パッシブフィルタ及び高調波電流抑制方法
【課題】対象とする高調波電流以外の高調波電流も効果的に抑制でき、且つ、コイルのインダクタンスの低減にも寄与できるパッシブフィルタを提供する。
【解決手段】パッシブフィルタ11は、電源系統1側に接続される第1のコイル13と、第1のコイルの負荷回路2側に接続される第2のコイル14と、直列に接続された第3のコイルLf及びコンデンサCfから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路12とから成る。共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、第1のコイルのインダクタンスL1は、第2のコイルのインダクタンスL2より大きい。
【解決手段】パッシブフィルタ11は、電源系統1側に接続される第1のコイル13と、第1のコイルの負荷回路2側に接続される第2のコイル14と、直列に接続された第3のコイルLf及びコンデンサCfから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路12とから成る。共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、第1のコイルのインダクタンスL1は、第2のコイルのインダクタンスL2より大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波電流の発生源である負荷回路から発生する高調波電流を抑制するためのパッシブフィルタ、及び、係るパッシブフィルタを用いた高調波電流抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年インバータエアコン等の利用の増大に伴い、各種負荷回路がもたらす交流電源系統の高調波障害が問題となっている。この高調波発生源である負荷回路から発生する高調波電流を抑制するため、電源系統と負荷回路との間の受電点にはパッシブフィルタが設けられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に示されたパッシブフィルタは、所謂T型フィルタである。この文献に示された回路は、交流電源系統と負荷回路との間の受電点における第1の導電線126に直列的に挿入された第1及び第2のコイル140、146を備えている。そして、この回路には、直列接続された第3のコイル142と、並列に接続されたコンデンサ14及び抵抗16とから成り、一端が第1のコイル140と第2のコイル146との間に接続され、他端が第2の導電線128に接続された直列回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6549434号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されたようなT型のパッシブフィルタでは、抑制対象とする高調波電流に応じて第3のコイルとコンデンサ14の共振周波数を決定し、この周波数の高調波電流を抑制するものであるため、他の次数の高調波電流の低減には効果が少ない。また、第3のコイル142のインダクタンスとしては、第1及び第2のコイル140、146の相互インダクタンスを考慮した値にしなければならないため、第3のコイル142の大型化が必要となる問題もあった。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、対象とする高調波電流以外の高調波電流も効果的に抑制でき、且つ、コイルのインダクタンスの低減にも寄与できるパッシブフィルタ及びそれを用いた高調波電流抑制方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明のパッシブフィルタは、電源系統側に接続される第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続される第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るものであって、共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、第1のコイルのインダクタンスL1は、第2のコイルのインダクタンスL2より大きいことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明のパッシブフィルタは、上記において相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を5.5以上としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明のパッシブフィルタは、上記においてインダクタンスL1を7.2mH以上とし、インダクタンスL2を0.2mH以上、1.31mH未満としたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明のパッシブフィルタは、請求項1において定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を3.6以上としたことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明のパッシブフィルタは、上記においてインダクタンスL1を4.0mH以上とし、インダクタンスL2を0.41mH以上、1.11mH未満としたことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の高調波電流抑制方法は、電源系統側に接続された第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタを用いて高調波電流を抑制する方法であって、共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とすると共に、7次高調波電流を限度値以下に制限可能な第2のコイルのインダクタンスL2を確保しながら、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を増大させることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の高調波電流抑制方法は、上記において相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、比L1/L2を5.5以上とし、且つ、11次高調波電流及び17次高調波電流を限度値以下に制限可能な第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明の高調波電流抑制方法は、請求項6において定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合は、比L1/L2を3.6以上とし、且つ、11次高調波電流を限度値以下に制限可能な第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の如く、第3のコイル及びコンデンサから成る共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とし、電源系統側に接続された第1のコイルのインダクタンスL1を、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイル1のコイルのインダクタンスL2より大きくすることで、5次高調波電流のみならず、他の高調波電流の低減も図ることが可能となる。
