説明

パエシロマイセスサトゥラタス及びパエシロマイセスディバリカタスの検出方法

【課題】パエシロマイセスサトゥラタス及びパエシロマイセスディバリカタスを特異的、簡便かつ迅速に検出できる方法を提供する。
【解決手段】特定な配列からなるオリゴヌクレオチド、又塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセスサトゥラタス又はパエシロマイセスディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチドを用いてパエシロマイセスサトゥラタス及び/又はパエシロマイセスディバリカタスの同定を行う工程を含む、パエシロマイセスサトゥラタス及び/又はパエシロマイセスディバリカタスの検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パエシロマイセス サトゥラタス(Paecilomyces saturatus)及びパエシロマイセス ディバリカタス(Paecilomyces divaricatus)の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パエシロマイセス サトゥラタス(Paecilomyces saturatus)及びパエシロマイセス ディバリカタス(Paecilomyces divaricatus)は自然界に広く分布する不完全真菌である。パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスは食品の重大な危害菌であるパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)に形態学的に極めて類似しており、長年パエシロマイセス バリオッティであると考えられてきた。しかしながら、近年の遺伝学的な解析により、パエシロマイセス サトゥラタスとパエシロマイセス ディバリカタスはパエシロマイセス バリオッティと別種であることが明らかとなった。これら3種のパエシロマイセスは、生活環の中で厚膜胞子と呼ばれる二重の細胞壁からなる無性胞子を形成する。パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの厚膜胞子はストレス耐性が極めて高いことが知られており、一般的な真菌菌糸の熱及び薬剤での殺菌条件でも生存・増殖することが知られている。従って、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスは食品業界やトイレタリー業界において危害菌として重要視されている。このため、防腐・防黴体制の確立において、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの検出・同定が極めて重要であると認識されている。
【0003】
パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの検出及び同定法は、培養による形態学的な種分類が主である。この方法は形態学的な特徴が発生するまで培養を続ける必要があるため、最短でも14日以上の長期間を必要とする。また、形態学的な同定には極めて高い専門性を必要とするため、判定者によって同定結果が異なる危険性が否定できない。さらには、損傷菌などの菌体の状態によっては培養を続けても種特異的な形態が形成されないことがあるため、従来の同定法による解析結果の信頼性に問題が指摘されてきた。従って、迅速性及び信頼性の問題を解決した検出・同定方法の確立が求められている。
【0004】
菌類の迅速かつ信頼性の高い検出方法としては、遺伝子の特定の塩基配列を標的とした増幅法(たとえばPCR法やLAMP法)が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスに特異的な遺伝子領域が解明されていない。従って、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的かつ迅速に検出することが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−505728号公報
【特許文献2】特開2006−61152号公報
【特許文献3】特開2006−304763号公報
【特許文献4】特開2007−174903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食品業界やトイレタリー業界などにおいて危害菌とされているパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的、簡便かつ迅速に検出できる方法を提供することを課題とする。また、本発明の課題は、この方法に適用可能なオリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド対及び検出キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のようにパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの検出を困難にしている一因として、従来の公知のプライマーを用いたPCR法では擬陽性や擬陰性の結果が出る点である。そしてこれは、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの遺伝子のデータベースが現在のところ貧弱であり、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスの種レベルで保存されている遺伝子領域が正確にわかっていないために、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的かつ迅速に検出・識別するための高感度のプライマーの設計等が困難となっていることが原因であると考えた。
【0008】
このような課題に鑑み、本発明者等は、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的に検出・識別しうる新たなDNA領域を探索すべく、鋭意検討を行った。その結果、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子中に、他の菌類のものとは明確に区別しうる、特異的な塩基配列を有する領域(以下、「可変領域」ともいう)が存在することを見出した。また、この可変領域をターゲットとすることでパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的かつ迅速に検出できることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いてパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの同定を行う工程を含むことを特徴とするパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出方法に関する。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
【0010】
また、本発明は、前記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いて、下記(e)〜(h)のいずれかの塩基配列で表される核酸の全部又は一部が含まれるかを確認することを特徴とするパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出方法に関する。
(e)配列番号5に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(f)配列番号5に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
(g)配列番号6に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【0011】
また、本発明は、前記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチドであって、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチドに関する。
【0012】
