説明

パターン付ロール状基材の製造方法

【課題】薄型軽量化および耐衝撃性の向上の目的から採用されつつあるパターン付ロール状基材を提供するにあたり、水分により最終製品の製造精度に悪影響が生じることがないパターン付ロール状基材の製造方法を提供すること。
【解決手段】原材料となるロール状基材の含水率を一定化するための含水率一定化工程と、含水率一定化工程後の基材に対し所定のパターンを形成するパターン形成工程と、パターン形成工程後の基材を巻回するロール工程とを行い、前記パターン形成工程においては、前記ロール工程後のパターン付ロール状基材が使用される環境によって、当該ロール状基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカラーフィルタや配線パターンなどの各種用途に使用されるパターンが形成された連続する基材であって、これが巻芯に巻回されてなるパターン付ロール状基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子の薄型軽量化および耐衝撃性の向上等が目指されており、カラーフィルタ、TFTアレイ等を構成する基材として、従来使用されてきたある程度の厚さを有する基材、例えばガラス基材の代わりに、可撓性を有する薄厚の基材、例えばフィルム基材が巻回されてなるロール状基材を用いる試みがなされている。
【0003】
しかしながら、基材の材料として薄厚のフィルムなどを用いた場合、水分の影響によりフィルムの寸法に変化が生じてしまい、これに起因して基材上に形成されているパターンの形状や寸法が狂い、最終製品としての液晶表示装置等の製造精度に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
【0004】
このような懸念に対し、例えば特許文献1においては、基材を乾燥後、高温高湿環境下に放置し、所定の温湿度環境における含水率の±10%以内の含水率となるように吸湿処理を行うことによって、基材の寸法を制御する方法が開示されている。
【0005】
また、例えば特許文献2においては、基材の加熱脱水後から露光開始までの時間を運搬手段により管理し、かつ、温度・湿度を調整することによって、基材の寸法を再現性良く制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−066423号公報
【特許文献2】特開2003−177551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、ロール状の基材の巻芯に近い部分、いわば巻内は吸水や脱水がしにくいため、所望の含水率に達するまでには長時間が必要であり、巻内と巻芯から遠い部分、いわば巻外とで含水率が均一にならず、1つのロール状基材において、その巻内および巻外で寸法ずれが生じるという問題が生じる可能性がある。
【0008】
また、特許文献2の方法では、精密な時間管理が必要であるところ、ロール状の基材の場合、巻内と巻外とでは露光などの処理が施されれるまでの時間が異なってしまうため時間管理が困難である。
【0009】
さらに、特許文献1、2いずれの方法であっても、基材にパターンを形成した際の環境と、その後の工程において当該パターン付基材が使用される環境、例えば当該パターン付基材を用いて最終製品である液晶表示装置が製造される際の環境が同じ場合には問題とならないが、現実は異なっている場合が多く、そうすると、パターンを形成する段階のみにおいてどんなに寸法精度を向上させたとしても、その後の工程において生じうる寸法ずれを防止することはできず、真の意味での最終製品の製造精度の向上を図ることはできない。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、薄型軽量化および耐衝撃性の向上の目的から採用されつつあるパターン付ロール状基材を提供するにあたり、水分により最終製品の製造精度に悪影響が生じることがない、より具体的には、パターン付ロール状基材を用いて最終製品を製造する時点において、当該基材上に形成されているパターンが所望のパターンとずれていない、パターン付ロール状基材の製造方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、連続する基材上に所定のパターンが形成され、これが巻芯に巻回されてなるパターン付ロール状基材の製造方法であって、原材料となるロール状基材の含水率を一定化させる含水率一定化工程と、含水率一定化工程後の基材に対し所定のパターンを形成するパターン形成工程と、パターン形成工程後の基材を巻回するロール工程と、を有し、かつ、前記パターン形成工程においては、前記ロール工程後のパターン付ロール状基材が使用される環境によって、当該ロール状基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成する、ことを特徴とする。
