説明

パイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造及びパイプルーフ工法の施工方法

【課題】 施工現場で先行管と後続管を容易かつ短時間で確実に接合することのできる信頼性の高いパイプルーフ工法に使用する鋼管の接合構造及びパイプルーフ工法の施工方法を提供する。
【解決手段】 外周に横連結継手3が設けられた先行管1及び後続管2と、先行管1に接合される外側継手管10又は内側継手管20(以下、第1の継手管という)及び後続管2に接合される内側継手管20又は外側継手管10(以下、第2の継手管という)によって構成した鋼管継手部材Jとを有し、第1の継手管に第2の継手管を嵌合し、先行管1と後続管2に設けた横連結継手3の間において、鋼管継手部材Jにディスタントピース5を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、本体構造物であるトンネルの掘削に先行して、掘削断面の外周に沿ってトンネルの軸方向に一定間隔で鋼管を水平に押し込んで推進させるパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造及びパイプルーフ工法の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプルーフ工法とは、鋼管を本体構造物の外周に沿って等間隔で水平に打設し、ルーフや壁を造る工法で、鋼管はアーチ状や柱列状に設置され、その中で本体構造物のための掘削作業が行われる。設置された鋼管群により地盤が安定するため、掘削作業及び近接する他の構造物の安全性が確保される。このようなパイプルーフ工法は、トンネルの坑口防護、地上構造物(建物、鉄道の軌道、道路など)の沈下防止、あるいは地中埋設物の防護工などとして利用されることが多い。
【0003】
近年、都市部の地下では土地利用の困難さから、既設のトンネルの近傍あるいは大規模構造物や鉄道軌道の直下などを掘削する必要が多くなっており、このような場所では、工事の際に既設構造物に対して影響を及ぼさないことが必要である。また、既設構造物の自重や車輌の荷重などによって発生する過剰土圧などの問題から掘削対象地盤の安定を図る必要がある。そのため、パイプルーフ工法は、近年その必要性を増しつつある。
【0004】
パイプルーフ工法に用いられる鋼管は、外径200mmの小径のものから外径1200mmの比較的大径のものまであり、長さは短いものでは数m、長いものでは100m程度のものが実績として存在する。
パイプルーフ工法の施工にあたっては、まず、推進用の立坑を掘削してその中に掘削及び鋼管推進用の機械を設置する。そして、運搬可能な程度の長さ(立坑に搬入可能な長さで、例えば、6〜10m)に切断した鋼管を立坑内に搬入して順次先行する鋼管と接合して推進していく。この場合、鋼管の軸方向の接合は、現状では溶接による場合がほとんどである。なお、鋼管の周壁の軸方向には、鋼管を平行に設置して連結するために、さらに必要に応じて止水性を付与するために、通常180°の間隔で対向して横連結継手が設けられており、隣接する鋼管と連結するようになっている。なお、この取付角度は適宜変更することができる。
【0005】
このような鋼管を用いたパイプルーフ工法の施工にあたっては、鋼管内に挿入した例えばオーガーの如き掘削機を、立坑内に設置した例えば1000KN〜3000KNの油圧ユニットを備えた推進用機械を駆動して、掘削機により地盤を掘削しつつ油圧により鋼管を押し込んで推進させる。そして、鋼管(以下、先行管という)が所定の位置まで推進されると掘削機を引き抜き、立坑内で次の鋼管(以下、後続管という)を先行管に溶接により接合し、接合された後続管を押し込んで先鋼管と共に地盤中に推進させ、以下、このような操作を繰返して、全長を地盤中に設置する。
【0006】
ところで、このようなパイプルーフ工法においては、先行管と後続管を、前述のように施工現場において溶接接合するのが一般的であった。しかしながら、溶接部の品質が溶接作業者の技量に左右される、狭い立坑内に溶接用の設備を設置しなければならない、溶接に時間がかかるなどの問題があるため、溶接に代る接合手段が望まれていた。
【0007】