また、本発明は、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対又は下記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対で示されたパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチド対に関する。
【0013】
また、本発明は、前記オリゴヌクレオチド対を含むパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出キットに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の検出方法は、食品業界やトイレタリー業界などにおいて危害菌とされているパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的、簡便かつ迅速に検出することができる。また、本発明オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド対及び検出キットは、前記方法に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、本発明の(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを用いて増幅したPCR産物の電気泳動図である。
【図2】実施例1における、本発明の(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを用いて増幅したPCR産物の電気泳動図である。
【図3】実施例2における、本発明の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを用いて増幅したPCR産物の電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の特定の部分塩基配列、すなわちパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子配列中に存在するパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスにそれぞれ特異的な領域(可変領域)にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを用いてパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの同定を行い、パエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを特異的に識別・検出する方法である。ここで、「可変領域」とは、β−チューブリン遺伝子中で塩基変異が蓄積しやすい領域であり、この領域の塩基配列は他の真菌との間で大きく異なる。本発明における「パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタス」及び「パエシロマイセス ディバリカタス」は、ぞれぞれ糸状不完全菌類のパエシロマイセス(Paecilomyces)に属する。また、「β−チューブリン」とは微小管を構成する蛋白質であり、「β−チューブリン遺伝子」とは、β−チューブリンをコードする遺伝子である。
【0017】
パエシロマイセス サトゥラタスのβ−チューブリン遺伝子の可変領域を配列番号5に基づき説明する。なお、配列番号5で示された塩基配列は、パエシロマイセス サトゥラタスIFM50295株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。配列番号5で示された塩基配列のうち、70位〜100位までの領域、及び310位〜350位までの領域は真菌間で塩基配列の保存性が特に低く、種間によって固有の塩基配列を有する可変領域であることを本発明者らが見出した。本発明は、これらのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を対象としたものである。
【0018】
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号5で示された塩基配列のうち80位〜97位までの領域及び324位〜343位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである。したがって、前記(a)及び/又は(b)のオリゴヌクレオチドを用いて、パエシロマイセス サトゥラタスを特異的に識別・同定することができる。
【0019】
本発明において、前記(a)及び/又は(b)のオリゴヌクレオチドを用いて、下記(e)又は(f)の塩基配列で表される核酸の全部又は一部(好ましくは、前記可変領域)が含まれるかを確認することが好ましい。
(e)配列番号5に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(f)配列番号5に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【0020】
パエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の可変領域を配列番号6に基づき説明する。なお、配列番号6で示された塩基配列は、パエシロマイセス ディバリカタスIFM50291株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。配列番号6で示された塩基配列のうち、50位〜90位までの領域、及び180位〜220位までの領域は真菌間で塩基配列の保存性が特に低く、種間によって固有の塩基配列を有する可変領域であることを本発明者らが見出した。本発明は、これらのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を対象としたものである。
【0021】
前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号6で示された塩基配列のうち59位〜78位までの領域及び192位〜211位までの領域にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである。したがって、前記(c)及び/又は(d)のオリゴヌクレオチドを用いて、パエシロマイセス ディバリカタスを特異的に識別・同定することができる。
【0022】
本発明において、前記(c)及び/又は(d)のオリゴヌクレオチドを用いて、下記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸の全部又は一部(好ましくは、前記可変領域)が含まれるかを確認することが好ましい。
(g)配列番号6に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【0023】
前記(a)〜(d)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを用いてパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを同定する方法として特に制限はなく、シークエンシング法、ハイブリダイゼンション法、PCR法、LAMP法など通常用いられる遺伝子工学的手法で行うことができる。
【0024】
本発明の検出方法において、パエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを同定し検出を行うために、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、かつ核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得る検出用オリゴヌクレオチドを用いる。
本発明のパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチドとしては、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出のための核酸プライマーや核酸プローブとして使用できるものや、ストリンジェントな条件でエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の可変領域にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
【0025】
