説明

パッキンのシール構造

【課題】 圧力差のある2つの雰囲気を隔離する手段として、シール面に開口して形成された単純な構造のパッキン溝内に単純な形状のパッキンを収納して構成され、シール部の厚みを薄肉にすることが可能で、かつ使用条件や使用回数に左右されず常時高いシール性が確保されるパッキンのシール構造を提供することを課題とする。
【解決手段】 断面矩形の弾性パッキンを用いると共に、一方及び他方のシール面それぞれに断面コの字形パッキン溝を少なくとも一部が互いに対向するように形成し、該パッキン溝は、前記シール面に直交する断面上で、少なくとも低圧雰囲気側において一方が他方に対して相対的に張り出して構成し、両パッキン溝により挟持させて収容した前記パッキンを、パッキン溝の底面、側面、及び低圧雰囲気側に張り出していない方のパッキン溝の溝口の低圧雰囲気側の縁角、に当接させてシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧または減圧装置における継手や接続部を、パッキンを用いてシールするためのシール構造の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
内部が加圧または減圧される容器又は筐体は、通常、容器又は筐体の本体と蓋部材との間にパッキン部材を介在させてシール性を保つことが行なわれている。その際に採用されるシール構造としては、容器又は筐体の本体あるいは蓋部材のいずれかに、パッキン溝を形成してその内部にパッキン部材を収容し、シール時には、パッキン部材を蓋あるいは容器本体に押し付ける形式のものが古くから知られている。パッキン部材としては、フッ素ゴムないしフッ素樹脂系材質の弾性部材から成るものが多く使われるが、全体形態は通常、環状であり、断面形状は円形、矩形、三角形など、様々である。
【0003】
図9により、従来のシール構造を説明する。図9は、例えば、内部が大気圧より高圧に保たれる筐体のシール時におけるシール部の要部拡大断面図である。このような構造を有する装置としては、例えば、稼動時に筐体内部を窒素パージし波長185nm以下の紫外線を発生するランプを使用するオゾン洗浄装置がある。容器内雰囲気61の圧力は容器外雰囲気62(大気)より高い圧力(0.2MPa程度)になっている。51はOリング、54は筐体(その一部が示されている)52のシール面53に開口して形成された断面矩形の環状パッキン溝、55はシール面53に対向するシール面56を有する窓枠部材である。70は、紫外線照射窓板であり、例えば石英ガラス等で構成される。
【0004】
シール状態に至るまでの状況を説明すると、パッキン溝54に収納されたOリング51は、当初、断面形状が多少変形している程度であり、パッキン溝54の底面54Aと、側面54B及び54Cとに当接すると共に、シール面56に対してはパッキン溝54の中央部に対向する点56Aを中心として当接している。次に、ねじ(図示せず)等による締め付けによって、筐体52のシール面53と窓枠部材55のシール面56とを両者が互いに完全に接触するまで接近させると、Oリング51はシール面56に押されて、その断面形状に変形がますます進行し、Oリング51は、シール面56、パッキン溝54の底面54A、側面54B及び54Cと完全に密着することになり、これによって容器内雰囲気61は容器外雰囲気62と隔離され、シール状態が完成する。
【0005】
しかしながら、Oリングを始めとする従来のパッキンは、その全面を一方向から均一に押圧して変形させることで密着性を確保し、シール性を実現していたので、そのパッキンを実際に押圧するシール部構成部材は、自身の厚みにその押圧に対抗できるだけ厚みを加えた板厚(剛性)を備えている必要があった。このことは、前記オゾン洗浄装置のように、大気によるエネルギー減衰をできるだけ小さくするために、紫外線ランプとワーク(照射窓板)との距離を短くしたい要求がある場合には、装置性能を低減させる要因になるという問題を抱えていた。
【0006】
シール部の厚みを薄くするには、パッキンを薄くし、パッキン溝も浅くすると効果的である。パッキンとしては、例えば、断面長方形で、厚さ1mm、幅10mmの帯状リング形状の薄型弾性パッキンの使用が考えられる。パッキン溝の深さも、これに応じて、0.1mmオーダーの深さとする。しかしながら、プラスチックゴム等の材質の弾性パッキンは、この程度の厚みになると、幅方向から加わる力に対して極めて弱く、反りやうねり等の変形が生じて平面性が保ちにくくなるという性質がある。従って、例えば図9に示すのと同じ構造で深さだけが浅いパッキン溝にこのようなパッキンを適用すれば、シール面やパッキン溝の底面との密着性が十分でなくなる。しかし従来は、こうした問題に対する解決策が提案されることはなく、また、シール部の厚みを薄くする手段として、薄型パッキンが用いられることもなかった。
