説明

パイプの製造方法及び同装置

【課題】溶接パイプにおいて、ビードの盛り上がり部が是正され且つ突合わせ部にずれが発生しないようなパイプの製造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ST01で、先ず、平板をO形に成形する。次に、突合わせ部を平坦化する(ST02)。続いて、突合わせ部に溶接を施す(ST03)。さらに、余剰ビードを押し潰す(ST04)。
【効果】外観形状に優れると共に2次加工において局部的に変形が発生しない溶接パイプを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接パイプの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプは、シームレス管、溶接管、鍛接管など各種のものが実用に供されている。なかでも、平板をO状に曲げ、突合わせ部を溶接することで得られる溶接パイプの需要が多い(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−216094号公報(図1)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来のパイプの製造装置の原理図であり、この製造装置100は、ローラハウジング101の下部に鼓形のサポートローラ102を配置し、上部左右に各々小径ロール103、104を配置し、下部左右に小径ロール105、106を配置し、上部に溶接トーチ107を配置してなる。
O状に曲げたパイプ素材108を、ローラ103、104、105、106で案内しながら、紙面手前から奥へ移動しつつ、溶接トーチ107で溶接を施す。
【0004】
図10は図9の10部拡大図であり、パイプ素材108の左の端部111と右の端部112とをビード113で接合するが、左の端部111に対して右の端部112は上(又は下)へδだけずれる。図8から明らかなように、左の端部111は、ローラ103から離れていて上下に振れ易くなっており、右の端部112も、ローラ104から離れていて上下に振れ易くなっている。そのために、図に示すように不可避的にずれδが発生する。
【0005】
また、ビード113は、盛り上がり部114で示すように、余剰ビードが上方へ盛り上がる。このような盛り上がり部114は、後に施される2次加工において、局部変形が発生する要因になる。その対策として、2次加工の前に盛り上がり部114を矯正することが求められる。
【0006】
排気管に装着される触媒装置に溶接パイプを適用することを考える。触媒を囲う外筒に精密さが要求されるため、または、溶接後のパイプは製品になる過程で2次加工されることがあり、ずれが原因による加工不良が発生する可能性があるため、ずれδを含む溶接パイプは触媒装置に適用できない。
そこで、溶接パイプを前提とし、ビードの盛り上がり部が是正され且つ突合わせ部にずれが発生しないようなパイプの製造技術が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、溶接パイプにおいて、ビードの盛り上がり部が是正され且つ突合わせ部にずれが発生しないようなパイプの製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、平板をO状に曲げ、突合わせ部を溶接するパイプの製造方法において、
前記突合わせ部を中心へ押すことで平坦にする平坦化工程と、平坦化された突合わせ部を溶接する溶接工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、溶接工程の直後に、外周面から突出した余剰ビードを押し潰すビード潰し工程を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、平板をO状に曲げ、一対の端部を接合してパイプを製造するパイプの製造装置において、
このパイプの製造装置は、O状に曲げたパイプ素材を案内する筒部と、この筒部の入口に設けられ前記一対の端部の間に嵌ってパイプ素材の方位を決定する刃部と、この刃部の直後にて前記筒部に設けられ前記一対の端部を中心へ押して平坦にする平坦型と、この平坦型で平坦化した前記一対の端部を接合する溶接トーチと、前記筒部の後部又は後方に設けられ溶接パイプの外周面から突出した余剰ビードを押し潰すビード潰し具と、前記パイプ素材を移動させるプッシャとを含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、突合わせ部を中心へ押すことで平坦にする。そして、平坦化された突合わせ部を溶接する。平坦化された突合わせ部であれば、上下にずれが発生する心配がない。
本発明によれば、突合わせ部にずれが無い溶接パイプを得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、溶接工程の直後に、外周面から突出した余剰ビードを押し潰す。溶接直後であれば、ビードは高温であり十分に軟らかいので、容易に押し潰すことができる。押し潰すことで、溶接管の外観形状を良好にすることができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、突合わせ部を中心へ押すことで平坦にする。そして、平坦化された突合わせ部を溶接トーチで溶接する。これで、突合わせ部にずれが無い溶接パイプを得ることができる。加えて、ビード潰し具で外周面から突出した余剰ビードを押し潰す。