【0016】
また、各インダクタンスL1、L2、第3のコイルのインダクタンスL3の値や、比L1/L2を最適に設定することで、5次高調波電流を限度値以下としながら、7次高調波電流や11次高調波電流、17次高調波電流などの他の高調波電流も限度値以下に低減することができるようになる。
【0017】
また、第2のコイルのインダクタンスL2を下げることになることから、第1のコイルと第2のコイルの相互インダクタンスも小さくなり、第3のコイルのインダクタンスも低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のパッシブフィルタを用いた高調波電流抑制回路の電気回路図である。
【図2】図1中のパッシブフィルタの第3のコイルのインダクタンスLfを変更した場合の各高調波電流の状況を示す図である。
【図3】図1中のパッシブフィルタの第1及び第2のコイルの相互インダクタンスMの影響を示す図である。
【図4】図1中のパッシブフィルタにおいて第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を変更した場合の各高調波電流の状況を示す図である。
【図5】図1中のパッシブフィルタの第2のコイルのインダクタンスL2を変化させた場合の7次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図6】図1中のパッシブフィルタの第1のコイルのインダクタンスL1を変化させた場合の11次高調波電流と17次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図7】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図8】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の各高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図9】図1中のパッシブフィルタの第2のコイルのインダクタンスL2を変化させた場合の7次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図10】図1中のパッシブフィルタの第1のコイルのインダクタンスL1を変化させた場合の11次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図11】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図12】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の各高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1において1は三相交流電源系統(相電圧220V〜240V)であり、2はこの電源系統1のR、S、Tの各相の受電点に接続される負荷回路である。実施例の負荷回路2は、空気調和機の冷媒回路を構成するコンプレッサ3を駆動する電動機4を含む回路であり、この電動機4の他、整流器6、平滑用コンデンサ7、インバータ8等を備えている。
【0020】
尚、負荷回路2としては係る空気調和機の他、給湯器の貯湯タンクを加熱する冷媒回路を構成するコンプレッサを駆動する電動機なども適用可能である。
【0021】
電源系統1から供給される三相交流電力は整流器6により整流され、平滑用コンデンサ7にて平滑される。インバータ8はIGBT等のスイッチング素子が2個直列接続された三つのアームから構成されている。各アームは互いに並列接続され、三相のインバータが構成されると共に、各スイッチング素子のゲートが図示しない制御装置によりON−OFF制御され、平滑された直流電力から所定周波数の三相交流電力を生成し、電動機4を駆動する。
【0022】
このとき、インバータ8は直流電力を矩形波の交流電力に変換するものであるため、高調波電流が発生し、電源系統1に流れ込むことになる。そこで、この電源系統1と負荷回路2の受電点P間に、本発明のパッシブフィルタ11が接続される。本発明のパッシブフィルタ11は、直列接続された第1のコイル13及び第2のコイル14と、直列接続された第3のコイルLf及びコンデンサCfの共振回路12とから成り、受電点Pと電源系統1のRST各相の導線間にそれぞれ接続される。
【0023】
このとき、第1のコイル13は電源系統1側にあり、第2のコイル14は負荷回路2側とされる。そして、共振回路12の第3のコイルLfの一端が第1のコイル13と第2のコイル14間に接続され、各相のコンデンサCfの他端が相互に接続されたかたちとなる。
【0024】
図2は共振回路12の第3のコイルLfのインダクタンスL3を変化させた場合の、5次高調波電流I5、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13、総合高調波ひずみ率THD、部分重み付け高調波ひずみ率PWHDの状況を表している(1次電流I1に対する%)。測定条件は、一般的な空気調和機、又は、給湯器の回路において(以下同じ)、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力DC500V、12KW、第1のコイル13のインダクタンスL1=第2のコイル14のインダクタンスL2=3mH、第1のコイル13及び第2のコイル14の相互インダクタンスM=0、Cf=40μFである。この図からも明らかな如く7次高調波電流と共振するように設定した場合には、5次高調波電流はレンジ外まで大きくなっている。
【0025】
一方、5次高調波電流と共振するように共振回路12のコイルLfのインダクタンスL3を設定した場合に、その他の高調波電流についても総じて低減できることが分かる。そこで、本発明では共振回路12が5次高調波電流に対する共振回路となるように第3のコイルLfのインダクタンスL3を設定した(実施例の測定条件では、LfのインダクタンスL3=10.13mH)。
【0026】
