説明

バルーンカテーテル

【課題】血管等の管腔内壁への損傷を低減すると共に留置固定力を向上することができるバルーンカテーテルを提供すること。
【解決手段】長さ方向に貫通する1つの主内腔と少なくとも1つの副内腔を有する可撓性チューブと、前記可撓性チューブの先端側に付設されたバルーンと、から少なくとも構成されるバルーンカテーテルであって、前記バルーンの外表面に、バルーンの長さ方向の軸線に対して直交する円周方向全周に渡ってジグザグ状リブが複数列設けられ、且つ、前記ジグザグ状リブが互いに離設していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
バルーンカテーテルは様々な医療用途に使用されており、例えば、血管内に留置固定して送血するバルーンカテーテル(以後、送血用バルーンカテーテルと述べる)がある。
送血用バルーンカテーテルは、例えば、弓部大動脈瘤手術において使用される。この場合、瘤のある大動脈部位を人工血管に置換するため、心臓を一時的に停止させて、送血用バルーンカテーテルを人工心肺ポンプと接続して、大動脈から分岐している血管(例えば、脳保護を目的として左総頚動脈)に血液を循環させるために使用される。送血用バルーンカテーテルは、血管内でバルーンを膨張させることにより、血管内の適切な位置に留置固定することが必要である。
【0003】
バルーンが血管から逸脱しないようにするため、すなわち、バルーンを血管内に確実に留置固定するために、バルーンの外表面に、長さ方向に直交しないリブ同士を交叉させて、網状としたリブを一体的に成形して設けたバルーンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記のバルーンでは、複数のリブ同士が網状に交叉しているため、バルーンの膨張時に円周方向からだけでなく、バルーンの長さ方向からもリブが引っ張られるため、バルーン膨張時のリブの高さが減少し、その結果、確実なバルーンの留置固定ができないという問題があった。
また、上記のバルーンでは、複数のリブ同士が網状に交叉しているため、すなわち、リブのない部分がリブにより囲まれているため、リブのない部分の血管内壁との接触がリブに邪魔されて不十分になり、総合的なバルーンと血管内壁との接触面積が減少するとともに、凹凸による物理的な滑り防止効果も減少するため、確実なバルーンの留置固定ができないという問題があった。さらに、上記のバルーンでは、複数のリブ同士が交叉しているため、バルーンを血管内に固定留置するために適切な大きさにバルーンを膨張させるためには、高い圧力が必要となり、血管に対してバルーンの内圧が高くなり、その結果、血管に対して過度の力がかかるという安全性における問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平08−038609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血管等の管腔内壁への損傷を低減すると共に留置固定力を向上することができるバルーンカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(5)に記載の本発明により達成される。
(1)長さ方向に貫通する1つの主内腔と少なくとも1つの副内腔を有する可撓性チューブと、
前記可撓性チューブの先端側に付設されたバルーンと、
から少なくとも構成されるバルーンカテーテルであって、
前記バルーンの外表面に、バルーンの長さ方向の軸線に対して直交する円周方向全周に渡ってジグザグ状リブが複数列設けられ、且つ、前記ジグザグ状リブが互いに離設していることを特徴とするバルーンカテーテル。
(2)前記複数列設けられたジグザグ状リブは、バルーンの収縮時におけるリブ同士の離設間隔は、バルーンの長さ方向においてほぼ同一である(1)に記載のバルーンカテーテル。
(3)前記ジグザグ状リブの断面形状が略台形である(1)又は(2)に記載のバルーンカテーテル。
(4)前記ジグザグ状リブの、バルーンの長さ方向の軸線に対する角度は、バルーンの収縮時において、30度以上、120度以下である(1)〜(3)のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
(5)前記バルーン及びジグザグ状リブの材質はシリコーンゴムを含むものである(1)〜(4)のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