これで、外観形状に優れると共に2次加工において局部的に変形が発生しない溶接パイプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るパイプの製造装置の原理図であり、パイプの製造装置10は、パイプ素材を押して移動させるプッシャ11と、パイプ素材を案内する筒部12と、この筒部12の入口に設けられパイプ素材の方位を決定する刃部13と、この刃部13の直後にて筒部12に設けられている平坦型14と、この平坦型14で平坦化したパイプ素材を接合する溶接トーチ15と、筒部12の後方に設けられ溶接パイプの外周面から突出した余剰ビードを押し潰すビード潰し具16とを含んでいることを特徴とする。
【0015】
溶接トーチ15は、TIG(タングステン・イナートガス)溶接用トーチが好適である。
ビード潰し具16は、ローラハウジング17に設けられている潰しローラ18が好ましく、この潰しローラ18は前後に案内ローラ19、19を備えている。
なお、ローラハウジング17は、筒部12と一体であってもよい。一体であれば案内ローラ19、19を省略することができる。
【0016】
図2は図1の2−2線断面図であり、筒部12は、好ましくは下部半割筒21と上部半割筒22とで構成される。下部半割筒21と上部半割筒22との間にギャップGが存在する。
パイプ素材(図5(b)符号37)の周長が、平板の寸法バラツキなどにより変化することがある。周長が大きくなったときには、ギャップGを増加させる。周長が小さくなったときには、ギャップGを減少させる。下部半割筒21と上部半割筒22とに分割したことにより、パイプ素材の周長の変化に対応させることができる。
【0017】
また、分割型31〜34は、図面表裏方向へ移動するパイプ素材をガイドする役割を果たす。接触により、分割型31〜34は徐々に摩耗する。この摩耗量に対応してギャップGを短縮させることができる。すなわち、下部半割筒21と上部半割筒22とに分割したことにより、分割型31〜34の摩耗対策を講じることができる。
さらには、パイプ素材の突合わせ部(図5(c)符号40)は平坦型14で押されて面圧が発生する。ギャップGを広げると面圧が低下し、ギャップGを縮めると面圧が高まる。すなわち、下部半割筒21と上部半割筒22とに分割したことにより、突合わせ部分での面圧を適正に制御することが可能となる。
【0018】
下部半割筒21は、エアシリンダ23で上下に移動可能に支持され、エアシリンダ23とともに下部ハウジング24で支持されている。
また、上部半割筒22は、溶接トーチ15と共に上部ハウジング26で支持されている。
エアシリンダ23の作動のタイミングは図5で説明する。
【0019】
図3は図1の3−3線断面図であり、図2と類似した構造であるが、ローラハウジング17の上部中央に潰しローラ18が回転自在に設けられている点が異なる。この潰しローラ18の作用は後述する。
【0020】
図4は図2の補足図であり、下部半割筒21の成形面27は想像線で示されるパイプ素材の外周面28に合致した曲率とされている。
一方、上部半割筒22には、中央上部の平坦型14を挟むように左第1分割型31と右第1分割型32と左第2分割型33と右第2分割型34とが分離して配置されている。左第1分割型31と右第1分割型32と左第2分割型33と右第2分割型34の成形面は、パイプ素材の外周面28に倣っている。
一方、平坦型14の成形面は外周面28より中心へ若干はみ出している。
【0021】
想像線で示す外周面28は正円である。パイプ素材が平坦型14で局部的に押し潰された場合、素材パイプの周長は変わらないため、素材パイプの一部が想像線35や想像線36で示すように、外側へはみ出す。すなわち、平坦型14と左第1分割型31との間がはみ出しを許容する空間となっている。左第1分割型31と左第2分割型33の間も同様であり、平坦型14と右第1分割型32との間や右第1分割型32と右第2分割型34の間も同様である。
【0022】
以上の構成からなるパイプの製造装置の作用を次に説明する。
図5は平坦化工程を説明する図であり、(a)に示すプッシャ11でパイプ素材37を押すと、パイプ素材37は図右から左へ移動を開始する。
【0023】
すると、(a)のb断面図である(b)に示すように、パイプ素材37の左の端部38と右の端部39との間に刃部13が嵌ることで、突合わせ部40を真上に臨ませることができる。これで、パイプ素材37の方位が定まる。
【0024】
次に、(a)のc断面図である(c)に示すように、平坦型14で突合わせ部40が中心側(下)へ押され、結果、突合わせ部40は平坦になった。図4で説明したように、素材パイプ37の一部が想像線35、36で示すように移動するため、図5(c)に示す突合わせ部40は、綺麗に平坦になる。
【0025】
なお、図5(a)において、パイプ素材37が溶接開始位置に到達する直前まではエアシリンダ23を下げておく。そして、パイプ素材37が溶接開始位置に到達する直前にエアシリンダ23を上昇させ、溶接工程に移行する。
【0026】