次に、図3は第1のコイル13及び第2のコイル14の相互インダクタンスMによる影響を示している。測定条件は、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力12KW、インダクタンスL1=インダクタンスL2=3.5mH、Cf=40μFである。この図からも明らかな如く、コイル13、14の相互インダクタンスによる影響は、相互インダクタンスMの約−2倍のコイルが共振回路12に挿入した状態と同じと見ることができる(実施例の測定条件ではM=0のときインダクタンスL3=10.13mH)。そして、相互インダクタンスM=k√L1*L2(kは結合係数)であるから、コイル13又は14のインダクタンスL1、L2を小さくすれば、相互インダクタンスMが小さくなり、第3のコイルLfのインダクタンスL3を低減できることになる。
【0027】
更に、第1のコイル13のインダクタンスL1と第2のコイル14のインダクタンスL2の値の設定について説明する。図4は第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を0/4〜4/0まで変化させた場合の各高調波電流の状況を示している。測定条件は、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力DC483V、11.4KW、インダクタンスLf=6.76mH、M=0、Cf=60μFである。
【0028】
図4から明らかな如く、第1のコイル13のインダクタンスL1を、第2のコイル14のインダクタンスL2より大きくすることで、5次高調波電流I5の他、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13を低減させることができる。しかしながら、7次高調波電流I7は逆に増大傾向となる。即ち、7次高調波電流I7を低減するためには、第2のコイル14のインダクタンスL2を大きくする必要がある。
【0029】
そこで、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の状況を図5に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図5(図8まで同様)ではIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の7次高調波電流の限度値0.77Aが示され、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では0.2mH≦L2とすることで、7次高調波電流I7を限度値以下に制限することが可能となる。
【0030】
次に、11次高調波電流I11と17次高調波電流I17は5次の共振回路12では低減できないため、第1のコイル13で除去する必要が出てくる。そこで、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11と17次高調波電流I17の状況を図6に示す。測定条件は、入力=三相相電圧220V、50Hz、15.9A、インダクタンスL2=0.7mH、インダクタンスL3=6.6mH、Cf=84μFである。図6でもIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の11次高調波電流の限度値0.33Aと17次高調波電流の限度値0.13Aが示され、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11と17次高調波電流I17の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では7.2mH≦L1とすることで、11次高調波電流I11と、17次高調波電流I17を限度値以下に制限することが可能となる。
【0031】
次に、5次高調波電流I5については、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2により、共振回路12における吸収が異なる。そこで、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の状況を図7に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図7でもIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の5次高調波電流の限度値1.14Aが示され、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の変化を示している。この図から明らかな如く、5.5≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に制限することが可能となる。
【0032】
以上より、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を、5.5≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に抑制でき、更に、第1のコイル13のインダクタンスL1を、7.2mH≦L1とし、且つ、第2のコイル14のインダクタンスL2を、5.5≦L1/L2、0.2mH≦L2、及び、7.2mH≦L1の関係から、0.2mH≦L2<1.31mHとすることで、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、17次高調波電流I17についても限度値以下に抑制できる(図8参照。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μF)。
【0033】
即ち、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合、上記の如く7次高調波電流I7を限度値以下に制限可能な第2のコイル14のインダクタンスL2を確保しながら、比L1/L2を増大させることで、7次高調波電流I7を限度値以下に抑制しながら、5次高調波電流I5の抑制が可能となる。そして、第1のコイル13のインダクタンスL1を上記の如く確保することで、11次高調波電流I11、17次高調波電流I17についても限度値以下に抑制できるものである。
【0034】
次に、定格入力電流が相あたり16Aを超え、75A以下の公共低圧交流配電系に接続される回路の場合について説明する。この場合に、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の状況を図9に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図9(図12まで同様)ではIEC規格における相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の7次高調波電流の限度値7.2%(I7/I1)が示され、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では0.41mH≦L2とすることで、7次高調波電流I7を限度値以下に制限することが可能となる。
