説明

バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器

【課題】 広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供する。
【解決手段】第1,第2,第3の共振器10,20,30を備え、第1,第3の共振器10,30は共振周波数f1を有し、第2の共振器20はf1と異なる共振周波数f2を有し、第1,第3の共振器10,30からなる共振系の偶モード共振周波数をfe、奇モード共振周波数をfoとすると、f2はfeおよびfoの両方よりも低いかまたは高い周波数であり、fe,fo,f2を含む通過帯域が形成されたバンドパスフィルタである。広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものであり、特に、広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信機器等の電子装置においては、特定の周波数の電気信号のみを通過させるバンドパスフィルタが用いられており、特に、同一の共振周波数を有する2つの共振器が電磁気的に結合された共振系における偶モード共振および奇モード共振を利用して、偶モード共振周波数および奇モード共振周波数を含む通過帯域を形成したバンドパスフィルタが広く用いられている。このようなバンドパスフィルタにおいては、2つの共振器間の電磁気的な結合の強さに応じて偶モード共振周波数と奇モード共振周波数との差が変化し、これによって通過帯域の幅が決定される(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平7−30303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来のバンドパスフィルタは、偶モード共振および奇モード共振の2つの共振ピークを利用して通過帯域を形成するため広帯域化には限界があった。また、同一の共振周波数を有する3つの共振器が電磁気的に結合された共振系における3つの共振モードによる3つの共振ピークを利用して通過帯域を形成したバンドパスフィルタも知られており、このようなバンドパスフィルタは更なる広帯域化が可能であるが、3つの共振ピークの周波数をそれぞれ任意に設定することは困難であり、通過帯域の設計の自由度が小さいものであった。
【0004】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
相互に電磁気的に結合された第1の共振器,第2の共振器および第3の共振器を備え、前記第1の共振器および前記第3の共振器はそれぞれ等しい共振周波数f1を有し、前記第2の共振器はf1と異なる共振周波数f2を有しており、前記第1の共振器および前記第3の共振器からなる共振系の偶モード共振周波数をfeとし、前記第1の共振器および前記第3の共振器からなる共振系の奇モード共振周波数をfoとすると、前記第2の共振器の共振周波数f2はfeおよびfoの両方よりも低いかまたは高い周波数であり、前記第1の共振器に電気信号が入力され、前記第3の共振器から電気信号が出力されることによって、fe,fo,f2を含む通過帯域が形成され、前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k12)=+1、前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k12)=−1、前記第2の共振器と前記第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k23)=+1、前記第2の共振器と前記第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k23)=−1、前記第1の共振器と前記第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k13)=+1、前記第1の共振器と前記第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k13)=−1、f2<f1のときはS(δf)=−1、f2>f1のときはS(δf)=+1とすると、S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=+1であることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の無線通信モジュールは、上記本発明のバンドパスフィルタを備えることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の無線通信機器は、上記本発明のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバンドパスフィルタは、相互に電磁気的に結合された第1の共振器,第2の共振器および第3の共振器を備え、第1の共振器および第3の共振器はそれぞれ等しい共振周波数f1を有し、第2の共振器はf1と異なる共振周波数f2を有しており、第1の共振器および第3の共振器からなる共振系の偶モード共振周波数をfeとし、第1の共振器および第3の共振器からなる共振系の奇モード共振周波数をfoとすると、第2の共振器の共振周波数f2は、feおよびfoの両方よりも低いかまたは高い周波数であり、第1の共振器に電気信号が入力され、第3の共振器から電気信号が出力されることによって、fe,foおよびf2を含む通過帯域が形成される。このような構成を備える本発明のバンドパスフィルタによれば、fe,fo,f2に位置する3つの共振ピークを用いて通過帯域を形成するので、広帯域なバンドパスフィルタを得ることができる。また、fe,fo,f2の3つの周波数を任意に設定することができるので、通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタを得ることができる。
【0009】