本発明の検出方法に用いるオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドである。また、本発明の検出方法に用いるオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列又はその相補配列で表されるオリゴヌクレオチドであってもよく、相同性が80%以上であることがさらに好ましく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがさらに好ましく、相同性が95%以上であることが特に好ましい。また、本発明で用いることができるオリゴヌクレオチドには、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列において1つの塩基配列中、1又は数個、好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、さらに好ましくは1から3個、よりさらに好ましくは1から2個、特に好ましくは1個の塩基の欠失、置換、挿入又は付加されており、かつパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチドも包含される。また、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。
塩基配列の相同性については、Lipman−Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0026】
上記検出用オリゴヌクレオチドの結合様式は、天然の核酸に存在するホスホジエステル結合だけでなく、例えばホスホロアミデート結合、ホスホロチオエート結合等であってもよい。
【0027】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、核酸プライマー及び核酸プローブとして用いることができる。核酸プローブは、前記オリゴヌクレオチドを標識物によって標識化することで調製することができる。前記標識物としては特に制限されず、放射性物質や酵素、蛍光物質、発光物質、抗原、ハプテン、酵素基質、不溶性担体などの通常の標識物を用いることができる。標識方法は、末端標識でも、配列の途中に標識してもよく、また、糖、リン酸基、塩基部分への標識であってもよい。かかる標識の検出手段としては、例えば核酸プローブが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フィルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。
また、前記オリゴヌクレオチドは、固相担体に結合させて捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、捕捉プローブと、標識核酸プローブの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、標的核酸を標識して捕捉することもできる。
【0028】
本発明の検出法において、パエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを同定、検出するために、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いたハイブリダイゼーションを行うことが好ましく、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いるのがさらに好ましい。パエシロマイセス サトゥラタスを同定、検出するためには、前記(a)及び/又は(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いるのが好ましい。パエシロマイセス ディバリカタスを同定、検出するためには、前記(c)及び/又は(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いるのが好ましい。
【0029】
被検体中のパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを検出するためには、前記(a)〜(d)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを標識化して核酸プローブとし、得られた核酸プローブをDNA又はRNAとハイブリダイズさせ、ハイブリダイズしたプローブの標識を適当な検出法により検出すればよい。上記核酸プローブはパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の可変領域の一部と特異的にハイブリダイズするので、被検体中のパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスを迅速かつ簡便に検出することができる。DNA又はRNAとハイブリダイズした核酸プローブの標識を測定する方法としては、通常の方法(FISH法、ドットブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法等)を用いることができる。
【0030】
本発明の検出方法において、パエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの同定を行うため、前記(a)〜(d)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを用いて、前記(e)〜(h)のいずれかの塩基配列の全部又は一部を増幅し、増幅産物の有無を確認することが好ましい。当該領域を含むDNA断片を増幅する方法として特に制限はなく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、RCA(Rolling-circle amplification)法、LAMP(Loop mediated isothermal amplification)法など通常の方法を用いることができる。本発明においては、PCR法を用いるのが好ましい。
本発明において、PCR法により増幅反応を行いパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出を行う場合について説明する。
【0031】
本発明において、PCR法により増幅反応を行い、パエシロマイセス サトゥラタスを検出するためには、前記(a)及び(b)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのが好ましく、前記(a)及び(b)オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのがより好ましく、前記配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのがさらに好ましい。
また、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対をパエシロマイセス サトゥラタス検出用オリゴヌクレオチド対とすることができる。
【0032】
配列番号1及び配列番号2で示されるオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス サトゥラタスのβ−チューブリン遺伝子領域に存在し、可変領域の一部分の塩基配列又はその相補配列と同じ塩基配列を持つオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス サトゥラタスのDNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。
前記(a)及び(b)で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号5に記載の塩基配列のうち、それぞれ80位〜97位まで、324位〜343位までの領域に対応する。したがって、前記オリゴヌクレオチドをパエシロマイセス サトゥラタスのβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、パエシロマイセス サトゥラタスを特異的に検出することができる。
【0033】
本発明において、PCR法により増幅反応を行い、パエシロマイセス ディバリカタスを検出するためには、前記(c)及び(d)の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのが好ましく、前記(c)及び(d)オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのがより好ましく、前記配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのがさらに好ましい。