【0035】
次に、11次高調波電流I11は5次の共振回路12では低減できないため、第1のコイル13で除去する必要が出てくる。そこで、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11の状況を図10に示す。測定条件は、入力=三相相電圧220V、50Hz、15.9A、インダクタンスL2=0.7mH、インダクタンスL3=6.6mH、Cf=84μFである。図10でもIEC規格における、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の11次高調波電流の限度値3.1%(I11/I1)が示され、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では4.0mH≦L1とすることで、11次高調波電流I11を限度値以下に制限することが可能となる。
【0036】
次に、5次高調波電流I5については、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2により、共振回路12における吸収が異なる。そこで、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の状況を図11に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図11でもIEC規格における相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の5次高調波電流の限度値10.7%(I5/I1)が示され、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の変化を示している。この図から明らかな如く、3.6≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に制限することが可能となる。
【0037】
以上より、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を、3.6≦L1/L2することで、5次高調波電流I5を限度値以下に抑制でき、更に、第1のコイル13のインダクタンスL1を、4.0mH≦L1とし、且つ、第2のコイル14のインダクタンスL2を、3.6≦L1/L2、0.41mH≦L2、4.0mH≦L1の関係から、0.41mH≦L2<1.11mHとすることで、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13についても限度値以下に抑制できる(図12参照。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μF)。
【0038】
即ち、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合も、上記の如く7次高調波電流I7を限度値以下に制限可能な第2のコイル14のインダクタンスL2を確保しながら、比L1/L2を増大させることで、7次高調波電流I7を限度値以下に抑制しながら、5次高調波電流I5の抑制が可能となる。そして、第1のコイル13のインダクタンスL1を上記の如く確保することで、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13についても限度値以下に抑制できるものである。
【符号の説明】
【0039】
1 電源系統
2 負荷回路
3 コンプレッサ
4 モータ
6 整流器
7 平滑用コンデンサ
8 インバータ
11 パッシブフィルタ
12 共振回路
13 第1のコイル
14 第2のコイル
Lf 第3のコイル
Cf コンデンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波電流の発生源である負荷回路から発生する高調波電流を抑制するためのパッシブフィルタ、及び、係るパッシブフィルタを用いた高調波電流抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年インバータエアコン等の利用の増大に伴い、各種負荷回路がもたらす交流電源系統の高調波障害が問題となっている。この高調波発生源である負荷回路から発生する高調波電流を抑制するため、電源系統と負荷回路との間の受電点にはパッシブフィルタが設けられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に示されたパッシブフィルタは、所謂T型フィルタである。この文献に示された回路は、交流電源系統と負荷回路との間の受電点における第1の導電線126に直列的に挿入された第1及び第2のコイル140、146を備えている。そして、この回路には、直列接続された第3のコイル142と、並列に接続されたコンデンサ14及び抵抗16とから成り、一端が第1のコイル140と第2のコイル146との間に接続され、他端が第2の導電線128に接続された直列回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6549434号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されたようなT型のパッシブフィルタでは、抑制対象とする高調波電流に応じて第3のコイルとコンデンサ14の共振周波数を決定し、この周波数の高調波電流を抑制するものであるため、他の次数の高調波電流の低減には効果が少ない。また、第3のコイル142のインダクタンスとしては、第1及び第2のコイル140、146の相互インダクタンスを考慮した値にしなければならないため、第3のコイル142の大型化が必要となる問題もあった。