【0012】
上記の発明にあっては、前記含水率一定化工程が、基材上に部分的に空隙部材を配置し、当該空隙部材と共に基材を巻回せしめ、所定時間放置する工程であってもよい。
【0013】
さらには、前記パターン形成工程において、前記含水率一定化工程において用いられた空隙部材を基材上から外した後、パターンを形成し、前記ロール工程において、基材上に部分的に空隙部材を配置し、当該空隙部材と共に基材を巻回せしめてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、パターン付ロール状基材を用いて最終製品を製造する時点において、当該基材上に形成されているパターンが所望のパターンとずれていない、パターン付ロール状基材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】パターン付ロール状基材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】(a)は、含水率一定化工程S1において、いわゆるナーリング処理をした状態のロール状基材の一例を示す模式図であり、(b)はA−A線の概略断面図である。
【図3】空隙部材の配置例を示す概略平面図である。
【図4】空隙部材が配置された基材の他の一例を示す概略平面図である。
【図5】空隙部材が配置された基材の他の一例を示す概略平面図である。
【図6】空隙部材が配置された基材の他の一例を示す概略平面図である。
【図7】空隙部材の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のパターン付ロール状基材の製造方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1は、パターン付ロール状基材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0018】
図1に示すように、本方法は、原材料となるロール状の基材に対し、この含水率を一定化するための含水率一定化工程S1と、含水率一定化工程S1後の基材に対し所定のパターンを形成するパターン形成工程S2と、パターン形成工程S2後の基材を巻回すロール工程S3、とにより、パターン付ロール状基材を製造する。そして、本方法においては、前記ロール工程後のパターン付ロール状基材が使用される環境、つまり本方法の後工程の環境、具体的には例えば液晶表示装置の製造工程S10における環境によって、当該基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成している点に特徴を有している。
【0019】
以下に各工程について詳細に説明する。
【0020】
(1)含水率一定化工程S1
当該工程は、原材料となるロール状の基材の全体、つまり巻内および巻外にかかわらず、基材全体の含水率を一定にするための工程である。当該工程を行うことにより、たとえば巻外部分のみ外気に触れて乾燥し、巻内部分のみ含水率が高くなっていたり、その逆になっていたりすることを防止することができ、これによりこの後に行われるパターン形成工程S2の時点におけるロールの部分の違いによる寸法ずれの発生を防止することができる。
【0021】
ここで、まず、本方法の原材料となるロール状基材については、連続する基材を巻芯に巻回されて構成されていればよく、その他は特に限定されない。
【0022】
基材の材質としては、例えば可撓性を有する樹脂基材であることが好ましく、より具体的には、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、セルローストリアセテート(CTA)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリメチルメタクリレート(ΜMMA)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、ノルボルネン系樹脂、アリルエステル樹脂等の合成樹脂を挙げることができ、中でも、PEN、PETが好ましい。また、これら合成樹脂ではなく、各種無機膜を用いることも可能である。
【0023】