また、本発明のバンドパスフィルタは、第1の共振器と第2の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k12)=+1、第1の共振器と第2の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k12)=−1、第2の共振器と第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k23)=+1、第2の共振器と第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k23)=−1、第1の共振器と第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k13)=+1、第1の共振器と第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k13)=−1、f2<f1のときはS(δf)=−1、f2>f1のときはS(δf)=+1とすると、S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=+1となるようにされていることから、第1の共振器から直接第3の共振器へ伝達される電気信号と第1の共振器から第2の共振器を介して第3の共振器へ伝達される信号との間において、fe,foおよびf2の間の周波数では位相反転が生じず、f2よりも外側の周波数で位相反転が生じるので、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも外側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0010】
本発明の無線通信モジュールおよび本発明の無線通信機器によれば、通信に使用する広い周波数帯域の全体に渡って損失が少ない本発明のバンドパスフィルタを通信信号の濾波に用いることにより、バンドパスフィルタを通過する通信信号の減衰が少なくなるので、感度が高い高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
(実施の形態の第1の例)
図1は本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第1の例を示す等価回路図である。本例のバンドパスフィルタは、図1に示すように、第1の共振器10はインダクタL1a,L1b,L1cおよびキャパシタC10の直列回路で表されており、第2の共振器20はインダクタL2a,L2bおよびキャパシタC20の直列回路で表されており、第3の共振器30はインダクタL3a,L3b,L3cおよびキャパシタC30の直列回路で表されている。そして、第1の共振器10と第2の共振器20とは結合係数k12で電磁気的に結合しており、第2の共振器20と第3の共振器30とは結合係数k23で電磁気的に結合しており、第1の共振器10と第3の共振器30とは結合係数k13で電磁気的に結合している。なお、k12,k23,k13の符号が+のときは誘導性の結合であること示し、k12,k23,k13の符号が−のときは容量性の結合であることを示すものとする。また、入力端子01はインダクタLinを介して接地されており、出力端子02はインダクタLoutを介して接地されている。そして、第1の共振器10はインダクタLinと電磁気的に結合しており、第3の共振器30はインダクタLoutと電磁気的に結合している。
【0013】
また、第1の共振器10および第3の共振器30はそれぞれ等しい共振周波数f1を有し、第2の共振器20はf1と異なる共振周波数f2を有している。そして、第1の共振器10および第3の共振器30からなる共振系の偶モード共振周波数をfeとし、第1の共振器10および第3の共振器30からなる共振系の奇モード共振周波数をfoとすると、第2の共振器20の共振周波数f2は、feおよびfoの両方よりも低いかまたは高い周波数となるように設定されている。すなわち、f2は周波数軸上において、feおよびfoの間ではなく、feおよびfoの外側に位置する周波数である。そして、入力端子01からインダクタLinを介して第1の共振器10に電気信号が入力され、第3の共振器30からインダクタLoutを介して電気信号が出力されることによって、fe,foおよびf2を含む通過帯域が形成される。
【0014】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、fe,fo,f2に位置する3つの共振ピークを用いて通過帯域を形成するので、広帯域なバンドパスフィルタを得ることができる。また、fe,fo,f2の3つの周波数を任意に設定することができるので、通過帯域の設計の自由度が大きいバンドパスフィルタを得ることができる。
【0015】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振器10と第2の共振器20との結合が主に誘導性であるときはS(k12)=+1、第1の共振器10と第2の共振器20との結合が主に容量性であるときはS(k12)=−1、第2の共振器20と第3の共振器30との結合が主に誘導性であるときはS(k23)=+1、第2の共振器20と第3の共振器30との結合が主に容量性であるときはS(k23)=−1、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主に誘導性であるときはS(k13)=+1、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主に容量性であるときはS(k13)=−1、f2<f1のときはS(δf)=−1、f2>f1のときはS(δf)=+1とすると、S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=+1となるようにされていることから、第1の共振器10から直接第3の共振器30へ伝達される電気信号と第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達される信号との間において、fe,foおよびf2の間の周波数では位相反転が生じず、f2よりも外側の周波数で位相反転が生じるので、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも外側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。なお、本例のバンドパスフィルタにおいては、第1の共振器10と第2の共振器20との結合係数k12、第2の共振器20と第3の共振器30との結合係数k23および第1の共振器10と第3の共振器30との結合係数k13の大きさ(絶対値)を実質的に全て等しく設定するのが望ましく、これによって良好な通過帯域を形成することが可能となる。
【0016】
このような、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも外側の通過帯域外に減衰極を有する通過特性を得るための条件を、本発明者は種々の検討により導出したが、この効果が得られるメカニズムについては、本発明者が実施した一連の回路シミュレーションによる検討により、次のように推定される。
