説明

バンドパスフィルター

【課題】十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することを課題とする。
【解決手段】一面側に入射した電磁波のうち特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射、もしくは前記一面側に反射するバンドパスフィルターであって、基板3と、基板3の一面3aを覆うマスク部4と、を有し、マスク部4には、基板3の一面を露出させる複数の開口部2が格子状に設けられ、開口部2に、開口部2の縁部から中心方向に向けて先細り形状とされた突出部が4つ以上備えられており、突出部の先端部の開き角度が30°以下であり、先端部同士の最短の間隔dが0.1〜10μmであるバンドパスフィルター10を用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルターに関する。特に、テラヘルツ波のバンドパスフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ技術はセキュリティシステム、封筒内の薬物識別、耐熱フォームの密着性評価などに用いられ、注目されている。従来、良質の信号源がなく、利用が難しかったが、近年、良質の信号源の利用が可能になったためである。
テラヘルツ波とは、0.1〜100THzの帯域の電磁波を指す。この帯域は、分子の振動や分子間相互作用に対応する帯域であり、従来得られなかった情報を得ることができると期待されている。
しかし、テラヘルツ波は、空気中の水蒸気により吸収されやすいという問題があった。そのため、大気中の実用的な利用は困難であった。
【0003】
テラヘルツ波を大気中で利用するための一つの方法として、バンドパスフィルターを用いる方法がある。バンドパスフィルター(Band−pass filter)とは、必要な範囲の周波数の電磁波のみを通し、他の周波数の電磁波を通さないフィルターであり、信号処理技術などで用いられている。
バンドパスフィルターを用いて、テラヘルツ波のうち水分の影響を受けない周波数成分を選ぶことができれば、大気中でもテラヘルツ波を各種検査や通信などへ利用できる。
しかし、テラヘルツ波のバンドパスフィルターで実用的なものはあまり報告されていない。
【0004】
特許文献1は共振型テラヘルツ波または赤外フィルターに関するものであり、透過共振特性が貫通口の非対称的な形状により制御される高透過性の多重共振フィルターが開示されている。しかし、このバンドパスフィルターは透過特性が十分でないとともに、偏光特性が見られるなどの問題があった。
【0005】
非特許文献1には、円形状の複数の穴が設けられた金属薄膜と誘電体基板とからなるバンドパスフィルターが記載されている。しかし、このバンドパスフィルターも、0.1〜3.0THzの周波数領域の電磁波の透過率が90%以下であり、透過特性が十分でなかった。
【0006】
非特許文献2、3には、実用的な観点から、抵抗率の高い単結晶SiやTsurupica(製品名)のような板厚の厚い透過基板を用いることにより、金属フィルムに複数の穴を設けたメッシュなどに比べて、耐久性、取扱性を向上させたバンドパスフィルターが記載されている。しかし、これらのバンドパスフィルターも透過特性が十分でなかった。
【0007】
非特許文献4には、2つの扇状の部分が連結された開口部を有するバンドパスフィルターが記載されている。しかし、このバンドパスフィルターも透過特性が十分でなく、また、偏光特性が見られるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−193298号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.K.Azad and W.Zhang,Resonant terahertz transmission in subwavelength metallic hole arrays of sub−skin−depth thickness,Opt.Lett.,30,2945−2947(2005)
【非特許文献2】D.Dragoman and M.Dragoman,Trahertz fields and applications,Prog.Quantum Electron.,28,1−66(2004)
【非特許文献3】E.Kato,K.Suizu,and K.Kawase, Strong Resonance and Terahertz Wave Transmission Enhancement of Low−Porosity Metal Array with Bow−Tie−Shaped Apertures,Appl.Phys.Express,2,122302−1−122302−3(2009)
【非特許文献4】K.Ishihara,K.Ohashi,T.Ikari,H.Minamide,H. Yokoyama,J.Shikata,and H.Ito,,Appl.Phys.Lett.,89,201120−1−201120−3(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のバンドパスフィルターは、一面側に入射した電磁波のうち特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射、もしくは前記一面側に反射するバンドパスフィルターであって、基板と、前記基板の一面もしくは両面を覆うマスク部を有し、前記マスク部には、前記基板の一面を露出させる複数の開口部が格子状に設けられており、前記開口部には、前記開口部の縁部から中心方向に向けて先細り形状とされた突出部が4つ以上備えられており、前記突出部の先端部の開き角度が30°以下であり、前記先端部同士の最短の間隔が0.1〜10μmであることを特徴とする。開き角度が30°より大きくなると、フィルターとしてのシャープネスが低下し、半値全幅(FWMH)で約0.05THz以下を実現できない。このため、30°以下とすることが好ましい。先端部同士の最短距離が10μm以上となると、透過もしくは反射波の信号強度が低下する。このため、10μm以下とすることが好ましい。
