説明

バンコマイシンまたはその塩を含有する錠剤

【課題】バンコマイシンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とする錠剤を提供する。
【解決手段】(1)スプレー造粒されたバンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩、(2)ケイ酸またはその塩、(3)崩壊剤、および(4)滑沢剤を用いて錠剤に調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバンコマイシンまたはその塩(以下、これを「バンコマイシン類」ともいう)を含有する錠剤に関する。より詳細には、実用上必要とされる硬度を有し、崩壊性と溶出性に優れたバンコマイシン類を含有する錠剤(錠剤形態を有するバンコマイシン製剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在日本で承認されている経口のバンコマイシン製剤は散剤のみである。かかる散剤はバイアル入りの製剤であるため、注射用水等で溶解してから経口投与されている。この際、有効成分であるバンコマイシン塩酸塩は強いえぐみを有するため服用しにくいという問題があり、これがコンプライアンス低下の原因にもなっている。えぐみを緩和するために単シロップ等の嬌味剤を加えて経口投与する方法も推奨されているが、えぐみが強すぎるためあまり効果的な方法とは言えないのが現状である。
【0003】
また、従来のバンコマイシン製剤(散剤)は、バイアル内で注射用水等で用時溶解した後に分割投与をするため、コンタミネーションが起こる可能性があり、またバイアル瓶入り散剤という製剤形態は注射用バンコマイシン塩酸塩の製剤形態と類似するため、両者を取り違えるという新たな危険性も考えられる。
【0004】
そこで、従来の散剤形態のバンコマイシン製剤とほぼ同等の溶出性を維持しながらも、えぐみを緩和若しくは解消して服用し易く、かつ調剤の煩雑さがなく、それによるリスクのない形態を有する製剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「グリコペプチド系抗生物質製剤」処方せん医薬品 塩酸バンコマイシン散0.5g(塩野義製薬株式会社)インターネット<URL:http://www.shionogi.co.jp/med/kihon/img/pdf/VCMP.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、従来の散剤形態のバンコマイシン製剤の溶出性を大きく損なうことなく、患者のコンプライアンスの向上およびリスクマネージメントの観点から調剤の煩雑さがなく服用しやすい錠剤形態のバンコマイシン製剤を提供することを目的とする。具体的には、実用上必要とされる硬度を備えながらも、崩壊性と溶出性に優れ、従来の散剤製剤と同等またはほぼ同等の生物学的効果を発揮しえる錠剤形態のバンコマイシン製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、有効成分として使用するバンコマイシン類を、スプレー造粒物、すなわちバンコマイシン類を溶解した水溶液をスプレードライして造粒したバンコマイシン類のスプレー造粒物の形態にし、これに、賦形剤に加えて、ケイ酸またはその塩と崩壊剤を組み合わせて用いることによって、打錠障害なく、実用上必要とされる硬度を有し、しかも崩壊性および溶出性に優れた錠剤を調製することができることを見出した。さらに、かかる特性を有する錠剤は、(i)直接打錠法や湿式造粒法では調製することができず、上記スプレー造粒したバンコマイシン類を用いることで調製できること、また(ii)錠剤成分の中からケイ酸またはその塩を除いても、また崩壊剤を除いても調製することはできず、ケイ酸またはその塩と崩壊剤の両者を組み合わせることで調製できることを確認した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を備えるものである。
【0009】
(I)錠剤形態を有するバンコマイシン製剤
(I−1)下記(1)〜(5)成分を含有する錠剤:
(1)スプレー造粒されたバンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩、
(2)ケイ酸またはその塩、
(3)崩壊剤、および
(4)滑沢剤。
【0010】
(I−2)さらに賦形剤を含有する(I−1)に記載する錠剤。
(I−3)硬度が3kgf以上で、日本薬局方第15改正に規定の崩壊試験法に基づく崩壊時間が80秒以内である、(I−1)または(I−2)記載の錠剤。
(I−4)ケイ酸またはその塩が、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、含水無晶形酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、含水ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(I−1)乃至(I−3)のいずれかに記載する錠剤。
【0011】
(I−5)崩壊剤が、セルロース、セルロース誘導体、クロスポピドン、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、およびこれらの塩からなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(I−1)乃至(I−4)のいずれかに記載する錠剤。
【0012】
(I−6)セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルセルロース(カルメロース、クロスカルメロースを含む)およびそのナトリウム塩またはカルシウム塩、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロース、および結晶セルロース・カルメロースナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである(I−5)に記載する錠剤。
