説明

バルブクリアランス測定方法

【課題】 高精度なバルブクリアランスの測定
【解決手段】 測定器21、22の測定原点を設定する前に、カムプロフィール部18がピボット5側から先にロッカーアーム4に当接するようにカム6を回転させる慣らし運転を行なうことにより、ロッカーアームをピボットの規定位置に矯正する。また、バルブリテーナ16を押えてバルブ3を下方に押圧移動させることにより、バルブステム11の傾きを矯正する。これにより、バルブクリアランスの測定をより高精度に行なうことができる。また、シックネスゲージ24を装着した状態でカム変位測定器22の測定原点を設定し、シックネスゲージ24を外してカム6の降下量を測定するカム降下量測定工程により、カム変位測定器22の測定原点を設定するときのカム6の位置が一定になり、カムの変位量の測定誤差を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動弁機構のバルブクリアランスの測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸・排気バルブおよびそれらを駆動する動弁機構においては、各構成部品がエンジンの温度上昇に伴って膨張するため、クリアランスが全く無いとバルブとバルブシート(弁座)との間に隙間が生じてガス漏れを起こすことになる。これを防止するため、バルブとカム、もしくはカムとロッカーアームとの間に適切な隙間(バルブクリアランス)を設けている。また、このバルブクリアランスは、バルブの動作タイミングに影響を与えると共に、騒音の原因ともなり得る。それゆえ、バルブクリアランスは常に適切に調整する必要がある。従来、クリアランスの値はシックネスゲージを用いて人手により測定していた。また、バルブクリアランスの調整はシムを取り付けたり、アジャストスクリューにより行なっていた。
【0003】
特開平10−306711号公報には、バルブクリアランスの測定方法として、バルブを開閉させるカムシャフトを回転させてバルブを着座位置から変位させ、その変位量が所定の微小量となった時のカム角度である第一のカム角度を測定し、次いでカムシャフトを逆方向に回転させてバルブを一旦着座位置に戻した後に、そこから再度変位させ、その変位量が再度前記微小量となった時のカム角度である第二のカム角度を測定し、次に第二のカム角度と第一のカム角度とから微小変位状態から開放状態へ至り、微小変位状態へ戻るまでの間のバルブ動作角度を求め、カムシャフトについてのカム揚程曲線よりバルブ動作角度の始点および終点におけるカム揚程を求め、カム揚程とバルブの微小変位量との差を求めることにより、バルブクリアランスの値を得るものが記載されている。
【特許文献1】特開平10−306711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、一端がピボット5(揺動支点)により揺動自在に支持され、他端がバルブステム11の上端に載置されたロッカーアーム4を備えた動弁機構1(図1参照)について、バルブクリアランスcの測定方法及び調整方法を検討した。この動弁機構1は、カム6を回転させたときに、カムプロフィール部18が所定のタイミングでロッカーアーム4を押し下げ、バルブ3を開き、カムプロフィール部18が通過すると、バルブスプリング15の弾性反力により、バルブ3及びロッカーアーム4が上方に押し上げられ、バルブ3が閉じるようになっている。
【0005】
この動弁機構1では、例えば、バルブステム11の頭部にシム17を装着してカム6とロッカーアーム4の隙間(バルブクリアランスc)を調整することができる。このような形態では、バルブクリアランスcを高精度に調節するためには、動弁機構を組み付けたときのバルブクリアランスcを高精度に測定して、適切な厚さのシムを選択する必要がある。
【0006】
この動弁機構1のバルブクリアランスcを測定する方法として、バルブステム11の頭部に厚さが知られているダミーシム17を取り付けて動弁機構を仮組付けし、この状態でバルブ変位測定器21とカム変位測定器22の測定原点を取り、次に、バルブクリアランスcよりも厚さが大きいシックネスゲージ24をバルブクリアランスcに挟み(図3参照)、バルブ3の降下量とカム6の上昇量を測定し、このバルブ3の降下量とカム6の上昇量に基づいて、バルブクリアランスcを算出する方法がある。ここで、バルブ3の降下量だけでなく、カム6の上昇量を測定しているのは、バルブクリアランスcをより高精度に測定するために、カム6の軸クリアランスによりカム6が微妙に上昇するのを考慮したものである。
【0007】
しかし、本発明者らが、鋭意検討した結果、上述した方法においては、測定時にロッカーアーム4の揺動支点が微妙にずれていたり、バルブステム11が隙間嵌めであるため、規定の軸線から微妙に傾いていたりすることがバルブクリアランスcの測定に影響していることがわかった。また、カム6の変位についてもカム6の初期位置が保証されていないために、やはりバルブクリアランスcの測定誤差を生む原因になると考えられた。