【0007】
一方では、上記のような従来のシール構造の場合は、窓枠部材55の付け外しの繰り返しによって、Oリング51はシール面56の56Aとの接触部周辺で磨耗が進行しやすく、また、Oリングは低温時に弾性が低下し硬度が増す傾向があり、シール面56との密着性を低下させるという問題があった。その場合、シール性を確保するため、シール面53、56やパッキン溝54は高い加工精度が要求されるという側面を抱えることにもなっていた。また、容器内雰囲気61の圧力が特に高い場合は、図10に示すように、流路60の高圧側開口端57から流路60に侵入した高圧気体によってOリング51が低圧側に押されて潰れ変形する。この時、Oリング51とパッキン溝54の側面54Bとの密着性が弱まり、さらに、Oリング51とシール面56との間に侵入しようとする高圧気体がこの両者を引き剥がす方向に作用し、この両者の密着性を悪化させることになる。こうして、従来のシール構造においては、容器内雰囲気61と容器外雰囲気62の隔離が十分でなく、必ずしもシール性が保証されないという欠点を有していた。
【0008】
こうした問題に対しては、例えば、特許文献1に記載のように、パッキン溝の底部に円弧状またはV字状断面でなる傾斜部を設け、高圧側雰囲気から気体等の流入によりOリングに圧力が加わった際に、この傾斜面によってOリングがパッキン溝の対向面に押圧されることを利用してシール性を向上させる提案もなされている。しかしながら、この提案を採用した場合でも、Oリングの材質の経時的劣化に伴なうOリング外面の変質によって、シール面に作用するOリングの面圧の低下は避けられず、依然として、シール性は十分とは言えなかった。
【特許文献1】特開平5−240356号公報
【0009】
経時的劣化に伴なうOリング外面の変質は、パッキンの当接面の変形やパッキン自体の屈曲などをもたらすが、こうした問題の解決のために、例えば、特許文献2に記載のように、互いに対向するシール面に対向するパッキン溝をそれぞれ設け、各溝の底部には傾斜部と突起部とを形成し、この溝の間にパッキンを収納・挟持してシール性を高める提案も行なわれている。このような構成の場合は、対応する一対の溝の間にパッキンが挟持され、しかも溝の内面の構造が複雑であるため、パッキンが溝内で動くことがなく確実に固定され、従って高いシール性が確保されるという利点がある。しかし、この提案には、パッキン溝の構造が複雑で形成が容易でなく汎用性が乏しく、また、パッキン自体の形状もH字状断面で成り、特殊なパッキンを必要とするという欠点を抱えていた。
【特許文献2】実開平5−79126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、安価で単純な形状の弾性パッキンを高い加工精度が要求されない単純な構造のパッキン溝内に収納して構成され、シール部の厚みを薄肉にすることが可能で、かつ使用条件や使用回数に左右されず常時高いシール性が確保されるパッキンのシール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を達成するために次の構成とする。すなわち、請求項1に記載のパッキンのシール構造は、圧力差のある2つの雰囲気が、互いに接する一方及び他方のシール面を断面矩形の弾性パッキンを用いてシールすることによって隔離されるパッキンのシール構造であって、
前記一方及び他方のシール面にそれぞれ開口し少なくとも一部が互いに対向する、一組の断面コの字形パッキン溝が形成され、該パッキン溝は、前記シール面に直交する断面上で、溝の中心線が互いに一致せず、かつ少なくとも低圧雰囲気側において一方が他方に対して相対的に張り出して構成され、
前記パッキン溝の互いに対向し合う領域で両パッキン溝により挟持させて収容された前記パッキンを、低圧雰囲気側に張り出した一方のパッキン溝(パッキン溝A)の底面と、該パッキン溝Aの低圧雰囲気側の側面と、他方のパッキン溝(パッキン溝B)の底面と、該パッキン溝Bの溝口の低圧雰囲気側の縁角と、に当接させてシールすることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載のパッキンのシール構造は、更に、シール時に前記パッキンが押し潰されて減少する体積の割合はパッキン全体の10%以内であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