また、本発明に用いられる基材の湿度膨張係数としては、2×10-5/%RH以下であることが好ましく、1×10-5/%RH以下であることがより好ましく、5×10-6/%RH以下であることがさらに好ましい。本発明はパターン形成工程S2において工夫をすることにより寸法のずれを防止しているが、基材自体の湿度変化による寸法変化量は少ないに超したことはなく、取り扱いが容易となるからである。
【0024】
本発明に用いられる基材の線膨張係数としては、2×10-5/℃以下であることが好ましく、1×10-5/℃以下であることがより好ましく、5×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。前記湿度膨張係数と同様、温度変化による寸法変化量が少なく、取り扱いが容易だからである。
【0025】
本発明に用いられる基材の厚さとしては、1μm〜1mmの範囲内であることが好ましく、10μm〜500μmの範囲内であることがより好ましく、50μm〜250μmの範囲内であることがさらに好ましい。基材の厚さが上記範囲よりも厚すぎると、フレキシブル性が損なわれ、ロール状基材の作製が困難になり、折れやすくなるからである。一方、上記範囲よりも薄すぎると、こしが無くなり、各工程における取り扱いが困難になるからである。
【0026】
本発明に用いられる基材の幅としては、特に限定されるものではないが、例えば、100mm〜1000mmの範囲内であることが好ましく、150mm〜600mmの範囲内であることがより好ましい。
【0027】
なお、本発明に用いられる基材は、単一層からなる構成であっても良く、あるいは、複数の層が積層された構成を有するものであっても良い。
【0028】
ここで、本工程S1において前述のようなロール状基材の含水率を一定化するとは、具体的にはロール状基材の巻内における含水率と、巻外における含水率との差が0.05wt%以下、好ましくは0.02wt%以下、特に好ましくは0.01wt%以下となることを指す。なお、上記含水率については、例えば、クラボウ社製の水分計(品名=RX−100、透過型)、マイクロ波オンライン水分計(マルカム製)、電気抵抗式水分計((株)山崎精機研究所製)等を用いて測定することができる。また、本発明におけるロール状基材の巻外とは、ロール状基材の最外層を指し、ロール状基材の巻内とは、ロール状基材の巻外から2周以上内側の層を指す。
【0029】
本工程S1においては、ロール状基材の巻外および巻内における含水率の差を上記の範囲内とすることができる手段であれば如何なる手段をも採用することができ、特に限定することはない。例えば、基材上に部分的に空隙部材を配置し、当該空隙部材と共に基材を巻回せしめ(以下、「ナーリング処理」とする場合がある。)、その後、所定時間放置することを採用してもよい。
【0030】
図2(a)は、含水率一定化工程S1において、いわゆるナーリング処理をした状態のロール状基材の一例を示す模式図であり、図2(b)はA−A線の概略断面図である。
【0031】
図2(a)に示すように、ロール状基材10は、基材1、および基材1上に部分的に空隙部材2を配置し、当該空隙部材2と共に基材1を巻回してなるものである。図2においては、空隙部材2が基材1の両端の端部領域上にのみ配置され、パターン形成領域tには形成されていない例について示している。なお、パターン形成領域tについては後述するため、ここでの説明は省略する。また、基材1の両端の端部領域についても後述するため、ここでの説明は省略する。また、図2(a)においてXで示される方向は、基材1の長手方向を、Yで示される方向は基材1の幅方向を示すものである。
【0032】
図2(b)に示すように、空隙部材2を部分的に配置することにより、ロール状基材10においては、上層の基材1と下層の基材1との間に空間が形成され、かつ空隙部材2は通気性および透湿性を有するものであることから、巻内であっても外気と接触することができるため、巻内の基材も巻外の基材と同程度に水分を取り込むことが可能となる。よって、巻内および巻外の含水率を均一化することが可能となる。
【0033】
ここで、空隙部材の配置としては、上述したように、ロール状基材とした場合に、上層の基材と下層の基材とが密着しないように空隙部材を基材上に部分的に配置することが可能であれば特に限定されるものではない。例えば、図2に示すように、空隙部材2を基材1の両端の端部領域上に配置してもよい。
【0034】
図3は、空隙部材の配置例を示す概略平面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、基材1の長手方向Xに所定の間隔を空けて空隙部材2を配置してもよいし、図3(b)に示すように、基材1の幅方向Yに所定の間隔を空けて空隙部材2を配置してもよいし、図3(c)に示すように、基材1の幅方向Yに対して斜め方向(鋭角方向)に所定の間隔を空けて空隙部材2を配置してもよい。