【0012】
本発明のバンドパスフィルターは、前記先端部の開き角度が5〜25°であることを特徴とする。
本発明のバンドパスフィルターは、前記開口部の中心同士の間隔が互いに等間隔とされ、前記間隔が30〜500μmであることを特徴とする。この距離はバンドパスフィルターのピーク周波数と大きな相関があり、0.1〜3.0THzの帯域にピーク周波数を得るためには、開口の中心間隔は30〜500μmであることが望ましい。
本発明のバンドパスフィルターは、前記基板の厚さが0.1〜3.0mmであることを特徴とする。厚さが0.1mm以下となると、開口による回折ピークだけでなく、基板内での多重反射によるピークが大きくなってしまう。逆に厚さが3.0mm以上となってくると透過強度が低下してくる。このため、基板の厚さは0.1〜3.0mmであることが好ましい。
【0013】
本発明のバンドパスフィルターは、前記基板がSi、光透過性樹脂又は光透過性ガラスのいずれかからなることを特徴とする。
本発明のバンドパスフィルターは、前記マスク部の厚さが0.1〜1.0μmであることを特徴とする。厚さが0.1μm以下となると、電磁波の表皮深さよりも小さくなってくるため、マスク部の無開口部であっても透過できるようになり、シャープな帯域を有するバンドパスフィルターとして機能しなくなる。一方で厚さが1.0μm以上となってくると透過率は飽和し、さらに厚くすると減少していく。このため、マスク部の厚さが0.1〜1.0μmであることが好ましい。
本発明のバンドパスフィルターは、前記マスク部が金属又は合金からなることを特徴とする。
【0014】
本発明のバンドパスフィルターは、前記金属がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属からなることを特徴とする。
本発明のバンドパスフィルターは、前記合金がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属を含有することを特徴とする。
テラヘルツ波の照射により、マスク部表面を電磁表面波が伝播する。周期的な開口が存在すると、この表面波が開口部にて回折干渉を起こし、開口の周期性に対応した共振ピークを有する透過波もしくは反射波となって発信される。このため、マスク部表面は導電体であり、電磁波が少なくとも数100μm伝播出来る必要がある。高い電気伝導性を持つ材料ほど表面電磁波の伝播距離が長くなり、開口の周期が大きくても共鳴させることができ、フィルターのピーク周波数の制御幅を大きくすることができる。
本発明のバンドパスフィルターは、一面側に入射したテラヘルツ波のうちピーク周波数が0.10〜3.00THzの範囲内にあるテラヘルツ波のみを他面側から出射することを特徴とする。
本発明のバンドパスフィルターは、各開口部で前記突出部が偶数個設けられており、各突出部の先端部はそれぞれいずれか他の突出部の先端部に対向するように設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバンドパスフィルターは、一面側に入射した電磁波のうち特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射、もしくは前記一面側に反射するバンドパスフィルターであって、基板と、前記基板の一面もしくは両面を覆うマスク部を有し、前記マスク部には、前記基板の一面を露出させる複数の開口部が格子状に設けられ、前記開口部に、前記開口部の縁部から中心方向に向けて先細り形状とされた突出部が4つ以上備えられており、前記突出部の先端部の開き角度が30°以下であり、前記先端部同士の最短の間隔が0.1〜10μmである構成なので、基板内の多重反射の干渉と、規則的に配列した開口部による近接場の干渉により、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態であるバンドパスフィルターの一例を示す平面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図2のB−B’線における断面図である。
【図4】図2のC部の拡大図である。
【図5】バンドパスフィルターの透過率を測定する装置構成概略図である。
【図6】図5の矢印D方向から見たサンプル及びサンプル保持部の概略図である。
【図7】実施例1のバンドパスフィルターの光学顕微鏡写真であって、開口部が格子状に並んでいる写真である。
【図8】一つの開口部の拡大写真である。
【図9】実施例1のバンドパスフィルターの透過率の測定結果を示すグラフである。
【図10】図9の0.6〜1.0THzの領域の測定結果を示すグラフである。
【図11】図7の矢印D方向から見た入射波の入射位置を示す概略図である。
【図12】入射波の入射位置を移動させて得られた実施例1のバンドパスフィルターの透過率の測定結果を示すグラフである。
【図13】入射電磁波の偏光方向の透過率の測定方法を説明する概略図である。
【図14】バンドパスフィルターをXY面内において回転させたときの電磁波の透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるバンドパスフィルターを説明する。
図1は、本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10の一例を示す平面図であり、図2は図1のA部拡大図であり、図3は図2のB−B’線における断面図であり、図4は図2のC部の拡大図である。
