説明

バルブ及び継ぎ手

【課題】正確な分析のためのサンプリングが行え、ユースポイントに純度の高い水を供給することができる純水供給ラインにおけるバルブと継ぎ手を提供する。
【解決手段】純水をユースポイントに供給するための純水製造装置の供給ラインにおいて用いられる本体4が金属製のバルブであって、バルブの接液部が、金属溶出を低減する表面処理、例えば、フッ素樹脂3によるコーティング、が施されているバルブ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水の分析、モニタリング等のためにサンプリングを行ったり、ユースポイントへ導いたり、ユースポイントで使用する際に用いるバルブやその接続に用いる継ぎ手に関し、特に半導体デバイス、液晶ディスプレイ、シリコンウエハ、プリント基板等の電子部品製造工場、医薬品製造工場や各種産業で広く利用される、いわゆる超純水の分析・供給に好適なバルブ及びその継ぎ手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイス、液晶ディスプレイ、シリコンウエハ、プリント基板等の電子部品製造工程、医薬品の製造工程や各種産業の製造工程においては、工業用水、市水、井水等の原水からイオン状物質、微粒子、有機物、溶存ガス及び生菌等の不純物が除去された純水や超純水が使用されている。
【0003】
特に、半導体デバイスをはじめとする電子部品製造工程においては、多くの超純水が使用されており、半導体デバイスの集積度の向上に伴って、超純水の純度に対する要求は益々厳しくなってきている。例えば、半導体製造用超純水のスペックの一例は、抵抗率18.2M・Ωcm以上、0.05μm以上の微粒子数1個/mL以下、TOC 1ppb以下、金属成分 5ppt以下、生菌数1個/L以下と厳しく、さらに、要求水質は厳しくなる傾向にある。
【0004】
純水製造装置の新規あるいは定検後の再立ち上げ時には、純水を所望の水質に至るまで洗浄やブローを行い、所望の水質に達したのちに製造工程の使用点(ユースポイント)で純水を使用する。水質を確認するために、供給ラインから純水をサンプリングし、モニタリングや分析を行う。
【0005】
サンプリング用分岐ラインを設けた場合、その分岐ラインに流す水量は、供給ラインに比べて少なく、また、モニタリングやサンプリングを行わない時などは分岐ラインに水を流す必要は無いので、滞留部を少なくするために供給ラインの分岐点の直近にバルブを設け供給ラインからの分岐点から当該バルブまでの長さを短くすることが多い。
【0006】
この供給ラインがポリ塩化ビニル(PVC)の時は、例えば、マルチジョイント(旭有機材工業社製)やクリーンヘッダー(積水化学工業社製)などのねじ込み形状継ぎ手に、ニップルを介して直接バルブをねじ込み設置する。また、供給ラインがポリフッ化ビニリデン(PVDF)の時は、例えば、センサー継ぎ手(クボタジョージフィッシャー社製)にねじを切り、同様にニップルを介して直接バルブをねじ込み設置する。このとき使用されるバルブやニップルについて、従来用いられている材質や仕様は、SUS製のボールバルブやダイヤフラムバルブ、ニップル等であった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−105349号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、供給ライン中の水質を直接測定できるものは少なく、試料のサンプリングを伴う分析は、供給ラインを流れる水そのものの分析を行うことはできない。つまり、用いるバルブや継ぎ手が上記のようにSUS製等の金属で形成されたものであると、その金属から溶出する微量成分によりサンプリング用の試料が汚染されてしまい、このような試料について水質検査を行ったとしても、実際に使用される純水の正確な水質を分析するのが困難となってしまう。
【0008】
特に、現在使用される半導体製造用超純水は、上記した通り、金属成分についてはppt以下のオーダーで使用されるようになってきているため、バルブや継ぎ手からの金属溶出が、その超純水の使用の可否をも決定するような重大な判断の誤りを招きかねないこととなっている。
【0009】
そこで、本発明は、正確な分析のためのサンプリングを行うこと、ユースポイントにおいて純度の高い水をそのまま供給することを可能とすべく、純水供給ラインにおいて、試料を汚染することのないバルブ及び継ぎ手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るバルブは、純水をユースポイントに供給するための純水製造装置の供給ラインに直結して又は供給ラインから分岐された分岐ラインにおいて用いられる金属製のバルブであって、バルブの接液部が、金属溶出を低減する表面処理が施されていることを特徴とするものである。
また、本発明に係る継ぎ手は、純水をユースポイントに供給するための純水製造装置の供給ラインに直結して又は供給ラインから分岐された分岐ラインにおいて用いられるバルブの接続に要する金属製の継ぎ手であって、継ぎ手の接液部が、金属溶出を低減する表面処理が施されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のバルブは、その種類によらず用いることができ、ダイヤフラムバルブ、ボールバルブ、ストップバルブ等を使用できるものとして挙げることができる。
また、本発明の継ぎ手においても、その種類によらず用いることができ、ニップル、フェルール、ユニオン等を使用するものとして挙げることができる。
【0012】