【0013】
(I−7)賦形剤が、水溶性の糖および糖アルコールからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(I−2)乃至(I−6)のいずれかに記載する錠剤。
(I−8)水溶性の糖がブドウ糖、白糖、果糖、ショ糖、乳糖、無水乳糖、還元麦芽糖水飴、およびトレハロースからなる群から選択される少なくとも1種であり、水溶性の糖アルコールがマンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、及びマルチトールからなる群から選択される少なくとも1種である、(I−7)に記載する錠剤。
(I−9)錠剤100質量%中に含まれるバンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩の割合が総量で10〜80質量%である、(I−1)乃至(I−8)のいずれかに記載する錠剤。
【0014】
(I−10)錠剤100質量%中に含まれるケイ酸またはその塩の割合が総量で1〜50質量%である、(I−1)乃至(I−9)のいずれかに記載する錠剤。
(I−11)錠剤100質量%中に含まれる崩壊剤の割合が1〜20質量%である、(I−1)乃至(I−10)のいずれかに記載する錠剤。
(I−12)錠剤100質量%中に含まれる賦形剤の割合が1〜53質量%である、(I−2)乃至(I−11)のいずれかに記載する錠剤。
【0015】
(II)バンコマイシン製剤(錠剤)の製造方法
(II−1)(a)バンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩をスプレー造粒する工程、
(b)上記で得られたスプレー造粒物を整粒する工程、
(c)上記で得られた整粒物に、ケイ酸またはその塩、および崩壊剤を配合して混合する工程、および
(d)上記混合物に滑沢剤を配合し、錠剤形状に圧縮成形(打錠)する工程、
を有する、(I−1)乃至(I−10)のいずれかに記載する錠剤の製造方法。
【0016】
(II−2)上記(c)の工程が、(b)工程で得られた整粒物に、ケイ酸またはその塩、崩壊剤および賦形剤を配合して混合する工程である、(II−1)に記載する製造方法。
(II−3)(d)の工程が、滑沢剤を含有する混合物を打錠圧0.3〜3ton/cmで打錠する工程である、(II−1)または(II−2)に記載する製造方法。
【0017】
(III)バンコマイシン製剤の崩壊特性を向上する方法
(III−1)バンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩を有効成分とする錠剤の崩壊特性を向上する方法であって、バンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩のスプレー造粒物、および滑沢剤に加えて、ケイ酸またはその塩および崩壊剤を配合することを特徴とする、上記方法。
【0018】
(III−2)打錠圧0.3〜3ton/cmで打錠して錠剤を調製する、(III−1)に記載する方法。
(III−3)日本薬局方第15改正に規定の崩壊試験法に基づく崩壊時間が80秒以内である、(III−1)または(III−2)に記載する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バンコマイシンまたはその塩を、PTP包装からの取り出しや、携帯・流通過程においても損傷しない程度の実用上必要とされる錠剤硬度を備えながらも、崩壊性や溶出性に優れた錠剤として提供することができる。特に本発明によれば、バンコマイシンまたはその塩を有効成分とする抗生物質製剤を、服用感と取り扱い性を改善することでコンプライアンスの向上が期待できる錠剤として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、日本薬局方に規定する溶出試験法に従って、パドル法を用いて「(1)溶出試験液(pH1.2、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。結果は各12検体の平均値として示す(以下、図2〜10において同じ)
【図2】本発明の125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH4.0、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図3】本発明の125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図4】本発明の125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(水、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図5】本発明の125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:100回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図6】本発明の250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、日本薬局方に規定する溶出試験法に従って、パドル法を用いて「(1)溶出試験液(pH1.2、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。結果は各12検体の平均値として示す(以下、図2〜10において同じ)