パイプルーフ工法において、溶接に代る鋼管の接合方法として、継手付き大径鋼管と長さの短かい継手付き小径鋼管とを交互に直列に嵌入して、隙間調整用ボルトにより両鋼管の間の隙間を一定に調整し、端部に設けたシール固定リングの側面にシール材を固定して、両鋼管の間に圧入装置により充填固化材を注入することにより両鋼管を接合するようにした鋼管の接合方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−343190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の発明によれば、鋼管の接合にあたって溶接作業を必要としないが、多くの継手付き大径鋼管と継手付き小径鋼管を準備しなければならないので、管理が面倒である。また、接合にあたっては、施工現場で、大径鋼管と小径鋼管の交互の嵌合、両鋼管の間の隙間の調整、シール部材の取付、両鋼管のすき間への充填固化材の注入等多くの作業が必要なため面倒であるばかりでなく、充填固化材が硬化するまでは次の作業ができないため、接合に多大の時間を必要とする。さらに、鋼管は充填固化材のみで接合されているため、鋼管の推進に大きな力が加わった場合は、充填固化材が剥離して鋼管が移動してしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、施工現場で先行管と後続管を容易かつ短時間で確実に接合することのできる信頼性の高いパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造及びパイプルーフ工法の施工方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造は、外周に横連結継手が設けられた先行管及び後続管と、前記先行管に接合される外側継手管又は内側継手管(以下、第1の継手管という)及び前記後続管に接合される内側継手管又は外側継手管(以下、第2の継手管という)によって構成した鋼管継手部材とを有し、前記第1の継手管に第2の継手管を嵌合し、前記先行管と後続管に設けた横連結継手の間において、前記鋼管継手部材にディスタントピースを取付けるようにしたものである。
【0012】
上記のディスタントピースを、ボルトにより鋼管継手部材に取付けるようにした。
また、上記のディスタントピースを、外管と該外管内に挿入された該外管より長い内管とによって構成し、前記外管の両端部から突出した内管を前記第1、第2の鋼管の横連結継手に挿入して取付けるようにした。
さらに、上記のディスタントピースを、前記鋼管継手部材に接合された普通鋼材からなる取付板に溶接により接合するようにした。
【0013】
本発明に係るパイプルーフ工法の施工方法は、外周に横連結継手が設けられ後端部に上記第1の継手管が接合されて地盤中に貫入された先行管と、外周に横連結継手が設けられ前端部に前記第1の継手管に嵌合して接合する上記第2の継手管とを有し、前記先行管に後続管を接合するにあたり、前記先鋼管の推進を抑止する推進抑止手段を設けたものである。
【0014】
上記の推進抑止手段を、一端が先行管又はこれに接合された第1の継手管に取付けられ、他端が立坑内の固定部に取付けられた曳索によって構成した。
また、上記の推進抑止手段を、駆動手段を介して両端部が先行管及び後続管に固定され、前記駆動手段を操作することにより前記先行管及び後続管を互いに引寄せて接合するように構成した。
【0015】
上記地盤中に貫入された先行管に接合された第1の継手管に後続管に接合された第2の継手管を嵌合するための推進機械の押圧力を次のように設定した。
jmax>F1+Ac×kf−Ap×kh
但し、
jmax:推進機械の最大押圧力
1:第1の継手管に第2の継手管を嵌合するに必要な押圧力
c:地盤中の鋼管の表面積
f:地盤の単位面積当たりの表面積
p:鋼管の断面積
h:地盤の水平方向反力係数
【0016】
上記の第1の継手管と第2の継手管を接合したのち、該第1の継手管と第2の継手管に前記いずれかのディスタントピースを取付けた。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、施工現場で先行管と後続管を容易かつ短時間で接合することができるので、作業能率が向上して工期を短縮することのできる信頼性の高いパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造及びパイプルーフ工法の施工方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造の一例を示す斜視図、図2は図1の要部の縦断面図である。
