ノイズ検出センサの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、前記センサ出力補正手段は、前記ギャップ検出センサの出力と前記記憶手段の記憶するデータとから前記ノイズ検出センサの出力を補正するものとしても良い。
この構成の場合、センサ出力補正手段は、ギャップ検出センサの検出するギャップに対応する補正用データを記憶手段から読み出して、ギャップ検出センサの出力をギャップが一定の状態での値に補正することができる。
【0014】
この発明の第2の構成において、前記ギャップ検出用コイルを前記ノイズ検出用コイルの外径側に配置しても良い。
【0015】
この発明の第2の構成において、前記ギャップ検出用コイルと前記ノイズ検出用コイルとを軸方向に並べて配置しても良い。
ギャップ検出用コイルがノイズ検出用コイルの外径側に配置され、しかも検査対象物の近傍に配置される場合、検査対象物からのバルクハウゼンノイズ信号がギャップ検出用コイルの電磁シールド効果により減衰してしまう。この観点から、ギャップ検出用コイルは、検査対象物からなるべく離して配置することが好ましい。ギャップ検出用コイルを、ノイズ検出用コイルよりも検査対象物から離れた位置でノイズ検出用コイルと軸方向に並べて配置すると、バルクハウゼンノイズ信号を減衰させることなく、ギャップを検出することが可能となる。また、検出部のさらなる小型化も可能となる。
【0016】
この発明の第2の構成において、前記ギャップ検出用コイルと前記ノイズ検出用コイルを直列に接続しても良い。
【0017】
この発明の第2の構成において、同一のコイルを前記ノイズ検出用コイルと前記ギャップ検出用コイルに兼用しても良い。この構成の場合、専用のギャップ検出用コイルが省略されるので、検出部のさらなる小型化が可能となる。
【0018】
この発明の第1および第2の構成において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから検査対象物の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けても良い。
また、この発明の第1および第2の構成において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから検査対象物の表面の残留応力の検出を行う残留応力検出手段を設けても良い。
【0019】
この発明の第1および第2の構成において、前記検査対象物が転動装置または転動装置部品であっても良い。例えば、転動装置または転動装置部品の表面の残留応力や研削焼けを前記残留応力検出手段や研削焼け検出手段で検出するものであっても良い。転動装置は、部品間にボールやころ等の転動体を介在させた装置であり、転がり軸受、ボールねじ、ボールジョイント等が該当する。転動装置部品は、前記転動装置を構成する部品であり、その転動体が接する軌道面を有する部品や転動体等である。
【発明の効果】
【0020】
この発明の第1の構成にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサと、このギャップ検出センサの出力に基づき前記ノイズ検出センサの出力を補正するセンサ出力補正手段とを設けたため、バルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサや検査対象物の変位による影響を受けることなく、高精度の検査が可能となる。
この発明の第2の構成にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記ノイズ検出センサを鉄心とこの鉄心に巻かれるノイズ検出用コイルとで構成したバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサを設け、このギャップ検出センサを前記ノイズ検出センサと兼用の鉄心とこの鉄心に巻かれるギャップ検出用コイルとで構成したため、検出部を大型化させることなく前記ギャップ検出センサを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図8】同バルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の一実施形態を図1と共に説明する。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行う装置であって、励磁コイル2と、ノイズ検出用コイル3と、コントローラ10と、ギャップ検出センサ21と、位置検出手段22と、記憶手段23と、センサ出力補正手段24とを備える。励磁コイル2、ノイズ検出用コイル3、およびギャップ検出センサ21は、一つの検出ヘッド1として一体化して設けられる。検出ヘッド1は、各コイル2,3、ギャップ検出センサ21等の構成部品を樹脂製等のケース(図示せず)内に収容したものとされる。なお、この明細書で言う「一体化」とは、互いに一つの部品として移動させることができるように組まれていることを言い、一体化された個々の部品が、破損を生じることなく分離することが不能とされていても、また分離可能とされていても良い。
【0023】
励磁コイル2は、検査対象物30を磁化するためのコイルであって、磁心となる鉄心4に巻かれている。また、ノイズ検出用コイル3は、磁化された前記検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサとなるコイルであって、磁心となる鉄心5に巻かれている。具体的には、ノイズ検出用コイル3は検査対象物30の表面磁束を検出する。前記各鉄心4,5は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。検査時には、摩耗等の観点から、前記検出ヘッド1は検査対象物30に対して非接触状態とされる。