【0036】
ここで、ロール状基材は、例えば液晶表示装置等の基材、もしくは液晶表示装置の多面付け基材等のパターン形成体の基材として用いられるものであることから、この後に行われるパターン形成工程S2において、基材上に所定のパターンが形成される。この際、上記所定のパターンが形成される領域の基材上に、ゴミ等が付着していたり、微細なキズが生じている場合は、最終的に製造される液晶表示装置などの欠陥の原因となる。よって、後に行われるパターン形成工程S2においてパターンが形成される領域には空隙部材が配置されないことが好ましい。
【0037】
上記の点を考慮すると、空隙部材の配置としては、上記空隙部材が、少なくとも上記基材の両端の端部領域上に配置されていることが好ましい。
【0038】
ここで、「基材の両端の端部領域」とは、基材の幅方向の両端に存在する領域であり、かつ、この後のパターン形成工程S2においてパターンが形成されない領域である。より具体的には、基材の端部領域とは、基材の幅方向の長さを1とした場合、基材の幅方向の端辺からの距離が0.2以下、なかでも0.1以下、特に0.05以下の領域を指すものである。
【0039】
図4〜図6は、いずれも空隙部材が配置された基材の他の一例を示す概略平面図である。
【0040】
例えば、図2や図4に示すように、空隙部材2を基材1の両端の端部領域上のみに配置し、かつ、パターン形成領域tには配置されないように、空隙部材2を配置することができる。なお、図4においては、空隙部材2が基材1の両端の端部領域s上の全面に配置されている例について示している。また、図5(a)に示すように、基材1の端部領域s上の全面、および、基材1の長手方向Xの端辺(図5(a)では、一点破線で示す部分)を越えて空隙部材2を配置してもよいし、図5(b)に示すように、基材1の両端の端部領域sの一部に空隙部材2を配置してもよい。通常、空隙部材の位置決め精度等の問題を考慮し、図5(b)に示すように、基材1の両端の端部領域sの一部、より好ましくは端部領域sの中央部分に空隙部材2が配置される。
【0041】
また、図6に示すように、空隙部材2が基材1の両端の端部領域s上以外にもパターン形成領域tを囲むように空隙部材2を配置することができる。この場合は、図6(a)に示すように、空隙部材2がパターン形成領域tの周辺全てを囲むように配置されていてもよいし、図6(b)に示すように、空隙部材2がパターン形成領域tの周辺の一部を除いて囲むように配置されていてもよい。なお、図6(a)、(b)においては、空隙部材2が端部領域s上の全面に形成され、さらに図6(a)においてはパターン形成領域tを除いた全面に形成されている例について示しているが、これに限定されるものではなく、上記端部領域内、および端部領域以外でパターンが形成されない領域内であれば任意の領域に空隙部材を配置することが可能である。
【0042】
次に空隙部材について説明する。
【0043】
空隙部材は、基材上に部分的に配置されるものであり、ロール状基材の巻内および巻外に含水率の差を生じさせない程度の通気性および透湿性を有するものである。このような空隙部材としては、可撓性を有し、ロール状基材の巻内および巻外に含水率の差を生じさせない程度の通気性および透湿性を有し、かつ、離型性が高いものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、多孔質シート、不織布、ICチップ搬送用キャリアテープ、ワイプ、紙、ナイロンフィルム等が挙げられる。
【0044】
図7は空隙部材の一例を示す概略断面図である。
【0045】
空隙部材の断面形状としては、例えば、少なくとも一方の表面に凹凸が形成されている凹凸形状の空隙部材であってもよいし、複数の通気孔を有する多孔質形状の空隙部材であってもよいし、1枚の板状部材を加工してウェーブ状に成型された空隙部材であってもよい。なかでも、少なくとも一方の表面に凹凸が形成されている凹凸形状の空隙部材であることがより好ましい。当該断面形状を有する空隙部材は、通気性および透湿性に優れるものであり、また、基材上に配置しやすいからである。
【0046】