【図7】本発明の250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH4.0、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図8】本発明の250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図9】本発明の250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(水、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【図10】本発明の250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)を、上記と同様にパドル法を用いて「(2)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:100回転/分の条件」で溶出試験をおこなった結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(I)バンコマイシン製剤(錠剤)およびその製造
本発明の錠剤は、バンコマイシンまたはその薬学的に許容される塩(これらを総称して「バンコマイシン類」という)を有効成分とする錠剤であって、当該バンコマイシン類をスプレー造粒物の形態で含み、且つその他の添加成分として滑沢剤のほか、ケイ酸またはその塩と崩壊剤を含有することを特徴とする。
【0022】
(1)バンコマイシンまたはその塩
バンコマイシンは、真正細菌の細胞壁合成酵素のD−アラニル−D−アラニンに結合して細胞壁合成酵素を阻害し、菌の増殖を阻止する作用を有するグリコペプチド系の抗生物質である。大部分のグラム陽性菌に殺菌作用をもち、腸球菌に対しては静菌作用がある。またこれは内服してもほとんど吸収されることがないため、腸などの消化管内の静菌や殺菌に有効であり、感染性腸炎の治療や骨髄移植時の消化管内殺菌に用いられている。バンコマイシンの薬学的に許容される塩としては、塩を形成しうる金属としてアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムなど)、およびアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウムなど)が挙げられ、また塩を形成し得る酸として無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸など)、および有機酸(例えば、酢酸、フマル酸など)を挙げることができる。好ましくは塩酸バンコマイシン、硫酸バンコマイシン等のバンコマイシンの水性の無機酸塩であり、より好ましくは塩酸バンコマイシンである。
【0023】
塩酸バンコマイシンは、例えば米国特許第3067099号記載の方法により製造することができる。また市販の医薬品グレードの原薬を使用することもできる。
【0024】
当該バンコマイシン類のスプレー造粒物は、バンコマイシン類を水に溶解し、これを、スプレードライヤ等にかけて乾燥造粒することによって調製することができる。ここで水としては、医薬品の調製に使用できるものであれば特に制限されず、例えば、蒸留水、殺菌水、イオン交換水、注射用水および精製水のいずれをも使用することができる。
【0025】
かかるスプレードライヤとしては、バンコマイシン類を溶解した水溶液(バンコマイシン類含有水溶液)からバンコマイシン類を乾燥造粒(スプレー造粒)することができるものであればよく、特に制限されないが、流動造粒スプレードライヤを好適に使用することができる。なお、当該流動造粒スプレードライヤは、スプレードライヤ乾燥室底部に、攪拌機構を備えた流動層造粒機を内蔵し、さらに製品の仕上げ乾燥や冷却用に流動層乾燥・冷却装置を接合させることで、連続的に液体原料(本発明ではバンコマイシン類含有水溶液)から直接造粒(顆粒)製品を得ることができる装置である。
【0026】
ここでスプレー・乾燥造粒に供するバンコマイシン類含有水溶液の濃度としては、制限されないが、通常1〜60質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは13〜50質量%である。
【0027】
斯くして得られた造粒物は、次いで破砕・整粒工程または整粒工程に供し、粒度分布を整えることが好ましい。かかる破砕・整粒工程または整粒工程は、錠剤の機能(崩壊性および溶出性、並びにそれらに基づく生物学的機能)の均一性を担保するうえで重要な工程である。破砕・整粒工程は上記造粒工程で得られた造粒物を破砕し、粒度を整える工程であり、また整粒工程は上記造粒工程で得られた造粒物の粒度を整える工程である。いずれも所望のサイズのスクリーンを通過させて、所望の粒度を有する造粒物を回収する処置である点で共通する。使用する装置としては、最終的に所望のサイズのスクリーンを通過させる処置を有する装置であればよく、特に限定はされないが、例えば、パワーミル、スピードミル、コーミル、フルイ篩過、ネビュラサイザー(摩砕型整粒機)、エクシーブ(分級機能付解砕整粒機)、フイッツミル(破砕整粒機)、マルメライザー(球形整粒機)などが挙げられる。
【0028】
斯くして、本発明で用いられるバンコマイシン類の造粒物は、平均粒子径が50〜400μm程度になるように調整されることが好ましい。好ましくは平均粒子径70〜340μm程度、より好ましくは平均粒子径77〜310μm程度である。なお、かかる平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を使用することで測定することができる。
【0029】
本発明においてバンコマイシン類の造粒物(スプレー造粒物)は、実質的にバンコマイシン類のみからなる。但し、本発明の効果を損なわない限り、他の成分をスプレー造粒物100質量%あたり50質量%を限度に配合することもできる。かかる成分の一例として例えばケイ酸またはケイ酸塩を例示することができる。
【0030】