図6は溶接工程と押し潰し工程を説明する図であり、(a)のb断面図である(b)に示すように、溶接トーチ15で溶接が施され、左の端部38と右の端部39とがビード42で接合される。左の端部38と右の端部39とが、同一の平面上で突合っているため、溶接は容易である。
【0027】
(c)は(b)の要部拡大図であり、左の端部38に対して右の端部39は上下にずれていない。なお、ビード42の一部は外周面28から上へ突出している。この部分を余剰ビード43と呼ぶ。
【0028】
次に、(a)のd断面図である(d)に示すように、潰しローラ18でビード42が押し潰される。溶接直後はビード42は高温であり、簡単に変形する。
この結果、(e)に示すように、外周面28から突出していた余剰ビード((c)の符号43)が実質的に無くなった。これで、外周面に突起が存在しない溶接パイプ44が製造できた。
【0029】
なお、溶接中は、エアシリンダ23は上昇位置に保持する。パイプ素材37に対する溶接及びビードの押し潰しが終了したら、エアシリンダ23を下降させる。
【0030】
図7は本発明に係るパイプの製造フロー図であり、ステップ番号(以下、STと略記する。)01で、先ず、平板をO形に成形する。次に、図5(c)に示す要領で、突合わせ部を平坦化する(ST02)。続いて、図6(b)に示す要領で、突合わせ部に溶接を施す(ST03)。さらに、図6(d)に示す要領で、余剰ビードを押し潰す(ST04)。このビード潰を筒部(図1符号12)の外で実施すると、パイプが変形してしまい、十分な潰しが得られない。この点、本実施例では、筒部の内部で潰しを実施するため、パイプが変形する心配はなく、十分な潰しが得られる。
【0031】
正円化の要求があるか否かをST05で確認する。要求がければフローを終了する。要求がある場合は、ST06に進み縮径加工(又は拡径加工)を施す。縮加工の好適な例を次図で説明する。
【0032】
図8は縮径加工の一例を示す図であり、溶接パイプ44に挿入する。この溶接パイプ44は突合わせ部40が平坦である。
このような溶接パイプ44を複数の分割型48で囲う。そして、分割型48を矢印のように中心に向かって押し出す。すると、溶接パイプ44が縮径される。
【0033】
縮径の際に、分割型48の曲率に沿って、突合わせ部40が曲率を付与される。そのために、溶接パイプは、正円断面に矯正される。
拡径加工でも同様に、拡大と正円断面化との両方が達成できる。
【0034】
尚、本発明は、排ガス浄化用の触媒装置に用いる外筒の製造に好適であるが、一般の溶接管の製造に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、排ガス浄化用の触媒装置に用いる外筒の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るパイプの製造装置の原理図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図2の補足図である。
【図5】平坦化工程を説明する図である。
【図6】溶接工程と押し潰し工程を説明する図である。
【図7】本発明に係るパイプの製造フロー図である。
【図8】縮径加工の一例を示す図である。
【図9】従来のパイプの製造装置の原理図である。
【図10】図9の10部拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
10…パイプの製造装置、11…プッシャ、12…筒部、13…刃部、14…平坦型、15…溶接トーチ、16…ビード潰し具、18…潰しローラ、37…パイプ素材、38…左の端部、39…右の端部、40…突合わせ部、43…余剰ビード、44…溶接パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板をO状に曲げ、突合わせ部を溶接するパイプの製造方法において、
前記突合わせ部を中心へ押すことで平坦にする平坦化工程と、
平坦化された突合わせ部を溶接する溶接工程と、
からなることを特徴とするパイプの製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程の直後に、外周面から突出した余剰ビードを押し潰すビード潰し工程を含むことを特徴とする請求項1記載のパイプの製造方法。
【請求項3】
平板をO状に曲げ、一対の端部を接合してパイプを製造するパイプの製造装置において、
このパイプの製造装置は、O状に曲げたパイプ素材を案内する筒部と、この筒部の入口に設けられ前記一対の端部の間に嵌ってパイプ素材の方位を決定する刃部と、この刃部の直後にて前記筒部に設けられ前記一対の端部を中心へ押して平坦にする平坦型と、この平坦型で平坦化した前記一対の端部を接合する溶接トーチと、前記筒部の後部又は後方に設けられ溶接パイプの外周面から突出した余剰ビードを押し潰すビード潰し具と、前記パイプ素材を移動させるプッシャとを含んでいることを特徴とするパイプの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12516(P2010−12516A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177320(P2008−177320)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000138521)株式会社ユタカ技研 (134)
【Fターム(参考)】