本実施の形態に係る継手構造を構成する鋼管継手部材Jは高張力鋼材からなり、一方の鋼管1(以下、これを先行管という)の一端に溶接により接合される外側継手管10と、先行管1と同径の他方の鋼管2(以下、これを後続管というが、この後続管に次の後続管が接続された場合は、先行管となる)の一端に溶接により接合され、外側継手管10に嵌入(差込み)されて接合(接続)される内側継手管20とからなっている。
【0019】
3は先行管1及び後続管2の外周の軸方向に、それぞれ180°隔てて溶接により対向して接合された横連結継手で、隣接する鋼管に設けた横連結継手3と嵌合して連結される。図には、軸方向にスリット状の開口部4を有する断面C字状の横連結継手3(図4(c)参照)が示してある。
【0020】
外側継手管10は、先行管1と同形の円筒状に形成され、基部側(先行管1側)の内周面には深さhで拡径された凹陥部11が設けられており、この凹陥部11には一定の間隔でボルト挿通穴12が設けられている。
【0021】
内側継手管20はほぼ円筒状に形成され、基部側(後続管2側)には後続管2と同径の接合部21が設けられており、接合部21の上部には段部22を介して縮径部23が形成されている。この縮径部23には円周方向に一定の間隔でスリット24が設けられており、このスリット24により複数に分割されて分割片25が形成されている。そして、各分割片25の先端部寄りには、高さhで外方に突出した段部26が形成されており、また、先端部近傍には外側継手管10のボルト挿通穴12に対応してねじ穴27が設けられている。
【0022】
上記のように構成した鋼管継手部材Jにおいて、外側継手管10と内側継手管20を接合する場合は、内側継手管20を押圧して外側継手管10内に挿入する。これにより、内側継手管20の各分割片25は内側(縮径方向)に撓んで外側継手管10内に嵌入され、その段部22が外側継手管10の上端部14に当接して停止する。
このとき、図3に示すように、内側継手管20の段部26が外側継手管10の凹陥部11の上縁段部13に係止し、各ボルト挿通穴12とねじ穴27の位置が整合する。この状態で、各ボルト挿通穴12に挿通したボルト30をねじ穴27に螺入して、各分割片25を外側継手管10の内壁側に引寄せて固定する。
【0023】
このようにして、外側継手管10と内側継手管20が接合された鋼管継手部材Jにおいては、管軸方向の圧縮荷重に対しては、外側継手管10の先端部14と内側継手管20の段部22との当接部によって抵抗し、引張り荷重に対しては、外側継手管10の上縁段部13と内側継手管20の段部26との当接部で抵抗する。なお、強力な引張り力が作用した場合は、内側継手管20の分割片25が内側に撓んで、段部26が上縁段部13から外れるおそれがあるので、ボルト30がこれを防止する。つまり、ボルト30はあくまで補助手段である。
【0024】
次に、上記のように構成した鋼管継手部材Jにより、先行管1と後続管2の接合手順の一例について説明する。
図4に示すように、先行管1(最初に貫入する先行管の場合を示す)の外周の軸方向には、図4(b)に示すように、開口部4を互いに異なる方向に向けて、横連結継手3a,3b(以下、単に3と記すことがある)が対向して設けられており、また、下端部(後端部)には、外側継手管10が溶接により接合されている。
【0025】
また、同様に横連結継手3a,3bが設けられた後続管2の上端部(先端側)には内側継手管20が、下端部(後端部)には外側接続管10がそれぞれ溶接により接合されている。
これら横連結継手3の先行管1及び後続管2への接合、外側継手管10と内側継手管2の先行管1及び後続管2への接合は、あらかじめ工場等において行われる。
【0026】
このような先行管1へ後続管2を接合するにあたっては、図5に示すように、後続管2の内側継手管20を、先行管1の外側継手管10に嵌入し、ボルト30で固定する。これにより、図3に示すように、両者は一体に結合される。このとき、上下の横連結継手3aと3a、3bと3bは、その開口部4がそれぞれ同一線上に位置する。ついで、鋼管継手部材Jの上下の横連結継手3aと3a,3bと3bの間に、これらと連続し、かつ開口部4と6を整合させてそれぞれディスタントピース5を取付ける。なお、このディスタントピース5の長さH1は、先行管1と後続管2を接合したときの両者の横連結継手3間の間隔Hとほぼ等しく形成されている。これにより、先行管1と後続管2は、図6に示すように、一体に接合される。
【0027】