斯くして調製されるバンコマイシン類の造粒物(スプレー造粒物)の最終錠剤100質量%中に占める割合として、通常10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%である。
【0031】
(2)ケイ酸またはその塩
上記バンコマイシン類の造粒物と組み合わせて使用されるケイ酸またはケイ酸塩としては、医薬品の原料として使用できるケイ酸またはケイ酸塩であれば特に制限されない。具体的には軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、含水無晶形酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを挙げることがでる。好ましくは軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。これらのケイ酸またはケイ酸塩は単独でもよいが、二種以上併用することもできる。
【0032】
これらのケイ酸またはケイ酸塩は、いずれも多孔性であることを特徴とする。なお、多孔性とは、固体が内部または表面に多数の小さな空隙をもつ状態を意味する。ここで空隙は、通常外部に通じる孔状のものを意味するが、気泡状の空隙のもの(つまり、外部に通じない空隙)も多孔性に含まれる(「化学大辞典」の「多孔性」の欄参照、共立出版、昭和50年12月1日発行)。多孔性は、例えばJIS K5101に規定される顔料試験法を用いて評価することができる。制限されないが、かかる方法を用いて測定される吸油量が0.4ml/g以上であるケイ酸またはケイ酸塩が好適に使用される。
【0033】
なお、使用するケイ酸またはケイ酸塩の形態は粉末状または顆粒状である。制限はされないが、最終錠剤の均一性を担保するためには、1〜300μm程度、好ましくは1〜200μm程度の平均粒子径を有する粉末状または顆粒状のケイ酸またはその塩を用いることが好ましい。なお、かかる平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を使用することで測定することができる(以下、同じ)。
【0034】
バンコマイシン類のスプレー造粒物に配合するケイ酸またはケイ酸塩の割合は、最終錠剤100質量%中の含有量(総量)として、通常1〜50質量%を挙げることができる。好ましくは1〜40質量%、より好ましくは4〜30質量%である。また、錠剤に含まれているバンコマイシン類100質量部に対するケイ酸またはケイ酸塩の割合としては、総量で2〜110質量部、好ましくは2〜90質量部、より好ましくは9〜70質量部を挙げることができる。
【0035】
(3)崩壊剤
崩壊剤としては、固形製剤分野で慣用されている崩壊剤を広く用いることができる。好ましくはセルロース、セルロース誘導体、クロスポピドン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチ、またはこれらの塩を挙げることができる。ここで塩には、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウムやカルシウム等のアルカリ金属土類塩が含まれる。
【0036】
またセルロース誘導体またはその塩としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルセルロース(カルメロース、クロスカルメロースを含む)およびそのナトリウム塩またはカルシウム塩、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロース、および結晶セルロース・カルメロースナトリウムを挙げることができる。好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース(カルメロース、クロスカルメロースを含む)またはそのナトリウム塩またはカルシウム塩、および結晶セルロースである。
【0037】
これらの崩壊剤は単独で使用することもできるが、二種以上併用することもできる。
【0038】
ここでクロスポビドンは、1−エテニルピロリジン−2−オンの架橋ホモポリマーであり、医薬品添加剤(崩壊剤など)として広く使用されている成分である。本発明においても医薬品添加物規格で規定されるクロスポビドンを広く使用することができる。かかるクロスポビドンは、商業的に入手することができ、例えばコリドンCL(BASF社製)、ポリプラスドンXL、ポリプラスドンXL−10、およびポリプラスドンINF−10(以上、ISP社製)などを挙げることができる。
【0039】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとして、例えばヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシル基含量(以下、HPC基含量と略記することもある)が、約7〜13重量%である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを挙げることができる。中でも、崩壊性改善作用から、HPC基含量が約7〜9.9重量%である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。これらの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、商業的に入手することができ、例えば信越化学工業(株)から、LH一11、LH−21、B1およびLH−31(以上、HPC基含量:10一12.9%)、並びにLH−22およびLH−32(以上、HPC基含量:7.0−9.9%)として販売されている。
【0040】
カルメロースは、セルロースの多価カルボキシメチルエーテルであり、別名カルボキシメチルセルロース、CMC、または繊維素グリコール酸とも称され、医薬品添加剤(崩壊剤など)として広く使用されている成分である。本発明においても日本薬局方で規定されるカルメロースを広く使用することができる。かかるカルメロース及びそのカルシウム塩はいずれも商業的に入手することができ、例えばカルメロースとしてはNS−300(五徳薬品(株))、そのカルシウム塩としてはE.C.G−505(五徳薬品(株))などを挙げることができる。
