説明

パイプラインのカソード防食方法

【課題】直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインの腐食リスクを確実に回避し、効率的にカソード防食電流を供給する。
【解決手段】踏切部Lc下の鞘管C内に設置されたプローブ10をパイプラインPに接続して、計測時間内でプローブ電流とプローブオン電位を同時に計測する事前計測工程を有し、計測されたプローブ電流から求められるプローブ直流電流密度IDCとプローブオン電位EONの高い相関を利用して、プローブ直流電流密度IDCが常にカソード防食基準に合格するように、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONに基づいてパイプラインPに接続された直流電源装置15の出力電流を定電位制御すると共に、プローブ直流電流密度IDCの平均値がカソード防食基準の最小所要プローブ流入直流電流密度に合格するように制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONとは無関係にパイプラインPに接続された直流電源装置15の出力電流を定電流制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプラインのカソード防食方法に関し、特に、直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設され、前記踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインのカソード防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電気鉄道の踏切部は、踏切部を横断する車輌や人が円滑に走行できるようにレールの一部を地中に埋めており、これによってレールが接地状態になっている。また、レール上に車輪が嵌合ようにレールと地面との間には溝が形成されており、その溝に雨水,ごみ等が溜まって接地抵抗が低い状態になりやすい。したがって、直流電気鉄道車輌の運行時にレールに電流が流れると、レールから大地に流出する電流(レール漏れ電流という)が発生し易い状態(換言すると、レール漏れ抵抗が低い状態)になっている。
【0003】
また、近年の直流電気鉄道は回生制動車輌を用いているので、直流電気鉄道車輌自体が変電所のように大地からレールに電流を吸い上げる機能を有する場合があり、踏切部においては、大地に対するレールの電位(レール対地電位という)がプラスの場合もマイナスの場合もある。そして、このような踏切部では、レール対地電位がプラスの場合には、図1(a)のA点からB点に示すように、踏切から離れるに従って大地電位が徐々にマイナス電位に向かう山型の地中電位勾配を示し、レール対地電位がマイナスの場合には、図1(b)のF点からG点に示すように、踏切から離れるに従って大地電位が徐々にプラス電位に向かうすり鉢型の地中電位勾配を示すことになる。
【0004】
このような踏切部下を横断するように埋設されるパイプラインは、図1(a)のD点或いは図1(b)のI点に示すように、前述した地中電位勾配の中にあり、パイプラインの部分的な両端で、図1(a)のC点からE点のようにプラスからマイナス、或いは図1(b)のH点からJ点のようにマイナスからプラスに大地電位が変わり、電流の流出入が起こりやすい、すなわち腐食リスクが高い状態になっている。特に、同図(b)に示すように、レール対地電位がマイナスの場合には、踏切部の中心部で大きな電流流出傾向となるので、仮にこのような箇所に塗覆装欠陥部が生じると大きな腐食事故を招く虞がある。したがって、踏切部が腐食リスクの高い状態になった場合には、パイプラインに充分なカソード防食電流を供給することによって腐食リスクを回避することが必要になる。
【0005】
一方、踏切部周辺のレール対地電位は直流電気鉄道車輌の運行状況によって大きく且つ頻繁に変化し、直流電気鉄道車輌の非運行時等ではカソード防食電流の供給は必要最小限でよい場合もある。このような状況変化を考慮することなく、腐食リスクの高い状態のみに着目してパイプラインにカソード防食電流を供給すると、直流電気鉄道車輌の非運行時等ではパイプラインが過防食になり、塗覆装の陰極剥離や水素応力割れといった過防食リスクが生じる問題があり、また、踏切下に他埋設パイプラインが交錯する状況下では、カソード防食電流の一部が他埋設パイプラインに流入して流出点で電食が発生する現象(この現象を直流干渉という)が生じる問題がある。したがって、踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインに対しては腐食リスクの発生状況に応じて効率的にカソード防食電流を供給することが必要になる。
【0006】
このような直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインのカソード防食方法として、例えば、下記非特許文献1には、最も管対地電位がプラスよりの地点(最もカソード防食状況の悪い地点)に照合電極を設置し、定電位自動制御整流器で外部電源方式のアノードから出力するカソード防食電流を調整することが記載されている。
【0007】