そして、このバルブ及び継ぎ手は、純水製造装置の純水をユースポイントに供給する純水供給ライン又は分岐ラインにおいて用いられるものであり、この供給ライン又は分岐ラインにおいてサンプリング用の純水を採取する際には、純水を汚染することなく、ユースポイントで使用されている純水の水質を正確に分析することができ、また、ユースポイントに供給する際にも、純水を汚染することなく、純度の高い水をそのまま供給することができるようにするものである。
【0013】
より具体的には、金属製のバルブ及び継ぎ手の接液部を、樹脂コーティング、ライニング、メッキ処理、蒸着処理等により処理して、バルブの本体を構成する金属素材からの金属溶出を低減するように表面処理したものである。
【0014】
本発明のバルブ及び継ぎ手は、本体が金属製であるため強度に優れ、温度や圧力の変化にも安定で製品寿命が長いため、純水製造装置供給ラインにおいて、安定して使用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ユースポイントに供給される純水の分析のための試料やユースポイントへ供給する純水を、バルブや継ぎ手に起因した汚染を生じさせずに採取、供給することができ、これにより、ユースポイントにおける純水の水質をより正確に把握することができ、また、ユースポイントに供給する純水の水質を高度に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明のサンプリング用バルブの一実施形態として、ダイヤフラムバルブを例に示したものである。この図1に示したダイヤフラムバルブ1は、直線状の流路2を有し、フッ素樹脂3で接液部がコーティングされた本体4と、外縁が本体4とボンネット5とによって挟持されたダイヤフラム6と、スリーブ7と螺合したステム8をハンドル9を介して回すことで進退する、ダイヤフラム6を押圧するためのコンプレッサ10とを有する。ダイヤフラム6はコンプレッサ10に取り付けられており、コンプレッサ10と共に進退される。このダイヤフラムバルブ1は、コンプレッサ10を前進させるとダイヤフラム6が引き伸ばされつつ流路2が閉鎖され、コンプレッサ10を後退させるとダイヤフラム6が収縮しつつ引き上げられて流路2が開放され、全開時に流路2が直線状に開放されるもので、ダイヤフラム6の伸縮変形を伴って開閉されるものとなっている。
【0018】
ここで、このダイヤフラムバルブ1の本体4は、従来のバルブにおいて用いられている金属製の素材であり、例えば、SUS304、SUS316等が挙げられる。
【0019】
この金属製の本体4の接液部には、金属製の本体と流路を通過する純水とが接触することがないようにフッ素樹脂がコーティング又はライニングされている。これにより本体4の金属が純水中へ溶出することを低減するようになっている。ここで用いるフッ素樹脂としては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PCTFE(三フッ化塩化エチレン)、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等が挙げられる。
【0020】
フッ素樹脂は、非粘着性で扱いやすく、耐熱性、絶縁性、耐磨耗性等に優れ、また、水をはじく性質を有するため流路における純水の流れがスムーズであり、バルブの接液部をコーティングするのに好ましい材料である。
【0021】
この実施形態においては、金属溶出を低減する表面処理は、フッ素樹脂のコーティングによりなされているが、フッ素樹脂のライニングでもよい。また樹脂もこれに限定されず、他の樹脂、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PE(ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)等によりコーティング又はライニングされていてもよい。
【0022】
樹脂コーティングは、一般の塗料と同じく液状樹脂組成物を、スプレーコーティング等の塗装方法により接液部に樹脂塗膜を形成して、乾燥、焼成という、従来行われている方法に従い、所望の性能をもつ塗膜を得ることができる。
また、ライニングも、シートライニング、ルーズライニング、リチルライニング、等の従来行われている常法に従い、所望の性能をもつ被膜を得ることができる。
【0023】
また、本体4の表面を樹脂でコーティングやライニングするのではなく、メッキ処理や蒸着処理により被覆することにより、本体4と純水とを接触させないようにしてもよい。このとき用いられるメッキや蒸着は、純水中への金属溶出の可能性が極めて少ない金属、例えば、金、銀、プラチナ、チタン等により行う必要がある。このとき、メッキ処理は、電解メッキ、無電解メッキ等の常法に従って行えばよく、蒸着処理は、CVDやPVD等の常法に従って行えばよい。
【0024】
このような本発明のバルブ及び継ぎ手は、製造された純水すなわち、ユースポイントへ供給される純水の水質を分析するための試料採取や、ユースポイントへ純水を供給したり、ユースポイントで純水を使用するために用いられる。このとき、バルブ及び継ぎ手の両者が本発明の表面処理が施されているものであることが好ましいが、樹脂製のバルブを用いて、継ぎ手のみ本発明の表面処理を施した継ぎ手とする使用形態も可能である。
【0025】
サンプリングされた純水が、従来のように表面処理されていない金属製のバルブや継ぎ手を用いて採取されると、純水がバルブの流路を形成する金属と接触することで、その金属が微量であるが純水中に溶出しており、ユースポイントへ供給される純水の水質を正確に分析することができなかった。
【0026】