(6)血管内に留置され、血液を含む液体を循環させるバルーン付循環カニューレとして用いられる(1)〜(5)のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば血管等の管腔内壁への損傷を低減すると共に留置固定力を向上することができるバルーンカテーテルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照にしつつ、本発明によるバルーンカテーテルについて詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
図1は、本発明によるバルーンカテーテルの一実施形態を示す概略図である。図2は、図1の可とう性チューブのA−A’断面図である。図3は、本発明によるバルーンカテーテルの別の実施形態を示す概略図である。図4は、図3の可とう性チューブのB−B’断面図である。図5は、バルーンの収縮時の状態を示すバルーンの拡大図である。図6は、図5のバルーンのC−C’断面図である。
【0010】
図1に示す本発明のバルーンカテーテル13は、長さ方向に貫通する1つの主内腔6と、1つの副内腔7を有する可とう性チューブ2と、可とう性チューブ2の先端側に付設されたバルーン1と、可とう性チューブ2の後端側に主内腔6と連通して付設された接続部3と、可とう性チューブ2の後端側に副内腔7と連通して付設された分岐管4と、分岐管4に付設されたバルーン膨張/収縮用コネクター5、から構成される。
【0011】
バルーン1内に、可とう性チューブ2の副内腔7と連通した開口部(不図示)が設けられており、また、上記開口部より先端側の可とう性チューブ2の副内腔7は封止されているため、バルーン膨張用コネクター5からシリンジ等により、可とう性チューブ2の副内腔7を通してバルーン1内に膨張用流体を送ることができる。また、接続部3は、人工心肺ポンプの送血用部材と接続することができ、可とう性チューブ2の先端において開口している主内腔6を通して送血することができる。
【0012】
また、図3に示す本発明の別の実施形態であるバルーンカテーテル13’は、長さ方向に貫通する1つの主内腔6’と2つの副内腔7’、10を有する可とう性チューブ2’と、可とう性チューブ2’の先端側に付設されたバルーン1と、可とう性チューブ2’の後端側に主内腔6’と連通して付設された接続部3’と、可とう性チューブ2’の後端側に1つ目の副内腔7’と連通して付設された1つ目の分岐管4’と、1つ目の分岐管4’に付設されたバルーン膨張/収縮用コネクター5’と、可とう性チューブ2’の後端側に2つ目の副内腔10と連通して付設された2つ目の分岐管8と、2つ目の分岐管8に付設された血圧測定用コネクター9、から構成される。
【0013】
この場合、バルーン1内に、可とう性チューブ2’の1つ目の副内腔7’と連通した開口部(不図示)が設けられており、また、上記開口部より先端側の可とう性チューブ2’の1つ目の副内腔7’は封止されているため、コネクター5’からシリンジ等により、可とう性チューブ2’の1つ目の副内腔7’を通してバルーン1内に膨張用流体を送ることができる。また、接続部3’は、人工心肺ポンプの送血用部材と接続することができ、可とう性チューブ2’の先端において開口している主内腔6’を通して送血することができる。さらに、血圧測定用コネクター9は、人工心肺ポンプの血圧を測定できる部材と接続することができ、可とう性チューブ2’の先端において開口している2つ目の副内腔10を介して、血管内の血圧を測定することができる。
【0014】
また、図示しないが、上記のバルーンカテーテル13’において、可とう性チューブ2’の後端側に2つ目の副内腔10と連通して付設された2つ目の分岐管8、および2つ目の分岐管8に付設された血圧測定用コネクター9を設けずに、可とう性チューブ2’の略全長に亘って、2つ目の副内腔10に金属線などの補強体を挿入し、副内腔10の先端側、および後端側を封止し、補強体を固定することで、バルーンカテーテルを補強できる。またこうすることにより、バルーンカテーテルの可とう性チューブを任意に曲げた状態に維持することができるため、バルーンカテーテルの操作性を向上させることができる。
【0015】
バルーン1の外表面には、長さ方向の軸線に対して直交する円周方向全周に渡ってジグザグ状リブ11が複数列設けられており、複数列のジグザグ状リブ11は互いに離設している。こうすることにより、バルーン1を血管内で膨張させたとき、ジグザグ状リブ11に対して長さ方向からの応力がかかりにくいため、バルーン1膨張時でも十分なリブ1の高さを維持でき、円周方向および長さ方向に対して、バルーン1の血管からの滑脱または位置ずれを防止でき、確実にバルーン1を血管内に留置固定することができる。また、複数列のジグザグ状リブ1が互いに離設しているため、バルーン1を膨張させるための圧力を小さくすることができ、すなわち、血管に対するバルーン1内圧を小さくすることができるため、血管に対して過度の力をかけることがなく、より安全にバルーン1を血管内に留置固定することができる。