また、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対をパエシロマイセス サトゥラタス検出用オリゴヌクレオチド対とすることができる。
【0034】
配列番号3及び配列番号4で示されるオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子領域に存在し、可変領域の一部分の塩基配列又はその相補配列と同じ塩基配列を持つオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス ディバリカタスのDNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。
前記(c)及び(d)で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号6に記載の塩基配列のうち、それぞれ59位〜78位まで、192位〜211位までの領域に対応する。したがって、前記オリゴヌクレオチドをパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、パエシロマイセス ディバリカタスを特異的に検出することができる。
【0035】
本発明におけるPCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。例えば、前記(a)及び(b)オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いてPCR法を行う場合、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を50〜60℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行う。また、前記(c)及び(d)オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いてPCR法を行う場合、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を50〜63℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行う。
【0036】
本発明において、PCR法により増幅した遺伝子断片の確認は通常の方法で行うことができる。例えば増幅反応時に放射性物質などで標識されたヌクレオチドを取り込ませる方法、PCR反応産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、PCR反応産物の塩基配列を解読する方法、増幅したDNA2本鎖の間に蛍光物質を入り込ませ発光させる方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、遺伝子増幅処理後に電気泳動を行い、増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。
検体にパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスが含まれる場合、本発明のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、これらの菌類に特異的なDNA断片の増幅が認められる。具体的には、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いた場合は約250bpのDNA断片の増幅が認められ、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いた場合は約150bpのDNA断片の増幅が認められる。この操作を行うことにより、検体にパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスが含まれているかを確認することができる。
【0037】
本発明において、標的領域を含むDNA断片の増幅のために用いられるプライマーは、設計した配列を基にして化学合成したり、試薬メーカーから購入することができる。具体的には、オリゴヌクレオチド合成装置等を用いて合成することができる。また、合成後、吸着カラム、高速液体クロマトグラフィーや電気泳動法を用いて精製したものを用いることもできる。また、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドについても、公知の方法を使用して合成できる。
【0038】
本発明において使用される検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができる。
検体からDNAを調製する方法としては、パエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、未精製の状態でも使用できるが、さらに分離、抽出、濃縮、精製等の前処理をして使用することもできる。例えば、フェノール及びクロロホルム抽出を行って精製したり、市販の抽出キットを用いて精製して、核酸の純度を高めて使用することができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。
【0039】
本発明のオリゴヌクレオチド対をプライマーとして用いてパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の標的領域を含むDNA断片の増幅を行う際に必要な各種の試薬類は、予めパッケージングしてキット化することができる。
例えば、本発明のパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用キットは、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対又は前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして含有するものである。このキットは、PCR法によりパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスを検出する方法に好ましく用いることができる。本発明のキットは、前記核酸プライマーの他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。本発明のキットには、本発明のプライマーによってPCR反応が正常に進行することを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の方法により増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
【0040】
本発明の方法によれば、検体の調製工程から菌類の検出工程までを約60〜120分という短時間で行うことが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
実施例1 パエシロマイセス サトゥラタスの検出
(1)プライマーの調製
PDA(ポテトデキストロース寒天)斜面培地にて25℃、7日間暗所培養した各種菌体から、Genとるくん(商品名、タカラバイオ社)を使用し、DNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型とし、PuRe Taq(商品名)Ready−To−Go PCR Beads(GE Health Care UK LTD)、並びにプライマーとして、Bt2aプライマー(5’-GGTAACCAAATCGGTGCTGCTTTC-3’:配列番号7)及びBt2bプライマー(5’-ACCCTCAGTGTAGTGACCCTTGGC-3’:配列番号8)を用いて、Glass and Donaldson,1995を参考にPCR法により遺伝子断片の増幅を行った。PCR反応条件は、変性温度95℃で1分、アニーリング温度59℃で1分及び伸長温度72℃で1分行い、これらを1サイクルとしたものを35サイクル行った。PCR産物は、Auto Seg(商品名)G−50(Amersham Pharmacia Biotech)により精製し、ラベル化は、BigDye(商品名)terminator Ver.1.1(Applied Biosystems)を使用して行い、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(商品名、Applied Biosystems)でPCR産物の解析を実施した。塩基配列の決定には、ソフトウエア‘ATGC Ver.4’(Genetyx社)を使用した。
