説明

パイル織物およびその製造方法、ならびにパイル織物製造装置

【課題】 被洗浄物上の異物の大きさおよび付着状態に応じて最適なブラシ毛を地組織に容易に形成することができるパイル織物およびその製造方法を提供する
【解決手段】 複数の上地経糸間および複数のパイル経糸間に上地緯糸を通入して上地を形成し、かつ複数の下地経糸間および前記複数のパイル経糸間に下地緯糸を通入して下地を形成するとともに、上地および下地間に前記複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物を製織し、この二重パイル織物の前記複数のパイル糸を前記上地と下地との間で切断することによって、上下2枚のパイル織物を形成するパイル織物の製造方法において、前記複数のパイル経糸の張力を、各パイル経糸の伸縮性に応じた予め定める変動範囲に個別に調整した状態で、前記二重パイル織物を製織する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子のガラス基板などの高洗浄度が要求される被洗浄物の洗浄および払拭するためのブラシなどに好適に実施することができるパイル織物およびその製造方法、ならびにパイル織物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば液晶表示素子(Liquid Crystal Display;略称LCD)、およびプラズマディスプレイ(Plasma Display Panel;略称PDP)などのフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display;略称FPD)やガラス基板表面を洗浄するために、基板洗浄ブラシが用いられている。
【0003】
典型的な従来技術は、たとえば特許文献1に記載されている。この従来技術では、合成繊維の糸で組織された地組織に、束のモノフィラメントをU字状に曲げた状態で前記地組織に植毛して成る毛材を、両端に軸を有するブラシ用ローラシャフトの周りに沿って、螺旋状に巻きつけて固定することによって、ディスプレイ装置のガラス洗浄用ベルト型ローラブラシ(以下、「ローラブラシ」という。)を構成している。また、この従来技術では、地組織の下面に合成樹脂液を塗布して高熱でコーティング処理したコーティング層を形成することによって、束のモノフィラメントが地組織から離脱することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−38207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術では、束のモノフィラメントを植設することによってブラシ毛を形成するので、ブラシ材の生産性が低く、製品コストが高くなるという問題がある。また前記従来技術では、ブラシ毛を植毛するための間隔として、予め地組織の各緯糸間に間隔を設ける必要があるので、ブラシ毛の高密度化が困難という問題がある。また前記従来技術では、ブラシ毛を地組織に接着剤で接着して固定するので、ブラシ毛の地組織への接合強度が低く、ローラーブラシの使用中にブラシ毛が地組織から抜けやすいという問題がある。
【0006】
この点、二重パイル織物は、地組織にパイル糸を織り込んでパイルを形成し、このパイルを裁断することによってブラシ毛を形成することができるので、植毛によってブラシ毛を形成する従来技術のように地組織に予め植毛のための間隔を設ける必要がなく、ブラシ毛を高密度に形成することができる。また、パイル織物は、ブラシ毛を地組織にパイル糸を織り込んで形成するので、ブラシ毛と地組織とを組織的に強固に固定することができ、ブラシ毛を抜けにくくすることができる。また、ブラシ毛の生産性の向上および製品コストを低くすることもできる。したがって、ブラシ材をパイル織物によって構成することが望まれていた。
【0007】
ところで、ローラーブラシは、ローラシャフトの外周に複数本巻きつけられるブラシ材が全て同じ毛で形成されることから、ブラシ材のブラシ毛の太さによって洗浄工程で除去できる異物の大きさが限られてくる。たとえば、ブラシ毛が太い毛であると小さい異物を除去できず、また細い毛であると、ブラシ毛が柔らかいために大きい異物を掃き出す硬さを得ることができない。このことから、太い毛は粒度が大きい異物、中位の毛は粒度が中間的な異物、細い毛は粒度が微小な異物を除去するブラシとしてそれぞれ用いられる。このように、ローラーブラシのブラシ毛の太さは、そのローラーブラシが除去対象とする異物の性質に応じて異なる。したがって、パイル織物によってブラシ材を構成するためには、様々な太さのブラシ毛を実現できることが必要となる。
【0008】
