説明

パイの製造方法

【課題】 同時に成形および焼成を行うことによって、成形型による成形を可能にするとともに当該形状を維持しつつ焼成することのできるパイの製造方法を提供する。
【解決手段】 両焼成型1,2を加熱して所定温度に到達させ、この状態で焼成雌型1の凹部内にフレッシュバター生地3を投入する。このフレッシュバター生地3の投入と同時に焼成雄型2を下降させて、当該フレッシュバター生地3を軟化させるとともに押圧し、焼成型のキャビティ全体にフレッシュバター生地を充満させる。当該キャビティ全体にフレッシュバター生地が充満した時点で焼成雄型2を僅かに上昇させ、フレッシュバター生地3と焼成雄型2とに間隙を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、油脂成分を含む生地を焼成してなるパイの製造方法に関するものであって、特に、通常のパイ生地よりも油脂成分を多く含有するフレッシュバターと呼ばれるパイ生地(以下、フレッシュバター生地という)を使用するパイの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のパイ製造方法は、薄く延ばしたパイ生地を幾重にも積層し、これを所望の形状に切断した後、オーブンその他の焼成装置によって焼成していた。しかし、この種の製造方法は、例えばアップルパイのように、フルーツ等の具材を内包するパイなどの製造方法として専ら使用されるものであった。しかし、最近では、タルトと呼ばれる洋菓子の器(図1参照)としてパイを使用することがあり、このような目的で使用する場合、積層された生地からなるパイは、サクサク感を得ることができるものの、しっとり感を得ることができないことから、タルト全体のバランスを欠くこととなっていた。
【0003】そこで、積層された生地ではなく、バターを多く含むフレッシュバター生地によってパイを焼成する方法が用いられていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、フレッシュバター生地によるパイの製造にあっては、当該フレッシュバター生地が多くのバターを含んでいるため、成形に長時間を費やすことができず、また、成形器等を使用したとしても形状または大きさを均一にすることは困難であった。しかも、焼成時には、多くの油脂成分や水分がしみ出すため、好適な焼き具合を実現することもまた困難であった。
【0005】そこで、成形型の圧縮によって成形したものを焼成することが考えられるところ、常温ではフレッシュバター生地であっても延び難く、所望の形状まで押圧するためには、成形型を強力に押圧しなければならず、そのためにのみ使用する装置が必要となるほか、フレッシュバター生地を強力に押圧したとすれば、押圧力の作用した個所の生地からはバターが搾り出され、かつ高密度となることから、焼成後における当該部分は、パイ特有のサクサク感を失うこととなるものであった。特に、図1に示すような器形状のパイ10を製造するために、フレッシュバター生地を成形型にて圧縮成形するとすれば、パイ10の底部11に圧力が集中することとなり、一方、側部12を所望の高さまで押し上げることも困難なものであった。
【0006】そのため、若干の熱をフレッシュバター生地に加えることによって、フレッシュバター生地を軟化させることが可能であることから、このように軟化させた後にフレッシュバター生地を成形することが必要とされていた。しかし、このような方法では、加熱温度の調整不足によりフレッシュバター生地から油脂成分や水分がしみ出すことがあり、成形前に一部焼成が始まるケースがあり、また、好適に軟化させた場合でも、器形状のパイ10を製造する場合、軟化の度合いが大きくなり、その形状を維持できない程度まで軟化することとなるのが一般的であるため、成形型からの取出しから次工程である焼成までの間に変形することとなっていた。
【0007】本発明は、上記諸点にかんがみ、同時に成形および焼成を行うことによって、成形型による成形を可能にするとともに当該形状を維持しつつ焼成することのできるパイの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、油脂成分を多く含有する生地を所望肉厚の板状に成形し、かつ該板状生地を所定重量に切断して個々の生地を構成させ、これを焼成雌型に投入するとともに、焼成雄型を嵌合せしめて両型内に構成されるキャビティを密封しつつ焼成を開始し、その後、上記キャビティを開放させてなることを特徴とするパイの製造方法を要旨とするものである。
【0009】そして、前記焼成型を密封状態で継続する時間は10秒未満とし、開放状態を継続する時間は10秒以上としてなることが好ましく、密封状態および開放状態を交互に繰り返す場合、初期の密封状態継続時間を5秒未満とし、引き続き開放状態を継続する時間を5秒以上にしてなることが好ましい。さらに、初期の密封状態継続時間のみを2秒〜5秒の範囲内に設定するとともに、その後短時間の開放・密封状態を繰り返すものであってもよい。また、前記密封状態および開放状態のいずれにおいても焼成型を加熱してなることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、図2に示すように、焼成雌型1および焼成雄型2を使用するものであり、焼成雌型1にフレッシュバター生地3を投入し、このフレッシュバター生地3を両焼成型1,2で押圧しつつ焼成するものである。