また、下記特許文献1には、一つの防食領域に設置された主外部電源カソード防食システムに加えて踏切部近傍に局所的なカソード防食システムを設置し、この局所的なカソード防食システムにおいて定電位制御を行うことが記載されており、この定電位制御が行われる直流電源装置の出力を、踏切部下に設置したプローブに流入するプローブ流入直流電流密度の最小値が最小所要プローブ流入直流電流密度(0.1A/m)以上になるように設定することが記載されている。なお、この場合、直流電流が電解質からプローブに流入する方向(カソード防食方向)をプラスとしている。また、前述したプローブ流入直流電流密度の計測条件を、雨天時で且つ踏切部を直流電気鉄道車輌が通過している時とし、プローブ直流電流密度の所定時間間隔毎に計測された計測値と該計測値と同時に計測された踏切部でのレール対地電位の計測値との正相関を確認し、統計的に有意な正相関が確認できた場合に前述した定電位制御を行うとしている。
【非特許文献1】A.W.Peabody著「Control of pipeline corrosion」NACE International,1967年,p.145
【特許文献1】特開2007−291433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常踏切部下には、踏切部を横断する車輌の輪荷重がパイプラインに作用しないように、ヒューム管或いは鋼製鞘管等のパイプライン保護用鞘管が配備されており、この鞘管内を通ってパイプラインが敷設されている。このような状況下では、前述した非特許文献1に記載の方法を採用しようとすると、以下に示す問題がある。
【0009】
一つには、カソード防食電流を常時制御するための照合電極として、鞘管内に設置する適切な照合電極が存在しないという問題がある。通常用いられる飽和硫酸銅電極を用いようとすると、鞘管内の電解質(通常、モルタルが用いられる)環境で飽和硫酸銅電極が長期に亘って液絡がとれる保証が無い(飽和硫酸銅電極内の飽和硫酸銅溶液が電解質に流出し、電極電位を示さなくなるリスクがある)。飽和硫酸銅電極に換えて、パーマネント飽和硫酸銅電極或いは亜鉛照合電極やマグネシウム照合電極等の金属電極を用いようとしても、鞘管内に設置されたパーマネント飽和硫酸銅電極においては長期に亘ってそれ自体が安定した電極電位を示すことを確認することができない。また、金属電極においては、そもそも地中電位勾配の地帯の中では、金属が安定した電極電位を示さない。
【0010】
また、照合電極を用いた定電位制御では、パイプラインの交流腐食リスクを評価できない問題がある。大きな交流腐食リスクがある状況下では、プローブ交流電流密度がカソード防食基準に合格していることを前提としてカソード防食電流の定電位制御が行われるべきであり、プローブ交流電流密度がカソード防食基準に合格していない場合には、まず交流腐食リスク低減対策を講じてプローブ交流電流密度がカソード防食基準に合格していることを確認した上で、カソード防食電流の定電位制御が行われる。前述した非特許文献1に記載の方法ではプローブ電流を計測しないので、プローブ電流密度の交流成分であるプローブ交流電流密度を用いた交流腐食リスクの評価ができない問題がある。
【0011】
これに対して、前述した特許文献1に記載の従来技術は、プローブ電流密度を計測するので、交流腐食リスクを合わせて評価することが可能である。この従来技術は、踏切部での効果的なカソード防食を実現できるものの、レール対地電位を直接計測して、プローブ直流電流密度とレール対地電位との相関をとって腐食リスクの高い状況を確認しているので、直流電気鉄道車輌運行時にレール対地電位を計測するという危険且つ困難な作業を伴い、実施が行い難い問題がある。
【0012】
また、踏切部の管対地電位状態を検知してパイプラインに供給するカソード防食電流を定電位制御しようとすると、踏切部のように頻繁且つ大きく管対地電位状態が変化する場合には、頻繁に直流電源装置がオフ状態になる。したがって、特許文献1に示す例のように、踏切部に対して局部的なカソード防食を行い、防食領域全体は別の主外部電源によって全体的なカソード防食を行う場合は問題がないが、単独の直流電源装置で踏切部を含む防食領域全体のカソード防食を行おうとすると、防食領域内のパイプラインを無防食状態にする場合があり、踏切部以外の箇所に腐食リスクが生じる可能性がある。
【0013】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものであって、直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインの腐食リスクを確実に回避すること、このようなパイプラインに対して過防食や他埋設パイプラインへの直流干渉が生じることなく、効率的にカソード防食電流を供給することができること、踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインに対しても踏切部下のカソード防食状況を的確に把握しながらカソード防食電流の出力制御が可能であること、併せて交流腐食リスクの評価が可能であること、カソード防食電流供給時のレール対地電位の計測を避けて実施しやすい方法を提供すること、単独のカソード防食システムで、踏切部を含む防食領域全体に敷設されたパイプラインのカソード防食を適正に行うことができること等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明は以下の特徴を具備している。