また、ローラーブラシは、被洗浄物である基板へのローラーブラシの押付け量、または押付け圧力を調整することによって高い洗浄効果を得ている。たとえば、ブラシ毛が硬い場合には、ローラーブラシの押付け量を基板の表面を損傷しない程度の適度な押付け量に調整することが必要となる。また、ブラシ毛が柔らかい場合には、洗浄液の圧力で毛が寝てしまい、基板に強く接触させることができない。このことから、ローラーブラシを使用する場合には、ブラシ毛を基板に接触させて効果的に洗浄することができる最適な押付け量に設定する必要がある。
【0009】
このように、ローラーブラシは、ガラス基板表面に付着する様々な粒度の異物を除去するために用いられ、さらに使用の際にはガラス基板表面を全面にわたって最適な押付け圧力で均一に接触させる必要がある。このことから、パイル織物でブラシ材を構成する場合には、パイル織物は、第1の仮想平面上に展開した状態で、ブラシ毛が前記第1の仮想平面に垂直な第2の仮想平面上で、前記第1の仮想平面に垂直な軸線に対する角度θが0°〜10°以内であることが必要となるという実使用上の要求がある。これは、前記角度θが10°を超えると、パイル織物がブラシロール本体の外周面に巻回されたときに、ブラシ毛の先端部の密度が周方向および軸線方向にばらつきが大きくなってしまい、その結果、ガラス基板表面へのブラシ毛の押付け圧力が不均一となり、ガラス基板表面を所要の清浄度に洗浄することができないからである。
【0010】
また前述のように、ローラーブラシは、ガラス基板表面上の微小な塵埃を除去するためにも用いられるので、ブラシ毛を構成するパイル糸は、ブラシ毛への異物の再付着を防止するため、撚糸よりもフィラメント糸が好ましい。
【0011】
そこで、上記条件を満たすブラシ毛を容易にかつ安価に実現するために、繊度が2dtex以上、100dtex以下のフィラメント糸の束をパイル経糸とし、裁断後のブラシ毛の長さが10mm以上、30mm以下となるように、パイル長を設定して、二重パイル織物の製織を試みた。
【0012】
しかしながら、従来からのパイル織物の製織方法では、ブラシ毛が地組織から垂直に起立せず、上記条件を満たすブラシ材を製造可能なパイル織物を得ることができなかった。
【0013】
これは、パイル経糸として用いたフィラメント糸の伸縮性が低いため、従来の張力の調整方法では、各パイル経糸の張力が一定とならず、パイル経糸にたるみが生じたり、パイル経糸が絡まったりしたことが主な原因と考えられる。
【0014】
本発明の目的は、被洗浄物上の異物の大きさに応じて最適なブラシ毛を地組織に容易に形成することができるパイル織物およびその製造方法、ならびにパイル織物製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、複数の上地経糸間に上地緯糸を通入して上地を形成し、複数の下地経糸間に下地緯糸を通入して下地を形成するとともに、上地および下地間に複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物を製織し、この二重パイル織物の前記複数のパイル経糸を前記上地と下地との間で切断することによって、上下2枚のパイル織物を形成するパイル織物の製造方法であって、
前記複数のパイル経糸は、フィラメント糸から成り、
前記複数のパイル経糸の張力は、各パイル経糸の伸縮性に応じた予め定める変動範囲に個別に調整された状態で、前記二重パイル織物を製織することを特徴とするパイル織物の製造方法である。
【0016】
また本発明は、前記二重パイル織物は、8越組織からなることを特徴とする。
また本発明は、前記パイル経糸の繊度は、2dtex以上、100dtex以下であることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、上地経糸、下地経糸およびパイル経糸は、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維およびキュプラ繊維のうちから選ばれた1種または2種以上のフィラメント系から成ることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記本発明の製造方法によって製造されたパイル織物である。
また本発明は、複数の上地経糸間に上地緯糸を通入して上地を形成し、複数の下地経糸間に下地緯糸を通入して下地を形成するとともに、上地および下地間に複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物を製織し、この二重パイル織物の前記複数のパイル経糸を前記上地と下地との間で切断することによって、上下2枚のパイル織物を形成するパイル織物の製造装置であって、