【0024】
コントローラ10は、励磁コイル2に励磁用の交流電流を供給する交流電源12を含む電流制御部11と、ノイズ検出用コイル3の出力信号を処理する出力信号処理部15とを備える。電流制御部11は、交流電源12のほか、前記ノイズ検出用コイル3が検出する磁束の強さに基づき前記交流電源12の交流電流を制御して、検査対象物30を励磁する磁束を一定に保つ電源制御装置13を有する。
【0025】
出力信号処理部15は、ノイズ検出用コイル3の検出信号を増幅する増幅器などを含むセンサ回路16と、センサ回路16で処理された検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ17とを有する。
【0026】
ギャップ検出センサ21は、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップを検出するセンサであり、ノイズ検出用コイル3の近傍に配置される。ギャップ検出センサ21としては、電磁誘導を利用した渦電流センサなどの磁気式センサ、リラクタンス検知式センサ、ホール効果を利用した磁気式センサ、静電容量式センサ、光学式センサなどが使用される。この場合、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップとは、ノイズ検出用コイル3の巻かれた鉄心5の一端とこれに対向する検査対象物30の表面との間のギャップである。ギャップ検出センサ21は、励磁コイル2およびノイズ検出用コイル3と共に、検出ヘッド1に一体化して設けられている。励磁コイル2の鉄心4はコ字状のものであり、この鉄心4の両端およびノイズ検出用コイル3の鉄心5の一端が検出ヘッド1における検査対象物30の表面に対向させる平坦面とされた検出面と同一平面上に位置するように、励磁コイル2およびノイズ検出用ヘッド3の各鉄心4,5が検出ヘッド1内に配置される。これにより、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップが一定値に調整されたとき、励磁コイル2と検査対象物30の間のギャップも同一値に調整される。ギャップ検出センサ21も、検出ヘッド1の検出面と面一となるように検出ヘッド1内に配置される。
【0027】
位置検出手段22は、ギャップ検出センサ21の検出信号からノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップを出力する。記憶手段23には、予め測定されたギャップ検出センサ21の出力(ギャップ)とノイズ検出用コイル3の出力(バルクハウゼンノイズ)との関係が記憶されると共に、ギャップに対するバルクハウゼンノイズの補正係数も記憶されている。すなわち、定性的に言えば、例えばギャップ検出センサ21の検出するギャップが所定値(定められた値のこと)より大きい値のとき、これに対応して所定値より小さい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値を増加側に補正する値が記憶される。逆に、ギャップ検出センサ21の検出するギャップが所定値より小さい値のとき、これに対応して所定値より大きい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値を減少側に補正する値が記憶される。なお、記憶手段23に記憶される前記の予め測定されたギャップ検出センサ21の出力とノイズ検出用コイル3の出力との関係は、例えば、このバルクハウゼンノイズ検査装置の実用化よりも前に、試験として測定された関係である。
【0028】
センサ出力補正手段24は、ギャップ検出センサ21の出力に基づきノイズ検出用コイル3の出力を、前記記憶手段23のギャップ検出センサ21の出力とノイズ検出用コイル3の出力との関係や、バルクハウゼンノイズの補正係数等の記憶データに従って補正する。センサ出力補正手段24の次段には、その補正されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物30の各種性状を検出する性状検出手段41が接続されている。性状検出手段41は、検査対象物30における研削焼けを検出する研削焼け検出手段42と、検査対象物30における残留応力を検出する残留応力検出手段43を有する。これら研削焼け検出手段42および残留応力検出手段43は、それぞれ、センサ出力補正手段24で補正されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を、設定値(定められた値)と比較して研削焼けの有無の検出、所定値(定められた値)以上の残留応力の有無を判定するものであっても、また研削焼けの深さや範囲、残留応力の大きさを測定するものであっても良い。
【0029】
次に、このバルクハウゼンノイズ検査装置の動作を説明する。検出ヘッド1は、その検出面が検査対象物30の表面に対向するように配置する。この配置状態で、ギャップ検出センサ21がノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップを検出する。上記したように、励磁コイル2の鉄心4はその両端が検出ヘッド2の検出面に同一平面となるように、またノイズ検出用コイル3の鉄心5はその一端が検出ヘッド2の検出面に同一平面となるように設けられているので、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップが一定値に保たれた状態では、励磁コイル2と検査対象物30の間のギャップも同時に一定値に保たれる。