載のパッキンのシール構造は、更に、前記パッキンが、断面長方形で、その断面における長辺に対する短辺の長さの比が8%〜13%であり、前記パッキン溝が、前記シール面に直交する断面上における、底辺の長さに対する深さの比が0.7%〜8%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載のパッキンのシール構造によれば、断面矩形の弾性パッキンを、溝の中心線が互いに一致しない、断面コの字形の一組の対向し合うパッキン溝によって挟持させ、パッキン溝の底面、側面及び溝口の縁角に当接させてシールするので、パッキンやパッキン溝の高い寸法精度を必要とせずに、高圧側雰囲気と低圧側雰囲気とをパッキンによって確実に隔離できるという効果がある。また、シール時に、パッキンが高さ方向でなく水平方向に押し潰し変形されることでシール性が確保されるので、シール部を構成する部材の厚みを薄肉化することができるという効果がある。
【0015】
請求項2に記載のパッキンのシール構造によれば、シールが常時保証されるという効果がある。
【0016】
請求項3に記載のパッキンのシール構造によれば、シール部を構成する部材の厚みを特に顕著に薄肉化することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面に基づいて本発明の作用及び最良の実施形態を、例を挙げながら説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
図1は、装置分解時等、パッキン溝を挟む前後の雰囲気に圧力差が生じていない状態における、本発明のパッキンのシール構造を示す模式的部分断面図である。図2は、装置稼動時等、パッキン溝を挟む前後の雰囲気に圧力差が生じ、その2つの雰囲気がパッキンによって隔離され、シール状態が完成した様子を示す模式的部分断面図である。図1、図2はまた、図12に示す装置のシール部を拡大して示したもので、共に、左右対称の片側(左側)について示してあり、他方側を省略してある。なお、各構成部材の縦横の寸法比率、シール面とシール面の間の間隙の大きさ等については、実際通りではなく適宜誇張して描画してある。(図3以降の図についても同様。)
【0018】
本発明のシール構造は、例えば、図12に示すように、波長185nm以下の紫外線を発生する管型長尺紫外線ランプ3と、これを内部に備えた反射鏡4、等から構成される紫外線照射器2を有するオゾン洗浄装置1の照射開口部に設けて成る窓枠12と照射器筐体15とのシール部の構造に適している。図1は、このような装置の窓枠と照射器筐体との片方のシール部を拡大して示したものである。11は断面矩形のバイトンゴム製環状パッキンであり、十分な弾性を有している。12はアルミニウム等の低ヤング率材料から構成される窓枠部材、15は筐体である。パッキン溝14及び17は、断面コの字形に形成され、それぞれシール面13及び16に開口している。この両パッキン溝は、一部が互いに対向する領域を有しているが、溝口部は互いに重なり合わない配置となっている。筐体15側のパッキン溝17は高圧側(雰囲気21側)に張り出しており、窓枠部材12側のパッキン溝14は低圧側(雰囲気22側)に張り出している。25は筐体15と窓枠部材12とのシールを確実にするための締め付けねじ部である。30は、紫外線透過性部材、例えば石英ガラスから構成される紫外線照射窓板であり、窓枠部材12に密着して取り付けられ、筐体15の内部を高圧雰囲気に保っている。なお、筐体15と窓枠部材12との間の間隙20は、誇張して描画したものであり、実際には、筐体15と窓枠部材12との間には目視で確認できる程度の間隙はない。
【0019】
シールの作業はまず、締め付けねじ部25を外すなどして、窓枠部材12を筐体15から分離し、窓枠部材12のパッキン溝14にパッキン11を装着する。次に、パッキン11が筐体15側のパッキン溝17にも納まり、パッキン溝14とパッキン溝17とで挟持されるようにして、窓枠部材12のシール面13と筐体15のシール面16を当接させ、締め付けねじで締め付けて両者を固定する。この段階では、パッキン11がパッキン溝の底面14A及び17Aに密着している。
【0020】
次いで、筐体15の内部に窒素ガス等の不活性ガスが供給されて、筐体15の内部雰囲気21の圧力が装置外雰囲気(大気圧)22よりも高まり、パッキン溝14、17を挟む前後の雰囲気21と22の圧力差が増大すると、パッキン11は、間隙20の入口18から流入する内部雰囲気21の気体分子によって低圧側(大気圧;雰囲気22側)に押されて(図1中では左側に)移動を始め、同時に、パッキン溝17の溝口の低圧側縁角17Kに当接して押し潰され、変形が進行する。最後には、パッキン11の左側面がパッキン溝14の低圧側側面14Bに当接して、パッキン11の移動が停止する。こうして、図2に示すように、入口18から出口19へ至る間隙20が構成する微細な流路は、パッキン11自身の変形によって遮断され、圧力差に応じたシール状態が完成する(自己シール)。