ところで、鋼管継手部材Jは、接続される鋼管1,2以上の強度を確保して継手部が破壊することのないように、前述のように高張力鋼材(強度600N/mm2以上)が用いられており、このため鋼管継手部材Jの外壁面に溶接により普通鋼材からなるディスタントピース5を接合するためには、予熱、後熱などの特別の配慮をしなければならない。しかしながら、狭い立坑内の施工現場では、予熱、後熱などを処理する設備の設置が困難であるばかりでなく、施工時間、品質管理などの面で種々問題がある。
【0028】
このような問題を解決するために、本実施の形態においては、図7(a)に示すように、外側継手管10と内側継手管20の横連結継手3,3を結ぶ線上に、あらかじめ工場等においてねじ穴15,28を設けておく。そして、施工現場において、先行管1と後続管2を鋼管継手部材Jを介して接合したのち、図7(b)に示すように、ディスタントピース5をその開口部6を横連結継手3,3の開口部4と整合させて、ねじ穴15,28を利用してボルト31により固定するようにしたものである。図7(c)にディスタントピース5の取付後の状態を示す。
本例によれば、施工現場で溶接することなく鋼管継手部材Jに簡単にディスタントピース5を取付けることができる。
【0029】
図8は鋼管継手部材Jへのディスタントピース7の他の取付手段を示すもので、図8(b)に示すように、横連結継手3と同じ形状の外管5a内に、外管5aの内径とほぼ等しい外径で開口部6を有する外管5aより長い内管5bを開口部4と6を整合させて挿入し、両端部を外管5aから突出させて、工場等であらかじめ溶接により一体化しておく。
【0030】
そして、図8(a)に示すように、先行管1の外側継手管10に後続管2の内側継手管20を嵌入して接合する際に、その開口部6を横連結継手3,3の開口部4と整合させ、内管5bの突出部を両横連結継手3,3に挿入して取付けるようにしたものである。図8(c)にディスタントピース5の取付後の状態を示す。なお、上記の説明では、外管5aより長い1本の内管5bを外管5a内に挿入して両端部を外管5aから突出させる場合を示したが、2本の内管5bの一部を外管5aの両端部にそれぞれ挿入して、溶接により接合するようにしてもよい。
本例においても、施工現場で溶接することなく、鋼管継手部材Jに簡単にディスタントピース5を取付けることができる。
【0031】
さらに、図9に示す他の例では、図9(a)に示すように、外側継手管10の横連結継手3の延長線上に、普通鋼材(例えば、SM400、SM490等)からなる取付板7をあらかじめ工場等で溶接により接合しておき、鋼管継手部材Jを介して先行管1と後続管2を接合したのち、横連結継手3と同じ形状のディスタントピース5を、開口部6を横連結継手3の開口部4と整合させて、取付板7に溶接により接合するようにしたものである。なお、上記の説明では、外側継手管10に取付板7を設けた場合を示したが、取付板7は内側継手管20に設けてもよく、あるいは、外側継手管10と内側継手管20の両者に設けてもよい。
本例によれば、鋼管継手部材Jへのディスタントピース5の接合に溶接を必要とするが、普通鋼材どうしの接合なので予熱や後熱などを考慮する必要がなく、簡単な設備で容易に接合することができる。
【0032】
上記の説明では、先行管1の後端部に外側継手管10を、後続管2の先端部に内側継手管20、後端部に外側継手管10をそれぞれ接合した場合を示したが、先行管1の後端部に内側継手管20を、後続管2の先端部に外側継手管10、後端部に内側継手管20を接合してもよい。
また、内側継手管20にスリット24を設けて縮径機能を付与した場合を示したが、外側継手管10にスリットを設けて拡径機能を付与し、内側継手管を嵌入したのち縮径させ、ボルト30で固定するようにしてもよい。
さらに、先行管1と後続管2の接合に、図1に示すような構造の鋼管継手部材Jを用いた場合を示したが、これに限定するものではなく、他の構造の差込式の鋼管継手部材を用いてもよい。
【0033】
また、上記の説明では、先行管1及び後続管2に、図10(a)に示すような断面C字状の横連結継手3を設けた場合を示したが、例えば、図10(b)に示すように、先行管1及び後続管2の外壁の一方の側にC字状の横連結継手3を取付け、他方の側にこれに嵌合するT字状の横連結継手8を取付けてもよい。さらに、図10(c)に示すように、一方の側にT字状の横連結継手8を取付け、他方の側に開口部を隔てて一対の山形鋼9を取付けるなど、適宜形状のものを用いることができる。
【0034】