ここで、凹凸形状とは、例えば、凸部の高さが、0.01mm〜1.5mmの範囲内、凸部が潰れない程度で好ましくは、0.1mm〜0.5mmの範囲内、隣接する凸部同士の距離が0.01mm〜4.0mmの範囲内、好ましくは、0.1mm〜2.0mmの範囲内である。なお、上記凸部の高さ、および隣接する凸部同士の距離は、mmオーダーの測定の場合はノギスや顕微鏡を用いて測定され、μmオーダーの測定の場合は、触針式の表面粗さ計(ミカサ株式会社、品名ET4000L−S)を用いて測定される。なお、凸部の高さとは、図7に示す空隙部材2においてQで示されるものであり、隣接する凸部同士の距離とは図7に示す空隙部材2においてPで示される距離を指す。
【0047】
また、基材と接触する凸部の面の形状は、平面であっても曲面であってもよいが、平面であることが好ましい。基材に傷を生じにくい形状であるからである。
【0048】
空隙部材の通気度としては、ロール状基材に配置した揚合に巻内および巻外に含水率の差を生じさせない程度の通気度であれば特に限定されるものではないが、1.4cm3/cm2・sec以上であることが好ましい。通気度がこの数値より小さい場合は、空隙部材の通気性および透湿性が十分ではないことから、ロール状基材に用いた揚合に、巻内および巻外の含水率を均一にすることが困難となるおそれがあるからである。上記通気度は、JIS L1096 8.27.1 A法(フラジール形法)により測定される。
【0049】
また、空隙部材が平坦な部材である場合の表面粗さ(Ra)としては、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。Raが上記範囲より小さいと、空隙部材が有する空隙が少なくなり、通気性および透湿性を高くすることができないからである。なお、本発明に用いられる空隙部材のRaは、通常、10μm以下である。なお、ここでの「表面粗さ(Ra)」は、「算術平均表面粗さ」であり、JIS−B0601に準拠して測定される。
【0050】
上述した空隙部材の形状、通気度、および表面粗さ(Ra)等を考慮すると、好ましい空隙部材としては、上述した具体例のなかでも、多孔質シート、ICチップ搬送用キャリアテープ、ワイプ、ナイロンフィルム等を挙げることができ、特に好ましい空隙部材としては、多孔質シート、ICチップ搬送用キャリアテープ等を挙げることができる。
【0051】
空隙部材の厚さとしては、20μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。空隙部材の厚さが上記範囲よりも薄すぎると、基材を巻回したときに空隙がつぶれ易くなり、上記範囲よりも厚すぎると、基材の巻回ができなくなるためである。
【0052】
空隙部材の幅としては、ロール状基材の巻内および巻外の含水率が均一となるように空隙部材を基材上に部分的に配置することが可能な幅であれば特に限定されるものではなく、ロール状基材の幅、パターン形成領域の大きさ等により適宜選択されるものである。
【0053】
なお、空隙部材を少なくとも基材の両端の端部領域上に配置する場合は、上記空隙部材の幅としては、5mm〜60mmの範囲内、中でも5mm〜30mmの範囲内、特に5mm〜15mmの範囲内であることが好ましい。空隙部材の幅が上記範囲よりも広すぎると、ロール状基材に配置した際に、はみ出た部分が無駄になり、上記範囲よりも狭すぎると、基材を支えることが困難となり、ロール状基材において上層の基材と下層の基材とが密着して通気性が損なわれるからである。なお、上記の場合における空隙部材の幅は、図4および図6においてuで示される距離を指すものである。
【0054】
(2)パターン形成工程S2
パターン形成工程S2について説明する。
【0055】
当該工程は、前述の含水率一定化工程S1後の基材、具体的には例えば図2や図4〜6に示される基材1のパターン形成領域tに対して所定のパターンを形成するための工程である。
【0056】
また、当該工程で形成されるパターンについては、特に限定されることはないが、例えば、液晶表示装置用の画像表示素子に用いられる光学機能層や画像表示素子全体、より具体的には、カラーフィルタや各種配線パターン、さらにはハードコート層、アンチグレア層、アンチリフレクション層、偏光層などを挙げることができる。
【0057】
そして、これらのパターンを基材状に形成するにあたり、本発明の方法は、最終製品において所望されるパターンをそのまま形成するのではなく、最終製品を製造する環境下において基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成している、つまり、例えば、図1に示すように、本発明の製造方法により製造されたパターン付ロール状基材が液晶表示装置において使用される場合、当該液晶表示装置製造工程S10における環境下において基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成している点に特徴を有している。したがって、当該工程S2においては、場合によっては、最終製品において所望されるパターンとは異なる寸法のパターンを敢えて形成することにより、その後に基材が寸法変化することを許容しつつも最終的に所望する寸法のパターンが形成された基材を提供することが可能となる。