【0016】
また、バルーン1のジグザグ状リブ11のバルーンカテーテル13、13’の先端側を頂点とした山部の角度α、およびバルーンカテーテル13、13’の後端側を頂点とした谷部の角度βは、図5に示すバルーン1の収縮時の状態で、例えば30度〜120度、好ましくは60度から90度とすることができる。
【0017】
ジグザグ状リブ1の断面形状は、図6に示すように略台形とすることができ、ジグザグ状リブ1の高さHは、バルーン1の収縮時の状態で、例えば0.2mm以上、0.5mm以下、好ましくは0.3mm以上、0.4mm以下とすることができる。また、凸状リブ1の幅W、W’は、バルーン1の収縮時の状態で、例えば0.15mm以上、0.6mm以下、好ましくは0.2mm以上、0.5mm以下とすることができる。
【0018】
ジグザグ状リブ11の列数は、例えば、2列から8列、好ましくは、4列から6列とすることができる。また、ジグザグ状リブ1同士の離設間隔は、バルーン1の収縮時の状態でほぼ同一であることが好ましい。言い換えれば、同一形状の複数列のジグザグ状リブを互いに略平行に付設することができる。こうすることにより、円周方向全周において、バルーン1のジグザグ状リブ11とリブがない部分12が血管内壁と確実に接触でき、かつ十分な凹凸による物理的な滑り防止効果も得ることができるため、より確実にバルーン1の血管からの滑脱または位置ずれを防止でき、バルーン1を血管内に確実に留置固定することができる。
具体的な数値で言えば、例えば、0.5mm以上、3mm以下、好ましくは1mm以上、2mm以下とすることができる。
【0019】
ジグザグ状リブ11及びバルーン1の材質は、例えば、シリコーンゴムとすることができる。シリコーンゴムのような弾性体を用いることで、バルーンを血管内に確実に留置固定するためにバルーンを十分な膨張径に膨張できるとともに、バルーン収縮時のバルーンの嵩張りを小さくすることができる。
【0020】
バルーン1の製造方法は、例えば、圧縮成形において、金型のコアピンの円周方向全周に渡り、かつ長さ方向の軸線に対して離設しているジグザグ形状の溝を複数列彫り、圧縮成形後、バルーン1を反転させて作製することができる。こうすることにより、ジグザグ形状の凸状リブ11を外表面に有するバルーンを一体的に成形することができる。さらに、金型が割り型の場合、発生しうるバルーン1成形時のバリをバルーン1の内側に位置させることができ、ジグザグ状リブ11が付設されたバルーン1外表面をバリのない状態とすることができ、血管壁へのバリによる損傷及び血管内へのバリの脱落を防止することができるため安全性を向上させることができる。
【0021】
バルーン1の肉厚は、バルーン1が収縮時の状態で、例えば0.2mm以上、0.6mm以下、好ましくは0.3mm以上、0.5mm以下とすることができる。こうすることにより、バルーンを膨張させるための十分な耐圧を得ることができる。また、バルーンの有効長、すなわちバルーン1が膨張できる長さは、例えば、5mm以上、30mm以下、好ましくは6mm以上、20mm以下とすることができる。こうすることにより、バルーン1を血管内に留置固定するために、バルーン1を十分な大きさに膨張させることができる。
【0022】
バルーンカテーテル13、13’の全長は、例えば、200mm以上、600mm以下、好ましくは300mm以上、500mm以下とすることができる。また、バルーンカテーテル13、13’の可とう性チューブ2、2’の外径、およびバルーン1の収縮時の状態の外径は、例えば、2mm以上、8mm以下とすることができる。こうすることにより、バルーンカテーテル13、13’を使用する際の操作性がよくなり、また、対象とする血管内にスムーズにバルーンカテーテル13、13’を挿入することができ、かつ十分な送血量を確保することができる。
【0023】
以下、本発明の実施例によるバルーンの効果を、バルーンの滑脱圧力及びバルーンの膨張時の内圧を測定した実施例を基に説明する。
【実施例】
【0024】
実施方法及び測定方法を以下に示す。
(実施例)
1.バルーンの滑脱圧力測定
本発明の実施例のバルーンカテーテルのバルーンを、ウシの死体から採取した内径約8mmの血管内に挿入した後、バルーン膨張径が約12mmとなるようにカテーテルのコネクターから滅菌水をシリンジで注入し、バルーンを膨張させて血管内に固定留置した。血管のバルーンを挿入した側と反対側に水圧用マノメーター(キーエンス社製、型番AP−V80)を閉鎖的に接続し、カテーテルの接続部に圧力計付きシリンジを接続し、カテーテルの主内腔を通して血管内に滅菌水を満たしていき、バルーンが血管から滑脱したときの圧力を3回測定した。