前記複数のパイル経糸の張架経路に、各パイル経糸の張力の変動範囲を調整する張力調整手段が設けられていることを特徴とする二重パイル織物の製造装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に従えば、複数の上地経糸間に上地緯糸が通入された上地と、複数の下地経糸間に下地緯糸が通入された下地とにわたって、複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物が製織され、この二重パイル織物の複数のパイル経糸を、上地と下地との間で切断することによって、2枚のパイル織物が形成される。
【0020】
前記二重パイル織物を製織するとき、前記複数のパイル経糸の張力は、各パイル経糸の繊度、伸縮性など性状に応じた予め定める変動範囲に個別に調整される。このように本発明は各パイル経糸の張力を個別に調整するので、二重パイル織物の製織時に各パイル経糸がヘルドによって織組織に応じたタイミングで選択的に引上げられて杼口(ひぐち)を形成した状態から筬打ちするまでの各パイル経糸の各張力を、切断後のパイル織物において要求されるパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足するように設定することができる。したがって、被洗浄物上の異物の大きさに応じて最適なブラシ毛を地組織に容易に形成されたパイル織物を容易かつ確実に実現することができる。
【0021】
また本発明に従えば、パイル織物は8越組織からなる。これによって、パイル経糸は、上下の地組織に対してV字状に、かつ、上地組織と下地組織の各緯糸に挟持されて織込まれる。したがって、ブラシ毛が地組織から垂直に起立し、かつ、地組織に強固に固定されるパイル織物を容易かつ確実に実現することができる。
【0022】
また本発明に従えば、ブラシ毛を構成するパイル経糸の繊度は、2dtex以上、100dtex以下である。これによって、微小な粒度の異物を除去するために用いられるローラーブラシのブラシ材として好適に用いることができるパイル織物の製造方法を提供することができる。
【0023】
また本発明に従えば、上地経糸、下地経糸およびパイル経糸は、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維およびキュプラ繊維のうちから選ばれた1種または2種以上のフィラメント系から成る。これによって、液晶表示素子のガラス基板などの被洗浄物に対して、被洗浄物の表面を損傷することなく、付着したパーティクルなどの異物を確実に除去することができる繊度および弾性を有するブラシ毛を、前述した製織によって容易に実現することができる。また、上地経糸、下地経糸およびパイル経糸を紡績糸で構成する場合と比較して、パイル織物を構成する各経糸の短繊維の脱落を可及的に低減することができる。したがって、本発明の製造方法によって、液晶表示素子のガラス基板などの高洗浄度が要求される被洗浄物の洗浄および払拭するためのブラシ材として好適に用いることができるパイル織物を得ることができる。
【0024】
また本発明に従えば、パイル織物は、本発明のパイル織物の製造方法によって製造されるので、ブラシ毛のパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足したパイル織物である。したがって、本発明のパイル織物は、液晶表示素子のガラス基板などの高洗浄度が要求される被洗浄物の洗浄および払拭するためのブラシ材として好適に用いることができる。
【0025】
また本発明に従えば、二重パイル織物の製造装置には、各パイル経糸の張力の変動範囲を調整する張力調整手段が設けられる。これによって、二重パイル織物の製織時に各パイル経糸がヘルドによって織組織に応じたタイミングで選択的に引上げられて杼口を形成した状態から筬打ちするまでの各パイル経糸の各張力を、裁断後のパイル織物において要求されるパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足するように設定することができる二重パイル織物の製造装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態のパイル織物を製織するためのパイル織物製造装置を簡素化して示す側面図である。
【図2】張力調整手段の構成を示す模式図である。
【図3】図1に示すパイル織物製造装置によって製造されるパイル織物の組織図である。
【図4】図3に示すパイル織物の拡大斜視図である。
【図5】図3に示すパイル織物の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態のパイル織物を製織するためのパイル織物製造装置1を簡素化して示す側面図であり、図2は、張力調整手段6の構成を示す模式図である。本実施形態のパイル織物製造装置1は、本発明に係るパイル織物の製造方法を実施するために用いられる。