【0041】
また、クロスカルメロースは、セルロースの多価カルボキシメチルエーテル架橋物であり、別名内部架橋カルボキシメチルセルロースとも称される。クロスカルメロースのナトリウム塩として、本発明においても日本薬局方で規定されるクロスカルメロースナトリウムを広く使用することができる。かかるクロスカルメロースナトリウムは、商業的に入手することができ、例えばアクジゾル(大日本住友製薬(株))などを挙げることができる。
【0042】
なお、使用する崩壊剤の形態は粉末状または顆粒状である。制限はされないが、最終錠剤の均一性を担保するためには、1〜300μm程度、好ましくは1〜200μm程度の平均粒子径を有する粉末状または顆粒状の崩壊剤を用いることが好ましい。
【0043】
バンコマイシン類のスプレー造粒物に配合する崩壊剤の割合は、最終錠剤100質量%中の含有量(総量)として、通常1〜20質量%を挙げることができる。好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%である。また、錠剤に含まれているバンコマイシン類(スプレー造粒物)100質量部に対する崩壊剤の割合としては、総量で2〜45質量部、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部を挙げることができる。
【0044】
(4)滑沢剤
また滑沢剤としては、従来から錠剤の製造において、粉体の流動性をよくし圧縮形成を容易にするために用いられる医薬品添加剤を同様に使用することができる。かかる滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、フマル酸ステアリルナトリウムを挙げることができる。好ましくはステアリン酸マグネシウム、およびフマル酸ステアリルナトリウムである。
【0045】
かかる滑沢剤の錠剤100質量%中の割合として、通常0.1〜5質量%を挙げることができる。好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。また、錠剤に含まれているバンコマイシン類(スプレー造粒物)100質量部に対する賦形剤の割合としては、0.2〜11質量部、好ましくは0.2〜7質量部、より好ましくは0.2〜4.5質量部を挙げることができる。
【0046】
(5)その他の成分
本発明の錠剤は、本発明の効果を損なわない限り、上記の医薬品添加物以外の添加物であって、錠剤の製造に一般的に使用される添加物を配合することもできる。かかる添加物としては、例えば、賦形剤(増量剤)、矯味剤(甘味料を含む)、酸味料、香料、着色剤、および溶解補助剤を例示することができる。
【0047】
ここで賦形剤としては、固形製剤分野で慣用されている賦形剤を広く用いることができる。制限されないが、好ましくは水溶性の糖または糖アルコールである。水溶性の糖としてはブドウ糖、白糖、果糖、ショ糖、乳糖、無水乳糖、還元麦芽糖水飴、およびトレハロースなどを、また水溶性の糖アルコールとしてはマンニトール(D−マンニトール)、エリスリトール、ソルビトール(D−ソルビトール)、キシリトール、及びマルチトールなどを挙げることができる。好ましくはマンニトール等の糖アルコールである。これらの賦形剤は単独で使用してもよいが、二種以上併用することもできる。
【0048】
なお、使用する賦形剤の形態は粉末状または顆粒状である。制限はされないが、最終錠剤の均一性を担保するためには、1〜300μm程度、好ましくは1〜200μm程度の平均粒子径を有する粉末状または顆粒状の賦形剤を用いることが好ましい。
【0049】
バンコマイシン類のスプレー造粒物に配合する賦形剤の割合は、最終錠剤100質量%中の含有量(総量)として、通常1〜53質量%を挙げることができる。好ましくは5〜53質量%、より好ましくは10〜46質量%である。また、錠剤に含まれているバンコマイシン類(スプレー造粒物)100質量部に対する賦形剤の割合としては、総量で2〜118質量部、好ましくは11〜118質量部、より好ましくは22〜103質量部を挙げることができる。
【0050】
ここで矯味剤(甘味料を含む)としては、砂糖、澱粉糖、乳糖、蜂蜜、糖アルコール、および高甘味度甘味料等を用いることができる。砂糖としては、例えば白糖、カップリング糖、フラクトオリゴ糖、パラチノース等;澱粉糖としては、例えばブドウ糖、麦芽糖、粉飴、水飴、異性化糖(果糖)等;乳糖としては、例えば乳糖、異性化乳糖(ラクチュロース)、還元乳糖(ラクチトール)等;糖アルコールとしては、例えばソルビトール、エリスリトール、マンニトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、還元澱粉糖化物、キシリトール、還元パラチノース等;をそれぞれ用いることができる。また高甘味度甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルデーム、スクラロース、ステビア、グリチルリチン三カリウム、カンゾウ、アセスルファム等を挙げることができる。
【0051】
酸味料としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸等;香料としてはメントール、ハッカ油、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油等;着色剤としては、例えば食用黄色5号、食用赤2号、食用青色2号などの食用色素、食用レーキ色素、ベンガラ等の酸化鉄を、それぞれ用いることができる。
【0052】