【0021】
ここで、対向し合う2つのパッキン溝の溝口が互いに重なり合わない部位が存在することがもたらす効果について説明する。図11は、(少なくとも低圧雰囲気側の)パッキン溝84、87の溝口が互いに重なり合う場合のシール部の構造を示している。パッキン溝84、87内には、前記パッキン11と同等材質の断面矩形の環状パッキン81が両パッキン溝の底面の間に挟持されている。シール状態が完成するまでの途中過程は、上記の、溝口が互いに重なり合わない場合と同様に進行し、最後には、パッキン81が内部雰囲気101の気体分子によって押されて、パッキン溝の低圧雰囲気側の側面84B、87Bに当接して、シール状態が完成する。
【0022】
このシール状態は、パッキン81が新品のうちは完全であるが、何度も使い古されているうちにパッキン81の表面が変質し平坦さが失われ、荒れや凹凸が生じる場合がある。こうなると、高圧側の気体分子による押圧だけでは、パッキン81の表面の、パッキン溝の側面84B、87Bへの当接のしかたが十分ではなくて、密着が不完全となり、内部雰囲気101の高圧気体分子がこの当接部からリークする恐れが生じる。なお、パッキン81が断面円形の環状パッキン(Oリング)の場合は、元来、パッキン溝の底面、側面との接触面積が十分確保し難いため、使い古しによるシール性の悪化は更に顕著である。
【0023】
これに対して、本発明のシール構造では、断面矩形のパッキンが使用されており、また、シール面に直交する断面上で、断面コの字形の対向し合う2つのパッキン溝が、その溝口が互いに重なり合わない部位を有して配置されているので、たとえパッキンの表面が、その変質により荒れや凹凸が生じ、完全な密着に適さない状態になっても、シール時には必ずパッキンの一部を押し潰し変形させる部位(すなわち、パッキン溝の溝口の縁角)が存在し、そこにパッキンの側面が当接する過程を経ることになるため、シールが完全になるという従来にない優れた効果が得られる。
【0024】
これに加えて、本発明のシール構造では、パッキンはシール時に、高さ方向に関しては対向する2つのパッキン溝間に挟持される程度であり、ほとんど押し潰されないが、水平方向に関してはパッキン溝の溝口の縁角への押圧により大きく押し潰し変形されることでシール性を確保するものであるから、高さ方向に関しては押圧に対抗できるだけの部材の厚みを必要としないので、薄肉化が可能である優れた効果も享受できる利点がある。
【0025】
なお、図1に示す装置は、紫外線照射方向が下向きの場合であるが、装置全体が上下逆の配置で、紫外線照射方向が上向きの場合でも同様の効果があることはもちろんである。
【0026】
また、図1に示す装置では、筐体15側のパッキン溝17は高圧側(雰囲気21側)に張り出しており、窓枠部材12側のパッキン溝14は低圧側(雰囲気22側)に張り出していたが、図3に示すように、両パッキン溝の張り出しの関係が逆で、筐体15側のパッキン溝17が低圧側(雰囲気22側)に張り出し、窓枠部材12側のパッキン溝14が高圧側(雰囲気21側)に張り出していてもよい。すなわち、本発明では、シール面に直交する断面上で、対向し合う2つのパッキン溝の一方が他方に対して、少なくとも低圧雰囲気側へ相対的に張り出していればよい。言い換えれば、対向し合う2つのパッキン溝の溝口の重なり合いに関しては、本発明では少なくとも溝口の低圧雰囲気側が重なり合わない状態であればよい。なお、この場合、パッキン11を押し潰し変形させるパッキン溝の溝口の縁角(14K)は、パッキン溝14の低圧雰囲気側の溝口に存在している。
【0027】
また、本発明は、筐体内の雰囲気の圧力が、筐体外部よりも高い場合も、低い場合も適用可能である。筐体内の雰囲気が外部よりも低圧である典型的な例は、内部を減圧にする真空装置である。
【0028】
そこで、本発明の好ましい実施形態として、上記説明の形態の他に、次の3つのタイプのいずれかであってもよい。すなわち、図4に示すように、筐体内の雰囲気の圧力が筐体外部よりも高く、対向し合う2つのパッキン溝の溝口が、高圧雰囲気側で重なり合うが低圧雰囲気側で重なり合わない場合、図5に示すように、筐体内の雰囲気の圧力が筐体外部よりも低く、対向し合う2つのパッキン溝の溝口が、高圧雰囲気側、低圧雰囲気側共に重なり合わない場合(筐体内外の圧力関係が図1と逆の関係)、図6に示すように、筐体内の雰囲気の圧力が筐体外部よりも低く、対向し合う2つのパッキン溝の溝口が、高圧雰囲気側で重なり合うが低圧雰囲気側で重なり合わない場合(筐体内外の圧力関係が図4の場合と逆の関係)、の3つである。これらは、前記説明の実施形態と同様の効果を奏する。