一つには、直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設され、前記踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインのカソード防食方法であって、前記鞘管内における前記踏切部の中央に設置されて前記パイプラインの塗覆装欠陥部を模擬した唯一のプローブを前記パイプラインに接続して、設定された計測時間内で前記プローブにおけるプローブ電流と該プローブにおけるプローブオン電位を同時に計測する事前計測工程を有し、計測された前記プローブ電流から求められるプローブ直流電流密度と前記プローブオン電位の高い相関を利用して、前記プローブ直流電流密度が常にカソード防食基準に合格するように、前記踏切部における地中電位勾配地帯の外に設置した制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位に基づいて前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を定電位制御すると共に、前記プローブ直流電流密度の平均値がカソード防食基準に合格するように前記制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位とは無関係に前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を定電流制御することを特徴とする。
【0015】
また一つには、直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設され、前記踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインのカソード防食方法であって、前記鞘管内における前記踏切部の中央に設置されて前記パイプラインの塗覆装欠陥部を模擬した唯一のプローブを前記パイプラインに接続して、設定された計測時間内で前記プローブにおけるプローブ電流と該プローブにおけるプローブオン電位を同時に計測する事前計測工程を有し、計測した前記プローブ電流からプローブ直流電流密度を求めて、前記計測時間内の基本区間毎に前記プローブ直流電流密度の区間内最小値を求め、該区間内最小値とその出現時刻における前記プローブオン電位とを一つの組データとして、前記計測時間での全ての組データから前記区間内最小値と前記プローブオン電位との相関を求め、前記区間内最小値と前記プローブオン電位とに有意な相関が認められるときに、設定した閾値よりマイナス側の前記プローブオン電位を有する前記組データが全て最小所要プローブ流入直流電流密度以上の前記区間内最小値を有する閾値を定め、前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を制御するに際して、前記踏切部における地中電位勾配地帯の外に設置した制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位に基づいて、前記閾値を基準値とする定電位制御を行うと共に、前記制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位とは無関係に所望の一定電流を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このような特徴を有する本発明は、パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を制御するに際して、踏切部下の鞘管内にプローブを設置して、プローブ電流とプローブオン電位を同時に計測し、プローブ電流から求められるプローブ直流電流密度とプローブオン電位の高い相関を利用して、プローブ直流電流密度が常にカソード防食基準に合格するように、制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位に基づく定電位制御を行っている。これによって、踏切部下のカソード防食状況をプローブ直流電流密度と相関の高いプローブオン電位で検知しながらカソード防食電流を供給することができ、プローブオン電位状態が大きく且つ頻繁に変化する踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインの腐食リスクを確実に回避することができる。
【0017】
また、制御用照合電極に対するプローブオン電位の計測によって、直流電気鉄道車輌の運行状況等によって変化する踏切部下の管対地電位状態を検知しながら直流電源装置の出力制御が行われるので、パイプラインに対しての過防食や他埋設パイプラインへの直流干渉といった不都合が生じることなく、効率的にカソード防食電流を供給することができる。
【0018】
踏切部下に配備された鞘管内に配置されるのは一つのプローブのみであり、鞘管内や地中電位勾配の地帯の中に照合電極を配置しないので、照合電極を介してプローブオン電位を安定して計測することができる。したがって、踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインに対しても踏切部下のカソード防食状況やプローブオン電位変化の状況を的確に把握しながらカソード防食電流の出力制御が可能である。カソード防食電流の出力制御を行うために検知するプローブオン電位は、地中電位勾配の地帯の外に制御用照合電極を設置して計測するので、この制御用照合電極として金属電極を採用して安定且つ継続的な計測を行うことができる。
【0019】
踏切部下の鞘管内にプローブを設置してプローブ電流を計測するので、プローブ電流の交流成分であるプローブ交流電流密度による交流腐食リスクの評価を併せて行うことが可能である。したがって、交流腐食リスクが高いと評価された場合には、交流誘導低減手段の接続等、交流腐食リスク低減措置を施した上でカソード防食電流の出力制御を行うことができる。
【0020】
また、レールに直接接点をとるレール対地電位の計測をカソード防食電流供給時には省略できるので、実施しやすい方法を提供することができる。