上記のように決定した各種菌類(パエシロマイセス サトゥラタス、パエシロマイセス バリオッティー(Paecilomyces variotii)、パエシロマイセス フォーモサス(Paecilomyces formosus)、パエシロマイセス ディバリカタス、ビソクラミス ニベア(Byssochlamys nivea))のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列情報をもとに、DNA解析ソフトウエア(商品名:DNAsis pro、日立ソフトウエア社製)を用いてアライメント解析を行い、パエシロマイセス サトゥラタスに特異的な塩基配列部位を特定した。特定した塩基配列をもとに、配列番号1及び2に記載の塩基配列でそれぞれ表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを設計し、シグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0043】
(2)検体の調製
パエシロマイセス属及びパエシロマイセス属に類縁のビソクラミス属に属する耐熱性菌としては表1に記載した菌株を使用した。その他飲食品の製造環境に分布するカビとしては表2に記載した菌株を使用した。これらの菌類に関しては、独立行政法人製品評価技術基盤機構が保管しNBRCナンバーにより管理されている株、千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管しIFMナンバーにより管理されている株、The Centraalbureau voor Schimmelculturesが保管しCBSナンバーにより管理されている株、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターが管理しJCMナンバーで管理された株、財団法人発行研究所が管理しIFOナンバーで管理されている株、及び化学品原料から単離された株を入手し、使用した。
各菌株を至適条件下で培養した。菌株の培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いての各菌の最適温度で7日間培養した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収し、ポテトデキストロース寒天培地(組成:培地1000L当り馬鈴薯抽出液200g、ブドウ糖20g及び寒天15g、栄研化学株式会社)に播種した。25℃の培養条件下で2〜5日間培養し、1白金耳量の菌糸を回収した。
ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan ultra(商品名))を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は5ng/μLに調製した。
【0047】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μL、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μL、無菌蒸留水10μLを混合し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(PaeB1Fプライマー、20pmol/μL)0.5μL及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(PaeB1Rプライマー、20pmol/μL)0.5μLを加え、25μLのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)98℃、1分秒間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、および(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0048】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μLを分取してローディングバッファーと十分に混和し、2%アガロースゲルを用いて電気泳動(135V、20分間)を行った。電気泳動終了後、アガロースゲルをSYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。その結果を図1及び図2に示す。なお、図1は表1に示す菌類の試料についての電気泳動図を示し、図2は表2に示す菌類の試料についての電気泳動図を示す。図中の番号は表記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。なお、図中の記号Mは、分子量マーカー(商品名:EZ Load TM 100bp、BIO RAD社)のレーンを示す。
【0049】
その結果、パエシロマイセス サトゥラタスのゲノムDNAを含む試料では、250bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、パエシロマイセス サトゥラタス以外のパエシロマイセス属、及びその他食品の製造環境に広く分布する真菌類のゲノムDNAを含む試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、パエシロマイセス サトゥラタスを特異的に検出し、種レベルで同定することができる。
【0050】
実施例2 パエシロマイセス ディバリカタスの検出
(1)プライマーの調製
実施例1で決定した各種菌類(パエシロマイセス ディバリカタス、パエシロマイセス バリオッティー、パエシロマイセス フォーモサス、パエシロマイセス サトゥラタス、ビソクラミス ニベア)のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列情報をもとに、DNA解析ソフトウエア(商品名:DNAsis pro、日立ソフトウエア社製)を用いてアライメント解析を行い、パエシロマイセス ディバリカタスに特異的な塩基配列部位を特定した。特定した塩基配列をもとに、配列番号3および4に記載の塩基配列でそれぞれ表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを設計し、シグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0051】
(2)検体の調製
パエシロマイセス ディバリカタスとその他飲食品の製造環境に分布する耐熱性菌としては表3に記載した菌株を使用した。これらの菌類に関しては、独立行政法人製品評価技術基盤機構が保管しNBRCナンバーにより管理されている株、千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管しIFMナンバーにより管理されている株、及びThe Centraalbureau voor Schimmelculturesが保管しCBSナンバーにより管理されている株を入手し、使用した。
各菌株を至適条件下で培養した。菌株の培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いての各菌の最適温度で7日間培養した。
【0052】
【表3】

【0053】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収し、ポテトデキストロース寒天培地(組成:培地1000L当り馬鈴薯抽出液200g、ブドウ糖20g及び寒天15g、栄研化学株式会社)に播種した。25℃の培養条件下で2〜7日間培養し、1白金耳量の菌糸を回収した。
ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan ultra(商品名))を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は5ng/μLに調製した。