本発明では、バルブや継ぎ手の接液部に、樹脂コーティング、ライニング、メッキ処理等の金属溶出を低減化する処理が施されているため、サンプリングした純水とバルブの本体や継ぎ手を形成する金属とが接触することがなく、これまで純水中に溶出していた金属の溶出を抑制することが可能となったものである。
【0027】
本発明を適用する純水製造装置としては、公知のものであれば特に限定されるものではなく、前処理装置、イオン交換装置、逆浸透膜、紫外線照射装置、限外ろ過膜等各種装置を組み合わせて構成されたものである。
【0028】
本発明においては、純水製造装置により製造される純水が、金属の溶出とその水質への影響から、半導体デバイス、液晶ディスプレイ、シリコンウエハ、プリント基板等の電子部品製造工場で用いられる超純水である場合が好ましく、特に、純水中の金属濃度がppt以下のオーダーで求められる超純水である場合が好適である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明について、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0030】
(実施例1)
ニップル(SUS製、接液部にPFAコーティングを施したもの)を用いて供給ラインにバルブ(ボディ(SUS製)、ダイヤフラム(PTFE製)、製造元:フジキン、商品名:SUS製−ネジ込式ダイヤフラム弁の接液部にPFAコーティングを施したもの)を接続して、超純水製造装置により製造された超純水を通水し、超純水を流し始めてから約10時間後、バルブの入口と出口で、それぞれ約100Lずつサンプリングした。なお、バルブ入口水は、ここで用いた試験用の超純水であり、その水質は表1に示した通りである。また、本実施例の樹脂コーティングは、PFAにより行った。
【0031】
サンプリングした試料を濃縮し、ICP−MS(Agilent社製)分析装置にて分析し、超純水中の各種金属濃度を求めた。また、イオン濃度はイオンクロマトグラフ(製造元:日本ダイオネクス株式会社、商品名:DX−500)を用いて測定した。このとき、バルブの出口側の分析値から入口側の分析値を比較してバルブからの溶出量を算出した。微粒子(粒子径0.05μm以上)数はパーティクルカウンター(製造元:PMS(Particle Measuring Systems)、商品名:Ultra DI 50)により測定した。その結果を表1に示した。
【0032】
(比較例1)
接液部に樹脂コーティングを施していないニップルとバルブをそのまま使用した以外は、実施例1と同様にして超純水をサンプリングし、その水質を分析した。その結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
この結果から、バルブ本体や継ぎ手の接液部に樹脂コーティングを施し、純水を金属と接触させることのないようにした本発明が、金属の溶出を効果的に抑制し、ユースポイントに供給される純水の水質を正確に分析することができることがわかった。
【0035】
したがって、本発明のバルブや継ぎ手は、金属成分のみならず、微粒子数、生菌数、各種イオン等の測定項目についても悪影響を及ぼすものではなく、これらの分析を行う際の測定試料のサンプリングに好適であり、ユースポイントへの供給、ユースポイントでの使用にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態におけるバルブの断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ダイヤフラムバルブ、2…流路、3…フッ素樹脂、4…本体、5…ボンネット、6…ダイヤフラム、7…スリーブ、8…ステム、9…ハンドル、10…コンプレッサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水をユースポイントに供給するための純水製造装置の供給ラインに直結して又は供給ラインから分岐された分岐ラインにおいて用いられる金属製のバルブであって、
前記バルブの接液部が、金属溶出を低減する表面処理が施されていることを特徴とするバルブ。
【請求項2】
前記金属溶出を低減する表面処理は、樹脂コーティング、ライニング、メッキ処理又は蒸着処理であることを特徴とする請求項1記載のバルブ。
【請求項3】
前記樹脂コーティングに用いられる樹脂が、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項2記載のバルブ。
【請求項4】
前記バルブが、ダイヤフラムバルブ、ボールバルブ又はストップバルブであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のバルブ。
【請求項5】
純水をユースポイントに供給するための純水製造装置の供給ラインに直結して又は供給ラインから分岐された分岐ラインにおいて用いられるバルブの接続に要する金属製の継ぎ手であって、
前記継ぎ手の接液部が、金属溶出を低減する表面処理が施されていることを特徴とする継ぎ手。
【請求項6】
前記金属溶出を低減する表面処理は、樹脂コーティング、ライニング、メッキ処理又は蒸着処理であることを特徴とする請求項5記載の継ぎ手。
【請求項7】
前記樹脂コーティングに用いられる樹脂が、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項2記載の継ぎ手。
【請求項8】
前記継ぎ手が、ニップル、フェルール又はユニオンであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載の継ぎ手。

【図1】
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