【0021】
そして、踏切部下のプローブオン電位が頻繁且つ大きく変化する場合にも、全ての状態でプローブ直流電流密度がカソード防食基準(最小所要プローブ流入直流電流密度以上)に合格するようにカソード防食電流の定電位制御を行い、更に、踏切部下のプローブオン電位とは無関係に平均的にプローブ直流電流密度がカソード防食基準に合格するように、常時一定のカソード防食電流を出力するので、プローブオン電位が頻繁且つ大きく変化する踏切部下であっても常に良好なカソード防食状態を維持することができると共に、直流電源装置がオフになる無防食状態を作らない。これによって、踏切部下を横断するように埋設されたパイプラインに対して、一つの直流電源装置を用いて、踏切部下の局部的なカソード防食を適正に行いながら、踏切部下を含む所定の防食領域全体に常にカソード防食電流を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の実施形態に係るパイプラインのカソード防食方法を実施するためのシステム構成を示した説明図である。踏切部Lcはレール(直流電気鉄道レール)Lの道路等を横断する箇所に設けられるものであり、その下にヒューム管等の鞘管Cが配備されている。そして、踏切部Lc下の鞘管C内を通って、踏切部Lcを横断するようにパイプラインPが敷設されている。パイプラインPはその表面に塗覆装Pcが施されている。このパイプラインPはより具体的には、プラスチック等の高抵抗率塗覆装が施された鋼製パイプラインを対象にすることができる。また、パイプラインPは所定の防食領域で絶縁的に区画されており、数十〜数百mの範囲の防食領域が図示省略の絶縁継手間に形成されている。
【0023】
このような踏切部Lcでは、直流電気鉄道車輌の運行時にはレールLに1000〜3000Aの直流電流が流れることになり、踏切部Lc下にはレール漏れ電流が発生する。これによって、図1に示すように、踏切部Lcの直下及びその周辺には地中電位勾配の地帯が形成されることになる。
【0024】
このような踏切部Lcに対して、鞘管C内にプローブ10が設置されている。より具体的には、プローブ10は鞘管C内で踏切部Lcの中央付近に設置されている。通常はパイプラインPの埋設時にプローブ10をポリプロピレンのような絶縁物のバンドでパイプラインPに縛り付けて固定して鞘管Cと共に地中に埋め込み、プローブ10に接続した電線を地上に引き出し可能にしておく。プローブ10はパイプラインPの塗覆装欠陥部を模擬した試験片で、パイプラインPの構成材料と同じ材料で形成された導電部材である。ここでは、鞘管C内に設置されているプローブ10を唯一つパイプラインPに接続しており、複数のプローブ10をパイプラインに接続することによるプローブ間での電流の出入りを排除している。
【0025】
事前計測工程;
パイプラインPのカソード防食を行うのに先立って、図2(a)に示すように、前述したプローブ10をパイプラインPに接続して、設定された計測時間内でプローブ10におけるプローブ電流とプローブ10におけるプローブオン電位を同時に計測する。計測時間としては2〜3時間をとり、所定のサンプリング時間(例えば0.1ms)毎にプローブ電流Iとプローブオン電位Eを計測する。プローブ電流Iはプローブ10とパイプラインPとを接続する電線間に接続されたプローブ電流計11によって計測される。プローブオン電位Eは、プローブ10とパイプラインPとの接続がオン状態での管対地電位であり、プローブ10とパイプラインPとを接続する電線と照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)12とを接続する電線間に接続されるプローブオン電位計13によって計測される。ここで、照合電極12は、踏切部Lcによる地中電位勾配の地帯から外に形成されているターミナルボックスTBに設置する。
【0026】
この事前計測工程は、カソード防食にとって厳しい条件下で行われ、特には、レール漏れ抵抗が低くなる雨天時で、且つレール漏れ電流の発生が顕著な直流電気鉄道車輌の運行時に行うことが好ましい。また、プローブ直流電流とプローブオン電位との相関を検証する場合に、直流電気鉄道車輌の運行が原因で両者の相関(負相関)が高くなることを確認するために、一つの現場で最初の1回だけレール対地電位ER/Sをプローブ電流I,プローブオン電位Eと同時に計測する。
【0027】
プローブ直流電流密度IDC,プローブオン電位EON等の算出工程;
例えば0.1ms毎に計測されたプローブ電流計測値を単位時間(例えば20ms)毎に平均化してプローブ断面積Aで除することで、プローブ直流電流密度IDCが求められる。更に、単位時間でのプローブ電流計測値の実効値をプローブ断面積Aで除することでプローブ交流電流密度IACが求められる。プローブ交流電流密度IACは踏切部Lcを含む防食領域内のパイプラインPに交流腐食リスクがあるか否かを評価するために求めるものであって、カソード防食を実行する際のパラメータとして用いるものではない。そして、プローブオン電位Eの計測値から単位時間毎の平均値EONを求める(以下、この平均値EONをプローブオン電位という)。
【0028】
プローブ直流電流密度IDC,プローブ交流電流密度IAC,プローブオン電位EONを求める計算式は以下の式(1)〜(3)とおりである。
【0029】
【数1】

【0030】
プローブ直流電流密度IDCの基本区間内最小値IDCminの抽出工程;