本実施の形態によれば、先行管1と後続管2の接続に差込式の鋼管継手部材Jを用いたので、後続管2に軸方向の押圧力を作用させるだけで接合できるので、狭い立坑内において容易かつ短時間で両者を接合することができる。
また、先行管1と後続管2の横連結継手3,3と接続するディスタントピース5を、溶接することなく、又は簡単な溶接設備で鋼管継手部材Jに取付けるようにしたので、取付作業が簡単で作業時間を短縮することができる。
【0035】
[実施の形態2]
本実施の形態は、実施の形態1に係る鋼管継手部材Jを用いたパイプルーフ工法の施工方法に関するものである。なお、パイプルーフ工法の一般的な施工方法は前述の通りであり、鋼管継手部材Jの接続手順については実施の形態1で説明したので、詳細な説明は省略する。
【0036】
ところで、実施の形態1のような差込式の鋼管継手部材Jにおいては、鋼管継手部材Jの接続にあたって鋼管を水平方向に推進させるため、先行管1と後続管2との間に鋼管継手部材Jの接続に必要な圧縮力を作用させることが必要である。パイプルーフ工法においては、通常、油圧ジャッキを備えた推進機械により後続管2を先行管1の軸方向に押圧して推進しているが、鋼管断手部材Jの接続に必要な押圧力が、先行管1が土中に推進するに必要な力を上回る場合は、後続管2の押圧力により、鋼管継手部材Jが接続されないままで、先行管1と後続管2が地盤中に推進してしまうおそれがある。
【0037】
このような問題を防止するためには、先行管1への後続管2の接続にあたっては、鋼管継手部材Jが確実に接続されるまで、先行管1の移動を抑止しておくことが必要である。
このような先行管1の移動を抑止する推進抑止手段としては、(A)先行管1と、立坑内に固定された推進機械、立坑内に設置されたアンカー、さらには推進機械を固定する鉄構部材の如き固定部との間をワイヤロープなどの曳索により接続して固定し、あるいは(B)先行管1と後続管2とを例えばレバーブロックなどの駆動手段を介して曳索で接続し、駆動手段を操作して先行管1と後続管2を互いに引寄せて継手部材Jを接続する手段などが考えられる。
【0038】
上記(A)の推進抑止手段により先行管1の移動を抑止して鋼管継手部材Jを健全に接合するためには、次のような配慮が必要である。いま、
鋼管継手部材の嵌合に必要な押圧力を Fi(N)
地盤の水平方向反力係数を kh(N/m2
鋼管の断面積を Ap(m2)
地盤の単位面積あたり摩擦力を kf(N/m2
地盤中の鋼管の表面積をAc(m2
先行管の推進を防ぐための力 Fnf(N)
推進機械(油圧ジャッキ)の押圧力を Fjmax(N)
鋼管継手部材の圧縮耐力 Paj(N)
鋼管の圧縮耐力 Pap(N)
とした場合、鋼管継手部材Jが健全に接続されるための条件は、次の通りである。
a:Fjmax>Fi+Ac×kf−Ap×kh(継手嵌合に必要な力を出せる油圧ジャッキであること)
b:Ac・kf+Ap・kh+Fnf>Fi(推進を留める力が嵌合に必要な力より大きいこと)
c:Paj>Pap>Fi(嵌合時に鋼管が破壊に至らないこと)
d:Paj>Pap>Fnf(先行管を頑強に固定しすぎて鋼管を破壊することのないこと)
【0039】
鋼管継手部材Jには、前述のように高張力鋼材が用いられており、また、鋼管よりも鋼管継手部材Jの耐力が大きいように設計されているため、Paj>Pap(条件c,d)となる。また、油圧ジャッキは十分な推進力(例えば、外径kNなど)を有しており、鋼管継手部材Jの嵌合に必要な力(自重10t程度=100kN程度)を上回るため、おのずと上記条件aを満足する。さらに、鋼管継手部材Jの嵌合荷重は鋼管の許容圧縮荷重を上回らないように設計されているため、上記条件Cも満足する。
【0040】
先行管の推進を防ぐための力Fnfは、地盤の抵抗力及び鋼管継手部材Jの嵌合に必要な押圧力F1との均合いが必要となるので、油圧ジャッキの押圧力をFjとすると、次のようになる。
nf=Fj−Ac×kf−Ap×kh
若し、アンカー(固定部)又はアンカーと先行管を固定するための曳索の強度がFnfを下回り、Fnfに耐えられない場合は、先行管の推進を抑止することができないので、使用する油圧ジャッキの最大押圧力をFjmaxとすると、施工時に最大でFnfmaxの力がかかる可能性がある。
すなわち、
nfmax=Fjmax−Ac×kf−Ap×kh
よって、図11のaに示すように、推進抑止手段40は、この力に耐ええることが必要である。
【0041】