【0028】
パイル織物製造装置1は、経糸20が巻回され、経糸20を巻取り側に向けて供給する経糸供給リール2と、経糸20を分離ロール4に案内する供給側ガイドロール3と、経糸20の供給経路を上地側と下地側とに分離する分離ロール4と、パイル経糸21が巻回され、パイル経糸21を巻取り側に供給する複数のパイル経糸供給リール5と、各パイル経糸21の張力を個別に調整する張力調整手段6と、各パイル経糸21が通入され、各パイル経糸21の開口運動を行う複数のパイル経糸用ヘルド7と、各経糸20が挿通され、各経糸20の開口運動を行う複数の経糸用ヘルド8と、緯糸22が巻回され各経糸20および各パイル経糸21の開口運動によって形成される杼口(ひぐち)に、緯糸22を通入するシャトル9と、シャトル9によって杼口に通入された緯糸22を織前25へ打ち寄せる筬10と、製織された二重パイル織物を図示しない巻取り手段13に案内する巻取り側ガイドロール11と、上地および下地間に架け渡されたパイル経糸21を上地および下地間の中央で裁断する裁断手段12と、製織された二重パイル織物を巻き取る巻取り手段13とを含んで構成される。
【0029】
経糸供給リール2には、織組織の完全組織に応じた複数の経糸20が巻回される。経糸供給リール2は、巻取り手段13の巻取り運動と連動して回転し、予め定められる張力を保ちながら経糸20を巻取り側に送り出す、いわゆる送り出し運動を行う。供給側ガイドロール3は、経糸供給リール2の巻取り方向下流側に設けられ、経糸供給リール2から供給された経糸20を分離ロール4に案内する。分離ロール4は、供給側ガイドロール3の巻取り方向下流側に設けられ、予め定められる張力を保ちながら経糸供給リール2から供給された経糸20の供給経路を、上地側と下地側とに分離する。また分離ロール4は、各上地側に供給される経糸(以下、「上地経糸」という。)20a間、および各下地側に供給される経糸(以下、「下地経糸」という。)20b間の間隔を一定に保ちながら、各上地経糸20aを各上地経糸用ヘルド8a,8bに案内し、各下地経糸20bを各下地経糸用ヘルド8c,8dに案内する。
【0030】
パイル経糸供給リール5には、織組織に応じた複数のパイル経糸21が巻回される。パイル経糸供給リール5は、巻取り手段13の巻取り運動と連動して回転し、予め定められる張力を保ちながらパイル経糸21を張力調整手段6側に供給する。
【0031】
張力調整手段6は、巻回されるパイル経糸21の巻取り手段13の引張り力による張力の変動範囲を調整することができるように構成される。張力調整手段6は、完全組織におけるパイル経糸21の数に応じてパイル経糸21毎に張力変動範囲を調整可能に設けられる。本実施形態では、二重パイル織物の完全組織は、4つのパイル経糸21を用いる8越織物によって実現される。したがって、本実施形態において張力調整手段6は、各複数のパイル経糸21が巻き掛けられる4つの張力調整部28によって実現されている。
【0032】
張力調整手段6の各張力調整部28は、各パイル経糸21が巻回されるガイドロール30と、パイル織物製造装置1の機体(図示せず)から吊り下げられて設けられ、前記ガイドロール30にばね力を付与する第1ばね手段31と、前記ガイドロール30の巻取り方向上流側に設けられ、前記ガイドロール30にばね力を付与する第2ばね手段32とを含んで構成される。各張力調整部28の各ガイドロール30は、前後方向(図2において左右方向)および上下方向(図2において上下方向)に位置調整が可能である。
【0033】
本実施形態において、第1ばね手段31は、圧縮コイルばねによって実現される。第1ばね手段31は、ガイドロールに対して上下方向にばね力を付与する。第1ばね手段31は、一端部にヒンジピン40が設けられ、このヒンジピン40をパイル織物製造装置1の機体に固定することによって、機体から吊り下げられて設けられる。第1ばね手段31の他端部であるばね棒の先端にはリング41が取付けられる。リング41には、紐などによって実現される索条42が取付けられ、前記索条42の他端部は、ガイドロール30に取付けられる。
【0034】
第2ばね手段32は、ガイドロール30の供給側に、ガイドロール30から水平に設けられる。第2ばね手段32は、ガイドロールに対して水平方向にばね力を付与する。第2ばね手段32は、一端部がパイル織物製造装置1の機体に取付けられ、他端部がガイドロール30に取付けられる。本実施形態において、第2ばね手段32は、引張コイルばねによって実現される。
【0035】