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、対象とする高調波電流以外の高調波電流も効果的に抑制でき、且つ、コイルのインダクタンスの低減にも寄与できるパッシブフィルタ及びそれを用いた高調波電流抑制方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明のパッシブフィルタは、電源系統側に接続される第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続される第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るものであって、共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、第1のコイルのインダクタンスL1は、第2のコイルのインダクタンスL2より大きいことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明のパッシブフィルタは、上記において相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を5.5以上としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明のパッシブフィルタは、上記においてインダクタンスL1を7.2mH以上とし、インダクタンスL2を0.2mH以上、1.31mH未満としたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明のパッシブフィルタは、請求項1において定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を3.6以上としたことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明のパッシブフィルタは、上記においてインダクタンスL1を4.0mH以上とし、インダクタンスL2を0.41mH以上、1.11mH未満としたことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の高調波電流抑制方法は、電源系統側に接続された第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタを用いて高調波電流を抑制する方法であって、共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とすると共に、7次高調波電流を限度値以下に制限可能な第2のコイルのインダクタンスL2を確保しながら、第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を増大させることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の高調波電流抑制方法は、上記において相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、比L1/L2を5.5以上とし、且つ、11次高調波電流及び17次高調波電流を限度値以下に制限可能な第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明の高調波電流抑制方法は、請求項6において定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合は、比L1/L2を3.6以上とし、且つ、11次高調波電流を限度値以下に制限可能な第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の如く、第3のコイル及びコンデンサから成る共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とし、電源系統側に接続された第1のコイルのインダクタンスL1を、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイル1のコイルのインダクタンスL2より大きくすることで、5次高調波電流のみならず、他の高調波電流の低減も図ることが可能となる。
【0016】
また、各インダクタンスL1、L2、第3のコイルのインダクタンスL3の値や、比L1/L2を最適に設定することで、5次高調波電流を限度値以下としながら、7次高調波電流や11次高調波電流、17次高調波電流などの他の高調波電流も限度値以下に低減することができるようになる。
【0017】
また、第2のコイルのインダクタンスL2を下げることになることから、第1のコイルと第2のコイルの相互インダクタンスも小さくなり、第3のコイルのインダクタンスも低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のパッシブフィルタを用いた高調波電流抑制回路の電気回路図である。
【図2】図1中のパッシブフィルタの第3のコイルのインダクタンスLfを変更した場合の各高調波電流の状況を示す図である。
【図3】図1中のパッシブフィルタの第1及び第2のコイルの相互インダクタンスMの影響を示す図である。
【図4】図1中のパッシブフィルタにおいて第2のコイルのインダクタンスL2に対する第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を変更した場合の各高調波電流の状況を示す図である。
【図5】図1中のパッシブフィルタの第2のコイルのインダクタンスL2を変化させた場合の7次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図6】図1中のパッシブフィルタの第1のコイルのインダクタンスL1を変化させた場合の11次高調波電流と17次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図7】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図8】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の各高調波電流の状況を示す図である(相あたり入力電流16A以下の場合)。
【図9】図1中のパッシブフィルタの第2のコイルのインダクタンスL2を変化させた場合の7次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図10】図1中のパッシブフィルタの第1のコイルのインダクタンスL1を変化させた場合の11次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図11】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【図12】図1中のパッシブフィルタにおいて比L1/L2を増大させた場合の各高調波電流の状況を示す図である(定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の場合)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1において1は三相交流電源系統(相電圧220V〜240V)であり、2はこの電源系統1のR、S、Tの各相の受電点に接続される負荷回路である。実施例の負荷回路2は、空気調和機の冷媒回路を構成するコンプレッサ3を駆動する電動機4を含む回路であり、この電動機4の他、整流器6、平滑用コンデンサ7、インバータ8等を備えている。