本発明の錠剤は、前述する各種の成分を製剤分野における慣用の方法を用いて混合し、錠剤形態に成形することによって製造することができる。具体的には、まず前述の方法で造粒し整粒したバンコマイシン類のスプレー造粒物に、上記の各種成分[(2)及び(3)、必要に応じてさらに(5)、特に賦形剤]を配合して混合する。
【0053】
ここで混合は、例えば、V型混合機(徳寿工作所製等)、ツインブレード型混合機、撹拌混合機((株)ダルトン製など)等の機械を用いて行うことができる。
【0054】
かかる混合工程によって得られた混合物に、次いで上記(4)に記載する滑沢剤を配合し、混合して、圧縮成形して錠剤形態に調製する。圧縮成形は、油圧式ハンドプレス機、単発錠剤機、またはロータリー式打錠機等の当該分野において通常使用される打錠機を用い、通常0.3〜3ton/cm、好ましくは0.3〜2ton/cmの圧力で打錠することにより行われる。
【0055】
本発明の錠剤は、錠剤形態であれば、その具体的な形状は特に問わず、例えば円盤状、楕円盤状、多角形板状、球状、フットボール形、キャプレット状、ドーナツ状等を挙げることができる。好ましくは円盤状である。大きさは、1錠あたり有効成分であるバンコマイシン類を100〜1000mg、好ましくは100〜750mg、より好ましくは100〜400mg含む大きさであれば制限されない。かかる大きさの一例として、長径12.7mm:短径5.8mm:厚み4〜6mm、好ましくは厚み4.5〜5.5mm、より好ましくは4.7〜5.3mmを例示することができる。
【0056】
また本発明の錠剤は、例えばPTP包装からの取り出しや携帯によっても破損しないような硬度を備えていることが好ましい。かかる硬度は、3kgf以上を挙げることができる。耐破損性と投与後の体内での崩壊性との兼ね合いから、錠剤硬度として好ましくは3〜20kgf、より好ましくは5〜15kgfを挙げることができる。なお、かかる錠剤硬度は、測定する錠剤を打錠後、室温、相対湿度60%以下の条件で保存し、8時間以内に錠剤破壊強度測定器(例えば、TH−203MP、富山産業(株)製)を用いて、直径方向の強度を測定することで求めることができる。
【0057】
斯くして調製される本発明の錠剤は、上記するように実用上必要とされる硬度を備え、経口投与後の体内(腸内)での崩壊性、ひいては溶出性に優れていることを特徴とする。
【0058】
かかる崩壊性は、日本薬局方第15改正に規定される崩壊試験法に基づいて判断することができ、試験液として水(温度37±2℃)を用いて補助板を使用しないで測定した場合に、崩壊に要する時間が、通常90秒以内であることが好ましい。より好ましくは80秒以内、さらに好ましくは75秒以内である。
【0059】
溶出挙動も日本薬局方第15改正に規定される崩壊試験法に基づいて判断することができる。好ましくは日本薬局方に規定される溶出試験法において、試験開始30分後のバンコマイシン類の溶出率が80%以上、より好ましくは90%以上であり、さらに試験開始5分後のバンコマイシン類の溶出率が80%以上であることが好ましい。
【0060】
本発明の錠剤は、グラム陽性菌に対して抗菌作用を有するバンコマイシン類を有効成分とするものであるため、その効能・効果に基づいて、感染性腸炎(適用菌種:バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、クロストリジウム・ディフィシル、適応症:感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む))、骨髄移植時の消化管内殺菌のための薬剤(抗生物質)として使用される。
【0061】
本発明の錠剤の投与量は、治療対象とする疾患や患者の症状の程度によって相違するが、例えば、感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)の場合、通常、成人1回投与あたりのバンコマイシン類の量として0.125〜0.5g(力価)を1日4回の割合で経口投与する。また骨髄移植時の消化管内殺菌のためには、通常、成人1回投与あたりのバンコマイシン類の量として0.5g(力価)を、非吸収性の抗菌剤または抗真菌剤と併用して1日4〜6回の割合で経口投与する。
【0062】
(II)バンコマイシン類を有効成分とする錠剤の崩壊特性の向上方法
また本発明は、バンコマイシンまたはその塩(バンコマイシン類)を有効成分とする錠剤を対象として、その崩壊特性を向上する方法を提供する。当該方法は、錠剤の製造にあたり、有効成分であるバンコマイシン類の形態としてスプレー造粒し整粒したもの(スプレー造粒物)を使用し、これに少なくともケイ酸またはその塩、崩壊剤、および滑沢剤を配合し、製剤化することによって実施することができる。
【0063】
ここで使用する、バンコマイシン類、ケイ酸またはその塩、崩壊剤および滑沢剤の種類およびその配合割合、その他の任意成分の種類やその配合割合、並びにバンコマイシン類のスプレー造粒物および最終錠剤の製造方法は、(I)で説明した通りである。
【0064】
本発明の方法、すなわちバンコマイシン類のスプレー造粒物にケイ酸またはその塩および崩壊剤を配合混合して錠剤を製造することを特徴とする本発明の方法によれば、バンコマイシン類を有効成分とする錠剤について、その崩壊性を向上することができる。具体的には、日本薬局方第15改正に規定される崩壊試験法に基づいて、試験液として水(温度37±2℃)を用いて補助板を使用しないで測定した場合に、崩壊に要する時間を90秒以内に短縮することができる。より好ましくは80秒以内、さらに好ましくは75秒以内である。
【0065】
また、本発明の方法によれば、最終錠剤の崩壊特性が向上するのみならず、製造工程においてバンコマイシン類として予めスプレー造粒し整粒した造粒物(スプレー造粒物)を用いるため、各成分を乾式混合した場合や湿式造粒法と比べて、打錠障害なく錠剤が製造できるほか、製造された錠剤が実用上必要とされる硬度(具体的には、錠剤硬度として好ましくは3〜20kgf、より好ましくは5〜15kgf)を有しているため、PTP包装からの取り出しや携帯による破損を受けにくいという耐破損性を備えることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実験例に何ら制限されるものではない。なお、下記の実験例において、特に言及しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味するものとする。