【0029】
弾性パッキンは、シール時に押し潰されて体積が減少するが、この体積減少は、本発明では大部分がパッキン溝の溝口の縁角に当接する際に生じている。しかし、無制限に体積が減少してもよい訳ではない。それは、パッキンが弾性限度を超えて押し潰し変形すると、パッキンの内部構造が崩れ、元に戻らなくなり、また押される力に対するパッキンの抗力が弱まり、結果的に、パッキン溝の溝口の縁角や側面等の当接部位での密着性が不十分となり、またパッキンの再使用が不可能となるからである。そこで本発明では、この体積減少の割合はパッキン全体の10%以内であることが好ましい。10%を超えると、当接部位でのパッキンの密着性が不十分となり、また再使用に適さなくなる。逆に、10%以内であれば、密着性を実現するに足りるパッキンの抗力が確保され、シールが常時保証される。
【0030】
本発明のパッキンのシール構造は、浅いパッキン溝に薄型弾性パッキンが装着される組合せの場合、シール部の厚みの薄肉化に特に顕著な効果を発揮する。図7は、そのようなシール構造を有するシール部を示す模式的部分断面図であり、シール前の状態を示している。図7に示すシール部及びその周辺の構成は、パッキン及びパッキン溝の寸法・形状が異なる以外、図1に示すシール部と基本的に同じである。
【0031】
シール状態が完成するまでの様子を説明する。弾性パッキン111は、厚さ1mm程度の帯状薄型リング形状で、プラスチックゴム製である。パッキン111の装着は、パッキン111をパッキン溝114とパッキン溝117とで挟持させて行なうが、対向し合うこの両パッキン溝の溝口が互いに重なり合わないために、この段階で既に、一方のパッキン溝117の溝口の縁角117Kによって、パッキン111の一部が押し潰されている。
【0032】
筐体115の内部に窒素ガス等の不活性ガスが供給されて、内部雰囲気121の圧力が装置外雰囲気(大気圧)122よりも高まり、両雰囲気121と122の圧力差が増大すると、パッキン111は、間隙120の入口118から流入する内部雰囲気121の気体分子によって低圧側(大気圧;雰囲気122側)に押される。この時、パッキン111は、圧力の高い内部雰囲気121に面した側は圧縮され変形するが、一部が溝口の縁角117Kによって押さえ付けられているためにほとんど移動しない。この圧縮変形は、パッキン111の幅方向の変形であるが、この変形によって、パッキン111は厚み方向の密度が高まってその方向の応力を生み、パッキン111とパッキン溝の底面114A、117Aそれぞれとの密着性を一層高める(水平方向に受けた応力が垂直方向に変換される)。なお、この場合、押し潰し及び圧縮によるパッキンの体積減少の割合は、全体の10%以内であることが好ましい。
【0033】
こうして、図8に示すように、溝口の縁角117Kによる押し潰しと内部雰囲気121からの圧力とがパッキン111の変形を生み、入口118から出口119へ至る間隙120が構成する微細な流路は遮断され、シール状態が完成する。このシール状態は、パッキンやパッキン溝の寸法精度には影響されず、例えば、パッキン溝の底面に若干の凹凸や傾斜があっても維持される。
【0034】
本発明が効果を発揮するには、パッキンとパッキン溝に寸法的条件がある。すなわち、断面長方形で、その断面における長辺に対する短辺の長さの比が8%〜13%であるパッキンと、シール面に直交する断面上における、底辺の長さに対する深さの比が0.7%〜8%であるパッキン溝との組合せから成るパッキンのシール構造であることが好ましい。
【0035】
パッキンについては、その断面における長辺に対する短辺の長さの比が8%未満の場合は、薄すぎて反り、たわみ等の変形や、破断等が起こりやすく、またはシール部への装着自体が行ないにくく、好ましくない。13%を超える場合は、シール性は十分確保されるが、シール部の薄肉化効果が小さくなる。パッキン溝については、シール面に直交する断面上における、底辺の長さに対する深さの比が0.7%未満の場合は、溝口の縁角によりパッキンを押さえ付ける力が弱く、または溝自体の加工製作が難しく、好ましくない。8%を超える場合は、シール性は十分確保されるが、シール部の薄肉化効果が小さくなる。
【実施例1】