【0025】
2.バルーン膨張時の内圧測定
上記水圧用マノメーターでバルーン膨張径を約12mmとしたときのバルーンの内圧を3回測定した。
【0026】
(比較例1)
本発明による実施例と同じサイズのバルーンカテーテルにて、バルーン外表面にリブのないバルーンを用いた以外は実施例と同様にして、バルーンの滑脱圧力とバルーン膨張時の内圧を測定した。
【0027】
(比較例2)
特許文献1による網状リブを設けたバルーンを用いた以外は実施例と同様にしてバルーンの滑脱圧力とバルーン膨張時の内圧を測定した。
実施例、比較例1及び2の結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から明らかなように、本発明のバルーンカテーテルに用いているバルーンの滑脱圧力は、リブのないバルーン及び特許文献1によるバルーンに比較して、20%から35%程度高く、血管内における留置固定力が向上していることが判明した。
また、表2の結果から、本発明のバルーンカテーテルに用いているバルーンは、他のバルーンに比較して膨張時の内圧が相対的に低くなっていた。これにより血管への圧迫力が小さく、血管への損傷を他のバルーンに比較して少なくすることができることが示唆された。
【0030】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。これらの実施形態はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるバルーンカテーテルの一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の可とう性チューブのA−A’断面図である。
【図3】本発明によるバルーンカテーテルの別の実施形態を示す概略図である。
【図4】図2の可とう性チューブのB−B’断面図である。
【図5】バルーンの収縮時の状態を示すバルーンの拡大図である。
【図6】図5のバルーンのC−C’断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 バルーン
2、2’可とう性チューブ
3 3’接続部
4、4’分岐管
5、5’バルーン膨張/収縮用コネクター
6、6’主内腔
7、7’副内腔
8 2つ目の分岐管
9 血圧測定用コネクター
10 2つ目の副内腔
11 ジグザグ状リブ
12 リブがない部分
13、13’バルーンカテーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に貫通する1つの主内腔と少なくとも1つの副内腔を有する可撓性チューブと、
前記可撓性チューブの先端側に付設されたバルーンと、
から少なくとも構成されるバルーンカテーテルであって、
前記バルーンの外表面に、バルーンの長さ方向の軸線に対して直交する円周方向全周に渡ってジグザグ状リブが複数列設けられ、且つ、前記ジグザグ状リブが互いに離設していることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記複数列設けられたジグザグ状リブは、バルーンの収縮時におけるリブ同士の離設間隔は、バルーンの長さ方向においてほぼ同一である請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記ジグザグ状リブの断面形状が略台形である請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
前記ジグザグ状リブの、バルーンの長さ方向の軸線に対する角度は、バルーンの収縮時において、30度以上、120度以下である請求項1〜3のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記バルーン及びジグザグ状リブの材質はシリコーンゴムを含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
血管内に留置され、血液を含む液体を循環させるバルーン付循環カニューレとして用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のバルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−142327(P2009−142327A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319785(P2007−319785)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】