【0058】
例えば、PETからなり厚さ125μmのロール状基材を準備し、これに対し、常温常湿雰囲気(23±2℃、45±5%RH)にて前記含水率一定化工程S1を行ったところ、その含水率は0.30±0.01wt%であり、パターン形成工程S2を行う環境は常温常湿雰囲気(23±2℃、45±5%RH)であり、その一方で液晶表示装置製造工程S10を行う環境が、高温高湿雰囲気(40℃、90%RH)である場合を考える。
【0059】
この場合、前記基材を高温高湿雰囲気(40℃、90%RH)に放置すると、その含水率は0.33±0.01wt%となり、含水率が0.01wt%上昇することにより、この基材100mmあたり1.8μmの伸びが生じることが分かれば、液晶表示装置製造工程S10を行う場合に、当該基材に100mmあたり1.8μmの伸びが生じることを予め見越して、当該伸びが生じた際に所望のパターン形状となるように、パターン形成工程S2においては、所望のパターンよりも小さいパターンを敢えて形成することとなる。
【0060】
このように、本発明の製造方法におけるパターン形成工程S2にあっては、製造するパターン付ロール状基材が用いられる後工程の雰囲気、基材の材質、含水率の変化に伴う寸法変化量などの種々の条件から、当該基材に生じる寸法変化を予測し、これをフィードバックしてパターンを形成している。
【0061】
なお、上記の説明においては、本発明の製造方法により製造されたパターン付ロール状基材が液晶表示装置において使用される場合を一例としており、したがって、本発明の製造方法における「パターン付ロール状基材が使用される環境」とは、「液晶表示装置を製造する際における環境」ということになるが、これに限定されることはない。つまり、本発明の製造方法における「パターン付ロール状基材が使用される環境」とは、パターン形成工程の後であって、パターン付ロール状基材が製品として用いられる環境のすべてをいい、具体的には、製品として携帯電話装置を製造する場合には当該携帯電話装置を製造する際の環境をいい、配線板を製造する場合においては当該配線板を製造する際の環境をいう。ただし、パターン形成工程の後の環境であっても、単に搬送するだけや貯蔵しておくだけの環境は、本発明の製造方法における「パターン付ロール状基材が使用される環境」には該当しない。また、本発明の製造方法における「環境」とは、パターン付ロール状基板の寸法に影響を与えるすべての雰囲気のことであり、主には、温度と湿度のことをいう。
【0062】
パターン形成工程S2における実際の手段としては特に限定することはなく、形成したいパターンを精度良く形成することができる手段であれば如何なる手段をも採用することができる。具体的には、フォトリソグラフィー法やインクジェット法などを挙げることができる。
【0063】
また、含水率一定化工程S1において前述したいわゆるナーリング処理が行われた後に当該パターン形成工程S2をする場合には、基材上に配置された空隙部材を外してからパターンを形成しても良い。これによりパターン形成の自由度を向上することができる。一方で、当該空隙部材の存在が邪魔にならない場合には、基材上に配置したままでパターンを形成してもよい。
【0064】
(3)ロール化工程
次にロール化工程S3について説明する。
【0065】
当該工程は、所定のパターンが形成された基材を再度ロール状に巻回すことにより、パターン付ロール状基材とする工程である。当該工程は、最終的に出荷できる状態にする工程であり、その具体的な手段については特に限定されることはなく、従来公知の種々の手段を適宜選択して用いることができる。
【0066】
また、当該工程S3を行うにあたり、パターンが形成された基材上に空隙部材が配置されていない場合、つまり、前記パターン形成工程S2において空隙部材を外してパターンが形成された場合には、再度、上述したいわゆるナーリング処理を施してもよい。パターン付ロール状基材を出荷するにあたり、ナーリング処理を施すことにより、パターン付ロール状基材の巻内と巻外との含水率を均一に保持しつつ、この後に行われる各種工程、例えば液晶表示装置の製造工程へ搬送することができ、さらには、搬送された雰囲気にすぐに馴染ませることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0068】