【0017】
すなわち、本例のバンドパスフィルタにおいては、第1の共振器10から直接第3の共振器30へ伝達される電気信号と第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達される信号とが存在する。ここで、第1の共振器10から直接第3の共振器30へ伝達される電気信号の伝達ルートは、第1の共振器10および第3の共振器30からなる共振系の偶モード共振周波数をfeおよび奇モード共振周波数をfoの外側に位置する周波数領域において、第1の共振器10と第3の共振器30とが主として誘導性の結合をしている場合にはインダクタと等価になり、第1の共振器10と第3の共振器30とが主として容量性の結合をしている場合にはキャパシタと等価になる。
【0018】
そして、第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達される電気信号の伝達ルートは、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合が、どちらも誘導性またはどちらも容量性の場合には、第2の共振器20の共振周波数f2よりも低周波側でインダクタと等価になり、f2よりも高周波側でキャパシタと等価になる。また、第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達される電気信号の伝達ルートは、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合の一方が誘導性の結合であり他方が容量性の結合である場合には、第2の共振器20の共振周波数f2よりも低周波側でキャパシタと等価になり、f2よりも高周波側でインダクタと等価になる。
【0019】
これにより、例えば、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主として誘導性の結合であり、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合が、どちらも誘導性の結合またはどちらも容量性の結合である場合には、第2の共振器20の共振周波数f2を第1の共振器10および第2の共振器20の共振周波数f1よりも高く設定することにより、fe,foおよびf2を含む通過帯域内では2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることはなく、f2よりも高周波側において2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることになる。よって、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも高周波側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0020】
また、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主として誘導性の結合であり、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合の一方が誘導性の結合であり他方が容量性の結合である場合には、第2の共振器20の共振周波数f2を第1の共振器10および第2の共振器20の共振周波数f1よりも低く設定することにより、fe,foおよびf2を含む通過帯域内では2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることはなく、f2よりも低周波側において2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることになる。よって、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも低周波側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0021】
さらに、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主として容量性の結合であり、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合が、どちらも誘導性の結合またはどちらも容量性の結合である場合には、第2の共振器20の共振周波数f2を第1の共振器10および第2の共振器20の共振周波数f1よりも低く設定することにより、fe,foおよびf2を含む通過帯域内では2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることはなく、f2よりも低周波側において2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることになる。よって、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも低周波側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0022】
またさらに、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主として容量性の結合であり、第1の共振器10と第2の共振器20との主となる結合および第2の共振器20と第3の共振器30との主となる結合の一方が誘導性の結合であり他方が容量性の結合である場合には、第2の共振器20の共振周波数f2を第1の共振器10および第2の共振器20の共振周波数f1よりも高く設定することにより、fe,foおよびf2を含む通過帯域内では2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることはなく、f2よりも高周波側において2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じることになる。よって、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも高周波側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0023】