計測時間内を所定の時間毎に区画した基本計測区間内で、単位時間毎に求めたプローブ直流電流密度IDCを順次比較して、その基本計測区間内での最小値(区間内最小値という)IDCminを求める。それと共に、区間内最小値IDCminが出現した時刻の単位時間内で求められるプローブオン電位EONを抽出する。そして、基本計測区間で一つ抽出された(IDCmin,EON)を一つの組データとして保存し、計測時間内で<計測時間/基本計測区間>個の組データを抽出・保存する。
【0031】
図3は、前述した事前計測工程から(IDCmin,EON)の組データを抽出・保存するまでの工程例を示した説明図である。例えば、2時間の計測時間で基本計測区間を10sに設定とすると、720個の基本計測区間が得られることになり、その基本計測区間毎に一組の(IDCmin,EON)の組データを抽出・保存することになるので、2時間の計測時間では720組の組データが得られることになる。
【0032】
基本計測区間毎の(IDCmin,EON)の抽出は、0.1ms毎に計測した(I,E)の同時計測値をそれぞれ単位時間(20ms)毎に200個集めて、前述した式(1)及び式(2)によってIDCとEONを求める。そして、単位時間毎に求めたIDCを1基本計測区間10s内で比較し、IDCが最小値となる単位時間を選んで、その単位時間での(IDC,EON)を(IDCmin,EON)とする。ここで、計測時間及び基本計測区間は任意な時間に設定可能である。単位時間はプローブ交流電流密度IACを同時に求めるために、商用電源周波数(例えば、50Hz)の1周期相当の時間に設定している。
【0033】
区間内最小値IDCminとプローブオン電位EONの相関確認工程;
本発明の実施形態では、後述するカソード防食電流制御工程において、制御用照合電極で計測されたプローブオン電位EONを検知パラータとしたカソード防食電流の出力制御を行う。これは、踏切部Lcを含む防食領域に埋設されたパイプラインPのプローブオン電位EONと踏切部Lc下の鞘管C内に設置されたプローブ10のプローブ直流電流密度との間に高い負相関があることを前提している。
【0034】
図4は、計測時間内で抽出された(IDCmin,EON)を、横軸をEONとし縦軸をIDCminとした相関図にプロットした実例を示したものである(IDCminの単位はA/m,EONの単位はVCSE(飽和硫酸銅電極基準の電位))。ここでは、計測時間を2時間として、雨天時の直流電気鉄道車輌運行時間帯における計測値から10sの基本計測区間毎に(IDCmin,EON)の組データを抽出している。図示のように、直流電気鉄道車輌運行時間帯では、パイプラインPのプローブオン電位EONとプローブ直流電流密度の区間内最小値IDCminは相関係数が−0.908と非常に高い負相関を示している。
【0035】
因みに、このとき同時に計測したレール対地電位ER/SとIDCmin,EONとの相関をみると、図5(a),(b)に示すように、ER/SとIDCminは高い正相関があり(相関係数:0.816)、ER/SとEONは高い負相関がある(相関係数:−0.884)があることが確認できる。このように、ER/SとIDCminに高い正相関があり、ER/SとEONに高い負相関がある場合で、IDCminとEONに高い負相関があることが確認できれば、IDCminとEONの相関はレール対地電位の変化に起因するものであることが確認できる。したがって、IDCminとEONの相関を利用して、EONを検知パラメータとしたカソード防食電流の出力制御を行うことで、レール対地電位ER/Sの変化が激しい踏切部Lc下に埋設されたパイプラインPに対して、レール対地電位ER/Sの変化によって生じる腐食リスクを効率的に回避するカソード防食電流の出力制御が可能になる。この際、レール対地電位ER/Sとの相関は一つの現場において一回確認できればそれでよく、以後の計測・制御時にはレール対地電位ER/Sの計測は不要である。また、明らかに他埋設パイプライン等の金属構造物がなく、IDCminとEONの相関がレール対地電位の変化に起因するものであると推定できる場合は、レール対地電位ER/Sとの相関確認を省略することができる。
【0036】
このような相関確認工程によって、レール対地電位ER/Sの変化(すなわち、直流電気鉄道車輌の運行)の影響によってIDCminとEONとに有意な負相関が認められたときに、IDCminとEONとの有意な負相関を利用して、レール対地電位の変化に対応した効果的なカソード防食電流の制御を行うことができる。
【0037】
カソード防食電流制御工程;
図2(b)は、本発明の実施形態に係るパイプラインのカソード防食方法におけるカソード防食電流制御工程を実行するためのシステム構成を示した説明図である。パイプラインPには、前述したように鞘管C内に設置されたプローブ10が接続されており、パイプラインP,プローブ10間を接続する電線と制御用照合電極12Cとを接続する電線間にプローブオン電位計13が接続されている。ここでの制御用照合電極12Cは、踏切部Lcによる地中電位勾配地帯の外に設けられたターミナルボックスTB内に設置されている。
【0038】
そして、パイプラインPの近くに埋設されているアノード14がパイプラインPに接続されており、このアノード14とパイプラインPとを接続する電線間に直流電源装置15が接続されている。直流電源装置15は、アノード14からカソード防食電流を発生させるように、アノード側がプラスでパイプラインP側がマイナスとなる電源とその電源の出力電流を制御する制御手段を備えており、その制御手段には、プローブオン電位計13によって計測されたプローブオン電位EONの計測値が制御用の検知パラメータとして入力するようになっている。
【0039】