張力調整手段6によれば、上下方向および水平方向におけるガイドロール30の変動範囲は、第1および第2ばね手段31,32のばね定数によって調整することができる。これによって、パイル経糸21の張力Tの変動範囲を、第1ばね手段31のばね力R1と、第2ばね手段32のばね力R2との変動範囲によって定めることができる。したがって、第1および第2ばね手段31,32のばね定数を調整することによって、各パイル経糸21の張力の変動範囲を、各パイル経糸21の繊度、伸縮性などの性状に応じて最適な予め定める変動範囲に個別に調整することができる。
【0036】
上地経糸用ヘルド8a,8b、下地経糸用ヘルド8c,8dおよびパイル経糸用ヘルド7は、図示しない開口装置によって織組織の構造(本実施形態では8越組織)に応じて選択的に上昇あるいは下降されて上地経糸20a、下地経糸20bおよびパイル経糸21を変位させ、緯糸22の通入道である杼口をつくる開口運動を行う。
【0037】
シャトル9には、予め緯糸22が巻回される。シャトル9は、前記開口運動によって形成された杼口から緯糸22を通入する、いわゆるよこ入れ運動を行う。筬10は、シャトル9によって通入された緯糸22を織前25まで圧入し、経糸20と真交錯させる。これによって、二重パイル織物が製織される。巻取り側ガイドロール11は、製織された二重パイル織物を巻取り手段13に案内する。そして、裁断手段12は、二重パイル織物の上地および下地間に架け渡されたパイル経糸21を上地および下地間の中央で裁断する。
【0038】
経緯二重織組織を成す二重パイル織物は、上地および下地の地緯糸にパイル経糸を架け渡して製織し、上地および下地間の中央部でパイル経糸を裁断することによって各上下2枚のパイル織物を製造する織物である。ここで、二重織組織には様々な種類があるが、たとえばパイル経糸を1山(V)に架け渡す1越組織(ベルベット)および8越組織、ならびにパイル経糸を2山(M)に架け渡す12越組織(衣料、寝装、資材等)および16越組織が主として知られている。
【0039】
図3は、図1に示すパイル織物製造装置1によって製造されるパイル織物50の組織図であり、図4は、図3に示すパイル織物50の拡大斜視図であり、図5は、図3に示すパイル織物50の拡大側面図である。本実施形態では、8越組織によってパイル織物50を構成している。本実施形態では、上地経糸20aおよび下地経糸20bとして、繊度400dtexのナイロン紡績糸を使用し、パイル経糸21として、繊度50dtexのナイロンフィラメント糸を使用し、緯糸22として、繊度400dtexのナイロン紡績糸を使用して二重パイル織物35を構成する。また本実施形態では、裁断後のパイルの長さが15mmとなるように、パイル長を32mmに設定している。
【0040】
上地経糸、下地経糸およびパイル経糸は、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維およびキュプラ繊維のうちから選ばれた1種または2種以上のフィラメント系から成ってもよい。
【0041】
8越組織は、2本のパイル経糸と、2本の上地経糸と、2本の下地経糸とを用いて完全組織とする織組織である。図3〜図5において、符号上1,上3,上5,上7は、上地の地組織を構成する緯糸を示し、符号下2,下4,下6,下8は、下地の地組織を構成する緯糸を示す。またP一およびP六は、パイル経糸を示し、上ニおよび上四は、上地経糸を示し、下三および下五は、下地経糸を示す。
【0042】
上地緯糸上1は、上地経糸上ニの下を通り、かつ、上地経糸四の上を通るように通入される。下地緯糸下2は、下地経糸三の下を通り、かつ、下地経糸下五の上を通るように通入される。上地緯糸上3は、パイル経糸P一および上地経糸上ニの下を通り、かつ、上地経糸上四の上を通るように通入される。下地緯糸下4は、下地経糸下三の下を通り、かつ、下地経糸下五およびパイル経糸P六の上を通るように通入される。上地緯糸上5は、上地経糸上ニの上を通り、かつ、上地経糸上四の下を通るように通入される。下地緯糸下6は、下地経糸下三の上を通り、かつ、下地経糸下五の下を通るように通入される。上地緯糸上7は、上地経糸上ニおよびパイル経糸P六の下を通り、かつ、上地経糸上四の上を通るように通入される。下地緯糸下8は、パイル経糸P一および下地経糸下五の上を通り、かつ、下地経糸下三の下を通るように通入される。以上を繰り返し行うことによって、8越組織の二重パイル織物35を得ることができる。
【0043】
1越組織は、パイル経糸を上地と下地と間で1山毎に架け渡すので、パイル経糸を鋭角なVの字に織込むことができ、裁断後のパイル経糸をほぼ垂直に起立させることができる。しかしながら、1越組織におけるパイル経糸は、2本の緯糸によってのみ固定されることとなるので、他の織組織と比較して抜けやすいという問題がある。
【0044】