バルブクリアランスをより高精度に測定するには、これらの問題点を改善し得る測定方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るバルブクリアランスの測定方法は、一端がピボットにより支持され、他端がバルブステムの上端に当接したロッカーアームと、ロッカーアームの中間部にカムプロフィール部が当接し得るように配設されたカムとを備えた動弁機構のバルブクリアランスの測定方法において、バルブの移動量の測定原点を設定する前に、カムプロフィール部がピボット側から先にロッカーアームに当接するようにカムを回転させる慣らし運転工程と、慣らし運転工程の後にバルブリテーナを押えてバルブを下方に押圧移動させるリテーナ押え工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、シックネスゲージを装着した状態でカム変位測定器の測定原点を設定し、シックネスゲージを外してカムの降下量を測定するカム降下量測定工程とにより得られるバルブ降下量とカム降下量に基づいて、バルブクリアランスを測定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るバルブクリアランスの測定方法によれば、バルブの移動量の測定原点を設定する前に、カムプロフィール部がピボット側から先にロッカーアームに当接するようにカムを回転させる慣らし運転を行なうことにより、ロッカーアームをピボットの規定位置に矯正することができる。また、慣らし運転後に、バルブリテーナを押えてバルブを下方に押圧移動させることにより、バルブステムの傾きを矯正することができる。バルブクリアランスの測定にこれらの工程を含めることにより、より高精度にバルブクリアランスを測定することができる。
【0011】
また、シックネスゲージを装着した状態でカム変位測定器の測定原点を設定し、シックネスゲージを外してカムの降下量を測定するカム降下量測定工程により、カム変位測定器の測定原点を設定するときのカムの位置が一定になり、カムの変位量の測定誤差を無くすことができる。これにより得られるカム降下量に基づいて、バルブクリアランスを測定することにより、より高精度にバルブクリアランスを測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るバルブクリアランスの測定方法を図面に基づいて説明する。
【0013】
このバルブクリアランスの測定方法では、まず、図1に示すように、動弁機構1の仮組付けを行なう。図1中、2は動弁機構1を仮に設置するシリンダーヘッドを、3はバルブを、4はロッカーアームを、5はピボットを、6はカムをそれぞれ示している。
【0014】
シリンダーヘッド2は、バルブステム11を装着するバルブガイド12と、バルブ3のバルブ弁部13が着座する弁座14とを備えている。バルブ3は、バルブステム11をシリンダーヘッド2の所定のバルブガイド12に挿入し、バルブスプリング15を圧縮状態で装着し、バルブステム11の上部にバルブリテーナ16を取り付けてバルブスプリング15を固定する。この状態で、バルブ3は、常時は、バルブスプリング15の弾性反力により上方に附勢され、バルブ弁部13が弁座14に嵌まった状態になっている。次に、バルブステム11の頭部にダミーシム17を取り付ける。この実施形態では、ダミーシム17には厚さの異なるシムのうち、最も薄いものを用いている。次に、シリンダーヘッド2に予め取り付けられたピボット5と、バルブステム11の頭部にロッカーアーム4を取り付ける。次に、ロッカーアーム4の上部にカム6を設置する。このようにロッカーアーム4を備えたロッカーアーム型の動弁機構では、カム6とロッカーアーム4との間の隙間cがバルブクリアランスになる。
【0015】
なお、この実施形態では、ロッカーアーム4には、カムプロフィール部18が当接する部分にローラ19を備え、カム6との接触抵抗を緩和して、燃費を向上させるローラ付ロッカーアーム(ロッカーローラ)を用いている。
【0016】
次に、バルブの軸方向の変位を測定するバルブ変位測定器21と、カムの変位量を測定するカム変位測定器22を設置する。この実施形態では、バルブ変位測定器21には、リニアゲージを用い、バルブ3の下端の降下量を測定するようにセンサ部21aを当てている。また、カム変位測定器22にも、リニアゲージを用い、カム6の上部の降下量を測定するようにセンサ部22aを当てている。
【0017】
次に、バルブクリアランスcを測定する手順を順に説明する。この測定方法は、まず、図1中の矢印aで示すようにカム6を回転させ、カムプロフィール部18がピボット5側から先にロッカーアーム4に当接するように慣らし運転を行なう。この慣らし運転工程により、ロッカーアーム4は、ピボット5に当接した部分がバルブステム11側に押し出されつつ揺動し、この動作によりロッカーアーム4とピボット5との当接状態が矯正される。
【0018】
次に、図2に示すように、バルブリテーナ16を押し下げる押下治具23を用いて一旦バルブリテーナ16のみを押し込み、バルブ3を最下点まで押し下げる(リテーナ押え工程)。押下治具23による押し込みを解くと、リテーナ押えにより押し下げられたバルブ3はバルブスプリング15の弾性反力により、再び図1の状態に戻る。このリテーナ押えにより、バルブステム11のシリンダーヘッド2のバルブガイド12に対する傾きを矯正することができる。
【0019】
次に、図1に示すように、カムプロフィール部18がロッカーアーム4に当たっておらず、バルブクリアランスcが確保されている状態で、バルブ変位測定器21の測定原点を設定する。
【0020】
次に、押下治具23により、バルブリテーナ16を押えてバルブ3を少し押し下げ、それに連れてロッカーアーム4を少し下方に降下させてバルブクリアランスcを広げる。そして、図3に示すように、広がったバルブクリアランスcに所定のシックネスゲージ24を挟んで、バルブ変位測定器21により、バルブ3の降下量を測定する。