【0020】
尚、負荷回路2としては係る空気調和機の他、給湯器の貯湯タンクを加熱する冷媒回路を構成するコンプレッサを駆動する電動機なども適用可能である。
【0021】
電源系統1から供給される三相交流電力は整流器6により整流され、平滑用コンデンサ7にて平滑される。インバータ8はIGBT等のスイッチング素子が2個直列接続された三つのアームから構成されている。各アームは互いに並列接続され、三相のインバータが構成されると共に、各スイッチング素子のゲートが図示しない制御装置によりON−OFF制御され、平滑された直流電力から所定周波数の三相交流電力を生成し、電動機4を駆動する。
【0022】
このとき、インバータ8は直流電力を矩形波の交流電力に変換するものであるため、高調波電流が発生し、電源系統1に流れ込むことになる。そこで、この電源系統1と負荷回路2の受電点P間に、本発明のパッシブフィルタ11が接続される。本発明のパッシブフィルタ11は、直列接続された第1のコイル13及び第2のコイル14と、直列接続された第3のコイルLf及びコンデンサCfの共振回路12とから成り、受電点Pと電源系統1のRST各相の導線間にそれぞれ接続される。
【0023】
このとき、第1のコイル13は電源系統1側にあり、第2のコイル14は負荷回路2側とされる。そして、共振回路12の第3のコイルLfの一端が第1のコイル13と第2のコイル14間に接続され、各相のコンデンサCfの他端が相互に接続されたかたちとなる。
【0024】
図2は共振回路12の第3のコイルLfのインダクタンスL3を変化させた場合の、5次高調波電流I5、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13、総合高調波ひずみ率THD、部分重み付け高調波ひずみ率PWHDの状況を表している(1次電流I1に対する%)。測定条件は、一般的な空気調和機、又は、給湯器の回路において(以下同じ)、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力DC500V、12KW、第1のコイル13のインダクタンスL1=第2のコイル14のインダクタンスL2=3mH、第1のコイル13及び第2のコイル14の相互インダクタンスM=0、Cf=40μFである。この図からも明らかな如く7次高調波電流と共振するように設定した場合には、5次高調波電流はレンジ外まで大きくなっている。
【0025】
一方、5次高調波電流と共振するように共振回路12のコイルLfのインダクタンスL3を設定した場合に、その他の高調波電流についても総じて低減できることが分かる。そこで、本発明では共振回路12が5次高調波電流に対する共振回路となるように第3のコイルLfのインダクタンスL3を設定した(実施例の測定条件では、LfのインダクタンスL3=10.13mH)。
【0026】
次に、図3は第1のコイル13及び第2のコイル14の相互インダクタンスMによる影響を示している。測定条件は、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力12KW、インダクタンスL1=インダクタンスL2=3.5mH、Cf=40μFである。この図からも明らかな如く、コイル13、14の相互インダクタンスによる影響は、相互インダクタンスMの約−2倍のコイルが共振回路12に挿入した状態と同じと見ることができる(実施例の測定条件ではM=0のときインダクタンスL3=10.13mH)。そして、相互インダクタンスM=k√L1*L2(kは結合係数)であるから、コイル13又は14のインダクタンスL1、L2を小さくすれば、相互インダクタンスMが小さくなり、第3のコイルLfのインダクタンスL3を低減できることになる。
【0027】
更に、第1のコイル13のインダクタンスL1と第2のコイル14のインダクタンスL2の値の設定について説明する。図4は第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を0/4〜4/0まで変化させた場合の各高調波電流の状況を示している。測定条件は、入力=三相相電圧230V、50Hz、出力DC483V、11.4KW、インダクタンスLf=6.76mH、M=0、Cf=60μFである。
【0028】
図4から明らかな如く、第1のコイル13のインダクタンスL1を、第2のコイル14のインダクタンスL2より大きくすることで、5次高調波電流I5の他、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13を低減させることができる。しかしながら、7次高調波電流I7は逆に増大傾向となる。即ち、7次高調波電流I7を低減するためには、第2のコイル14のインダクタンスL2を大きくする必要がある。
【0029】
そこで、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の状況を図5に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図5(図8まで同様)ではIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の7次高調波電流の限度値0.77Aが示され、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では0.2mH≦L2とすることで、7次高調波電流I7を限度値以下に制限することが可能となる。
【0030】
次に、11次高調波電流I11と17次高調波電流I17は5次の共振回路12では低減できないため、第1のコイル13で除去する必要が出てくる。そこで、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11と17次高調波電流I17の状況を図6に示す。測定条件は、入力=三相相電圧220V、50Hz、15.9A、インダクタンスL2=0.7mH、インダクタンスL3=6.6mH、Cf=84μFである。図6でもIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の11次高調波電流の限度値0.33Aと17次高調波電流の限度値0.13Aが示され、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11と17次高調波電流I17の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では7.2mH≦L1とすることで、11次高調波電流I11と、17次高調波電流I17を限度値以下に制限することが可能となる。
【0031】