この際のプローブオン電位EONの計測値について詳細を説明すると、例えば、0.1ms毎のサンプリングを行い、20msで200個のデータを得て、この200個のデータから前述した式(3)によってEONを求める。そして、0.5s毎の計測区間を設定して、その間での最大値EONmaxを抽出し、これを制御用の検知パラメータとする。EONmaxを制御用の検知パラメータとするのは、EONとIDCminが負相関を示すので、より腐食リスクに対して厳格な制御を行うためである。計測区間の0.5sは、踏切部Lcでのプローブオン電位EONの変動を検知して制御手段にフィードバックするのに必要且つ充分な間隔である。
【0040】
このシステムにおいては、アノード14及び直流電源装置15は踏切部Lcを含む防食領域内には一つだけ設けられている。すなわち、アノード14から流出するカソード防食電流によって、パイプラインPにおける踏切部Lc下の埋設箇所をカソード防食すると共に、絶縁継手で区画されたパイプラインPの防食領域全体をカソード防食する。このように一つのアノード14及び直流電源装置15によって踏切部Lcを含む防食領域全体のカソード防食を行う場合には、プローブオン電位が頻繁且つ大きく変化する踏切部Lcを効率的にカソード防食すると共に、防食領域全体が無防食にならないように制御することが必要になる。
【0041】
このような制御を実現するために、直流電源装置15における制御手段の機能は、プローブ10でのプローブ直流電流密度が常にカソード防食基準に合格するように、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONに基づいて、出力電流を定電位制御すると共に、プローブ10でのプローブ直流電流密度の平均値がカソード防食基準に合格するように、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONとは無関係に、出力電流を定電流制御する。すなわち、直流電源装置15の制御手段は、踏切部Lc下の局所的カソード防食を担う定電位制御機能と防食領域全体のカソード防食を担う定電流制御機能を併せ持っている。
【0042】
これによって、踏切部Lc下のカソード防食状態は、頻繁且つ大きく変化する管対地電位状態に応じて、プローブ10でのプローブ直流電流密度が常にカソード防食基準に合格するように直流電源装置15の出力電流が定電位制御されることで常に良好な状態に維持されることになる。また、防食領域全体のカソード防食状態は、プローブ直流電流密度の平均値がカソード防食基準に合格するようにプローブオン電位EONとは無関係に出力電流が定電流制御されるので、カソード防食領域内のパイプラインPが無防食になることを確実に排除して腐食リスクの発生を防いでいる。以下に、定電流制御と定電位制御の具体的な実施形態を説明する。
【0043】
定電流制御値算出工程;
直流電源装置15の制御手段による定電流制御は、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONとは無関係に所望の一定電流を出力する。すなわち、レール対地電位の変動に関係なくアノード14から定電流値のカソード防食電流を出力する。この一定電流がバイアス電流になるので、後述する定電位制御のための電源がオフ状態になっても一定のカソード防食電流が出力されることになり、パイプラインP全体が無防食になる時間を作らない。
【0044】
ここでの一定電流は、前述した事前計測工程における計測時間内で得た組データ(IDCmin,EON)によって求めた回帰線に、区間内最小値IDCminとして最小所要プローブ流入直流電流密度である0.1A/mを代入し、これによって基準となるプローブオン電位EONを求める。そして、一定電流値を段階的にシフトさせて平均的なプローブオン電位EONが基準となる値になったところの一定電流値を定電流制御の出力電流値に定める。最小所要プローブ流入直流電流密度(0.1A/m)は、プローブ直流電流密度を指標とするパイプラインにおけるカソード防食基準の下限値である。計測されたプローブ直流電流密度IDCがこの値以上であり且つ過防食にならない範囲の場合にはカソード防食基準に合格していることになる。ここでは、プローブ直流電流密度IDCの値として区間内最小値IDCminを用いているので、この値がカソード防食基準に合格していれば区間内の全てのIDCはカソード防食基準に合格していることになる。
【0045】
図4に示した例でより具体的に説明すると、相関図にプロットした組データ(IDCmin,EON)の回帰線を求めて、その縦軸側変数として0.1A/mを代入すると、図示のようにEON(0.1A/m)=−3.16VCSEを得る。このEON(0.1A/m)=−3.16VCSEが定電流制御値になり、一定電流を流し続けたときのEONの平均値がこの値−3.16VCSEになるように、定電流値を設定する。
【0046】
定電位制御値算出工程;
一方、直流電源装置15の制御手段による定電流制御は、頻繁且つ大きく変化する管対地電位状態に対して、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONを基準値と比較し、比較結果によって定電位発生源をオン・オフ制御する。ここで用いられる制御用照合電極12Cは前述したように踏切部Lcによる地中電位勾配地帯の外に設置する。制御用照合電極12Cは継続性が要求されるので亜鉛照合電極やマグネシウム照合電極等の金属電極を用いる。
【0047】