【0011】具体的な製造方法は、まず、両焼成型1,2を加熱して所定温度に到達させ、この状態で焼成雌型1の凹部内にフレッシュバター生地3を投入する(図2(a))。このフレッシュバター生地3の投入と同時に焼成雄型2を下降させて、当該フレッシュバター生地3を軟化させるとともに押圧し、焼成型のキャビティ全体にフレッシュバター生地を充満させる(図2(b))。当該キャビティ全体にフレッシュバター生地が充満した時点で焼成雄型2を僅かに上昇させ、フレッシュバター生地3と焼成雄型2とに間隙を設ける(図2(c))。ここで、フレッシュバター生地3の軟化および少なからず焼成させることにより、油脂成分や水分がしみ出すこととなるが、焼成型1,2の温度および加熱されたフレッシュバター生地3の温度等により、油脂成分や水分はガス化され、上記焼成雄型2の上昇により設けられた間隙を経由して上記のガスが外部に放出されるのである。このガスの排出と同時に、キャビティ内に混入した空気をも放出されることとなるものである。
【0012】上記のようにガス化した油脂成分を焼成型1,2から排出するタイミングは、焼成を開始した直後が最も重要となる。即ち、フレッシュバター生地3の焼成が始まると、フレッシュバター生地3からは必ず油脂成分や水分がしみ出し、これが徐々にガス化することとなるが、このガスを外部に排出しない場合は、フレッシュバター生地3を強く圧迫することとなるため、当該部分のフレッシュバター生地3の表面に窪みを発生させることとなるのである。
【0013】また、上記のようなガスを早期に排出しようとして、焼成雄型2の上昇が早い場合は、フレッシュバター生地3を所望の形状に成形できない場合もあった。即ち、フレッシュバター生地3は加熱によって軟化し、焼成雄型2の押圧力によってキャビティ全体に生地を充満させるものであるが、焼成雄型2の上昇が早過ぎる場合、所望形状であるキャビティの細部にまでフレッシュバター生地3が行渡らず、しかも、焼成雌型1は常時加熱されているので、不備な形状でフレッシュバター生地3が固化し、細部が欠けた形状のパイが焼成されることとなるのである。
【0014】次に、図1に示す器形状のパイ10を製造する場合の最適な焼成方法について説明する。まず、焼成型1,2は、予め加熱されて所定温度に調整されており、この状態でフレッシュバター生地3を焼成雌型1に投入する。この投入により、フレッシュバター生地3は、急激に軟化を開始する。そこで、焼成雄型2を焼成雌型1に嵌合させ、キャビティを密封する。このキャビティの密封と同時に加熱を開始し、焼成型1,2の温度を上昇させるとともに、フレッシュバター生地3を圧縮するのである。このときの密封時間は、5秒から7秒の範囲内において、加熱状態等に応じて変更するのである。
【0015】上記の密封状態の際、焼成雄型2はキャビティ内のフレッシュバター生地3を押圧し、器形状パイ10の底部11との間で圧縮され、また、フレッシュバター生地3そのものも延びることから、当該フレッシュバター生地3の周辺部分を壁面へと押し上げるのである。これにより、パイ10の側部12を構成するのであるが、この側部12に該当するキャビティも密封されているため、所望の高さまで上昇したフレッシュバター生地3は、当該キャビティの上端において停止し、このとき、キャビティ内部の全体にフレッシュバター生地3が行渡った状態となる。
【0016】上記のように、キャビティ全体にフレッシュバター生地3が行渡った後も、両型1,2が嵌合している状態であるので、焼成雄型2がキャビティ内部のフレッシュバター生地3の全体を圧縮することとなり、器形状パイ10の形に全体を整えることができるのである。この圧縮によって、パイ10の成形は終了し、残るとことは焼成となるのである。
【0017】この状態まで到達するために、前記のとおり、5秒から7秒の圧縮・加熱時間を要するのである。そして、上記の加熱により、フレッシュバター生地3からは油脂成分および水分がしみ出しているので、ここで、キャビティの密封を解除し、焼成型1,2内のガスを外方に放出する。油脂成分および水分は焼成型1,2の内部温度の上昇により、ガス化するものであるから、キャビティの開放によって、これらを容易に外方に放出できるのである。また、油脂成分のうちガス化しないものについては、焼成後にパイ10に吸収されるので、出来上がりの状態でしっとり感を得ることができるものである。なお、ここでは、焼成雌型1に対する加熱は継続しており、パイ10の底部11および側部12の外側表面の焼成は継続しているのである。上記のようなキャビティの開放時間は約10秒間であるが、それ以上、例えば20秒であってもよい。
【0018】このように、一端しみ出した油脂成分および水分によって発生するガスを除去した後は、事後の加熱によっても大量の油脂成分および水分がしみ出ることがないので、再度、焼成型1,2を嵌合してキャビティを密封することにより、パイ10の外側表面のみならず、内側表面からの焼成をも行うのである。この状態における焼成時間は、30秒以上を要するが、適宜キャビティを開放することによって不要な油脂成分および水分を除去することが可能である。