また、従来の溶接接合の場合は、差込式の鋼管継手部材Jのように、継手部の嵌合に必要な力が不要のため、押圧力が地盤の反力に負けて推進が不可能にならないような油圧ジャッキを使用すればよかったが、本発明においては、鋼管の推進に必要な力に加えて、鋼管継手部材Jの接合にも油圧ジャッキの力が必要なので、上記条件b以上の油圧ジャッキの押圧力が必要になる。
以上のことから、推進機械の油圧ジャッキによる押圧力Fjmaxは、
jmax>F1+Ac×kf−Ap×kh ……(1)
となる。
よって、上記(1)式により地盤の反力の助けを受けた上で継手部材Jの嵌合に必要な反力をとることにより、先行管1の推進を阻止して鋼管継手部材Jを嵌合することができる。以下、これを具体的に説明する。
【0042】
図12〜14は本発明の実施の形態2に係るパイプルーフ工法の施工方法の一例の説明図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
図12(a)において、1は立坑50から地盤51に水平方向に貫入された先行管で、後端部に接合された外側継手管10は、地盤51から立坑50内に露出している。そして、外側継手管10の両側のほぼ水平位置には、対向してねじ穴16が設けられている(図には一方の側だけ示してある。以下同様)。
【0043】
2は先端部に内側継手管20が接合され、立坑50内に搬入されて内側継手管20が外側継手管10に近接して、先行管1と同一軸線上に配置された後続管である。なお、3本以上の鋼管を接続する場合は、最後部の後続管を除き、各後続管の後端部には外側接続管10が接合されている。
41は例えば立坑50の底部や立坑50内に設置された推進機械あるいは推進機械を固定する鉄構部材(共に図示せず)に設置された固定部であるアンカーボルト、42は一端が先行管1のねじ穴16に螺入されたアイボルト43に固定され、他端がアンカーボルト41に固定されたワイヤロープの如き曳索で、これらにより先行管1の推進抑止手段40を構成している。
【0044】
この場合、固定部であるアンカーボルト41は、鋼管継手部材Jの嵌合中の反力が、極力管軸方向(推進力の方向)と変わらない方向に設置する必要があるので、このためには、アンカーボルト41を推進機械又は推進機械が固定される鉄構部材などに設けることが望ましい。また、曳索42の一端をアンカーボルト41に固定する場合を示したが、推進機械や鉄構部材に直接固定するなど、適宜の手段で固定すればよい。
【0045】
いま、推進機械により後続管2にF1の押圧力を加えると、曳索42に張力が加わり、先行管1はその反力によりその位置に保持されるので、推進した後続管2の内側継手管20が、図12(b)に示すように、先行管1へ外側継手管10に嵌入し、接合される。鋼管継手部材Jが確実に接合されたときは、後続管2の推進を中止する。
【0046】
ついで、アイボルト43とアンカボルト41から曳索42を取外すと共に、アイボルト43をねじ穴16から取外す。このときの状態を図12(c)に示す。そして、実施の形態1で説明したように、接合された鋼管継手部材Jに、先行管1と後続管2の横連結継手3,3と連続するディタントピース5を接合する。このようにして、推進抑止手段40により推進を抑止しつつ先行管1に順次後続管2を接合して地盤中に推進させ、長尺の鋼管(以下、ルーフ鋼管という)を埋設する。
【0047】
複数の鋼管が軸方向に接続された最初のルーフ鋼管の埋設が終ったときは、このルーフ鋼管と並列して第2のルーフ鋼管を埋設する。この場合、最初のルーフ鋼管と平行性を保持するために、第2のルーフ鋼管を構成する先行管1の横連結継手3を、第1のルーフ鋼管の最後部の後続管の横連結継手3に嵌合して連結し(図10(a)参照)、最初のルーフ鋼管の場合と同じ手順で、横連結継手3を嵌合しつつ順次鋼管継手部材Jにより後続管2を接合して地盤中に推進する。以下、同様にして順次横方向や縦方向にルーフ鋼管を貫入して埋設し、パイプルーフを造成する。
【0048】
図13は本実施の形態の他の例を示す平面説明図である。なお、図12と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
本例は先行管1の後端部に内側継手管2が接合されており、後続管2の先端部には外側接続管1が接続されている。なお、3本以上の鋼管を接続する場合は、最後部の後続管を除き、各後続管2の後端部には内外継手管2が接合されている。
【0049】
推進抑止部40において、45はヒンジ部47により開閉可能に形成されたリング状のバンドで、先行管1の外周に内側継手管20に近接して着脱可能に装着され、両端部をボルト48により固定したもので、対向する位置には取付腕46がほぼ水平に設けられている。そして、アンカーボルト41と取付腕46との間にはそれぞれ曳索42が取付けられている。