【0036】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
図1は、本発明の実施例のシール構造を備える紫外線照射装置、例えば、波長185nm以下の紫外線を使用する紫外線洗浄装置1の、長手方向に垂直な面における概略断面図の一部を、左右対称な紫外線照射窓部の一方の端についてシール部を中心にして、シール前の状態を示してある。同装置1の筐体15は、例えばステンレス等の金属材料により概略箱型に構成してあり、全長、幅、高さがそれぞれ例えば1400mm、250mm、300mmである。
【0038】
パッキン溝14及び17は、それぞれシール面13及び16に開口するように、断面コの字形に穿屈形成した。パッキン溝14の幅Mw、深さMdはそれぞれ8mm、3mm、パッキン溝17の幅Nw、深さNdはそれぞれ8mm、3mmとした。パッキン11は、幅6mm、高さ6mmの断面正方形のバイトンゴム製環状パッキンを使用した。
【0039】
また、窓枠部材12のシール面13及び筐体15のシール面16の幅hは60mm、窓枠部材12の厚みeは7mm、筐体15のシール部の厚みfは6mmとした。石英ガラス製紫外線透過窓板30の厚みは3mmとした。図9に示す典型的な従来の紫外線洗浄装置では、窓枠部材の厚みsが8mm、筐体のシール部の厚みtが8mm必要としたのに比べ、シール部を4/5程度に薄肉化することができ、その分だけ紫外線ランプとワークとの距離を小さくすることができた。
【0040】
紫外線ランプ(図示せず)は、長尺管型で、装置1の長手方向に沿って配置し、例えば有効発光長800mm、管径35mmの直管型800Wエキシマランプを使用した。
【0041】
筐体15内は窒素ガスでパージされ、装置稼動前に圧力0.2MPaに調整したが、稼動時に装置外へのガスのリークは確認されなかった。この状態は、装置稼動延べ100時間経過後も維持されていた。
【0042】
なお、本実施例の装置におけるエキシマランプの冷却方法は、水冷式である。冷却水流量は、4リットル/min程度とした。装置稼動時の温度条件は、筐体外雰囲気22(外気)が20℃程度の常温の時、筐体内雰囲気21の温度がおよそ25℃、シール部(窓枠部材近傍)の温度がおよそ30℃と推定された。
【0043】
シール時のパッキンの体積減少率は、パッキン材料の弾性データや装置内外の圧力条件等を用いた、押し潰し変形に関するシミュレーション計算からおよそ5%と推定された。
【実施例2】
【0044】
図7は、本発明の別の実施例のシール構造を備える紫外線照射装置のシール部の模式的部分断面図であり、シール前の状態を示してある。同装置の構成は、パッキン、パッキン溝及びその周辺のシール部の寸法的違い以外は、図1に示す装置と同じである。
【0045】
パッキン溝114及び117は、それぞれシール面113及び116に開口するように、断面コの字形に穿屈形成した。パッキン溝114の幅Pw、深さPdはそれぞれ12mm、0.1mm、パッキン溝17の幅Qw、深さQdはそれぞれ12mm、0.9mmとした。パッキン11は、幅10mm、高さ1.0mmの断面矩形のバイトンゴム製環状パッキンを使用した。
【0046】
また、窓枠部材12のシール面13及び筐体15のシール面16の幅hは60mm、窓枠部材12の厚みeは6mm、筐体15のシール部の厚みfは5mmとした。石英ガラス製紫外線透過窓板30の厚みは3mmとした。図9に示す典型的な従来の紫外線洗浄装置では、窓枠部材の厚みsが8mm、筐体のシール部の厚みtが8mm必要としたのに比べ、シール部を2/3程度に薄肉化することができ、その分だけ紫外線ランプとワークとの距離を小さくすることができた。
【0047】
筐体15内は窒素ガスでパージされ、装置稼動前に圧力0.2MPaに調整したが、稼動時に装置外へのガスのリークは確認されなかった。この状態は、装置稼動延べ100時間経過後も維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のパッキンのシール構造は、例えば、稼動時に筐体内部を窒素パージし波長185nm以下の紫外線を発生するランプを使用するオゾン洗浄装置に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例の、シール前の状態におけるパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図2】図1に示す実施例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図3】図1に示す構成の変形例