【0019】以上のように、器形状パイ10を製造する場合は、当初の加熱および圧縮する時間は5秒から7秒であり、ガス抜き後は30秒以上を費やして全体を焼成するものである。従って、製造すべき形状によって、または、同様の形状であっても肉厚が異なる場合には、当初の加熱および圧縮時間を変化させることによって好適な成形および焼成を可能にすることができる。なお、フレッシュバター生地3に含有される油脂成分の割合によっても、上記時間を変化すべき場合も有り得る。そして、キャビティを一度密閉しただけでは、所望の形状に成形できない場合は、数回に分けて成形することも可能であるが、その場合、当初の加熱および圧縮時間が5秒を超えると、パイの形状が決定することとなるので、その場合は、5秒未満にする必要がある。
【0020】なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様をとり得るものであって、例えば、当初の加熱および圧縮時間については2秒程度を3回に分けて行うことも可能であり、この場合、パイの形状が決定するまでの押圧時間の合計が10秒未満となるように調整することも可能である。また、当初の加熱および圧縮時間を2秒〜5秒程度に抑えておき、その後の開放以降にあっては、5秒未満の短時間を交互に繰り返せることも可能である。この場合、フレッシュバター生地に対する加熱が進行することに合わせて、徐々にガスや水蒸気等を排出できるので、所望の食感に仕上げることが容易となる。そして、上記製造方法を実現するための加熱手段または焼成型の形状若しくは構造については、既に開発されているものを使用すればよいが、焼成雄型を手動で開閉させることも可能である。この場合、開放状態を得るための方法として、焼成型内の圧力に任せることもできるが、所定時間を機械的または電気的に制御させることも可能である。
【0021】
【発明の効果】以上のとおり、本発明は、生地を加熱によって軟化させると同時に成形することができ、かつ、成形しつつ焼成を行うものであるから、油脂成分を多く含むフレッシュバターを使用した生地を使用するパイの製造を容易にするものである。
【0022】また、軟化した生地を押圧することから、押圧力が一個所に集中することがなく、高密度となる部分の発生を防ぐことができるので、出来上がりのパイにサクサク感を与えることができる。
【0023】さらに、成形に最低限度必要となるキャビティの密封を終了した時点で、当該キャビティを開放することから、油脂成分および水分を当該焼成型から外方に排出することができるので、製造途中における変形を防止でき、また、ガス化したもののみを排出するため、不必要な油脂成分の排出を防ぎ、出来上がりのパイにしっとり感をも与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】器形状パイの斜視図である。
【図2】製造方法の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
1 焼成雌型
2 焼成雄型
3 パイ生地
10 パイ
11 底部
12 側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油脂成分を多く含有する生地を所望肉厚の板状に成形し、かつ該板状生地を所定重量に切断して個々の生地を構成させ、これを焼成雌型に投入するとともに、焼成雄型を嵌合せしめて両型内に構成されるキャビティを密封しつつ焼成を開始し、その後、上記キャビティを開放させてなることを特徴とするパイの製造方法。
【請求項2】 前記密封状態を10秒未満継続させ、前記開放状態を10秒以上継続させてなることを特徴とする請求項1記載のパイの製造方法。
【請求項3】 前記密封状態および開放状態を断続的に設けてなることを特徴とする請求項2記載のパイの製造方法。
【請求項4】 前記密封状態は、第1回目の密封状態に限り、5秒未満であることを特徴とする請求項3記載のパイの製造方法。
【請求項5】 前記密封状態は、第1回目の密封状態に限り、2秒〜5秒の範囲内に設定するとともに、その後の開放状態および密封状態を5秒未満の間隔で交互に繰り返すものである請求項3記載のパイの製造方法。
【請求項6】 前記密封時間および解除時間のいずれの状態においても焼成型を加熱してなることを特徴とする請求項1または5のいずれかに記載のパイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−102370(P2003−102370A)
【公開日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−301564(P2001−301564)
【出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(399087411)株式会社マルヤス (1)
【Fターム(参考)】