図1に示すように、バンドパスフィルター10は、基板3の一部を略四角形状に覆うマスク部4に格子状に開口部2が設けられて構成されている。
図2に示すように、開口部2は、その中心O同士の間隔lが互いに等間隔とされている。
前記間隔lは0.03〜0.5mmとすることが好ましく、0.05〜0.3mmとすることがより好ましく、0.08〜0.15mmとすることが更に好ましい。また、開口部2aから隣接する2つの開口部2b、2cへ結ぶ線の間の角度βが60°とされている。
【0018】
このように対称的な開口部2は規則的に配列することが好ましい。上記間隔lで規則的に開口部2を配列することにより、近接場の干渉を強めることができる。
本実施形態では、一の開口部2aから隣接する2つの開口部2b、2cへ結ぶ線の間の角度βが60°としたが、角度βはこれに限られず、例えば、90°としてもよい。
【0019】
図3に示すように、基板3の一面3a上にマスク部4が積層されてなる。マスク部4に設けられた開口部2はマスク部4を貫通し、基板3の一面3aを露出させている。
基板3の厚さは0.1〜3.0mmとすることが好ましく、0.2〜2.5mmとすることがより好ましく、0.3〜1.4mmとすることが更に好ましい。基板3の厚さを前記範囲とすることにより、基板3内で多重反射の干渉を効率よく生じさせることができる。
また、基板3は、Si、光透過性樹脂又は光透過性ガラスのいずれかからなることが好ましい。例えば、Si基板を用いた場合には、Si基材内での多重反射の干渉と、規則的に整列した開口部2による近接場の干渉を組み合わせて、十分な透過特性を発現させることができる。このように、バンドパスの透過率は、Alからなるマスク部4だけでなく、基板3内の干渉によっても影響を受ける。つまり、前記干渉は、基板3の厚さに影響される。
なお、このバンドパスフィルター10に入射させる電磁波は、マスク部4の一面4a側から、または基板3の他面3b側からのどちら側から入射させてもよい。電磁波は、それぞれの面に略垂直な方向から入射させる。
【0020】
マスク部4の厚さは100nm〜1.0μmとすることが好ましく、200nm〜905nmとすることがより好ましく、300nm〜800nmとすることが更に好ましい。マスク部4の厚さを前記範囲とすることにより、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めることができる。
また、マスク部4が金属又は合金からなることが好ましく、前記金属はAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属からなることが好ましく、前記合金はAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属を含有することが好ましい。マスク部4を前記金属又は前記合金からなるものとすることにより、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めることができる。
【0021】
図4に示すように、開口部2には、縁部5から中心方向に向けて先細り形状とされた突出部6が4つ備えられている。先端部7は他の先端部7と対向するように形成されている。
4つの鋭く対向する先端部7を備えることにより、Si/Al界面の表面プラズモンの生成を促進して、マスク部4に入射されるTHz電磁場を強める。結果として、テラヘルツ光は、先端部間の狭いギャップで、特別な共鳴周波数に狭められ、すなわち、マスク部の反対側への透過を高める。
【0022】
なお、本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10の開口部2は、4つの突出部6を有する構成としたが、これに限られるものではなく、4つ以上であればよい。4つ以上の突出部6を設けることにより、先端部7に発生する近接場の効果を強めることができる。
突出部6は各開口部2で偶数個設けることが好ましく、各突出部6の先端部7はそれぞれいずれか他の突出部6の先端部7に対向するように設けることが好ましい。これにより、各開口部2の中心の周りに突出部6を対称的に配置することができ、基板を光照射面の方向を維持したまま光照射面内で回転させても、出射光に偏光特性を生じさせることはない。
【0023】
先端部7の開き角度αは30°以下とされている。先端部7の開き角度αは5〜25°とすることがより好ましく、7〜20°とすることが更に好ましい。これにより、先端部7に発生する近接場の効果を強めることができる。
【0024】
突出部6の先端部7は互いに接触しないように、先端部7の間には間隙(ギャップ)が設けられている。開口部2を有するマスク部4に電磁波が照射されると、この間隙(ギャップ)の間に近接場を形成して、基板3側に電磁波を出射できる。
突出部6の先端部7同士の最短の間隔d、すなわち、間隙(ギャップ)の距離dは0.1〜10μmとすることが好ましく、0.5〜5μmとすることがより好ましく、1〜3μmとすることが更に好ましい。これにより、先端部7に発生する近接場の効果を強めることができる。
開口部2の径mは、10〜200μmとすることが好ましく、20〜100μmとすることがより好ましく、30〜50μmとすることが更に好ましい。これにより、先端部7に発生する近接場の効果を強めることができる。
【0025】
以上の構造を有する開口部2を設けることにより、テラヘルツ光(テラヘルツ波)の透過率を高くする。
また、このように開口部2の構造を制御することにより、バンドパスの位置をTHzの領域内で調整でき、共鳴透過率の鋭さ、すなわち、半値幅を制御できる。
【0026】
<バンドパスフィルターの特性評価>