この定電位制御を行うための基準値(定電位制御値)は、事前計測工程で得た計測時間内の全組データ(IDCmin,EON)から得られるIDCminとEONの相関を利用して求め、レール対地電位が大きく変動した場合であっても、計測されたIDCが全て最小所要プローブ流入直流電流密度(0.1A/m)以上になる、すなわちカソード防食基準に合格するようなEONに設定する。
【0048】
図4に示した例でより具体的に説明すると、相関図にプロットした全組データ(IDCmin,EON)に対して、EONの閾値を定め、図示の相関図においては横軸に垂直な閾線(破線)を引く、この閾線を横軸(EON)のマイナス方向移動させていき、その閾線よりマイナス側の組データでIDCminが0.1A/mより小さい値の組データが存在しなくなる最大の閾線(閾値)を求める。すなわち、設定した閾値よりマイナス側のプローブオン電位EONを有する組データ(IDCmin,EON)が全て最小所要プローブ流入直流電流密度(0.1A/m)以上のIDCminを有する閾値(EON(定電位制御値))を定める。図4の例では、EON(定電位制御値)=−4.2VCSEとなる。
【0049】
制御実行工程;
直流電源装置15によるカソード防食電流の制御は、前述した閾値を定電位制御値とする定電位制御に前述した一定電流を出力する定電流制御を重畳した制御とする。すなわち、制御用照合電極12Cによって計測されたプローブオン電位EONが前述した閾値(EON(定電位制御値))よりマイナス側の場合には、定電位発生源をオフ状態にして定電流制御のみの一定電流を出力し、制御用照合電極12Cによって計測されたプローブオン電位EONが前述した閾値(EON(定電位制御値))よりプラス側の場合には、定電位発生源の出力電流値に定電流制御の一定電流値を加えたカソード防食電流がアノード14から出力される。
【0050】
このようなカソード防食電流の出力制御は直流電源装置15の稼働時に常時行う。そして、例えば1年毎の定期点検時には、前述した事前計測工程を新たに行い、新たに抽出した組データ(IDCmin,EON)に基づいて前述したIDCminとEONの相関図を更新し、前述したEON(0.1A/m)とEON(定電位制御値)を更新した上での制御を行う。このような更新時には、事前計測工程でのレール対地電位の計測或いはレール対地電位との相関確認は不要になる。
【0051】
このような特徴を有する本発明の実施形態に係るパイプラインPのカソード防食方法は、踏切部Lc下の鞘管C内にプローブ10を設置して、プローブ電流Iとプローブオン電位Eを同時に計測し、プローブ電流Iから求められるプローブ直流電流密度IDCとプローブオン電位EONの高い相関を利用して、プローブ直流電流密度IDCが常にカソード防食基準に合格するように、制御用照合電極12Cによって計測されるプローブオン電位EONに基づいて、直流電源装置15の出力電流を定電位制御する。これによって、踏切部Lc下のカソード防食状況を評価しながらカソード防食電流を供給することができ、直流電気鉄道の踏切部Lc下を横断するように埋設されたパイプラインPの腐食リスクを確実に回避することができる。
【0052】
また、制御用照合電極12Cを介したプローブオン電位EONの計測によって直流電気鉄道車輌の運行状況等によって変化する踏切部Lc下の管対地電位状態を検知しながら直流電源装置15の出力制御を行うので、パイプラインPに対しての過防食や他埋設パイプラインへの直流干渉といった不都合が生じることなく、効率的にカソード防食電流を供給することができる。
【0053】
踏切部Lc下に配備された鞘管C内に配置されるのは一つのプローブ10のみであり、鞘管C内や地中電位勾配の地帯の中に照合電極を配置しないので、照合電極を介してプローブオン電位を安定して計測することができる。したがって、踏切部Lc下に配備された鞘管C内を通って敷設されるパイプラインPに対しても踏切部Lc下のカソード防食状況や電位変化の状況を的確に把握しながらカソード防食電流出力の制御が可能である。カソード防食電流出力の制御を行うために検知するプローブオン電位EONは、地中電位勾配の地帯の外に制御用照合電極12Cを設置して計測するので、この制御用照合電極12Cとして金属電極を採用して安定且つ継続的な計測を行うことができる。
【0054】
踏切部Lc下の鞘管C内にプローブ10を設置してプローブ電流を計測するので、プローブ電流の交流成分であるプローブ交流電流密度IACによる交流腐食リスクの評価を併せて行うことが可能である。したがって、交流腐食リスクが高いと評価された場合には、交流誘導低減手段の接続などのリスク低減措置を施した上でカソード防食電流の出力制御を行うことができる。
【0055】
また、カソード防食電流供給時のレール対地電位の計測を省略できるので、直流電気鉄道管理者の許可や直流電気鉄道車輌の運行を避けるなどの困難な事情を回避することができ、実施しやすい方法を提供することができる。
【0056】
そして、踏切部Lc下のプローブオン電位が頻繁且つ大きく変化する場合にも、全ての状態でプローブ直流電流密度がカソード防食基準(最小所要プローブ流入直流電流密度以上)に合格するようにカソード防食電流の定電位制御を行い、更に、踏切部Lc下の管対地電位状態とは無関係に常時平均的にプローブ直流電流密度がカソード防食基準に合格するように一定のカソード防食電流を出力するので、管対地電位状態が頻繁且つ大きく変化する踏切部Lc下であっても常に良好なカソード防食状態を維持することができると共に、直流電源装置15がオフになる無防食状態を作らない。これによって、踏切部Lc下を横断するように埋設されたパイプラインPに対して、1つの直流電源装置15で、踏切部Lc下の局部的なカソード防食を適正に行いながら、踏切部Lcを含む所定の防食領域全体に常にカソード防食電流を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】踏切部における地中電位勾配を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパイプラインのカソード防食方法を実施するためのシステム構成を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態において、事前計測工程から(IDCmin,EON)の組データを抽出・保存するまでの工程例を示した説明図である。