(実施例1)
上記で説明した、含水率一定化工程(S1)、パターン形成工程(S2)、およびロール工程(S3)からなる本発明の実施例1の製造方法によりパターン付ロール状基材を製造し、これを液晶表示装置の製造工程(S10)を行う納入先に納品し、当該納入先が所望するパターンと、実際に納品されたパターン付ロール状基材のパターンとを比べ、どの程度のズレが生じているかを確認するとともに、ロール状基材の全体が納入先の環境に馴染むまでに要する時間を計測した。
【0069】
なお、実施例1の製造方法を行った際の環境は、常温常湿雰囲気、具体的には21℃、40%RHであり、一方で納入先の環境は、21℃、50%RHであった。また、実施例1の製造方法を行った環境下における基材の含水率は0.33±0.01wt%であり、一方で納入先の環境下においては、その含水率は0.37±0.01wt%となり、当該基材は含水率が+0.04wt%変化すると7.2μm/100mm伸びることが予め分かっていた。
【0070】
したがって、実施例1の製造方法におけるパターン形成工程(S2)においては、納入先の環境下で基材が7.2μm/100mm伸びることを見越して、納入先が所望するパターンとは異なる寸法のパターンを形成しておいた。
【0071】
また、ロール工程(S3)においては、前述したいわゆるナーリング処理を施した。
【0072】
(実施例2)
ロール工程(S3)においていわゆるナーリング処理を行わなかった以外はすべて実施例1と同一の条件にてパターン付ロール状基材を製造し、実施例1と同様にパターンのズレと馴染むまでの時間を確認した。これを実施例2の製造方法とする。
【0073】
(比較例1)
パターン形成工程において、納入先の環境を考慮することなく、納入先が所望するパターンをそのまま形成した以外はすべて実施例1と同一の条件にてパターン付ロール状基材を製造し、実施例1と同様にパターンのズレと馴染むまでの時間を確認した。これを比較例1の製造方法とする。
【0074】
(対比結果)
上記実施例1〜2および比較例1の製造方法により製造したパターン付ロール状基材上のパターンのズレ、および納入先の環境下に基材全体が馴染むまでの時間を確認した結果を以下の表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記の表からも明かなように、パターン形成工程において納入先が所望するパターンをそのまま形成するのではなく、納入先の環境下における基材の寸法変化を予め見越して、パターンを形成することにより、納入先でのパターンのズレを許容範囲、例えば±3.3μm/100mm以内に抑えることができる。また、実施例1と2を比較すると、ロール工程においてナーリング処理を行うことにより、納入先の環境に馴染むまでの時間を短縮することができることが分かる。
【符号の説明】
【0077】
1 基材
2 空隙部材
10 ロール状基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する基材上に所定のパターンが形成され、これが巻芯に巻回されてなるパターン付ロール状基材の製造方法であって、
原材料となる基材の含水率を一定化させる含水率一定化工程と、
含水率一定化工程後のロール状基材に対し所定のパターンを形成するパターン形成工程と、
パターン形成工程後の基材を巻回するロール工程と、を有し、
かつ、前記パターン形成工程においては、前記ロール工程後のパターン付ロール状基材が使用される環境によって、当該ロール状基材に生じる寸法変化を予め見越してパターンを形成する、ことを特徴とするパターン付ロール状基材の製造方法。
【請求項2】
前記含水率一定化工程が、基材上に部分的に空隙部材を配置し、当該空隙部材と共に基材を巻回せしめ、所定時間放置する工程であることを特徴とする請求項1に記載のパターン付ロール状基材の製造方法。
【請求項3】
前記パターン形成工程において、前記含水率一定化工程において用いられた空隙部材を基材上から外した後、パターンを形成し、
前記ロール工程において、基材上に部分的に空隙部材を配置し、当該空隙部材と共に基材を巻回せしめることを特徴とする請求項2に記載のパターン付ロール状基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−181258(P2012−181258A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42723(P2011−42723)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】