次に、5次高調波電流I5については、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2により、共振回路12における吸収が異なる。そこで、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の状況を図7に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図7でもIEC規格における公共低圧交流配電系に接続される、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合の5次高調波電流の限度値1.14Aが示され、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の変化を示している。この図から明らかな如く、5.5≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に制限することが可能となる。
【0032】
以上より、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を、5.5≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に抑制でき、更に、第1のコイル13のインダクタンスL1を、7.2mH≦L1とし、且つ、第2のコイル14のインダクタンスL2を、5.5≦L1/L2、0.2mH≦L2、及び、7.2mH≦L1の関係から、0.2mH≦L2<1.31mHとすることで、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、17次高調波電流I17についても限度値以下に抑制できる(図8参照。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、16.0A、インダクタンスL1=9.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μF)。
【0033】
即ち、相あたり入力電流が16A以下の回路の場合、上記の如く7次高調波電流I7を限度値以下に制限可能な第2のコイル14のインダクタンスL2を確保しながら、比L1/L2を増大させることで、7次高調波電流I7を限度値以下に抑制しながら、5次高調波電流I5の抑制が可能となる。そして、第1のコイル13のインダクタンスL1を上記の如く確保することで、11次高調波電流I11、17次高調波電流I17についても限度値以下に抑制できるものである。
【0034】
次に、定格入力電流が相あたり16Aを超え、75A以下の公共低圧交流配電系に接続される回路の場合について説明する。この場合に、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の状況を図9に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図9(図12まで同様)ではIEC規格における相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の7次高調波電流の限度値7.2%(I7/I1)が示され、第2のコイル14のインダクタンスL2を増大させた場合の7次高調波電流I7の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では0.41mH≦L2とすることで、7次高調波電流I7を限度値以下に制限することが可能となる。
【0035】
次に、11次高調波電流I11は5次の共振回路12では低減できないため、第1のコイル13で除去する必要が出てくる。そこで、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11の状況を図10に示す。測定条件は、入力=三相相電圧220V、50Hz、15.9A、インダクタンスL2=0.7mH、インダクタンスL3=6.6mH、Cf=84μFである。図10でもIEC規格における、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の11次高調波電流の限度値3.1%(I11/I1)が示され、第1のコイル13のインダクタンスL1を増大させた場合の11次高調波電流I11の変化を示している。この図から明らかな如く、実施例では4.0mH≦L1とすることで、11次高調波電流I11を限度値以下に制限することが可能となる。
【0036】
次に、5次高調波電流I5については、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2により、共振回路12における吸収が異なる。そこで、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の状況を図11に示す。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μFである。図11でもIEC規格における相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合の5次高調波電流の限度値10.7%(I5/I1)が示され、比L1/L2を増大させた場合の5次高調波電流I5の変化を示している。この図から明らかな如く、3.6≦L1/L2とすることで、5次高調波電流I5を限度値以下に制限することが可能となる。
【0037】
以上より、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合、第2のコイル14のインダクタンスL2に対する第1のコイル13のインダクタンスL1の比L1/L2を、3.6≦L1/L2することで、5次高調波電流I5を限度値以下に抑制でき、更に、第1のコイル13のインダクタンスL1を、4.0mH≦L1とし、且つ、第2のコイル14のインダクタンスL2を、3.6≦L1/L2、0.41mH≦L2、4.0mH≦L1の関係から、0.41mH≦L2<1.11mHとすることで、7次高調波電流I7、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13についても限度値以下に抑制できる(図12参照。測定条件は、入力=三相相電圧240V、50Hz、15.9A、インダクタンスL1=5.0mH、インダクタンスL3=5.4mH、Cf=76μF)。
【0038】
即ち、相あたり入力電流が16Aより大きく、75A以下の回路の場合も、上記の如く7次高調波電流I7を限度値以下に制限可能な第2のコイル14のインダクタンスL2を確保しながら、比L1/L2を増大させることで、7次高調波電流I7を限度値以下に抑制しながら、5次高調波電流I5の抑制が可能となる。そして、第1のコイル13のインダクタンスL1を上記の如く確保することで、11次高調波電流I11、13次高調波電流I13についても限度値以下に抑制できるものである。
【符号の説明】
【0039】
1 電源系統
2 負荷回路