【0021】
ここで挟むシックネスゲージ24は、通常形成されるバルブクリアランスcに対して十分に厚いものを用いる。この実施形態では、理論上、この動弁機構1では、上述したダミーシム17を取り付けて組み付けたときにバルブクリアランスcは0.5mm程度にしかならないので、1mm程度の厚さのシックネスゲージ24を挟んでいる。
【0022】
次に、シックネスゲージ24が挟まれている状態で、カム変位測定器22の測定原点を設定する。このとき、シックネスゲージ24が挟まれているので、バルブスプリング15の弾性反力により、カム6はカムシャフト20の軸クリアランス分上方に押し上げられる。これにより、カム変位測定器22の測定原点は安定する。
【0023】
次に、押下治具23で、バルブリテーナ16を押し込み、バルブ3及びロッカーアーム4を押し下げ、バルブクリアランスcからシックネスゲージ24を抜く。シックネスゲージ24を抜くと、カム6は自重で微妙に降下するので、カム変位測定器22によりこのときのカム6の降下量を測定する。
【0024】
斯かる手順によれば、慣らし運転工程により測定時にロッカーアーム4の揺動支点の微妙なずれが矯正され、かつ、リテーナ押え工程によりバルブステム11の規定の軸線からの微妙な傾きが矯正された状態でバルブクリアランスcを測定することができる。また、シックネスゲージ24を設置してから、カム変位測定器22の測定原点を設定しているので、カム6の変位測定についてカム6の初期位置が保証されるので、より高精度にカム6の変位を考慮してバルブクリアランスcを測定することができる。
【0025】
このように、この実施形態では、バルブクリアランスcの測定方法にこれらの改変を採用したので、バルブ3の降下量と、カム6の降下量についてより高精度な測定値を得ることができる。そして、このようにして得られたバルブ3の降下量と、カム6の降下量に基づいてバルブクリアランスcを算出すれば、バルブクリアランスcをより高精度に測定することができ、適切なバルブクリアランスcを得るためのより適切なシムを選択することができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態に係るバルブクリアランスの測定方法を説明したが、本発明に係るバルブクリアランスの測定方法は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、バルブ変位測定器は、シックネスゲージをバルブクリアランスに挟む前に測定原点を取り、シックネスゲージをバルブクリアランスに挟んでからバルブの変位量(降下量)を測定しているが、バルブ変位測定器は、シックネスゲージをバルブクリアランスに挟んでからバルブの測定原点を取り、シックネスゲージを抜いたときのバルブの変位量(上昇量)を測定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るバルブクリアランスの測定方法における動弁機構の初期状態を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るバルブクリアランスの測定方法のリテーナ押え工程を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るバルブクリアランスの測定方法において、シックネスゲージを取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 動弁機構
2 シリンダーヘッド
3 バルブ
4 ロッカーアーム
5 ピボット
6 カム
11 バルブステム
12 バルブガイド
13 バルブ弁部
14 弁座
15 バルブスプリング
16 バルブリテーナ
17 ダミーシム
18 カムプロフィール部
19 ローラ
20 カムシャフト
21 バルブ変位測定器
22 カム変位測定器
23 押下治具
24 シックネスゲージ
c バルブクリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端がピボットにより支持され、他端がバルブステムの上端に当接したロッカーアームと、前記ロッカーアームの中間部にカムプロフィール部が当接し得るように配設されたカムとを備えた動弁機構のバルブクリアランスの測定方法において、
バルブの移動量の測定原点を設定する前に、前記カムプロフィール部がピボット側から先にロッカーアームに当接するようにカムを回転させる慣らし運転工程と、
前記慣らし運転工程の後にバルブリテーナを押えてバルブを下方に押圧移動させるリテーナ押え工程を備えたバルブクリアランスの測定方法。
【請求項2】
シックネスゲージを装着した状態でカム変位測定器の測定原点を設定し、前記シックネスゲージを外してカムの降下量を測定するカム降下量測定工程とを備えた請求項1に記載のバルブクリアランス測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−70842(P2006−70842A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257117(P2004−257117)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】