【0050】
本例における鋼管継手部材Jの接合手順、作用は図12の例の場合とほぼ同様であり、鋼管継手部材Jが接合されたときは先行管1からバンド45を取外し、鋼管継手部材Jにディスタントピース5を取付ける。
【0051】
図14は本実施の形態のさらに他の例の平面説明図である。なお、図13の例と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
本例も先行管1の後端部に内側継手管20を接合したもので、先行管1の外周に内側継手管20に近接して、図13(b)に示すバンド45が両取付腕46をほぼ水平にして着脱可能に装着されており、後続管2の外周にも外側継手管10に近接して同様にバンド45が装着されている。
そして、レバーブロックなどの駆動手段49に取付けられた曳索42の他端を、両側のバンド45の取付腕46にそれぞれ取付けたものである。
【0052】
本例においては、駆動手段49の例えばレバーを操作して、先行管1及び後続管2を互いに引寄せることにより、鋼管継手部材Jを接合することができる。
本例は、例えば、立坑50の制約などにより、アンカーボルト41等の固定部を所定の角度で設置できないような場合に実施して、特に有効である。なお、図13、図14の例で使用するバンド45は、図12の例において、アイボルト43に代えて先行管1に装着してもよい。
【0053】
本実施の形態においては、隣接するルーフ鋼管の横連結継手3及びディスタントピース5を相互に嵌合して連結することにより、加圧漏水試験により水密性が確認されたので、止水の必要がある場所にも本実施の形態を実施することができる。なお、高度の水密性が必要な場合は、開口部4,6や境界部などの部分にゴム、Oリング、膨張性樹脂、モルタル等を設ければよい。
【0054】
図15は本実施の形態によって施工したパイプルーフ造成の一例を示すもので、図15(a)はトンネルの如き掘削部52の上部に扉形のパイプルーフを造成したもの、図15(b)は円形の掘削部52の全周にパイプルーフを造成したものである。また、図15(c)は四角形の掘削部52の上部及び両側に門型のパイプルーフを造成したもの、図15(d)は掘削部52の両側に縦列にパイプルーフを造成したものである。なお図15(a),(b),(d)の場合は、横連結継手3及びディスタントピース5は嵌合に余裕があるので、外周の180°隔てた位置に設けたものでよいが、図15(c)の場合の角部のルーフ鋼管は、横連結継手3及びディスタントピース5を90°の間隔で設けることが必要である。
【0055】
本実施の形態によれば、パイプルーフ工法の施工にあたり、先行管1と後続管2との接合した差込式の鋼管継手部材Jを用い、かつ接合にあたり後続管2の推進により先行管1が推進するのを推進抑止手段40により抑止するようにしたので、先行管1と後続管2の接合がきわめて容易かつ確実で信頼性が向上すると共に、接合時間を大幅に短縮することができる。実験によれば、従来のように、施工現場で溶接により先行管1と後続管2を接合するのに約2時間要していたのが、本実施の形態によれば約15分で接合を完了することができ、接合時間を約8分の1に短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係るパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造の斜視図である。
【図2】図1の要部の縦断面図である。
【図3】図2の外側継手管と内側継手管を接合した状態の要部の縦断面図である。
【図4】鋼管継手部材が接合された先行管と後続管の説明図、その平面図及び横連結継手の取付状態を示す説明図である。
【図5】図1の先行管と後続管の接合手順の説明図である。
【図6】先行管と後続管を接合した状態を示す斜視図である。
【図7】鋼管継手部材に接合するディスタントピース及びその接合手順の説明図である。
【図8】ディスタントピースの他の例及びその接合手順の説明図である。
【図9】ディスタントピースのさらに他の例及び接合手順の説明図である。
【図10】横連結継手の一例の説明図である。
【図11】推進機械の押圧力を説明するための線図である。
【図12】本発明の実施の形態2に係るパイプルーフ工法の施工方法の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係るパイプルーフ工法の他の例の施工方法の説明図である。