3 コンプレッサ
4 モータ
6 整流器
7 平滑用コンデンサ
8 インバータ
11 パッシブフィルタ
12 共振回路
13 第1のコイル
14 第2のコイル
Lf 第3のコイル
Cf コンデンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源系統側に接続される第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続される第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が前記第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタにおいて、
前記共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、前記第1のコイルのインダクタンスL1は、前記第2のコイルのインダクタンスL2より大きいことを特徴とするパッシブフィルタ。
【請求項2】
相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を5.5以上としたことを特徴とする請求項1に記載のパッシブフィルタ。
【請求項3】
前記インダクタンスL1を7.2mH以上とし、前記インダクタンスL2を0.2mH以上、1.31mH未満としたことを特徴とする請求項2に記載のパッシブフィルタ。
【請求項4】
定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を3.6以上としたことを特徴とする請求項1に記載のパッシブフィルタ。
【請求項5】
前記インダクタンスL1を4.0mH以上とし、前記インダクタンスL2を0.41mH以上、1.11mH未満としたことを特徴とする請求項4に記載のパッシブフィルタ。
【請求項6】
電源系統側に接続された第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が前記第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタを用いて高調波電流を抑制する方法であって、
前記共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とすると共に、7次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第2のコイルのインダクタンスL2を確保しながら、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を増大させることを特徴とする高調波電流抑制方法。
【請求項7】
相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、前記比L1/L2を5.5以上とし、且つ、11次高調波電流及び17次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする請求項6に記載の高調波電流抑制方法。
【請求項8】
定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合は、前記比L1/L2を3.6以上とし、且つ、11次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする請求項6に記載の高調波電流抑制方法。
【請求項1】
電源系統側に接続される第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続される第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が前記第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタにおいて、
前記共振回路は5次高調波電流に対する共振回路であり、前記第1のコイルのインダクタンスL1は、前記第2のコイルのインダクタンスL2より大きいことを特徴とするパッシブフィルタ。
【請求項2】
相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を5.5以上としたことを特徴とする請求項1に記載のパッシブフィルタ。
【請求項3】
前記インダクタンスL1を7.2mH以上とし、前記インダクタンスL2を0.2mH以上、1.31mH未満としたことを特徴とする請求項2に記載のパッシブフィルタ。
【請求項4】
定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を3.6以上としたことを特徴とする請求項1に記載のパッシブフィルタ。
【請求項5】
前記インダクタンスL1を4.0mH以上とし、前記インダクタンスL2を0.41mH以上、1.11mH未満としたことを特徴とする請求項4に記載のパッシブフィルタ。
【請求項6】
電源系統側に接続された第1のコイルと、この第1のコイルの負荷回路側に接続された第2のコイルと、直列に接続された第3のコイル及びコンデンサから成り、一端が前記第1及び第2のコイル間に接続された共振回路とから成るパッシブフィルタを用いて高調波電流を抑制する方法であって、
前記共振回路を5次高調波電流に対する共振回路とすると共に、7次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第2のコイルのインダクタンスL2を確保しながら、前記第2のコイルのインダクタンスL2に対する前記第1のコイルのインダクタンスL1の比L1/L2を増大させることを特徴とする高調波電流抑制方法。
【請求項7】
相あたり入力電流が16A以下の回路である場合、前記比L1/L2を5.5以上とし、且つ、11次高調波電流及び17次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする請求項6に記載の高調波電流抑制方法。
【請求項8】
定格入力電流が相あたり16Aより大きく、75A以下の回路である場合は、前記比L1/L2を3.6以上とし、且つ、11次高調波電流を限度値以下に制限可能な前記第1のコイルのインダクタンスL1を確保することを特徴とする請求項6に記載の高調波電流抑制方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−50211(P2011−50211A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198469(P2009−198469)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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