【0030】
一方、励磁コイル2の鉄心3と検査対象物30の間には前記ギャップを介して磁気閉回路が構成される。励磁コイル2は交流電源12から交流電流を供給されて交流磁界を発生させ、これにより検査対象物30が磁化する。ノイズ検出用コイル3は、磁化された検査対象物30の表面磁束を検出する。ノイズ検出用コイル3の検出信号が入力される出力信号処理部15では、その検出信号から、所定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する。
【0031】
センサ出力補正手段24は、上記したようにギャップ検出センサ21の出力に基づき、ノイズ検出用コイル3の出力、より具体的にはその出力を出力信号処理部15で処理して得られるバルクハウゼンノイズを補正する。その補正では、ギャップ検出センサ21の出力と記憶手段23の記憶するデータとが用いられる。すなわち、先ず、ギャップ検出センサ21の出力は位置検出手段22で処理されて、このときのノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップが得られる。センサ出力補正手段24は、位置検出手段22の出力に基づき、記憶手段23から読み出されるこのときのギャップに対応する補正係数を用いて、前記出力信号処理部15を経て得られるバルクハウゼンノイズの値を補正する。これにより、補正されたバルクハウゼンノイズの値は、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップが一定の状態にあるときの値となる。つまり、ギャップがどのように変動しても、常にギャップが一定の状態でのバルクハウゼンノイズが得られる。さらに、センサ出力補正手段24の次段の性状検出手段41では、補正されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物30における研削焼けと残留応力を、検出焼け検出手段42および残留応力検出手段43により検出する。
【0032】
この構成のバルクハウゼンノイズ検査装置によると、ノイズ検出センサであるノイズ検出用コイル3の検出信号から得られるバルクハウゼンノイズを、センサ出力補正手段24が、ギャップ検出センサ21の出力に基づき補正するようにしているので、ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップがどのように変動しても、常にギャップが一定の状態でのバルクハウゼンノイズを検出することができ、検査条件が均一化され、抽出されるバルクハウゼンノイズに検査対象物30やノイズ検出用コイル3の変位による影響が生じるのを排除でき、検出精度を向上させることができる。また、ノイズ検出センサであるノイズ検出用コイル3を検査対象物30と非接触とするため、摩耗の問題が生じず、検査対象物30の生産過程でその全数検査を効率良く行うことができる。
【0033】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図1に示す実施形態において、鉄心5に巻いたノイズ検出用コイル3に代えて磁気センサ6を設け、この磁気センサ6をノイズ検出センサとギャップ検出センサとに共用することで、専用のギャップ検出センサを省略している。磁気センサ6としては、例えばホールセンサ、MRセンサ(磁気抵抗素子を用いたセンサ)、GMRセンサ、MIセンサ(磁気インピーダンス効果を用いたセンサ)などが使用される。この場合、磁気センサ6は、その検出面が検出ヘッド1の検出面と同一平面となるように検出ヘッド1内に配置される。
【0034】
出力信号処理部15におけるバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ17に入力する前の出力は、検査対象物30の表面の洩れ磁束とバルクハウゼンノイズを含んだ信号である。この場合、前記出力に占めるバルクハウゼンノイズの大きさは洩れ磁束と比較して非常に小さいため、その出力は磁気センサ6による洩れ磁束の検出値とみなすことができる。また、磁気センサ6の検出する洩れ磁束の大きさは、ノイズ検出センサとなる磁気センサ6と検査対象物30の間のギャップを反映した値となるので、ここではその出力をギャップ検出センサの検出信号とみなして位置検出手段22に入力している。この場合、専用のギャップ検出センサを省略できるので、装置を安価にかつコンパクトに構成できる。その他の構成および作用効果は図1の実施形態の場合と同様である。
【0035】
図3は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図1に示す実施形態において、検出ヘッド1を省略して励磁コイル2とノイズ検出用コイル3を別体として設けている。検査対象物30は、励磁コイル2の磁心となるコ字状の鉄心4の両端部4a,4aで挟まれる位置に配置する。これにより、検査対象物30の全体が励磁コイル2の発生する交流磁界によって磁化される。その他の構成および作用効果は図1の実施形態の場合と同様である。
【0036】
図4は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図1に示す実施形態において、ノイズ検出用コイル3と兼用の鉄心5と、この鉄心5に巻かれるギャップ検出用コイル7とで、ギャップ検出センサ21を構成している。ここでは、ギャップ検出用コイル7をノイズ検出用コイル3の外径側にこれと同軸に配置している。その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。