また、12越組織および16越組織では、パイル経糸は3本の緯糸と交差して織込まれるので、地組織に強固に固定されることとなるが、これら織組織においてパイル経糸は、M字状あるいはW字状に織り込まれるので、織組織上パイル経糸が傾斜して織込まれることになり、裁断後のパイル経糸が傾斜してしまい、ブラシ毛を垂直に起立させることが困難となる。またブラシ毛が傾斜してしまうことにより、ブラシ材におけるブラシ毛の密度も低くなってしまう。このことから、パイル経糸の太さによっては、ローラーブラシのユーザが求める条件を満たすことができない場合がある。
【0045】
これに対して、8越組織では、パイル経糸は、V字状に織込まれるので、裁断後のパイル経糸をほぼ垂直に起立させることができるとともに、1越組織と比較して、パイル経糸が地組織に強固に固定されるので、パイル経糸が抜けにくいという利点がある。このことから、パイル経糸として、たとえば繊度100dtex以下の糸を用いる場合には、8越組織によってパイル織物を構成することが好ましい。
【0046】
本実施形態では、パイル経糸21としてナイロンフィラメント糸を使用したが、パイル経糸21には、たとえばサンフォライズ加工、樹脂・浸透加工、あるいは液体アンモニア加工などの形態安定処理が施されたレーヨンフィラメント糸を用いても良い。一例を挙げると、レーヨンフィラメント糸は、高い親水性とガラス基板表面への適度な研削性能を有することから、ガラス基板表面のエッチング時の洗浄用ブラシ材のブラシ毛として広く使用されている。しかし、レーヨンフィラメント糸は、他のフィラメント糸と比較して、繊維の剛性、弾性および摩耗耐久性などの点において劣るので、実使用において課題がある。
【0047】
そこで、パイル経糸にレーヨンフィラメント糸を使用してパイル織物を製織し、この製織したパイル織物をグリオキザール系(たとえばジメチロールジヒドロキシエチレンウリア系)樹脂に浸して、樹脂・浸透加工を施し、次に乾燥・キュアー処理を行い、繊維構造内に縮合反応による架橋構造を生じさる。これによって、レーヨンフィラメント糸の架橋された繊維は、加工前の繊維と比較して、剛性、弾性および摩耗耐久性などが向上し、その結果、形態安定処理を行わない場合と比較して、研削効果の優れたブラシ材を得ることができる。
【0048】
本実施形態に従えば、複数の上地経糸20a間および複数のパイル経糸21間に上地の緯糸22が通入された上地と、複数の下地経糸20b間および複数のパイル経糸21間に下地の緯糸22が通入された下地とにわたって、前記複数のパイル経糸21が張架される二重パイル織物35が製織され、この二重パイル織物35の複数のパイル経糸21を、上地と下地との間で切断することによって、2枚のパイル織物50が形成される。
【0049】
前記二重パイル織物35を製織するとき、前記複数のパイル経糸21の張力は、張力調整手段6によって、各パイル経糸21の繊度、伸縮性など性状に応じた予め定める変動範囲に個別に調整される。このように本実施形態では各パイル経糸21の張力を個別に調整するので、二重パイル織物35の製織時に各パイル経糸21がパイル経糸用ヘルド7によって織組織に応じたタイミングで選択的に引上げられて杼口を形成した状態から筬打ちするまでの各パイル経糸21の各張力を、切断後のパイル織物50において要求されるパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足するように設定することができ、要求される品位のパイル織物を容易かつ確実に実現することができる。
【0050】
また本実施形態に従えば、パイル織物50は8越組織からなる。これによって、パイル経糸21は、上下の地組織に対してV字状に、かつ、上地組織と下地組織の各緯糸22に挟持されて織込まれる。したがって、ブラシ毛が地組織から垂直に起立し、かつ、地組織に強固に固定されるパイル織物50を容易かつ確実に実現することができる。
【0051】
また本実施形態に従えば、ブラシ毛を構成するパイル経糸21の繊度は、2dtex以上、100dtex以下である。これによって、微小な粒度の異物を除去するために用いられるローラーブラシのブラシ材として好適に用いることができるパイル織物50を製造することができ、またその製造方法を提供することができる。
【0052】
また本実施形態に従えば、上地経糸20a、下地経糸20bおよびパイル経糸21は、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維およびキュプラ繊維のうちから選ばれた1種または2種以上のフィラメント系から成る。これによって、上地経糸20a、下地経糸20bおよびパイル経糸21を紡績糸で構成する場合と比較して、パイル織物50を構成する各経糸20の短繊維の脱落を可及的に低減することができる。したがって、本実施形態の製造方法によって、液晶表示素子のガラス基板などの高洗浄度が要求される被洗浄物の洗浄および払拭するためのブラシ材として好適に用いることができるパイル織物50を得ることができる。