【図4】計測時間内で抽出された(IDCmin,EON)をプロットした横軸をEONとし縦軸をIDCminとした相関図の実例である。
【図5】計測時間内で抽出された(ER/S,IDCmin)と(ER/S,EON)の相関図の実例である。
【符号の説明】
【0058】
10:プローブ,
11:プローブ電流計,
12: 照合電極(飽和硫酸銅電極),12C:制御用照合電極(金属電極),
13:プローブオン電位計,
14:アノード,
15:直流電源装置,
P:パイプライン,Pc:塗覆装,
Lc:踏切部,L:レール,
C:鞘管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設され、前記踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインのカソード防食方法であって、
前記鞘管内における前記踏切部中央に設置されて前記パイプラインの塗覆装欠陥部を模擬した唯一のプローブを前記パイプラインに接続して、設定された計測時間内で前記プローブにおけるプローブ電流と該プローブにおけるプローブオン電位を同時に計測する事前計測工程を有し、
計測された前記プローブ電流から求められるプローブ直流電流密度と前記プローブオン電位の高い相関を利用して、前記プローブ直流電流密度が常にカソード防食基準に合格するように、前記踏切部における地中電位勾配地帯の外に設置した制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位に基づいて前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を定電位制御すると共に、前記プローブ直流電流密度の平均値がカソード防食基準に合格するように、前記制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位とは無関係に前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を定電流制御することを特徴とするパイプラインのカソード防食方法。
【請求項2】
直流電気鉄道の踏切部下を横断するように埋設され、前記踏切部下に配備された鞘管内を通って敷設されるパイプラインのカソード防食方法であって、
前記鞘管内における前記踏切部の中央に設置されて前記パイプラインの塗覆装欠陥部を模擬した唯一のプローブを前記パイプラインに接続して、設定された計測時間内で前記プローブにおけるプローブ電流と該プローブにおけるプローブオン電位を同時に計測する事前計測工程を有し、
計測した前記プローブ電流からプローブ直流電流密度を求めて、前記計測時間内の基本区間毎に前記プローブ直流電流密度の区間内最小値を求め、該区間内最小値とその出現時刻における前記プローブオン電位とを一つの組データとして、前記計測時間での全ての組データから前記区間内最小値と前記プローブオン電位との相関を求め、
前記区間内最小値と前記プローブオン電位とに有意な相関が認められるときに、設定した閾値よりマイナス側の前記プローブオン電位を有する前記組データが全て最小所要プローブ流入直流電流密度以上の前記区間内最小値を有する閾値を定め、
前記パイプラインに接続された直流電源装置の出力電流を制御するに際して、
前記踏切部における地中電位勾配地帯の外に設置した制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位に基づいて、前記閾値を基準値とする定電位制御を行うと共に、前記制御用照合電極によって計測されるプローブオン電位とは無関係に所望の一定電流を出力することを特徴とするパイプラインのカソード防食方法。
【請求項3】
前記事前計測工程は雨天時で前記直流電気鉄道運行時に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載されたパイプラインのカソード防食方法。
【請求項4】
前記一定電流は、前記計測時間内の前記組データによって得られた回帰線に前記区間内最小値として最小所要プローブ流入直流電流密度を代入して求められるプローブオン電位を得るための出力電流値であることを特徴とする請求項2又は3に記載されたパイプラインのカソード防食方法。
【請求項5】
前記パイプラインは高抵抗率塗覆装が施された鋼製パイプラインであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたパイプラインのカソード防食方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−53423(P2010−53423A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221869(P2008−221869)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】