【0037】
この場合のギャップ検出センサ21は、具体的には磁気誘導型センサの1つである渦電流式センサであって、前記ギャップ検出用コイル7と図示しないコンデンサとで共振回路を形成し、ギャップ変化(コイル7のインダクタンス変化)による共振周波数の変化を利用し、共振回路に入力した搬送波の振幅が変動することを利用している。一般にバルクハウゼンノイズは高周波域(数10kHz)のノイズであるため、ギャップ検出用の搬送波を数kHz以下に設定し、位置検出手段22に形成した図示しないローパスフィルタによって、ギャップ変動を検出することが可能となる。
【0038】
この実施形態では、ノイズ検出用コイル3と兼用の鉄心5にギャップ検出用コイル7を巻くことでノイズ検出用コイル3と同軸のギャップ検出センサ21を構成しているので、検出ヘッド1を小型化することができる。ノイズ検出用コイル3と検査対象物30の間のギャップがどのように変動しても、常にギャップが一定の状態でのバルクハウゼンノイズを検出することができ、検出精度を向上させることができる効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0039】
なお、この実施形態では、ギャップ検出センサ21の出力を、ノイズ検出用コイル3の出力として得られるバルクハウゼンノイズの補正に利用する構成例の場合を示しているが、このほかギャップ検出センサ21の出力をフィードバック信号として、検出ヘッド1の位置を定置制御する構成例のものにおいて、前記ギャップ検出センサ21の構成を採用しても、同様に検出ヘッドの小型化が可能となる。
【0040】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図4に示す実施形態において、ギャップ検出センサ21を構成するギャップ検出用コイル7が、ノイズ検出用コイル3よりも検査対象物30から離れた位置でノイズ検出用コイル3と軸方向に並べて配置されて鉄心5に同軸に巻かれている。なお、この実施形態において、ノイズ検出用コイル3とギャップ検出用コイル3を直列に接続しても良い。その他の構成は、図4の実施形態の場合と同様である。
【0041】
図4の実施形態の場合のように、ギャップ検出用コイル7がノイズ検出用コイル3の外径側に配置され、しかも検査対象物30の近傍に配置される場合、検査対象物30からのバルクハウゼンノイズ信号がギャップ検出用コイル7の電磁シールド効果により減衰してしまう。この観点から、ギャップ検出用コイル7は、検査対象物30からなるべく離して配置することが好ましい。この実施形態では、ギャップ検出用コイル7が、ノイズ検出用コイル3よりも検査対象物30から軸方向に離れた位置でノイズ検出用コイル3と同軸に鉄心5に巻かれているので、バルクハウゼンノイズ信号を減衰させることなく、ギャップを検出することが可能となる。また、検出ヘッド1のさらなる小型化も可能となる。その他の効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0042】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、例えば図4に示す実施形態において、ノイズ検出用コイル3をギャップ検出用コイルに兼用して、専用のギャップ検出用コイルを省略している。この場合、専用のギャップ検出用コイルが省略されるので、検出ヘッド1のさらなる小型化が可能となる。その他の効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0043】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、例えば図5に示す実施形態において、検出ヘッド1を省略して鉄心3に巻かれたノイズ検出用コイル3およびギャップ検出用コイル7と、励磁コイル2とを別体として設けている。検査対象物30は、励磁コイル2の磁心となるコ字状の鉄心4の両端部4a,4aで挟まれる位置に配置する。これにより、検査対象物30の全体が励磁コイル2の発生する交流磁界によって磁化される。その他の構成および作用効果は図5の実施形態の場合と同様である。
【0044】
図8は、図1〜図7に示したバルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の内輪31の転走面31aの研削焼けを検出する。バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、ヘッド位置決め用アクチュエータ29のヘッド支持部32に支持され軸受内輪31の転走面31aに垂直姿勢で対向配置されており、ヘッド支持部32の移動により転走面31aの表面に沿って移動しながら異常箇所を検出する。軸受内輪31は回転軸33の外径面に嵌着されており、回転軸33を回転させることで、軸受内輪31の転走面31aの全周面に沿って前記検出ヘッド1を移動させて研削焼けを検査することができる。
軸受内輪31等の転動装置部品の製造ライン上で、このようにバルクハウゼンノイズ検査装置を使用すると、軸受内輪31の転走面31aの研削焼けを正確に全数検査することができ、品質保証能力を高めることができる。
【0045】