これらをまとめると、第1の共振器10と第2の共振器20との結合が主に誘導性であるときはS(k12)=+1、第1の共振器10と第2の共振器20との結合が主に容量性であるときはS(k12)=−1、第2の共振器20と第3の共振器30との結合が主に誘導性であるときはS(k23)=+1、第2の共振器20と第3の共振器30との結合が主に容量性であるときはS(k23)=−1、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主に誘導性であるときはS(k13)=+1、第1の共振器10と第3の共振器30との結合が主に容量性であるときはS(k13)=−1、f2<f1のときはS(δf)=−1、f2>f1のときはS(δf)=+1としたときに、S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=+1となるようにすればよいことがわかる。
【0024】
(実施の形態の第2の例)
図2は本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第2の例を示す回路図である。なお、本例においては前述した第1の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0025】
本例のバンドパスフィルタは、図1に示した一般的な等価回路における一つの具体的な回路の例を示すものである。本例のバンドパスフィルタにおいては、第1の共振器10,第2の共振器20および第3の共振器30の全てが、一方端が接地された1/4波長線路で構成されている。そして、第1の共振器10と第2の共振器20との電磁気的な結合k12がキャパシタC12で構成されており、第2の共振器20と第3の共振器30との電磁気的な結合k23がキャパシタC23で構成されており、第1の共振器10と第3の共振器30との電磁気的な結合k13がキャパシタC13で構成されている。また、入力端子01と第1の共振器10との結合QeinはキャパシタCinで構成されており、出力端子02と第3の共振器30との結合QeoutはキャパシタCoutで構成されている。また、第2の共振器20の長さは第1の共振器10および第2の共振器20の長さよりも長くされており、これによって、第2の共振器20の共振周波数f2は第1の共振器10および第2の共振器20の共振周波数f1よりも低くされている。
【0026】
この様な構成を備える本例のバンドパスフィルタも、k12,k23およびk13の全てが容量性であり、f2<f1であることから、S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=−1×−1×−1×−1=+1となるようにされており、fe,foおよびf2を含む通過帯域内では第1の共振器10から直接第3の共振器30に伝達された電気信号と第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達された電気信号との間で位相の反転が生じることはなく、f2よりも低周波側において2つの信号伝達ルートを通過した電気信号の間で位相の反転が生じる。よって、fe,foおよびf2を含む通過帯域内には減衰極がなく、f2よりも低周波側の通過帯域外に減衰極を有する優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0027】
(実施の形態の第3の例)
図3は本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第3の例を示す回路図である。なお、本例においては前述した第2の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0028】
本例のバンドパスフィルタは、図3に示すように、入力端子01と第2の共振器20とがキャパシタC40を介して接続されており、第2の共振器20と出力端子02とがキャパシタC50を介して接続されており、入力端子01と出力端子02とがキャパシタC60を介して接続されている。
【0029】
この様な構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、バンドパスフィルタの通過特性において、第1の共振器10から直接第3の共振器30に伝達された電気信号と第1の共振器10から第2の共振器20を介して第3の共振器30へ伝達された電気信号との間で位相の反転が生じることにより第2の共振器20の共振周波数f2よりも低周波側に形成される減衰極よりもさらに低周波側に2つの減衰極を形成することができるため、通過帯域よりも低周波側の減衰特性がさらに優れたバンドパスフィルタを得ることができる。
【0030】
(実施の形態の第4の例)
図4は本発明のバンドパスフィルタを用いた無線通信モジュール80および無線通信機器85の構成例を示すブロック図である。
【0031】
本発明の無線通信モジュール80は、例えば、ベースバンド信号が処理されるベースバンド部81と、ベースバンド部81に接続されベースバンド信号の変調後および復調前のRF信号が処理されるRF部82とを備えている。RF部82には前述の本発明のバンドパスフィルタ821が含まれており、ベースバンド信号が変調されてなるRF信号または受信したRF信号における通信帯域以外の信号をバンドパスフィルタ821によって減衰させている。
【0032】
具体的な構成としては、ベースバンド部81にはベースバンドIC 811が配置され、RF部82にはバンドパスフィルタ821とベースバンド部81との間にRF IC 822が配置されている。なお、これらの回路間には別の回路が介在していてもよい。そして、無線通信モジュール80のバンドパスフィルタ821にアンテナ84を接続することによってRF信号の送受信がなされる本発明の無線通信機器85が構成される。
【0033】
このような構成を有する本発明の無線通信モジュール80および無線通信機器85によれば、通信に使用する広い周波数帯域の全体に渡って損失が少ない本発明のバンドパスフィルタ821を通信信号の濾波に用いることにより、バンドパスフィルタ821を通過する受信信号および送信信号の減衰が少なくなるとともにノイズも減少する。このため、受信感度が向上するとともに送信信号および受信信号の増幅度を小さくできるため増幅回路における消費電力が少なくなる。よって受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュール80および無線通信機器85を得ることができる。
【0034】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の第1〜第4の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0035】