【0054】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μL、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μL、無菌蒸留水10μLを混合し、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae5Fプライマー、20pmol/μL)0.5μL及び配列番号4記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae5Rプライマー、20pmol/μL)0.5μLを加え、25μLのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、および(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0055】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μLを分取してローディングバッファーと十分に混和し、2%アガロースゲルを用いて電気泳動(135V、20分間)を行った。電気泳動終了後、アガロースゲルをSYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。その結果を図3に示す。図中の番号は表記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。なお、電気泳動において、分子量マーカーとしてBIO RAD社製のEZ LoadTM 100bp(商品名)を用いた。
【0056】
その結果、パエシロマイセス ディバリカタスのゲノムDNAを含む試料では、150bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、パエシロマイセス ディバリカタス以外の飲食品の製造環境に広く分布する耐熱性菌のゲノムDNAを含む試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、パエシロマイセス ディバリカタスを特異的に検出し、種レベルで同定することができる。
【0057】
実施例1〜2の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、パエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを特異的に検出できることがわかる。したがって、本発明の方法によれば、簡便、迅速かつ特異的にパエシロマイセス サトゥラタス及びパエシロマイセス ディバリカタスを検出することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いてパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの同定を行う工程を含むことを特徴とするパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
【請求項2】
同定を行うために、前記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いて、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を増幅し、増幅産物の有無を確認することを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって行う請求項2記載の検出方法。
【請求項4】
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応法を行い、パエシロマイセス サトゥラタスのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を増幅する、請求項3記載の検出方法。
【請求項5】
前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応法を行い、パエシロマイセス ディバリカタスのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を増幅する、請求項3記載の検出方法。
【請求項6】
下記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いて、下記(e)〜(h)のいずれかの塩基配列で表される核酸の全部又は一部が含まれるかを確認することを特徴とするパエシロマイセス サトゥラタス及び/又はパエシロマイセス ディバリカタスの検出方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号5に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(f)配列番号5に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
(g)配列番号6に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【請求項7】
前記(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを用いて、前記(e)〜(h)のいずれかの塩基配列の全部又は一部を増幅し、増幅産物の有無を確認することを特徴とする請求項6記載の検出方法。
【請求項8】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって行う請求項7記載の検出方法。
【請求項9】
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応法を行い、前記(e)又は(f)の塩基配列の全部又は一部を増幅する、請求項8記載の検出方法。
【請求項10】
前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応法を行い、前記(g)又は(h)の塩基配列の全部又は一部を増幅する、請求項8記載の検出方法。
【請求項11】
下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチドであって、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチド。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
【請求項12】
下記(e)〜(h)のいずれかの塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、パエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタスを特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得る請求項11記載の検出用オリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(f)配列番号5に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
(g)配列番号6に記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【請求項13】
前記オリゴヌクレオチドが核酸プライマーであることを特徴とする、請求項11又は12記載の検出用オリゴヌクレオチド。
【請求項14】
下記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対又は下記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対で示されたパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出用オリゴヌクレオチド対。
(a)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス サトゥラタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されておりかつパエシロマイセス ディバリカタスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド
【請求項15】
請求項14記載のオリゴヌクレオチド対を含むパエシロマイセス サトゥラタス又はパエシロマイセス ディバリカタス検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−193800(P2011−193800A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64252(P2010−64252)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】