図8では、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を軸受内輪31の転走面31aにおける研削焼けの検査に用いた例を示したが、検出する表面情報は残留応力や欠陥であっても良い。また検査対象物は軸受部品である内輪31に限らず、例えば軸受そのものの表面情報を検出するものとしても良い。また、検査対象物は軸受に限らず他の転動装置や転動装置部品であっても良く、この場合にもその転動装置や転動装置部品の表面情報を高い精度で検出することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…検出ヘッド
2…励磁コイル
3…ノイズ検出用コイル(ノイズ検出センサ)
5…鉄心
6…磁気センサ(ノイズ検出センサ,ギャップ検出センサ)
7…ギャップ検出用コイル
12…交流電源
21…ギャップ検出センサ
23…記憶手段
24…センサ出力補正手段
30…検査対象物
31…軸受内輪
42…研削焼け検出手段
43…残留応力検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサと、このギャップ検出センサの出力に基づき前記ノイズ検出センサの出力を補正するセンサ出力補正手段とを設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ギャップ検出センサの出力と前記ノイズ検出センサの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、前記センサ出力補正手段は、前記ギャップ検出センサの出力と前記記憶手段の記憶するデータとから前記ノイズ検出センサの出力を補正するものとしたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ギャップ検出センサが電磁誘導を利用した磁気式センサであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記ギャップ検出センサがホール効果を利用した磁気式センサであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記ギャップ検出センサが光学式センサであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、前記ギャップ検出センサが静電容量式センサであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記ノイズ検出センサを鉄心とこの鉄心に巻かれるノイズ検出用コイルとで構成したバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記ノイズ検出センサと前記検査対象物の間のギャップを検出するギャップ検出センサを設け、このギャップ検出センサを前記ノイズ検出センサと兼用の鉄心とこの鉄心に巻かれるギャップ検出用コイルとで構成したことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項8】
請求項7において、前記ギャップ検出センサの出力に基づき前記ノイズ検出センサの出力を補正するセンサ出力補正手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項9】
請求項8において、前記ギャップ検出センサの出力と前記ノイズ検出センサの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、前記センサ出力補正手段は、前記ギャップ検出センサの出力と前記記憶手段の記憶するデータとから前記ノイズ検出センサの出力を補正するものとしたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、前記ギャップ検出用コイルを前記ノイズ検出用コイルの外径側に配置したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項11】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、前記ギャップ検出用コイルと前記ノイズ検出用コイルとを軸方向に並べて配置したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項12】
請求項7ないし請求項11のいずれか1項において、前記ギャップ検出用コイルと前記ノイズ検出用コイルを直列に接続したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項13】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、同一のコイルを前記ノイズ検出用コイルと前記ギャップ検出用コイルに兼用したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか1項において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の表面の残留応力の検出を行う残留応力検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項において、前記検査対象物が、転動体を有する装置である転動装置、またはこの転動装置の部品となる転動装置部品であるバルクハウゼンノイズ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196980(P2011−196980A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67450(P2010−67450)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】