図5は、バンドパスフィルターの透過率を測定する装置構成概略図である。
図5に示すように、バンドパスフィルターの特性評価装置100の一端側には、フェムト秒パルスレーザー11が配置されている。フェムト秒パルスレーザー11から出射された光は、ビームスプリッター12で、ポンプ光13とプローブ光21に分離される。ポンプ光13はレンズ14aを透過し、GaAs基板と低温成長GaAsフィルムからなる光伝導性アンテナ15aに入射される。光伝導性アンテナ15aには電圧計16が取り付けられ、光伝導性を制御できる構成とされている。光伝導性アンテナ15aのSiレンズ18aから出射されたポンプ光は、2枚の軸外パラボラミラー17a、17bを経由して、サンプルであるバンドパスフィルター10に一面10a側から入射される。その後、バンドパスフィルター10の他面10b側から光が出射され、2枚の軸外パラボラミラー17c、17dを経由して、光伝導性アンテナ15bのSiレンズ18bに入射される。この光伝導性アンテナ15bには電流計19が取り付けられるとともに、電流アンプ25に接続され、電流の変化が記録システム24に記録される構成とされている。
【0027】
なお、ビームスプリッター12で分離されたプローブ光21は、2枚のミラー20a、20b、1枚のコーナーミラー23、3枚のミラー20c、20d、20e及びレンズ14bを介して、光伝導性アンテナ15bに入射される構成とされている。コーナーミラー24は可動式とされており、ポンプ光に対するプローブ光の遅延時間(Time delay)を制御できる構成とされている。これにより、異なるタイミングでのポンプ光による電場変化を計測することができ、各遅延時間での測定結果を合わせることにより、ポンプ光の電場変化を時間波形として測定できる。
【0028】
図6は図5の矢印D方向から見たサンプル及びサンプル保持部の概略図である。
図6に示すように、一面側の一部マスク部4で覆われた基板3からなるバンドパスフィルター10は、サンプルフォルダー31に取り付けられている。サンプルフォルダー31は、保持部材30の上をX方向に移動自在とされている。これにより、バンドパスフィルター10上の電磁波の照射位置をX方向に移動自在とされている。
また、サンプルフォルダーは回転部32によりX方向と垂直なY方向に回転自在とされている。これにより、バンドパスフィルター10の偏光特性を測定することができる。
【0029】
次に、本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10の製造プロセスの一例について説明する。マスク部4はリソグラフィ―法により形成する。
まず、所定の大きさの基板3の両面を、公知の方法により研磨する。
次に、マスク部4の一面にレジストを塗布してから、乾燥する。次に、前記レジスト上に所定のパターンを設けた露光マスクを配置してから前記レジストを露光する。
次に、露光部のレジストのみを除去した後、マスク部4を蒸着法により形成する。
次に、レジスト除去剤を用いて、前記レジストを完全に除去して、マスク部4に開口部2を形成して、本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10を製造する。
【0030】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、一面側に入射した電磁波のうち特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射するバンドパスフィルターであって、基板3と、前記基板3の一面3aを覆うマスク部4と、を有し、マスク部4には、前記基板3の一面3aを露出させる複数の開口部2が格子状に設けられており、開口部2には、開口部2の縁部5から中心O方向に向けて先細り形状とされた突出部6が4つ以上備えられており、突出部6の先端部7の開き角度αが30°以下であり、前記突出部6の先端部7同士の最短の間隔が0.1〜10μmである構成なので、Si/Al界面の表面プラズモンの生成を促進して、マスク部4に入射される電磁波を強めることができるとともに、先端部7間の狭いギャップで電磁波を特別な共鳴周波数に狭めることができ、基板内の多重反射の干渉と、規則的に配列した開口部による近接場の干渉により、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0031】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、先端部7の開き角度αが5〜25°である構成なので、先端部7間の狭いギャップで電磁波を特別な共鳴周波数に狭めることができ、その電磁波を基板3側から出射することができる。
【0032】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、開口部2の中心O同士の間隔lが互いに等間隔とされ、間隔lが10〜300mmである構成なので、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉により、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0033】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、基板3の厚さが0.1〜3.0mmである構成なので、基板3内で多重反射の干渉を効率よく生じさせ、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0034】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、基板3がSi、光透過性樹脂又は光透過性ガラスのいずれかからなる構成なので、基板3