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図4】本発明の別の実施例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図5】本発明の別の実施例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図6】本発明の別の実施例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図7】本発明の別の実施例の、シール前の状態におけるパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図8】図7に示す実施例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図9】従来例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図10】従来例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図11】本発明に含まれない構成例の、シール時のパッキンのシール構造を示した模式的部分断面図である。
【図12】本発明のパッキンのシール構造を有する装置の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…オゾン洗浄装置
11…パッキン
12…窓枠部材
13…シール面
14…パッキン溝(パッキン溝A)
14A…パッキン溝の底面
14B、14C…パッキン溝の側面
15…筐体
16…シール面
17…パッキン溝(パッキン溝B)
17A…パッキン溝の底面
17B、17C…パッキン溝の側面
14K、17K…パッキン溝の溝口の縁角
18…入口
19…出口
20…間隙
21…高圧雰囲気
22…低圧雰囲気(大気)
25…締め付けねじ部
30…照射窓板
51…パッキン
52…筐体
53…シール面
54…パッキン溝
54A…パッキン溝の底面
54B、54C…パッキン溝の側面
55…窓枠部材
56…シール面
57…入口
58…出口
60…間隙
61…高圧雰囲気
62…低圧雰囲気(大気)
70…照射窓板
81…パッキン
82…窓枠部材
83…シール面
84、87…パッキン溝
84A、87A…パッキン溝の底面
84B、84C、87B、87C…パッキン溝の側面
84K、87K…パッキン溝の溝口の縁角
88…入口
89…出口
90…間隙
91…高圧雰囲気
92…低圧雰囲気(大気)
95…照射窓板
100…オゾン洗浄装置
111…パッキン
112…窓枠部材
113…シール面
114…パッキン溝
114A…パッキン溝の底面
115…筐体
116…シール面
117…パッキン溝
117A…パッキン溝の底面
117K…パッキン溝の溝口の縁角
118…入口
119…出口
120…間隙
121…高圧雰囲気
122…低圧雰囲気(大気)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力差のある2つの雰囲気が、互いに接する一方及び他方のシール面を断面矩形の弾性パッキンを用いてシールすることによって隔離されるパッキンのシール構造であって、
前記シール面に直交する断面上で、前記一方及び他方のシール面にそれぞれ開口し少なくとも一部が互いに対向する、一組の断面コの字形パッキン溝が形成され、該パッキン溝は、溝の中心線が互いに一致せず、かつ少なくとも低圧雰囲気側において一方が他方に対して相対的に張り出して構成され、
前記パッキン溝の互いに対向する領域で両パッキン溝により挟持させて収容した前記パッキンを、低圧雰囲気側に張り出した一方のパッキン溝(パッキン溝A)の底面と、該パッキン溝Aの低圧雰囲気側の側面と、他方のパッキン溝(パッキン溝B)の底面と、該パッキン溝Bの溝口の低圧雰囲気側の縁角と、に当接させてシールすることを特徴とするパッキンのシール構造。
【請求項2】
シール時に前記パッキンが押し潰されて減少する体積の割合はパッキン全体の10%以内であることを特徴とする請求項1記載のパッキンのシール構造。
【請求項3】
前記パッキンは、断面長方形で、その断面における長辺に対する短辺の長さの比が8%〜13%であり、前記パッキン溝は、前記シール面に直交する断面上における、底辺の長さに対する深さの比が0.7%〜8%であることを特徴とする請求項1または2記載のパッキンのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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