例えば、前述した実施の形態の第2,第3の例においては、本発明のバンドパスフィルタを構成する第1の共振器10,第2の共振器20および第3の共振器30として1/4波長線路を利用した例を示したが、これに限ることなく、例えば、マイクロストリップ線路やストリップ線路等を用いた1/2波長共振器およびリング共振器等の線路状共振器、デュアルモード方形共振器等ならびにデュアルモード円形共振器等の平面共振器や、円柱,直方体およびリング状等の形状を有する誘電体共振器ならびに同軸共振器等の立体共振器等を使用することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明のバンドパスフィルタの具体例について説明する。
【0037】
図2に示した本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタの電気特性をシミュレーションによって算出した。第1の共振器10,第2の共振器20および第3の共振器30はストリップラインを用いて構成し、誘電体の比誘電率を18.7とし、上下の接地導体の間隔を1mmとし、ストリップ線路の幅を0.2mmとした。第1の共振器10および第3の共振器30を構成するストリップ線路の長さを5.4mmとし、第2の共振器20を構成するストリップ線路の長さを6.85mmとした。キャパシタCin,Coutはそれぞれ0.6pFとし、キャパシタC12,C23およびC13はそれぞれ0.15pFとした。
【0038】
図5はそのシミュレーション結果を示すグラフである。グラフにおいて、横軸は周波数,縦軸は減衰量を表しており、入力端子01をポート1、出力端子02をポート2としたときのバンドパスフィルタの通過特性(S21)および反射特性(S11)を示している。図5に示すグラフによれば、3つの共振ピークを用いて平坦で低損失な広い通過帯域が形成されているとともに、通過帯域よりも低周波側の通過帯域近傍に減衰極が形成されて減衰域から通過域にかけて急激に減衰量が変化する、優れたフィルタ特性が得られており、本発明の有効性が確認できる。
【0039】
また、図3に示した本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタの電気特性をシミュレーションによって算出した。第1の共振器10,第2の共振器20および第3の共振器30はストリップラインを用いて構成し、誘電体の比誘電率を18.7とし、上下の接地導体の間隔を1mmとし、ストリップ線路の幅を0.2mmとした。第1の共振器10および第3の共振器30を構成するストリップ線路の長さを5.4mmとし、第2の共振器20を構成するストリップ線路の長さを6.9mmとした。キャパシタCin,Coutはそれぞれ0.6pFとし、キャパシタC12,C23およびC13はそれぞれ0.15pFとし、キャパシタC40,C50はそれぞれ0.02pFとし、キャパシタC60は0.001pFとした。
【0040】
図6はそのシミュレーション結果を示すグラフである。グラフにおいて、横軸は周波数,縦軸は減衰量を表しており、入力端子01をポート1、出力端子02をポート2としたときのバンドパスフィルタの通過特性(S21)および反射特性(S11)を示している。図6に示すグラフによれば、通過帯域よりも低周波側に更に2つの減衰極が形成されており、通過帯域よりも低周波側における減衰量が改善されて、さらに優れたフィルタ特性が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第1の例を模式的に示す等価回路図である。
【図2】本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第2の例を模式的に示す等価回路図である。
【図3】本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第3の例を模式的に示す等価回路図である。
【図4】本発明のバンドパスフィルタを備える無線通信モジュールおよび無線通信機器の例を模式的に示すブロック図である。
【図5】本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第2の例の電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】本発明のバンドパスフィルタの実施の形態の第3の例の電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10:第1の共振器
20:第2の共振器
30:第3の共振器
80:無線通信モジュール
81:ベースバンド部
82:RF部
84:アンテナ
85:無線通信機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に電磁気的に結合された第1の共振器,第2の共振器および第3の共振器を備え、
前記第1の共振器および前記第3の共振器はそれぞれ等しい共振周波数f1を有し、前記第2の共振器はf1と異なる共振周波数f2を有しており、
前記第1の共振器および前記第3の共振器からなる共振系の偶モード共振周波数をfeとし、前記第1の共振器および前記第3の共振器からなる共振系の奇モード共振周波数をfoとすると、前記第2の共振器の共振周波数f2はfeおよびfoの両方よりも低いかまたは高い周波数であり、前記第1の共振器に電気信号が入力され、前記第3の共振器から電気信号が出力されることによって、fe,fo,f2を含む通過帯域が形成され、
前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k12)=+1、前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k12)=−1、前記第2の共振器と前記第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k23)=+1、前記第2の共振器と前記第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k23)=−1、前記第1の共振器と前記第3の共振器との結合が主に誘導性であるときはS(k13)=+1、前記第1の共振器と前記第3の共振器との結合が主に容量性であるときはS(k13)=−1、f2<f1のときはS(δf)=−1、f2>f1のときはS(δf)=+1とすると、
S(k12)×S(k23)×S(k13)×S(δf)=+1であることを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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