内で多重反射の干渉を生じさせ、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0035】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、マスク部4の厚さが100nm〜1.0μmである構成なので、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めて、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0036】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、マスク部4が金属又は合金からなる構成なので、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めて、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0037】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、前記金属がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属からなる構成なので、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めて、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0038】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、前記合金がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属を含有する構成なので、規則的に配列した開口部2による近接場の干渉を強めて、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いバンドパスフィルターを提供することができる。
【0039】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、一面側にテラヘルツ波を入射する構成なので、基板3内で効率よく多重反射の干渉を生じさせ、これと規則的に配列した開口部2による近接場の干渉により、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いテラヘルツ波を出射するバンドパスフィルターを提供することができる。
【0040】
本発明の実施形態であるバンドパスフィルター10は、各開口部2で突出部6が偶数個設けられており、各突出部6の先端部7はそれぞれいずれか他の突出部6の先端部7に対向するように設けられている構成なので、基板3内で効率よく多重反射の干渉を生じさせ、これと規則的に配列した開口部2による近接場の干渉により、十分な透過特性を備え、偏光特性の無いテラヘルツ波を出射するバンドパスフィルターを提供することができる。
なお、本発明の実施形態であるバンドパスフィルターは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
<バンドパスフィルター製造プロセス>
リソグラフィ法により、以下のようにして基板にマスク部を形成した。
まず、板厚400μm、縦30mm、横30mmのSi基板の両面を、公知の方法によりポリッシュした。
次に、前記Si基板の一面の所定の位置に、レジストを塗布してから、乾燥した。
次に、前記レジスト上に所定のパターンが格子状に設けられた露光マスクを配置してから前記レジストを露光した。
次に、露光部を公知の方法により除去した後、膜厚0.4μm、縦1cm、横1cmのAlからなるマスク部を蒸着法により形成した。
次に、レジスト除去剤を用いて、前記レジストを全て除去して、マスク部に開口部を形成して、バンドパスフィルターを製造した。
【0042】
図7及び図8は、以上のプロセスにより作成したバンドパスフィルターのマスク部及び開口部のSEM写真である。図8に示すように、開口径50μmの開口部を備え、開口部中心に突出する先細り形状の4つの突出部を備え、突出部の先端部の間隔が10μm、突出部の開き角度20°であるマスク部を備えたバンドパスフィルターを作成した。
【0043】
<バンドパスフィルターの特性評価>
次に、図5に示したバンドパスフィルターの特性評価装置を用いて、実施例1のバンドパスフィルターの特性評価結果を行った。
図9及び図10は、実施例1のバンドパスフィルターの特性評価結果(Array on Si in air)である。サンプルを置かない場合の測定結果、すなわち、空気に対する測定結果(Air)及びSi基板のみの測定結果(Si substrate in Air)を比較の為、併せて表示している。
図9に示すように、実施例1のバンドパスフィルターは、0.5〜1.5THzの範囲で複数のピークを有し、0.81THzに最も大きなピークを示した。
0.81THzを第1のピークとする出射光は0.83THz付近に第2のピークを有しており、0.78〜0.85THzの光を出射した。つまり、実施例1のバンドフィルターは、0.78〜0.85THzの特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射した。
【0044】
図10に示すように、0.81THzにおけるSi基板の光強度1.6×10に対して、バンドパスフィルターの光強度は、2×10となり、Si基板に対して145%の透過率を示した。
【0045】
次に、図11に示すように、入射波の入射位置をX方向に移動させて実施例1のバンドパスフィルターの透過率の測定を行った。