【図14】本発明の実施の形態2に係るパイプルーフ工法のさらに他の例の施工方法の説明図である。
【図15】実施の形態2によって施工したパイプルーフ造成の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 鋼管(先行管)、2 鋼管(後続管)、3 横連結継手、5 ディスタントピース、10 外側継手管、20 内側継手管、40 推進抑止手段、41 アンカーボルト(固定部)、42 曳索、45 ベルト、49 駆動手段、50 立坑、51 地盤、J 鋼管継手部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に横連結継手が設けられた先行管及び後続管と、前記先行管に接合される外側継手管又は内側継手管(以下、第1の継手管という)及び前記後続管に接合される内側継手管又は外側継手管(以下、第2の継手管という)によって構成した鋼管継手部材とを有し、前記第1の継手管に第2の継手管を嵌合し、前記先行管と後続管に設けた横連結継手の間において、前記鋼管継手部材にディスタントピースを取付けることを特徴とするパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造。
【請求項2】
前記ディスタントピースを、ボルトにより前記鋼管継手部材に取付けることを特徴とする請求項1記載のパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造。
【請求項3】
前記ディスタントピースを、外管と該外管内に挿入された該外管より長い内管とによって構成し、前記外管の両端部から突出した内管を前記第1、第2の鋼管の横連結継手に挿入して取付けることを特徴とする請求項1記載のパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造。
【請求項4】
前記ディスタントピースを、前記鋼管継手部材に接合された普通鋼材からなる取付板に溶接により接合することを特徴とする請求項1又は2記載のパイプルーフ工法に使用する鋼管の継手構造。
【請求項5】
外周に横連結継手が設けられ後端部に請求項1の第1の継手管が接合されて地盤中に貫入された先行管と、外周に横連結継手が設けられ前端部に前記第1の継手管に嵌合して接合する請求項1の第2の継手管とを有し、前記先行管に後続管を接合するにあたり、前記先鋼管の推進を抑止する推進抑止手段を設けたことを特徴とするパイプルーフ工法の施工方法。
【請求項6】
前記推進抑止手段を、一端が先行管又はこれに接合された第1の継手管に取付けられ、他端が立坑内の固定部に取付けられた曳索によって構成したことを特徴とする請求項5記載のパイプルーフ工法の施工方法。
【請求項7】
前記推進抑止手段を、駆動手段を介して両端部が先行管及び後続管に固定され、前記駆動手段を操作することにより前記先行管及び後続管を互いに引寄せて接合するように構成したことを特徴とする請求項5記載のパイプルーフ工法の施工方法。
【請求項8】
前記地盤中に貫入された先行管に接合された第1の継手管に前記後続管に接合された第2の継手管を嵌合するための推進機械の押圧力を次のように設定したことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のパイプルーフ工法の施工方法。
jmax>F1+Ac×kf−Ap×kh
jmax:推進機械の最大押圧力
1:第1の継手管に第2の継手管を嵌合するに必要な押圧力
c:地盤中の鋼管の表面積
f:地盤の単位面積当りの表面積
p:鋼管の断面積
h:地盤の水平方向反力係数
【請求項9】
前記第1の継手管と第2の継手管を接合したのち、該第1の継手管と第2の継手管に請求項2〜4のいずれかのディスタントピースを取付けたことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のパイプルーフ工法の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−274648(P2006−274648A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94406(P2005−94406)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】