【0067】
実験例1
(1)被験試料の調製(図1参照)
表1に記載する処方に従って1錠280mg、長径12.7mm、短径5.8mm、厚み5.2mmの錠剤(被験試料1〜5)を調製した。
【0068】
具体的には、まずバンコマイシン塩酸塩1200.0g(力価)を精製水3.6Lに溶解し、これを流動層造粒機(FLO−5M:フロイント産業株式会社製)を用いて吸気温度85℃で造粒し、排気温度が50℃になるまで乾燥し、スプレー造粒品を得た(工程a)。次いで得られた造粒物を整粒機(P一04S:ダルトン株式会社製)を用いて20メッシュのスクリーンで破砕整粒した(工程b)。得られた整粒物600gに、賦形剤としてDマンニトール、ケイ酸カルシウム、必要に応じて各種崩壊剤(クロスポピドン、プリモジェル、クロスカルメロースNa)を、最終錠剤280mg中に表1に記載する割合になるように配合し、ツインブレード型混合機(TBM−6:徳寿製作所株式会社製)を用いて混合した(工程c)。調製した顆粒に、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム)を加えて混合し、次いでロータリー式打錠機(VIRG 0512SS2AZ、菊水製作所)にて0.5〜1ton/cmの圧力で打錠して圧縮成形することにより、1錠当たり125mgのバンコマイシン塩酸塩を有効成分とする280mgの錠剤を得た。
【0069】
(2)被験試料の評価
(1)で調製した各錠剤(被験試料1〜5)について、下記試験法に従って錠剤硬度および崩壊時間を測定した。
【0070】
(2−1)硬度試験
錠剤破壊強度測定器(TH一203MP、富山産業(株)製)を用いて、各錠剤の短径方向の硬度を測定した。なお、試験は測定する対象の錠剤を打錠後、室温、相対湿度60%以下の条件で保存し、8時間以内に行った。また試験は5回行い、その平均値を求めた。
【0071】
(2−2)崩壊時間
各錠剤を、日本薬局方第15改正に規定する「崩壊試験法」(試験液:水、補助板なし)に基づいて試験を行い、錠剤が崩壊し分散するまでの時間を測定した。なお、試料の残留物がガラス管内に認めないか、または認めても海綿状の物質であるか、若しくは軟質の物質若しくは泥状の物質が僅かになった時点で、崩壊分散終了とした。試験は5回行い、その平均値を求めた。
【0072】
結果を表1に併せて示す。なお、表1には錠剤1錠(280mg)あたりの各成分の含有量(mg)を記載する。
【0073】
【表1】

【0074】
この結果からわかるように、多孔性物質(ケイ酸塩)と崩壊剤の二成分に注目したとき、多孔性物質単独使用(被験試料1)および崩壊剤単独使用(被験試料2)では崩壊に5分以上かかり、また崩壊剤を2種類併用しても(被験試料4および5)、崩壊時間の短縮は見られるものの、それでも崩壊に3分以上かかる。これに対して、多孔性物質と崩壊剤を併用することで(被験試料3:実施例1)、錠剤硬度にほとんど影響を与えることなく、崩壊時間を1分以内に短縮できることが確認された。
【0075】
この結果からわかるように、有効成分としてバンコマイシンまたはその塩を含む錠剤において、多孔性物質(ケイ酸塩)と崩壊剤を組み合わせて用いることで、錠剤硬度(3kgf以上)を損なうことなく崩壊時間を短くすることができ(60秒以内)、硬度と崩壊性に優れた錠剤を調製することができる。
【0076】
実験例2
(1)被験試料の調製
実験例1(1)に記載する方法と同様の方法で、表2に記載する処方に従って、1錠(280mg)あたり、有効成分としてバンコマイシン塩酸塩125mg(44.6質量%)、賦形剤としてD−マンニトール約127mg(45.4質量%)、多孔性物質(ケイ酸塩)12.5mg(4.5質量%)、各種崩壊剤14mg(5質量%)、滑沢剤1.4mg(0.5質量%)を含む、長径12.7mm、短径5.8mm、厚み5.2mmの錠剤(被験試料6〜9:実施例2〜5)を調製した。
【0077】
(2)被験試料の評価
(1)で調製した各錠剤(被験試料6〜9:実施例2〜5)について、実験例1(2)に記載する試験法に従って錠剤硬度および崩壊時間を測定した。
【0078】
結果を表2に併せて示す。なお、表2には、表1と同様に錠剤1錠あたりの各成分の含有量(mg)を記載する。
【0079】
【表2】

【0080】
この結果からわかるように、崩壊剤の種類を変えても、錠剤硬度および崩壊時間に大きな変動はなく、有効成分としてバンコマイシンの塩を含む錠剤において、多孔性物質(ケイ酸塩)と崩壊剤を組み合わせて用いることで、錠剤硬度(3kgf以上)を損なうことなく、崩壊時間を短くすることができ(71秒以内)、硬度と崩壊性に優れた錠剤を調製することができることが判明した。
【0081】
実験例3
(1)被験試料の調製
実験例1(1)に記載する方法と同様の方法で、表3に記載する処方に従って、1錠(280mg)あたり、有効成分としてバンコマイシン塩酸塩125mg(44.6質量%)、賦形剤としてD−マンニトール約77.1〜133.3mg(27.5〜47.6質量%)、多孔性物質(ケイ酸またはケイ酸塩)6.3〜62.5mg(2.25〜22.3質量%)、崩壊剤(クロスポピドン)14mg(5質量%)、滑沢剤1.4mg(0.5質量%)を含む、長径12.7mm、短径5.8mm、厚み5.2mmの錠剤(被験試料10〜14:実施例6〜10)を調製した。
【0082】
(2)被験試料の評価
(1)で調製した各錠剤(被験試料10〜14:実施例6〜10)について、実験例1(2)に記載する試験法に従って錠剤硬度および崩壊時間を測定した。