【0053】
また本実施形態に従えば、パイル織物50は、本実施形態のパイル織物50の製造方法によって製造されるので、ブラシ毛のパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足したパイル織物である。したがって、本実施形態のパイル織物50は、液晶表示素子のガラス基板などの高洗浄度が要求される被洗浄物の洗浄および払拭するためのブラシ材として好適に用いることができる。
【0054】
また本実施形態に従えば、二重パイル織物の製造装置1には、各パイル経糸21の張力の変動範囲を調整する張力調整手段6が設けられる。これによって、二重パイル織物35の製織時に各パイル経糸21がパイル経糸用ヘルド7によって織組織に応じたタイミングで選択的に引上げられて杼口を形成した状態から筬打ちするまでの各パイル経糸21の各張力を、裁断後のパイル織物50において要求されるパイル地組織に対する起立状態、密度などの条件を満足するように設定することができる二重パイル織物35の製造装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 パイル織物製造装置
2 経糸供給リール
3 供給側ガイドロール
4 分離ロール
5 パイル経糸供給リール
6 張力調整手段
7 パイル経糸用ヘルド
8 経糸用ヘルド
9 シャトル
10 筬
11 巻取り側ガイドロール
12 裁断手段
13 巻取り手段
20 経糸
21 パイル経糸
22 緯糸
25 織前
28 張力調整部
30 ガイドロール
31 第1ばね手段
32 第2ばね手段
35 二重パイル織物
50 パイル織物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の上地経糸間に上地緯糸を通入して上地を形成し、複数の下地経糸間に下地緯糸を通入して下地を形成するとともに、上地および下地間に複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物を製織し、この二重パイル織物の前記複数のパイル経糸を前記上地と下地との間で切断することによって、上下2枚のパイル織物を形成するパイル織物の製造方法であって、
前記複数のパイル経糸は、フィラメント糸から成り、
前記複数のパイル経糸の張力は、各パイル経糸の伸縮性に応じた予め定める変動範囲に個別に調整された状態で、前記二重パイル織物を製織することを特徴とするパイル織物の製造方法。
【請求項2】
二重パイル織物は、8越組織を構成することを特徴とする請求項1に記載のパイル織物の製造方法。
【請求項3】
パイル経糸の繊度は、2dtex以上、100dtex以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のパイル織物の製造方法。
【請求項4】
上地経糸、下地経糸およびパイル経糸は、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維およびキュプラ繊維のうちから選ばれた1種または2種以上のフィラメント系から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のパイル織物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のパイル織物の製造方法によって製造されたパイル織物。
【請求項6】
複数の上地経糸間に上地緯糸を通入して上地を形成し、複数の下地経糸間に下地緯糸を通入して下地を形成するとともに、上地および下地間に複数のパイル経糸を張架させて二重パイル織物を製織し、この二重パイル織物の前記複数のパイル経糸を前記上地と下地との間で切断することによって、上下2枚のパイル織物を形成するパイル織物の製造装置であって、
前記複数のパイル経糸の張架経路に、各パイル経糸の張力の変動範囲を調整する張力調整手段が設けられていることを特徴とする二重パイル織物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58151(P2011−58151A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212275(P2009−212275)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000197241)青野パイル株式会社 (5)
【Fターム(参考)】