まず、バンドパスフィルター10の一面10aに略垂直な方向から図11に示すXの位置に電磁波を照射し、空気を通過させて対面側で電磁波をパラボラミラーにより光伝導性アンテナに取り込み、強度を測定した。
その後、保持部材30上を、サンプルフォルダー31を移動させながら、XからX54000の位置までの電磁波強度を測定した。
その結果、図11に示すAir、Si、Al、Array、Al、Si、Airに対応する位置の電磁波が得られた。
【0046】
図12は、このときの電磁波の測定結果を示すグラフであって、入射波の入射位置を移動させて得られた実施例1のバンドパスフィルターの透過率の測定結果を示すグラフである。
電磁波として、0.81THzの電磁波を用いた場合のほかに、比較の為、1.85THzの電磁波を用いた場合を示している。マスク部4(図12では、Arrayと表示)の領域では、1.85THzの電磁波の場合には、出射電磁波の強度がほぼ0であるのに対し、0.81THzの電磁波の場合は、約45%の透過率であった。Si基板の透過率が約35%であることから、マスク部4(Array)により、約10%透過率が向上したことが分かった。
【0047】
次に、図13に示す通り、バンドパスフィルターをXY面内において、45°、90°反時計回りに回転させ、入射電磁波の偏光方向の透過率への影響を測定した。入射電磁波は電場の向きが図の水平方向となるように偏光されていた。
【0048】
図14は、このときの電磁波の透過率を示すグラフである。0°、45°、90°、いずれの角度であっても、透過率に変化が認められなかった。これにより、入射波の偏光状態によらず同一周波数帯のバンドパスフィルターとして機能することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のバンドパスフィルターは、テラヘルツ波のバンドパスフィルターとして用いることができ、テラヘルツ技術を用いるセキュリティシステム、封筒内の薬物識別、耐熱フォームの密着性評価などの産業に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0050】
2…開口部、2a、2b、2c…開口部、3…基板、3a…一面、3b…他面、4…マスク部、4a…一面、5…縁部、6…突出部、7…先端部、10…バンドパスフィルター、10a…一面、10b…他面、11…フェムト秒パルスレーザー、12…ビームスプリッター、13…ポンプ光、14a、b…レンズ、15a、b…光伝導性アンテナ、16…電圧計、17…軸外パラボラミラー、18a、b…レンズ、19…電流計、20a、b、c、d、e…ミラー、21…プローブ光、23…コーナー反射体、24…記録システム、25…電流アンプ、30…サンプルフォルダー台座、31…サンプルフォルダー支柱、100…特性評価装置、l、m、d…長さ、α、β…角度。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面側に入射した電磁波のうち特定の周波数の電磁波のみを他面側から出射、もしくは前記一面側に反射するバンドパスフィルターであって、
基板と、前記基板の一面もしくは両面を覆うマスク部とを有し、
前記マスク部には、前記基板の一面を露出させる複数の開口部が格子状に設けられており、
前記開口部には、前記開口部の縁部から中心方向に向けて先細り形状とされた突出部が4つ以上備えられており、
前記突出部の先端部の開き角度が30°以下であり、前記先端部同士の最短の間隔が0.1〜10μmであることを特徴とするバンドパスフィルター。
【請求項2】
前記先端部の開き角度が5〜25°であることを特徴とする請求項1に記載のバンドパスフィルター。
【請求項3】
前記開口部の中心同士の間隔が互いに等間隔とされ、前記間隔が30〜500μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバンドパスフィルター。
【請求項4】
前記基板の厚さが0.1〜3.0mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項5】
前記基板がSi、光透過性樹脂又は光透過性ガラスのいずれかからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項6】
前記マスク部の厚さが0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項7】
前記マスク部が金属又は合金からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項8】
前記金属がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属からなることを特徴とする請求項6に記載のバンドパスフィルター。
【請求項9】
前記合金がAl、Au、Cu、Ag、Pt、Cr、Pb、又はNiのいずれかの金属を含有することを特徴とする請求項6に記載のバンドパスフィルター。
【請求項10】
一面側に入射したテラヘルツ波のうちピーク周波数が0.10〜3.00THzの範囲内にあるテラヘルツ波のみを他面側から出射することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。
【請求項11】
各開口部で前記突出部が偶数個設けられており、各突出部の先端部はそれぞれいずれか他の突出部の先端部に対向するように設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のバンドパスフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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