【0083】
結果を表3に併せて示す。なお、表3には、表1と同様に錠剤1錠あたりの各成分の含有量(mg)を記載する。
【0084】
【表3】

【0085】
この結果からわかるように、崩壊剤を一定にして、多孔性物質の種類(ケイ酸とケイ酸塩)と量を変えても、錠剤硬度に大きな変動はなく、多孔性物質の量が増えるにつれて崩壊時間が短縮する傾向が認められた。また、多孔性物質としてケイ酸カルシウムのみならず、軽質無水ケイ酸にも同様の効果が認められたことから、硬度に影響することなく崩壊剤とともに崩壊時間向上に寄与する成分は、各種のケイ酸やケイ酸塩などの多孔性物質であると考えられる。
【0086】
また有効成分としてバンコマイシンの塩を含む錠剤において、多孔性物質(ケイ酸塩またはケイ酸)と崩壊剤を組み合わせて用いることで、錠剤硬度(3kgf以上)を損なうことなく、崩壊時間を短くすることができ(73秒以内)、硬度と崩壊性に優れた錠剤を調製することができることが判明した。
【0087】
実験例4 溶出試験
実験例1に記載する方法と同様にして製造した表4に記載する組成からなる、バンコマイシン塩酸塩をそれぞれ125mg及び250mg含む錠剤について、日本薬局方第15改正にある溶出試験法に基づいて溶出試験を行った。
【0088】
【表4】

【0089】
<試験方法>
上記125mg及び250mg錠剤について、それぞれパドル法を用いて下記の5通りの条件で溶出試験を行った。
(1)溶出試験液(pH1.2、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分
(2)溶出試験液(pH4.0、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分
(3)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分
(4)溶出試験液(水、温度37±0.5℃)、パドル回転数:50回転/分
(5)溶出試験液(pH6.8、温度37±0.5℃)、パドル回転数:100回転/分。
【0090】
溶出したバンコマイシンの量を経時的に測定し、錠剤全量における割合(溶出率%)を算出した。なお、溶出したバンコマイシンの量は紫外可視吸光度測定法により溶出試験液の280nmの吸光度を測定することにより求めた。なお、対照試験として、塩酸バンコマイシン散(日本イーライリリー(株)製)0.5mg(標準製剤)を用いて、同様に溶出試験を行った。
【0091】
<試験結果>
上記125mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)について(1)〜(5)の各条件で溶出試験をおこなった結果を図1〜図5に、250mg錠剤(n=12)および標準製剤(n=12)について(1)〜(5)の各条件で溶出試験をおこなった結果を図6〜10に、それぞれ示す。なお、結果は12つの錠剤の溶出率の平均値として示す。
【0092】
その結果、バンコマイシン類のスプレー造粒物に、ケイ酸またはケイ酸塩と崩壊剤とを組み合わせて調製した本発明の錠剤は、125mg錠も250mg錠も、試験開始5分後で溶出率がほぼ85%以上となり、散剤である標準製剤とほぼ同じ溶出挙動を示した。このことから、本発明の製剤は、実験例1〜3に示すように硬度と崩壊性に優れているだけでなく、溶出性においても優れていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)スプレー造粒されたバンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩、
(2)ケイ酸またはその塩、
(3)崩壊剤、および
(4)滑沢剤
を含有する錠剤。
【請求項2】
硬度が3kgf以上で、日本薬局方第15改正に規定の崩壊試験法に基づく崩壊時間が80秒以内である、請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
ケイ酸またはその塩が、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、含水無晶形酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、含水ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、請求項1または2に記載する錠剤。
【請求項4】
崩壊剤が、セルロース、セルロース誘導体、クロスポピドン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチ、およびこれらの塩からなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載する錠剤。
【請求項5】
(a)バンコマイシンまたはその薬学的に許容された塩をスプレー造粒する工程、
(b)上記で得られたスプレー造粒物を整粒する工程、
(c)上記で得られた整粒物に、ケイ酸またはその塩、および崩壊剤を配合して混合する工程、および
(d)上記混合物に滑沢剤を配合し、打錠する工程、
を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載する錠剤の製造方法。
【請求項6】
(d)工程が、滑沢剤を含有する混合物を打錠圧0.3〜3ton/cmで打錠する工程である、請求項5に記載する製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−153119(P2011−153119A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30604(P2010−30604)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(508179903)マイラン製薬株式会社 (4)
【Fターム(参考)】